健康診断や病院での血液検査の結果を見て、「腎機能が少し低下していますね」と医師から告げられ、不安に感じている方もいらっしゃるかもしれません。
特に「クレアチニン(Cr)」や「eGFR(推算糸球体濾過量)」という項目に異常値が見られた場合、それが具体的に何を意味するのか分からず、戸惑うことも多いでしょう。
この記事では、腎臓の健康状態を把握するための重要な血液検査の数値であるクレアチニンとeGFRについて、その数値が何を示しているのか、どのように解釈すればよいのかを詳しく解説します。
そもそも腎臓とはどんな臓器?その重要な働き
腎臓は、私たちの健康を維持するために、休むことなく働き続ける非常に重要な臓器です。多くの人が「おしっこを作る場所」というイメージを持っているかもしれませんが、その役割はそれだけにとどまりません。
ここでは、生命維持に欠かせない腎臓の主な働きを具体的に見ていきましょう。
体の”フィルター”としての役割
腎臓の最も基本的な働きは、血液をろ過して体内の老廃物や余分な水分を尿として排出することです。
心臓から送り出された血液の約4分の1が、毎日腎臓を通過します。腎臓の中には「糸球体(しきゅうたい)」と呼ばれる毛細血管の塊が、左右の腎臓にそれぞれ約100万個ずつ存在します。
この糸球体がフィルターの役割を果たし、血液中から老廃物や塩分、水分をこし取ります。一方で、体に必要なタンパク質や血球などは、ろ過されずに血液中に残ります。
この働きによって、私たちの体は常にきれいな状態に保たれています。
体液のバランスを整える
私たちの体の約60%は水分でできており、この体液の量と成分(電解質)のバランスを一定に保つことが生命活動には重要です。腎臓は、体の水分量に応じて尿の量を調整します。
水分を多く摂取すれば尿の量を増やし、汗をたくさんかいて体内の水分が不足しているときには尿を濃くして量を減らします。
また、ナトリウム、カリウム、カルシウムといった電解質の濃度も、腎臓が尿への排出量を調整することで、常に適切な範囲内に維持しています。
血圧を調整するホルモンを分泌
腎臓は血圧のコントロールにも深く関わっています。血圧が低下すると、腎臓は「レニン」というホルモンを分泌します。このレニンが引き金となり、体内で作られる「アンジオテンシンⅡ」という物質が血管を収縮させ、血圧を上昇させます。
また、腎臓は体内の塩分と水分の量を調節することでも血圧に影響を与えます。このように、腎臓はホルモン分泌と体液量調整の両面から、血圧を安定させる重要な役割を担っています。
ビタミンDを活性化し骨を丈夫にする
丈夫な骨を維持するためにはカルシウムが必要ですが、そのカルシウムの吸収を助けるのがビタミンDです。食事から摂取したり日光を浴びることで作られたりするビタミンDは、そのままでは体内で働くことができません。
腎臓で活性型ビタミンDに変換されて初めて、腸からのカルシウム吸収を促進する働きをします。腎機能が低下すると、このビタミンDの活性化が十分に行われなくなり、骨がもろくなる原因にもなります。
腎機能低下を知るための血液検査項目「クレアチニン(Cr)」
健康診断の血液検査結果でよく目にする「クレアチニン(Cr)」という項目。この数値が、腎機能の状態を推測するための重要な手がかりとなります。
なぜこのクレアチニンの値が腎機能の指標となるのか、その仕組みと数値の見方について解説します。
クレアチニンとは何か?
クレアチニンは、筋肉を動かすためのエネルギー源である「クレアチンリン酸」という物質が代謝された後にできる老廃物です。
筋肉で作られたクレアチニンは血液中に入り、腎臓の糸球体でろ過されて、ほとんどが尿として体外に排出されます。つまり、クレアチニンは体内で常に一定の量が作られ、腎臓の働きによって排出される物質なのです。
なぜクレアチニンの数値が腎機能の指標になるのか
腎機能が正常であれば、クレアチニンは効率よく尿中に排出されるため、血液中の濃度は一定の範囲内に保たれます。しかし、何らかの原因で腎臓のフィルター機能(糸球体のろ過機能)が低下すると、クレアチニンを十分に排出できなくなります。
その結果、行き場を失ったクレアチニンが血液中に溜まり、血液検査でのクレアチニン値が上昇します。このため、血清クレアチニン値は、腎機能がどの程度働いているかを知るための簡便で重要な指標として用いられています。
クレアチニンの基準値と性差
クレアチニンの値は、筋肉量に比例する性質があります。一般的に男性は女性よりも筋肉量が多いため、クレアチニンの基準値も男性の方が女性より高めに設定されています。
検査を受ける医療機関や検査方法によって多少の差はありますが、一般的な基準値は以下の通りです。
クレアチニン基準値の目安
性別 | 基準値 (mg/dL) | 解説 |
---|---|---|
男性 | 0.61 ~ 1.04 | 女性に比べて筋肉量が多いため、基準値が高めです。 |
女性 | 0.47 ~ 0.79 | 男性に比べて筋肉量が少ないため、基準値が低めです。 |
ただし、これはあくまで目安です。筋肉質な女性が男性の基準値に近い値を示すこともあれば、痩せ型の男性が低い値を示すこともあります。個人の体格を考慮して判断することが大切です。
基準値から外れた場合に考えられること
クレアチニン値が基準値よりも高い場合、最も考えられるのは腎機能の低下です。特に、高血圧や糖尿病などの持病がある方は、腎臓への負担が大きくなっている可能性があります。
一方で、クレアチニン値は腎機能以外の要因でも変動することがあります。例えば、激しい運動の直後や、肉類の大量摂取、脱水状態などでも一時的に上昇することがあります。
逆に、筋肉量が極端に少ない場合や、長期間寝たきりの状態では、腎機能が低下していてもクレアチニン値が基準値内に収まってしまうこともあるため注意が必要です。
より正確な腎機能の評価指標「eGFR(推算糸球体濾過量)」
クレアチニン値は腎機能の重要な指標ですが、年齢や性別、筋肉量の影響を受けるため、その数値だけでは個人の腎機能を正確に評価することが難しい場合があります。
そこで現在、広く用いられているのが「eGFR(推算糸球体濾過量)」です。
eGFRとは何か?
eGFRは「estimated Glomerular Filtration Rate」の略で、日本語では「推算糸球体濾過量」といいます。
これは、腎臓の糸球体が1分間にどれくらいの血液をろ過して尿を作れるかを示す値(GFR)を、血清クレアチニン値、年齢、性別から計算式で推算したものです。
健康な人のGFRは約100 mL/分/1.73m²であり、これは1分間に100mLの血液をろ過していることを意味します。eGFRはこのGFRを推算した値で、腎機能が健康な状態の何パーセント程度に相当するかを示しています。
なぜeGFRで評価するのか?クレアチニン値だけでは不十分な理由
前述の通り、クレアチニン値は筋肉量の影響を大きく受けます。例えば、筋肉の少ない高齢女性の場合、腎機能がかなり低下していても、クレアチニン値が基準値内に収まってしまうことがあります。
これを見逃してしまうと、適切な対応が遅れる可能性があります。eGFRは、年齢と性別を計算式に組み込むことで、こうした筋肉量の個人差を補正し、より実態に近い腎機能を評価することができます。
そのため、現在の健康診断や診療では、クレアチニン値と合わせてeGFRをチェックすることが一般的になっています。
eGFRの計算方法と評価
eGFRは、以下の情報を用いて日本人のために作成された計算式で算出します。
- 血清クレアチニン値 (mg/dL)
- 年齢 (歳)
- 性別
計算自体は複雑ですが、医療機関では自動的に算出されることがほとんどです。eGFRの数値によって、腎機能の状態を客観的に評価し、慢性腎臓病(CKD)の重症度を分類します。
eGFRによるCKD重症度分類(ステージ)
ステージ | eGFR (mL/分/1.73m²) | 腎機能の状態 |
---|---|---|
G1 | 90以上 | 正常または高値 |
G2 | 60~89 | 正常または軽度低下 |
G3a | 45~59 | 軽度~中等度低下 |
G3b | 30~44 | 中等度~高度低下 |
G4 | 15~29 | 高度低下 |
G5 | 15未満 | 末期腎不全 (ESKD) |
eGFRが示す腎臓の状態
eGFRの値が60 mL/分/1.73m²未満の場合は、腎機能が健康な人の60%未満に低下していることを意味し、慢性腎臓病(CKD)の可能性が考えられます。
特に、高齢者では加齢に伴いeGFRが自然に低下する傾向がありますが、それでも60という数値を一つの目安として捉えることが重要です。
eGFRが低いほど腎機能の低下が進行していることを示し、値が15未満になると、透析療法や腎移植などの腎代替療法を検討する必要が出てきます。
腎機能が低下するとはどういう状態か?慢性腎臓病(CKD)について
腎機能の低下が慢性的に続いている状態を「慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)」と呼びます。CKDは、自覚症状がほとんどないまま進行することが多く、「沈黙の臓器」と呼ばれる腎臓の病気の代表格です。
早期発見と適切な管理が非常に重要になります。
慢性腎臓病(CKD)の定義
CKDは、以下のいずれか、または両方が3カ月以上続いている状態と定義されます。
- 尿検査でのタンパク尿など、腎臓の障害を示す所見がある。
- eGFR(推算糸球体濾過量)が60 mL/分/1.73m²未満である。
つまり、eGFRが60以上であっても、尿タンパクが陽性であればCKDと診断されます。逆に、尿タンパクがなくてもeGFRが60未満であれば、同様にCKDと診断されます。
この2つの指標を組み合わせて評価することが、CKDの正確な診断には必要です。
CKDが進行するとどうなるか
CKDが進行し、腎機能が著しく低下すると、体内に老廃物や余分な水分が溜まり、さまざまな症状が現れます。
この状態を「腎不全」といいます。腎不全が末期の状態に至ると、自力で生命を維持することが困難になり、透析療法や腎移植といった腎代替療法が必要になります。
また、CKDは心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患の重大なリスク因子でもあります。腎機能が低下すると動脈硬化が進みやすくなるため、腎臓だけでなく全身の血管の健康にも大きく影響を及ぼすのです。
CKDのステージと症状
CKDはeGFRの値によってステージ(病期)が分類され、ステージが進むにつれてさまざまな症状が現れます。しかし、初期の段階ではほとんど自覚症状がないのが特徴です。
CKDのステージごとの主な症状
ステージ | eGFR | 主な症状 |
---|---|---|
G1~G2 | 60以上 | 自覚症状はほとんどない。夜間頻尿などが見られることも。 |
G3 | 30~59 | むくみ、貧血、倦怠感などが出始めることがあるが、無症状の場合も多い。 |
G4 | 15~29 | 食欲不振、吐き気、息切れ、かゆみなど、明らかな症状が現れる。 |
G5 | 15未満 | 全身に強い倦怠感や呼吸困難など、多彩な尿毒症症状が出現する。 |
CKDのリスクを高める要因
CKDは誰にでも起こりうる病気ですが、特にリスクを高める要因がいくつか知られています。これらの要因を持つ人は、定期的に腎機能の検査を受けることが推奨されます。
CKDの主なリスク要因
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症(高コレステロール血症など)
- 肥満
- 喫煙習慣
- CKDの家族歴
- 加齢(65歳以上)
クレアチニンやeGFRの数値に影響を与える要因
クレアチニンやeGFRの数値は、腎機能の状態を反映しますが、それ以外にもさまざまな要因によって変動することがあります。検査結果を正しく解釈するためには、これらの影響因子についても理解しておくことが大切です。
年齢や性別、筋肉量の影響
すでに述べたように、クレアチニンは筋肉で作られるため、その値は筋肉量と深く関係しています。年齢や性別によって筋肉量が異なるため、クレアチニン値もそれに伴い変動します。
eGFRはこれらの影響を補正するために考案された指標ですが、それでも極端な体格の人では、計算値と実際の腎機能にズレが生じる可能性があります。
数値に影響を与える身体的要因
要因 | クレアチニン値への影響 | eGFRへの影響 |
---|---|---|
加齢 | 筋肉量減少により低下傾向 | 計算式により年齢とともに低下 |
性別(男性) | 筋肉量が多いため高い | 計算式で補正される |
筋肉量が多い | 高くなる | 計算上、低く(悪く)算出されやすい |
筋肉量が少ない | 低くなる | 計算上、高く(良く)算出されやすい |
食事や運動などの生活習慣
日常生活の行動も、一時的に検査数値に影響を与えることがあります。例えば、焼肉やステーキなど、肉類を大量に食べた後にはクレアチニン値がわずかに上昇することがあります。
これは、肉に含まれるクレアチンが体内でクレアチニンに変わるためです。また、激しい運動を行うと、筋肉の分解が進み、一時的にクレアチニン値が上昇することがあります。
これらは一過性の変化であり、腎機能そのものが悪化したわけではありません。
脱水や薬剤による一時的な変動
下痢や嘔吐、発熱などで体内の水分が失われる「脱水」状態になると、血液が濃縮され、クレアチニン値が上昇することがあります。これは腎臓に流れ込む血液量が減少するためで、「腎前性腎不全」と呼ばれる状態です。
この場合は、水分補給によって脱水が改善すれば、クレアチニン値も元に戻ることがほとんどです。
また、一部の薬剤(非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や特定の抗生物質、降圧薬など)も腎機能に影響を与え、クレアチニン値やeGFRを変動させることがあります。
一時的な数値変動の要因
要因 | 影響 | 解説 |
---|---|---|
脱水 | クレアチニン上昇、eGFR低下 | 体内の水分不足で血液が濃縮されるため。 |
一部の薬剤 | クレアチニン上昇、eGFR低下 | 腎臓の血流や尿細管の働きに影響する場合がある。 |
大量の肉食 | クレアチニン軽度上昇 | 食品中のクレアチンが代謝されるため。 |
他の病気との関連
腎臓は全身の健康状態の影響を受けやすい臓器です。特に、高血圧や糖尿病は、腎臓の細い血管を傷つけ、CKDの最大の原因となります。コントロール不良のまま長期間経過すると、徐々に腎機能が悪化していきます。
また、心不全などで心臓のポンプ機能が低下すると、腎臓への血流が減少し、腎機能が低下することがあります(心腎連関)。
自己免疫疾患(関節リウマチや全身性エリテマトーデスなど)が腎臓に炎症を引き起こす(腎炎)こともあり、その結果としてクレアチニン値が上昇する場合もあります。
腎機能を守るために日常生活でできること
一度失われた腎機能の多くは、残念ながら元に戻すことが難しいとされています。そのため、腎機能の低下を指摘された場合は、それ以上悪化させないように進行を遅らせることが治療の主な目標となります。
日常生活の中で、腎臓をいたわるための工夫をいくつか紹介します。
食生活の見直し 塩分とタンパク質
腎臓に負担をかけない食生活の基本は減塩です。塩分を摂りすぎると、体内に水分が溜まりやすくなり、血圧が上昇します。高血圧は腎機能低下の大きな原因となるため、塩分コントロールは非常に重要です。
また、腎機能が低下している場合は、老廃物の元となるタンパク質の摂取量を調整することが必要な場合もあります。ただし、過度なタンパク質制限は栄養不良につながるため、必ず医師や管理栄養士の指導のもとで行ってください。
減塩の工夫
- だしや香辛料、香味野菜(しょうが、にんにく等)で風味を補う
- 醤油やソースは「かける」より「つける」
- 麺類の汁は飲まないようにする
- 加工食品やインスタント食品を避ける
適度な運動のすすめ
ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動は、血圧や血糖値を下げる効果が期待でき、腎臓への負担を軽減することにつながります。また、肥満の解消も腎臓を守る上で重要です。
ただし、過度に激しい運動は、かえって腎臓に負担をかける可能性もあるため、ご自身の体調やCKDのステージに合わせて、無理のない範囲で行うことが大切です。どのような運動が適しているか、主治医に相談してみましょう。
血圧と血糖の管理
高血圧と糖尿病は、CKDの二大原因です。腎機能を守るためには、これらの生活習慣病を厳格に管理することが何よりも重要です。
医師から処方された薬を正しく服用するとともに、家庭での血圧測定や血糖測定を習慣にし、ご自身の状態を把握しましょう。測定した値は記録しておき、受診の際に医師に見せると、治療方針を決める上で役立ちます。
自宅でできる血圧管理
項目 | ポイント | 理由 |
---|---|---|
測定タイミング | 朝(起床後1時間以内)と夜(就寝前)の2回 | 日中の変動を把握するため。 |
測定時の姿勢 | 椅子に座り、1~2分安静にしてから測定 | 正確な数値を測定するため。 |
記録 | 測定した数値をすべて記録する | 長期的な血圧の傾向を把握するため。 |
禁煙と節酒の重要性
喫煙は血管を収縮させ、動脈硬化を促進するため、腎臓の血流を悪化させます。CKDの進行を早めるだけでなく、心血管疾患のリスクも高めるため、禁煙は必須です。
また、過度のアルコール摂取も血圧を上昇させ、腎臓に負担をかけます。飲酒は適量を守り、休肝日を設けるなど、節度ある楽しみ方を心がけましょう。
検査結果を受けてこれからどうすればよいか
健康診断などで腎機能の低下を指摘されたら、それはご自身の体と向き合う良い機会です。不安になる気持ちも分かりますが、まずは冷静に、そして正しく行動することが重要です。
自己判断で放置したり、民間療法に頼ったりすることは避けましょう。
まずはかかりつけ医に相談する
検査結果に異常が見られた場合、まずは結果を持参して、かかりつけの医師に相談してください。高血圧や糖尿病などで普段から通院している場合は、その主治医が最もあなたの体の状態を理解しています。
一時的な体調の変化によるものか、あるいは精密検査が必要な状態なのかを判断してくれます。
再検査や精密検査の必要性
一度の検査だけでは、本当に腎機能が低下しているのか判断できないこともあります。前述のように、脱水や食事などの影響で一時的に数値が変動することもあるためです。そのため、日を改めて再検査を行うことがよくあります。
再検査でも異常が続く場合や、尿タンパクが陽性である場合などは、腎臓の状態をより詳しく調べるために、以下のような精密検査を行うことがあります。
腎機能の精密検査の種類
- 腹部超音波(エコー)検査
- CT検査・MRI検査
- 腎生検
専門医(腎臓内科)の受診を勧められたら
かかりつけ医の判断で、より専門的な診断や治療が必要とされた場合、腎臓内科への紹介状を渡されることがあります。専門医は、CKDの原因を特定し、その進行を抑制するための治療計画を立てます。
紹介された際には、ためらわずに専門医の診察を受けてください。早期に専門的な介入を開始することが、将来にわたってご自身の腎臓を守る鍵となります。
検査結果を自己判断しないことの重要性
「クレアチニンの数値が基準値より少し高いだけだから大丈夫だろう」「eGFRがまだ60以上あるから問題ない」といった自己判断は最も危険です。特にCKDは初期症状がほとんどなく、静かに進行します。
検査結果の数値が持つ意味を正しく評価し、適切な次のステップへ進むためには、医師による総合的な判断が不可欠です。検査結果は、体からの大切なサインと受け止め、専門家である医師の意見に耳を傾けるようにしてください。
よくある質問
ここでは、腎機能の検査数値に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- クレアチニンの数値が少し高いだけなら心配ない?
-
たとえクレアチニン値の上昇がわずかであっても、注意が必要です。クレアチニン値は、腎機能がある程度低下しないと上昇してこないという特徴があります。
例えば、腎機能が正常の50%まで低下して、ようやく基準値を超えてくるというケースも少なくありません。そのため、「少し高いだけ」と軽視せず、eGFRの数値も合わせて確認することが重要です。
クレアチニン値が基準値内でも、eGFRが60未満であれば腎機能は低下していると判断します。
クレアチニン値とeGFRの関係(参考例:50歳男性)
クレアチニン値 (mg/dL) eGFR (mL/分/1.73m²) 腎機能の評価 0.9 84.7 正常範囲 1.2 61.5 軽度低下(境界域) 1.5 47.8 中等度低下(CKDステージG3b) - 一度下がった腎機能は元に戻らない?
-
急性の腎障害(例えば脱水や薬剤によるもの)であれば、原因を取り除くことで腎機能が回復する可能性があります。
しかし、高血圧や糖尿病などが原因で長期間かけてゆっくりと悪化した慢性腎臓病(CKD)の場合、失われた腎機能が完全に元通りになることは難しいのが現状です。
ただし、適切な治療や生活習慣の改善によって、腎機能の低下するスピードを緩やかにし、現状を維持することは十分に可能です。そのためにも、早期発見と治療継続が大切になります。
- 腎臓に良い特定の食べ物はある?
-
「これを食べれば腎臓が良くなる」という魔法のような特定の食品は存在しません。むしろ重要なのは、腎臓に負担をかける栄養素を過剰に摂取しないことです。
特にCKDが進行した場合は、塩分、タンパク質に加えて、カリウムやリンの制限が必要になることがあります。野菜や果物にはカリウムが多く含まれるため、摂り方に工夫が必要な場合もあります。
食事療法はCKDのステージや合併症によって内容が大きく異なるため、自己判断で特定の食品を制限したり過剰に摂取したりせず、必ず医師や管理栄養士に相談してください。
腎臓への負担を考慮する際に注意したい栄養素
- 塩分(ナトリウム)
- タンパク質
- カリウム
- リン
- 薬を飲むと腎臓に悪い影響がある?
-
薬の中には、腎臓に負担をかける可能性があるものも確かに存在します。特に、市販の痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬)の長期にわたる乱用は、腎機能に悪影響を及ぼすことが知られています。
しかし、医師が処方する薬は、患者さんの腎機能の状態を考慮した上で、種類や量が調整されています。高血圧や糖尿病の薬は、適切に使用することでむしろ腎臓を保護する効果があります。
薬について不安な点があれば、自己判断で中断せず、必ず主治医や薬剤師に相談してください。
薬剤について医師・薬剤師に確認したいこと
確認事項 目的 現在服用中のすべての薬(市販薬・サプリ含む)を伝える 薬の飲み合わせや重複を避けるため。 薬の効能と副作用について説明を受ける 薬への理解を深め、安心して治療を続けるため。 薬を飲み始めてから体調の変化がないか確認する 副作用の早期発見につなげるため。
以上
参考文献
MULA-ABED, Waad-Allah S.; AL RASADI, Khalid; AL-RIYAMI, Dawood. Estimated glomerular filtration rate (eGFR): A serum creatinine-based test for the detection of chronic kidney disease and its impact on clinical practice. Oman medical journal, 2012, 27.2: 108.
RULE, Andrew D., et al. Using serum creatinine to estimate glomerular filtration rate: accuracy in good health and in chronic kidney disease. Annals of internal medicine, 2004, 141.12: 929-937.
GAITONDE, David Y.; COOK, David L.; RIVERA, Ian M. Chronic kidney disease: detection and evaluation. American family physician, 2017, 96.12: 776-783.
PERALTA, Carmen A., et al. Detection of chronic kidney disease with creatinine, cystatin C, and urine albumin-to-creatinine ratio and association with progression to end-stage renal disease and mortality. Jama, 2011, 305.15: 1545-1552.
BOSTOM, Andrew G.; KRONENBERG, Florian; RITZ, Eberhard. Predictive performance of renal function equations for patients with chronic kidney disease and normal serum creatinine levels. Journal of the American Society of Nephrology, 2002, 13.8: 2140-2144.
SNYDER, Susan; PENDERGRAPH, BERNADETTE. Detection and evaluation of chronic kidney disease. American family physician, 2005, 72.9: 1723-1732.
ELIAS, Merrill F., et al. Chronic kidney disease, creatinine and cognitive functioning. Nephrology Dialysis Transplantation, 2009, 24.8: 2446-2452.
LEVEY, Andrew S.; BECKER, Cassandra; INKER, Lesley A. Glomerular filtration rate and albuminuria for detection and staging of acute and chronic kidney disease in adults: a systematic review. Jama, 2015, 313.8: 837-846.
VASSALOTTI, Joseph A., et al. Practical approach to detection and management of chronic kidney disease for the primary care clinician. The American journal of medicine, 2016, 129.2: 153-162. e7.