健康診断で腎機能の低下を指摘され、医師から精密検査のための入院を勧められたとき、多くの方が「費用はいくらかかるのだろう」「どんな検査をするのだろう」「どのくらい休む必要があるのか」といった不安を感じるのではないでしょうか。
この記事では、腎臓の精密検査で入院が必要になる理由から、検査内容、期間、そして費用の目安まで、疑問に一つひとつお答えしていきます。
なぜ腎臓の精密検査で入院が必要になるのか
「なぜ外来ではなく、入院してまで検査を?」そう疑問に思う方もいるかもしれません。腎臓の状態を正確に把握し、適切な治療方針を立てるためには、入院環境での精密な検査が重要になる場合があります。
腎臓の働きと機能低下のサイン
腎臓は、血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として排泄する、生命維持に欠かせない臓器です。その他にも、血圧の調整や赤血球を作るホルモンの分泌など、多彩な役割を担っています。
しかし、腎臓は沈黙の臓器とも呼ばれ、機能がかなり低下するまで自覚症状が現れにくい特徴があります。そのため、健康診断で指摘されて初めて異常に気づくケースが少なくありません。
腎機能低下で現れる可能性のあるサイン
分類 | 主なサイン |
---|---|
尿の異常 | 尿が泡立つ(タンパク尿)、色が濃い、夜間のトイレ回数増加 |
体の変化 | むくみ(顔、足)、貧血、倦怠感、息切れ、高血圧 |
その他の症状 | 食欲不振、吐き気、皮膚のかゆみ |
外来検査と入院検査の違い
外来で行う検査は主に血液検査や尿検査、超音波検査など、比較的短時間で済むものが中心です。
検査で腎機能のおおよその状態は把握できますが、病気の原因を特定したり、腎臓の組織そのものを詳しく調べるためには、より専門的な検査が必要になります。
入院することで時間をかけて体を管理しながら、安全かつ正確にこれらの精密検査を実施することが可能です。
入院でなければ分からないこと
入院検査の代表例が腎生検で、これは、腎臓の組織を直接採取して顕微鏡で調べる検査で、腎臓病の確定診断には非常に有効な方法です。
腎生検は出血のリスクを伴うため、検査後数日間の安静が必要なので、安全管理の観点から入院が必須となります。また、24時間分の尿をすべて集めて調べる蓄尿検査も、正確なデータを取るためには入院環境が望ましい検査です。
外来検査と入院検査の比較
項目 | 外来検査 | 入院検査 |
---|---|---|
目的 | スクリーニング、定期観察 | 確定診断、重症度評価 |
主な検査 | 血液検査、尿検査、超音波 | 腎生検、蓄尿検査、各種負荷試験 |
特徴 | 手軽で身体的負担が少ない | より正確で詳細な情報が得られる |
早期発見・早期治療の重要性
慢性腎臓病(CKD)は進行すると末期腎不全に至り、透析治療や腎移植が必要になる場合がありますが、早期の段階で原因を特定し治療を開始すれば、病気の進行を遅らせたり改善させることができます。
精密検査入院はそのための重要な一歩で、少しでも早く腎臓の状態を正確に把握し治療の第一歩を踏み出すことが、将来の健康を守る上で何よりも大切です。
精密検査入院の具体的な流れと期間
検査入院が決まると、次に気になるのはスケジュールではないでしょうか。入院してから退院するまでどのような流れで進んでいくのか、また、どのくらいの期間を見ておけば良いのか、一般的な目安を解説します。
入院から検査開始までの準備
入院日は病棟のスタッフから入院生活に関する説明を受けた後、血圧測定や採血などの基本的なチェックを行います。検査内容によっては、食事や水分の摂取に制限がかかることもあります。
医師や看護師から詳しい説明があるので、指示に従って検査に備えてください。
入院時に持参すると便利なもの
- 着脱しやすい前開きのパジャマ
- 滑りにくい室内履き
- 羽織るもの(カーディガンなど)
- 暇つぶしになる本やタブレット端末
標準的な入院期間の目安
腎臓の精密検査入院の期間は、実施する検査内容によって大きく異なります。腎生検を行う場合、検査そのものは1時間程度ですが、検査後の安静期間を含めて1週間から10日前後の入院となることが多いです。
腎生検を行わず血液検査や画像検査、蓄尿検査などが中心の場合は、2泊3日から4泊5日程度が目安となります。
検査内容別の入院期間目安
主な検査内容 | 一般的な入院期間 |
---|---|
蓄尿検査、血液検査、画像検査など | 2泊3日 ~ 4泊5日 |
腎生検を含む場合 | 7泊8日 ~ 9泊10日 |
検査内容による期間の変動
上記の期間はあくまで一般的な目安です。患者さん個々の体の状態や、検査結果によっては追加の検査が必要になることもあり、入院期間が延長する可能性もあります。
また、腎生検後に出血などの合併症が起きた場合も、安静期間を長く取る必要があります。詳細なスケジュールについては、入院前に担当の医師から説明がありますので、よく確認してください。
退院後の生活とフォローアップ
無事に退院した後も、腎臓の健康を守るためには継続的な管理が必要で、特に腎生検を受けた場合は、退院後もしばらくは激しい運動を避けるなどの生活上の制限があります。
また、退院後は定期的に外来を受診し、検査結果に基づいた治療や生活習慣の改善を続けていきます。医師や管理栄養士の指導のもと、二人三脚で治療に取り組むことが重要です。
腎臓の精密検査で実施する主な検査内容
精密検査と一言でいっても内容は多岐にわたり、血液や尿から体の状態を探る検査、画像で腎臓の形を見る検査、そして組織を直接調べる検査などを組み合わせます。
血液検査と尿検査の詳細
血液検査では、腎機能の指標となるクレアチニン(Cr)や尿素窒素(BUN)の値を測定し、腎臓が老廃物をどのくらいろ過できているかを示すeGFR(推算糸球体ろ過量)を算出します。
尿検査ではタンパク尿や血尿の有無、量を詳しく調べます。検査は腎臓病のスクリーニングだけでなく、病気の勢いや治療効果の判定にも用いる基本的な検査です。
腎生検とは何か
腎生検は、背中から細い針を刺して腎臓の組織を少量採取し、顕微鏡で詳細に観察する検査です。
検査によって、腎臓でどのような変化が起きているのかを直接確認できるため、腎炎の種類や進行度、治療方針の決定に極めて重要な情報をもたらします。
局所麻酔で行い、超音波で腎臓の位置を確認しながら安全に実施しますが、出血のリスク管理のため検査後の安静が必須です。
腎生検後の注意点
- 検査当日はベッド上で絶対安静
- 翌日以降も数日間は院内での安静が必要
- 退院後1~2週間は激しい運動や重労働を避ける
画像検査(超音波・CT・MRI)の役割
画像検査では腎臓の大きさや形、血流の状態、結石や腫瘍の有無などを評価し、超音波(エコー)検査は、体に負担なく簡便に行える検査で、腎臓の基本的な形態を観察します。
CT検査やMRI検査はより詳細な断層画像を撮影し、腎臓やその周辺の血管、他の臓器との関係を立体的に把握するために用います。
蓄尿検査でわかること
蓄尿検査は24時間に排出される尿をすべて溜めて、総量や含まれるタンパク質、塩分、その他の物質の量を正確に測定する検査です。一回の尿検査では分かりにくい、一日の尿中へのタンパクや塩分の排泄量を正確に知ることができます。
結果は病気の重症度を判断したり、食事療法(減塩やタンパク制限)の効果を評価したりするための重要なデータです。
気になる入院費用の内訳と目安
検査入院と聞いて、多くの方が心配されるのが費用面でしょう。公的保険が適用されるとはいえ、まとまった出費になることも事実です。ここでは、入院費用の主な内訳と自己負担額がどのくらいになるのか、目安を見ていきます。
入院基本料と検査料
入院費用は、主に入院基本料と検査料・投薬料などで構成されます。入院基本料は、入院している日数に応じて発生する基本的な費用で、看護師の配置基準など病院の体制によって金額が変わります。
検査料は、実施した血液検査や画像検査、腎生検などの個別の検査にかかる費用です。行った検査の種類や回数が多いほど、この部分の費用は高くなります。
入院費用の主な内訳
費用の種類 | 内容 |
---|---|
入院料 | 入院基本料、食事療養費など |
検査・投薬料 | 血液検査、画像検査、腎生検、薬剤費など |
その他 | 差額ベッド代(個室など)、文書料など |
食事代や差額ベッド代
入院中の食事代(食事療養費)は、1食あたり490円(2024年6月時点、一部所得区分により減額あり)と定められています。また、個室や少人数の部屋を希望した場合にかかる差額ベッド代は、公的医療保険の適用外となり、全額自己負担です。
差額ベッド代は病院や部屋の種類によって大きく異なるため、希望する場合は事前に金額を確認しましょう。
保険適用(3割負担)の場合の費用例
日本の公的医療保険制度では原則として医療費の7割が保険で賄われ、自己負担は3割(年齢や所得による変動あり)です。腎臓の精密検査入院では、腎生検の有無で費用が大きく変わります。
自己負担額(3割)のシミュレーション
入院パターン(目安) | 総医療費(10割)の目安 | 自己負担額(3割)の目安 |
---|---|---|
3泊4日の検査入院(腎生検なし) | 約15万円 ~ 25万円 | 約4.5万円 ~ 7.5万円 |
8泊9日の検査入院(腎生検あり) | 約30万円 ~ 50万円 | 約9万円 ~ 15万円 |
※上記はあくまで一般的な目安でm食事代や差額ベッド代は含まれていません。個々の状態や病院によって費用は異なります。
腎生検を行った場合の費用加算
腎生検を行うと、手技料や病理診断料などが加算されるため、費用は高くなります。腎生検の手技そのものに加え、採取した組織を専門の医師が顕微鏡で観察し、診断を下すための費用(病理診断)も必要です。
入院費用を抑えるための公的医療保険制度
検査入院で自己負担額が高額になった場合でも、負担を軽減するための制度が用意されています。制度を事前に知り、準備しておくことで、経済的な不安を少しでも和らげられます。
高額療養費制度の仕組み
高額療養費制度とは、1か月の医療費の自己負担額が一定の上限額を超えた場合に、超えた部分が後から払い戻される制度です。自己負担の上限額は、年齢や所得によって区分が分かれています。
70歳未満で標準的な所得の方の場合、自己負担上限額は月あたり約8万円強です。
高額療養費制度の自己負担上限額(70歳未満の例)
所得区分(年収の目安) | 自己負担上限額(月額) |
---|---|
~約370万円 | 57,600円 |
約370万円~約770万円 | 80,100円 + (総医療費-267,000円)×1% |
約770万円~約1,160万円 | 167,400円 + (総医療費-558,000円)×1% |
限度額適用認定証の事前申請
高額療養費制度は後から払い戻しを受けるのが基本ですが、限度額適用認定証を事前に入手し病院の窓口で提示すれば、支払いを自己負担上限額までに抑えられます。
一時的に大きな金額を立て替える必要がなくなるため、入院前にご自身が加入している健康保険組合や市町村の担当窓口に申請しておくことが大切です。
医療費控除による税金の還付
一年間(1月1日~12月31日)に支払った医療費の合計が10万円(または総所得金額の5%)を超えた場合、確定申告を行うことで医療費控除が受けられ、手続きにより、所得税や住民税の一部が還付または軽減されます。
病院への支払いの領収書はもちろん、通院にかかった交通費(公共交通機関)なども対象になる場合がありますので、領収書は大切に保管しておきましょう。
加入している民間保険の確認
生命保険や医療保険に加入している場合、入院給付金や手術給付金が支払われる可能性があります。検査入院が給付の対象になるか、また腎生検が手術として扱われるかは、契約内容によって異なります。
入院が決まった段階でご自身の保険証券を確認したり、保険会社の担当者に問い合わせておくと安心です。
検査結果と診断後のこと
全ての検査を終え結果を聞くときが、治療のスタートラインです。検査結果から何が分かり、これからどのように病気と向き合っていくのか、その後の流れについてみていきます。
検査結果の説明とカンファレンス
退院時または退院後の外来で、担当の医師から検査結果について詳しい説明があります。
血液検査や画像検査、そして腎生検の病理診断結果などを総合的に判断し、現在の腎臓の状態、病気の名前(診断名)、重症度、今後の見通しなどが伝えられます。
疑問や不安な点があれば、この機会に遠慮なく質問することが大切で、ご家族と一緒に説明を聞くことも可能です。
考えられる腎臓の病気
腎臓の精密検査、腎生検によって診断される病気は様々で、代表的なものに、免疫の異常が関与するIgA腎症や膜性腎症、ネフローゼ症候群、全身の病気(糖尿病や膠原病など)に伴う腎臓病などがあります。
病気の名前を正確に特定することが、最も効果的な治療法を選択する上で重要です。
腎生検で診断される主な疾患例
疾患カテゴリー | 代表的な疾患名 |
---|---|
慢性糸球体腎炎 | IgA腎症、膜性腎症、巣状分節性糸球体硬化症 |
ネフローゼ症候群 | 微小変化型ネフローゼ症候群 |
全身性疾患に伴うもの | ループス腎炎、糖尿病性腎症 |
治療方針の決定
確定した診断に基づき今後の治療方針を決定し、病気の種類や進行度により、生活習慣の改善や食事療法、薬物療法などを組み合わせて行います。
薬物療法では、血圧を下げる薬や、免疫の働きを調整するステロイド薬・免疫抑制薬などを用いることがあります。医師とよく相談し、納得した上で治療を開始することが重要です。
食事療法や生活習慣の指導
腎臓病の治療では、薬物療法と並行して食事療法が非常に重要な役割を果たし、腎臓への負担を軽くするために、塩分やタンパク質、カリウムなどの摂取量を調整します。
管理栄養士から個々の状態に合わせた具体的な食事指導を受けられ、また、禁煙や適度な運動、血圧管理など、日常生活全般にわたる改善も、病気の進行を抑えるために大切です。
よくある質問
最後に、腎臓の検査入院に関して多くの方が抱く疑問や不安について、Q&A形式でお答えします。
- 腎生検は痛いですか?合併症はありますか?
-
腎生検は局所麻酔を十分に行うため、検査中に強い痛みを感じることはまれで、針を刺すときにチクッとした感覚や、組織を採取する際に鈍い圧迫感を感じることがあります。
最も注意すべき合併症は出血なので、検査後は長時間の安静が必要です。頻度は低いですが、血腫(血のかたまり)ができたり、輸血が必要になることもあります。
- 入院中の食事はどのようなものですか?
-
入院中の食事は、腎臓に負担をかけないように配慮された腎臓病食が基本となります。塩分やタンパク質、カリウムなどが制限された食事で、最初は薄味に感じるかもしれませんが、病状を改善するための治療の一環です。
管理栄養士が栄養バランスを計算して献立を作成しており、退院後の食事療法の参考にもなります。
- 仕事はどのくらい休む必要がありますか?
-
休む期間は、入院期間に加えて、退院後の安静期間も考慮する必要があります。
デスクワーク中心の仕事であれば、退院後すぐに復帰できることもありますが、力仕事や激しい運動を伴う仕事の場合は、腎生検後であれば最低でも2週間程度は休養することが望ましいです。
- 家族の面会は可能ですか?
-
家族の面会は、病院が定める面会時間内であれば基本的に可能です。ただし、昨今の感染症対策の状況により、面会が制限されたり、人数や時間に制約が設けられたりしている場合があります。
入院前に病院のホームページで最新の面会ルールを確認するか、病棟スタッフにお問い合わせください。
以上
参考文献
Honda K, Akune Y, Goto R. Cost-Effectiveness of School Urinary Screening for Early Detection of IgA Nephropathy in Japan. JAMA network open. 2024 Feb 5;7(2):e2356412-.
Nawata K, Kimura M. Evaluation of medical costs of kidney diseases and risk factors in Japan. Health. 2017 Dec 8;9(13):1734.
Takura T, Hiramatsu M, Nakamoto H, Kuragano T, Minakuchi J, Ishida H, Nakayama M, Takahashi S, Kawanishi H. Health economic evaluation of peritoneal dialysis based on cost-effectiveness in Japan: a preliminary study. ClinicoEconomics and Outcomes Research. 2019 Sep 25:579-90.
Imai E, Yamagata K, Iseki K, Iso H, Horio M, Mkino H, Hishida A, Matsuo S. Kidney disease screening program in Japan: history, outcome, and perspectives. Clinical journal of the American Society of Nephrology. 2007 Nov 1;2(6):1360-6.
Sakoi N, Mori Y, Tsugawa Y, Tanaka J, Fukuma S. Early-stage chronic kidney disease and related health care spending. JAMA Network Open. 2024 Jan 2;7(1):e2351518-.
Hayashida K, Imanaka Y, Otsubo T, Kuwabara K, Ishikawa KB, Fushimi K, Hashimoto H, Yasunaga H, Horiguchi H, Anan M, Fujimori K. Development and analysis of a nationwide cost database of acute‐care hospitals in Japan. Journal of Evaluation in Clinical Practice. 2009 Aug;15(4):626-33.
Sato M, Morimoto R, Seiji K, Iwakura Y, Ono Y, Kudo M, Satoh F, Ito S, Ishibashi T, Takase K. Cost-effectiveness analysis of the diagnosis and treatment of primary aldosteronism in Japan. Hormone and Metabolic Research. 2015 Oct;47(11):826-32.
Yamagata K, Iseki K, Nitta K, Imai H, Iino Y, Matsuo S, Makino H, Hishida A. Chronic kidney disease perspectives in Japan and the importance of urinalysis screening. Clinical and experimental nephrology. 2008 Feb;12:1-8.
Naito H. The Japanese health-care system and reimbursement for dialysis. Peritoneal dialysis international. 2006 Mar;26(2):155-61.
Iseki K. Chronic kidney disease in Japan. Internal Medicine. 2008;47(8):681-9.