血液透析治療は、腎臓の働きを代替する治療法で、多くの透析液が使用されます。透析液の大部分は水から作られるため、透析用水の水質が、治療の安全性と効果に直接的な影響を与えます。
水道水をそのまま治療に使うことはできず、専用の水処理装置を通して、清浄な水にしなければなりません。
この記事では、なぜ透析用水の水質管理がこれほどまでに重要なのか、安全性を支える水処理装置の役割や、守られるべき水質基準について、分かりやすく解説します。
透析治療における水の重要性 なぜきれいな水が必要なのか
透析治療を安全に進める上で、基本となるのが「水」です。治療の質は、使用する水の質に大きく左右されると言っても過言ではありません。普段私たちが何気なく使っている水と、透析治療で使う水には、どのような違いがあるのでしょうか。
大量の水が直接体内環境に影響する透析治療
血液透析治療では、ダイアライザ(透析器)と呼ばれる特殊な膜を介して、血液と透析液が接触します。ダイアライザの中で、血液中の老廃物や余分な水分が透析液側へと移動し、血液が浄化されます。
1回の透析治療で使われる透析液の量は、およそ120リットルにも及び、これは一般的な家庭の浴槽一杯分に近い量です。これほど大量の水が、薄い膜一枚を隔てて血液と触れ合うため、透析用水の清浄度は、体内の環境に直接的な影響を与えます。
もし水にわずかでも不純物が含まれていれば体内に入り、さまざまな健康問題を起こす可能性があるのです。
水道水がそのまま使えない理由
日本の水道水は世界的に見ても非常に安全で高品質ですが、それでも透析治療にそのまま使用することはできません。
水道水には、消毒のための塩素をはじめ、カルシウムやマグネシウムといったミネラル分、ごく微量の重金属、細菌やその死骸の成分であるエンドトキシンなどが含まれています。
健康な人が飲む分には全く問題ないこれらの物質も、透析治療を通じて大量に体内に入ると、体に悪影響を及ぼすことがあります。
そのため、水道水は専門の水処理装置を使って、様々な物質を徹底的に取り除き、超純水ともいえるレベルまで清浄化する必要があるのです。
水道水に含まれる主な物質と透析への影響
| 物質名 | 健康な人への影響 | 透析治療での影響 |
|---|---|---|
| 塩素 | 飲用では問題ない | 貧血の悪化などを引き起こす可能性がある |
| カルシウム・マグネシウム | ミネラルとして有用 | 高カルシウム血症などを引き起こす可能性がある |
| アルミニウム | ごく微量で問題ない | 骨や脳に障害を引き起こす可能性がある |
清浄化された透析用水の役割
水処理装置によって徹底的にきれいにされた透析用水は、薬剤と混合されて透析液の原液となり、さらに希釈されて最終的な透析液が作られ、ダイアライザ内で重要な役割を果たします。
一つは、血液から老廃物を効率的に除去することで、もう一つは、血液中の電解質バランスを正常に保つことです。透析液に含まれる電解質の濃度は、健康な人の血液に近い状態に調整されています。
濃度差を利用して、血液中の過剰なカリウムやリンなどを取り除き、不足している重炭酸イオンなどを補充します。きれいな水があって初めて、繊細な物質の交換が正しく行われるのです。
水質が透析治療の成果を左右する
透析用水の質は、治療中の短期的な安全性だけでなく、長期的な健康状態、いわゆる予後にも深く関わっています。水質が悪いと、微量の不純物が体内に少しずつ蓄積し、慢性の炎症状態を起こすことがあります。
慢性の炎症は、動脈硬化を進行させ、心血管系の合併症のリスクを高める一因と考えられていて、水質管理が徹底された施設で治療を受けることは、リスクを低減し、より元気で長生きすることにつながります。
透析用水の管理レベルは、透析治療全体の質を決める、極めて重要な要素なのです。
透析用水に含まれる不純物とその健康への影響
水道水には、私たちの健康に影響を及ぼす可能性のあるさまざまな不純物が、ごく微量ながら含まれていて、水処理装置で除去するのですが、どのような物質が特に問題となるのでしょうか。
ここでは、透析用水の水質管理において特に注意が必要な不純物と、体に及ぼす影響について解説します。
エンドトキシン(内毒素)の危険性
透析用水の管理で最も警戒される物質の一つが、エンドトキシンです。
エンドトキシンは、グラム陰性菌という種類の細菌の細胞壁に含まれる成分で、細菌が死滅した際に放出されますが、水道水の中にもごく微量にあり、通常の飲用では問題になりません。
しかし、透析治療で体内に入ると、免疫系が過剰に反応し、発熱や血圧低下などの急性症状を起こすことがあります。
さらに、持続的に微量のエンドトキシンが体内に入ると、慢性的な炎症状態が誘発され、動脈硬化や栄養障害、アミロイドーシスなどの長期的な合併症の原因にもなるため、透析用水のエンドトキシン濃度は、極めて低いレベルに保つことが重要です。
エンドトキシンが関与する可能性のある症状
| 分類 | 具体的な症状・合併症 |
|---|---|
| 急性症状 | 発熱、悪寒、血圧低下 |
| 慢性・長期的影響 | 慢性炎症、動脈硬化、栄養障害、透析アミロイドーシス |
微生物(細菌や真菌)による汚染リスク
水の中には、さまざまな微生物、つまり細菌や真菌(カビ)などがあります。水処理装置は微生物を除去しますが、装置内や配管の管理が不十分だと、バイオフィルムと呼ばれる微生物の集合体が形成されることがあります。
バイオフィルムは、微生物が粘液状の物質を産生して定着したもので、消毒薬などに対する抵抗性が高いのが特徴です。
バイオフィルムがひとたび形成されると、そこから微生物やエンドトキシンが持続的に透析用水へと放出され、水質を悪化させる原因となります。
微生物そのものが体内に入ることは敗血症などの深刻な感染症につながるため、水処理システム全体の衛生管理が非常に重要です。
一般化学物質(塩素、重金属など)の影響
水道水には塩素のほか、地域によってはごく微量のアルミニウム、銅、亜鉛などの重金属が含まれることがあり、長期間にわたって体内に蓄積すると、さまざまな健康被害を引き起こす可能性があります。
- 塩素:赤血球を破壊し、溶血性貧血の原因となることがある。
- アルミニウム:骨や脳に蓄積し、アルミニウム骨症や透析脳症といった重篤な合併症を引き起こすことがある。
- 銅:嘔吐や肝機能障害などを引き起こすことがある。
化学物質は、水処理装置によって確実に除去されなければならず、定期的な水質検査で、基準値以下であることを確認する作業は、安全な透析治療に欠かせません。
その他の微量物質と長期的な合併症
近年では、これまであまり注目されてこなかった微量な物質が、長期的な健康に影響を与える可能性も指摘されていて、水道水中に含まれる消毒副生成物などが一例です。
これらの物質が透析患者の体にどのような影響を及ぼすかについては、まだ研究途上の部分もありますが、リスクを最小限に抑えるためには、可能な限り多くの不純物を除去できる高性能な水処理システムを用いることが望ましいです。
水質管理の目標は、単に基準をクリアするだけでなく、より清浄で安全な水を追求し続けることにあります。
安全な透析治療の要 水処理装置の仕組みと役割
水道水を安全な透析用水に変えるためには、大規模で複雑な水処理装置が必要で、この装置は、複数の異なる機能を持つ機器を組み合わせたシステムになっており、段階的に不純物を除去していきます。
水道水を透析用水に変える一連の流れ
水処理装置の仕事は、まず水道水中の比較的大きなゴミや錆などを取り除くことから始まり、その後、水の硬度成分や塩素などを除去する「前処理」を行い、システムの心臓部である「RO装置」で水分子以外のほとんどの物質を取り除きます。
こうして作られたきれいな水は、一度タンクに貯められ、配管を通って各透析装置へと供給され、この一連の流れの中で、水質が劣化しないように、システム全体が衛生的に保たれています。
水処理システムの構成要素
| 処理段階 | 主な装置 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 前処理 | フィルター、軟水装置、活性炭ろ過装置 | 大きなゴミ、硬度成分、残留塩素の除去 |
| 主処理 | RO装置(逆浸透膜装置) | イオン、エンドトキシン、微生物などの除去 |
| 供給 | RO水タンク、供給ポンプ、配管 | 清浄な水を各ベッドサイドへ送る |
前処理装置の役割 活性炭や軟水化装置
前処理は、後段にあるメインのRO装置を保護し、性能を最大限に引き出すために重要な工程です。
まず、フィルターで水道水中の目に見えるゴミや砂、配管の錆などを取り除き、次に、軟水装置で、水垢の原因となるカルシウムやマグネシウムといった硬度成分をイオン交換によって除去します。
これはRO装置の膜が目詰まりするのを防ぐためです。そして、活性炭ろ過装置を通過させます。活性炭は表面に無数の微細な孔を持っており、そこに水道水中の残留塩素や有機物などを吸着させて取り除きます。
塩素はRO膜を傷める原因となるため、ここで確実に取り除くことが大切です。
メインの浄化装置 RO装置の働き
前処理を終えた水は、いよいよ水処理システムの心臓部であるRO装置へと送られ、ROはReverse Osmosisの略で、逆浸透法を意味します。
これは、水は通すが水に溶けているイオンや分子はほとんど通さない、極めて目の細かい特殊な膜(RO膜)を使ったろ過技術です。
RO装置では、ポンプで高い圧力をかけた水をこのRO膜に通すことで、水分子だけを通過させ、イオン類、重金属、エンドトキシン、ウイルス、細菌といった不純物のほとんどすべてを膜の向こう側に分離・除去します。
RO装置の働きによって、水道水は極めて純度の高い「RO水」、すなわち透析用水のベースとなる水に生まれ変わります。
供給装置と配管 清浄な水を届ける最後の砦
RO装置で作られたRO水は、一度タンクに貯蔵された後、配管を通って院内の各透析装置(コンソール)へと供給され、この最終段階でも、水質を維持するための工夫が凝らされています。
配管内で水が滞留すると微生物が繁殖しやすくなるため、常に水が循環するような配管ループが組まれていて、また、配管の材質も、微生物が繁殖しにくい清浄なものが使用されます。
さらに、配管の末端や各透析装置の直前に、エンドトキシン捕捉フィルター(ETRF)と呼ばれる最終的な安全フィルターを設置し、これは、万が一、配管内で発生したエンドトキシンなどが透析液に入るのを防ぐ二重の安全対策です。
透析用水に求められる厳格な水質基準とは
透析用水の安全性は、感覚や経験だけで判断されるものではなく、科学的な根拠に基づいた、極めて厳格な水質基準が定められており、すべての透析施設はこの基準を遵守する義務があります。
日本臨床工学技士会が定める基準
現在、日本の多くの透析施設では、公益社団法人日本臨床工学技士会が作成した透析液水質基準を参照していて、この基準は、国内外の研究成果や臨床データに基づいて作成されており、定期的に改訂されています。
基準には、透析用水そのものだけでなく、実際に治療に使用する透析液についても、微生物学的基準と化学的基準がそれぞれ定められていて、施設では、基準を満たしていることを定期的な検査によって確認し、記録を残しています。
透析液水質基準の主な管理対象
- 透析用水:透析液を作るための元となる水
- A原液・B原液:透析液の濃縮液
- 標準透析液:標準的な血液透析(HD)で用いる透析液
- 超純粋透析液:オンラインHDFなどで用いる、より清浄度の高い透析液
エンドトキシン濃度の基準値
前述の通り、エンドトキシンは透析患者の体にさまざまな悪影響を及ぼすため、濃度は特に厳しく管理されています。基準では、測定方法と対象となる透析液の種類によって目標値が異なります。
標準的な透析で用いる透析液のエンドトキシン濃度は、0.050 EU/mL未満です。
さらに、より清浄度が求められるオンラインHDF(血液透析濾過)などの治療で用いる「超純粋透析液」に至っては、0.001 EU/mL未満という、検出限界に近い極めて厳しい基準値が設定されています。
エンドトキシン濃度の水質基準(抜粋)
| 対象 | 基準値(目標値) | 補足 |
|---|---|---|
| 標準透析液 | 0.050 EU/mL 未満 | 通常の血液透析で使用 |
| 超純粋透析液 | 0.001 EU/mL 未満 | オンラインHDFなどで使用 |
生菌数の基準値
生菌数、つまり生きている細菌の数も、エンドトキシンと同様に厳しく管理される項目で、細菌汚染はエンドトキシン発生の直接的な原因となるため、水処理システム全体を衛生的に保ち、細菌の繁殖を抑えることが重要です。
標準的な透析液の生菌数は100 CFU/mL未満、そして超純粋透析液では0.1 CFU/mL未満と定められていて、CFUは「Colony Forming Unit」の略で、細菌のコロニー(集落)を数える単位です。
超純粋透析液の基準である0.1 CFU/mL未満というのは、10mLの検体を検査しても細菌が1つも検出されないレベルを意味し、ほぼ無菌に近い状態が求められていることが分かります。
化学汚染物質の許容濃度
透析用水に含まれる可能性のある化学物質についても、それぞれ許容される最大濃度が定められていて、水道水由来の塩素やアルミニウム、銅、亜鉛、フッ素などです。
RO装置によってほとんどが除去されますが、万が一の事態に備え、定期的に測定し、基準値以下であることを確認します。
透析患者さんに重篤な合併症を起こすことで知られるアルミニウムは、0.01 mg/L未満という非常に低い濃度に管理されています。
徹底した透析用水の品質管理
厳格な水質基準を常に満たし、安全な透析用水を安定して供給し続けるためには、水処理装置を設置するだけでは不十分です。そこには、医療スタッフによる日々の地道で計画的な管理作業があります。
定期的な水質検査の実施
水質の安全性を確認するための最も基本となるのが、定期的な水質検査です。検査には、毎日から週に一度の頻度で行う簡易的なものから、月に一度、あるいは年に一度、専門の検査機関に依頼して行う精密なものまであります。
エンドトキシンと生菌数の測定は重要で、透析液水質基準に沿って、水処理システムの各ポイントでサンプリングを行い、汚染がないかを監視し、検査結果はすべて記録・保管され、いつでも確認できるようになっています。
水質検査の頻度と項目の例
| 頻度 | 検査項目例 | 目的 |
|---|---|---|
| 毎日 | 残留塩素濃度、装置の圧力・流量 | 装置の日常的な動作確認 |
| 毎月 | エンドトキシン、生菌数 | 微生物学的清浄度の確認 |
| 毎年 | 微量元素(アルミニウム等) | 化学的汚染物質の確認 |
装置や配管の洗浄・消毒
微生物汚染を防ぐためには、水処理装置全体を定期的に洗浄・消毒することが欠かせません。
微生物が繁殖しやすいRO水タンクや配管は、計画的に洗浄・消毒を行い、消毒には、次亜塩素酸ナトリウムや過酢酸といった薬剤が用いられることが多く、消毒後は装置内に薬剤が残留しないよう、十分にすすぎを行います。
また、透析治療が終了した後、各ベッドサイドの透析装置も毎回洗浄・消毒が行われ、次の治療に備え、こうした日々の積み重ねが、システム全体の清浄度を維持しているのです。
消耗品の計画的な交換
水処理装置には、フィルターや活性炭、RO膜、イオン交換樹脂など、多くの消耗品が使われていて、部品にはそれぞれ寿命があり、性能が低下すると水質悪化に直結します。
各部品の使用時間や処理水量に基づいて、計画的に交換スケジュールを立て、定期的にメンテナンスを行います。
特に、システムの最終段に設置されるエンドトキシン捕捉フィルター(ETRF)は、最後の砦として非常に重要な役割を担うため、メーカーの推奨に従って確実に交換されます。
スタッフによる日常的な点検
透析施設の臨床工学技士や看護師は、毎日の業務開始前に、水処理装置や透析装置の動作チェックを行います。
装置の表示ランプは正常か、圧力や流量、水温などの運転データに異常はないか、異音や水漏れはないかなど、多岐にわたる項目を目視や計器で確認します。
万が一、わずかでも異常を検知した場合は、原因を究明し、安全が確認されるまで装置を稼働させることはありません。
- 装置の運転状況の確認
- 計器類の数値チェック
- 異音・異臭・水漏れの有無
- 消耗品の交換時期の確認
より安全な透析治療のために知っておきたいこと
透析用水の水質管理は、目に見えない部分での取り組みですが、治療の安全性と質を支える非常に大切な基盤です。ここでは、近年の透析治療と水質の関係や、医療機関の取り組みについて解説します。
オンラインHDF(血液透析濾過)と水質の関係
近年、通常の血液透析(HD)よりも多くの老廃物を除去でき、合併症の予防効果が期待される治療法として、オンラインHDF(血液透析濾過)が普及してきています。
この治療法は、透析中に清浄化された透析液(置換液)を直接血液中に補充し、その分だけ多くの水分を除去することで、より効率的な浄化を行うものです。
血液に直接大量の液を注入するため、使用する透析液には「超純粋透析液」と呼ばれる、極めて高いレベルの清浄度が求められ、オンラインHDFを安全に行うためには、これまで以上に徹底した水質管理体制が前提となります。
オンラインHDFで特に重要な水質管理
| 項目 | 通常のHDとの違い |
|---|---|
| 使用する透析液 | 標準透析液ではなく「超純粋透析液」が必須 |
| 求められる清浄度 | エンドトキシン、生菌数ともに、より厳しい基準値 |
| 安全対策 | ETRFの二重設置など、厳重な汚染防止策が必要 |
水質管理体制の重要性
安全な透析用水を供給するためには、高性能な水処理装置があるだけでは不十分で、運用・管理する「人」の体制が重要です。
透析施設には、医療機器の専門家である臨床工学技士が配置されており、水処理装置の日常点検から定期メンテナンス、水質検査の実施と評価まで、水質管理全般を担っています。
また、医師や看護師も水質管理の重要性を理解し、臨床工学技士と連携しながら、患者さんの状態に変化がないか常に注意を払っていて、チーム医療として水質管理に取り組む姿勢が、質の高い透析医療を支えています。
医療機関が取り組むべき安全対策
質の高い水質管理を維持するため、医療機関はさまざまな安全対策に取り組んでいて、水処理装置の管理手順をマニュアル化し、誰が作業しても同じ品質を保てるようにしています。
また、水質検査の結果やメンテナンスの記録をきちんと管理し、問題が発生した際には迅速に原因を特定できる体制を整えています。
さらに、スタッフが水質管理に関する最新の知識や技術を習得できるよう、定期的な勉強会や外部の研修会への参加を奨励しています。こうした地道な努力が、患者さんが安心して治療を受けられる環境を作り出しているのです。
- 管理手順のマニュアル化
- 記録の適切な保管と管理
- スタッフ教育の徹底
透析用水の水質管理に関するよくある質問
最後に、透析用水やその管理に関して、患者さんやご家族からよく寄せられる質問と回答をまとめました。
- 透析用水や透析液の味やにおいはしますか?
-
透析用水は、水道水に含まれる塩素やミネラルなどの味やにおいの元となる物質が、水処理装置によって徹底的に除去されていつため、無味無臭です。
治療中に何か異常な味やにおいを感じることがあれば、それは通常の状態ではないため、すぐにスタッフに知らせてください。
- 自宅の浄水器の水は透析に使えますか?
-
家庭用の浄水器は、主に水道水の残留塩素や濁りなどを取り除き、飲用としておいしくすることを目的としていて、透析治療に有害なエンドトキシンや微量のイオン、細菌などを完全に除去することはできません。
透析治療には、専門の極めて高性能な水処理装置によって作られた、厳格な基準を満たす透析用水が必須です。
- 水質管理が不十分だとどのような症状が出ますか?
-
水質に問題があった場合、原因となる物質によってさまざまな症状が現れる可能性があり、エンドトキシンが原因であれば透析中の発熱や悪寒、血圧低下などが見られます。
塩素が混入した場合は、貧血や吐き気などが起こることがあり、また、はっきりとした症状が出なくても、長期的には慢性の炎症による動脈硬化の進行や栄養状態の悪化などにつながる可能性があります。
医療スタッフは、こうした症状の兆候を見逃さないよう、常に患者さんの状態を注意深く観察しています。
- 水質検査はどのくらいの頻度で行うのですか?
-
装置が正常に動いているかを確認するための日常的な点検(残留塩素のチェックなど)は毎日行います。
透析液の清浄度を直接確認する、エンドトキシンや生菌数の検査は、関連法規やガイドラインに沿って、少なくとも月に1回以上実施します。
さらに年に1回は、水道水に含まれる可能性のある微量な化学物質などがきちんと除去されているかを確認する、より詳細な検査を行います。
以上
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