在宅血液透析(Home Hemodialysis, HHD)は、慢性腎不全の治療法の一つで、患者さんがご自身の自宅で血液透析を行う方法です。医療機関への頻繁な通院が難しい方や、ご自身の生活リズムに合わせて透析を行いたいと考える方にとって、有力な選択肢となります。
この記事では、在宅血液透析の基本的な情報、その利点と注意点、必要な費用、そして治療を開始するまでの手順について、詳しく解説します。
在宅血液透析(HHD)の基本を理解する
在宅血液透析(HHD)は、患者さんが主体的に治療に関わる透析療法です。その特性を正しく理解することが、治療選択の第一歩となります。
在宅血液透析とは何か
在宅血液透析とは、患者さん自身または介助者の方が、医療スタッフの指導のもと、自宅に設置した透析機器を使用して血液透析治療を行う方法です。
医療機関で行う施設透析と同様に、血液中の老廃物や余分な水分を除去し、電解質のバランスを整えることを目的とします。自宅という慣れた環境で治療を受けられる点が大きな特徴です。
透析を自宅で行うことにより、生活の自由度が高まる可能性があります。
HHDが適している方
HHDは、全ての方に適しているわけではありません。一般的に、以下のような方がHHDの候補として考えられます。
- 自己管理能力が高い方
- 介助者の協力が得られる方
- 安定した病状の方
- HHDに関する十分な知識習得と技術習得の意欲がある方
もちろん、これらの条件は一律ではなく、個々の状況に応じて医師が総合的に判断します。ご自身の状況がHHDに適しているかどうかは、主治医と十分に相談することが重要です。
また、在宅血液透析を希望する強い意志も、治療を継続する上で大切な要素となります。
施設透析との主な違い
HHDと施設透析は、治療の目的は同じでも、いくつかの点で異なります。これらの違いを理解することで、ご自身にとってどちらの治療法がより合っているかを判断する助けになります。
HHDと施設透析の比較
項目 | 在宅血液透析(HHD) | 施設透析 |
---|---|---|
治療場所 | 自宅 | 医療機関(病院・クリニック) |
治療スケジュール | 比較的自由に設定可能 | 医療機関の指定時間に準じる |
通院頻度 | 月1~2回程度(定期受診) | 週2~3回 |
自己管理 | 高度な自己管理が必要 | 医療スタッフによる管理が中心 |
上の表で示したように、HHDは時間的な制約が少なく、生活の自由度が高い一方で、自己管理の責任が大きくなります。一方、施設透析は医療スタッフによるサポートが手厚い反面、時間的な制約があります。
HHDの歴史と現状
血液透析治療は長い歴史を持ちますが、在宅血液透析も古くから行われている治療法の一つです。技術の進歩とともに、より安全に、より簡便にHHDを行えるようになってきています。
日本においては、欧米諸国と比較するとHHDの普及率はまだ低いですが、そのメリットが認識されるにつれて、選択する患者さんは徐々に増加傾向にあります。医療機関によっては、HHDの導入に積極的なところもあります。
在宅血液透析(HHD)の多様なメリット
在宅血液透析は、患者さんの生活の質(QOL)向上に貢献する多くのメリットが期待できます。身体的な負担軽減から、時間的・精神的なゆとりまで、その効果は多岐にわたります。
生活の質(QOL)の向上
HHDの最大のメリットの一つは、生活の質の向上です。自宅で透析を行うことで、通院に伴う身体的・時間的負担が軽減され、ご自身のライフスタイルに合わせた治療スケジュールを組みやすくなります。
例えば、仕事や趣味、家族との時間をより柔軟に確保できるようになる可能性があります。また、睡眠時間を確保しながら十分な透析時間を確保できる長時間透析や頻回透析も行いやすいため、体調改善効果も期待できます。
HHDによるQOL向上要素
QOL向上要素 | 具体的な内容 |
---|---|
時間的自由 | 仕事、学業、趣味との両立がしやすい |
精神的安定 | 慣れた自宅環境でのリラックスした治療 |
社会的活動 | 社会参加の機会が増える可能性 |
身体的な負担の軽減
HHDでは、透析時間や回数を比較的自由に調整できるため、より生理的な状態に近い透析(緩徐な透析、頻回透析、長時間透析など)を行うことが可能です。
これにより、血圧の急激な変動や透析後の倦怠感といった、透析に伴う不快な症状が軽減されることがあります。また、十分な透析量を確保することで、貧血の改善やリンのコントロールが良好になるなど、全身状態の改善も期待できます。
通院時間の削減と自由な時間
施設透析の場合、週に2~3回の通院が必要で、1回の透析時間と併せて移動時間も考慮すると、多くの時間を治療に費やすことになります。HHDでは、定期的な受診(通常は月に1~2回程度)を除けば、通院の必要がありません。
これにより、通院にかけていた時間を他の活動に充てることができ、生活の幅が広がります。特に、医療機関が遠方にある方にとっては、大きなメリットとなるでしょう。
食事制限の緩和の可能性
一般的に、透析患者さんはカリウムやリン、水分などの摂取制限が必要となります。しかし、HHDで十分な透析量(長時間透析や頻回透析)を確保できる場合、これらの食事制限がいくらか緩和されることがあります。
完全に制限がなくなるわけではありませんが、食事の選択肢が増え、食べる楽しみを取り戻せる可能性があります。ただし、食事制限の変更については、必ず主治医や管理栄養士の指示に従うことが重要です。
在宅血液透析(HHD)のデメリットと留意点
多くのメリットがある一方で、在宅血液透析にはいくつかのデメリットや留意すべき点も存在します。これらを事前に理解し、対策を講じることが、安全かつ効果的なHHDの実施につながります。
自己管理の重要性と責任
HHDでは、透析の準備、実施、終了までの一連の操作を患者さん自身または介助者が行います。そのため、高度な自己管理能力と責任感が求められます。
日々の体調管理、機器の操作、衛生管理、記録の徹底など、施設透析以上に主体的な取り組みが必要です。万が一、トラブルが発生した場合にも、初期対応は自分たちで行う必要があります。
自己管理の主な項目
管理項目 | 主な内容 |
---|---|
体調管理 | 血圧、体重、体温などの測定と記録 |
機器操作 | 透析装置、水処理装置の正確な操作 |
衛生管理 | 穿刺部位の消毒、機器の清掃 |
介助者の確保と負担
HHDの実施には、原則として介助者の協力が必要です。介助者は、透析の準備や操作の補助、緊急時の対応など、重要な役割を担います。そのため、介助者にもHHDに関する知識と技術の習得が求められます。
介助者の身体的・精神的な負担が大きくなる可能性も考慮し、家族内で十分に話し合い、協力体制を築くことが大切です。医療機関によっては、介助者の負担を軽減するためのサポート体制を整えている場合もあります。
緊急時の対応と準備
自宅での透析中に、体調の急変や機器のトラブルなど、予期せぬ事態が発生する可能性はゼロではありません。そのため、緊急時の対応方法を事前に習得し、いつでも対応できるように準備しておくことが重要です。
具体的には、医療機関への連絡方法、応急処置の手順などを家族全員で共有しておく必要があります。定期的な訓練やシミュレーションも有効です。
緊急時の連絡体制の確立は非常に重要です。主治医や透析施設の連絡先をすぐわかる場所に掲示し、緊急時の対応フローを明確にしておきましょう。
心理的な側面とサポート
HHDは自宅で治療を行うため、孤独感を感じたり、治療への不安を抱えたりすることがあります。また、介助者も同様に心理的なプレッシャーを感じることがあります。
このような心理的な負担を軽減するためには、医療スタッフとの定期的な面談や、同じHHDを行っている患者さん同士の交流などが役立ちます。精神的なサポート体制についても、事前に医療機関に確認しておくと良いでしょう。
HHD導入のための準備と環境整備
在宅血液透析を開始するには、自宅の環境を整え、必要な知識と技術を習得するための準備期間が必要です。計画的に進めることで、スムーズな導入が可能です。
自宅内の設置スペース確保
HHDを行うためには、透析装置や水処理装置などを設置するための専用スペースが必要です。一般的には、2畳から3畳程度の広さが目安とされていますが、使用する在宅血液透析機器の種類によって異なります。
設置場所は、給排水設備や電気設備へのアクセスが良い場所を選ぶことが重要です。また、衛生的に保てる環境であることも求められます。医療スタッフや専門業者が自宅を訪問し、適切な設置場所についてアドバイスを行います。
必要なスペースの目安
機器 | おおよその設置スペース |
---|---|
透析装置(コンソール) | 約1畳 |
水処理装置 | 約1畳(機種による) |
その他(椅子、物品置き場など) | 約1畳 |
上記の表はあくまで目安です。実際の設置にあたっては、専門家とよく相談してください。
水道と電気工事の確認
HHDで使用する水処理装置は、大量の水道水を使用します。そのため、水道の配管工事が必要になる場合があります。
また、透析装置や水処理装置は専用の電源を必要とすることが多いため、電気工事(アース付きコンセントの設置など)が必要になることもあります。
これらの工事は、専門の業者が行います。工事費用については、事前に見積もりを取り、確認しておくことが大切です。
必要なトレーニングと教育
HHDを安全に行うためには、患者さん自身と介助者が、透析に関する知識と技術を習得するためのトレーニングを受ける必要があります。
トレーニング期間は、個人の習熟度や医療機関の方針によって異なりますが、一般的には1ヶ月から3ヶ月程度です。トレーニングでは、透析理論、機器の操作方法、穿刺技術、トラブルシューティング、緊急時対応などを学びます。
医療スタッフが丁寧に指導し、習熟度を確認しながら進めます。
医療機関との連携体制
HHDを開始した後も、医療機関との密接な連携は継続します。定期的な受診(通常は月1~2回)では、血液検査や体調チェック、透析状況の確認などを行います。
また、電話やオンラインでの相談体制を整えている医療機関も多く、日々の疑問や不安に対応します。緊急時には、24時間体制で対応する医療機関もありますので、事前に確認しておきましょう。
在宅血液透析(HHD)で使用する主な機器
在宅血液透析を行うためには、いくつかの専門的な医療機器が必要です。これらの在宅血液透析機器の機能と役割を理解することは、安全な治療の実施に繋がります。
透析装置(コンソール)の種類と機能
透析装置(コンソール)は、HHDの中心となる機器です。血液を体外に引き出し、ダイアライザー(人工腎臓)を通して浄化し、再び体内に戻す役割を担います。
近年の透析装置は、操作性や安全性が向上しており、家庭用として使いやすいように小型化された機種もあります。
装置には、血液ポンプ、透析液供給装置、各種モニター(血圧、気泡検知など)が内蔵されており、安全に透析が行えるように設計されています。
機種によって機能や操作方法が異なるため、トレーニングを通じてしっかりと習得することが重要です。
主な透析装置の機能
機能 | 概要 |
---|---|
血液ポンプ | 血液を体外循環させる |
透析液供給 | 透析液をダイアライザーへ送る |
安全モニター | 血圧、気泡、漏血などを監視 |
ダイアライザー(人工腎臓)の役割
ダイアライザーは、血液中の老廃物や余分な水分を除去する「人工腎臓」の役割を果たします。半透膜という特殊な膜でできた細い管(中空糸)が数多く束ねられており、その中を血液が、外側を透析液が流れます。
この半透膜を介して、血液中の老廃物や余分な水分が透析液側に移動し、浄化されます。ダイアライザーは、患者さんの体格や透析条件に合わせて、適切な種類やサイズを選択します。基本的に使い捨て(ディスポーザブル)です。
水処理装置の重要性
透析液は、濃縮された電解質液を清浄な水で希釈して作ります。この「清浄な水」を作るのが水処理装置です。
水道水には、微量の塩素や細菌、エンドトキシン(細菌由来の毒素)などが含まれているため、これらを透析に適したレベルまで除去する必要があります。水処理装置は、フィルターや逆浸透膜(RO膜)などを用いて、水道水を高度に浄化します。
良質な透析液を作るためには、水処理装置の適切な管理と定期的なメンテナンスが極めて重要です。透析を自宅で行う上で、水質管理は安全性に直結します。
穿刺針やその他消耗品
HHDには、上記の主要な機器以外にも、様々な消耗品が必要です。代表的なものとして、バスキュラーアクセス(シャントなど)に穿刺するための針、血液回路、透析液濃縮剤、消毒薬、ガーゼ、テープなどがあります。
これらの消耗品は、定期的に医療機関から供給されます。在庫管理も患者さん自身または介助者が行うため、計画的に発注することが大切です。
在宅血液透析(HHD)にかかる費用と経済的サポート
在宅血液透析を導入・継続するにあたっては、在宅透析の費用が気になる点の一つです。初期費用や月々の費用、そして利用できる公的助成制度について解説します。
初期導入費用の内訳
HHDを開始する際には、いくつかの初期費用が発生します。主なものとして、透析装置や水処理装置の購入またはレンタル費用、設置工事費(水道・電気工事など)、トレーニング費用などが挙げられます。
これらの費用は、医療機関の方針や選択する機器によって異なります。多くの場合は、医療機関が機器を貸与する形を取りますが、一部自己負担が発生することもあります。
具体的な費用については、事前に医療機関に確認することが重要です。工事費については、自治体によっては助成制度がある場合もあります。
初期導入費用の例
項目 | 費用の目安 | 備考 |
---|---|---|
機器設置関連費用 | 数万円~数十万円 | 工事内容による |
トレーニング費用 | 医療保険適用の場合あり | 医療機関による |
月々のランニングコスト
HHDを継続するためには、月々のランニングコストも発生します。主なものは、透析液、ダイアライザー、血液回路などの消耗品費、水道光熱費(電気代・水道代)です。
これらの費用の多くは医療保険の適用対象となりますが、一部自己負担が生じる場合があります。水道光熱費は、透析時間や頻度によって変動します。
一般的に、施設透析と比較して、HHDの自己負担額が大幅に高くなるわけではありませんが、家計への影響を考慮し、事前に試算しておくことをお勧めします。
医療費助成制度の活用
透析治療には、高額な医療費がかかるため、様々な公的助成制度が設けられています。HHDもこれらの制度の対象となります。代表的なものとして、特定疾病療養受療制度、自立支援医療(更生医療)、重度心身障害者医療費助成制度などがあります。
これらの制度を利用することで、医療費の自己負担額を大幅に軽減できます。申請手続きや対象となる条件は、制度によって異なりますので、医療機関のソーシャルワーカーや市区町村の担当窓口に相談し、利用できる制度を確認しましょう。
主な医療費助成制度
- 特定疾病療養受療制度
- 自立支援医療(更生医療)
- 重度心身障害者医療費助成制度
- 各自治体の助成制度
費用の管理と計画
HHDにかかる費用は、医療費だけでなく、水道光熱費なども含めて総合的に管理することが大切です。家計簿などを活用し、月々の支出を把握することで、無理のない治療継続に繋がります。
また、医療費助成制度の申請漏れがないように注意し、更新手続きなども忘れずに行いましょう。費用に関する不安や疑問点があれば、遠慮なく医療スタッフやソーシャルワーカーに相談することが重要です。
HHD導入への具体的な手順
在宅血液透析を実際に開始するまでには、いくつかの段階を踏む必要があります。医療機関と十分に連携を取りながら、計画的に進めていくことが大切です。
医療機関への相談と情報収集
まず、HHDに関心を持ったら、現在治療を受けている、あるいはこれから治療を開始する医療機関の主治医に相談しましょう。HHDの適応があるか、どのようなメリット・デメリットがあるかなど、基本的な情報を提供してもらえます。
また、実際にHHDを行っている患者さんの話を聞く機会があれば、より具体的なイメージを持つことができるでしょう。
インターネットや書籍などで、在宅血液透析に関する情報を集めることも有効ですが、最終的な判断は専門家である医師と相談の上で行うことが重要です。
適応判断と検査
主治医との相談の結果、HHDを具体的に検討することになった場合、医学的な適応判断のための検査が行われます。全身状態、合併症の有無、バスキュラーアクセスの状態などが評価されます。
また、患者さん自身や介助者のHHDに対する理解度や意欲、家庭環境なども考慮されます。これらの情報を総合的に判断し、HHDが適切であると判断されれば、導入に向けた準備が開始されます。
患者と介助者のトレーニング開始
HHDの適応があると判断されたら、患者さんと介助者は、HHDに必要な知識と技術を習得するためのトレーニングを受けます。トレーニングは、通常、医療機関内の専用トレーニング室で行われます。
経験豊富な看護師や臨床工学技士が指導にあたり、透析理論の学習から、在宅血液透析機器の操作、穿刺、トラブルシューティング、緊急時対応まで、実践的に学びます。
トレーニング期間は、個々の習熟度に応じて調整されますが、一般的には1ヶ月から3ヶ月程度です。自信を持って自宅で透析を行えるようになるまで、しっかりとサポートします。
主なトレーニング内容
トレーニング項目 | 学習内容 |
---|---|
透析の基礎知識 | 腎臓の働き、透析の原理など |
機器操作 | 透析装置、水処理装置の操作、設定 |
穿刺技術 | 自己穿刺または介助者による穿刺 |
緊急時対応 | トラブル発生時の対処法、連絡方法 |
上記の表は代表的なトレーニング内容です。個々の状況に合わせて内容は調整されます。
自宅での透析開始とフォローアップ
トレーニングを修了し、自宅の環境整備が完了したら、いよいよ自宅での透析が開始されます。開始当初は、医療スタッフが訪問してサポートを行う場合もあります。HHD開始後も、定期的な通院(通常月1~2回)が必要です。
通院時には、血液検査、体調チェック、透析記録の確認などが行われ、必要に応じて治療条件の見直しや指導が行われます。
また、電話やオンラインでの相談窓口を設けている医療機関も多く、日々の疑問や不安に対応できる体制が整えられています。継続的なフォローアップを通じて、安全かつ快適なHHD生活を送れるように支援します。
在宅血液透析(HHD)に関するよくある質問
在宅血液透析を検討されている方から寄せられる、代表的な質問とその回答をまとめました。これ以外にも疑問点があれば、遠慮なく医療スタッフにご相談ください。
- どのような訓練が必要ですか
-
在宅血液透析(HHD)を開始するためには、患者さんご本人と介助者の方が、透析に関する知識と技術を習得するための専門的な訓練を受ける必要があります。
訓練期間は通常1ヶ月から3ヶ月程度で、医療機関の専門スタッフ(医師、看護師、臨床工学技士など)が指導します。訓練内容には、透析の原理、在宅血液透析機器(透析装置、水処理装置)の操作方法、シャントへの穿刺技術、透析中の合併症とその対策、緊急時の対応などが含まれます。
ご自身で安全に透析を行えるようになるまで、しっかりとサポートします。
- 緊急時にはどうすれば良いですか
-
HHD中に体調不良や機器のトラブルなどの緊急事態が発生した場合は、まず落ち着いて、事前に訓練で習った手順に従って初期対応を行います。同時に、速やかに契約している医療機関の緊急連絡先に連絡を取ってください。
多くの医療機関では、24時間対応の連絡体制を整えています。連絡を受けた医療スタッフが、状況に応じて適切な指示を出したり、必要であれば往診や救急搬送の手配などを行います。
緊急時の連絡先や対応手順は、常に目に見える場所に掲示しておくことが重要です。
- 旅行はできますか
-
はい、在宅血液透析を行っていても旅行は可能です。事前に主治医と相談し、旅行中の透析計画を立てる必要があります。
短期間の旅行であれば、旅行先で透析を受け入れてくれる施設を探したり、ポータブルな透析装置を利用したりする方法があります。また、HHD機器を旅行先に輸送して透析を行うことも、条件によっては可能です。
旅行時の透析方法の選択肢
選択肢 概要 注意点 旅行先施設での透析 事前に受け入れ施設を探し予約 情報提供書などが必要 ポータブル透析装置の利用 一部機種で対応可能 医師の許可と指導が必要 HHD機器の輸送 運搬手段、設置場所の確保 費用、手間がかかる場合あり - 介助者がいない場合でも導入できますか
-
在宅血液透析は、原則として介助者の協力が必要とされています。透析の準備、操作、トラブル対応など、一人で行うには困難な場面や、安全管理の観点から介助者の存在が重要となるためです。
しかし、患者さんの状態や自己管理能力、利用できるサポート体制などによっては、単独でのHHD導入を検討できる場合もごく稀にあります。これには、医療機関の厳しい基準や特別なサポート体制が前提となります。
まずは主治医と十分に相談し、ご自身の状況で介助者なしでの導入が可能かどうか、どのようなサポートが必要かを確認することが大切です。
現実的には、安定したHHD継続のためには、信頼できる介助者の存在が強く推奨されます。
透析センター(人工透析) | 大垣中央病院(医療法人社団豊正会 )
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