腎血流量が低下するとどうなる?腎機能への影響と原因

腎血流量が低下するとどうなる?腎機能への影響と原因

腎臓は体を健康に保つために休むことなく働き続ける重要な臓器で、その働きを支えているのが、心臓から送り出される豊富な血液、つまり腎血流です。

腎血流量が何らかの理由で低下すると、腎臓の機能に深刻な影響が及び、体全体の不調につながることがありますが、初期の段階では自覚症状がほとんどないため、気づかないうちに進行しているケースも少なくありません。

この記事では、腎血流量がなぜ重要なのか、低下すると体にどのような変化が起こるのか、原因や腎機能を守るためのポイントを、分かりやすく解説していきます。

目次

腎臓と血流の基本的な関係

生命を維持するための血液浄化システムとして、腎臓は大量の血液を必要とします。腎臓と血流の密接な関係を理解することが、腎臓の健康を守る第一歩です。

腎臓が担う生命維持の役割

腎臓は単に尿を作るだけの臓器ではありません。体内の環境を一定に保つための、非常に多機能な働きをしていて、主な働きは、血液をろ過して体内で不要になった老廃物や余分な水分を尿として排出することです。

ろ過機能は、私たちが生きていく上で発生する毒素を体外に排出し、血液をきれいに保つために欠かせません。もし腎臓の機能が停止すれば、老廃物が体に溜まり、命にかかわる状態になります。

さらに、体内の水分量やナトリウム、カリウムといった電解質のバランスを精密に調整する役割も担います。

血圧をコントロールするホルモンや、赤血球を作る指令を出すホルモンを分泌したり、ビタミンDを活性化して骨を丈夫に保つ働きもあり、影響は全身に及びます。

腎臓の主な機能

機能内容体への影響
老廃物の排出血液中の不要物をこし取り尿として捨てる体内に毒素が溜まるのを防ぐ
水分・電解質の調整体液の量やイオンバランスを一定に保つむくみや脱水を防ぎ、心臓や筋肉の働きを正常に保つ
ホルモンの分泌血圧調整や造血に関するホルモンを産生する高血圧の予防や貧血の改善に関わる

なぜ腎臓に大量の血液が流れ込むのか

腎臓の重さは、左右合わせても体重の約0.5%に過ぎませんが、心臓が送り出す血液の約20%から25%が腎臓に流れ込んでいて、他のどの臓器と比べても非常に多い量です。

腎臓の主な仕事である血液のろ過にあり、糸球体と呼ばれる毛細血管の塊が、左右合わせて約200万個も存在します。糸球体で常に血液をろ過し続けるためには、絶えず大量の血液を供給する必要があるのです。

1日に腎臓を通過する血液の量は約1,500リットルにもなり、膨大な量の血液を処理することで、私たちの体はきれいに保たれています。

腎血流量とは何か

腎血流量とは、単位時間あたりに腎臓に流れ込む血液の量を示す指標です。

血流量が十分に保たれていることが、腎臓が正常に機能するための絶対条件で、腎血流量が低下すると、糸球体でのろ過が十分に行われなくなり、老廃物の排出能力が落ちてしまいます。

また、腎臓の細胞そのものも、血液から酸素や栄養を受け取って活動しているため、血流が不足すると細胞がダメージを受け、腎機能のさらなる悪化を招く可能性があります。

腎血流量が低下する主な原因

腎臓への血流がなぜ減少するのでしょうか。原因は一つではなく、体の様々な状態が複雑に関係しています。脱水のような身近な問題から、心臓や血管の病気、さらには普段服用している薬の影響まで、多岐にわたる要因が考えられます。

全身の血圧低下や脱水

腎血流量に直接的な影響を与えるのが、体全体の血液循環の状態です。出血や激しい下痢、嘔吐などによって体内の水分量が急激に減少する脱水状態になると、全身を巡る血液の量そのものが減ってしまいます。

体は生命維持に重要な脳や心臓への血流を優先的に確保しようとするため、腎臓への血流が犠牲になります。

また、ショック状態などで血圧が極端に低下した場合も同様に、腎臓に十分な血液を送り込むことができなくなり、急性腎障害を引き起こす原因です。

脱水を招く主な要因

要因具体的な状況対策
水分摂取不足高齢、意識障害、つわりなどこまめな水分補給を心がける
水分喪失の増加発熱、激しい運動、下痢、嘔吐失われた水分と電解質を補う
利尿薬の使用高血圧や心不全の治療医師の指示に従い適正量を使用する

腎臓の血管自体の問題

腎臓に血液を送り込むための道である腎動脈や、腎臓内部の細い血管に問題が生じることでも、血流量は低下し。代表的なものが腎動脈の動脈硬化です。

加齢や高血圧、糖尿病、脂質異常症などが原因で血管が硬く、狭くなると、血液がスムーズに流れなくなり、これが腎動脈狭窄症で、高血圧の原因になったり、腎機能を悪化させたりします。

また、血管に炎症が起こる血管炎や、血栓が詰まることで血流が途絶える腎梗塞なども、腎血流量を著しく低下させる深刻な病気です。

  • 動脈硬化
  • 血管炎
  • 血栓・塞栓
  • 大動脈解離

心臓機能の低下

心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を担っていて、ポンプ機能が低下する心不全の状態になると、体全体に十分な血液を送り出せなくなり、当然ながら腎臓への血流量も減少します。

心臓と腎臓は互いに密接に関連しており、一方の機能が低下するともう一方にも悪影響を及ぼす悪循環に陥ることがあり、心腎連関と呼びます。

心不全の患者さんでは、腎機能が悪化しやすく、逆に腎臓病の患者さんでは心臓病を合併しやすいことが知られているため、両方の状態を考慮した総合的な管理が大切です。

薬の副作用

治療のために服用している薬が、意図せず腎血流量を低下させてしまうことがあります。特に注意が必要なのが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれる種類の解熱鎮痛薬です。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、腎臓の血管を広げる物質の働きを妨げる作用があるため、脱水状態や腎機能が低下している人が使用すると、腎血流量が急激に減少し、急性腎障害を起こす危険性があります。

また、一部の降圧薬(ACE阻害薬やARB)も、使い方によっては腎血流量に影響を与えることがあるため、医師の指導のもとで適切に使用することが重要です。自己判断で薬を増減したり、複数の鎮痛薬を併用したりすることは避けてください。

腎血流に影響を与えうる主な薬剤

薬剤の種類主な用途注意点
非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)解熱、鎮痛、抗炎症脱水時や腎機能低下時の使用に注意
ACE阻害薬・ARB高血圧、心不全、蛋白尿腎動脈狭窄がある場合は禁忌
造影剤CT検査、カテーテル検査腎機能に応じて慎重な投与が必要

腎血流量の低下が引き起こす症状

腎臓は沈黙の臓器とも呼ばれ、機能がかなり低下するまで自覚症状が現れにくい特徴がありますが、腎血流量が減少すると、体内では確実に変化が起きています。

初期のわずかなサインを見逃さず、進行した場合の症状を知っておくことが、早期発見と対策につながります。

初期段階で見られるサイン

腎血流量が低下し始め、腎臓のろ過機能が落ちてくると、体は余分な水分や塩分を排出しにくくなり、現れる最も一般的な初期症状がむくみ(浮腫)です。

朝起きた時にまぶたが腫れぼったい、夕方になると靴下の跡が足首にくっきりと残る、といった症状は注意が必要です。また、老廃物が体に溜まり始めることで、なんとなく体がだるい、疲れやすいといった倦怠感を覚えることもあります。

貧血が進むと、めまいや立ちくらみ、動悸が起こることもあります。症状は他の病気でも見られるため、腎臓の問題とは結びつきにくいかもしれませんが、重要なサインである可能性があります。

進行した場合の深刻な症状

腎機能の低下がさらに進むと、よりはっきりとした症状が現れ、尿を作る能力が著しく低下するため、尿の量が極端に少なくなる、あるいは全く出なくなります。

体内に水分が過剰に溜まることで、むくみは全身に広がり、肺に水が溜まる(肺水腫)と、横になると息苦しくなるなどの呼吸困難を起こします。

老廃物(尿毒素)が体内に蓄積すると、吐き気や食欲不振、口の中がアンモニア臭くなる(尿臭)などの消化器症状が出現します。

電解質のバランスが崩れると、不整脈や筋肉のけいれん、意識障害などを起こすこともあり、命に関わる危険な状態に至ることもあるので、注意が必要です。

腎機能低下の進行度と主な症状

進行度主な自覚症状体内で起きていること
初期むくみ、だるさ、貧血水分・塩分の排出能力が低下し始める
中期高血圧、夜間頻尿老廃物の蓄積、ホルモンバランスの乱れ
末期食欲不振、吐き気、息苦しさ、意識障害尿毒症、重篤な電解質異常

自覚症状がない場合の危険性

最も注意すべき点は、腎血流量が多少低下しても、初期には全く自覚症状がないことがほとんどだということです。

腎臓は予備能力が高く、機能が半分程度に落ち込むまで、体はなんとかバランスを保とうとするため、健康診断などで偶然、血液検査や尿検査の異常を指摘されて初めて腎臓の問題に気づくケースが後を絶ちません。

症状がないからといって安心はできません。特に、腎機能低下のリスクが高い糖尿病や高血圧などの持病がある方は、症状がなくても定期的に検査を受け、腎臓の状態をチェックすることが非常に大切です。

腎機能への影響

腎血流量の低下は、単に尿の出が悪くなるというだけではありません。生命維持に欠かせない腎臓の様々な機能に障害をもたらし、全身の健康を脅かします。

老廃物のろ過能力の低下

腎臓の最も中心的な機能は、血液中からクレアチニンや尿素窒素といった老廃物をこし取り、尿として体外に捨てることです。

腎血流量が減少すると、ろ過の働きが直接的に低下し、ろ過しきれなかった老廃物は血液中にどんどん蓄積していき、尿毒症と呼ばれる状態を起こします。

尿毒症は、吐き気、食欲不振、頭痛、皮膚のかゆみなど、多彩な症状の原因となります。進行すると、意識障害やけいれんなど、神経系にも深刻な影響を及ぼすことがあり、この状態を放置すると、生命を維持することが困難になります。

水分と電解質のバランス異常

腎臓は、体内の水分量を一定に保つための司令塔です。体内の水分が多ければ尿を多く作り、少なければ尿を濃縮して水分を保持しますが、腎血流量が低下して腎機能が悪化すると、この精密な調整能力が失われます。

水分をうまく排出できなくなれば、全身のむくみや高血圧、心不全の原因となり、逆に、尿を濃縮する力が弱まると、脱水になりやすくなります。また、ナトリウムやカリウムといった電解質の調整も腎臓の重要な仕事です。

特にカリウムは、血液中の濃度が上がりすぎると、心臓の動きに異常をきたし、致死的な不整脈を引き起こすことがあるため、厳密な管理が必要です。

主な電解質異常と症状

電解質異常主な症状
ナトリウム高値/低値喉の渇き、意識障害、頭痛
カリウム高値筋力低下、不整脈、心停止
カルシウム・リンバランス異常骨がもろくなる、血管の石灰化

ホルモン分泌への影響

腎臓は、体の調整役であるホルモンを分泌する内分泌器官としての一面も持っていて、血圧を上げる作用のあるレニンというホルモンを分泌し、体内の血圧をコントロールしています。

腎血流量が低下すると、腎臓は体全体の血圧が下がったと勘違いし、レニンを過剰に分泌し、腎臓自身が原因で高血圧(腎性高血圧)を起こし、さらに腎臓や心臓に負担をかけるという悪循環に陥ります。

また、赤血球の産生を促すエリスロポエチンというホルモンも腎臓で作られていて、腎機能が低下すると、このホルモンの分泌が減少し、貧血(腎性貧血)になります。腎性貧血は、倦怠感や息切れの原因です。

腎血流量と腎機能の検査方法

目に見えない腎臓の状態を正確に把握するためには、専門的な検査が必要です。主に血液検査、尿検査、画像診断を組み合わせて評価します。

血液検査でわかること

血液検査は、腎機能の状態を知るための最も基本的な検査で、血液中に含まれる特定の物質の濃度を測定することで、腎臓のろ過能力を推定します。代表的な項目は血清クレアチニン値です。

クレアチニンは筋肉で作られる老廃物で、本来であれば腎臓でろ過され尿中に排出されますが、腎機能が低下すると、排出されずに血液中に溜まってくるため、この値が高くなります。また、尿素窒素(BUN)も同様に腎機能の指標となります。

このような値と年齢、性別から算出されるのが推算糸球体ろ過量(eGFR)で、腎臓が1分間にどれくらいの血液をろ過できるかを示した値で、腎機能のステージを判断するための重要な指標です。

値が低いほど、腎機能が低下していることを意味します。

血液検査の主要項目

検査項目基準値の目安数値が異常な場合に考えられること
血清クレアチニン (Cr)男性: ~1.0mg/dL, 女性: ~0.7mg/dL高値の場合、腎機能の低下が疑われる
尿素窒素 (BUN)8~20mg/dL腎機能低下のほか、脱水や消化管出血でも上昇
eGFR (推算糸球体ろ過量)60mL/min/1.73m² 以上60未満は腎機能低下(CKD)を意味する

尿検査の重要性

尿は腎臓の状態を映し出す鏡です。尿検査を行うことで、腎臓に障害があるかどうか、ヒントを得ることができます。

健康な人の尿には、タンパク質や血液はほとんど含まれませんが、腎臓のフィルター役である糸球体に炎症などの障害が起こると、本来は通過できないはずのタンパク質や赤血球が尿に漏れ出てき、これがタンパク尿や血尿です。

特にタンパク尿は、腎臓病の存在を示す重要なサインであり、量が多いほど腎機能の悪化速度が速いことが知られています。健康診断などでタンパク尿を指摘された場合は、症状がなくても必ず医療機関を受診することが大切です。

  • タンパク尿
  • 血尿(尿潜血)
  • 尿比重
  • 尿沈渣

画像診断による評価

血液検査や尿検査で腎機能の低下が疑われた場合、原因を特定するために画像診断を行い、最も一般的に行われるのが腹部超音波(エコー)検査です。この検査では、腎臓の大きさや形、内部の構造を観察できます。

慢性的に腎機能が低下していると腎臓が萎縮して小さくなっていることが多く、また、水腎症(尿路の閉塞で腎臓が腫れる状態)や結石、腫瘍などの有無も確認できます。

さらに、ドップラー法という技術を用いると、腎臓の血管内の血流速度を測定し、腎動脈の狭窄などを評価することも可能です。必要に応じて、より詳細な情報を得るためにCT検査やMRI検査、腎血管造影検査などが行われることもあります。

腎血流量を維持するための生活習慣

腎臓の健康を守り、血流量を適切に保つためには、日々の生活習慣が非常に重要です。腎臓病のリスクを高める高血圧や糖尿病をお持ちの方は、食事や運動など、生活全般にわたる自己管理が腎機能を維持する鍵となります。

水分補給の重要性

体内の水分が不足すると血液が濃縮され、循環する血液量も減少し、腎血流量の低下に直結し、夏場の発汗時や、下痢・嘔吐時、発熱時などは、意識して水分を補給することが大切です。

ただし、一度に大量の水を飲むのではなく、コップ1杯程度の量をこまめに摂取するのが効果的です。

ただし、すでに腎機能が低下して尿量が減っている方や、心不全で水分制限を受けている方は、水の飲み過ぎが逆に体の負担になることもあります。

水分摂取量については、個々の状態によって適切な量が異なるため、必ず主治医の指示に従ってください。

  • 喉が渇く前に飲む
  • 一度にがぶ飲みしない
  • 起床時、入浴前後、就寝前に

塩分とタンパク質の摂取管理

塩分の過剰摂取は、高血圧の最大の原因の一つで血圧、が高くなると腎臓の血管に常に高い圧力がかかり、動脈硬化を促進して腎機能を悪化させます。

日本人の食生活は塩分が多くなりがちなので、薄味を心がけ、加工食品や麺類の汁の摂取を控えるなどの工夫が必要です。また、タンパク質は体にとって必要な栄養素ですが、摂りすぎると体内で老廃物となり、腎臓に負担をかけます。

腎機能が低下している場合は、タンパク質の摂取量を制限することが腎臓を守る上で有効ですが、極端な制限は栄養失調につながるため、医師や管理栄養士の指導のもとで、適切な量を摂取することが重要です。

食事における注意点

栄養素管理のポイント具体的な工夫
塩分過剰摂取を避ける (1日6g未満が目標)香辛料や酸味を利用、加工食品を控える
タンパク質腎機能に応じて適正量を摂取する良質なタンパク質を選び、過剰摂取を避ける
カリウム高カリウム血症の場合は制限が必要野菜や果物を茹でこぼす、水にさらす

適度な運動と体重管理

肥満、特に内臓脂肪の蓄積は、糖尿病や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病の温床となり、間接的に腎臓にダメージを与えます。

ウォーキングや軽いジョギング、水泳などの有酸素運動を継続的に行うことは、体重管理だけでなく、血圧や血糖値の改善にもつながり、腎臓を保護する効果が期待できます。

無理のない範囲で、少し汗ばむ程度の運動を週に3回から5回程度、1回30分以上続けることを目標にしましょう。適正な体重を維持することは、腎臓への負担を軽減する上で非常に効果的です。

血圧と血糖値のコントロール

高血圧と糖尿病は、慢性腎臓病(CKD)の二大原因で、腎臓の細い血管を傷つけ、徐々に腎機能を蝕んでいきます。

腎血流量を維持し、腎臓を守るためには、病気をしっかりと治療し、血圧と血糖値を良好な状態にコントロールすることが何よりも大切です。

家庭で血圧を測定する習慣をつけ、医師から処方された薬は自己判断で中断せず、きちんと服用を続けてください。

また、定期的に医療機関を受診し検査を受けて、治療方針を医師と相談しながら進めていくことが、腎臓を守ることにつながります。

  • 家庭血圧の測定
  • 降圧薬・血糖降下薬の継続
  • 定期的な受診と検査

腎血流量の低下に対する治療アプローチ

腎血流量の低下が確認された場合、その原因や腎機能の程度に応じて、様々な治療が行われます。治療の目標は、血流を改善させること、腎機能のさらなる悪化を防ぐこと、全身の状態を良好に保つことです。

原因疾患の治療

腎血流量低下の背景にある根本的な原因を取り除くことが、最も重要な治療です。

心不全が原因であれば、利尿薬や心臓を保護する薬を使って心臓のポンプ機能を助けます。

腎動脈狭窄症が原因で血流が著しく妨げられている場合には、カテーテル治療(血管内治療)によって狭くなった血管を風船やステントで広げる治療を検討することもあります。

脱水が原因であれば、点滴によって速やかに水分と電解質を補給します。

薬物療法による血流改善

原因疾患の治療と並行して、腎臓を保護し、血圧を適切に管理するための薬物療法を行い、高血圧やタンパク尿がある場合には、ACE阻害薬やARBといった種類の降圧薬が第一選択です。

薬は、血圧を下げるだけでなく、腎臓の糸球体にかかる圧力を下げて腎臓を保護する作用があり、腎機能の悪化を抑制する効果が証明されています。

ただし、薬も使い方を誤ると腎機能に影響を与えることがあるため、専門医による慎重な投与量の調整が必要です。また、貧血があればエリスロポエチン製剤を、電解質に異常があればそれを補正する薬を使用します。

生活習慣の改善指導

薬物療法と並行して、食事療法や運動療法といった生活習慣の改善も治療の大きな柱です。減塩、タンパク質制限、そしてカリウムやリンの管理など、個々の患者さんの腎機能や体の状態に合わせたきめ細やかな食事指導が行われます。

管理栄養士などの専門家と相談しながら、無理なく継続できる食事プランを立てることが成功の鍵です。生活習慣の改善は、薬物療法の効果を高め、腎機能の維持に大きく貢献します。

よくある質問

腎血流量や腎機能について、患者さんからよく寄せられる質問と回答をまとめました。

腎血流量は一度低下したら元に戻らないのか

脱水や薬の副作用による急性の腎血流低下(急性腎障害)であれば、原因を速やかに取り除くことで、腎機能が回復する可能性は十分にあります。

しかし、長年の高血圧や糖尿病によって動脈硬化が進み、慢性的に腎機能が低下している場合(慢性腎臓病)、失われた腎機能を完全に取り戻すことは困難です。

この場合は、残された腎機能をいかに長持ちさせるか、これ以上悪化させないようにするかが治療の目標となります。

市販の鎮痛薬は腎臓に影響するか

ロキソプロフェンやイブプロフェンに代表される非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、腎血流量を低下させる作用があるため、注意が必要です。

健康な人が短期的に使用する分には大きな問題になることは少ないですが、腎機能が低下している方、高齢の方、脱水傾向にある方、利尿薬や特定の降圧薬を服用中の方が使用すると、急性腎障害を起こすリスクが高まります。

鎮痛薬を使用する際は、自己判断で長期間・大量に服用せず、かかりつけ医や薬剤師に相談しましょう。

高齢になると腎血流量は自然に低下するのか

加齢に伴い腎血流量と腎機能は生理的に少しずつ低下していき、これは、加齢によって腎臓の血管に動脈硬化が進んだり、糸球体の数が減少したりするためです。

一般的に、40歳を過ぎるとeGFRは年に約1mL/min/1.73m²ずつ低下すると言われていて、高齢であるということ自体が、腎機能低下のリスク因子となります。

高齢の方が脱水を起こしやすかったり、薬の副作用が出やすかったりするのは、腎臓の予備能力の低下が関係しています。日頃から腎臓をいたわる生活を心がけることが、年齢を重ねても元気に過ごすために重要です。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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