透析は一生続けなければならない?治療期間と他の選択肢について

透析は一生続けなければならない?治療期間と他の選択肢について

腎臓の機能が低下し、透析治療を勧められた方や、ご家族が透析治療を検討している方にとって、「透析は一生続くのだろうか」という疑問は、大きな不安の一つでしょう。

この記事では、透析治療の基本的な情報から、治療期間、そして腎移植といった他の選択肢について、分かりやすく解説します。

透析治療についての正しい知識を得て、前向きに治療と向き合うための一助となれば幸いです。

目次

透析治療とは何か

透析治療は、腎臓の機能が著しく低下した際に、その働きの一部を代替する治療法です。私たちの体にとって重要な役割を担う腎臓の機能が失われると、体内に老廃物や余分な水分が溜まり、様々な健康問題を引き起こします。

透析治療は、これらの問題を解決し、生命を維持するために行います。

腎臓の役割と機能低下

腎臓は、血液をろ過して尿を作り、体内の老廃物を排出する重要な臓器です。

また、体内の水分量や電解質(ナトリウム、カリウムなど)のバランスを調整したり、血圧をコントロールするホルモンや、赤血球を作るホルモンを分泌したりする役割も担っています。

しかし、様々な原因によって腎臓の機能が低下すると、これらの働きが十分に行えなくなります。

腎臓の主な働き

  • 老廃物の排出
  • 水分・電解質バランスの調整
  • 血圧の調整
  • ホルモンの産生

透析が必要になる状態

腎臓の機能が正常の10%以下程度まで低下し、尿毒症の症状(食欲不振、吐き気、全身倦怠感、呼吸困難など)が現れたり、薬物療法ではコントロールできない水分貯留や電解質異常が生じたりすると、透析治療の開始を検討します。

この状態を末期腎不全と呼びます。

急性腎障害と慢性腎臓病

腎機能が急激に悪化する状態を急性腎障害といい、原因によっては回復する可能性があります。一方、数ヶ月から数年にわたって徐々に腎機能が低下していく状態を慢性腎臓病(CKD)といいます。

慢性腎臓病が進行し、末期腎不全に至った場合、腎臓の機能回復は難しく、透析治療や腎移植が必要になります。

保存期腎不全とその後の選択

慢性腎臓病が進行しても、すぐに透析治療が始まるわけではありません。腎機能がある程度保たれている間は、食事療法や薬物療法によって腎機能の低下を遅らせ、尿毒症の症状を抑える「保存期治療」を行います。

しかし、保存期治療だけでは生命維持が困難になった場合に、透析治療または腎移植という腎代替療法を選択します。

腎代替療法の選択肢

治療法概要主な特徴
血液透析機械で血液を浄化週2~3回通院、1回4~5時間
腹膜透析自身の腹膜を利用して透析在宅治療、1日数回のバッグ交換
腎移植健康な腎臓を移植透析からの離脱、免疫抑制剤の服用

透析治療の種類と特徴

透析治療には、主に「血液透析(HD)」と「腹膜透析(PD)」の2つの種類があります。どちらの治療法を選択するかは、医学的な状態やライフスタイル、患者さんの希望などを総合的に考慮して決定します。

血液透析(HD)

血液透析は、腕の血管に刺した針から血液を体外に取り出し、ダイアライザー(人工腎臓)という機械を通して老廃物や余分な水分を除去し、浄化した血液を体内に戻す治療法です。

通常、週に2~3回、医療機関に通院し、1回あたり4~5時間程度の治療を受けます。医療スタッフが治療を行うため、比較的安定した透析効率を得やすいのが特徴です。

腹膜透析(PD)

腹膜透析は、お腹の中にカテーテルという細い管を留置し、その管から透析液を注入します。

自身の腹膜(お腹の内側を覆う薄い膜)を利用して、血液中の老廃物や余分な水分を透析液に移動させ、その透析液を体外に排出することで血液を浄化します。

通常、在宅で行い、1日に数回、患者さん自身またはご家族が透析液のバッグ交換を行います。通院は月に1~2回程度で済むため、比較的自由な時間を確保しやすいのが特徴です。

血液透析と腹膜透析の比較

項目血液透析(HD)腹膜透析(PD)
治療場所医療機関主に自宅
治療時間1回4~5時間、週2~3回1日数回のバッグ交換(1回30分程度)
食事制限比較的厳しい比較的緩やか

透析治療の開始時期と判断基準

透析治療をいつから始めるかという判断は、患者さんの状態や生活の質(QOL)を考慮して慎重に行います。医師は、臨床症状や検査数値、そして患者さんやご家族の意向を総合的に評価し、最適な開始時期を見極めます。

医師が透析導入を検討するタイミング

一般的に、腎機能が正常の15%未満(eGFR 15mL/分/1.73m²未満)になると、透析治療の準備を始めることが推奨されます。そして、尿毒症の症状が現れたり、体液管理が困難になったりした場合に、具体的な導入時期を検討します。

臨床症状からの判断

以下のような尿毒症の症状が強く現れた場合、透析導入を検討します。

  • 全身倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐
  • 呼吸困難、息切れ(心不全や肺水腫による)
  • 意識混濁、けいれん(尿毒症性脳症)
  • かゆみ(皮膚掻痒症)

検査数値に基づく判断

血液検査や尿検査の結果も、透析導入の重要な判断材料となります。特に、血清クレアチニン値やeGFR(推算糸球体ろ過量)、カリウム値、酸塩基平衡の状態などを参考にします。

透析導入を検討する検査数値の目安

検査項目目安備考
eGFR15 mL/分/1.73m² 未満腎機能の指標
血清カリウム値高値(6.0 mEq/L以上など)不整脈のリスク
体液貯留著しい浮腫、胸水など心不全のリスク

患者さんとご家族の意思決定支援

透析治療は長期間にわたるため、患者さん自身が治療について十分に理解し、納得して臨むことが大切です。医療者は、患者さんやご家族に対して、病状や治療法、日常生活への影響などを丁寧に説明し、意思決定を支援します。

十分な情報提供の重要性

透析治療の種類(血液透析、腹膜透析)、それぞれのメリット・デメリット、治療に伴う生活の変化、医療費助成制度などについて、分かりやすく情報提供を行います。

疑問や不安な点があれば、遠慮なく医師や看護師、ソーシャルワーカーに相談することが重要です。

ライフスタイルに合わせた選択

仕事や学業、趣味など、患者さんのライフスタイルは様々です。血液透析と腹膜透析では、通院頻度や拘束時間、自己管理の度合いなどが異なります。

それぞれの治療法がご自身の生活にどのように影響するかを考慮し、医師と相談しながら最適な治療法を選択します。

シャント手術について

血液透析を行うためには、十分な血液量を確保するために、腕の血管を手術でつなぎ合わせる「内シャント」を作成するのが一般的です。シャントは、透析治療を安全かつ効率的に行うために非常に重要です。

シャントの役割と種類

シャントは、動脈と静脈を直接吻合(つなぎ合わせる)することで、静脈に十分な血液が流れるようにし、透析に必要な血液量を確保するものです。

自己血管内シャント(AVF)が一般的ですが、血管の状態によっては人工血管内シャント(AVG)を作成することもあります。

手術の準備と注意点

シャント手術は、通常、局所麻酔で行い、1~2時間程度で終了します。手術後は、シャントが良好に発達するように、医師の指示に従って管理することが大切です。

シャントのある腕で重い物を持ったり、血圧測定や採血をしたりすることは避ける必要があります。

透析治療の期間は本当に一生なのか

「透析を始めたら一生続けなければならない」という話を耳にすることが多く、不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。この点について、詳しく見ていきましょう。

原則として生涯にわたる治療

慢性腎臓病が進行して末期腎不全に至り、透析治療を開始した場合、残念ながら腎臓の機能が自然に回復することはほとんど期待できません。

そのため、透析治療は、失われた腎機能を補い生命を維持するために、原則として生涯にわたって継続する必要があります。

慢性腎臓病の進行と腎機能

慢性腎臓病は、多くの場合、ゆっくりと進行し、一度失われた腎機能は元に戻りにくいという特徴があります。透析治療は、あくまで腎臓の働きを代替するものであり、腎臓病そのものを治癒する治療ではありません。

透析を続けることの意味

透析治療を継続することで、尿毒症の症状をコントロールし、体内の水分や電解質のバランスを保ち、比較的元気に日常生活を送ることが可能になります。

治療を中断すると、生命に関わる危険な状態に陥る可能性があります。

治療期間に影響を与える要因

透析治療の期間は、患者さんの全身状態や合併症の有無、自己管理の状況などによって影響を受けることがあります。良好な状態を維持するためには、医師の指示に従い、治療に積極的に取り組むことが大切です。

全身状態と合併症

心臓病や糖尿病などの合併症があると、透析治療がより複雑になったり、予後に影響を与えたりすることがあります。合併症の管理と治療も、透析生活を送る上で非常に重要です。

透析患者さんの主な合併症

合併症の種類主な症状・影響対策・治療
心血管系疾患心不全、狭心症、心筋梗塞血圧管理、食事療法、薬物療法
骨・ミネラル代謝異常骨痛、骨折、血管石灰化リン吸着薬、活性型ビタミンD製剤
感染症シャント感染、腹膜炎清潔操作、早期発見・治療

自己管理と治療への積極性

食事療法や水分管理、服薬、シャント管理など、日常生活における自己管理は、透析治療の効果を高め、合併症を予防するために重要です。また、定期的な通院や検査を受け、治療に積極的に参加する姿勢も大切です。

まれに透析から離脱できるケース

原則として生涯にわたる透析治療ですが、ごくまれに透析から離脱できるケースも存在します。ただし、これは非常に限定的な状況であり、全ての患者さんに当てはまるわけではありません。

急性腎障害からの回復

急性腎障害が原因で一時的に透析治療が必要になった場合、原因疾患の治療によって腎機能が回復すれば、透析から離脱できることがあります。

しかし、慢性腎臓病による末期腎不全の場合は、このような回復は期待できません。

腎移植による離脱

腎移植は、透析治療から離脱できる唯一の根治療法です。健康な腎臓の提供を受けることで、再び腎臓が機能するようになり、透析治療を受ける必要がなくなります。

腎移植については、後の章で詳しく説明します。

透析治療を続ける上での日常生活

透析治療を受けながらも、できる限り質の高い生活を送るためには、食事療法や運動療法、社会生活との両立など、いくつかのポイントがあります。

医師や医療スタッフと相談しながら、ご自身に合った生活スタイルを築いていくことが大切です。

食事療法のポイント

透析患者さんの食事療法は、体内に老廃物や余分な水分が溜まるのを防ぎ、栄養状態を良好に保つことを目的とします。制限すべきものと、しっかり摂取すべきものを理解し、バランスの取れた食事を心がけることが重要です。

カリウム・リン・塩分・水分制限

腎機能が低下すると、カリウムやリンが体内に蓄積しやすくなり、不整脈や骨のもろさなどの原因となります。また、塩分の摂りすぎは水分貯留や高血圧につながるため、制限が必要です。

水分量も、透析間の体重増加を適切に保つために管理します。

食事で注意する主な栄養素

栄養素制限の理由多く含まれる食品例
カリウム高カリウム血症(不整脈など)予防生野菜、果物、いも類
リン高リン血症(骨疾患、血管石灰化)予防乳製品、肉・魚の内臓、加工食品
塩分高血圧、水分貯留予防漬物、干物、加工食品

エネルギーとタンパク質の確保

食事制限がある一方で、エネルギーやタンパク質は不足しないようにしっかり摂取することが大切です。エネルギーが不足すると体力が低下し、タンパク質が不足すると筋肉量が減少したり、栄養状態が悪化したりします。

管理栄養士の指導を受けながら、適切な量を摂取するようにしましょう。

運動療法のすすめ

透析患者さんにとって、適度な運動は体力維持や筋力向上、ストレス解消などに役立ちます。ただし、無理のない範囲で行うことが重要です。

無理のない範囲での運動

ウォーキングや軽い体操など、体に大きな負担をかけない運動から始めましょう。透析日と非透析日で体調が異なる場合もあるため、その日の状態に合わせて運動量や内容を調整することが大切です。

専門家の指導を受ける

運動を始める前には、必ず医師に相談し、許可を得るようにしましょう。また、理学療法士や健康運動指導士などの専門家から、適切な運動方法や注意点について指導を受けることも有効です。

社会生活と仕事の両立

透析治療を受けながら仕事を続けたり、社会活動に参加したりすることは可能です。周囲の理解と協力を得ながら、無理のない範囲で活動を続けることが、生活の質の維持につながります。

周囲の理解と協力

職場や学校、家族など、周囲の人々に病気や治療について理解してもらうことが大切です。必要な配慮やサポートについて話し合い、協力体制を築くことで、安心して社会生活を送ることができます。

利用できるサポート制度

透析患者さんが利用できる社会福祉制度や就労支援制度などがあります。医療ソーシャルワーカーやハローワークなどに相談し、活用できる制度について情報を得ることをお勧めします。

透析治療以外の選択肢 腎移植

透析治療は失われた腎機能を代替する有効な治療法ですが、根本的な治療法ではありません。腎移植は、健康な腎臓を移植することで腎機能を回復させ、透析治療から離脱することを可能にする治療法です。

腎移植の種類と特徴

腎移植には、大きく分けて「生体腎移植」と「献腎移植」の2つの種類があります。

生体腎移植

生体腎移植は、健康なご家族や親族(原則として6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族)から、2つある腎臓のうち1つの提供を受けて移植する方法です。

ドナー(提供者)とレシピエント(受給者)双方の意思と、医学的な適合性が確認された上で行われます。手術の日程を計画的に組むことができます。

献腎移植

献腎移植は、亡くなられた方(脳死または心停止後)から腎臓の提供を受けて移植する方法です。日本臓器移植ネットワークに登録して待機し、適合するドナーが現れた場合に移植が行われます。

待機期間は数年から十数年に及ぶこともあり、いつ移植の機会が訪れるか予測が難しいという側面があります。

腎移植の種類とドナー

移植の種類ドナー(提供者)主な特徴
生体腎移植健康な家族・親族計画的な手術が可能
献腎移植亡くなられた方待機期間が必要

腎移植のメリット・デメリット

腎移植には多くのメリットがありますが、一方でデメリットやリスクも存在します。これらを十分に理解した上で、治療法を選択することが重要です。

メリット

腎移植の最大のメリットは、透析治療から離脱できることです。これにより、食事制限や水分制限が大幅に緩和され、時間的な制約も少なくなり、より自由な生活を送ることが可能になります。

また、貧血や倦怠感などの尿毒症症状が改善し、全身状態の向上が期待できます。

  • 透析からの離脱
  • 食事・水分制限の緩和
  • 生活の質の向上
  • 社会復帰の促進

デメリットとリスク

腎移植は外科手術であるため、手術に伴う一般的なリスク(出血、感染など)があります。また、移植後は拒絶反応を防ぐために、免疫抑制剤を生涯にわたって服用する必要があります。

免疫抑制剤の副作用として、感染症にかかりやすくなったり、糖尿病や高血圧、悪性腫瘍のリスクが上昇したりする可能性があります。定期的な通院と検査が欠かせません。

腎移植を受けるための条件と流れ

腎移植を受けるためには、いくつかの条件を満たし、所定の手続きを経る必要があります。移植医療を行っている専門の医療機関で相談し、詳しい説明を受けることが第一歩です。

ドナーとレシピエントの適合性

生体腎移植の場合、ドナーとレシピエントの血液型やHLA(ヒト白血球抗原)の適合性が重要となります。適合性が低い場合でも、免疫抑制療法などの進歩により移植が可能になるケースも増えています。

献腎移植の場合は、医学的な緊急度や待機期間、HLAの適合性などを総合的に判断してレシピエントが選ばれます。

移植後の生活と注意点

腎移植後は、免疫抑制剤を確実に服用し、定期的な検査を受けることが最も重要です。感染予防のために、手洗いやうがいを励行し、人混みを避けるなどの注意が必要です。

また、血圧や体重の管理、バランスの取れた食事、適度な運動など、健康的な生活習慣を維持することも大切です。

透析治療の合併症と対策

透析治療を長期間続けていると、様々な合併症が起こりやすくなります。合併症を早期に発見し、適切に対処することが、より良い透析生活を送るために重要です。

代表的な合併症

透析患者さんに見られる主な合併症には、心血管系の病気、骨やミネラルの代謝異常、感染症などがあります。

心血管系合併症

心不全、狭心症、心筋梗塞、脳卒中などの心血管系合併症は、透析患者さんの生命予後に最も大きな影響を与える合併症の一つです。高血圧、糖尿病、脂質異常症、動脈硬化などが危険因子となります。

骨・ミネラル代謝異常

腎機能の低下により、カルシウムやリンのバランスが崩れ、骨がもろくなったり(腎性骨症)、血管にカルシウムが沈着したり(血管石灰化)することがあります。

これらは、骨痛や骨折、心血管系疾患のリスクを高めます。

透析アミロイドーシス

長期透析患者さんに見られる合併症で、アミロイドというタンパク質が関節や骨、腱などに沈着し、手根管症候群(手のしびれや痛み)、関節痛、骨嚢胞などを引き起こします。

近年では、高性能な透析膜の使用により、発症頻度は低下傾向にあります。

感染症

血液透析ではシャント(内シャントや人工血管)からの感染、腹膜透析ではカテーテル出口部感染や腹膜炎などが起こりえます。免疫機能の低下も感染症のリスクを高める要因となります。

合併症予防のための検査例

検査の種類目的頻度の目安
血液検査貧血、電解質、リン・カルシウム値など毎月
心電図・胸部X線心機能、肺の状態定期的(医師の指示による)
シャントエコーシャントの状態評価定期的(医師の指示による)

合併症を予防するために

合併症を予防するためには、定期的な検査を受けて早期発見に努めること、そして医師や医療スタッフと緊密に連携を取り、指示された治療や生活習慣を守ることが重要です。

定期的な検査と早期発見

定期的な血液検査、画像検査(レントゲン、エコーなど)を受けることで、合併症の兆候を早期に捉えることができます。自覚症状がなくても、検査で異常が見つかることもあるため、指示された検査は必ず受けるようにしましょう。

医師や医療スタッフとの連携

体調の変化や気になる症状があれば、遠慮なく医師や看護師、管理栄養士などの医療スタッフに相談しましょう。適切なアドバイスや治療を受けることで、合併症の進行を遅らせたり、重症化を防いだりすることができます。

合併症が起きた場合の対処法

万が一、合併症が起きてしまった場合でも、早期に適切な治療を開始することが大切です。また、生活習慣を見直すことも、症状の改善や再発予防につながります。

症状に応じた治療

合併症の種類や重症度に応じて、薬物療法、食事療法、運動療法、場合によっては手術などの治療を行います。医師の指示に従い、根気強く治療に取り組むことが重要です。

生活習慣の見直し

合併症の種類によっては、食事内容の変更や運動量の調整など、生活習慣の見直しが必要になることがあります。管理栄養士や理学療法士などの指導を受けながら、無理なく続けられる方法を見つけていきましょう。

透析治療にかかる費用と医療費助成制度

透析治療は長期間にわたるため、医療費について心配される方も少なくありません。しかし、日本では透析治療に関する様々な医療費助成制度が整備されており、患者さんの経済的負担を軽減する仕組みがあります。

透析治療の医療費の目安

透析治療にかかる医療費は高額ですが、公的な医療保険制度や助成制度を利用することで、自己負担額は大幅に軽減されます。

血液透析の場合

血液透析の場合、医療費は1ヶ月あたり約40万円程度かかるといわれています。これには、透析治療費のほか、検査費や薬代などが含まれます。

腹膜透析の場合

腹膜透析の場合、医療費は1ヶ月あたり約30万円から50万円程度と幅があります。透析液の種類や量、交換回数などによって変動します。

医療費助成制度利用後の自己負担上限額(例)

制度名自己負担上限月額(一般的な所得の場合)備考
特定疾病療養受療制度1万円または2万円所得に応じて変動
自立支援医療(更生医療)所得区分に応じた上限額他の制度と併用可能

利用できる医療費助成制度

透析患者さんが利用できる主な医療費助成制度には、以下のようなものがあります。これらの制度を利用することで、自己負担額を一定額までに抑えることができます。

特定疾病療養受療制度

人工透析治療を受けている患者さんは、健康保険の「特定疾病療養受療証」の交付を受けることで、医療機関の窓口での自己負担限度額が、原則として1ヶ月1万円(所得によっては2万円)になります。

自立支援医療(更生医療)

身体障害者手帳(腎臓機能障害)をお持ちの方が、その障害を除去・軽減するための医療(腎移植や関連する免疫抑制療法など)を受ける場合に、医療費の自己負担分を助成する制度です。

透析治療そのものは対象外となる場合が多いですが、腎移植を検討する際には重要な制度となります。

高額療養費制度

医療機関や薬局の窓口で支払った医療費が、暦月(月の初めから終わりまで)で一定額を超えた場合に、その超えた金額が支給される制度です。

特定疾病療養受療制度を利用している場合でも、他の病気の治療などで自己負担が高額になった場合に適用されることがあります。

制度利用の手続きと相談窓口

これらの医療費助成制度を利用するためには、それぞれ申請手続きが必要です。手続き方法や必要書類については、医療機関のソーシャルワーカーや、お住まいの市区町村の担当窓口に相談しましょう。

申請方法と必要書類

各制度によって申請窓口や必要書類が異なります。例えば、特定疾病療養受療証は、加入している健康保険(国民健康保険、協会けんぽ、組合健保など)の窓口に申請します。医師の意見書などが必要になる場合があります。

ソーシャルワーカーへの相談

多くの病院には医療ソーシャルワーカーが配置されており、医療費や生活に関する様々な相談に応じています。利用できる制度や手続きについて、分かりやすく説明し、サポートしてくれますので、気軽に相談してみましょう。

よくある質問

透析治療に関して、患者さんやご家族から寄せられることの多い質問とその回答をまとめました。

透析中でも旅行はできますか?

はい、可能です。血液透析を受けている方でも、事前に旅行先の透析施設に予約(臨時透析)をすれば、旅行先で透析治療を受けることができます。

腹膜透析の場合は、透析液などの物品を旅行先に送る手配をすれば、比較的自由に旅行を楽しめます。いずれの場合も、まずは主治医に相談し、体調や準備についてアドバイスを受けることが大切です。

透析治療中の水分制限はどのくらいですか?

水分制限の量は、患者さんの尿量や体格、透析間の体重増加量などによって異なります。一般的には、1日の尿量プラス500~700mL程度が目安とされますが、必ず主治医や管理栄養士の指示に従ってください。

水分には、飲み物だけでなく、食事に含まれる水分(汁物、果物など)も含まれることを意識しましょう。

シャントの管理で気をつけることは?

シャントは血液透析を行うための大切な「命綱」です。毎日、シャント部分を見て、触れて、音を聞いて、異常がないか確認しましょう(スリルというシャント血流による振動や、シャント音の確認)。

シャントのある腕で重い物を持ったり、腕時計をしたり、血圧測定や採血をしたりすることは避けてください。また、シャント部分を清潔に保つことも重要です。異常を感じたら、すぐに医療スタッフに相談してください。

腎移植のドナーになるための条件は?

生体腎移植のドナーになるためには、自発的な提供意思があること、医学的に健康であること、レシピエントとの適合性などが条件となります。

年齢制限(一般的に20歳以上70歳以下程度)や、悪性腫瘍、重度の感染症、コントロール不良な糖尿病などがないことが求められます。

詳しい条件については、移植医療を行っている専門の医療機関で相談する必要があります。

以上

参考文献

LEGENDRE, Christophe; CANAUD, Guillaume; MARTINEZ, Frank. Factors influencing long‐term outcome after kidney transplantation. Transplant international, 2014, 27.1: 19-27.

MANGE, Kevin C.; JOFFE, Marshall M.; FELDMAN, Harold I. Effect of the use or nonuse of long-term dialysis on the subsequent survival of renal transplants from living donors. New England Journal of Medicine, 2001, 344.10: 726-731.

PASCUAL, Manuel, et al. Strategies to improve long-term outcomes after renal transplantation. New England Journal of Medicine, 2002, 346.8: 580-590.

NGAMVICHCHUKORN, Tanun, et al. Association between pretransplant dialysis modality and kidney transplant outcomes: a systematic review and meta-analysis. JAMA Network Open, 2022, 5.10: e2237580-e2237580.

MOLNAR, Miklos Z., et al. Dialysis modality and outcomes in kidney transplant recipients. Clinical Journal of the American Society of Nephrology, 2012, 7.2: 332-341.

WONG, Susan PY, et al. Long-term outcomes among patients with advanced kidney disease who forgo maintenance dialysis: a systematic review. JAMA Network Open, 2022, 5.3: e222255-e222255.

GOLDFARB-RUMYANTZEV, Alex, et al. Duration of end-stage renal disease and kidney transplant outcome. Nephrology Dialysis Transplantation, 2005, 20.1: 167-175.

VINCENTI, Flavio, et al. Belatacept and long-term outcomes in kidney transplantation. New England Journal of Medicine, 2016, 374.4: 333-343.

RAO, Panduranga S., et al. Survival on dialysis post–kidney transplant failure: results from the Scientific Registry of Transplant Recipients. American Journal of Kidney Diseases, 2007, 49.2: 294-300.

WANG, Jeffrey H.; SKEANS, Melissa A.; ISRANI, Ajay K. Current status of kidney transplant outcomes: dying to survive. Advances in chronic kidney disease, 2016, 23.5: 281-286.

免責事項

当院の医療情報について

当記事は、医療に関する知見を提供することを目的としており、当院への診療の勧誘を意図したものではございません。治療についての最終的な決定は、患者様ご自身の責任で慎重になさるようお願いいたします。

掲載情報の信頼性

当記事の内容は、信頼性の高い医学文献やガイドラインを参考にしていますが、医療情報には変動や不確実性が伴うことをご理解ください。また、情報の正確性には万全を期しておりますが、掲載情報の誤りや第三者による改ざん、通信トラブルなどが生じた場合には、当院は一切責任を負いません。

情報の時限性

掲載されている情報は、記載された日付の時点でのものであり、常に最新の状態を保証するものではありません。情報が更新された場合でも、当院がそれを即座に反映させる保証はございません。

ご利用にあたっての注意

医療情報は日々進化しており、専門的な判断が求められることが多いため、当記事はあくまで一つの参考としてご活用いただき、具体的な治療方針については、お近くの医療機関に相談することをお勧めします。

大垣中央病院・こばとも皮膚科

  • URLをコピーしました!
目次