胆道閉鎖症(Biliary atresia)とは、胆汁を肝臓から十二指腸へ運ぶ管である胆道が、生まれつき閉塞または欠損している状態です。
胆道閉鎖症により胆汁の流れが阻害されると、生後2〜3週間頃から黄疸(皮膚や目の白い部分が黄色くなる症状)が出現します。
そのほか、尿の色が濃くなる、便が灰白色や淡黄色になるのも特徴であり、肝臓の腫大や発育不良などの症状もみられます。
胆道閉鎖症の病型
胆道閉鎖症は、肝外胆管の閉塞部位により、I型(総胆管閉塞型)、Icyst型(総胆管閉塞型の嚢胞状拡張を伴うもの)、II型(肝管閉塞型)、III型(肝門部閉塞型)に分類します。
欧米では従来、肝門部胆管と腸管との吻合の可否により、吻合可能型と吻合不能型とに分類する方法が一般的でしたが、この分類方法では詳細な病態把握が難しいという課題があったため、日本では更に詳細な分類を行うための病型分類を用いるようになりました。
日本における詳細な病型分類
日本で現在用いられている病型分類は、肝外胆管の閉塞部位に基づいています。
病型 | 閉塞部位 | 特徴 |
I型 | 総胆管 | 肝臓から十二指腸までの胆管が閉塞 |
Icyst型 | 総胆管(嚢胞状拡張あり) | 閉塞した総胆管が袋状に膨らんでいる |
II型 | 肝管 | 左右の肝管が閉塞 |
III型 | 肝門部 | 肝臓のすぐ近くで胆管が閉塞 |
III型が約85%と最も多い病型であり、次いでIおよびIcyst型、II型の順に頻度が高くなっています。
I型およびIcyst型(総胆管閉塞型)
総胆管(肝臓から十二指腸までの胆管)が閉塞している状態を指します。
Icyst型
閉塞した総胆管が嚢胞状(袋状)に拡張しているものです。
II型(肝管閉塞型)
左右の肝管(肝臓内の主要な胆管)が閉塞している状態です。
III型(肝門部閉塞型)
肝門部(肝臓のすぐ近く)で胆管が閉塞している状態を指します。
各病型の概要・頻度・主な治療法
病型 | 概要 | 頻度 | 主な治療法 |
III型 | 肝門部閉塞 | 約85% | 葛西手術(肝門部空腸吻合術) |
I型・Icyst型 | 総胆管閉塞 | III型に次ぐ | 胆管切除と腸管吻合 |
II型 | 肝管閉塞 | 最も少ない | 個別の状況に応じた手術 |
胆道閉鎖症の症状
胆道閉鎖症の主な症状は、生後2〜3週間頃から現れる進行性の黄疸、淡白便、濃い褐色尿です。
早期発見のための兆候
新生児期の黄疸は多くの場合で見られますが、通常は生後2週間程度で徐々に改善します。しかし、胆道閉鎖症では黄疸が持続し、むしろ増強していきます。
黄疸の経過 | 一般的な新生児 | 胆道閉鎖症の新生児 |
生後2週間以降 | 徐々に改善 | 持続または増強 |
皮膚の色 | 徐々に正常化 | 黄色味が強まる |
便色の変化
胆道閉鎖症では胆汁の腸管への排出が妨げられるため、便の色が、灰白色や淡黄白色の便(いわゆる「白色便」)となります。
医療機関では便色カードを用いて便の色調を客観的に評価することがありますが、日常生活でも保護者の方々にも注意していただきたいポイントです。
尿の色調変化
本来胆汁中に排泄されるはずのビリルビンが血中に蓄積し、尿中に排泄されることから、尿の色が濃い褐色になります。
保護者の方でも気づきやすい兆候の一つであり、医療機関への受診を検討する際の判断材料となります。
排泄物の色調変化 | 健康な乳児 | 胆道閉鎖症の乳児 |
便の色 | 黄色〜茶色 | 灰白色〜淡黄白色 |
尿の色 | 薄い黄色 | 濃い褐色 |
その他の症状
- 肝臓の腫大(肝臓が通常より大きくなる)
- 脾臓の腫大(脾臓が通常より大きくなる)
- 腹部の膨満(お腹が膨らむ)
- 体重増加不良(標準的な成長曲線から外れる)
- 掻痒感(かゆみ)
※疾患の進行度や個々の状態により、出現の時期や程度が異なります。
症状 | 特徴 |
肝脾腫(かんひしゅ) | 腹部の膨満感、医師による触診で確認可能 |
体重増加 | 不良傾向、標準的な成長曲線から逸脱する可能性 |
皮膚症状 | 黄疸の悪化、掻痒感(かゆみ)の出現 |
胆道閉鎖症の原因
胆道閉鎖症は、胎児期における胆管形成の過程で、何らかの異常が生じることが原因であると考えられています。
炎症反応
胆道で炎症が起こると、胆管周囲の組織が傷つき、線維化(組織が硬くなること)が進行します。この線維化によって胆管が狭くなり、最終的には完全に閉塞してしまうのです。
炎症反応の原因としては、ウイルス感染や自己免疫反応(体が自分自身の細胞を攻撃してしまう現象)が疑われていて、サイトメガロウイルスやレオウイルスなどのウイルス感染との関連性が指摘されています。
炎症反応の原因 | 説明 |
ウイルス感染 | サイトメガロウイルス、レオウイルスなど |
自己免疫反応 | 胆管上皮細胞に対する免疫反応 |
発症時期の多様性
胆道閉鎖症の発症時期については、様々な説があります。
- 胎生期発症説:胎児期に胆管形成の異常が生じるという考え
- 周産期発症説:出生前後の時期に何らかの要因が作用するという説
- 乳児期発症説:生後数週間から数か月の間に発症するという考え
個々の症例によって発症時期や要因が異なる可能性も十分に考えられます。今後の研究によって、さらなる原因の解明と、それに基づく早期診断・治療法の開発が期待されているところです。
胆道閉鎖症の検査・チェック方法
胆道閉鎖症の診断では、血液検査、画像診断、組織検査などを実施します。
初期段階での臨床評価
生後2週間以上継続する黄疸や、灰白色の便の出現がみられる場合、胆道閉鎖症を疑います。
身体診察では肝臓や脾臓の腫大、腹水(おなかに水がたまる状態)の有無を確認していきます。
血液検査
血液検査での主要な検査項目は以下のとおりです。
検査項目 | 基準値 |
総ビリルビン | 0.3-1.2 mg/dL |
直接ビリルビン | 0-0.3 mg/dL |
AST (GOT) | 10-40 U/L |
ALT (GPT) | 5-45 U/L |
γ-GTP | 0-30 U/L |
検査結果で値が顕著に上昇している場合、胆汁うっ滞(胆汁の流れが滞っている状態)を示しますので、胆道閉鎖症の可能性がより高くなります。
特に、直接ビリルビンの上昇は胆道系の閉塞を示す指標となるほか、肝機能酵素の上昇は肝細胞の障害を反映するため、病態の進行度を評価する上で重要となります。
画像診断
主に用いられる画像診断法
- 腹部超音波検査:胆嚢の萎縮や三角索徴候(胆道閉鎖症に特徴的な超音波所見)を評価します。
- 肝胆道シンチグラフィ:放射性同位元素を用いて胆汁の排泄状況を評価します。
- MRCPまたはCT:胆道系の解剖学的構造を観察していきます。
確定診断
最終的な確定診断には、肝生検(肝臓の一部を採取して調べる検査)と術中胆道造影(手術中に胆道の状態を確認する検査)が必要です。
検査法 | 特徴 |
肝生検 | 肝臓の組織学的変化を観察できます |
術中胆道造影 | 胆道系の閉塞部位を特定できます |
胆道閉鎖症の治療方法と治療薬について
胆道閉鎖症の治療は、手術や薬物療法を組み合わせて実施します。
手術
胆道閉鎖症の診断後、通常は葛西手術(かさいしゅじゅつ)と呼ばれる外科的処置を行い、閉塞した胆管を切除し、腸管と肝臓を直接つなぐことで胆汁の流れを確保します。
手術の成功率は年齢と肝臓の状態によって変わり、生後60日以内に手術を受けた患児の方が、より良好な経過をたどる傾向があります。
手術時期 | 予後 |
60日以内 | 良好 |
60-90日 | 中程度 |
90日以降 | 不良 |
術後管理と薬物療法
手術後は、感染予防や栄養管理に加え、胆汁の流れの促進、肝機能の保護、感染予防を目的とした薬物療法を実施していきます。
主な処方薬
- ウルソデオキシコール酸(胆汁酸の一種で、肝機能を保護する効果がある)
- 抗生物質(細菌感染を予防・治療する薬剤)
- ビタミンサプリメント(栄養補給のため)
- 免疫抑制剤(肝移植後に拒絶反応を抑えるため)
経過観察・追加治療の必要性
手術後も定期的な検査や画像診断を通じて、肝臓の機能や胆汁の流れを評価します。
検査項目 | 頻度 | 目的 |
血液検査 | 月1回 | 肝機能や栄養状態の確認 |
超音波検査 | 3-6ヶ月毎 | 肝臓や胆管の状態観察 |
肝生検 | 必要時 | 肝臓組織の詳細な評価 |
状況によっては、再手術や追加の治療介入が必要となることもあります。
肝移植の可能性と長期的な管理
肝移植は、胆道閉鎖症の最終的な治療選択肢となります。葛西手術が成功しない、または肝臓の機能が著しく低下した場合に検討します。
近年の医療技術の進歩により、生体肝移植(親族などから一部の肝臓を移植する方法)の成功率も向上しています。
肝移植の種類 | 特徴 |
生体肝移植 | 待機時間が短い、計画的に実施可能 |
脳死肝移植 | 全肝移植が可能、ドナー負担がない |
移植後は、免疫抑制剤の服用や定期的な検査など、生涯にわたる管理が必要です。
胆道閉鎖症の治療期間
胆道閉鎖症の治療期間は、初期の手術から長期的な経過観察まで個人差が大きく、一概に定めることはできません。
一般的には、最初の肝門部腸吻合術後も定期的な通院と、胆管炎などの合併症への対応、肝機能の悪化に伴う肝移植の検討など、生涯にわたる管理が必要となる場合が多いです。
初期治療期間
初期治療では葛西手術(胆汁排出路を作る手術)と呼ばれる外科的処置を実施しますが、生後60日以内、理想的には生後45日以内に行うことが望ましいと考えられています。
手術後は約1〜2か月の入院期間が必要となり、この間に術後の管理や合併症の予防に全力で取り組みます。
中期治療期間
手術後の回復期間は個人差が大きいものの、通常6か月から1年程度の期間が目安となります。
観察項目 | 頻度 | 目的 |
血液検査 | 毎月 | 肝機能や栄養状態の評価 |
超音波検査 | 3か月ごと | 肝臓や胆管の状態確認 |
肝生検 | 必要に応じて | 肝臓の組織学的評価 |
経過観察の期間
胆道閉鎖症の場合、成人期に至るまで定期的な医療機関の受診が必要です。通院頻度は状態や年齢によって異なりますが、一般的には以下のようなスケジュールで実施します。
- 乳幼児期:1〜3か月ごとの受診(成長発達の確認と合併症の早期発見)
- 学童期:3〜6か月ごとの受診(学校生活への適応と健康管理の指導)
- 思春期以降:6か月〜1年ごとの受診(長期的な健康維持と社会生活の支援)
肝移植を考慮する期間
葛西手術後の経過が思わしくない場合や、肝機能が徐々に悪化する場合には、肝移植を検討する時期が訪れる場合があります。
肝移植の時期については、以下のような指標を参考にしながら、総合的に判断を行います。
指標 | 肝移植検討基準 | 臨床的意義 |
総ビリルビン値 | 6mg/dL以上 | 肝臓の解毒機能の低下 |
アルブミン値 | 3g/dL未満 | 肝臓の蛋白合成能の低下 |
プロトロンビン時間 | 50%未満 | 凝固因子産生能の低下 |
薬の副作用や治療のデメリットについて
胆道閉鎖症の治療における薬の副作用としては、肝機能障害やアレルギー反応などが報告されています。
また、手術療法では、出血や感染症などの合併症のリスク、肝移植では免疫抑制剤による感染症リスクや拒絶反応のリスクなどがあります。
手術に関連するリスク
葛西手術に手術に関連する主なリスクには、以下のようなものがあります。
- 出血
- 感染症
- 麻酔合併症(麻酔薬による副作用)
- 術後の胆管狭窄(胆管が狭くなること)
術後に胆管炎を繰り返し発症し、長期の入院が必要となったケースもありますので、感染症については特に注意が必要です。
薬物療法に伴う副作用
薬剤 | 主な副作用 |
ウルソデオキシコール酸(胆汁酸の一種) | 下痢、腹痛 |
免疫抑制剤 | 感染リスクの上昇、腎機能障害 |
ステロイド | 成長障害、骨粗しょう症 |
長期的な合併症
胆道閉鎖症の治療は長期にわたるため、時間の経過とともに様々な合併症が生じる可能性があります。
合併症 | 主な症状・影響 | 予防・管理方法 |
門脈圧亢進症 | 食道静脈瘤、脾腫(脾臓の腫れ) | 定期的な内視鏡検査、薬物療法 |
肝硬変 | 黄疸、腹水、凝固異常 | 肝機能の定期検査、栄養管理 |
成長障害 | 低身長、栄養不良 | 栄養サポート、成長ホルモン療法 |
胆管炎 | 発熱、黄疸、腹痛 | 抗生物質の予防投与、早期治療 |
門脈圧亢進症(門脈の血圧が異常に高くなる状態)は多くみられる合併症の一つで、食道静脈瘤や脾機能亢進症などの二次的な問題が生じる危険性が高まります。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
胆道閉鎖症は、指定難病・小児慢性特定疾病に指定されています。詳しくは各情報ホームページをご確認ください。
治療費の目安
項目 | 概算費用 |
葛西手術 | 150万円~250万円 |
肝移植 | 800万円~1200万円 |
入院費 | 1日あたり4万円~6万円 |
外来診療 | 1回あたり2万円~4万円 |
自己負担額の目安
医療費助成制度を利用した場合の自己負担額は、患者さんの年齢や世帯の所得によって異なります。
世帯の所得区分 | 自己負担上限額(月額) |
生活保護 | 0円 |
低所得I | 2,500円 |
低所得II | 5,000円 |
一般所得I | 10,000円 |
一般所得II | 20,000円 |
上位所得 | 30,000円 |
以上
参考文献
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