透析患者が手術を受ける際のリスクとは?安全に臨むための注意点

透析患者が手術を受ける際のリスクとは?安全に臨むための注意点

透析治療を受けている方が手術に臨む際には、特有のリスクや注意点が存在します。腎臓の機能が低下しているため、体液のバランスや薬物の代謝、感染への抵抗力などが健康な方とは異なる状態にあります。

この記事では、透析患者さんが手術を受ける際の具体的なリスクと、それらを最小限に抑え、安全に手術を乗り越えるために知っておくべき注意点を、分かりやすく解説します。

手術前の準備から手術後の管理まで、安心して治療に専念できるよう、正しい知識を身につけましょう。

目次

透析患者さんが手術を受けるということ

透析治療は、腎臓の機能が著しく低下した方にとって生命を維持するために重要な治療法です。しかし、透析を受けている方が何らかの病気や怪我で手術が必要になることもあります。

このような場合、手術そのものの負担に加えて、透析治療に起因する特有の注意点やリスクを考慮する必要があります。腎臓は体内の水分量や電解質のバランスを調整し、老廃物を排泄する重要な役割を担っています。

透析患者さんではこの機能が低下しているため、手術という身体的なストレスが加わることで、様々な影響が出やすくなります。そのため、手術を担当する医師だけでなく、透析を担当する医師や看護師、栄養士など、多職種から成る医療チームによる包括的なサポートが大切になります。

腎機能低下が手術に与える影響

腎機能が低下していると、手術に際していくつかの影響が現れます。まず、体液量の調節が難しくなるため、手術中の出血や輸液管理がより慎重を要します。

過剰な水分は心臓への負担を増やし、不足は血圧低下やショックを引き起こす可能性があります。また、腎臓は薬物の排泄にも関与しているため、麻酔薬や鎮痛薬、抗生物質などの薬物の種類や量を調整する必要があります。

薬物が体内に長く留まりすぎると、副作用が強く出る危険性があります。さらに、貧血や栄養状態の低下、免疫力の低下なども見られることがあり、これらは創傷治癒の遅延や感染症のリスクを高める要因となります。

透析治療と手術の相互作用

透析治療そのものが手術に影響を与えることもあります。例えば、透析で使用する抗凝固薬は、手術中の出血リスクを高める可能性があります。

そのため、手術のタイミングに合わせて透析スケジュールや抗凝固薬の使用量を調整することが重要です。手術の種類や出血リスクの程度に応じて、手術前後の透析方法(血液透析か腹膜透析か、透析時間、除水量など)も検討します。

また、シャント(血液透析を行うために腕の血管を手術でつなぎ合わせた部分)がある場合は、手術中の体位や血圧管理においてシャントを保護するための配慮が必要です。

シャントの閉塞は透析治療の継続に重大な影響を与えるため、細心の注意を払います。

手術の必要性とリスクのバランス

透析患者さんにとって、手術は健康な方よりもリスクが高い場合がありますが、手術を受けなければ生命に関わる、あるいは生活の質が著しく低下するケースも少なくありません。そのため、手術の必要性とリスクを慎重に比較検討することが大切です。

医師は、患者さんの全身状態、併存疾患、手術の種類などを総合的に評価し、手術のメリットがリスクを上回ると判断した場合に手術を推奨します。

患者さんやご家族も、医師から十分な説明を受け、手術の目的、内容、期待される効果、そして考えられるリスクや合併症についてよく理解した上で、治療方針を決定することが重要です。

透析の決断は、多角的な視点からの検討を必要とします。

手術判断における考慮事項

考慮事項具体的な内容重要性
全身状態の評価心機能、呼吸機能、栄養状態、併存疾患の有無とコントロール状況
手術の緊急性待機的手術か緊急手術か中~高
手術侵襲の程度手術時間、出血量、術後の回復期間の見込み中~高

透析患者さんが手術を受ける際の一般的なリスク

透析患者さんが手術を受ける際には、いくつかの一般的なリスクが存在します。これらは腎機能の低下や透析治療そのものに関連しており、健康な人と比較して発生頻度が高くなる傾向があります。

これらのリスクを事前に把握し、適切な予防策や早期対応を行うことが、手術を安全に進める上で非常に重要です。「透析 外科手術」を検討する際には、これらのリスクについて主治医と十分に話し合うことが求められます。

出血と血栓のリスク

透析患者さんは、貧血傾向にある一方で、透析時に抗凝固薬を使用するため、出血しやすい状態と血栓ができやすい状態が混在することがあります。手術中は、このバランスを適切に管理することが求められます。

手術による出血量が多くなると、さらなる貧血の進行や循環動態の不安定化を招く可能性があります。一方で、手術後の安静期間が長くなると、深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)や肺塞栓症といった血栓塞栓症のリスクが高まります。

これらのリスクを軽減するため、術前の抗凝固薬の調整、術中の適切な止血操作、術後の早期離床などが重要になります。

出血リスク管理のポイント

  • 術前の抗凝固薬・抗血小板薬の調整
  • 手術中の丁寧な止血操作
  • 術後の出血モニタリング

感染症のリスク

透析患者さんは免疫機能が低下していることが多く、手術部位の感染や肺炎、尿路感染症などの感染症にかかりやすい傾向があります。手術という侵襲は、身体の防御機能を一時的に弱めるため、さらに感染リスクが高まります。

また、カテーテルやドレーンなどの医療器具の留置も感染の入り口となる可能性があります。感染症は創傷治癒を遅らせるだけでなく、重篤な場合には敗血症などに進行し、生命を脅かすこともあります。

そのため、手術野の清潔操作の徹底、予防的な抗菌薬の適切な使用、術後の栄養管理、早期離床による呼吸器合併症の予防などが重要です。シャント感染も透析患者さん特有のリスクであり、厳重な管理が必要です。

感染予防策の具体例

対策目的実施時期
手術部位の消毒皮膚常在菌による感染予防手術直前
予防的抗菌薬投与手術部位感染の発生率低下手術開始前~術後短期間
栄養状態の改善免疫力向上、創傷治癒促進術前~術後

心血管系合併症のリスク

透析患者さんは、高血圧、動脈硬化、心不全、不整脈などの心血管系の合併症を抱えていることが少なくありません。手術のストレスや麻酔、体液量の変動は、これらの心血管系に大きな負担をかける可能性があります。

術中や術後に心筋梗塞、狭心症、脳卒中、肺水腫などを発症するリスクが健康な人よりも高くなります。そのため、術前には心機能評価を十分に行い、リスクの高い患者さんに対しては、より慎重な周術期管理が求められます。

血圧や心拍数の厳密なコントロール、適切な輸液管理、電解質バランスの維持などが重要です。特に「透析 患者 手術 リスク」の中でも、心血管系合併症は生命予後に直結するため、最大限の注意が必要です。

電解質異常と水分管理の難しさ

腎臓は体内の水分量やナトリウム、カリウム、カルシウム、リンなどの電解質バランスを精密に調節しています。

透析患者さんではこの調節機能が著しく低下しているため、手術に伴う出血、輸液、食事制限などによって容易にバランスが崩れる可能性があります。特に高カリウム血症は致死的な不整脈を引き起こす危険性があり、厳重な管理が必要です。

また、水分過多は心不全や肺水腫を、水分不足は脱水や血圧低下、シャント閉塞などを引き起こす可能性があります。

手術前後の透析スケジュールや内容を調整し、血液検査を頻回に行いながら、水分・電解質バランスをきめ細かく管理することが重要です。食事内容や飲水量の指導も大切になります。

注意すべき電解質異常

電解質異常状態主な症状・リスク
カリウム高カリウム血症不整脈、心停止
カリウム低カリウム血症筋力低下、不整脈
ナトリウム高ナトリウム血症/低ナトリウム血症意識障害、痙攣

手術の種類によって異なる特有のリスク

透析患者さんが受ける手術は多岐にわたりますが、手術の種類によって特に注意すべきリスクや管理のポイントが異なります。

全身状態に加えて、手術部位や手術の侵襲度合いを考慮した周術期管理計画を立てることが、安全な手術の実施につながります。

消化器系手術(胃がん、大腸がんなど)

消化器系の手術では、手術後の食事開始時期や栄養管理が特に重要となります。透析患者さんはもともと栄養状態が不良であることも多く、手術侵襲によってさらに悪化する可能性があります。

吻合部の治癒不全や縫合不全のリスクも考慮し、適切な栄養サポート(経腸栄養や静脈栄養)を行います。また、消化管からの水分や電解質の喪失にも注意が必要です。

術後のイレウス(腸閉塞)や腹膜炎などの合併症にも警戒し、早期発見・早期対応を心がけます。出血リスクの高い手術でもあるため、抗凝固療法の管理も慎重に行います。

心臓血管系手術(バイパス手術、弁膜症手術など)

心臓血管系の手術は、透析患者さんにとって特にリスクの高い手術の一つです。もともと心機能が低下している場合が多く、手術侵襲や体外循環の使用は心臓に大きな負担をかけます。

術中・術後の不整脈、心不全、低心拍出量症候群などのリスクが高まります。また、出血や血栓形成のリスクも高く、抗凝固療法と止血のバランスを厳密に管理する必要があります。

人工血管や人工弁を使用する場合には、感染のリスクも考慮しなければなりません。周術期の循環管理、呼吸管理、腎保護(残存腎機能がある場合)には最大限の注意を払います。

心臓血管系手術における管理目標

管理項目目標注意点
血圧適切な範囲に維持低すぎると臓器血流低下、高すぎると心負荷増大
心拍出量十分な量を確保輸液、強心薬などで調整
抗凝固適切なレベルに管理出血と血栓のバランス

整形外科手術(骨折、人工関節など)

透析患者さんは、腎性骨症(骨の代謝異常)により骨がもろくなっていることがあり、骨折しやすい傾向があります。また、関節の痛みや変形により人工関節置換術が必要になることもあります。

整形外科手術では、術後の深部静脈血栓症や肺塞栓症の予防が特に重要です。早期離床や弾性ストッキングの着用、間欠的空気圧迫法、必要に応じた抗凝固薬の使用などを検討します。

手術部位の感染リスクも高く、特に人工物を体内に入れる手術では厳重な感染対策が必要です。また、骨折の治癒が遅れる可能性も考慮し、リハビリテーションを計画的に進めます。

「透析 外科手術」の中でも、整形外科領域では骨代謝異常への配慮が欠かせません。

シャント関連手術(シャント作成、シャントPTAなど)

血液透析を行っている患者さんにとって、シャントは生命線とも言える重要なものです。シャントの作成手術や、シャントが狭窄・閉塞した場合に行う経皮的血管形成術(PTA)も、透析患者さん特有の手術です。

これらの手術では、シャントをいかに長持ちさせるかが重要になります。シャント作成術では、適切な血管の選択と吻合技術が求められます。シャントPTAでは、再狭窄のリスクを考慮し、定期的なフォローアップが必要です。

シャント感染や血栓形成、出血などの合併症にも注意を払います。手術部位の安静や保護も大切です。

手術前に準備すべきことと検査の重要性

透析患者さんが安全に手術を受けるためには、事前の入念な準備と正確な状態把握のための検査が不可欠です。手術のリスクを評価し、それに対する対策を講じることで、より安全な手術の実施を目指します。

医療チームは、患者さんの状態を多角的に評価し、最適な周術期管理計画を立案します。

全身状態の評価と改善

手術前には、まず患者さんの全身状態を詳細に評価します。心臓、肺、肝臓などの重要な臓器の機能、栄養状態、貧血の程度、電解質バランス、血糖コントロール状況などを確認します。

もしコントロールが不十分な状態であれば、手術前に可能な限り改善を図ります。例えば、重度の貧血があれば輸血や鉄剤・エリスロポエチン製剤の投与を検討し、栄養状態が悪ければ栄養サポートを行います。

高血圧や糖尿病があれば、薬物療法や食事療法でコントロールを安定させます。これらの準備は、手術の安全性を高める上で非常に重要です。

術前評価における主要な検査項目

検査項目評価する内容手術への影響
血液検査貧血、腎機能、肝機能、電解質、凝固能、血糖値など全身状態の把握、リスク評価
心電図・心エコー心機能、不整脈の有無、弁膜症の評価心血管系合併症リスク評価
胸部X線・呼吸機能検査肺疾患の有無、呼吸機能の評価呼吸器系合併症リスク評価

透析スケジュールの調整

手術日が決まったら、手術の種類や侵襲度、出血リスクなどを考慮して、手術前後の透析スケジュールを調整します。一般的には、手術前日または当日の朝に透析を行い、体液量や電解質バランスを整えます。

手術後は、患者さんの状態が安定してから透析を再開しますが、そのタイミングや透析条件(除水量、抗凝固薬の使用など)は慎重に決定します。

出血リスクが高い手術の場合は、術後の透析で抗凝固薬を使用しない、あるいは減量するなどの対応をとります。腹膜透析の患者さんの場合は、手術部位や術後の状態に応じて、一時的に血液透析に切り替えることもあります。

薬剤の調整(抗凝固薬、降圧薬など)

透析患者さんは、多くの薬剤を服用していることが一般的です。手術に際しては、これらの薬剤を継続すべきか、一時的に中止または変更すべきかを個別に判断する必要があります。

特に重要なのが、血液をサラサラにする薬(抗凝固薬や抗血小板薬)です。これらは血栓予防に重要ですが、手術中の出血リスクを高めます。手術の種類や出血リスクに応じて、手術の数日前から中止したり、ヘパリンなどの半減期の短い薬剤に置き換えたりします。

また、降圧薬や血糖降下薬なども、手術中の血圧や血糖値の変動を考慮して調整することがあります。自己判断で薬の服用を中止したりせず、必ず医師や薬剤師の指示に従ってください。

薬剤調整の一般的な考え方

  • 抗凝固薬・抗血小板薬:手術の種類により数日前から中止または変更
  • 降圧薬:手術当日の服用は医師の指示に従う(継続する場合もある)
  • 血糖降下薬:手術当日は絶食になるため、インスリンや経口薬の調整が必要

患者さん自身が行うべき準備

手術を安全に乗り越えるためには、患者さん自身の協力も大切です。まず、医師からの説明をよく聞き、手術の必要性やリスク、術後の経過などについて十分に理解することが重要です。不明な点や不安なことがあれば、遠慮なく質問しましょう。

禁煙は、呼吸器合併症のリスクを減らすために非常に有効です。可能であれば手術の数週間前から禁煙することが望ましいです。また、栄養バランスの取れた食事を心がけ、体力を維持することも大切です。

手術前には、口腔ケア(歯磨きやうがい)を丁寧に行い、口腔内を清潔に保つことで、術後肺炎のリスクを減らすことができます。指示された絶飲食の時間を守ることも重要です。

手術中・手術後の管理で特に注意すべき点

手術中および手術後の管理は、透析患者さんの予後を左右する重要な時期です。腎機能が低下していることを常に念頭に置き、きめ細やかなモニタリングと迅速な対応が求められます。

リスクを最小限に抑えるため、医療チームは連携して患者さんの状態変化に注意を払います。

麻酔方法の選択と管理

透析患者さんの麻酔では、薬物の代謝・排泄遅延を考慮した薬剤選択と投与量の調整が必要です。腎排泄型の筋弛緩薬や鎮静薬は、作用時間が延長する可能性があるため、慎重に使用します。

また、循環動態が不安定になりやすいため、血圧や心拍数を厳密にモニタリングしながら麻酔深度を調整します。シャントのある腕からの血圧測定や点滴ルート確保は原則として避けます。

全身麻酔だけでなく、手術部位によっては区域麻酔(硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔、神経ブロックなど)も選択肢となりますが、凝固機能異常がある場合は慎重な判断が必要です。

麻酔科医は、患者さんの状態や手術内容に応じて最適な麻酔方法を選択し、安全な麻酔管理を行います。

術中の水分・電解質・血圧管理

手術中の水分管理は非常に重要です。出血量や不感蒸泄(皮膚や呼吸からの水分喪失)を考慮し、適切な輸液量を投与します。

過剰な輸液は肺水腫や心不全を、不足は脱水や血圧低下、シャント閉塞を引き起こす可能性があります。術中は定期的に血液ガス分析や電解質測定を行い、異常があれば速やかに補正します。

特にカリウム値の変動には注意が必要です。血圧管理も重要で、低血圧は重要臓器への血流を低下させ、高血圧は心臓への負担を増やし出血を助長する可能性があります。

昇圧薬や降圧薬を適切に使用し、安定した血圧を維持します。

術中管理のポイント

管理項目目標・注意点モニタリング方法
水分バランス適正な循環血液量の維持、過不足の回避尿量、出血量、血圧、心拍数、中心静脈圧(適応時)
電解質バランス特にカリウム値の安定化定期的な血液検査
血圧シャント肢を避けた測定、目標血圧の維持動脈ライン(適応時)、非観血的血圧測定

術後の疼痛管理

手術後の痛みは、患者さんにとって大きな苦痛であるだけでなく、呼吸器合併症や深部静脈血栓症のリスクを高める要因にもなります。適切な疼痛管理は、早期離床を促し、回復を早めるために重要です。

透析患者さんでは、腎排泄型の鎮痛薬(一部の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やオピオイドなど)の代謝・排泄が遅延し、副作用(呼吸抑制、鎮静、腎機能悪化など)が出やすいため、薬剤選択や投与量に注意が必要です。

硬膜外持続鎮痛や神経ブロックなどの区域麻酔を併用したり、腎機能への影響が少ない鎮痛薬を選択したりします。痛みを我慢せず、医療スタッフに伝えることが大切です。

早期離床とリハビリテーション

手術後は、可能な限り早期にベッドから離れて体を動かすこと(早期離床)が推奨されます。早期離床は、肺炎や無気肺などの呼吸器合併症、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの血栓塞栓症、筋力低下、褥瘡(床ずれ)などの予防に有効です。

理学療法士や作業療法士と連携し、患者さんの状態に合わせたリハビリテーションプログラムを実施します。呼吸訓練や下肢の運動、歩行訓練などを段階的に進めていきます。

透析患者さんは体力が低下していることも多いため、無理のない範囲で、しかし積極的にリハビリテーションに取り組むことが、早期の社会復帰につながります。

安全な手術のために医療チームができること

透析患者さんが安全に手術を受け、術後合併症を最小限に抑えるためには、医師、看護師、薬剤師、臨床工学技士、理学療法士、栄養士など、様々な専門職から成る医療チームの緊密な連携と協力が不可欠です。

各専門職がそれぞれの専門性を活かし、患者さん中心のケアを提供します。

多職種連携による周術期管理

手術前から手術後まで、一貫した情報共有と連携体制のもとで患者さんをサポートします。外科医は手術の計画と実施、術後管理を担当し、腎臓内科医(透析医)は透析スケジュールの調整や腎機能に関連する合併症の管理を行います。

麻酔科医は安全な麻酔を提供し、術中の全身管理を担当します。看護師は、日々のバイタルサインのチェック、創部の観察、薬剤の投与、精神的なサポートなど、患者さんに最も近い立場でケアを行います。

薬剤師は、薬剤の適正使用や副作用のモニタリングに関わります。臨床工学技士は、透析装置の操作やシャント管理に専門性を発揮します。

栄養士は、患者さんの栄養状態に合わせた食事療法を提案し、理学療法士・作業療法士はリハビリテーションを支援します。

これらの多職種が定期的にカンファレンスを開き、情報を共有し、治療方針を検討することで、より質の高い医療を提供できます。

術前カンファレンスの重要性

手術前には、関係する診療科や職種が集まり、術前カンファレンスを実施することが重要です。

このカンファレンスでは、患者さんの病状、検査結果、手術計画、予想されるリスク、そしてそれに対する予防策や対応策などを共有し、議論します。

各専門職の視点から意見を出し合うことで、より包括的で安全な周術期管理計画を立案することができます。例えば、外科医が手術手技について説明し、腎臓内科医が透析管理の注意点を述べ、麻酔科医が麻酔計画を提示するといった具合です。

これにより、手術当日に起こりうる問題点を事前に洗い出し、準備を整えることができます。透析患者の手術リスクをチーム全体で共有し、対策を練る場となります。

術前カンファレンスでの検討事項例

検討項目担当(例)内容
患者情報共有全職種現病歴、既往歴、アレルギー、内服薬、ADLなど
手術計画外科医術式、手術時間、予想出血量など
麻酔計画麻酔科医麻酔方法、薬剤選択、モニター計画など
透析計画腎臓内科医・臨床工学技士術前後の透析スケジュール、抗凝固薬の使用など
術後管理計画看護師・理学療法士・栄養士疼痛管理、リハビリ、栄養管理など

緊急時の対応体制の整備

透析患者さんの手術では、予期せぬ合併症が発生する可能性も考慮し、緊急時の対応体制を整備しておくことが重要です。

例えば、術中に大量出血した場合の輸血体制、重篤な不整脈が発生した場合の救命処置体制、術後に急変した場合の集中治療室(ICU)への入室体制などです。

医療スタッフは、緊急時の対応プロトコルを熟知し、迅速かつ的確に行動できるように訓練しておく必要があります。また、必要な医療機器や薬剤が常に整備され、すぐに使用できる状態にしておくことも大切です。

患者さんやご家族にも、万が一の場合の対応について事前に説明し、理解を得ておくことが望ましいです。

患者・家族への十分な説明と同意

手術を受けるにあたり、患者さん自身そしてご家族が、病状、手術の必要性、具体的な手術内容、期待される効果、そして考えられるリスクや合併症、代替治療の選択肢などについて、十分に理解し納得することが最も重要です(インフォームド・コンセント)。

医師は、専門用語を避け、分かりやすい言葉で丁寧に説明するよう努めます。説明の際には、図やパンフレットなどの資料を用いることも有効です。

患者さんやご家族が質問しやすい雰囲気を作り、疑問や不安に真摯に答えることが信頼関係の構築につながります。十分に時間をかけて話し合い、患者さんが主体的に治療方針の決定に関わることができるよう支援します。

特に「透析 手術」は複雑な要素が絡むため、丁寧なコミュニケーションが求められます。

透析患者さんの手術に関するよくある質問(FAQ)

透析治療を受けながら手術に臨むにあたり、多くの患者さんやご家族が様々な疑問や不安を抱えています。ここでは、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。

ただし、個々の状況によって対応が異なる場合があるため、詳細は必ず主治医にご確認ください。

手術のために一時的に透析を休むことはありますか?

手術の種類や患者さんの状態によって異なりますが、手術直前に透析を行い、体調を整えるのが一般的です。

手術当日は透析を行わないことが多いですが、手術時間や術後の状態によっては、手術当日に臨時で透析を行うこともあります。術後の透析再開時期も、出血のリスクや循環動態の安定性などを考慮して慎重に決定します。

数日間透析を休むということは通常ありませんが、透析スケジュールは個別に調整されます。

シャントのある腕は手術中どうなりますか?血圧測定や点滴はできますか?

シャントのある腕は、透析治療のための大切な血管ですので、手術中も細心の注意を払って保護します。原則として、シャントのある腕での血圧測定、採血、点滴は行いません。

手術中の体位も、シャントが圧迫されたり血流が悪くなったりしないように配慮します。麻酔科医や手術スタッフは、シャントの存在を常に意識し、その保護に努めます。

シャント保護のための注意点

  • シャント肢での血圧測定禁止
  • シャント肢からの採血・点滴禁止
  • シャント肢の圧迫回避
手術後、食事はいつから摂れますか?食事制限はありますか?

手術の種類によって異なります。例えば、消化器系の手術でなければ、麻酔から覚めて状態が安定すれば、比較的早期に水分や食事を開始できる場合があります。

消化器系の手術の場合は、腸管の動きが回復するのを待ってから、流動食などから段階的に食事を開始します。

透析患者さんは、カリウムやリン、塩分、水分などの制限があるため、術後の食事内容も栄養士と相談しながら、個々の状態に合わせて調整します。

食欲がない場合や経口摂取が難しい場合は、点滴や経管栄養で栄養を補給することもあります。

術後の食事開始時期の目安(手術の種類による)

手術の種類食事開始の目安注意点
四肢の小手術当日~翌日吐き気などがなければ
腹部手術(小)術後1~3日腸管蠕動の回復を確認後
腹部手術(大)術後3~7日吻合部保護、段階的に開始
術後の痛みはどの程度ですか?痛み止めの薬は使えますか?

手術後の痛みは、手術の種類や範囲、個人差によって異なります。医療スタッフは、患者さんの痛みをできるだけ和らげるように努めます。

痛み止めの薬は使用できますが、透析患者さんでは腎臓への影響や薬の排泄遅延を考慮して、薬剤の種類や量を調整する必要があります。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の中には腎機能に影響を与えるものがあるため、使用には注意が必要です。

オピオイド(医療用麻薬)も、呼吸抑制などの副作用に注意しながら慎重に使用します。硬膜外麻酔や神経ブロックなど、区域麻酔を併用することで、より効果的に痛みをコントロールできる場合もあります。

痛みを我慢せずに、医師や看護師に伝えてください。

以上

透析センター(人工透析) | 大垣中央病院(医療法人社団豊正会 )

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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