透析治療の準備|自宅やクリニックで事前にしておくことリスト

透析治療の準備|自宅やクリニックで事前にしておくことリスト

腎臓の機能が低下し、透析治療が必要と判断された方やそのご家族にとって、治療開始前の準備は非常に重要です。

今後の生活に大きな影響を与える透析治療について正しく理解し、心身ともに備えることで、より安心して治療に臨むことができます。

この記事では、透析治療を始めるにあたり、ご自宅やクリニックで事前にどのような準備をしておけばよいか、具体的な項目をリストアップし、分かりやすく解説します。

目次

透析治療を始める前に知っておきたいこと

透析治療は、腎臓の働きが悪くなった方にとって、生命を維持するために必要な治療法です。治療を始めるにあたり、まずは透析治療そのものについて、そしてなぜ自分に必要なのかを理解することが大切です。

ここでは、透析治療の基本的な知識や種類、治療開始の目安について説明します。

透析治療とは何か

透析治療とは、腎不全などにより腎臓の機能が著しく低下した場合に、その働きの一部を人工的に代行する治療法です。

腎臓は、血液中の老廃物や余分な水分を尿として排泄し、体内の電解質バランスを整えるなど、生命維持に重要な役割を担っています。腎機能が低下すると、これらの物質が体内に蓄積し、尿毒症などの深刻な状態を引き起こす可能性があります。

透析治療は、このような状態を防ぎ、体調を維持することを目的とします。

具体的には、血液を体外に取り出して浄化する方法(血液透析)や、お腹の中に透析液を出し入れして老廃物を除去する方法(腹膜透析)などがあります。

どちらの治療法を選択するかは、患者さんの医学的な状態、ライフスタイル、希望などを総合的に考慮して決定します。

なぜ透析治療が必要になるのか

透析治療が必要となる主な原因は、慢性腎臓病(CKD)が進行し、末期腎不全に至った場合です。慢性腎臓病は、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症など、さまざまな原因で引き起こされます。

これらの病気により腎機能が徐々に低下し、自分の腎臓だけでは体内の老廃物や余分な水分を十分に排泄できなくなると、透析治療の導入を検討します。

腎機能が正常の10%以下程度まで低下すると、尿毒症の症状(吐き気、食欲不振、全身倦怠感、呼吸困難、むくみなど)が現れやすくなります。

これらの症状が顕著になったり、血液検査でカリウム値の上昇や著しい体液貯留が認められたりする場合に、透析治療を開始することが一般的です。

透析治療の種類とそれぞれの特徴

透析治療には、主に「血液透析(HD)」と「腹膜透析(PD)」の2つの種類があります。それぞれに特徴があり、患者さんの状態や生活スタイルに合わせて選択します。最近では、在宅で行う血液透析(HHD)も選択肢の一つとなっています。

透析治療法の比較

治療法治療場所主な特徴
血液透析(HD)医療機関(週2~3回通院)血液を体外の透析器(ダイアライザー)に通し、老廃物や余分な水分を除去します。1回の治療時間は通常4~5時間程度です。医療スタッフが治療を行うため、安心感があります。
腹膜透析(PD)主に自宅(患者さん自身や家族が操作)お腹の中にカテーテルを留置し、そこから透析液を注入・排液することで、腹膜を利用して血液を浄化します。1日に数回の透析液交換が必要です。通院は月1~2回程度で、時間的な拘束が比較的少ないです。
在宅血液透析(HHD)自宅(患者さん自身や介助者が操作)医療機関で行う血液透析と同様の治療を自宅で行います。十分なトレーニングと介助者の協力が必要です。通院頻度を減らせる可能性がありますが、自己管理能力が求められます。

これらの治療法は、それぞれ利点と注意点があります。医師とよく相談し、ご自身の生活や価値観に合った治療法を選ぶことが重要です。

治療開始の一般的なタイミング

透析治療を開始するタイミングは、一律に決まっているわけではありません。腎機能の低下の程度、尿毒症症状の有無や重症度、全身状態、合併症の状況などを総合的に評価し、医師が判断します。

一般的には、腎機能を示すeGFR(推算糸球体濾過量)が15 mL/min/1.73m²未満になり、さらに症状が出現してきた場合に導入が検討されます。

しかし、数値だけでなく、患者さん自身のQOL(生活の質)を考慮することも大切です。例えば、著しい食欲不振や倦怠感で日常生活に支障が出ている場合、eGFRがそれほど低くなくても治療開始を早めることがあります。

逆に、自覚症状が少なく、食事療法などで比較的良好な状態を保てている場合は、慎重に経過を見ながら開始時期を調整することもあります。

いずれにしても、主治医と密に連携を取り、最適なタイミングで治療を開始できるように準備を進めることが大切です。早期から透析に関する情報提供を受け、心の準備をしておくことも、スムーズな治療導入につながります。

医師との連携と情報収集

透析治療の準備を進める上で、医師との良好な関係構築と、正確な情報を得ることが非常に重要です。治療方針の決定には患者さん自身の意思も尊重されるため、積極的に関わっていく姿勢が求められます。

主治医との十分な話し合い

透析治療の導入を検討する段階では、多くの疑問や不安が生じることでしょう。主治医は、患者さんの状態を最もよく理解している存在です。

現在の腎臓の状態、透析治療の必要性、治療法の選択肢、それぞれのメリット・デメリット、治療開始後の生活の変化などについて、納得いくまで説明を受けましょう。

遠慮せずに質問し、自分の希望や懸念を伝えることが大切です。例えば、仕事や趣味を続けたい、家族への負担を減らしたいといった具体的な要望を伝えることで、より自分に合った治療計画を立てる助けになります。

主治医に確認しておきたいことの例

  • 現在の腎機能の状態と今後の予測
  • 透析治療を開始する具体的な目安
  • 提案される透析方法とその理由
  • 各透析方法の具体的な手順と所要時間
  • 治療に伴う合併症やリスク

治療方針の決定への参加

かつては医師が治療方針を決定し、患者さんはそれに従うという形が一般的でしたが、近年ではインフォームド・コンセント(説明と同意)の考え方が浸透し、患者さん自身が治療方針の決定に積極的に参加することが重視されています。

医師から提供された情報をもとに、ご自身の価値観やライフスタイルを考慮し、どの治療法を選択するかを一緒に考えていきます。

例えば、通院の負担を減らしたい、自宅でリラックスして治療を受けたいと考えるなら腹膜透析や在宅血液透析が選択肢になるかもしれません。

一方、医療スタッフによる管理のもとで安心して治療を受けたい、自己管理に自信がないという場合は、施設での血液透析が適しているかもしれません。ご家族ともよく話し合い、納得のいく選択をすることが大切です。

セカンドオピニオンの活用

主治医の説明を聞いてもなお疑問が残る場合や、他の医師の意見も聞いてみたいと考える場合には、セカンドオピニオンを求めることができます。

セカンドオピニオンとは、現在の主治医以外の医師に、診断や治療方針について意見を聞くことです。これにより、治療法に対する理解を深めたり、新たな選択肢が見つかったりする可能性があります。

セカンドオピニオンを希望する場合は、まず主治医にその旨を伝え、紹介状や検査データを提供してもらう必要があります。

セカンドオピニオンは、主治医との信頼関係を損なうものではなく、患者さんがより良い治療を選択するための権利として認められています。

信頼できる情報源の見つけ方

透析治療に関する情報は、インターネットや書籍など、さまざまなところから得ることができます。しかし、中には不正確な情報や誤解を招く表現も含まれていることがあるため、情報源の信頼性を見極めることが重要です。

信頼性の高い情報源の例

情報源の種類確認ポイント具体的な例
公的機関・学会情報の発信元が明確か厚生労働省、日本腎臓学会、日本透析医学会など
医療機関のウェブサイト監修者が明記されているか大学病院、腎臓専門病院の公式情報
患者会・支援団体専門家が関与しているか全国腎臓病協議会(全腎協)など

これらの情報源を参考にしつつ、最終的には主治医と相談しながら、ご自身にとって最適な情報を選択していくことが大切です。不明な点や疑問点は、必ず医療専門家に確認するようにしましょう。

心の準備と生活への影響の理解

透析治療を開始することは、身体的な負担だけでなく、精神的にも大きな変化をもたらします。治療に対する不安を抱えたり、今後の生活がどうなるのか心配になったりするのは自然なことです。

ここでは、心の準備の進め方や、生活への影響をどのように理解し、対応していくかについて考えます。

治療に対する不安との向き合い方

「透析治療が始まったら、もう終わりだ」「好きなことができなくなるのではないか」といったネガティブな感情を抱く方も少なくありません。しかし、透析治療は生命を維持し、より良い生活を送るための手段です。

不安な気持ちを一人で抱え込まず、まずは主治医や看護師、臨床心理士などの医療スタッフに相談してみましょう。彼らは多くの患者さんの不安に寄り添ってきた経験を持っています。

また、同じように透析治療を受けている患者さんの体験談を聞いたり、患者会に参加したりすることも、不安を和らげるのに役立つことがあります。治療に対する正しい知識を持つことも、漠然とした不安を軽減する上で重要です。

不安を和らげるためのヒント

  • 医療スタッフに気持ちを話す
  • 信頼できる情報を集める
  • 同じ治療を受ける仲間と交流する
  • 趣味やリラックスできることを見つける

大切なのは、不安を感じている自分を否定せず、その気持ちを誰かに伝えることです。適切なサポートを得ることで、前向きに治療に取り組む力になります。

家族や周囲への伝え方と協力体制

透析治療は、患者さん本人だけでなく、ご家族の生活にも影響を与えることがあります。治療について家族に正しく理解してもらい、協力体制を築くことが、治療を円滑に進める上で大切です。

いつ、どのように伝えるか、何を伝えるべきか、事前に考えておくと良いでしょう。

伝える際には、病状や治療の必要性、治療方法、予想される生活の変化などを具体的に説明します。家族もまた、患者さんと同じように不安を感じたり、戸惑ったりすることがあります。

お互いの気持ちを率直に話し合い、支え合える関係を築くことが望ましいです。医療機関によっては、家族向けの勉強会や相談窓口を設けている場合もありますので、活用を検討しましょう。

仕事や学業との両立について

透析治療を受けながら、仕事や学業を続けることは十分に可能です。しかし、治療スケジュールや体調管理など、これまでとは異なる配慮が必要になります。職場や学校には、病状や治療について事前に伝え、理解と協力を得ることが大切です。

どのような配慮が必要か(例:通院のための休暇、休憩時間の確保、業務内容の調整など)を具体的に相談しましょう。

治療法によっては、仕事や学業への影響を最小限に抑えることも可能です。例えば、腹膜透析は自宅で行えるため、日中の活動時間を確保しやすい場合があります。

主治医やソーシャルワーカーとも相談し、ご自身の状況に合った働き方や学び方を見つけていきましょう。ハローワークや各種支援機関も、治療と仕事の両立に関する相談に応じています。

精神的なサポートの重要性

慢性的な病気と共に生きることは、精神的な負担を伴うことがあります。透析治療を始めるにあたり、また治療を継続していく中で、気分の落ち込みや意欲の低下、不眠などを経験する方もいます。

このような心の変化は、決して特別なことではありません。

精神的なサポートとしては、医療スタッフ(医師、看護師、臨床心理士、精神科医など)によるカウンセリングや、患者会での交流、家族や友人からの支援などが挙げられます。

必要に応じて、専門的な心のケアを受けることも検討しましょう。心の状態が安定していることは、治療効果やQOLの維持にもつながります。自分に合ったサポートを見つけ、活用していくことが大切です。

注意点:精神的なつらさを感じたら、我慢せずに早めに医療スタッフに相談してください。適切なサポートを受けることで、心の負担を軽減できます。

自宅での準備と環境整備

透析治療、特に在宅で行う腹膜透析(PD)や在宅血液透析(HHD)を選択した場合、自宅での準備と環境整備が重要になります。

安全かつ快適に治療を行うために、必要な物品の準備や保管場所の確保、衛生管理などを計画的に進めましょう。

在宅透析の場合の準備物

在宅透析を開始するにあたっては、治療に必要な医療機器や消耗品、衛生材料などを準備します。具体的な物品は治療法によって異なります。

腹膜透析(PD)の準備

腹膜透析では、透析液バッグや接続チューブ、衛生材料(マスク、手袋、消毒液など)を定期的に自宅に配送してもらいます。これらの物品を清潔に保管するためのスペースが必要です。

また、透析液バッグを温めるための加温器や、体重計、血圧計なども準備します。

透析液の交換操作は、清潔な環境で行うことが最も重要です。操作を行う部屋を決め、清掃しやすいように整理整頓を心がけましょう。ペットを飼っている場合は、操作中にペットが部屋に入らないようにするなどの配慮も必要です。

在宅血液透析(HHD)の準備

在宅血液透析では、小型の透析装置や水処理装置を自宅に設置します。これらの装置の設置には、一定のスペースと電気工事、水道工事が必要になる場合があります。

医療機関のスタッフと相談しながら、設置場所や工事について計画を進めます。

その他、透析回路やダイアライザー(透析器)、穿刺針、止血ベルト、衛生材料など、多くの物品が必要になります。これらの物品の保管場所も確保する必要があります。

治療の準備や後片付け、緊急時の対応などについて、患者さん自身と介助者が十分にトレーニングを受けることが大切です。

在宅透析における主な準備物比較

項目腹膜透析(PD)在宅血液透析(HHD)
主要な医療機器加温器など透析装置、水処理装置
主な消耗品透析液バッグ、接続チューブ透析回路、ダイアライザー、穿刺針
保管スペース透析液や衛生材料の保管場所医療機器設置スペース、消耗品の保管場所

緊急時の連絡体制の確認

在宅で透析治療を行う場合、万が一の事態に備えて、緊急時の連絡体制を確立しておくことが非常に重要です。

体調に異変を感じた場合や、医療機器にトラブルが発生した場合などに、すぐに連絡が取れるように、医療機関の緊急連絡先や担当者の連絡先を複数確認し、目立つ場所に掲示しておきましょう。

また、家族や近隣の協力者にも緊急連絡先を共有し、どのような場合に連絡が必要か、どのような対応をすればよいかを事前に話し合っておくことが望ましいです。

定期的な防災訓練と同様に、緊急時の対応について家族でシミュレーションしておくことも有効です。

衛生管理と感染予防

透析治療を受けている方は、免疫力が低下しやすいため、感染症にかかりやすい状態にあります。特に在宅透析では、カテーテルの出口部や穿刺部位からの細菌感染(腹膜炎やシャント感染など)を防ぐために、徹底した衛生管理が求められます。

腹膜透析の透析液交換操作や、血液透析の穿刺・抜針操作は、医療スタッフの指導に従い、清潔な環境で正しい手順で行うことが重要です。手洗いやマスクの着用、操作を行う場所の清掃・消毒を習慣づけましょう。

また、日頃から体調管理に気を配り、発熱やカテーテル出口部の異常(発赤、腫れ、痛み、浸出液など)が見られた場合は、速やかに医療機関に連絡してください。

災害時への備え

地震や台風などの自然災害が発生した場合でも、透析治療を継続できるように備えておくことが大切です。在宅透析を行っている場合は、数日分の透析液や衛生材料、非常食、飲料水、常備薬などを備蓄しておきましょう。

停電に備えて、懐中電灯やポータブル電源なども準備しておくと安心です。

また、災害時の避難場所や連絡方法、かかりつけ医療機関との連絡手段などを事前に確認しておくことも重要です。日本透析医学会や関連団体が、災害時の透析患者さん向けの情報を提供している場合があるので、参考にするとよいでしょう。

災害時透析情報ネットワークなども活用し、いざという時に慌てないように準備を進めてください。

クリニック・病院での準備と手続き

透析治療を開始するにあたり、通院するクリニックや病院での準備や手続きも必要になります。治療をスムーズに開始し、安心して継続していくために、事前に確認しておくべき事項や、利用できる制度について理解を深めましょう。

通院先の選定と確認事項

血液透析を医療機関で受ける場合、週に2~3回通院することになります。そのため、通院のしやすさ(自宅からの距離、交通手段、送迎サービスの有無など)は重要な選定ポイントです。

また、施設の設備や雰囲気、医療スタッフの対応なども、治療を継続する上で影響します。可能であれば、事前に見学をさせてもらい、疑問点を質問してみるとよいでしょう。

腹膜透析や在宅血液透析の場合でも、定期的な通院は必要です。緊急時の対応体制や、専門医・専門スタッフの充実度なども確認しておきたいポイントです。主治医とよく相談し、ご自身の状況や希望に合った医療機関を選びましょう。

治療スケジュールの調整

血液透析の場合、多くは月・水・金または火・木・土の週3回、午前・午後・夜間などの時間帯に分けて治療が行われます。ご自身のライフスタイル(仕事、家事、趣味など)に合わせて、無理のない治療スケジュールを組むことが大切です。

希望する曜日や時間帯がある場合は、早めに医療機関に相談しましょう。場合によっては、希望通りにならないこともありますが、調整可能な範囲で検討してもらえます。

腹膜透析の場合は、自宅での透析液交換のタイミングをある程度自由に調整できますが、生活リズムの中に組み込んでいく必要があります。医療スタッフと相談しながら、無理のないスケジュールを立てましょう。

医療費助成制度の確認と申請

透析治療は長期間にわたるため、医療費の負担が大きくなることがあります。しかし、日本ではさまざまな医療費助成制度が設けられており、これらを活用することで自己負担を軽減できます。

該当する制度を確認し、早めに申請手続きを行いましょう。

主な医療費助成制度

制度名対象となりうる方簡単な説明
更生医療(自立支援医療)身体障害者手帳(腎臓機能障害)をお持ちの方透析治療にかかる医療費の自己負担を軽減する制度です。所得に応じて自己負担上限額が設定されます。
特定疾病療養受療証長期にわたり高額な治療を必要とする疾病(人工透析が必要な慢性腎不全など)の方医療機関の窓口で提示することで、1ヶ月の自己負担限度額が原則1万円(上位所得者は2万円)になります。
重度心身障害者(児)医療費助成制度重度の心身障害の状態にある方(自治体により対象基準が異なります)医療費の自己負担分を助成する制度です。お住まいの市区町村にお問い合わせください。
障害年金病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった方透析治療を受けている方は、障害等級に該当する可能性があります。年金事務所や専門家にご相談ください。

これらの制度の申請には、医師の診断書や各種書類が必要になります。手続きが複雑な場合もあるため、医療機関のソーシャルワーカーや市区町村の担当窓口に相談しながら進めることをお勧めします。

シャント作成手術の準備と術後のケア

血液透析を行うためには、十分な血液量を確保するために、腕などの血管に「シャント」と呼ばれる血液の通り道を作成する手術が必要です。シャントは、一般的に利き腕と反対側の手首付近の動脈と静脈をつなぎ合わせて作ります。

手術は局所麻酔で行われ、日帰りまたは短期入院となることが多いです。

手術前には、医師から手術の方法やリスク、術後の注意点などについて十分な説明を受けます。手術後は、シャントを長持ちさせるために、適切な自己管理が重要です。

シャント側の腕で重い物を持たない、血圧測定や採血を避ける、シャント音(スリル)を毎日確認するなどの注意点があります。シャントの状態に異常を感じた場合は、すぐに医療機関に連絡しましょう。

シャント術後の主な注意点

  • シャント側の腕を圧迫しない
  • シャント側の腕で重い物を持たない
  • シャント音(スリル)を毎日確認する
  • シャント肢の清潔を保つ
  • 異常時(腫れ、痛み、赤み、熱感、出血、音が聞こえないなど)は速やかに連絡する

シャントは血液透析を行う上で「命綱」とも言える大切なものです。日頃から丁寧に扱い、異常の早期発見に努めましょう。

食事と栄養管理の基本

透析治療を始めるにあたり、食事療法は非常に重要な役割を果たします。

腎機能が低下すると、体内の老廃物や余分な水分、電解質などを十分に排泄できなくなるため、食事内容を調整することで、これらの蓄積を防ぎ、体調を良好に保つことを目指します。

ここでは、透析治療中の食事療法の基本的な考え方について説明します。

透析治療中の食事療法の目的

透析治療中の食事療法の主な目的は以下の通りです。

  • 尿毒症症状の軽減と予防
  • 体液量(水分)の適切な管理
  • 電解質(カリウム、リンなど)バランスの維持
  • 良好な栄養状態の維持と合併症の予防
  • 透析効率の向上

これらの目的を達成するために、エネルギー、たんぱく質、塩分、水分、カリウム、リンなどの摂取量を適切にコントロールすることが求められます。

ただし、制限ばかりに目を向けるのではなく、必要な栄養素をしっかり摂取し、食べる楽しみを維持することも大切です。管理栄養士と相談しながら、バランスの取れた食事を心がけましょう。

塩分・水分制限のポイント

腎機能が低下すると、塩分(ナトリウム)と水分の排泄が困難になり、体内に溜まりやすくなります。その結果、高血圧、むくみ、心不全などを引き起こす可能性があります。そのため、塩分と水分の摂取量を適切に管理することが重要です。

塩分制限の目安は、1日6g未満が一般的ですが、個々の状態によって異なります。加工食品や外食には塩分が多く含まれていることが多いので注意が必要です。

調味料の使い方を工夫したり、香辛料や香味野菜を活用したりすることで、薄味でも美味しく食べられるように工夫しましょう。

水分制限は、尿量や透析間の体重増加量などを考慮して設定されます。飲み水だけでなく、食事に含まれる水分(汁物、果物など)も考慮に入れる必要があります。のどの渇きを感じたときは、うがいをする、氷を少量なめるなどの工夫も有効です。

カリウム・リンの摂取量の調整

カリウムは、筋肉や神経の働きに重要なミネラルですが、腎機能が低下すると体内に蓄積しやすくなり、高カリウム血症を引き起こすことがあります。

高カリウム血症は、不整脈や心停止など、命に関わる状態を招く可能性があるため、摂取量の調整が必要です。カリウムは、野菜、果物、いも類、豆類などに多く含まれます。

調理方法(茹でこぼす、水にさらすなど)によって、食品中のカリウム量を減らすことができます。

リンもまた、骨の健康に必要なミネラルですが、過剰に摂取するとカルシウムとのバランスが崩れ、骨がもろくなったり、血管の石灰化(動脈硬化)を進めたりする原因となります。

リンは、乳製品、肉類、魚介類、加工食品などに多く含まれます。リンの吸収を抑える薬(リン吸着薬)を服用する場合は、医師の指示通りに正しく使用することが大切です。

食事療法における主な栄養素の注意点

栄養素主な注意点多く含む食品の例
塩分摂取量を制限し、高血圧やむくみを予防する。加工食品、漬物、干物、インスタント食品、外食メニュー
水分摂取量を管理し、体液貯留を防ぐ。飲み物全般、汁物、果物、野菜
カリウム摂取量を調整し、高カリウム血症を予防する。生野菜、果物(バナナ、メロンなど)、いも類、豆類、海藻類
リン摂取量を調整し、骨や血管の合併症を予防する。乳製品、肉類、魚介類(特に内臓や骨ごと食べるもの)、卵黄、加工食品(添加物として)

食事療法は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて個別に行う必要があります。必ず医師や管理栄養士の指導を受け、正しい知識に基づいて実践しましょう。

たんぱく質の適切な摂取

たんぱく質は、体を作る上で重要な栄養素ですが、摂取しすぎると老廃物が増え、腎臓に負担をかけることになります。そのため、透析導入前はたんぱく質制限を行うことが一般的です。

しかし、透析治療を開始すると、透析によってアミノ酸やたんぱく質が失われるため、逆に十分なたんぱく質の摂取が必要になります。たんぱく質が不足すると、栄養状態が悪化し、体力や免疫力の低下につながる可能性があります。

透析患者さんのたんぱく質の推奨摂取量は、体重1kgあたり1.0~1.2g程度とされていますが、これも個々の状態によって調整が必要です。良質なたんぱく質(肉、魚、卵、大豆製品など)をバランス良く摂取し、十分なエネルギーを確保することが大切です。

エネルギーが不足すると、体内のたんぱく質が分解されてしまうため、ご飯やパンなどの炭水化物や、適量の脂質もしっかり摂るようにしましょう。

日常生活で気をつけること

透析治療を受けながらも、できる限り快適で活動的な日常生活を送るためには、いくつかの点に気をつける必要があります。体調管理はもちろんのこと、精神的な安定や社会とのつながりを保つことも大切です。

適度な運動と休息のバランス

透析患者さんにとって、適度な運動は体力維持、筋力向上、ストレス解消、睡眠の質の改善など、多くのメリットがあります。ただし、運動の種類や強度は、個々の状態やシャントの状態などを考慮して、医師や理学療法士と相談しながら決めることが重要です。

ウォーキング、軽い体操、ストレッチなど、無理のない範囲で継続できる運動を取り入れましょう。

一方で、十分な休息も必要です。透析治療は身体に負担がかかるため、治療日は特に無理をせず、ゆっくりと休養することが大切です。日頃から睡眠時間を確保し、質の高い睡眠を心がけることも、体調管理に役立ちます。

体重管理と血圧測定の習慣化

透析間の体重増加は、主に水分摂取によるものです。体重が増えすぎると、心臓への負担が増加したり、透析時の除水が困難になったりします。

毎日の体重測定を習慣にし、透析間の体重増加を目標範囲内(ドライウェイトの3~5%以内が目安)にコントロールするように心がけましょう。ドライウェイト(目標体重)は、定期的に医師と相談して見直します。

血圧測定も重要です。高血圧は心血管系の合併症のリスクを高めます。家庭でも定期的に血圧を測定し、記録しておくと、治療方針の決定に役立ちます。測定する時間帯や条件(安静時など)を一定にすると、より正確な評価ができます。

体重・血圧管理の記録項目例

項目記録頻度ポイント
体重毎日(起床時など決まった時間)透析間の体重増加を把握する。
血圧・脈拍毎日(起床時、就寝前など決まった時間)変動を把握し、異常があれば医師に相談する。
体調・症状適宜むくみ、息切れ、食欲不振など、気になる症状を記録する。

禁煙と節酒のすすめ

喫煙は、動脈硬化を進行させ、心血管系の合併症(心筋梗塞、脳卒中など)のリスクを高めます。また、呼吸機能にも悪影響を与えます。透析患者さんにとって、禁煙は健康維持のために非常に重要です。

禁煙が難しい場合は、禁煙外来などで専門家のサポートを受けることを検討しましょう。

アルコールの過度な摂取も、肝臓への負担や血圧上昇、栄養バランスの乱れなどを引き起こす可能性があります。飲酒する場合は、医師に相談し、適量を守ることが大切です。一般的には、節度ある飲酒が推奨されます。

旅行や外出時の注意点

透析治療を受けていても、旅行や外出を楽しむことは可能です。ただし、事前の準備と注意が必要です。血液透析を受けている場合は、旅行先の透析施設を予約する必要があります(臨時透析)。

腹膜透析の場合は、透析液や関連物品を持参するか、旅行先に配送する手配をします。

旅行中は、食事療法や水分管理にも気を配り、無理のないスケジュールを組むことが大切です。緊急時に備えて、かかりつけ医の連絡先や服用中の薬の情報を携帯しましょう。

海外旅行の場合は、英文の診断書や薬剤証明書が必要になることもあります。事前に主治医や旅行会社とよく相談し、計画的に準備を進めましょう。

旅行計画時のポイント:

  • 早めに主治医に相談し、許可を得る。
  • 臨時透析の手配や、透析物品の準備を行う。
  • 旅行中の食事や水分管理に注意する。
  • 緊急連絡先や薬剤情報を携帯する。

よくある質問

透析治療の準備や治療そのものに関して、多くの方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。ここに記載されていないことでも、不安や疑問があれば遠慮なく主治医や医療スタッフにご相談ください。

透析治療を始めたら、食事は一生制限されますか?

はい、透析治療を受けている間は、基本的に食事療法を継続する必要があります。

腎臓の機能が回復するわけではないため、食事からの水分、塩分、カリウム、リンなどの摂取量を適切にコントロールし、体調を良好に保つことが重要です。

ただし、制限の内容や程度は、患者さんの状態や透析方法、検査データなどによって異なります。管理栄養士とよく相談し、ご自身に合った食事療法を無理なく続けられるように工夫しましょう。

食べる楽しみを失わないように、調理法や味付けを工夫することも大切です。

シャントの管理で気をつけることは何ですか?

シャントは血液透析を行うための大切な「命綱」です。長持ちさせるために、日常的な管理が重要です。具体的には、以下の点に注意しましょう。

  • シャント側の腕を圧迫しない(腕時計、きつい衣類、重い荷物を持つなど)。
  • シャント側の腕で血圧測定や採血をしない。
  • 毎日シャントの音(スリル)や振動を確認し、異常がないかチェックする。
  • シャント部分を清潔に保ち、感染を予防する。
  • シャント部分に痛み、腫れ、赤み、熱感、出血、拍動の消失などの異常が見られた場合は、すぐに医療機関に連絡する。

定期的なシャントチェックも受け、異常の早期発見・早期対応を心がけましょう。

透析治療中でも旅行はできますか?

はい、透析治療中でも旅行は可能です。ただし、事前の計画と準備が大切です。血液透析を受けている方は、旅行先の医療機関で臨時透析を受ける手配が必要です。

腹膜透析の方は、透析液や関連物品を持参するか、旅行先に配送する手配をします。旅行の計画を立てる際には、まず主治医に相談し、許可を得ることが必要です。体調を考慮し、無理のないスケジュールを組みましょう。

旅行中の食事管理や水分管理にも注意が必要です。海外旅行の場合は、英文の診断書や薬剤情報が必要になることもありますので、早めに準備を始めましょう。

医療費の負担が心配です。どのようなサポートがありますか?

透析治療は長期間にわたるため、医療費の負担が心配になることと思います。

日本では、透析治療を受ける患者さんの経済的負担を軽減するための様々な公的助成制度があります。主なものとして、「特定疾病療養受療証」を申請・取得することで、1ヶ月の自己負担限度額が原則1万円(上位所得者は2万円)になります。

また、身体障害者手帳(腎臓機能障害)を取得すると、「自立支援医療(更生医療)」の対象となり、さらに自己負担が軽減される場合があります。

その他、お住まいの自治体によっては独自の医療費助成制度がある場合や、障害年金の受給対象となる可能性もあります。これらの制度の利用には申請手続きが必要です。

医療機関のソーシャルワーカーや、市区町村の担当窓口、年金事務所などに相談し、利用できる制度について確認し、手続きを進めましょう。

透析治療の準備は、身体的な側面だけでなく、精神的、社会的な側面も含めて多岐にわたります。

不安なことや分からないことは一人で抱え込まず、主治医、看護師、管理栄養士、ソーシャルワーカーなどの医療専門家チームに積極的に相談し、サポートを受けながら進めていくことが大切です。

以上

透析センター(人工透析) | 大垣中央病院(医療法人社団豊正会 )

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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