慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)

慢性非化膿性破壊性胆管炎(Chronic Non-Suppurative Destructive Cholangitis:CNSDC)とは、原発性胆汁性胆管炎(PBC)という自己免疫性肝疾患に見られる特徴的な胆管の病変です。

この病変は、肝臓内にある微細な胆管(肝臓で作られた胆汁を十二指腸へ運ぶ管)を主な標的として発生します。

CNSDCの進行過程では胆管の壁に炎症が生じ、時間とともにその構造が徐々に崩壊していきます。

この際、胆管の周囲には多数の炎症細胞が集積しますが、化膿性の変化は観察されません。そのため、病名に「非化膿性」という言葉が含まれているのです。

病変が進行すると胆汁の正常な流れが阻害され、結果として様々な症状が現れます。

目次

慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)の症状

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の経過中に現れるCNSDC関連の主な症状には、疲労感、掻痒感、黄疸などがあります。

持続的な疲労感

PBCの患者さんに多くみられる症状の一つが、持続的な疲労感です。「何をしても疲れが取れない」というようなもので、日常生活にも影響があります。

疲労感の特徴

  • 持続的
  • 休息しても改善しない
  • 日常生活に支障がでるほどの疲労感

掻痒感

掻痒感(皮膚のかゆみ)は特に夜になると悪化し、かゆくて目が覚めてしまう方もいます。

かゆみの強さには個人差があり、軽いものから、耐えられないほど激しいものまで様々です。

進行に伴う黄疸

黄疸は、皮膚や目の白い部分が黄色く変色する症状です。病気が進行していること示すサインとなります。

その他の症状

  • お腹の右上の不快感や痛み
  • 食欲不振
  • 体重減少
  • 吐き気

慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)の原因

PBC(原発性胆汁性胆管炎)において、自己免疫反応が胆管上皮細胞(胆管の内側を覆う細胞)を標的とし、炎症と破壊を引き起こすことがCNSDCの主要な要因となっています。

自己免疫反応

正常な状態では、免疫系は外来の病原体から体を守る一方で、自己の組織を攻撃しないよう制御されています。

しかし、PBCの患者さんではこの制御機構が崩れてしまい、胆管上皮細胞を自己の敵とみなして攻撃してしまいます。

こうした自己免疫反応によって胆管上皮細胞の破壊が進行し、持続的な炎症を起こします。

遺伝的要因

特定の遺伝子変異や多型が、自己免疫反応を引き起こしやすい体質を形成することが分かってきています。

遺伝子関連する機能
HLA-DR抗原提示(免疫系が異物を認識する過程)
IL-12Aサイトカイン(免疫細胞間の情報伝達物質)産生
CTLA-4T細胞(免疫細胞の一種)活性化調節

家族歴がある場合、早期からの経過観察が大切です。

環境因子

  • ウイルス感染
  • 化学物質への曝露
  • ホルモンバランスの変化
  • 腸内細菌叢(腸内の細菌の集まり)の乱れ

免疫細胞の異常活性化

PBCの病態進行過程では、様々な免疫細胞が異常に活性化します。特に、T細胞とB細胞という2種類の免疫細胞の役割が重要であることが分かっています。

免疫細胞PBCにおけるCNSDC進展への関与
CD4+ T細胞炎症性サイトカイン(炎症を引き起こす物質)産生
CD8+ T細胞胆管上皮細胞の直接破壊
B細胞自己抗体(自分の体の組織を攻撃する抗体)産生

活性化されたT細胞は胆管周囲に浸潤し、炎症性サイトカインを分泌することで局所的な炎症反応を起こし、胆管上皮細胞の損傷を進行させます。

一方、B細胞は抗ミトコンドリア抗体(AMA)などの自己抗体を産生し、胆管上皮細胞を標的とすることでさらなる組織損傷を起こします。

酸化ストレスと胆管上皮細胞の脆弱性

PBCの進行とCNSDCの悪化には、酸化ストレス(体内で生じる有害な化学反応)も関与していることが分かっています。

胆管上皮細胞は、通常の代謝過程で生じる活性酸素種(ROS)に対して弱く、持続的な酸化ストレスにさらされると細胞死を起こしやすくなります。

酸化ストレス要因PBCにおける影響
炎症性サイトカインROS(活性酸素種)産生増加
胆汁うっ滞(胆汁の流れが滞ること)細胞膜損傷
ミトコンドリア機能障害エネルギー産生低下

慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)の検査・チェック方法

慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)は、原発性胆汁性胆管炎(PBC)の特徴的な胆管所見です。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の検査については、以下のページを参考にしてください。

慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)の治療方法と治療薬について

原発性胆汁性胆管炎(PBC)、および慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)の治療では、ウルソデオキシコール酸(UDCA)という薬を使います。また、オベチコール酸や免疫抑制剤などを組み合わせて使う場合もあります。

UDCA療法:PBC治療の基本

ウルソデオキシコール酸(UDCA)は、PBCの標準的な治療薬です。胆汁酸(胆汁に含まれる成分)の組み合わせを良くして、肝臓の細胞を守る働きがあります。

初期段階では、UDCAだけで病気の進行を抑えられることも多いです。

オベチコール酸:UDCAが十分に効かない場合の対策

UDCAを使っても十分な効果が見られない患者さんには、オベチコール酸という薬を追加します。

この薬の効果は、ファルネソイドX受容体という場所に作用して胆汁酸の作られる量を減らし、体の外に出す量を増やすことです。

免疫抑制剤:なかなか良くならない場合の対策

UDCAとオベチコール酸を一緒に使っても効果が十分でない場合、免疫抑制剤を使用します。

薬の名前どんな働きをするか
ブデソニド炎症を抑える作用を、局所的に発揮する
メトトレキサート免疫の働きを調整する

症状を和らげる治療

PBCに伴って起こるさまざまな症状に対しては、それぞれに合った治療を行います。

  • かゆみが強い場合…胆汁酸を吸着する樹脂や、ナルフラフィンという薬を使います。
  • 血液中の脂質が高くなる場合…脂質異常症の治療薬を使います。
  • 骨がもろくなる骨粗鬆症…ビスホスホネート製剤という薬を用います。

病気が進行した場合の肝臓移植

お薬による治療で効果が得られない、進行した状態の患者さんでは、肝臓移植を検討します。

移植を考える基準具体的な数値
血液中のビリルビンという物質の量100mLあたり6mg以上
Child-Pughという肝臓の状態を表す分類10点以上

慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)の治療期間と予後

治療期間は個々の症状や病態の進行度によって異なりますが、一般的には数年から数十年という長期間、継続的に管理をします。

長期的な管理の必要性

原発性胆汁性胆管炎(PBC)は徐々に進行していく特徴を持つため、症状が落ち着いたように見えても、継続的に管理し続けなければならない病気です。

治療を途中でやめてしまうと状態が悪くなる危険性が高いため、基本的に薬は一生涯飲み続ける必要があります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療、および慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)の管理には、副作用やリスクが伴うことがあります。

免疫抑制剤による副作用

免疫抑制剤を使うと、体の抵抗力が弱くなり、風邪などの感染症にかかりやすくなってしまう可能性があります。

そのため、日常生活で手洗いやマスク着用などの感染予防対策をしっかり行うことがとても大切です。

また、この薬を長い間使っていると、骨がもろくなったり、糖尿病になるリスクが上昇する可能性もあります。

副作用対策
感染症にかかりやすくなる手洗い、マスク着用などの感染予防
骨がもろくなる定期的な骨の検査、カルシウムをしっかり摂る
糖尿病のリスクが上がる血液中の糖分を定期的に調べる、食事に気をつける

ステロイド治療のリスク

ステロイド薬を長い間使い続けると、次のような副作用が現れることがあります。

  • 体重が増える
  • 皮膚が薄くなりやすくなる
  • 血圧が高くなる
  • 骨粗しょう症(骨がもろくなる病気)になりやすくなる

胆汁うっ滞による合併症

PBCが進行すると、胆汁(肝臓で作られる消化を助ける液体)がうまく流れなくなる「胆汁うっ滞」という状態になることがあります。

この状態になると、合併症が起こるリスクが高くなります。

合併症症状
脂溶性ビタミン欠乏症夜盲症、骨軟化症
高脂血症動脈硬化、心血管疾患
胆石症右上腹部痛、黄疸

合併症を防ぐためには、バランスの良い食事を心がけ、定期的に検査を受けるようにしてください。特に、脂溶性ビタミン(体に脂と一緒に吸収されるビタミン)を補うことが大切な対策の一つとなります。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療、および慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)の管理にかかる医療費は、保険診療となります。

指定難病について

原発性胆汁性胆管炎(PBC)は「指定難病」に分類されているため、医療費の助成が受けられます。

医療費の内訳と自己負担額

3割負担の場合、外来診療では月額1万円から3万円程度、入院治療では1日あたり1万円から2万円程度の自己負担が目安となります。ただし、高額療養費制度の利用により、月々の負担には上限が設けられます。

管理内容自己負担額(3割負担の場合)
外来診療月額1万円~3万円
入院治療1日1万円~2万円

薬剤治療にかかる費用

薬剤名概算月額(3割負担)
UDCA3,000円~6,000円
免疫抑制剤5,000円~15,000円

検査・モニタリングの費用

  • 血液検査1回あたり1,000円~3,000円
  • 腹部超音波検査1回あたり3,000円~5,000円
  • MRI/CT検査1回あたり5,000円~15,000円

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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