シャントPTA(血管内治療)とは?透析アクセストラブルの治療法

シャントPTA(血管内治療)とは?透析アクセストラブルの治療法

血液透析治療を受けている方にとって、腕にあるシャントは治療を続けるための大切な血管ですが、長期間使用するうちに、血流の圧や繰り返される穿刺の影響で狭くなったり詰まったりといったトラブルが起こることがあります。

このようなシャントのトラブルに対して、身体への負担が少なく、日帰りで行うことも可能な低侵襲治療が、シャントPTA(経皮的血管形成術)です。

この記事では、透析治療におけるシャントの基本的な役割から、シャントに起こるトラブルの原因、そしてシャントPTAがどのような治療法であるのか、解説します。

目次

透析治療におけるシャントの重要性

血液透析を安全かつ効率的に行うためには、シャントが正常に機能していることが大前提で、シャントは単なる血管ではなく、高度な医療を支えるための重要なインフラです。

血液透析とバスキュラーアクセス

血液透析は、腎臓の機能が低下した際に、体内に溜まった老廃物や余分な水分、電解質などを血液中から取り除く代替治療法です。

治療では、毎分約200mlという大量の血液を体外の循環回路に取り出し、ダイアライザー(人工腎臓)できれいにしてから再び体内に戻す必要があります。

しかし、私たちの体表にある通常の静脈は、壁が薄く、これほど多くの血液を安定して確保するには血流量が全く足りず、動脈は血流量が豊富ですが、身体の深い部分にあり、繰り返し穿刺するには適していません。

そこで、手術によって手首などの末梢の動脈と静脈をつなぎ合わせ、動脈の豊富な血流を直接静脈に流し込むことで、穿刺しやすく十分な血流量が確保できる太い血管を作ります。

透析治療のために作られた血液の出入り口をバスキュラーアクセスと呼び、代表的なものが自己血管内シャントです。

シャントが透析の生命線といわれる理由

シャントは一度作れば永久に問題なく使えるわけではありません。日々の穿刺による物理的な刺激や、本来とは異なる強い血流が流れ込むことによる血管への負担など、さまざまな要因で時間とともに状態が悪化することがあります。

もしシャントが狭窄や閉塞を起こして使えなくなると、透析治療そのものが遂行できなくなり、生命維持に直接的な影響を及ぼします。

このことから、シャントは透析患者さんにとって単なる治療の道具ではなく、文字通り生命線と呼ばれているのです。

シャントの状態を良好に保ち、一日でも長く使い続けることが、安定した透析治療を継続する上で非常に大事で、日々の自己管理と、トラブルの兆候を早期に発見するための定期的な観察が何よりも重要になります。

シャントの主な種類と特徴

種類作成方法特徴
自己血管内シャント自身の動脈と静脈を手術で吻合する最も一般的で第一選択。長期的な開存が期待でき感染にも強いが、血管の状態によっては作成が難しい。
人工血管内シャントePTFEなどの人工の管で動脈と静脈をつなぐ自己血管が細くシャント作成が困難な場合に用いる。比較的作成しやすいが、感染や閉塞のリスクが自己血管より高い。
長期留置カテーテル首や胸、足の付け根の中心静脈にカテーテルを留置するシャントが使用できない場合の緊急的・一時的な手段。カテーテル関連血流感染のリスクが非常に高い。

長期的にシャントを維持するために

シャントを長期間にわたって良好な状態で維持するためには、透析施設の医師や看護師、臨床工学技士による専門的な管理だけでなく、患者さん自身の自己管理が大きな役割を果たします。

毎日のシャント音の確認、シャント肢の観察、血圧測定や採血をシャントのない腕で行うこと、シャントの腕に重いものを持ったり、腕枕をしたりして圧迫しないことなど、日常生活の中での細やかな注意点を守ることが大切です。

透析シャントに起こる主なトラブル

毎日大切に管理していても、長年の使用によりシャントにはさまざまなトラブルが起こる可能性があります。

シャント狭窄とは

シャント狭窄は、シャント血管の内側が何らかの原因で厚くなり、血液の通り道(内腔)が狭くなる状態で、シャントトラブルの中で最も頻度が高く、閉塞の前段階ともいえる状態です。

血管の壁は、内側から内膜、中膜、外膜の三層構造になっていますが、シャント血管では動脈から流れてくる本来よりも圧力と流量の高い血流が静脈の壁に当たり続けるため、血管の内膜が慢性的な刺激を受けて厚くなることがあります(血管内膜肥厚)。

内膜肥厚が進行すると、血管の内腔が徐々に狭くなり、透析に必要な血流量が十分に確保できなくなったり、透析後の止血に時間がかかったりといった問題が生じます。

シャント閉塞とは

シャント閉塞は、狭窄がさらに進行して血流が著しく悪化したり、狭窄した部分に血栓(血の塊)が形成されたりして、シャント血管が完全に詰まってしまう状態です。

閉塞すると、シャントを流れる血液が完全に止まってしまうため、それまで感じていたシャント音やスリル(血管の振動)が消失します。シャントが閉塞した場合、血管は透析治療に使用できなくなるため、緊急の対応が必要です。

閉塞してから時間が経過すればするほど、血栓が器質化(固まって血管壁に癒着)してしまい、治療が困難になることがあるため、いかに早く異変に気づき、速やかに医療機関を受診するかがその後の治療の成否を分けます。

シャントトラブルの主なサイン

観察項目正常な状態トラブルのサイン(狭窄・閉塞の疑い)
シャント音(聴診)ザーザー、ゴーゴーという連続性のある低い柔らかい音ヒューヒュー、ビュービューという笛のような短く高い音(短縮性高調音)。音が部分的に弱くなる、または全く聞こえない。
スリル(触診)指で触れると柔らかく、連続的な血液の振動を感じる振動が弱くなる、または感じられない。血管が硬く触れる。脈を打つような拍動(ドキドキ感)に変わる。
シャント肢の状態腫れや痛み、皮膚の色の変化はない腕全体がむくむ・腫れる、シャント血管に沿って痛みがある、皮膚が赤くなる、穿刺部位がなかなか止血しない。

自宅でできるシャントトラブルのチェック方法

シャントトラブルを早期に発見するためには、毎日ご自身でシャントの状態を確認する習慣が大切で、シャント部分に耳を直接当てて音を聞く、あるいは指の腹でそっと触れてスリルを感じるという二つの方法が基本です。

朝起きた時や夜寝る前など、毎日同じ時間、同じ体勢で静かな環境で行うことで、普段とのわずかな違いにも気づきやすくなります。

いつもより音が弱かったり、音質が変わったり、スリルが弱くなったり、拍動性に感じたりした場合は、シャントに何らかの問題が起きている可能性がありますので、すぐに透析施設のスタッフに相談してください。

トラブルが起こる原因

シャントトラブルの最も一般的な原因は、血管内膜肥厚で、吻合部(動脈と静脈のつなぎ目)、穿刺部位、静脈が合流する部分や弁がある部分に特に起こりやすいです。

その他にも、繰り返される穿刺による血管壁への物理的なダメージ、透析中の過度な除水や血圧低下によるシャント血流の悪化、糖尿病や動脈硬化といった全身性の疾患による血管自体の脆弱化、外部からの圧迫などが原因となることがあります。

シャントトラブルを起こす要因

  • 繰り返しの穿刺による血管への物理的刺激と修復反応
  • 吻合部や蛇行部での血流の乱れによる血管内膜への負担
  • 透析中の過度な除水や急激な血圧低下
  • 糖尿病や脂質異常症、高血圧、喫煙などによる動脈硬化
  • 外部からの圧迫(腕時計、重い荷物、睡眠時の体勢など)

シャントPTA(血管内治療)の概要

シャントに狭窄や閉塞といったトラブルが生じた際、治療法として現在主流となっているのが、身体への負担が少ない血管内治療、シャントPTAで、どのような場合に適応となるのか、従来の外科手術との違いについて解説していきます。

PTAとは経皮的血管形成術のこと

PTAは、Percutaneous Transluminal Angioplastyの略語で、日本語では経皮的血管形成術といいます。

これは、皮膚の上からカテーテルという直径2mm程度の細い管を血管内に挿入し、狭くなった血管の内部から風船(バルーン)を使って物理的に押し広げる治療法です。

メスで皮膚を大きく切開する必要がないため、血管内治療(Endovascular Therapy: EVT)とも呼ばれます。

X線透視装置を用いて、血管の様子をリアルタイムに確認しながら、狭窄部位を正確に特定し、バルーンカテーテルをその部分まで進めて拡張します。

治療の対象となる症状

シャントPTAの主な対象は、シャント血管の狭窄によって起こるさまざまな症状です。

透析時に十分な血流量(分時200ml以上)が得られない、穿刺が困難になる、透析後の止血に15分以上かかる、シャント肢が腫れる、シャント音が変化するといった症状がある場合に、検査で狭窄が確認されれば治療を検討します。

また、シャントが完全に閉塞してしまった場合でも、発症から24~48時間以内など、比較的早期であれば、血栓を溶解したり吸引したりした後に、原因となっている狭窄部位をPTAで治療することが可能です。

定期的なシャントエコー検査などで、自覚症状が出る前に狭窄が見つかり、予防的に治療を行うこともあります。

外科手術(シャント再建術)との違い

シャントトラブルの治療法には、PTAの他に外科的な手術(シャント再建術や新規シャント造設術)があります。

外科手術は、狭窄したり閉塞したりした血管の部分を外科的に切除し、血管をつなぎ直したり、人工血管でバイパスしたり、あるいは全く新たな場所にシャントを作り直したりする方法です。

PTAが血管の内側からカテーテルで治療するのに対し、外科手術は血管の外側から直接アプローチする点で大きく異なります。

どちらの治療法を選択するかは、トラブルの場所や長さ、範囲、原因、そして患者さんご自身の血管の状態などを総合的に判断して決定します。

シャントPTAと外科手術(シャント再建術)の比較

項目シャントPTA(血管内治療)外科手術(シャント再建術)
身体への負担少ない(局所麻酔、数ミリの穿刺創のみ)大きい(皮膚切開、血管の剥離・縫合が必要)
治療時間短い(通常30分~1時間程度)比較的長い(1~2時間以上かかることも)
入院の必要性多くは外来・日帰りで可能数日間の入院が必要な場合が多い
シャントの使用治療後すぐに使用できることがほとんど使用開始まで安静期間が必要な場合がある

PTA治療の利点と注意点

PTA治療の最大の利点は、身体への負担が極めて少なく、繰り返し治療が可能である点です。

皮膚を切開しないため、痛みや出血が少なく、回復も早く、また、自身のシャント血管を温存しながら治療できるため、自己血管を可能な限り長く使い続けることにつながります。

これは将来のバスキュラーアクセス選択肢を確保する上でも重要です。

注意点としては、治療した部位が再び狭くなること(再狭窄)点で、PTAは狭窄の原因である内膜肥厚を根本的に取り除くわけではないため、一定の割合で再狭窄が起こり、再度治療が必要になることがあります。

シャントPTA治療の流れ

シャントPTAを受けることが決まった場合、どのような検査を行い、治療当日はどのように進められるのでしょうか。治療前から治療後に至るまでの流れを、各ステップに分けてより詳しく見ていきましょう。

治療前の準備と検査

シャントPTAを行う前には、まず超音波(エコー)検査や血管造影検査を行い、シャント血管のどの部分が、どの程度狭くなっているのかを正確に評価することが重要です。

超音波検査は身体への負担がなく、血流の速さや量、血管の壁の厚さなどをリアルタイムで詳しく調べることができます。

血管造影検査は、穿刺した部位からカテーテルを挿入し、造影剤を注入しながらX線で連続撮影することで、血管全体の形態を詳細に描き出す検査です。

検査結果をもとに、病変の特性を把握し、最適な治療方針(バルーンのサイズ選択など)を決定します。

治療前には、食事や普段服用しているお薬(特に血液をサラサラにする薬)に関する指示がある場合がありますので、医師や看護師の説明をよく確認してください。

治療当日の手順

治療は、多くの場合、X線透視装置を備えたアンギオ室やカテーテル室と呼ばれる専用の部屋で、清潔操作のもと行い、治療の流れは、大きく分けて穿刺、シースの挿入、バルーンカテーテルによる拡張という段階で進みます。

穿刺とシースの挿入

まず、治療を行う腕を広く消毒し、滅菌された清潔な布をかけ、超音波で血管の位置や深さを確認しながら、穿刺部位に局所麻酔の注射をします。

麻酔が十分に効いた後、シャント血管に針を刺し(穿刺)、そこからシースと呼ばれるカテーテルを挿入するための入り口となる短い管を留置し、シースを通して、ガイドワイヤーや各種カテーテルを安全に血管内へ挿入していきます。

バルーンカテーテルによる拡張

次に、ガイドワイヤーという髪の毛ほどの非常に細い針金を、X線透視画像を見ながら慎重に操作し、狭窄部位を通過させて血管の奥まで進め、ガイドワイヤーは、カテーテルが通るためのレールのような役割を果たします。

このレールに沿わせて、先端に折りたたまれた風船(バルーン)がついたバルーンカテーテルを狭窄部位まで運びます。

X線透視で正確な位置を確認した後、インデフレーターという加圧装置を用いて、バルーンをゆっくりと拡張させ、血管の内側から狭くなった部分を押し広げます。

通常、30秒から1分程度の拡張と収縮を数回繰り返し、血管が十分に広がったことを血管造影で確認し、最後に、すべてのカテーテルを抜き、穿刺部位を10~15分程度しっかりと圧迫止血して治療は終了です。

シャントPTAの治療手順

手順内容ポイント
1. 準備穿刺部位の消毒、局所麻酔治療中の痛みを最小限にするため、十分な麻酔を行う。
2. 穿刺・シース留置超音波ガイド下にシャント血管に針を刺し、シースを留置する神経損傷などを避け、安全・正確に血管への入り口を確保する。
3. 血管造影シースから造影剤を注入し、狭窄部位を詳細に評価する治療計画の最終確認と、使用するバルーンのサイズを決定する。
4. バルーン拡張狭窄部位でバルーンを拡張させ、物理的に血管を広げる血管の状態に合わせ、適切なサイズ・圧力で、血管を損傷しないよう慎重に拡張する。
5. 終了・止血カテーテルを抜去し、用手圧迫または止血デバイスで穿刺部を止血する内出血や血腫(血の塊)を防ぐため、確実な止血が重要。

治療にかかる時間と身体への負担

シャントPTAの治療自体にかかる時間は、通常は30分から1時間程度で、治療前後の準備や止血の時間を含めても、全体で2時間程度で終了することが多いです。

局所麻酔で行うため、意識ははっきりしており、治療中に気分が悪いなどの症状があれば、すぐに医師やスタッフと会話することも可能です。

身体への負担が少ないため、ご高齢の方や心臓などに他の疾患をお持ちの方でも安全に治療を受けることができます。

治療後の注意点と生活

治療終了後は、穿刺部位からの再出血や内出血を防ぐため、医療機関の指示に従い、一定時間安静にする必要があります。

日帰り治療の場合でも、治療当日はシャントのある腕に負担をかけないように注意し、長時間の入浴や激しい運動は控えるなどの制限があります。翌日からは、ほぼ普段通りの生活に戻ることができます。

治療後のシャントの状態を確認するため、再狭窄の兆候を早期に発見するため、定期的な診察や超音波検査を受けることが大切です。

シャントPTA治療のリスクと合併症

シャントPTAは確立された、比較的安全性の高い治療法ですが、医療行為である以上、リスクや合併症の可能性が全くないわけではありません。

起こりうる合併症の種類

シャントPTAに伴う合併症の頻度は全体として高くありませんが、いくつかの可能性があり、最も一般的なものは、穿刺部位の皮下出血や血腫(血の塊)です。これは適切な圧迫止血でほとんどが予防できます。

その他、頻度は低いですが、治療中に血管が傷ついたり、裂けたりすること(血管損傷・血管解離・血管破裂)、造影剤によるアレルギー反応、治療した部位の血管が急に血栓で詰まってしまう急性閉塞などが報告されています。

シャントPTAの主な合併症

  • 穿刺部の皮下出血、血腫、仮性動脈瘤
  • 血管損傷、血管解離、血管破裂
  • 造影剤によるアレルギー反応、腎機能への影響
  • 急性血栓性閉塞
  • 穿刺部からの感染

血管損傷や血管破裂

バルーンで血管を拡張する際に、血管壁が石灰化などで非常に硬くなっていたり、脆弱になっていたりすると、血管が内側から裂けたり(解離)、まれに破れたり(破裂)することがあり、最も注意が必要な合併症の一つです。

多くの場合は、治療に用いているバルーンで内側から長時間圧迫止血したり、カバードステントという膜付きのステントを血管内に留置したりすることで対応できます。

再狭窄(治療部位が再び狭くなること)

再狭窄は合併症とは少し異なりますが、PTA治療後の最も大きな課題として挙げられ、バルーンで血管を広げるという行為は、血管の内膜にとっては一種の侵襲(ダメージ)です。

この侵襲に対する生体の創傷治癒反応として、血管の内膜が過剰に増殖し、時間の経過とともに再び血管が狭くなってしまうこと(再狭窄)があります。

再狭窄の時期や頻度には個人差がありますが、定期的にシャントの状態をチェックし、必要であれば再度PTAを行うことで、シャントの機能を長期的に維持していきます。

再狭窄のリスク因子

分類具体的な因子
患者側の因子糖尿病、脂質異常症、喫煙、不適切なシャント自己管理、リンやカルシウムの管理不良
血管・病変側の因子血管径が細い、石灰化が強い、吻合部の狭窄、長範囲の狭窄、人工血管
手技側の因子不適切なバルーンサイズの選択、過度な拡張による血管壁への深いダメージ

合併症を防ぐための取り組み

安全に治療を行うために、医療機関ではさまざまな取り組みを行っています。治療前には、超音波検査などで血管の状態を詳細に評価し、治療計画を立てます。

治療中は、経験豊富な医師が、血管を傷つけないよう慎重にカテーテル操作を行い、必要最低限の造影剤使用を心がけ、万が一合併症が発生した場合でも、迅速かつ的確に対応できる体制(緊急手術への移行など)を整えています。

患者さん自身にできることは、治療後の穿刺部の管理や、シャント肢の安静といった指示をしっかりと守ることです。

シャントPTA後の自己管理とシャントの長持ち

PTA治療によってシャントの流れが一時的に改善しても、根本的な解決ではなくメンテナンスの始まりです。治療後の良好な状態をできるだけ長く維持し、大切なシャントを長持ちさせるためには、日々の自己管理がこれまで以上に重要になります。

日常生活で気をつけること

治療後も、基本的なシャント管理の注意点は変わりません。

シャントのある腕で重いものを持たない、腕時計や血圧計のマンシェット、きつい袖の衣服で腕を締め付けない、腕枕をしない、シャント肢での血圧測定や採血を避けるといった点を継続して守りましょう。

また、シャント肢の皮膚を清潔に保ち、掻き傷などを作らないようにして感染予防に努めることも大切です。穿刺部位の皮膚の状態にも気を配り、かゆみや湿疹、硬結などがあれば早めに透析施設のスタッフに相談してください。

シャントを長持ちさせるためのポイント

項目具体的な注意点
圧迫の回避重い荷物、腕時計、きつい衣類、腕枕などを絶対に避ける。
血圧管理シャント肢での血圧測定を避ける。透析中の過度な血圧低下を防ぐ。
清潔保持シャント肢を毎日観察し、清潔に保つ。傷や湿疹、感染兆候に注意する。
穿刺管理透析施設のスタッフと協力し、穿刺部位を毎回少しずつずらす(ローテーション穿刺)。

シャント音の確認とシャント肢の観察

治療によってシャント音は力強く、ザーザーという柔らかい連続音に変化し、良い状態の音やスリルを、ご自身の耳と指で毎日確認し、普段の状態として覚えておくことが大事で、その状態に変化がないかを日々チェックします。

音やスリルが弱まったり、ヒューヒューといった高い音に変わったりした場合は、再狭窄の初期サインかもしれません。

また、シャント肢の腫れやむくみ、痛み、赤み、熱感といった炎症の兆候がないかを目で見て、手で触れて確認することも重要です。変化にいち早く気づくことが、シャント閉塞という最悪の事態を防ぎ、次の治療へスムーズにつながります。

定期的なシャント管理の重要性

自覚症状がなくても、シャントの状態は少しずつ変化している可能性があるため、透析施設で定期的に超音波検査などを受け、血流量や血管の内径などを客観的に評価してもらうこと(サーベイランス)が非常に重要です。

検査によって狭窄の兆候を早期に発見できれば、シャント機能が著しく低下する前に、計画的にPTA治療を行うことができ、シャント閉塞による緊急入院やカテーテル治療を回避し、常に安定した透析治療を継続することにつながります。

適切な水分管理と食事

シャントの状態は、全身の血管の状態とも密接に関連していて、透析間の体重増加が多いと、一回の透析で多くの水分を除去する必要があり、循環血液量が減少して血圧が低下しやすくなります。

透析中の急激な血圧低下はシャントの血流を悪化させ、閉塞の引き金となるリスクを高めます。塩分や水分を適切に管理し、ドライウェイトからの体重増加をコントロールすることは、シャントを守る上でも非常に大切です。

また、バランスの取れた食事を心がけ、糖尿病や脂質異常症、リン・カルシウムの管理を良好に保つことも、血管の動脈硬化を防ぎ、シャントを良い状態で保つために役立ちます。

食事・水分管理のポイント

  • 塩分を控え、適切な飲水量を守り、体重増加をコントロールする
  • 透析間の体重増加をドライウェイトの3~5%以内に収める
  • カリウムやリンの摂取制限を守る
  • 十分なエネルギーと適切なたんぱく質を摂取し、栄養状態を良好に保つ

シャントPTA(血管内治療)に関するよくある質問

治療中に痛みはありますか。

治療を始める前に、針を刺す場所に局所麻酔薬の注射をしますので、治療中に強い痛みを感じることはほとんどなく、麻酔の注射の際にチクッとした痛みがある程度です。

治療中に、バルーンで血管を広げる際に、腕が内側から押されるような、あるいは少し張るような独特の感覚を覚えることがありますが、通常は我慢できる範囲です。

もし痛みが強い場合は、遠慮なく医師やスタッフにすぐに伝えてください。

何度も治療を受けることはできますか。

シャントPTAは身体への負担が少ないため、必要に応じて繰り返し治療を受けることが可能です。治療した部位が再び狭くなること(再狭窄)は、シャントの宿命ともいえる側面があり、一定の確率で起こり得ます。

しかし、その都度PTAでメンテナンスを行うことで、ご自身のシャントをできるだけ長く使い続けることを目指します。

治療後、すぐに透析はできますか。

多くの場合、PTA治療の直後からシャントは使用可能で、当日の午後にそのシャントを使って透析を行うこともできます。

ただし、穿刺部位の状態や治療内容、止血の状況によっては、安全のために少し時間を空ける場合もあります。

治療後のシャントの使用については、合併症のリスクなども考慮し、担当の医師が最終的に判断しますので、その指示に従ってください。

シャントPTAができない場合はありますか。

狭窄や閉塞の範囲が非常に長い場合や、血管の石灰化が極度に強くバルーンで拡張できない場合、腕の付け根や胸の奥の太い静脈(中心静脈)に問題がある場合など、PTAによる治療が難しかったり効果が期待できないケースもあります。

また、造影剤に重篤なアレルギーがある方や、全身の状態が極めて不良な方も適応とならないことがあります。そのような場合は、外科的なシャント再建術や新しいシャントの造設など、他の治療法を総合的に検討します。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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