生体腎移植は、末期腎不全の患者さんにとって重要な治療選択肢の一つです。この治療法では、健康な方(ドナー)から提供された腎臓を移植します。
ドナーになるためには、医学的な条件だけでなく、倫理的・社会的な側面も考慮する必要があります。この記事では、生体腎移植のドナーになるための具体的な条件、提供できる方の範囲、そして必要な検査内容について、わかりやすく解説します。
腎移植を考えている方、ドナーになることを検討している方にとって、正しい情報を得る一助となれば幸いです。
生体腎移植の基本とドナーの役割
腎移植は、機能しなくなった腎臓の代わりに、提供された健康な腎臓を移植する治療法です。
特に生体腎移植は、ご存命の方から腎臓を提供いただく方法であり、レシピエント(腎臓を受け取る方)のQOL(生活の質)向上に大きく貢献する可能性があります。
ドナーの存在なくして成り立たない治療であり、その役割は非常に大きいです。
生体腎移植とはどのような治療法か
生体腎移植は、慢性腎不全が進行し、透析療法が必要か、または近い将来必要になると予測される患者さんに対して行う腎代替療法の一つです。
親族や配偶者など、血縁的または社会的なつながりのある健康な成人から、二つある腎臓のうちの一つを提供してもらい、レシピエントの体内に移植します。
移植された腎臓が機能することで、透析療法から離脱したり、透析導入を回避したりすることが期待できます。手術は全身麻酔下で行い、ドナーとレシピエント双方の安全を最優先に進めます。
レシピエントは、移植後、拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤を生涯服用する必要があります。
ドナーが果たす重要な役割
生体腎移植におけるドナーの役割は、単に臓器を提供するという医学的な行為にとどまりません。ドナーの善意と勇気ある決断が、レシピエントに新たな人生の機会を与えることにつながります。
ドナーは、レシピエントの生命を支え、QOLを劇的に改善する可能性を秘めた「命の贈り主」と言えるでしょう。
そのため、ドナー候補者に対しては、十分な情報提供と精神的なサポートを行い、自発的かつ自由な意思に基づいた決定ができる環境を整えることが重要です。
生体腎移植のメリットとデメリット
生体腎移植には、レシピエントとドナー双方にとって、いくつかのメリットとデメリットが存在します。これらを十分に理解した上で、移植医療に臨むことが大切です。
生体腎移植の主な利点と考慮点
項目 | レシピエント側の視点 | ドナー側の視点 |
---|---|---|
メリット | 透析からの離脱、QOL向上、比較的良好な生着率、待機期間の短縮 | レシピエントを助けることによる精神的満足感 |
デメリット・考慮点 | 手術リスク、拒絶反応、免疫抑制剤の生涯服用と副作用、感染症リスク | 手術リスク、術後の痛み、腎機能への長期的な影響の可能性、精神的負担 |
レシピエントにとっては、透析療法に伴う時間的制約や食事制限から解放され、より自由な社会生活を送れるようになることが大きなメリットです。また、計画的に手術を行えるため、心身ともに良い状態で移植に臨めます。
一方で、ドナーにとっては、健康な体にメスを入れるという侵襲が伴い、術後の回復期間や長期的な健康への配慮が必要です。
レシピエント(腎臓を受け取る側)の適応
生体腎移植を受けるレシピエントにも、一定の医学的条件があります。
一般的に、末期腎不全であり、全身状態が手術に耐えられること、悪性腫瘍や活動性の感染症がないこと、移植後の免疫抑制療法を継続できることなどが「腎移植 適応」の基本的な考え方です。
年齢については上限が一律に決まっているわけではありませんが、高齢になるほど合併症のリスクが高まるため、個々の状態を総合的に評価して判断します。
生体腎移植ドナーになれる方の基本的な条件
生体腎移植のドナーになるためには、いくつかの基本的な「生体腎移植 ドナー 条件」を満たす必要があります。これらは、ドナー自身の安全と、移植腎の良好な機能を確保するために設けられています。
年齢に関する条件
ドナーの年齢は、一般的に20歳以上65歳以下(施設によっては70歳程度まで)が目安とされています。ただし、これはあくまで目安であり、年齢だけでなく、全身の健康状態や腎機能などを総合的に評価して判断します。
若年すぎると成長への影響や将来的なリスクが、高齢すぎると手術リスクや腎機能低下のリスクが高まる可能性があるため、慎重な評価が必要です。
ドナーの年齢に関する一般的な目安
年齢層 | 考慮事項 | 判断基準 |
---|---|---|
20歳未満 | 身体的・精神的な成熟度、将来の健康リスク | 原則として推奨されないことが多い |
20歳~65歳(70歳) | 一般的なドナー候補者の年齢層 | 健康状態、腎機能などを総合的に評価 |
65歳(70歳)超 | 加齢に伴う合併症リスク、腎機能低下 | 慎重な評価が必要、施設により基準が異なる |
健康状態に関する全般的な条件
ドナーは、心臓、肺、肝臓などの主要な臓器に重篤な疾患がなく、全身状態が良好であることが求められます。また、悪性腫瘍(がん)や活動性の感染症(B型肝炎、C型肝炎、HIV感染症など)がないことも重要な条件です。
これらの疾患がある場合、ドナー自身の健康を損なうリスクや、レシピエントに疾患が移行するリスクがあるため、原則としてドナーにはなれません。
精神的な安定と自発的な提供意思
腎臓提供は、ドナー自身の身体への侵襲を伴うため、精神的に安定しており、誰かに強制されることなく、自らの自由な意思で提供を希望していることが絶対条件です。
この意思確認は、移植コーディネーターや精神科医などが関わり、慎重に行います。ドナー候補者が抱える不安や疑問に対しても、十分な情報提供とサポートを行います。
ドナーの精神的・倫理的条件
- 提供に関する十分な理解
- 自発的かつ自由な意思
- 精神的な安定性
- 提供後の結果に対する現実的な認識
ドナー候補者とレシピエントの関係性
日本では、倫理的な観点から、原則として親族(6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族)からの提供が認められています。
非血縁者間(友人、知人など)の移植は、医学的な適合性だけでなく、純粋な善意に基づく提供であるかどうかが厳格に審査されます。金銭の授受などを目的とした臓器提供は固く禁じられています。
ドナーとして提供が難しい医学的条件
ドナー候補者の安全を最優先に考え、また移植腎がレシピエントの体内で長期的に機能するために、いくつかの医学的条件に該当する場合は、腎臓の提供が難しいと判断されることがあります。
これらの「生体腎移植 ドナー 条件」は、個々の状態によって専門医が総合的に判断します。
影響を及ぼす可能性のある全身性疾患
全身に影響を及ぼす特定の疾患を持っている場合、腎臓提供がドナー自身の健康状態を悪化させるリスクや、レシピエントに影響を与える可能性があるため、提供は困難となります。
提供が難しい主な全身性疾患の例
疾患群 | 具体例 | 提供が難しい理由 |
---|---|---|
悪性腫瘍 | 治療中のがん、治癒後間もないがん | ドナーの再発リスク、レシピエントへの転移リスク |
活動性の感染症 | HIV感染症、活動性の結核 | ドナーの健康悪化リスク、レシピエントへの感染リスク |
自己免疫疾患 | 全身性エリテマトーデス(活動期) | 腎臓提供による疾患増悪リスク |
悪性腫瘍(がん)の既往歴
過去に悪性腫瘍の治療を受けたことがある場合、がんの種類や進行度、治療後の経過期間などを考慮して、提供の可否を慎重に判断します。
一般的に、治癒したと考えられる状態から一定期間(多くは5年以上)が経過し、再発のリスクが極めて低いと判断されれば、ドナーになれる可能性があります。
活動性の感染症
B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIV(エイズウイルス)などの活動性の感染症がある場合、ドナー自身の治療が優先され、またレシピエントへの感染リスクがあるため、原則として提供できません。
ただし、治療によってウイルス量がコントロールされている場合など、状況によっては提供が可能となるケースもありますので、専門医との相談が必要です。
腎機能に問題がある場合
ドナー自身の腎機能が低下している場合や、腎臓に何らかの疾患(多発性のう胞腎、慢性糸球体腎炎など)がある場合は、腎臓を一つ提供することで残った腎臓への負担が増加し、将来的にドナー自身の腎機能が悪化するリスクが高まるため、提供はできません。
腎機能は、血液検査(クレアチニン値、eGFRなど)や尿検査、画像検査などで詳細に評価します。
生活習慣病とドナー適格性
高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、それ自体が腎機能に悪影響を及ぼす可能性があります。これらの疾患がある場合でも、ドナーになれるかどうかは、病状のコントロール状態や合併症の有無などを総合的に評価して判断します。
コントロール不良な高血圧
高血圧は腎臓に負担をかけるため、血圧が十分にコントロールされていない場合はドナーになることが難しいです。降圧薬を服用していても、血圧が安定し、腎機能への影響が軽微であれば、ドナーになれる可能性があります。
ただし、高血圧の程度や罹病期間、合併症の有無などを慎重に評価します。
コントロール不良な糖尿病
糖尿病も腎臓に合併症を引き起こす代表的な疾患です。血糖コントロールが不良な場合や、既に糖尿病性腎症を発症している場合は、ドナーになることはできません。
軽度の糖尿病で、食事療法や運動療法、あるいは少量の薬剤で血糖値が良好にコントロールされており、腎機能障害やその他の合併症がない場合は、慎重な評価の上でドナーになれる可能性があります。
その他の提供が難しいケース
上記以外にも、肥満(特に高度肥満)、血液凝固異常、重度の精神疾患などがある場合も、ドナーの安全や移植成績を考慮して、提供が難しいと判断されることがあります。
また、妊娠中の方はドナーになれません。出産後、一定期間を経て健康状態が安定すれば、再度ドナー候補者として評価を受けることができます。
生体腎移植ドナーになるための詳細な医学的検査
生体腎移植のドナー候補者には、提供の適格性を判断するために、多岐にわたる詳細な「ドナー検査」を行います。これらの検査は、ドナー自身の安全を確保し、移植が成功する可能性を高めるために重要です。
検査の目的と全体像
ドナー検査の主な目的は以下の通りです。
ドナー検査の主な目的
- ドナー自身の健康状態の確認と、腎提供によるリスク評価
- 提供する腎臓の機能と形態の評価
- レシピエントとの医学的適合性の評価(血液型、HLA型など)
- レシピエントに影響を与える可能性のある感染症や悪性腫瘍の有無の確認
検査は通常、外来で段階的に行われ、数週間から数ヶ月かかることがあります。全ての検査結果を総合的に評価し、最終的に移植チームがドナーとしての適格性を判断します。
初期段階で行うスクリーニング検査
まず、比較的簡便に行える検査で、ドナーとしての基本的な適格性を評価します。この段階で明らかな問題が見つかれば、それ以上の精密検査は行わないこともあります。
初期スクリーニング検査の主な項目
検査の種類 | 主な検査項目 | 目的 |
---|---|---|
問診・診察 | 既往歴、家族歴、服薬状況、生活習慣など | 全般的な健康状態の把握 |
血液検査 | 血球計算、生化学検査(肝機能、腎機能、血糖、脂質など)、血液型 | 全身状態、主要臓器の機能評価、血液型確認 |
尿検査 | 尿蛋白、尿潜血、尿糖など | 腎機能、尿路系の異常の有無の確認 |
血液検査・尿検査の項目
血液検査では、貧血の有無、肝臓や腎臓の機能、血糖値や脂質の値、炎症反応などを調べます。腎機能の指標となるクレアチニン値やeGFR(推算糸球体濾過量)は特に重要です。
尿検査では、蛋白尿や血尿の有無を確認し、腎臓や尿路に異常がないかを調べます。これらの検査は、「腎移植 適応」を判断する上でも基本となるものです。
感染症検査の重要性
B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、梅毒、成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)、サイトメガロウイルス(CMV)などの感染症の有無を調べます。
これらの感染症は、ドナー自身やレシピエントの健康に重大な影響を与える可能性があるため、非常に重要な検査です。
腎機能と全身状態を評価する精密検査
初期スクリーニング検査で大きな問題がなければ、さらに詳細な検査に進みます。腎臓の形態や機能、全身の健康状態をより精密に評価します。
精密検査で用いられる主な画像検査
画像検査 | 主な目的 | 確認事項 |
---|---|---|
腹部超音波検査(エコー) | 腎臓の大きさ、形態、結石や腫瘍の有無 | 腎臓の基本的な構造評価 |
CT検査(造影含む) | 腎臓の立体的な形態、血管(動脈・静脈)の走行、尿管の評価 | 手術計画に必要な詳細な解剖学的情報 |
MRI検査 | CT検査を補完する情報、腎血管の詳細評価など | 特定の状況下での追加評価 |
腎シンチグラフィ | 左右の腎臓それぞれの機能(分腎機能)の評価 | 提供する腎臓と残す腎臓の機能バランス確認 |
画像検査(CT、MRI、超音波検査など)
CT検査やMRI検査では、腎臓の正確な大きさや形、腎臓に出入りする血管(動脈や静脈)の数や走行、尿管の状態などを詳細に調べます。これらの情報は、どちらの腎臓を提供するかを決定し、手術を安全に行うために重要です。
超音波検査は、腎臓の内部構造や結石、嚢胞の有無などを確認します。
腎生検が必要となる場合
尿検査で持続的な蛋白尿や血尿が認められる場合や、腎機能低下の原因が不明な場合など、腎臓の組織を直接調べる必要があると判断された場合に腎生検を行うことがあります。
腎生検は、局所麻酔下に細い針を腎臓に刺して組織を少量採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。全てのドナー候補者に行うわけではありません。
適合性(クロスマッチ)検査の内容
レシピエントとドナーの医学的な適合性を調べる検査も行います。主なものに、血液型検査とHLA(ヒト白血球抗原)タイピング、リンパ球クロスマッチ検査があります。
適合性検査の概要
検査項目 | 内容 | 重要性 |
---|---|---|
血液型検査(ABO式、Rh式) | ドナーとレシピエントの血液型の一致・不一致を確認 | 従来は一致または適合が原則だったが、不適合移植も可能に |
HLAタイピング | 白血球の型(HLA)を調べる | 型の一致度が高いほど拒絶反応のリスクが低いとされる |
リンパ球クロスマッチ検査 | レシピエントの血液中にドナーのリンパ球に対する抗体がないか調べる | 陽性(抗体あり)の場合、超急性拒絶反応のリスクが高いため原則禁忌(対策が必要) |
リンパ球クロスマッチ検査で陽性(レシピエントがドナーのリンパ球に対する抗体を持っている)の場合、移植後に強い拒絶反応(超急性拒絶反応)が起こるリスクが高いため、原則としてその組み合わせでの移植は行いません。
ただし、近年では、この抗体を除去する治療法も開発されつつあります。「ドナー検査」は、これらの適合性を詳細に評価するために不可欠です。
血液型不適合・HLA不適合移植について
かつては、生体腎移植を行う上で血液型やHLA(ヒト白血球抗原)の適合性が非常に重視されていました。しかし、医学の進歩により、これらの不適合を克服する治療法が開発され、移植の機会が広がっています。
従来の適合条件とその背景
従来、生体腎移植では、ABO血液型が一致または適合(O型は全血液型に提供可、AB型は全血液型から受容可など)していることが原則でした。
これは、血液型が異なると、レシピエントの体内に存在する抗体が移植腎を攻撃し、超急性拒絶反応を引き起こすリスクが高かったためです。
また、HLAの型も、親子間では半分一致、兄弟姉妹間では4分の1の確率で完全に一致しますが、一致度が高いほど移植後の拒絶反応が起こりにくいと考えられていました。
血液型不適合移植の進歩と現状
近年、血液型不適合移植は、適切な術前処置を行うことで、血液型適合移植と遜色のない成績が得られるようになってきました。これにより、ドナー候補者が血液型不適合であっても、移植を諦める必要がなくなりました。
血液型不適合移植が可能になる条件
血液型不適合移植を行うためには、レシピエントの体内に存在する、ドナーの血液型に対する抗体(抗A抗体、抗B抗体など)の力価(抗体の量や強さ)を、移植前に十分に低下させる必要があります。
この抗体価が一定のレベル以下にコントロールできることが、血液型不適合移植を行う上での重要な条件となります。
血液型不適合移植の主な術前処置
- 血漿交換療法
- 免疫吸着療法
- リツキシマブ(抗体産生を抑える薬剤)の投与
これらの処置により、抗体価を安全なレベルまで低下させ、移植に臨みます。
実施前の処置と注意点
血液型不適合移植では、移植手術の数週間前から、レシピエントに対して血漿交換や免疫グロブリン大量療法、免疫抑制剤(リツキシマブなど)の投与といった特別な処置を行います。
これにより、ドナーの血液型に対する抗体を除去したり、産生を抑制したりします。これらの処置には、感染症のリスク増加などの副作用も伴う可能性があるため、慎重な管理が必要です。
また、術後も拒絶反応のリスク管理がより重要になります。
HLA不適合移植の考え方と治療法
HLA(ヒト白血球抗原)は、免疫システムが自己と非自己を認識するための重要な目印です。HLAの型がドナーとレシピエントで大きく異なると、拒絶反応のリスクが高まります。
しかし、HLA不適合の場合でも、レシピエントがドナーのHLAに対する抗体(抗HLA抗体)を持っていなければ、通常の免疫抑制療法で移植が可能な場合があります。
抗HLA抗体を持っている場合は、その抗体の種類や力価に応じて、脱感作療法(抗体を除去または抑制する治療)を行うことで、移植が可能になるケースもあります。
夫婦間や親子間移植における適合性
夫婦間では、血縁関係がないためHLAの型が完全に一致することは稀です。親子間では、HLAの型は必ず半分一致します。
かつてはHLAの一致度が重視されましたが、免疫抑制療法の進歩により、HLA不適合でも良好な移植成績が得られるようになっています。
血液型不適合やHLA不適合であっても、適切な医学的管理のもとで移植が行えるようになってきたことは、ドナー選択の幅を広げる上で大きな進展と言えます。
ドナーの意思決定と心理的サポート
生体腎移植におけるドナーの意思決定は、医学的な側面だけでなく、倫理的・心理的な側面も深く関わります。ドナー候補者が十分な情報を得て、納得の上で最終的な決断を下せるよう、医療チームは手厚いサポートを行います。
自発的な提供意思の確認
腎臓提供は、いかなる強制や圧力もなく、ドナー自身の純粋な善意と自由な意思に基づいて行われる必要があります。
医療チーム(医師、看護師、移植コーディネーターなど)は、ドナー候補者と個別に面談を行い、提供の意思が自発的なものであるか、提供に関する情報を十分に理解しているかなどを丁寧に確認します。
この確認は、複数回にわたって行われることもあります。
ドナー候補者が抱える可能性のある不安
ドナー候補者は、手術や麻酔に対する不安、術後の痛みや回復過程、残った腎臓の機能への影響、将来の健康への懸念など、様々な不安を抱えることがあります。
また、レシピエントの状態や移植後の経過に対する心配、家族からの期待やプレッシャーを感じることもあるかもしれません。これらの不安を率直に話せる環境を提供し、一つ一つ丁寧に対応していくことが大切です。
医療チームによる情報提供とカウンセリング
医療チームは、ドナー候補者に対して、腎臓提供に関する医学的な情報(手術の方法、合併症のリスク、術後の経過、長期的な健康への影響など)を、わかりやすく具体的に説明します。
また、精神科医や臨床心理士によるカウンセリングの機会を設け、ドナー候補者が抱える心理的な負担や葛藤を軽減し、意思決定をサポートします。レシピエントとは別に、ドナー候補者だけの面談の時間を確保することも重要です。
家族や周囲の理解と協力の重要性
ドナーの意思決定と術後の回復には、家族や職場など、周囲の人々の理解と協力が大きな支えとなります。ドナー候補者の家族に対しても、必要に応じて情報提供を行い、ドナーの意思を尊重し、サポートしてもらえるよう働きかけます。
ドナーが安心して腎臓提供に臨み、術後も円滑に社会復帰できるよう、環境を整える手助けをします。
ドナーの術後のフォローアップと健康管理
腎臓を提供した後も、ドナーの長期的な健康を守るために、定期的なフォローアップと適切な健康管理が重要です。これにより、ドナーは安心して日常生活を送ることができます。
腎臓提供後の身体的な変化
腎臓を一つ提供すると、残った腎臓が代償的に大きくなり、機能も向上するため、多くの場合、日常生活に支障が出るほどの腎機能低下は起こりません。
しかし、腎臓の予備能力は低下するため、将来的に高血圧や蛋白尿が出やすくなる可能性が、腎臓を二つ持っている人と比べてわずかに高まるとされています。そのため、定期的な検査で健康状態をチェックすることが大切です。
定期的な健康診断の必要性
術後は、定期的に医療機関を受診し、血液検査、尿検査、血圧測定などを行い、腎機能や全身状態を確認します。
フォローアップの頻度は、術後の経過や個々の状態によって異なりますが、一般的には術後数年間は年に1回程度、その後も定期的な健康診断を受けることが推奨されます。
ドナーの術後フォローアップの目安
時期 | 主な検査内容 | 目的 |
---|---|---|
術後1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月 | 診察、血液検査、尿検査、血圧測定 | 術後の回復状態、腎機能の安定化の確認 |
術後1年以降(年1回程度) | 診察、血液検査、尿検査、血圧測定、必要に応じて画像検査 | 長期的な腎機能の維持、高血圧や蛋白尿の早期発見 |
長期的な健康維持のための生活上の注意点
腎臓提供後も、健康的な生活習慣を維持することが、残った腎臓の機能を守り、長期的な健康を保つために重要です。
ドナーの健康維持のための生活習慣
- 塩分控えめのバランスの取れた食事
- 適度な運動の継続
- 適正体重の維持
- 禁煙、節度ある飲酒
- 定期的な健康診断の受診
特に、塩分の過剰摂取は血圧上昇や腎臓への負担増につながるため注意が必要です。
また、市販の鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)の中には、腎機能に影響を与えるものがあるため、使用する際は医師や薬剤師に相談することが勧められます。
精神的なケアとサポート体制
腎臓提供という大きな経験は、ドナーの心理面に影響を与えることもあります。術後、達成感や満足感を得る一方で、レシピエントの状態への気遣いや、自身の健康への不安などを感じることもあるかもしれません。
医療機関によっては、ドナー経験者同士の交流会や、継続的なカウンセリングなど、精神的なサポート体制を整えているところもあります。不安や心配事があれば、遠慮なく医療スタッフに相談することが大切です。
よくある質問
生体腎移植のドナーになることを検討されている方から、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。「生体腎移植 ドナー 条件」や「ドナー検査」に関する疑問解消の一助となれば幸いです。
- ドナーになるための費用は誰が負担しますか
-
生体腎移植におけるドナーの検査や入院・手術にかかる医療費は、原則としてレシピエント(腎臓を受け取る側)の医療費として、レシピエントの健康保険で賄われます。ドナー自身が直接医療費を負担することはありません。
ただし、医療機関までの交通費や、仕事を休む間の収入保障などについては、公的な支援制度が限られているため、事前に家族や医療機関とよく相談しておくことが重要です。
- 腎臓提供後の生活に制限はありますか
-
腎臓を一つ提供した後も、残った腎臓が十分に機能するため、日常生活や仕事、学業、趣味、運動などに大きな制限はありません。多くの方が、術前と変わらない生活を送っています。
ただし、前述の通り、残った腎臓を大切にするために、塩分を控えた食事、適度な運動、体重管理、禁煙などの健康的な生活習慣を心がけることが推奨されます。
また、激しいコンタクトスポーツなど、腎臓を強打するリスクのある活動については、医師に相談するとよいでしょう。
腎臓提供後の生活に関するポイント
項目 内容 補足 食事 バランスの取れた食事、塩分控えめ 特別な食事制限は通常不要 運動 適度な運動は推奨 激しいコンタクトスポーツは医師に相談 仕事・学業 通常通り可能 術後の回復期間は個人差あり 妊娠・出産 多くの場合可能 産科医・腎臓内科医と連携し慎重な管理が必要 - ドナーになれなかった場合、他の選択肢はありますか
-
様々な「ドナー検査」の結果、医学的な理由でドナーになれないと判断されることもあります。その場合でも、レシピエントが腎移植を受けるための他の選択肢を検討することができます。
例えば、他の親族や配偶者の中にドナー候補者がいれば、その方の検査を進めることができます。また、献腎移植(亡くなられた方からの腎臓提供)の登録を行い、待機するという選択肢もあります。
近年では、ABO血液型不適合移植やHLA不適合移植、夫婦間・親子間移植など、移植の選択肢は広がっていますので、まずは移植医療チームとよく相談することが大切です。
- 検査にはどのくらいの期間がかかりますか
-
ドナーになるための検査は、ドナー候補者の健康状態や医療機関のスケジュールによって異なりますが、一般的に全ての検査が終了し、最終的な適格性が判断されるまでに、数週間から2~3ヶ月程度の期間を要することが多いです。
検査は主に外来で行われますが、一部入院が必要な検査(腎生検など)が含まれる場合もあります。具体的なスケジュールについては、担当の医療機関にご確認ください。
「ドナー検査」は段階的に進められ、各段階でドナー候補者の意思を再確認しながら進めていきます。
以上
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