原発性胆汁性胆管炎(PBC)

原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis:PBC)とは、肝臓内にある微細な胆管(胆汁を運ぶ管)が次第に損傷を受けていく、自己免疫性の長期的な肝臓の病気です。

本来は身体を守るはずの免疫システムが、誤って自分自身の胆管を標的として攻撃してしまい、胆汁の流れが阻害されて肝臓に炎症や瘢痕が形成されます。

中年期の女性に多く見られますが、性別や年齢に関わらず発症します。

目次

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の病型

原発性胆汁性胆管炎(PBC)には、主に無症候性と症候性の2つの病型があります。

無症候性PBC

無症候性PBCは、症状がほとんどないか、全くない状態で発見される病型です。多くの場合、健康診断や他の目的で行われた血液検査で偶然発見されます。

肝機能障害を示す血液検査の異常値や、抗ミトコンドリア抗体(AMA:体内の細胞内小器官であるミトコンドリアに対する自己抗体)陽性を認めますが、自覚症状はありません。

特徴詳細
症状ほとんどなし、または全くなし
発見契機健康診断や他の目的の血液検査
血液検査肝機能障害、AMA陽性

時間の経過とともに、症候性PBCに移行する可能性があります。

症候性PBC

症候性PBCは、以下のような症状が明確に現れているものを指します。

  • 疲労感
  • 皮膚掻痒感(かゆみ)
  • 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる症状)
  • 右上腹部痛

症状は、胆汁うっ滞(胆汁の流れが滞ること)や肝機能障害の進行に伴って現れます。無症候性と比べて病気の進行が速く、積極的な治療介入が必要です。

病型の移行と経過

ほとんどの場合、最初に無症候性として診断されますが、その後症候性に移行します。移行の速度や時期は個人差が大きく、予測が難しいです。

病型特徴管理の重点
無症候性症状なし、血液検査異常定期的な経過観察
症候性明確な症状あり積極的な症状管理と治療

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の症状

原発性胆汁性胆管炎(PBC)は初めのうちは無症状の方が多いですが、病気が進むにつれて症状が出てきます。

初期の症状と一般的な兆候

病気が進行すると、肝臓の働きが悪くなったり、胆汁(たんじゅう:肝臓で作られる消化液)がうまく出せなくなったりすることで、だるさやかゆみなどの症状が現れてきます。

症状どんな感じがするか
だるさ長く続く疲れた感じ
かゆみ特に夜に悪くなる皮膚のかゆみ
黄疸(おうだん)皮膚や目の白い部分が黄色くなる
右上腹部の痛み肝臓が腫れて感じる不快感

進行した段階での症状

  • お腹に水がたまる(腹水)
  • 食道の血管が膨らむ(食道静脈瘤)
  • 意識がぼんやりしたり、変な行動をしたりする(肝性脳症)
  • 骨がもろくなる(骨粗鬆症)
  • 血液中の脂質が増える(高脂血症)

特に食道静脈瘤は、破れると命に関わる危険があります。定期的に検査を受け、病気を管理することが重要です。

一緒に起こりやすい症状や合併症

PBCの患者さんは、他の自己免疫疾患も一緒に発症するリスクがあります。

一緒に起こりやすい病気主な症状
シェーグレン症候群口の中や目が乾く
関節リウマチ関節が痛んだり腫れたりする
甲状腺機能低下症体重が増えたり、だるくなったりする
全身性強皮症皮膚が硬くなる、寒いと指先が白くなる(レイノー現象)

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の原因

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の原因はまだ完全に解明されていませんが、免疫系が自身の肝臓の胆管を誤って攻撃してしまう自己免疫反応が関与していると考えられています。

遺伝的要因

同じ家族の中で複数の人がこの病気になることが多かったり、一卵性双子の場合、どちらも病気になる確率が高いことから、遺伝的な要因があると考えられています。

例えば、体の免疫システムを調整する働きをもつ、HLA-DRB1(ヒト白血球抗原DRB1)やIL12A(インターロイキン12A)、CTLA4(細胞傷害性Tリンパ球抗原4)といった遺伝子に変異がある場合、PBCを発症する可能性が高くなります。

遺伝子PBCになるリスクへの影響
HLA-DRB1リスクが高い
IL12Aリスクがやや高い
CTLA4リスクがわずかに高い

環境要因

環境要因PBCとの関係の強さ
細菌感染関係が強い
化学物質に触れる関係がある程度ある
たばこを吸う関係が少しある

大腸菌やクラミジアなどの細菌に感染すると、「分子擬態」という現象を通じてPBCが起こる可能性があります。

分子擬態とは、細菌のタンパク質と私たちの体内のタンパク質が似た形をしているために、免疫システムが間違って自分の体のタンパク質を攻撃してしまう現象のことです。

免疫システムの乱れ

PBCという病気の根本的な原因は、体の免疫システムが正常に働かなくなることにあります。

通常、免疫システムは体の中に入ってきた異物を見つけて排除します。自分の体の組織は攻撃しないように調整されていますが、PBCでは何らかの理由でこのバランスが崩れます。

そうすると、免疫システムが胆管(肝臓から胆汁を運ぶ管)の表面にある細胞を誤って攻撃してしまいます。特に、抗ミトコンドリア抗体(AMA)が作られることが特徴です。

AMAは、ミトコンドリア(細胞のエネルギー工場)の中にあるピルビン酸脱水素酵素複合体(PDC-E2)という物質に対する自己抗体です。

この抗体が胆管の表面の細胞を攻撃することで、炎症が起こり、組織が硬くなっていきます。最終的には、胆汁がうまく流れなくなり、肝硬変にまで進んでいきます。

ホルモンのバランスの関係

PBCは女性に多い病気として知られています。女性ホルモンであるエストロゲンが免疫システムに影響を与え、自己免疫反応を促進する可能性があります。

エストロゲンの影響
  • B細胞(抗体を作る細胞)の働きを活発にする
  • 抗体の産生を増やす
  • T細胞(免疫反応を調整する細胞)の働きを変える

一方で、男性ホルモンであるアンドロゲンには免疫反応を抑える作用があり、PBCの発症を抑制する方向に働くことが発症の男女差に関係するのではないかと考えられています。

ホルモン免疫システムへの影響PBCになるリスク
エストロゲン免疫反応を活発にする高くなる
アンドロゲン免疫反応を抑える低くなる

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の検査・チェック方法

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診断では、血液検査(肝機能検査、自己抗体検査など)や画像検査(超音波検査、MRIなど)、生検(肝生検)などを行い、胆管の炎症や損傷の程度、肝硬変の有無などを評価していきます。

PBCの診察におけるポイント

PBCは特に症状を感じていない方が多く、健康診断や他の病気を調べているときに偶然見つかります。

疲れやすさやかゆみ、黄疸などが見られる場合、詳しい検査をします。

症状体の変化
疲れやすさ黄疸(皮膚や目が黄色くなる)
かゆみ肝臓が大きくなる
お腹の右上が不快脾臓が大きくなる
食欲がないクモの巣のような血管が見える

PBCの診断で行う検査

  • 血液の検査(ALP、γ-GTP、ビリルビンという物質を調べます)
  • 抗ミトコンドリア抗体(AMA)という特殊な抗体の検査
  • お腹の超音波検査
  • CT・MRI検査

健康診断で少し肝臓の働きが悪いと指摘された50代の女性の場合では、詳しく話を聞いてみると少しかゆみがあることがわかり、その後の詳しい検査でPBCだとわかりました。

このように、小さな症状や検査の異常も見逃さないことが大切です。

PBCの確定診断基準

以下の3つの基準のうち、2つ以上当てはまる場合にPBCと診断します。

診断基準内容
血液検査の基準ALPという物質が長期間高い
特殊な抗体の基準AMAという抗体が陽性、または他の特殊な抗体が陽性
肝臓の組織を調べる基準肝臓の一部を取って顕微鏡で見たときの特徴的な変化

肝生検は体に負担がかかる検査であるため、他の2つの基準を満たしている場合は必ずしも必要ではありません。診断が難しい場合や、他の肝臓の病気との区別が必要な時に行います。

PBC診断における注意点

  1. AMAという抗体がない(陰性の)PBCもある
  2. 他の自己免疫性の肝臓病と一緒に起こる場合がある
  3. 薬による肝臓障害など、似たような症状を示す病気との区別が重要

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療方法と治療薬について

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の主な治療法は、ウルソデオキシコール酸(UDCA)という薬を使う薬物療法です。

症状の進行を遅らせ、合併症を防ぐことを目指します。

薬物療法の中心はウルソデオキシコール酸(UDCA)

ウルソデオキシコール酸(UDCA)は、胆汁酸(肝臓で作られる消化を助ける物質)の組み合わせを良くし、肝臓の細胞を守る働きがあります。

UDCAを使うと肝臓の働きを調べる検査の結果が良くなり、病気の進み方を遅くする効果が期待できます。

薬物療法により、約7割の患者さんで、3〜6ヶ月以内に肝臓の働きを調べる検査の結果が良くなるとされています。

薬の名前主な効果
ウルソデオキシコール酸(UDCA)胆汁酸の組み合わせを良くし、肝臓の細胞を守る
オベチコール酸胆汁酸の代謝(体内での変化)を調整し、炎症を抑える

UDCAを使っても十分な効果が見られない患者さんには、オベチコール酸という薬を追加で使うことを考えます。オベチコール酸は、胆汁酸の代謝(体内での変化)を調整し、炎症を抑える効果がある新しい薬です。

UDCAと一緒に使うことで、さらに良い治療効果が期待できます。

症状に応じた対症療法

PBCに伴うさまざまな症状には、それぞれに合わせた治療を行います。

  • かゆみ:胆汁酸を吸着する薬や、アレルギーを抑える薬
  • 血液中の脂質が多い状態:コレステロールを下げる薬
  • 骨粗しょう症:骨を強くする薬やビタミンD
  • 脂溶性ビタミン(脂肪に溶けるビタミン)が不足:ビタミンA、D、E、Kの補充

食事の管理と生活指導

バランスの良い食事と適度な運動を心がけ、お酒は控えめにすることを推奨します。

栄養素1日に摂るのが望ましい量
タンパク質体重1kgあたり1.0-1.2g
脂質1日に摂る全エネルギーの25-30%
炭水化物1日に摂る全エネルギーの50-60%

進行した段階での治療対応

病気が進行してしまった場合、肝硬変(肝臓が硬くなる病気)や門脈圧亢進症(肝臓に流れ込む血管の圧力が高くなる病気)などの合併症に対する治療も同時に行います。

  • 利尿薬を使って腹水(おなかに水がたまる)をコントロールする
  • 食道静脈瘤(食道の血管が膨らむ)を予防するための治療をする
  • 肝性脳症(肝臓の働きが悪くなることで起こる意識障害)に対して薬による治療を行う

肝臓移植について

薬による治療で効果が得られない状態の場合は、肝臓移植を考えます。肝臓移植を行うかどうかは、血液中のビリルビン(黄疸の原因となる物質)の量や、おなかに水がたまっているかどうかなどを基準に判断します。

肝臓移植後の生存率は比較的良好ですが、再発する可能性もあるため、継続的に経過を見ていきます。

肝臓移植を考える基準
血液中のビリルビンの量100mLあたり6mg以上
MELD スコア(肝臓の状態を数値化したもの)15点以上

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療期間

原発性胆汁性胆管炎(PBC)は完全に治すことが難しく、生涯を通じて治療を続けます。

治療の開始と初期段階

PBCと診断されたら、できるだけ早く治療を始めます。ウルソデオキシコール酸(UDCA)の効き目には個人差があるので、治療を始めてから半年から1年くらいかけて効果を確認していきます。

治療の段階かかる期間主な内容
初期6ヶ月〜1年UDCAを使う、効果を確認する
中期1年〜5年治療の調整、合併症への対策
進行期数年〜10年以上合併症への対策、症状を和らげる
最終段階人によって大きく違う肝臓移植を検討する、苦痛を和らげるケアをする

薬の副作用や治療のデメリットについて

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療には、様々な副作用やリスクが伴います。

ウルソデオキシコール酸(UDCA)治療の副作用

UDCAで起こる可能性のある副作用、下痢や腹痛などの消化器に関する症状です。多くは一時的なものですが、症状が長く続く場合には、薬の量を調整していきます。

副作用どのくらいの頻度で起こるか
下痢比較的多い
おなかの痛みときどき起こる
体重が増えるあまり多くない
皮膚のかゆみまれに起こる

オベチコール酸治療のリスク

UDCAが効果を示さない患者さんの場合に使用を検討するオベチコール酸という薬では、特に肝臓の機能が低下している患者さんでは命に関わる肝不全を引き起こすリスクが高くなる可能性があるため、慎重に判断して投与します。

注意すべき副作用・リスク

  • 皮膚のかゆみが悪化する
  • 血液中のコレステロール値が高くなる
  • 甲状腺の働きが低下するリスクが高まる
  • 肝臓の障害が重度の患者さんでは肝不全のリスクが高まる

免疫抑制剤使用に伴うリスク

免疫抑制剤を使うと感染症にかかりやすくなります。特に、高齢の方や他の病気をお持ちの患者さんは、感染症が重症化するリスクが高くなります。

定期的的に血液検査を行ったり、必要なワクチンを接種したりするなど、予防的な対策を取ることが大切です。

免疫抑制剤の名前主に気をつけるべきリスク
プレドニゾン(ステロイド薬)骨がもろくなる、糖尿病になる可能性
アザチオプリン血液を作る働きが低下する、がんになる可能性が少し高まる
ミコフェノール酸モフェチル胃腸の調子が悪くなる、感染症にかかりやすくなる

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療費は、健康保険が適用されます。また、PBCは指定難病に該当するため、医療費の助成を受けられます。

詳しくは難病情報センターのホームページをご確認ください。

具体的な治療費の目安

治療法概算費用(1か月あたり)
ウルソデオキシコール酸5,000円〜10,000円
ベザフィブラート3,000円〜6,000円
オベチコール酸80,000円〜100,000円

その他の関連費用

  • 血液検査(肝機能検査、胆道系酵素など)
  • 画像診断(腹部エコー、CT、MRIなど)
  • 肝生検(必要な場合)
  • 合併症の管理費用

以上

参考文献

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