成熟樹状細胞と未熟樹状細胞|免疫誘導能が高いのはどっち?

成熟樹状細胞と未熟樹状細胞|免疫誘導能が高いのはどっち?

がん治療において免疫の力を引き出す鍵となるのが、樹状細胞の「成熟度」です。結論からお伝えすると、免疫誘導能が高いのは成熟樹状細胞のほうです。

成熟樹状細胞は共刺激分子やサイトカインを豊富に発現し、キラーT細胞を強力に活性化します。一方、未熟樹状細胞は抗原を取り込む力に優れるものの、T細胞を十分に刺激できません。

むしろ未熟なまま抗原を提示すると、免疫を抑制する方向へ働いてしまいます。この記事では、両者の違いをがんとの関係に焦点を当てながら、できるだけわかりやすく解説していきます。

目次

免疫を強く動かせるのは成熟樹状細胞だけ

免疫誘導能に関しては、成熟樹状細胞が未熟樹状細胞を大きく上回ります。成熟樹状細胞はT細胞を活性化するための分子を豊富にそなえており、がんに対する攻撃的な免疫応答を引き起こすことができます。

がん免疫療法で「成熟度」が重視される理由

がん免疫療法の分野では、樹状細胞をどこまで成熟させるかが治療効果に直結すると考えられています。樹状細胞(じゅじょうさいぼう)とは、体内に侵入した異物やがん細胞の情報をT細胞に伝える免疫細胞です。

成熟度が低いままだと、T細胞への情報伝達がうまくいかず、免疫はしっかり働きません。つまり、樹状細胞が「十分に成熟しているか」が免疫の強さを決める一番の要因といえます。

未熟樹状細胞はかえって免疫にブレーキをかけてしまう

未熟樹状細胞が抗原をT細胞に見せたとき、T細胞は活性化するどころか不応答(アナジー)と呼ばれる反応停止状態に陥ることがあります。ヒトを対象にした研究でも、未熟樹状細胞の投与が免疫抑制を引き起こしたという報告があります。

さらに、制御性T細胞(Treg)と呼ばれる免疫を抑えるタイプの細胞が増加することも確認されています。がん治療の観点からすると、未熟樹状細胞は「味方のふりをした敵」になりかねないのです。

成熟樹状細胞と未熟樹状細胞の免疫誘導能の比較

比較項目成熟樹状細胞未熟樹状細胞
T細胞の活性化強力に誘導ほぼ誘導できない
共刺激分子の発現高い低い
サイトカイン分泌IL-12などを豊富に分泌ほとんど分泌しない
免疫応答の方向免疫の活性化免疫寛容・抑制

両者の違いを知ることが自分の体を守る第一歩になる

がん治療の情報を調べているとき、「樹状細胞を使った治療」という言葉を目にしたことがあるかもしれません。

そのとき、成熟した樹状細胞と未熟な樹状細胞では効果がまったく違うという点を押さえておくと、治療への理解が一段と深まるでしょう。

以降では、それぞれの樹状細胞がどのように働くのか、がんとの関係はどうなっているのかを順を追って説明していきます。

樹状細胞はがん免疫を動かす司令塔として全身をパトロールしている

樹状細胞は、免疫細胞のなかで抗原提示能力がもっとも高い細胞です。外敵の情報を集め、それをT細胞に正確に伝えることで免疫応答の「スイッチ」を入れる、いわば免疫の司令塔といえます。

免疫細胞のなかで唯一「抗原提示」に特化した細胞

私たちの体にはさまざまな免疫細胞が存在しますが、樹状細胞はそのなかでも特に抗原提示に秀でています。抗原提示とは、体に入ってきた異物やがん細胞のかけらをT細胞に「見せる」行為です。

マクロファージやB細胞にも抗原提示の能力はありますが、まだ敵と出会ったことのないナイーブT細胞を効率よく活性化できるのは樹状細胞だけです。

1973年に発見されて以来がん免疫研究の中心的存在に

樹状細胞は1973年にラルフ・スタインマン博士によって発見されました。

当初はその数の少なさから研究が進みにくい細胞でしたが、培養技術の進歩によって大量に得られるようになり、がん免疫の世界で急速に注目を集めるようになりました。

スタインマン博士はこの功績により、2011年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

自然免疫と獲得免疫をつなぐ架け橋となっている

免疫には、生まれつき備わっている「自然免疫」と、敵の情報を学習して攻撃力を高める「獲得免疫」の2種類があります。樹状細胞はこの2つをつなぐ橋渡し役です。

自然免疫として病原体をいち早く感知し、その情報を獲得免疫の主役であるT細胞やB細胞に伝えます。この連携がうまくいくと、がん細胞に対する強い攻撃力が生まれるのです。

樹状細胞の基本情報

項目内容
発見年1973年
発見者ラルフ・スタインマン博士
主な機能抗原提示によるT細胞の活性化
存在部位皮膚・粘膜・血液・リンパ組織など全身
名前の由来細胞表面の樹枝状突起(木の枝のような形)

未熟樹状細胞は敵の情報を集める偵察役だが攻撃命令は出せない

未熟樹状細胞は抗原を取り込む能力に優れた「偵察部隊」ですが、取り込んだ情報をT細胞に伝えて攻撃を指示する力は弱く、免疫を活性化するには力不足です。

体の組織に常駐し異物や異常細胞を見張り続けている

未熟樹状細胞は皮膚や粘膜、肺、腸管などの組織に広く分布しています。外界からの病原体が侵入しやすい場所に陣取り、異物やがん細胞の破片を取り込む「見張り役」として働いています。

エンドサイトーシス(細胞が外部の物質を取り込む働き)やマクロピノサイトーシスと呼ばれる方法で、周囲の物質を効率的に取り込みます。

抗原を取り込む力は強いがT細胞への伝達力が弱い

未熟樹状細胞の特徴は、MHC(主要組織適合遺伝子複合体)分子やCD80・CD86といった共刺激分子の発現量が低い点にあります。

抗原を取り込むことは得意でも、T細胞に対して「この敵を攻撃せよ」と明確に指示を出すための道具が足りないのです。

さらに、IL-12などの炎症性サイトカインもほとんど産生しないため、免疫応答を力強く立ち上げることができません。

未熟樹状細胞に多くみられる特徴

  • MHCクラスII分子の表面発現が低い
  • 共刺激分子(CD80・CD86)の発現が乏しい
  • エンドサイトーシスやマクロピノサイトーシスの活性が高い
  • IL-10を産生し免疫抑制的に働く場合がある

未熟なまま抗原提示すると免疫寛容を引き起こす

未熟樹状細胞が抗原をT細胞に提示すると、T細胞は活性化するどころか反応しなくなることがわかっています。これを「免疫寛容(トレランス)」と呼びます。

本来、免疫寛容は自分自身の組織を攻撃しないために備わった仕組みですが、がんに対して免疫寛容が起きてしまうと、がん細胞を異物として認識できなくなるため非常に厄介です。

成熟樹状細胞だけがキラーT細胞を本気で目覚めさせる

成熟樹状細胞は、共刺激分子の発現量が飛躍的に増加し、IL-12などの炎症性サイトカインを大量に分泌することで、キラーT細胞を強力に活性化します。

がんに対する免疫応答を起動するには、樹状細胞が完全に成熟していることが前提条件です。

共刺激分子の発現量が一気に跳ね上がる

樹状細胞が成熟すると、CD80、CD86、CD40、CD83といった共刺激分子の発現が大幅に増えます。共刺激分子はT細胞の表面にある受容体と結合して、T細胞に「活性化してよい」という許可を与えるものです。

この共刺激なしに抗原だけを提示されたT細胞は、活性化ではなくアナジー(不応答状態)に陥ります。つまり共刺激分子の有無が、免疫のスイッチをオンにするかオフにするかを決めているのです。

IL-12などの炎症性サイトカインが免疫応答を加速させる

成熟樹状細胞はIL-12と呼ばれるサイトカインを豊富に分泌します。IL-12はT細胞をTh1型(攻撃的なヘルパーT細胞)に分化させ、キラーT細胞の活性を高めます。

がん細胞を直接破壊するキラーT細胞が十分に活性化するには、このIL-12のシグナルが欠かせません。成熟樹状細胞がサイトカインを放出してはじめて、免疫は「戦闘モード」に入れるのです。

成熟樹状細胞はリンパ節に移動しT細胞と直接出会う

成熟した樹状細胞はCCR7というケモカイン受容体を発現し、リンパ節へ向かって移動する力を獲得します。

リンパ節にはまだ敵と出会ったことのないナイーブT細胞が集まっており、成熟樹状細胞はそこでT細胞に抗原を提示してがんに特異的な免疫応答を起こします。

未熟樹状細胞はこのCCR7の発現が低いため、リンパ節への移動能力も限定的です。免疫が始まる「場所」にたどり着ける点でも、成熟樹状細胞のほうが有利だといえます。

成熟樹状細胞がT細胞を活性化する3つの条件

シグナル内容成熟DCの対応
第1シグナルMHC分子を介した抗原提示MHC発現量が高い
第2シグナル共刺激分子による活性化許可CD80・CD86・CD40を高発現
第3シグナルサイトカインによる分化誘導IL-12を大量に分泌

がん細胞は樹状細胞の成熟をわざと邪魔している

がん細胞は自らの生存のために、樹状細胞が成熟しないように巧みな妨害工作を行います。腫瘍の周囲に免疫抑制的な環境をつくり、樹状細胞を未熟なまま留めておくことで、免疫からの攻撃を逃れようとしているのです。

腫瘍微小環境にはIL-10やVEGFなどの免疫抑制因子が充満している

がん細胞やその周囲の間質細胞は、IL-10、TGF-β、VEGF(血管内皮増殖因子)などの物質を分泌しています。これらは樹状細胞の成熟を妨げ、共刺激分子の発現やIL-12の産生を抑え込みます。

とくにVEGFは新しい血管をつくってがんに栄養を届ける一方で、樹状細胞の分化や成熟にもブレーキをかけるという二重の悪影響を持っています。

未熟樹状細胞が腫瘍内に蓄積するとがんの増殖が加速する

肺がんをはじめとするさまざまながん種の腫瘍組織を調べた研究では、腫瘍内に未熟樹状細胞が多数蓄積している傾向が報告されています。

成熟樹状細胞の割合は正常な組織と比べて低下しており、免疫による監視が弱まった状態にあると考えられています。

未熟樹状細胞が多い環境では制御性T細胞が増え、キラーT細胞の攻撃力が鈍ります。がんにとっては都合のよい環境が維持されてしまうわけです。

がんが樹状細胞の成熟を抑える主な手口

抑制因子樹状細胞への影響
IL-10共刺激分子の発現とIL-12分泌を抑制する
TGF-β樹状細胞の分化・成熟を阻害する
VEGF樹状細胞の前駆細胞の発達を妨げる
PGE2免疫抑制型の樹状細胞を誘導する

がんに打ち勝つには樹状細胞を完全に成熟させる工夫が求められる

腫瘍微小環境の影響で未熟なままとどまった樹状細胞は、免疫を立ち上げるどころか、免疫寛容を誘導してがんの味方になってしまいます。

がん免疫療法の研究では、この妨害を乗り越えて樹状細胞をしっかり成熟させるためのさまざまなアプローチが模索されています。

TLR(Toll様受容体)リガンドやサイトカインカクテルの活用など、体外で樹状細胞を強制的に成熟させてから体内に戻す方法が代表的な戦略です。

樹状細胞ワクチンは成熟度が治療の成否を分ける

樹状細胞を用いた免疫療法(樹状細胞ワクチン)では、投与する樹状細胞が十分に成熟しているかどうかが治療効果を大きく左右します。未熟な状態で投与すると、かえって逆効果になりかねないことが研究で繰り返し示されています。

体外で樹状細胞を十分に成熟させてから体内へ戻す

樹状細胞ワクチンの基本的な流れは、患者さんの血液から樹状細胞の前駆細胞を採取し、体外で培養・成熟させたのちにがん抗原を載せて体内へ戻すというものです。

成熟を促すために、TNF-α、IL-1β、IL-6、PGE2などを組み合わせたサイトカインカクテルや、ポリI:Cなどの人工的な核酸成分が使われます。こうした刺激によって、樹状細胞は十分なT細胞活性化能を獲得した状態で投与されます。

未熟なまま投与するとがん免疫にマイナスの影響を与える

2001年に報告されたヒトを対象とした研究では、未熟樹状細胞を健康な被験者に投与したところ、抗原特異的なキラーT細胞の働きが抑制され、IL-10を産生する細胞が増加したことが明らかになりました。

成熟樹状細胞を用いた場合にはT細胞が力強く活性化したのに対し、未熟樹状細胞は免疫を抑える方向に働いたのです。

こうした知見から、樹状細胞ワクチンにおいて成熟度の管理が極めて大切だと認識されるようになりました。

完全に成熟した樹状細胞だけが抗腫瘍免疫を力強く引き出せる

「半成熟」と呼ばれる中間的な段階にとどまった樹状細胞は、表面マーカー上は成熟しているように見えても、炎症性サイトカインの分泌が不十分なため免疫寛容を誘導してしまう場合があります。

完全に成熟した樹状細胞(フルマチュアDC)のみが、Th1型の免疫応答を強く引き起こし、キラーT細胞による抗腫瘍効果を発揮できます。

樹状細胞を用いた治療を検討する際には、「どの程度成熟しているか」を確認することが大切です。

成熟度と免疫への影響の関係

  • 未熟な樹状細胞は免疫寛容を誘導し、がんの逃避を助ける
  • 半成熟の樹状細胞は制御性T細胞を増やす方向に傾きやすい
  • 完全に成熟した樹状細胞のみがTh1型応答とキラーT細胞を強く活性化する

樹状細胞の成熟度は表面マーカーとサイトカインで判定できる

樹状細胞が本当に成熟しているかどうかは、細胞表面に発現する分子(表面マーカー)や、細胞が放出するサイトカインの種類・量によって科学的に判定できます。

CD80・CD86・CD83・HLA-DRが成熟のサインとなる

成熟樹状細胞の目印となる代表的な表面マーカーには、CD80、CD86、CD40、CD83、HLA-DR(MHCクラスII分子)があります。

これらの分子は成熟に伴って発現量が急増するため、フローサイトメトリーという分析装置で測定すると成熟度を数値として評価できます。

とくにCD83は成熟樹状細胞にほぼ特異的に発現するマーカーとして知られており、成熟の判定に広く用いられています。

主な表面マーカーと成熟度の関係

マーカー未熟DC成熟DC
CD80低発現高発現
CD86低発現高発現
CD83ほぼ陰性陽性
HLA-DR中程度高発現
CCR7低発現高発現

IL-12産生量が免疫誘導能の強さに直結する

表面マーカーの発現が高くても、IL-12をはじめとした炎症性サイトカインを十分に分泌しなければ、樹状細胞は免疫誘導能を十分に発揮できないことがわかっています。

IL-12はTh1型免疫応答を強力に促進するサイトカインで、がんに対する免疫応答の要です。

そのため、樹状細胞の品質を評価する際には、表面マーカーだけでなくサイトカインの産生量もあわせて確認する必要があります。

「半成熟」という中間状態にも注意が必要

近年の研究で、未熟と完全成熟の間に「半成熟(セミマチュア)」と呼ばれる状態が存在することが明らかになりました。

半成熟樹状細胞は共刺激分子をある程度発現していますが、炎症性サイトカインの分泌が不十分であり、免疫を活性化するよりも免疫寛容を誘導しやすいと報告されています。

樹状細胞の成熟は「オンかオフか」の二択ではなく、段階的に進むものです。がんに対する免疫を確実に立ち上げるためには、半成熟の段階で止まっていないか慎重に確認することが大切になります。

よくある質問

成熟樹状細胞はどのようにしてがん細胞への免疫応答を引き起こしますか?

成熟樹状細胞は、がん細胞由来の抗原をMHC分子に載せてT細胞に提示し、同時にCD80やCD86などの共刺激分子を介してT細胞の活性化を促します。

さらにIL-12という炎症性サイトカインを分泌することで、T細胞をTh1型に分化させ、がん細胞を直接攻撃するキラーT細胞を増やします。この3つのシグナルがそろってはじめて、がんに特異的な免疫応答が成立します。

未熟樹状細胞はなぜがん治療においてマイナスに働く場合があるのですか?

未熟樹状細胞は共刺激分子の発現やサイトカイン分泌が不十分なため、T細胞に抗原を提示してもT細胞を活性化できません。むしろT細胞がアナジー(不応答状態)に陥ったり、免疫を抑制する制御性T細胞が増えたりします。

その結果、がん細胞に対する免疫監視が弱まり、がんの増殖や転移を許してしまう恐れがあるのです。

樹状細胞の成熟度はどのような方法で調べることができますか?

樹状細胞の成熟度は、フローサイトメトリーという装置を使って、細胞表面のCD80、CD86、CD83、HLA-DRなどの分子の発現量を測定することで評価できます。

加えて、培養上清中のIL-12やTNF-αなどのサイトカイン濃度をELISAという方法で測定し、機能的な成熟度もあわせて確認するのが一般的です。

樹状細胞ワクチンで使われる樹状細胞は体内のものとは違うのですか?

樹状細胞ワクチンで用いられる樹状細胞は、患者さんご自身の血液から採取した単球(単核球)を体外で培養し、GM-CSFやIL-4などのサイトカインを加えて樹状細胞へ分化・成熟させたものです。

もとは患者さん自身の細胞ですが、体外で人工的に成熟を促している点が体内に存在する樹状細胞とは異なります。体外で成熟させることで腫瘍微小環境による妨害を受けず、免疫誘導能の高い状態で体内に戻すことが可能になります。

半成熟樹状細胞と完全成熟樹状細胞はどこが違いますか?

半成熟樹状細胞は、共刺激分子やMHC分子の表面発現はある程度上がっていますが、IL-12などの炎症性サイトカインをほとんど分泌しません。そのため、T細胞を活性化する力が弱く、むしろ免疫寛容を誘導する傾向があります。

完全に成熟した樹状細胞は、表面マーカーの高発現に加えてIL-12を豊富に産生し、Th1型免疫応答とキラーT細胞の活性化を強力に促進します。がんに対する免疫応答を確実に引き起こすには、完全な成熟が必要です。

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