血液透析治療を始めるにあたり、多くの方が耳にするのがバスキュラーアクセスという言葉です。
バスキュラーアクセスは、透析のたびに身体から血液を取り出し、きれいにしてから再び体内に戻すための大切な出入り口の役割を担い、長期間にわたって安全で安定した透析治療を続けるための生命線です。
この記事では、バスキュラーアクセスとは何か、基本的な知識から、シャントに代表されるアクセスの種類、そしてご自身のアクセスを長持ちさせるためのシャント管理の重要性について、解説していきます。
そもそもバスキュラーアクセスとは?
透析治療とバスキュラーアクセスは、切っても切れない関係にあります。安定した治療を続けるためには、まずアクセスの役割を正しく理解することが第一歩です。
透析治療における血液の出入り口
血液透析は、腎臓の代わりに機械(ダイアライザー)が血液中の老廃物や余分な水分を取り除く治療法です。
治療を行うためには、1分間に約200mlという大量の血液を体から取り出し、ダイアライザーへ送り込む必要があり、浄化された血液は再び体内へ戻されます。
バスキュラーアクセスは、一連の血液の循環をスムーズに行うために作られた、いわば血液専用の通路です。毎回、このアクセス部分に針を刺して、透析装置と体をつなぎます。
なぜ普通の血管ではいけないのか
私たちの腕などにある通常の静脈は、皮膚の表面近くにあって針を刺しやすいのですが、血流が遅く、透析に必要な血液量を確保できません。
一方、動脈は血流が豊富ですが、体の深い部分にあり、繰り返し針を刺すのには向いておらず、また、圧力が非常に高いため、一度針を刺すと血が止まりにくいという問題もあります。
通常の血管では効率的で安全な透析治療を長期間にわたって続けることが困難です。そこで、透析に適した特別な血管アクセスを作成する必要が出てきます。
バスキュラーアクセスの基本的な役割
バスキュラーアクセスの最も基本的な役割は、十分な量の血液を安定して確保することで、透析治療の効果は、どれだけ効率よく血液を浄化できるかにかかっています。そのためには、十分な血流量を持つ血管アクセスが欠かせません。
また、毎週2回から3回、何年にもわたって繰り返し針を刺すことに耐えられる強度も大事です。適切なバスキュラーアクセスがあることで、患者さんは身体的な負担を抑えながら、質の高い透析治療を受け続けることができます。
バスキュラーアクセスの主な条件
条件 | 内容 | なぜ重要か |
---|---|---|
十分な血流量 | 1分間に200ml以上の血液が流れる | 効率的な透析治療を行い、老廃物を除去するため |
繰り返しの穿刺 | 何度も針を刺せる強度と弾力性がある | 長期間にわたる透析治療を継続するため |
アクセスのしやすさ | 体の表面近くにあり、穿刺が比較的容易である | 透析ごとの穿刺を安全かつ確実に行うため |
長期的な透析治療を支える土台
バスキュラーアクセスは、一度作れば永久に使えるわけではありません。日々の管理状態や個人の体質によって、狭くなったり詰まったり(狭窄・閉塞)することがあります。
トラブルが起きると、透析治療そのものができなくなる可能性もあり、バスキュラーアクセスは透析患者さんにとって、まさに生命線であり、長期的な治療生活を支える大切な土台です。
バスキュラーアクセスの主な種類
バスキュラーアクセスにはいくつかの種類があり、患者さん一人ひとりの血管の状態や全身の状態に合わせて、最も適したものが選ばれます。ここでは代表的な3つの種類と、それぞれの特徴について見ていきましょう。
自己血管内シャント(AVF)
最も一般的に作られるバスキュラーアクセスが、自己血管内シャント(Autogenous Arteriovenous Fistula, AVF)です。これは、ご自身の動脈と静脈を手術で直接つなぎ合わせて作ります。
AVFの概要
手術では、主に手首の近くで、皮膚の下にある動脈と静脈を吻合(ふんごう)し、圧力の高い動脈血が静脈に流れ込むようになります。
その結果、静脈は血流の増加によって徐々に太く発達し、透析に必要な血流量と、繰り返しの穿刺に耐えられる壁の強さを持つ血管に変化し、発達した静脈が、シャント血管となります。
AVFの長所と短所
項目 | 長所 | 短所 |
---|---|---|
特徴 | ご自身の血管を使うため、異物反応がなく感染に強い。 | 血管が成熟して使えるようになるまで数週間から数ヶ月かかる。 |
開存率 | 一度安定すれば、他のアクセス方法に比べて長持ちしやすい。 | もともとの血管が細い方や動脈硬化が進んでいる方は作成が難しい場合がある。 |
合併症 | 閉塞や感染のリスクが比較的低い。 | シャントの血流が多すぎると心臓に負担がかかることがある。 |
人工血管内シャント(AVG)
自己血管が細いなどの理由でAVFの作成が難しい場合に選択されるのが、人工血管内シャント(Arteriovenous Graft, AVG)です。
AVGの概要
これは、フッ素樹脂などで作られた、チューブ状の人工血管を皮膚の下に埋め込み、動脈と静脈をつなぐ方法です。主に腕や前腕にU字型やストレート型に留置します。
人工血管そのものに針を刺して透析を行うため、自己血管シャントのように血管が成熟するのを待つ必要がなく、比較的早期(手術後2週間程度)から使用を開始できます。
AVGの長所と短所
項目 | 長所 | 短所 |
---|---|---|
使用開始時期 | 手術後、比較的短期間で使用を開始できる。 | 人工物であるため、自己血管シャントに比べて感染や閉塞を起こしやすい。 |
適応 | 自己血管が細い方や、シャント作成に適した血管がない方でも作成可能。 | 長期的な開存率は自己血管シャントに劣る傾向がある。 |
手術 | 吻合部が2か所あり、手術はAVFより少し複雑になる。 | 感染が起きた場合、人工血管の抜去が必要になることがある。 |
長期留置カテーテル
シャントの作成が困難な場合や、シャントが使えるようになるまでの間、あるいは緊急で透析が必要になった場合などに用いられるのが、長期留置カテーテルです。
カテーテルの概要
首や胸、足の付け根などにある太い静脈に、カフという抜け落ちを防ぐ部分が付いた柔らかいチューブ(カテーテル)を留置する方法です。
カテーテルの先端は心臓近くの太い静脈に置かれ、体の外に出ている接続部分から透析装置へとつなぎ、穿刺の必要がないため、痛みはありません。
長期留置カテーテルの特徴
項目 | 利点 | 注意点 |
---|---|---|
即時性 | 留置後すぐに透析を開始できる。 | カテーテル関連血流感染のリスクが他のアクセスより高い。 |
身体的負担 | 穿刺の痛みがなく、血管の状態に左右されない。 | 入浴に制限があるなど、日常生活での管理が重要。 |
合併症 | シャントトラブル(狭窄・閉塞)の心配がない。 | カテーテルそのものが血栓で詰まったり、血管を狭めたりすることがある。 |
動脈表在化
これは、腕の深いところにある動脈を、皮膚のすぐ下まで移動させて穿刺しやすくする手術です。シャント作成が困難で、かつ人工血管も使用できないような場合に選択肢となることがあります。
静脈は使用しないため、シャント特有の合併症は少ないですが、穿刺するのは動脈なので、止血には十分な時間と注意が必要です。
自分に合ったバスキュラーアクセスの選び方
どのバスキュラーアクセスを選択するかは、今後の透析生活の質を左右する重要な決定です。医師は患者さんの体の状態を総合的に評価し、いくつかの選択肢を提示します。
血管の状態を考慮する
バスキュラーアクセス選択の最も重要な要素は、ご自身の血管の状態です。手術前には、超音波(エコー)検査や血管造影検査を行い、腕の動脈と静脈の太さ、走行、硬さなどを詳しく調べます。
十分な太さと弾力性のある静脈があれば、第一選択として自己血管内シャント(AVF)が検討され、血管が細かったり、これまでの病気や点滴の影響で血管が傷んでいたりする場合には、人工血管内シャント(AVG)が候補です。
全身の状態や併存疾患
心臓の機能が低下している方の場合、シャントによって心臓に戻る血液量が増えることで、心臓に余計な負担をかけてしまう可能性があります。このような場合は、シャントの血流量を調整したり、他のアクセス方法を検討したりします。
また、糖尿病を患っている方は血管がもろくなっていることが多く、感染症のリスクも高いため、より慎重な選択と管理が必要です。
生活スタイルとの両立
利き腕や仕事の内容、趣味なども考慮に入れる必要があり、一般的に、シャントは利き腕ではないほうの腕に作成します。これは、日常生活への影響を最小限に抑え、シャントを保護するためです。
例えば、重い物を持つ仕事をしている方や、腕を酷使するスポーツをする方の場合、シャントの場所や種類について医師とよく相談しましょう。また、カテーテルを選択した場合は入浴に制限がかかるなど、生活上の注意点も変わってきます。
医師との相談時に伝えるべきこと
カテゴリ | 伝える内容の例 | なぜ伝える必要があるか |
---|---|---|
利き腕 | 右利きか左利きか | シャント作成する腕の選択に影響するため |
仕事や趣味 | 腕を使う作業、スポーツ、楽器演奏の有無など | シャントへの負担や日常生活への影響を考慮するため |
過去の病歴 | 腕の手術、怪我、長期間の点滴経験など | 血管の状態を把握し、適切な手術計画を立てるため |
バスキュラーアクセス作成(シャント手術)の流れ
バスキュラーアクセス、特にシャントの作成は、通常、局所麻酔で行う日帰りまたは短期入院の手術です。ここでは、一般的な自己血管内シャント(AVF)手術の流れを解説します。
手術前の準備と検査
手術日が決まると、まずは詳細な検査から始まり、超音波検査で血管の状態を詳細に評価し、どの部位で動脈と静脈をつなぐのが最も良いかを決定します。検査は、手術の成功とシャントの長期的な維持に直結する、非常に重要なものです。
また、血液検査や心電図検査などを行い、全身の状態が手術に耐えられるかを確認します。
手術当日の流れ
手術は、手術室で清潔な環境のもと行います。腕に局所麻酔の注射をするため、手術中に痛みを感じることはほとんどありません。意識ははっきりしているので、不安なことや気分が悪い場合は、すぐにスタッフに伝えてください。
皮膚を数センチ切開し、目的の動脈と静脈を露出させ丁寧に剥離し、髪の毛よりも細い糸を使って、血管同士を慎重に縫い合わせます。
吻合が完了し、動脈から静脈へ血液が勢いよく流れていることを確認したら、皮膚を縫い合わせて手術は終了で、手術時間はおおよそ1時間から2時間程度です。
手術後の経過と注意点
手術直後は、麻酔が切れると少し痛みを感じることがありますが、鎮痛薬でコントロールできます。手術した腕は、腫れや内出血を最小限にするために少し高くして安静に保ち、出血や感染の兆候がないか、スタッフが注意深く観察します。
手術当日から、吻合部を流れる血液の音(シャント音)や振動(スリル)を自分で確認する練習を始めることが大切です。
- 手術した腕を心臓より高く保つ
- 痛みがあれば我慢せず伝える
- シャント音・スリルの確認を始める
シャントが使えるようになるまで(成熟期間)
手術が終わっても、すぐにシャントを使った透析は開始できません。動脈血が流れ込んだ静脈が、透析の穿刺に耐えられるくらい十分に太く丈夫になるまでには時間が必要で、この期間が「成熟期間」です。
自己血管内シャント(AVF)の場合、成熟には通常4週間から8週間、人によっては数ヶ月かかることもあるので、シャント血管を発達させるために、ゴムボールを握るなどの簡単な運動を指示されることもあります。
定期的に外来でシャントの状態をチェックし、医師が「成熟した」と判断すれば、いよいよシャントを使った透析が始まります。
日常生活におけるシャント管理の重要性
作成したバスキュラーアクセスを一日でも長く、良好な状態で使い続けるためには、日々の自己管理が何よりも重要です。シャントは透析治療の生命線。ご自身の体の一部として、毎日大切にケアしていきましょう。
毎日の観察(見て、聴いて、触って)
シャント管理の基本は、毎日シャントの状態を五感で確認することで、特に「視診(目で見る)」「聴診(耳で聴く)」「触診(手で触る)」が重要です。朝起きた時や夜寝る前など、時間を決めて習慣にすると良いでしょう。
いつもと違う変化にいち早く気づくことが、大きなトラブルを防ぐことにつながります。
シャント観察のポイント
観察方法 | チェック項目 | 異常のサイン |
---|---|---|
見て(視診) | 皮膚の赤み、腫れ、傷、出血、こぶの大きさ | 赤みや腫れは感染の疑い。こぶが急に大きくなる場合は注意。 |
聴いて(聴診) | シャント音(ザーザー、ゴーゴーという連続音) | 音が弱くなる、途切れる、ヒューヒューという高い音に変わるのは狭窄のサイン。 |
触って(触診) | シャントの振動(スリル)、拍動の強さ、皮膚の熱感 | 振動が弱くなる、または脈打つような拍動(ドクドク)だけになるのは異常。 |
清潔を保つことの重要性
バスキュラーアクセス、特にシャント部分の皮膚を清潔に保つことは、感染予防の観点から非常に大切で、透析のない日も、シャントのある腕を石鹸で優しく洗い、よく乾かしてください。特に穿刺部位の周辺は念入りに洗いましょう。
ただし、ゴシゴシと強くこすって皮膚を傷つけないように注意が必要です。入浴は血行を良くし、シャントの発達にも良い影響を与えます。
シャント腕で避けるべきこと
シャントのある腕は、圧迫や負担を避けることが基本です。無意識のうちにシャントを圧迫してしまう行動に注意してください。
- シャントのある腕で重い物を持たない
- 腕時計やきつい袖の服で腕を締め付けない
- シャントのある腕を枕にして寝ない
- 腕枕をしない
これらの行動は、シャントの血流を妨げ、閉塞の原因になる可能性があります。日常生活の中で、常にシャントのある腕を意識することが大切です。
血圧測定や採血の注意点
原則として、シャントのある腕での血圧測定や、透析目的以外での採血・点滴は行いません。血圧計のカフで腕を強く圧迫すると、シャントの血流が止まってしまい、閉塞を起こす危険性があるためです。
他の医療機関を受診する際や、救急時には、必ずシャントがあることを医療スタッフに伝えてください。「シャントカード」などを携帯するのも良い方法です。
バスキュラーアクセスに起こりうるトラブルと対処法
どんなに注意深く管理していても、長年シャントを使用していると、さまざまなトラブルが起こる可能性があります。大切なのは、異常のサインを見逃さず、早期に発見し、適切に対処することです。
狭窄と閉塞
最も頻度の高いトラブルが、シャント血管が狭くなる「狭窄」と、完全に詰まってしまう「閉塞」です。
主な原因と兆候
狭窄の主な原因は、血管の内側の壁が厚くなること(内膜肥厚)です。これは、シャントの高い血流による刺激や、繰り返しの穿刺による血管へのダメージなどが関係していると考えられています。
狭窄が進行すると、シャント音やスリルが弱くなったり、音が甲高くなったりします。また、透析時に十分な血液が取れなくなったり、止血に時間がかかったり、穿刺部が腫れやすくなったりといったサインが現れます。
サインを放置すると、やがて閉塞に至り、シャントが使えなくなってしまうので、注意が必要です。
早期発見のためのチェック項目
チェック項目 | 正常な状態 | 異常のサイン(狭窄の疑い) |
---|---|---|
シャント音 | ザーザー、ゴーゴーという低い連続音 | 音が弱くなる、途切れる、ヒューヒューという高い音 |
穿刺時の状態 | スムーズに穿刺できる | 針が入りにくい、痛みがある |
透析後の止血 | 適切な時間で止まる | 止血に30分以上かかる、圧迫を緩めるとすぐ出血する |
感染
シャントの感染は、時に重篤な状態につながる危険なトラブルです。特に人工血管(AVG)は、自己血管(AVF)に比べて感染のリスクが高いとされています。
感染のサイン
感染を起こすと、シャント部分の皮膚が赤く腫れたり、熱を持ったり、痛みが出たりし、膿が出ることもあります。また、局所的な症状だけでなく、発熱や悪寒、倦怠感といった全身症状が現れることもあります。
このようなサインに気づいたら、すぐに医療機関に連絡してください。放置すると細菌が血液に乗って全身に広がり、敗血症などの命に関わる状態になる可能性があります。
感染予防のためにできること
日々の清潔保持が最も重要で、透析前の穿刺部の洗浄・消毒はもちろん、日常生活でもシャント部分を清潔に保つことを心がけましょう。皮膚をかきむしって傷つけないこと、湿疹などがあれば早めに治療することも大切です。
静脈高血圧症
シャントの吻合部よりも心臓側の静脈に狭窄があると、血液がスムーズに心臓へ戻れなくなり、うっ滞してしまいます。うっ滞により、シャントのある腕や手の静脈圧が高くなる状態が静脈高血圧症です。
症状としては、腕全体が腫れる、皮膚の色が紫色っぽくなる、痛みを感じる、皮膚に潰瘍ができる、などがあります。
スティール症候群
シャントに流れる血液量が多すぎることによって、シャントの吻合部よりも先の指先への血流が不足してしまう状態で、指先が白っぽく冷たくなったり、しびれたり、痛みを感じたりします。特に透析中に症状が強くなるのが特徴です。
症状が重い場合は、シャントの血流を減らす手術が必要になることがあります。
トラブルを防ぐための定期的な検査と治療(PTA)
日々の自己管理に加えて定期的に専門的な検査を受けることで、シャントトラブルの兆候を早期に発見し、大きな問題になる前に対処することができ、代表的な治療法がPTAです。
定期検査の目的と内容
シャントの定期検査は、自覚症状がない段階で狭窄などの異常を見つけ出し、シャントの寿命を延ばすことが目的です。検査は、シャントの状態に応じて、1ヶ月から数ヶ月に一度の頻度で行います。
視診や触診、聴診といった理学所見に加え、専用の機器を用いた客観的な評価をします。
主な定期検査の種類
検査方法 | 内容 | 分かること |
---|---|---|
超音波(エコー)検査 | 超音波を当てて血管の内部を画像で観察する。 | 血管の直径、壁の厚さ、狭窄の有無や程度、血流速度などを詳細に評価できる。 |
シャント血流量測定 | 透析回路に測定器を取り付け、シャントを流れる血液量を測定する。 | シャント全体の機能が維持されているか、客観的な数値で評価できる。 |
経皮的血管形成術(PTA)とは
PTA(Percutaneous Transluminal Angioplasty)は、バスキュラーアクセスインターベンション(VAIVT)とも呼ばれ、シャントの狭窄に対する標準的な治療法です。
皮膚を切開する外科手術ではなく、カテーテルを用いて体の中から血管を広げる治療で、体への負担が少なく多くは日帰りで行うことができます。
PTAの具体的な方法
局所麻酔の後、シャント血管に細い針を刺し、そこからシースという管を挿入し、シースを通して、先端に風船(バルーン)の付いたカテーテルを狭窄部位まで進めます。
レントゲンで位置を確認しながら、バルーンを膨らませて狭くなった血管を内側から押し広げます。血管が十分に広がったことを確認したら、バルーンを抜き、シースを抜去して終了です。
必要に応じて、広がった血管が再び狭くなるのを防ぐために、ステントという金属の網状の筒を留置することもあります。
PTA後の管理と注意点
PTAはシャントを長持ちさせるための有効な治療ですが、根本的な原因を取り除くわけではなく、時間が経つと再び同じ場所が狭くなる(再狭窄)可能性があり、治療後も日々のシャント管理と定期的な検査を続けることが重要になります。
PTAによってシャント音やスリルがどのように変化したかを確認し、状態を覚えておくことも大切です。
よくある質問
最後に、バスキュラーアクセスやシャント管理に関して、患者さんからよく寄せられる質問と回答をいくつか紹介します。
- シャント作成後、痛みは続きますか?
-
手術後の痛みは、通常1週間程度で徐々に和らいでいき、処方される鎮痛薬で十分にコントロールできる場合がほとんどです。
痛みが長引いたり、急に強くなったり、赤みや熱感を伴ったりする場合は、感染などの可能性も考えられるため、我慢せずにすぐに病院に相談してください。
- シャントの音や振動(スリル)が弱くなった気がします。どうすればよいですか?
-
シャントの音やスリルの変化は、狭窄の初期サインである可能性があります。いつもと違うと感じたら、自己判断せずに、かかりつけの透析施設に速やかに連絡してください。
特に、音が急に聞こえなくなったり、スリルが全く感じられなくなったりした場合は、閉塞の可能性があり、緊急の対応が必要です。早期であれば、血栓を溶かす治療などでシャントを再開通できる場合もあります。
- シャントがある腕で運動はできますか?
-
シャントの成熟を促すためのゴムボールを握る運動などは推奨されます。日常生活における軽い運動や、腕を大きく振るウォーキングなどは問題ありません。
ただし、シャントのある腕に極端な負担がかかる運動(重いダンベルを持つ筋力トレーニング、テニス、格闘技など)や、腕を強く圧迫するような運動は避けましょう。
- 人工血管と自己血管、どちらが良いのですか?
-
一概にどちらが良いとはいえません。感染や閉塞のリスクが低く、長持ちしやすいという点では、自己血管内シャント(AVF)が第一選択とされています。
しかし、患者さんの血管の状態によっては、AVFの作成が困難であったり、作成しても十分に発達しなかったりすることもあります。
その場合は、比較的短期間で使用でき、確実に透析経路を確保できる人工血管内シャント(AVG)が優れた選択肢です。
以上
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