急性胆管炎(Acute cholangitis)とは、胆汁が流れる管である胆管(たんかん)に急性の炎症が生じる病気です。胆管内に細菌が侵入し、急激に増殖することで起こります。
代表的な症状には、38度を超える高熱、右上腹部の激しい痛み、そして黄疸(皮膚や白目が黄色くなる状態)があり、これらは医学的に「シャルコーの三徴」と呼ばれます。
急性胆管炎は進行が速く、対応が遅れると敗血症や多臓器不全などの危険な合併症を起こすため、早期の正確な診断と速やかな治療開始が大切です。
急性胆管炎の病型
急性胆管炎は、重症度、原因疾患、起因菌、胆管閉塞の程度などから分類できます。
重症度による分類
重症度 | 主な特徴 | 治療の方向性 |
軽症 | 全身状態が安定している | 保存的治療が中心 |
中等症 | 軽度の臓器障害がある | 積極的な治療介入を検討 |
重症 | 重度の臓器障害や敗血症がある | 緊急的な治療介入が必要 |
急性胆管炎は重症度によって軽症、中等症、重症の3つに分けられ、軽症例では抗菌薬投与を中心とした保存的治療で改善することが多いのですが、中等症や重症例では積極的な治療介入が必要となります。
当初軽症と判断した患者さんが、数時間のうちに急速に悪化し、重症化する場合もあります。状態は刻々と変化する可能性があるため、初期評価だけでなく、経時的な症状の観察が重要です。
原因疾患による分類
主な原因疾患としては、胆石症、胆道系の腫瘍(良性・悪性)、胆道系の先天異常、術後合併症などが挙げられます。
原因疾患 | 特徴的な所見 | 治療の特徴 |
胆石症 | 腹部エコーで胆石の存在を確認 | 内視鏡的治療が主体 |
悪性腫瘍 | 画像検査で胆管の狭窄や閉塞を認める | 原疾患の治療も並行して検討 |
先天異常 | 特徴的な解剖学的異常を認める | 個々の症例に応じた治療法を選択 |
細菌学的分類
急性胆管炎で最も頻度が高いのは、大腸菌やクレブシエラなどの腸内細菌科に属する細菌です。ただし、時にバクテロイデスなどの嫌気性菌や、まれに真菌が関与することもあります。
起因菌の種類 | 代表的な菌種 | 特徴 |
グラム陰性桿菌 | 大腸菌、クレブシエラ | 最も頻度が高い |
グラム陽性球菌 | エンテロコッカス | 胆道系手術後などに多い |
嫌気性菌 | バクテロイデス | 重症例で認められることがある |
真菌 | カンジダ属 | 長期抗菌薬使用例などで出現 |
胆管閉塞の程度による分類
完全閉塞と部分閉塞では、症状の進行速度や治療の緊急性が大きく異なります。
完全閉塞の場合は、胆汁うっ滞が急速に進行するため、速やかな減圧処置が必要になることが多いです。一方、部分閉塞では胆汁流出が一部保たれているため、保存的治療で改善する可能性もあります。
閉塞の程度 | 特徴 | 治療の緊急性 |
完全閉塞 | 胆汁うっ滞が急速に進行 | 高い(速やかな減圧が必要) |
部分閉塞 | 胆汁流出が一部保たれている | 中程度(経過観察可能な場合もある) |
急性胆管炎の症状
急性胆管炎の主な症状は、発熱、右上腹部痛、黄疸の3つであり、この3症状は医学的に「シャルコーの3徴」として広く知られています。
受診の目安 | 対応 | 注意点 |
右上腹部痛 | 速やかに受診 | 痛みの程度に関わらず要注意 |
38度以上の発熱 | 早めに受診 | 高齢者では微熱の場合も |
皮膚や白目の黄染 | すぐに受診 | 軽度でも要相談 |
症状の急激な悪化 | 救急受診を検討 | 夜間・休日でも躊躇しない |
急性胆管炎は治療を早期に開始することで、良好な経過をたどることが多い疾患ですが、重症化すると生命を脅かす可能性もあります。
自覚症状がわずかであっても、気になる症状があれば、ためらわずに医療機関に相談するようにしてください。
シャルコーの3徴:急性胆管炎の代表的な症状
急性胆管炎の典型的な症状は「シャルコーの3徴」と呼ばれる一連の症状であり、発熱、右上腹部痛、黄疸の3つを指しますが、必ずしもすべての症状が同時に現れるわけではありません。
症状 | 特徴 | 注意点 |
発熱 | 38度以上の高熱 | 悪寒・戦慄を伴うことも |
右上腹部痛 | 肝臓・胆嚢周辺の痛み | 痛みの程度は個人差あり |
黄疸 | 皮膚・白目の黄染 | 進行度により程度が異なる |
黄疸は、皮膚や白目(眼球結膜)が黄色くなる症状で、一見して分かりやすい特徴的な症状の一つです。 黄疸は胆管の閉塞によって胆汁の流れが妨げられ、ビリルビン(胆汁色素)が体内に蓄積することで起こります。
急性胆管炎に伴うその他の症状
- 吐き気
- 嘔吐
- 食欲不振
- 全身倦怠感
重症化のサイン
重症化のサイン | 詳細 | 対応 |
意識障害 | 錯乱、意識レベルの低下 | 緊急医療介入が必要 |
循環器系異常 | 血圧低下、頻脈 | 集中治療の検討 |
呼吸器系異常 | 呼吸困難、頻呼吸 | 酸素療法などの支持療法 |
意識障害や錯乱状態は、胆管炎が重症化していることを示す症状です。敗血症に至ると、意識レベルの低下や混乱した言動が見られ、緊急の治療が必要です。
血圧低下や頻脈などの循環器系の異常は全身性炎症反応症候群(SIRS)の一部として現れることがあり、速やかに治療が行われない場合は、生命を脅かす状態に陥る可能性もあります。
急性胆管炎の原因
急性胆管炎は、胆石や腫瘍などによって胆管が閉塞し、胆汁が滞って細菌感染を起こすことで発症する病気です。
胆道系閉塞の要因
胆道系閉塞の最も一般的な原因は胆石(たんせき)ですが、それ以外にも様々な要因が胆道系の閉塞を起こします。
以前、海外旅行から帰国後に急性胆管炎を発症した患者さんがいましたが、その方は現地で生の川魚を食べており、寄生虫感染が原因だったことが判明しました。
このように、胆管炎の原因は必ずしも一般的なものだけではなく、時に予想外の要因が関与している場合もあるのです。
細菌感染のしくみ
胆道系が閉塞すると、通常は無菌状態に保たれている胆管内に細菌が侵入し、増殖する環境が整います。細菌の侵入経路には主に以下のようなものがあります。
感染経路 | 説明 |
上行性 | 十二指腸から胆管へ細菌が逆行 |
血行性 | 血液を介して肝臓から胆管へ侵入 |
リンパ行性 | リンパ管を通じて胆管へ到達 |
直接伝播 | 隣接する感染巣から直接胆管へ広がる |
このような経路を通じ、大腸菌やクレブシエラなどのグラム陰性菌が胆管内に侵入します。さらに閉塞により胆汁うっ滞が生じると、胆汁の持つ抗菌作用が低下し、細菌の増殖を促進します。
急性胆管炎の発症リスクを高める要因
- 高齢(体の抵抗力の低下)
- 糖尿病(免疫機能の低下)
- 免疫抑制状態(臓器移植後など)
- 過去の胆道系手術歴(解剖学的変化)
- 長期のカテーテル留置(細菌の侵入経路となる)
- 慢性胆石症(持続的な胆道系への刺激)
急性胆管炎の検査・チェック方法
急性胆管炎の診断では、問診、身体診察のほか、血液検査、画像診断を行っていきます。
問診・身体診察のポイント
急性胆管炎の診断では、まず症状の経過や特徴、既往歴、生活習慣などを確認します。
身体診察では、特に右上腹部の圧痛や筋性防御(腹壁の筋肉が反射的に硬くなる現象)、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる症状)の有無を診ます。
血液検査
- 炎症マーカー(白血球数、CRP)
- 肝機能検査(AST、ALT、ALP、γ-GTP)
- 胆道系酵素(ビリルビン)
- 凝固機能(PT-INR)
血液検査では結果から急性胆管炎の可能性を検討し、異常値の程度によって重症度を判定します。
検査項目 | 正常値 | 急性胆管炎での変化 |
白血球数 | 3500-9000/μL | 上昇 |
CRP | 0.3mg/dL以下 | 上昇 |
総ビリルビン | 0.2-1.2mg/dL | 上昇 |
ALP | 100-325U/L | 上昇 |
画像診断
腹部超音波検査では、胆管拡張や胆石の有無を確認していきます。
ただし、患者さんの体型や、腸管ガスの影響で観察困難な場合もあるため、そのような場合はCT検査やMRI検査を追加して行います。
特にMRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)は胆管の評価に優れた検査であり、胆管の狭窄や閉塞の原因を特定できます。
画像検査 | 特徴 | 利点 |
腹部超音波 | 非侵襲的、即時性 | 胆管拡張、胆石の確認 |
CT | 広範囲の評価可能 | 周囲臓器との関係把握 |
MRCP | 胆管の詳細評価 | 閉塞原因の特定 |
臨床診断と確定診断
急性胆管炎の臨床診断は、東京ガイドラインに基づいて行います。以下の3項目のうち、2項目以上を満たす場合に急性胆管炎を疑います。
- 全身性炎症所見(発熱、白血球増加、CRP上昇など)
- 胆道系酵素の上昇(ビリルビン、ALP、γ-GTPなど)
- 胆管拡張または胆管閉塞を示唆する画像所見
確定診断には、胆道ドレナージによる胆汁培養や内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を実施し、起炎菌の同定や胆管閉塞の評価を行います。
急性胆管炎の治療方法と治療薬について
急性胆管炎では、抗生物質投与と胆道ドレナージ(胆管内の圧力を下げ、胆汁の流れを改善する処置)を中心とした治療を行います。
初期治療
急性胆管炎の初期治療では、まずは全身状態の安定化が最優先事項となります。
輸液療法や電解質補正による体内の水分バランスや血液循環の改善と並行し、感染源の特定と制御を行います。具体的には、血液培養や胆汁培養を実施し、その結果に基づいて抗生物質を選択します。
培養結果が出るまでには時間がかかるため、まずは経験的治療として、幅広い種類の細菌に効果を発揮する広域スペクトラムの抗生物質を投与することが一般的です。
抗生物質療法
急性胆管炎の治療でよく使用される抗生物質には、以下のようなものがあります。
抗生物質名 | 特徴と使用状況 |
セフトリアキソン | 第三世代セフェム系と呼ばれる抗生物質で、幅広い細菌に効果があります |
ピペラシリン/タゾバクタム | 細菌が出す抗生物質分解酵素の働きを抑える薬剤(タゾバクタム)が配合されています |
メロペネム | カルバペネム系と呼ばれる強力な抗生物質で、重症の患者さんに使用されます |
抗生物質の投与期間は通常5〜7日程度ですが、症状の改善具合や合併症の有無によって調整します。
胆道ドレナージ
急性胆管炎の根本的な治療には、胆道内の圧力を下げ、胆汁の排出を促すことが必要です。
胆道ドレナージの方法
- 内視鏡的逆行性胆道ドレナージ(ERBD):口から内視鏡を入れて胆管にチューブを留置する
- 経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD):皮膚と肝臓を通してチューブを胆管に挿入する
- 内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD):鼻から胆管にチューブを入れる
胆石除去
急性胆管炎の原因が胆石である場合、除去治療を実施していきます(急性期の症状が落ち着いた後、患者さんの状態を見ながら計画的に実施します)。
治療法 | 適応と特徴 |
内視鏡的乳頭括約筋切開術 | 総胆管(肝臓から十二指腸につながる主要な胆管)にある結石の除去に用いられます |
腹腔鏡下胆嚢摘出術 | 胆嚢にある結石の再発を防ぐため、胆嚢そのものを摘出します |
急性胆管炎の治療期間
急性胆管炎の治療期間は、通常1週間から4週間程度となります。
治療の段階と期間
初期段階では、抗生物質療法と胆道ドレナージが中心となり、多くの場合3〜7日程度で症状の改善が見られます。この段階で十分な効果が得られない場合、追加の処置や治療法の変更が必要です。
次の段階では、原因となった胆道閉塞の解除や、再発予防のための処置を行います。実施には数日から1週間程度が目安となります。
治療期間には個人差があります
急性胆管炎の治療期間は、患者さんごとに大きく異なります。
70代の男性患者さんの例では、当初1週間程度で退院できると想定していましたが、治療過程で胆石が新たに見つかりました。内視鏡的治療を追加で行うことになり、結果として、入院期間は3週間に延長しました。
このように、治療中に新たな問題が発見されたり、予期せぬ合併症が生じることもあります。
退院後の経過観察
退院後も1〜2週間程度で外来受診していただき、症状の再燃がないかを確認していきます。
また、原因となった胆道閉塞の再発防止のため、定期的な検査や生活指導を継続的に行っていくことが重要です。
経過観察の項目 | 時期 |
初回外来受診 | 退院後1〜2週間 |
血液検査 | 1〜3ヶ月ごと |
画像検査 | 3〜6ヶ月ごと |
生活指導 | 必要に応じて随時 |
薬の副作用や治療のデメリットについて
急性胆管炎の治療には、抗生物質による耐性菌の出現やアレルギー反応、痛み止めによる胃腸障害、内視鏡や手術に伴う出血や感染などのリスクが伴う場合があります。
抗生物質療法の副作用
抗生物質の使用に伴う主要な副作用として、消化器症状や皮膚反応があります。下痢や腹痛、吐き気などの胃腸トラブルを経験する方が一定数存在し、体調や日常生活に影響を与えてしまう場合があります。
また、薬疹(やくしん:薬の副作用で生じる皮膚の発疹)やかゆみなどの皮膚症状が現れることも珍しくありません。
副作用 | 症状 | 対策 |
消化器症状 | 下痢、腹痛、吐き気 | 整腸剤の併用、食事指導 |
皮膚反応 | 薬疹、かゆみ | 抗アレルギー薬の使用、薬剤変更 |
真菌感染症 | カンジダ症 | 抗真菌薬の予防投与、プロバイオティクスの活用 |
胆道ドレナージ処置のリスク
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を用いたドレナージでは、膵炎や出血、穿孔(せんこう:臓器や組織に穴が開くこと)などの合併症が発生する可能性があります。特に、膵炎は最も頻度の高い合併症です。
合併症 | リスク | 予防策・対処法 |
膵炎 | 高 | 十分な輸液、膵酵素阻害薬の使用 |
出血 | 中 | 止血剤の準備、慎重な操作 |
穿孔 | 低 | 解剖学的知識の徹底、適切な器具選択 |
また、経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)では、胆汁漏出や血管損傷のリスクがあります。
麻酔に関連するリスク
- 呼吸器合併症(肺炎、無気肺など)
- 循環器合併症(不整脈、血圧変動など)
- 術後せん妄(特に高齢者に多く見られる意識障害)
- 悪心・嘔吐
特に、高齢者や基礎疾患を持つ患者さんではリスクが上昇します。
手術に関連するリスク
- 出血
- 感染
- 臓器損傷
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
急性胆管炎の治療費は、保険が適用されます。自己負担割合は年齢や所得によって異なりますが、通常3割です。
一般的に外来での検査や処置から始まり、多くの場合入院治療へと移行します。
治療段階 | 主な費用項目 |
診断 | 血液検査、画像診断 |
入院 | 病室料、投薬、処置 |
手術 | 手術料、麻酔料 |
術後 | リハビリ、退院指導 |
具体的な治療費の内訳
急性胆管炎の治療費は、重症度や合併症の有無によって異なります。軽症例では外来治療で済む場合もありますが、中等症から重症例では入院治療が必要です。
一般的な入院治療の場合の費用内訳
- 入院基本料(1日あたり)15,000円〜25,000円
- 検査費用(血液検査、CT、超音波など)50,000円〜100,000円
- 抗生物質投与(1日あたり)5,000円〜15,000円
- 内視鏡的処置(ERCP)150,000円〜250,000円
以上
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