急性胆嚢炎(Acute cholecystitis)とは、胆嚢(たんのう)に突然強い炎症が起こる病気です。
多くは胆石が胆嚢管を塞ぐことで起こるもので、右上腹部の激しい痛み、高熱や吐き気などが典型的な症状です。
急性胆嚢炎は放置すると重症化し、命に関わることもあります。上記のような症状を感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。
急性胆嚢炎の病型
急性胆嚢炎は、発症からの時間経過に応じて浮腫性胆嚢炎、壊疽性胆嚢炎、化膿性胆嚢炎の3つに分類されます。
病型 | 発症時期 | 主な特徴 |
浮腫性胆嚢炎 | 2~4日 | 胆嚢壁の浮腫 |
壊疽性胆嚢炎 | 3~5日 | 組織壊死 |
化膿性胆嚢炎 | 7~10日 | 胆嚢内膿瘍形成 |
浮腫性胆嚢炎(発症後2~4日)
浮腫性胆嚢炎は急性胆嚢炎の初期段階であり、胆嚢壁が浮腫(むくみ)によって肥厚し、炎症反応が顕著になります。
特徴 | 詳細 |
発症時期 | 発症後2~4日 |
主な変化 | 胆嚢壁の浮腫性肥厚 |
組織学的所見 | 好中球浸潤、血管拡張 |
壊疽性胆嚢炎(発症後3~5日)
壊疽性胆嚢炎は、急性胆嚢炎が進行した状態です。胆嚢壁の血流障害が顕著となり、組織の壊死(えし:組織が死んでしまうこと)が始まります。
組織学的には広範囲の組織壊死、出血、好中球浸潤が顕著に認められ、胆嚢穿孔(せんこう:胆嚢に穴が開くこと)のリスクが高まるため、迅速な対応が重要となります。
- 胆嚢壁の壊死性変化
- 組織の広範囲な壊死、出血
- 胆嚢穿孔のリスク上昇
- 緊急手術が必要となる可能性がある
化膿性胆嚢炎(発症後7~10日)
急性胆嚢炎の最終段階である化膿性胆嚢炎の段階では、胆嚢内に膿が貯留し、重篤な感染症へと進展する危険性が高まります。
胆嚢内腔に膿の貯留が認められ、組織学的には多数の好中球浸潤と膿瘍(のうよう:膿がたまった袋状の組織)形成がみられるようになります。
化膿性胆嚢炎では全身性の炎症反応が強く現れ、敗血症(はいけつしょう:細菌が血液中に侵入し、全身に広がった状態)に至るリスクがあります。このため、速やかな抗菌薬治療と、状況によっては緊急手術が必要な状態です。
急性胆嚢炎の症状
急性胆嚢炎は、右上腹部に突然起こる激しい痛みや38度以上の発熱、吐き気や嘔吐などが主な症状です。
- 右上腹部に持続する強い痛み
- 38度以上の高熱
- 続く吐き気や嘔吐
- 著しい食欲低下
- 黄疸(症状が進行した場合)
症状の特徴
急性胆嚢炎の症状は多くの場合突然始まり、持続的で激しい右上腹部の痛みが最も代表的な症状です。
背中や右肩にまで痛みが広がることがあり、深呼吸が困難になります。
主な症状 | 詳細な特徴 |
腹部の痛み | 右上腹部に集中、持続的、鋭い痛み |
放散痛 | 背中や右肩まで痛みが広がる |
呼吸の変化 | 深呼吸時に痛みが強くなる |
また、38度以上の発熱や、悪寒や震え、吐き気や嘔吐(おうと)も頻繁に見られる症状です。
黄疸
重症化した場合、黄疸(おうだん)が現れることがあります。
また、黄疸に伴い、尿の色が通常よりも濃くなったり、逆に便の色が薄くなったりする変化が生じる場合もあります。
症状の進行と考えられる合併症
症状が進行すると、痛みが腹部全体に広がり、触れると強い痛みを感じる(圧痛)ようになります。
重症化した場合は、敗血症や複数の臓器の機能不全(多臓器不全)などの深刻な合併症を引き起こす危険性があります。
生命に関わる恐れもあるため、早期に診断を受け、治療を開始することが大切です。
急性胆嚢炎の原因
急性胆嚢炎の最も一般的な原因は、胆石が胆嚢の出口を塞ぎ、胆汁が滞って細菌感染を起こすことです。
胆石が形成されるしくみ
胆石は、胆汁中に含まれるコレステロールや胆汁酸、カルシウムなどの成分が結晶化することで形成されます。
特に、コレステロールが過剰な胆汁や、胆汁が停滞状態にあると胆石の形成が加速します。
胆石の主要構成成分 | 形成を促進する要因 |
コレステロール | 肥満、脂質の多い食事 |
ビリルビン | 赤血球の破壊が進む疾患 |
カルシウム | 血中カルシウム濃度の上昇 |
胆嚢管閉塞の過程
胆石が形成されると、それが胆嚢から胆管へと移動する途中で、胆嚢管に詰まることがあります。胆嚢管が閉塞すると、胆汁の正常な流れが妨げられ、胆嚢内の圧力が上昇していきます。
胆嚢内の圧力が上昇すると…
- 胆嚢壁への血液供給が減少する
- 組織の酸素不足や炎症反応を起こす
胆石以外の誘因
急性胆嚢炎は胆石が最も一般的な原因ですが、胆石以外の原因も考えられます。
- 胆嚢そのものの運動機能に障害が生じる場合
- 細菌が胆嚢内で増殖する感染症
- 事故や手術後に起こりうる合併症
胆石以外の原因 | 発症のメカニズム |
細菌による感染 | 胆嚢壁に炎症を引き起こす |
胆嚢の機能障害 | 胆汁の排出が十分に行われない |
外傷 | 胆嚢の壁が直接的に損傷を受ける |
リスク因子
- 肥満(胆汁中のコレステロール量が増加するため)
- 急激な体重減少(胆嚢の収縮機能が低下するため)
- 脂肪分の多い食事
- 妊娠(女性ホルモンの一種であるエストロゲンが胆石形成に影響する)
- 長期間にわたる絶食
- 静脈から栄養を摂取する経静脈栄養
急性胆嚢炎の検査・チェック方法
急性胆嚢炎の検査では、血液検査、画像診断を行い診断していきます。
診断要素 | 評価項目 |
臨床症状 | 右上腹部痛、発熱、嘔吐 |
血液検査 | 白血球増多、CRP上昇、肝胆道系酵素上昇 |
画像所見 | 胆嚢壁肥厚、胆嚢腫大、胆石の存在 |
身体所見 | 右上腹部圧痛、マーフィー徴候陽性 |
診察の基本
急性胆嚢炎の診察では、まず症状、特に右上腹部痛の性質や持続時間、随伴症状について確認します。
身体診察では、右上腹部の圧痛や筋性防御、マーフィー徴候(右肋骨弓下を圧迫しながら深呼吸させると、呼気時に急激な痛みを訴える)の有無を診ます。
診察項目 | 確認内容 |
問診 | 右上腹部痛の性質、持続時間、随伴症状 |
視診 | 黄疸の有無 |
触診 | 右上腹部の圧痛、筋性防御 |
特殊所見 | マーフィー徴候 |
血液検査
血液検査では、炎症マーカーである白血球数やCRP(C反応性タンパク)の上昇がみられます。
また、肝機能検査(AST、ALT、γ-GTP、ALP)や胆道系酵素(ビリルビン)の上昇も確認します。
画像診断
腹部超音波検査は、胆嚢壁の肥厚、胆嚢腫大、胆石の有無、胆嚢周囲の液体貯留などを評価するために最初に選択する検査法です。
超音波検査で診断が困難な場合や、より詳細な情報が必要な場合は、CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)を実施します。
特に、CTは胆嚢周囲の炎症や合併症の評価に優れており、MRIは胆道系の詳細な評価が可能です。
画像検査 | 主な評価項目 |
超音波 | 胆嚢壁肥厚、胆嚢腫大、胆石の有無 |
CT | 胆嚢周囲の炎症、合併症の評価 |
MRI | 胆道系の詳細な評価 |
臨床診断と確定診断
急性胆嚢炎の臨床診断は、東京ガイドラインに基づいて行います。
- 局所の炎症所見(右上腹部痛、圧痛、筋性防御)
- 全身の炎症所見(発熱、CRP上昇、白血球増多)
- 画像所見(超音波、CT、MRIでの特徴的な所見)
このような要素を組み合わせ、急性胆嚢炎の可能性を評価します。特に、画像検査で胆嚢の炎症所見が確認されることが診断の決め手となる場合が多いです。
急性胆嚢炎の治療方法と治療薬について
急性胆嚢炎の治療は、軽症では保存的治療、中等症では早期手術の検討、重症では集中治療と胆嚢ドレナージを中心に治療を進めます。
軽症の場合には絶食や輸液、薬物治療だけで経過を観察することもありますが、重症化のリスクを考慮し、早期の手術を検討することもあります。
重症度 | 主な治療法 | 特徴 |
軽症 | 保存的治療 | 抗生物質、絶食、輸液 |
中等症 | 保存的治療+早期手術検討 | 強力な抗生物質、状態に応じて早期手術 |
重症 | 集中治療+ドレナージ+待機手術 | ICU管理、胆嚢ドレナージ、全身状態改善後に手術 |
軽症急性胆嚢炎の治療
軽症の急性胆嚢炎では、主に保存的治療を行います。 症状が比較的軽く、全身状態が安定している患者さんが対象となります。
治療の基本方針
- 抗生物質の投与:広域スペクトラムの抗生物質を静脈内投与します。
- 絶食と輸液療法:胆嚢を休ませ、水分とエネルギーを補給します。
- 鎮痛薬の使用:痛みをコントロールし、患者さんの苦痛を軽減します。
症状が落ち着いてきたら段階的に食事を再開し、退院後の生活指導を行います。
治療法 | 目的 | 具体例 |
抗生物質療法 | 感染制御 | セフトリアキソンなど |
輸液療法 | 脱水予防 | 生理食塩水、乳酸リンゲル液 |
鎮痛薬 | 疼痛管理 | アセトアミノフェン、NSAIDs |
中等症急性胆嚢炎の治療
中等症の急性胆嚢炎では、保存的治療を行いながら、早期の手術も検討します。 症状がやや強く、全身状態に影響が見られる患者さんが該当します。
治療方針
- 抗生物質療法:より強力な抗生物質を選択し、投与します。
- 絶食と輸液療法:十分な水分とエネルギー補給を行います。
- 鎮痛薬と制吐剤:痛みや吐き気を効果的にコントロールします。
- 早期手術の検討:症状が48~72時間で改善しない場合、早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術を考慮します。
中等症では、保存的治療で改善する場合もありますが、手術が必要になることも少なくありません。 患者さんの状態を観察し、手術の判断を行います。
重症急性胆嚢炎の治療
重症の急性胆嚢炎では、迅速かつ積極的な治療介入が必要です。 全身状態が不安定で、臓器機能障害を伴う患者さんが対象となります。
治療方針
- 集中治療室(ICU)での管理:全身状態を厳重に監視し、必要に応じて人工呼吸器などの支援を行います。
- 抗生物質療法:カルバペネム系などの広域スペクトラム抗生物質を使用します。
- 輸液療法・電解質管理:循環動態を安定させ、臓器機能を維持します。
- 胆嚢ドレナージ:経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)や内視鏡的経鼻胆嚢ドレナージ(ENGBD)を検討します。
- 全身状態改善後の手術:状態が安定してから、胆嚢摘出術を行います。
急性胆嚢炎の治療期間
急性胆嚢炎の治療に必要な時間は、軽症例では抗生物質による保存的治療(手術を行わず、薬物療法などで対応する治療)を行い、1週間程度で症状が改善することが多いです。
一方、重症例や合併症を伴う場合は入院期間が長くなります。
治療法による期間の違い
治療法 | 一般的な治療期間 | 特徴 |
保存的治療 | 5〜10日 | 薬物療法が中心、症状改善次第で退院可能 |
外科的治療 | 7〜14日 | 手術後の回復期間を含む、より確実な治療法 |
保存的治療では症状が改善すれば5〜10日程度で退院できることが多いです。
外科的治療、特に腹腔鏡下胆嚢摘出術(おなかに小さな穴をあけて胆嚢を取り出す手術)を選択した場合、手術自体は1〜2時間程度で終わりますが、術後の回復期間を含めると7〜14日ほどの入院が必要となります。
合併症による治療期間の延長
急性胆嚢炎の経過中に合併症が発生すると、集中治療室での管理が必要となることもあり、治療期間は大幅に延長します。
合併症 | 追加で必要となる期間 | 主な症状や対応 |
胆嚢穿孔(たんのうせんこう:胆嚢に穴が開く状態) | 1〜2週間 | 腹膜炎のリスク、緊急手術が必要 |
胆管炎(たんかんえん:胆管に炎症が生じる状態) | 1〜3週間 | 発熱、黄疸、追加の抗生物質治療 |
敗血症(はいけつしょう:細菌が血液中に入り込む重篤な状態) | 2〜4週間 | 全身状態の悪化、集中治療が必要 |
高齢者の治療期間
高齢者の急性胆嚢炎治療では、若年者と比べて治療期間が長くなります(通常の治療期間に加えて1〜2週間程度の延長)。
長期化の理由
- 基礎疾患の存在
- 体力の低下
- 免疫機能の低下
- 合併症のリスク増加
薬の副作用や治療のデメリットについて
急性胆嚢炎の治療には、抗生物質による薬物療法や手術などの副作用やリスクが伴います。
薬物療法の副作用
抗生物質による主な副作用には、消化器症状や皮膚症状があります。
抗生物質の副作用 | 症状 |
消化器症状 | 下痢、腹痛、吐き気 |
皮膚症状 | 発疹、かゆみ |
その他 | アレルギー反応、耐性菌の出現 |
手術療法のリスク
急性胆嚢炎の手術に伴う一般的なリスクとしては、出血や感染、麻酔に関連する合併症などがあり、特に高齢者や基礎疾患を持つ患者さんではリスクが上昇します。
手術リスク | 詳細 |
一般的リスク | 出血、感染、麻酔関連合併症 |
特有のリスク | 胆管損傷、周囲臓器損傷、遺残結石、術後胆汁漏 |
保存的治療のリスク
保存的治療(手術を行わず、薬物療法などで症状を改善させる治療)では、抗生物質投与と胆嚢ドレナージが主な治療法となります。
胆嚢ドレナージは、経皮経肝的胆嚢ドレナージ(PTGBD:皮膚と肝臓を通して胆のうに管を入れる方法)や内視鏡的経鼻胆嚢ドレナージ(ENGBD:鼻から内視鏡を用いて胆のうに管を入れる方法)などの方法で行います。
処置に伴うリスク
- 出血
- 感染
- 胆汁漏
- 周囲臓器の損傷
また、保存的治療を選択した場合は急性胆嚢炎の再発リスクが残り、再発を繰り返すことで慢性胆嚢炎へ移行したり、胆嚢癌のリスクが高くなる可能性があります。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
急性胆嚢炎の治療は原則として保険適用となります。自己負担額は年齢や所得に応じて異なりますが、一般的に3割となっています。
年齢区分 | 自己負担割合 |
70歳未満 | 30% |
70~74歳 | 20%または30% |
75歳以上 | 10%または30% |
高額療養費制度を利用することで月ごとの自己負担額の上限が設定され、経済的負担を軽減できます。
入院治療の費用
一般的な入院期間は5〜10日程度で、総費用は約50〜100万円が目安となります(保険適用前)。
- 検査費用(CT、超音波検査など)10〜15万円
- 投薬・処置費 1日あたり 8,000〜20,000円
- 手術費用(腹腔鏡下胆嚢摘出術)40〜60万円
- 麻酔料 10〜15万円
外来治療の費用目安
治療内容 | 概算費用 |
血液検査 | 5,000〜8,000円 |
腹部エコー | 8,000〜12,000円 |
投薬(2週間分) | 5,000〜15,000円 |
以上
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