腎臓の機能が低下し、血液透析が必要になった方にとって、血液を体外に取り出し、浄化して体内に戻すための「アクセス」は非常に重要です。
そのアクセスの一つである「長期留置カテーテル」について、本記事では詳しく解説します。
どのような種類のカテーテルがあり、どのような利点や欠点があるのか、そして日々の管理方法はどのように行うのか、分かりやすくお伝えします。
長期留置カテーテルとは何か?
血液透析を行うためには、体から血液を効率的に取り出し、浄化した血液を安全に体内に戻すための出入り口(アクセス)が必要です。長期留置カテーテルは、この血液アクセスの手段の一つとして、特定の状況下で使用します。
血液透析アクセスの基本
血液透析におけるアクセスには、主に内シャント(自己血管内シャント)、人工血管内シャント、そしてカテーテルがあります。内シャントは、一般的に長期間の使用に適しており、感染のリスクも比較的低いとされています。
しかし、シャントの作製が困難な場合や、シャントが成熟するまでの期間、あるいは緊急的に透析を開始する必要がある場合には、カテーテルが選択肢となります。
カテーテルは、首や胸、足の付け根などの太い静脈に直接挿入し、血液の取り出しと返血を行います。
主な血液透析アクセスの種類
アクセスの種類 | 概要 | 主な特徴 |
---|---|---|
内シャント | 自身の動脈と静脈を吻合 | 長持ちしやすい、感染リスク比較的低い |
人工血管内シャント | 人工の管を動脈と静脈の間に移植 | 自己血管が細い場合などに使用 |
カテーテル | 太い静脈に管を直接挿入 | 即時使用可能、シャント作製困難時に使用 |
長期留置カテーテルの定義と役割
長期留置カテーテルは、その名の通り、比較的長期間(数週間から数ヶ月、場合によってはそれ以上)にわたり体内に留置して使用する透析用のカテーテルです。
多くは皮下トンネルを通して静脈に挿入され、カフと呼ばれる部分が皮下組織と癒着することで、カテーテルの固定を助け、感染の侵入経路を減らす役割を果たします。主な役割は、安定した血流量を確保し、安全かつ確実に血液透析治療を持続することです。
どのような場合に長期留置カテーテルが必要となるか
長期留置カテーテルは、全ての透析患者さんに第一選択として使用するわけではありません。以下のような特定の状況で、その必要性を検討します。
緊急透析導入時
腎機能が急激に悪化し、生命の危険があるため緊急に透析を開始する必要があるものの、シャントの準備が間に合わない場合、迅速に血液アクセスを確保するためにカテーテルを使用します。
この場合は、まず短期留置カテーテルを使用し、状態が安定してから長期留置カテーテルへの移行やシャント作製を検討することが一般的です。
シャント作製が困難な場合
血管の状態が悪く(例:血管が細い、何度もシャント手術を受けているなど)、新たなシャント作製が困難な患者さんや、シャントを作製しても十分な血流が期待できない場合に、長期留置カテーテルが選択されることがあります。
心機能が著しく低下している場合など、シャント作製による心臓への負担を避けたい場合も該当します。
シャントトラブル時の一時的利用
既にあるシャントが閉塞したり、感染を起こしたりして一時的に使用できなくなった場合、その治療期間中や新しいシャントが使用可能になるまでの「つなぎ」として長期留置カテーテルを使用することがあります。
これにより、透析治療を中断することなく継続できます。
長期留置カテーテルの種類と特徴
長期留置カテーテルには、素材や形状、構造によっていくつかの種類があり、それぞれ特徴が異なります。患者さんの状態や使用目的に応じて、適切なカテーテルを選択することが重要です。
カテーテルの素材による分類
カテーテルの素材は、体内で長期間安全に使用できるものが選ばれます。代表的な素材にはシリコンやポリウレタンがあります。
シリコン製カテーテル
シリコンは生体適合性に優れ、柔軟性が高い素材です。体内での刺激が少なく、長期間の留置に適しているとされています。比較的柔らかいため、血管壁への負担が少ないという利点があります。
ポリウレタン製カテーテル
ポリウレタンは、体温で軟化する性質を持ちながらも、シリコンに比べてやや硬く、強度が高い素材です。そのため、カテーテルの壁を薄くしても十分な内腔(血液が通る部分)を確保しやすく、良好な血流量を得やすい特徴があります。
挿入時の操作性にも優れています。
素材別カテーテルの一般的な性質
素材 | 主な性質 | 利点・考慮点 |
---|---|---|
シリコン | 柔軟性が高い、生体適合性が良い | 体内での刺激が少ない傾向、折れ曲がりに注意が必要な場合がある |
ポリウレタン | 体温で軟化、比較的強度が高い | 細くても内腔を確保しやすい、挿入性が良いとされる |
カテーテルの先端形状による分類
カテーテルの先端形状は、血液の取り出し(脱血)と返血の効率、および血栓形成のリスクなどに影響します。いくつかのタイプがあります。
- ステップ型先端
- スプリット型先端
- 対称型先端
これらの先端形状は、カテーテル内での血液の再循環(浄化された血液が再び脱血口から吸い込まれる現象)を抑え、透析効率を高めるように工夫されています。
医師は、患者さんの血管の状態や血流動態を考慮して、適切な先端形状のカテーテルを選択します。
カテーテルのルーメン数による分類
ルーメンとは、カテーテル内部の血液が通る管腔のことです。透析用カテーテルは、通常、血液を取り出すための脱血用ルーメンと、浄化した血液を体内に戻すための返血用ルーメンの2つのルーメン(ダブルルーメン)を持っています。
ダブルルーメンカテーテル
血液透析においては、このダブルルーメンカテーテルが標準的に使用されます。2つの独立した経路により、効率的な血液の体外循環を可能にします。
まれに、薬剤投与などの目的で3つ目のルーメン(トリプルルーメン)を持つカテーテルが選択されることもありますが、透析治療が主目的の場合はダブルルーメンが一般的です。
代表的な長期留置カテーテルの構造
多くの長期留置カテーテルは、感染防止と安定した固定のために、特有の構造を持っています。
カフ付きカテーテルの特徴
長期留置カテーテルの多くには「カフ(Dacron cuff)」が付いています。これはポリエステル繊維でできたリング状または円筒状の部分で、カテーテルが皮下トンネルを通過する途中に位置します。
留置後、このカフの周囲に自己の組織が成長し癒着することで、カテーテルが抜けにくくなるとともに、皮膚の細菌がカテーテルに沿って体内に侵入するのを防ぐバリアの役割を果たします。
このカフの存在が、長期的な使用を可能にする重要な要素の一つです。
トンネル型カテーテルの構造
カフ付きカテーテルは、通常「トンネル型」として留置します。これは、皮膚の穿刺部位(カテーテルが体外に出る出口部)と、実際に血管に挿入される部位が離れていることを意味します。
皮膚から血管までの間に皮下トンネルを作成し、そのトンネル内にカテーテルを通します。このトンネル構造も、出口部からの細菌感染が直接血管内に及ぶリスクを低減するのに役立ちます。
長期留置カテーテル留置術の手順と注意点
長期留置カテーテルの留置は、専門の医師によって清潔な環境下で行われる外科的な処置です。安全かつ確実にカテーテルを留置するために、事前の準備から手技、留置後の管理まで、慎重な対応が求められます。
留置前の準備と検査
カテーテルを安全に留置し、合併症のリスクを最小限に抑えるために、事前にいくつかの検査や評価を行います。
血管評価
カテーテルを挿入する予定の静脈(主に内頸静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈など)の状態を超音波検査(エコー検査)などで評価します。血管の太さ、走行、血栓の有無などを確認し、最も安全かつ適切な挿入部位を決定します。
過去のカテーテル留置歴や手術歴なども考慮します。
一般的な術前検査項目
検査項目 | 目的 | 備考 |
---|---|---|
血液検査 | 貧血、感染、凝固機能などを評価 | 出血傾向の有無を確認 |
超音波検査 | 挿入予定血管の評価 | 血栓や狭窄の有無を確認 |
胸部レントゲン写真 | 肺や心臓の状態評価 | 鎖骨下静脈アプローチの場合に特に重要 |
感染症スクリーニング
カテーテルは異物であるため、感染のリスクが伴います。留置前に活動性の感染症がないかを確認することは重要です。必要に応じて、血液検査や画像検査を行います。
カテーテル留置術の実際の手順
カテーテル留置術は、通常、局所麻酔下で行われます。患者さんの不安が強い場合や、処置に時間を要すると予想される場合には、鎮静薬を併用することもあります。
穿刺部位の選定
最も一般的に選択されるのは、首の付け根にある内頸静脈です。その他、鎖骨下の静脈(鎖骨下静脈)や、足の付け根の静脈(大腿静脈)も選択肢となります。
右側の内頸静脈が、解剖学的に心臓へのアクセスが直線的で、カテーテルの長期開存性に有利とされることが多いです。
局所麻酔と鎮静
カテーテルを挿入する部位の皮膚および皮下組織に局所麻酔薬を注射し、処置中の痛みを軽減します。必要に応じて、点滴から鎮静薬を投与し、患者さんがリラックスした状態で処置を受けられるように配慮します。
超音波ガイド下穿刺
近年では、安全性を高めるために超音波(エコー)装置を用いて血管を直接見ながら穿刺を行うことが標準的です。これにより、誤って動脈を穿刺したり、周囲の神経や肺を傷つけたりするリスクを大幅に低減できます。
カテーテルの挿入と固定
血管を穿刺した後、ガイドワイヤーという細い針金を通してカテーテルを血管内に進めます。トンネル型カテーテルの場合は、皮膚の出口部から血管穿刺部まで皮下トンネルを作成し、そこにカテーテルを通します。
カテーテルが適切な位置に到達したら、カフが皮下組織に固定されるように配置し、出口部を縫合または医療用テープで固定します。
留置後の確認と初期管理
カテーテルが無事留置された後も、適切な位置にあるか、合併症が起きていないかを確認するための処置が必要です。
レントゲンによる位置確認
留置後には胸部レントゲン撮影を行い、カテーテルの先端が心臓に近い適切な位置(通常は右心房)にあるか、また、気胸(肺の損傷)などの合併症が起きていないかを確認します。
出血・感染の初期兆候の観察
カテーテル出口部やトンネル周囲からの出血、腫れ、発赤、熱感、痛みなど、感染や血腫(血の塊)の兆候がないかを注意深く観察します。これらの兆候が見られた場合は、速やかに医療スタッフに報告することが重要です。
長期留置カテーテルのメリット
長期留置カテーテルは、特定の状況下において、シャントにはない利点を提供します。これらのメリットを理解することで、なぜこのアクセス方法が選択されるのかが分かります。
即時使用が可能
長期留置カテーテルは、留置後すぐに血液透析に使用できます。内シャントの場合、作製してから血管が成熟し、実際に穿刺して使用できるようになるまで数週間から数ヶ月かかることが一般的です。
この待ち時間がないことは、速やかに透析を開始する必要がある患者さんにとって大きな利点です。
シャント作製が不要または困難な場合の選択肢
前述の通り、自己血管の状態が悪くシャント作製が難しい方や、心機能の低下などによりシャント作製のリスクが高い方にとって、長期留置カテーテルは重要な血液アクセスの選択肢となります。
また、シャントをできるだけ温存したい場合や、シャント作製を希望しない患者さんの意思を尊重する場合にも考慮されます。
シャント作製が困難となる主な要因
要因 | 具体例 |
---|---|
血管の問題 | 長年の糖尿病や動脈硬化による血管の劣化、細い血管 |
過去の手術歴 | 複数回のシャント手術による使用可能血管の減少 |
全身状態 | 重度の心不全、極度の肥満、出血傾向 |
自己穿刺の負担がない
内シャントの場合、多くの施設では患者さん自身または医療スタッフが毎回透析のたびに2本の針を穿刺する必要があります。この穿刺に伴う痛みや不安、あるいは穿刺の失敗といった負担が、長期留置カテーテルでは基本的にありません。
カテーテルの接続だけで透析を開始できるため、穿刺が苦手な方や血管が細く穿刺が難しい方にとっては精神的・肉体的な負担軽減につながります。
シャント成熟を待つ間のブリッジアクセスとしての利用
内シャントを作製したものの、まだ使用できる状態(成熟)に至っていない期間、透析治療を継続するために一時的に長期留置カテーテルを使用することがあります。これをブリッジアクセス(橋渡しアクセス)と呼びます。
シャントが成熟し、安定して使用できるようになった時点でカテーテルは抜去します。
長期留置カテーテルのデメリットと合併症
多くの利点がある一方で、長期留置カテーテルにはいくつかのデメリットや潜在的な合併症のリスクも存在します。これらを理解し、適切な管理を行うことが重要です。
感染のリスク
カテーテルは体外と体内を直接つなぐため、細菌感染のリスクが常に伴います。これは長期留置カテーテルにおける最も重要な合併症の一つです。
カテーテル関連血流感染症(CRBSI)
CRBSIは、カテーテルが原因で血液中に細菌が侵入し、全身性の感染症(敗血症など)を引き起こす重篤な合併症です。発熱、悪寒、戦慄、倦怠感などの症状が現れ、迅速な診断と治療(抗生剤投与やカテーテル抜去など)が必要です。
予防のためには、カテーテル管理時の厳格な無菌操作が求められます。
出口部感染・トンネル感染
カテーテルが皮膚から出ている部分(出口部)や、皮下のトンネルに沿って感染が起こることもあります。出口部の発赤、腫れ、痛み、膿の排出などがみられます。
早期に発見し治療を開始すれば、CRBSIへの進行を防げる可能性があります。
感染予防のための基本的な注意点
- カテーテル出口部の清潔保持
- 入浴時の適切な保護
- 医療スタッフによる定期的な観察と消毒
血栓形成とカテーテル閉塞
カテーテル内や周囲の血管に血栓(血の塊)が形成され、カテーテルの流れが悪くなったり、完全に詰まってしまったりすることがあります。
カテーテル内血栓
カテーテルのルーメン内に血栓ができると、脱血不良や返血不良となり、十分な透析ができなくなることがあります。予防のために、透析終了後にはヘパリンなどの抗凝固薬をカテーテル内に充填(ロック)します。
血栓溶解薬で治療を試みることもあります。
中心静脈狭窄・閉塞
カテーテルが留置されている中心静脈(内頸静脈、鎖骨下静脈など)が、カテーテルの刺激や血栓形成により狭くなったり(狭窄)、詰まってしまったり(閉塞)することがあります。
これにより、腕や顔面のむくみ、表在静脈の怒張などの症状が現れることがあります。将来的なシャント作製部位の選択にも影響を与える可能性があります。
血栓関連合併症の概要
合併症 | 主な症状・影響 | 対策・治療 |
---|---|---|
カテーテル内血栓 | 脱血・返血不良、透析効率低下 | 抗凝固薬ロック、血栓溶解療法 |
中心静脈狭窄・閉塞 | 腕や顔のむくみ、静脈怒張 | バルーン拡張術、ステント留置術 |
カテーテルの機械的トラブル
カテーテル自体が物理的に損傷したり、位置がずれたりすることもあります。
- カテーテルの損傷・断裂
- カテーテルの位置異常
- カテーテルのキンク(折れ曲がり)
これらは、日常生活での不注意な扱いや、固定が不十分な場合に起こりやすくなります。カテーテルの破損は感染や空気塞栓のリスクを高め、位置異常は透析効率の低下や血管壁の損傷につながる可能性があります。
生活上の制限
長期留置カテーテルを使用している間は、日常生活においていくつかの注意点や制限が生じます。
入浴時の注意
カテーテル出口部は常に清潔で乾燥した状態を保つ必要があります。そのため、入浴時には出口部を防水性のフィルムなどで厳重に保護し、濡らさないように注意します。
湯船に浸かることは、感染リスクの観点から推奨されないことが多いです。シャワー浴が基本となります。
運動の制限
カテーテルが引っ張られたり、ねじれたり、圧迫されたりするような激しい運動や、接触プレーのあるスポーツは避ける必要があります。
日常生活レベルの軽い運動は可能ですが、どの程度の運動が許容されるかについては、必ず主治医に確認してください。
長期留置カテーテルの日常管理とセルフケア
長期留置カテーテルを安全に長期間使用するためには、医療スタッフによる管理だけでなく、患者さん自身やご家族による日常的な観察とケアが非常に大切です。
合併症を予防し、早期発見につなげるために、正しい知識を身につけましょう。
出口部の観察と消毒
カテーテル出口部は、感染の入り口となりやすいため、毎日の観察と定期的な消毒が重要です。
消毒方法と頻度
出口部の消毒は、通常、透析施設で透析のたびに行われますが、自宅での追加的なケアが必要な場合もあります。
消毒には、ポビドンヨードやクロルヘキシジンなどの消毒薬を使用します。消毒の手順や頻度については、医療スタッフの指示に従ってください。
自己判断での消毒薬の変更や、過度な消毒は皮膚トラブルの原因となることもあるため注意が必要です。
観察すべき出口部の異常サイン
観察ポイント | 正常な状態 | 異常のサイン |
---|---|---|
皮膚の色 | 周囲の皮膚と同じ | 赤み、紫がかった変色 |
腫れ | なし | 明らかな腫れ、硬結 |
分泌物 | なし、または少量の透明な浸出液 | 膿、血液混じりの分泌物、悪臭 |
痛み・熱感 | なし | 押さえた時の痛み、熱っぽさ |
異常の早期発見
毎日、出口部の状態(発赤、腫脹、疼痛、熱感、浸出液の有無や性状など)を注意深く観察し、少しでも異常を感じたら、すぐに医療スタッフに連絡してください。早期発見・早期対応が、重篤な感染症への進行を防ぐ鍵となります。
カテーテルの保護と固定
カテーテルが体外に出ている部分は、偶発的な事故(引っ掛ける、引っ張るなど)から保護し、適切に固定しておく必要があります。
ドレッシング材の適切な使用
カテーテル出口部は、通常、滅菌ガーゼや透明なフィルムドレッシング材で保護します。ドレッシング材は、出口部を清潔に保ち、外部からの刺激や汚染を防ぐ役割があります。
ドレッシング材の種類や交換頻度は、医療スタッフの指示に従ってください。汚れたり濡れたりした場合は、速やかに交換します。
カテーテルの引っ張りやねじれ防止
カテーテルの体外に出ている部分が衣服に引っかかったり、寝ている間に体で圧迫したりしないように注意が必要です。
カテーテルをループ状にして医療用テープで皮膚に固定したり、専用の固定具を使用したりすることで、不意の事故を防ぎます。カテーテルがねじれたり折れ曲がったりすると、血流が悪くなり透析効率が低下する原因にもなります。
ヘパリンロック・生理食塩水ロック
透析を行わない非透析日には、カテーテル内での血液凝固を防ぐために、ルーメン内に抗凝固薬(ヘパリンなど)や生理食塩水を充填しておく処置(ロック)を行います。
ロックの目的と重要性
カテーテルの内部に血液が残っていると、凝固して血栓を形成し、カテーテルが閉塞してしまう可能性があります。ロックは、これを防ぎ、次回の透析時にスムーズに血液の取り出しと返血ができるようにするために行います。
確実にロックを行うことは、カテーテルの長期開存にとって非常に重要です。
正しい手技と注意点
ロックの手技は、医療スタッフから指導を受け、正しく行う必要があります。注入する薬剤の種類や量、注入方法を誤ると、カテーテル閉塞の原因になったり、出血傾向を助長したりする可能性があります。
不明な点や不安な点があれば、必ず医療スタッフに確認してください。
定期的な医療機関受診の重要性
長期留置カテーテルを使用している間は、自覚症状がなくても定期的に医療機関を受診し、カテーテルの状態や合併症の有無をチェックしてもらうことが大切です。
カテーテル機能評価
透析時の血流量や脱血・返血圧などを定期的に評価し、カテーテルの機能が十分に保たれているかを確認します。機能低下の兆候が見られた場合は、原因を特定し、早期に対処します。
合併症のモニタリング
感染症や血栓症、中心静脈狭窄などの合併症は、初期には自覚症状が現れにくいこともあります。定期的な診察や画像検査(レントゲン、超音波など)により、これらの合併症を早期に発見し、重症化する前に対処することが可能です。
長期留置カテーテルとシャントの比較
血液透析のアクセスとして、長期留置カテーテルと内シャント(または人工血管シャント)は、それぞれ異なる特徴を持っています。どちらのアクセスが適しているかは、患者さんの状態やライフスタイル、治療方針によって異なります。
機能面での比較
透析治療の効率や長期的な使用の観点から比較します。
血流量の確保
シャントは、適切に作製され成熟すれば、一般的にカテーテルよりも安定して高い血流量を確保しやすいとされています。十分な血流量は、透析効率を高める上で重要です。
カテーテルも十分な血流量を得られるように設計されていますが、位置異常や血栓などにより血流が低下することもあります。
シャントとカテーテルの血流量比較
項目 | 内シャント | 長期留置カテーテル |
---|---|---|
確保可能な血流量 | 比較的高いことが多い | 適切に管理されれば十分確保可能 |
血流安定性 | 成熟すれば比較的安定 | 位置や血栓の影響を受けやすい場合がある |
長期開存性
一般的に、適切に管理された内シャントは、長期留置カテーテルよりも長期間にわたって使用できる(開存率が高い)傾向があります。
しかし、カテーテルの素材や構造の改良、管理技術の向上により、長期留置カテーテルの開存期間も延びてきています。
合併症リスクの比較
それぞれのアクセス方法に伴う主な合併症のリスクには違いがあります。
感染リスクの違い
感染のリスクは、一般的に内シャントの方が長期留置カテーテルよりも低いとされています。カテーテルは常に体外と体内が交通しているため、細菌侵入の機会が多くなります。
特にカテーテル関連血流感染症(CRBSI)は重篤な合併症です。
血栓リスクの違い
シャントも閉塞(血栓による詰まり)のリスクがありますが、カテーテルもルーメン内血栓や中心静脈血栓のリスクがあります。
シャント閉塞は主にシャント血管自体の狭窄や血圧低下などが原因となることが多いのに対し、カテーテル関連血栓はカテーテルという異物の存在が大きく関与します。
患者のQOL(生活の質)への影響比較
日常生活の自由度や心理的な側面も、アクセス選択において考慮すべき点です。
日常生活の自由度
シャントの場合、穿刺部位の止血が確認されれば、入浴や運動に関する制限はカテーテルに比べて少ないことが一般的です。カテーテルの場合は、出口部の保護や活動制限が必要となるため、QOLに影響を与えることがあります。
- シャント: 穿刺部の治癒後は比較的自由度が高い
- カテーテル: 入浴・運動に注意が必要
心理的側面
シャントの場合、毎回の穿刺に対する痛みや恐怖を感じる方もいます。一方、カテーテルは穿刺の苦痛はありませんが、体内に異物が入っていることへの違和感や、カテーテルが体外に出ていることによる外見上の問題を気にする方もいます。
どちらのアクセス方法も、患者さんの心理状態に影響を与える可能性があります。
状況に応じたアクセスの選択
最終的にどのアクセス方法を選択するかは、上記のような様々な要素を総合的に評価し、患者さん本人と医療チームが十分に話し合って決定することが重要です。
緊急性、血管の状態、全身状態、ライフスタイル、患者さんの希望などを考慮し、個々の状況に最も適したアクセスを選択します。
アクセス選択時の考慮事項
考慮事項 | シャントが有利な場合(傾向) | カテーテルが有利な場合(傾向) |
---|---|---|
緊急性 | 予定された透析導入 | 緊急透析導入、シャント成熟待ち |
血管状態 | 自己血管が良好 | シャント作製困難、血管温存 |
長期使用 | 一般的に長期開存性が期待できる | シャント不適格者、ブリッジユース |
感染リスク | 比較的低い | シャントより高い傾向、厳重な管理が必要 |
自己穿刺 | 許容できる、または介助あり | 困難、または希望しない |
よくある質問
長期留置カテーテルに関して、患者さんやご家族からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- カテーテル留置中の痛みはありますか
-
カテーテルを留置する処置の際は、局所麻酔を使用するため、強い痛みを感じることは通常ありません。チクッとした注射の痛みや、カテーテルが挿入される際の違和感を感じることはあります。
留置後は、数日間、挿入部やトンネル部分に軽い痛みや違和感が残ることがありますが、次第に軽減します。痛みが持続したり、強くなったりする場合は、感染などの可能性もあるため、医療スタッフに相談してください。
- カテーテルを交換する頻度はどれくらいですか
-
長期留置カテーテルは、問題なく機能し、感染や閉塞などの合併症がなければ、必ずしも定期的に交換する必要はありません。
「何ヶ月使ったら交換」という明確な基準はなく、カテーテルの状態や患者さんの状況に応じて、医師が交換の必要性を判断します。感染や閉塞、カテーテルの破損などが起きた場合には、交換が必要になります。
一般的には数ヶ月から数年単位で使用できることもありますが、個人差が大きいです。
- カテーテルを入れたままMRI検査は受けられますか
-
使用している長期留置カテーテルの種類によります。多くの透析用長期留置カテーテルはMRI対応素材で作られていますが、一部対応していないものや、特定の条件下でのみMRI検査が可能なものもあります。
MRI検査を受ける必要がある場合は、必ず事前にカテーテルを管理している主治医や透析施設のスタッフ、そしてMRI検査担当医に、カテーテルの種類を伝え、検査が可能かどうかを確認してください。自己判断は危険です。
MRI検査を受ける際の確認ポイント
確認相手 確認事項 透析主治医・スタッフ 使用中のカテーテルの製品名、MRI対応の可否 MRI検査担当医・技師 カテーテルの情報共有、検査実施の最終判断 - カテーテル使用中に気をつけるべき食事はありますか
-
長期留置カテーテルを使用していること自体で、特別な食事制限が加わることは通常ありません。ただし、血液透析を受けている患者さんは、腎臓の機能低下に伴い、水分、塩分、カリウム、リンなどの摂取制限が必要となることが一般的です。
これらの食事療法は、カテーテルの有無に関わらず、透析治療全体の一部として重要です。食事内容については、主治医や管理栄養士の指導に従ってください。バランスの取れた食事が、体調管理や合併症予防につながります。
以上
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