透析患者さんの便秘|原因・影響と排便コントロールのための対策

透析患者さんの便秘|原因・影響と排便コントロールのための対策

透析を受けている方の約40〜60%が便秘に悩んでいるとされ、一般の方に比べて非常に高い割合です。便秘は単なる「お腹の不快感」にとどまらず、体内に尿毒素をため込み、心臓や血管に負担をかける要因にもなり得ます。

食事や水分の制限、リン吸着薬やカリウム吸着薬の服用、透析中に排便を我慢する習慣など、透析患者さんならではの事情が便秘を起こしやすくしています。原因を知り、正しい対策を取ることで排便コントロールは改善できます。

この記事では、透析と便秘の関係を原因・影響・対策の順に整理し、主治医や医療チームと一緒に取り組める具体的な方法をお伝えします。

目次

透析患者に便秘が多いのはなぜ? 有病率40〜60%の背景

透析患者さんの便秘有病率は40〜60%にのぼり、一般成人の2〜3倍です。カリウム・リンの食事制限、リン吸着薬などの処方薬、透析中の長時間臥床が複合的に腸の動きを鈍らせることが主な要因です。血液透析か腹膜透析かでもリスクの大きさは異なるため、透析様式に合った対策を知っておきましょう。

血液透析と腹膜透析で便秘の頻度が異なる

血液透析(HD)を受けている患者さんは、腹膜透析(PD)の患者さんに比べて便秘の頻度が高い傾向があります。ある調査では、HD患者さんの約63%が便秘を訴えたのに対し、PD患者さんでは約29%でした。

HD患者さんはカリウム制限がより厳しく、食物繊維の摂取量が少なくなりがちなことが一因と考えられています。加えて、HD患者さんは透析中の4〜5時間にわたりベッドに横たわっているため、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)が低下しやすくなります。

透析中に大腸の通過時間を実測した研究でも、HD患者さんの平均通過時間は約43時間と、健常者の約24時間を大幅に上回っていました。

一方、PD患者さんは温かい透析液がお腹に入ることで腸管が刺激されやすく、比較的排便が促されやすいと報告されています。ただし、PD患者さんでも糖尿病や高齢など複数のリスクを持つ方は便秘になりやすいため、油断はできません。

水分・食事制限と運動不足が重なると腸はどう変わるか

透析患者さんは水分やカリウム、リンの摂取量に制限があります。野菜や果物、海藻など食物繊維を多く含む食品にはカリウムも多いため、食物繊維の摂取が不足しがちです。食物繊維が足りないと便のかさが減り、腸への刺激が弱まります。

また、水分制限によって便の水分量も低下し、硬い便になりやすくなります。疲労感や体力の低下によって運動量が減ると、腸の動きはさらに鈍くなるでしょう。これらが同時に起こることで、便秘が慢性化しやすくなるのです。

処方薬が腸の動きを妨げている場合もある

リン吸着薬(特にカルシウム含有製剤や鉄含有製剤)、カリウム吸着薬(ポリスチレンスルホン酸など)は便秘を起こしやすい薬として知られています。これらの薬は腸内の水分を吸着したり、便を硬くしたりすることで排便を困難にします。

薬剤の種類便秘を起こす仕組み
カルシウム含有リン吸着薬腸管内でカルシウムが便を硬くする
鉄含有リン吸着薬鉄分が腸壁を刺激しにくくし便が停滞する
カリウム吸着薬イオン交換で腸内の水分を奪い便が硬くなる
降圧薬(カルシウム拮抗薬)平滑筋の弛緩作用が腸管にも及ぶ

複数の薬を併用している場合、便秘のリスクはさらに高まります。自己判断で薬を中止するのは危険ですので、便秘がつらいときは必ず主治医に相談しましょう。

尿毒素と腸内環境 — 透析患者の腸で起きている変化

「食事と薬を見直せば便秘は治る」と思われがちですが、それだけでは解決しない場合があります。腎機能の低下によって体内に蓄積する尿毒素が、腸の動きそのものを弱めていることが近年の研究で判明しました。腸内細菌の乱れや透析中の我慢癖も、便秘を長引かせる隠れた原因です。

尿毒素が腸の蠕動運動を直接弱める

インドキシル硫酸やp-クレシル硫酸といった尿毒素は、腸管の平滑筋(へいかつきん:内臓を動かす筋肉)の収縮力を弱めることが動物実験で報告されています。健康なマウスの大腸を尿毒素の溶液に浸すと、収縮力が50〜65%も低下したという結果があります。

腎機能が低下すると、これらの毒素を十分に排泄できなくなり、血液中に蓄積します。蓄積した尿毒素が腸の動きを鈍くし、便秘が悪化すると、さらに腸内で尿毒素の産生が増えるという悪循環に陥る可能性があります。

腸内細菌のバランスが崩れると何が起こるか

透析患者さんの腸内環境では、有用菌(善玉菌)が減り、尿毒素の前駆物質を生み出す菌が増える「ディスバイオーシス(腸内細菌の乱れ)」が起きやすいことがわかっています。

短鎖脂肪酸は大腸の蠕動運動を促進する働きをもつため、産生量の低下は便秘を助長する一因です。さらに、腸管のバリア機能が損なわれると、細菌由来の毒素が血液中に移行し、全身性の炎症を引き起こすおそれがあります。

透析中に排便を我慢する習慣が腸の感度を下げる

ある調査では、HD患者さんの約78%が透析中に便意を我慢した経験があると回答しました。便意を繰り返し抑え込むことで、直腸の感覚が鈍化し、便がたまっても便意を感じにくくなる「直腸感覚低下」が起こりやすくなります。

透析前にトイレを済ませる習慣をつけることが対策の第一歩です。透析スケジュールに合わせて朝食後に排便する時間を確保するなど、生活リズムを整えることも助けになります。

腸管変化の要因便秘との関連
尿毒素の蓄積大腸平滑筋の収縮力低下
腸内細菌の乱れ短鎖脂肪酸の減少で蠕動が弱まる
腸管バリアの破綻全身性炎症が腸機能をさらに悪化させる
直腸感覚の低下便意を感じにくくなり排便反射が弱まる

「たかが便秘」では済まない — 透析患者の便秘が全身に及ぼす影響

お腹の張りや排便の困難を「よくあること」と我慢している方は少なくないかもしれません。しかし透析患者さんの便秘は、心血管イベントや死亡リスクの上昇にまで波及し得る深刻な合併症です。腹膜透析を行っている方では腹膜炎の誘因にもなるため、早期の対処が欠かせません。

尿毒素の蓄積が心血管リスクを高める

便秘によって腸管内の滞留時間が長くなると、腸内細菌が産生するインドキシル硫酸やp-クレシル硫酸が血中へ大量に移行します。これらの尿毒素は血管内皮を障害し、動脈硬化の進行を早めることがわかっています。

約335万人の米国退役軍人を対象とした大規模研究では、便秘のある人はない人と比べて冠動脈疾患の発症率が21%、脳卒中の発症率が39%高かったと報告されました。透析患者さんはもともと心血管リスクが高いため、便秘による追加のリスク上昇は見過ごせません。

腹膜透析における腹膜炎リスクの上昇

PD患者さんの場合、便秘は腹膜炎の引き金になることがあります。便秘により腸管内の圧力が高まると、腸壁を通じて細菌が腹腔内に移行しやすくなるためです。

腹膜炎を起こすとPDの継続が困難になり、血液透析への変更を余儀なくされることもあります。PD患者さんにとって便秘対策はまさに透析治療を守るための取り組みです。

生活の質(QOL)と精神面への影響は無視できない

便秘は身体面だけでなく精神面にも影を落とします。605名の透析患者さんを対象にした調査では、便秘を抱える患者さんは身体的健康度・精神的健康度のいずれも、便秘のない患者さんより有意に低い結果でした。

腹部の膨満感や排便時の苦痛は、睡眠の質を低下させ、食欲不振やうつ傾向を助長することもあります。「便秘くらい」と我慢せずに医療チームへ早めに相談することが、日々の暮らしの質を守る第一歩です。

排便コントロールを改善する食事と生活習慣のヒント

食事と生活習慣の工夫は、薬に頼る前にまず試したい排便コントロールの土台です。カリウムやリンの制限があるなかでも食物繊維を確保する方法はありますし、軽い運動や腹部マッサージも腸の動きを助けます。「制限が多くてできることがない」と諦める必要はありません。

制限の範囲で食物繊維を上手に確保する方法

食物繊維は腸の蠕動運動を促し、便のかさを増やす働きがあります。透析患者さんが食物繊維を増やすには、カリウム含有量の比較的少ない食品を選ぶことがポイントです。こんにゃくやもやし、大根、白菜、りんごの皮付きなどは、カリウムを抑えつつ食物繊維を摂取しやすい食材です。

野菜を茹でこぼすとカリウムが水に溶け出るため、生で食べるより茹でてから使う工夫も大切になります。管理栄養士に相談して個人の制限量に合った献立を組むと、無理なく食物繊維を増やせるでしょう。

適度な運動と腹部マッサージが腸を動かす

透析日以外のウォーキングやストレッチは、腸管の血流を改善し蠕動運動を活発にする効果が期待できます。激しい運動は必要なく、1日15〜20分程度の散歩でも効果があるとされています。座ったままの姿勢が長く続くと腸が圧迫されやすいため、体を動かす意識が大切です。

腹部マッサージも手軽に取り入れられる方法です。おへそを中心に「の」の字を描くように時計回りにさする動作を、朝起きたときや就寝前に5分ほど行います。腸の走行に沿ったマッサージは便の移動を助け、排便を促しやすくします。

水分管理と排便リズムを両立させるための生活の整え方

水分制限のある透析患者さんにとって、便通のために水分を多く摂ることは現実的ではありません。限られた水分量の中で便通を改善するには、食物繊維の摂取を優先しつつ、朝食後にトイレに座る時間を毎日決めることが大事です。

  • 朝食後15〜30分以内にトイレに座り、排便反射を促す
  • 透析の前日は特に意識して食物繊維をとる
  • 就寝前の腹部マッサージで翌朝の排便を準備する

こうした日常の小さな習慣を積み重ねることで、薬に頼りすぎない排便コントロールにつながります。便秘が改善しない場合は医療チームへ相談し、次にご紹介する薬物療法を検討してもらいましょう。

透析患者の便秘に使われる下剤と薬物療法の選択肢

食事や運動の見直しを続けても便秘が解消しないときは、薬物療法を組み合わせる必要があります。ただし腎機能が低下している透析患者さんでは、一般的な下剤でも電解質異常を招くおそれがあるため、薬の選び方には慎重さが欠かせません。

浸透圧性下剤と刺激性下剤の特徴と使い分け

浸透圧性下剤は腸管内に水分を引き込み、便を柔らかくする薬剤です。酸化マグネシウムは広く使われていますが、腎機能が低下した透析患者さんではマグネシウムが体内に蓄積し、高マグネシウム血症を起こすリスクがあるため注意が必要です。

ポリエチレングリコール製剤は電解質への影響が少なく、透析患者さんにも比較的使いやすいとされています。

刺激性下剤(センノシド、ビサコジルなど)は腸壁を直接刺激して蠕動運動を促進しますが、常用すると腸管が刺激に慣れてしまい、効果が弱まる「耐性」が生じることがあります。短期間の使用や、頓服(必要時のみ使用する方法)として用いるのが望ましいでしょう。

リン吸着薬やカリウム吸着薬との飲み合わせに気をつける

透析患者さんは複数の薬を同時に服用していることが多く、下剤との飲み合わせに注意が必要です。たとえば、カリウム吸着薬と一部の下剤を同時に服用すると、腸管内での吸着効率が低下する場合があります。薬を飲むタイミングをずらすだけで影響を最小限にできることもあります。

下剤の分類透析患者さんでの注意点
酸化マグネシウム高マグネシウム血症のリスク — 血中Mg値を定期確認
ポリエチレングリコール電解質への影響が少なく比較的安全
ラクツロース腸内細菌によるガス産生で腹部膨満が出ることがある
センノシド・ビサコジル長期連用で耐性が生じやすい
ルビプロストン腸液分泌を促進し尿毒素の排泄を助ける報告がある

自己判断で市販の下剤を使うと電解質異常を起こすおそれがありますので、必ず主治医に処方してもらいましょう。

腸管分泌促進薬など新しい治療薬への期待

近年、ルビプロストンやリナクロチドなど腸管の分泌を促すタイプの薬剤が便秘治療に使われるようになっています。ルビプロストンは腸液の分泌を増やして便を柔らかくするだけでなく、動物実験ではインドキシル硫酸など尿毒素の血中濃度を低下させたという報告があります。

こうした薬剤が透析患者さんの便秘と尿毒素の悪循環を断ち切る一助になるかもしれません。ただし、透析患者さんに特化した大規模臨床試験はまだ十分ではないため、使用については主治医の判断に従ってください。

医療チームと一緒に取り組む排便トラブルの予防策

排便の悩みは、一人で抱え込むより医療チームに打ち明けたほうが確実に改善へ近づきます。主治医・看護師・管理栄養士がそれぞれの専門から原因を探り、食事・薬剤・生活習慣を同時に調整できるのがチーム医療の強みです。

便の状態を記録して主治医に伝える方法

ブリストル便形状スケール(便の形を7段階に分類する指標)を活用すると、便の状態を客観的に伝えやすくなります。たとえば「タイプ1:コロコロした硬い便」「タイプ4:なめらかなバナナ状」のように分類されており、数字で伝えるだけで主治医との共通認識が生まれます。

排便の頻度、便の硬さ、腹部の張り具合を簡単にメモしておき、透析日に持参すると診察がスムーズになるでしょう。「毎朝お通じがない」という漠然とした訴えより、具体的な記録のほうが治療方針を立てやすくなります。

看護師や管理栄養士との連携で得られるもの

透析クリニックの看護師は、透析中の腹部症状や便秘の訴えを日常的に聞いています。便秘が続くときは看護師に伝えておけば、主治医への橋渡しをしてもらえます。管理栄養士からはカリウム制限の中で食物繊維を増やす具体的なメニュー提案を受けることも可能です。

チームで情報を共有することで、たとえばリン吸着薬の種類を便秘の起きにくいものへ変更するといった調整が実現しやすくなります。便秘の原因は一つではなく、食事・薬剤・生活習慣が絡み合っているため、多職種のサポートを受けることが改善への近道です。

便秘を相談しにくいと感じたとき

排便の悩みは相談しにくいと感じる方も少なくありません。しかし、透析患者さんの便秘は非常に多い症状であり、医療スタッフにとっては日常的に対応しているテーマです。「実はお腹の調子が悪くて」とひと言添えるだけで十分伝わります。

最近はオンライン診療や看護師への電話相談を実施している施設もあります。対面での相談が難しい場合でも、複数の窓口を活用してみてください。排便の問題は決して恥ずかしいことではなく、透析治療を安全に続けるために大切な医療情報です。

よくある質問

透析患者の便秘は市販の便秘薬で解消しても大丈夫ですか?

透析患者さんは腎機能が低下しているため、市販の便秘薬を自己判断で使うことはおすすめできません。たとえば酸化マグネシウムを主成分とする市販薬では、マグネシウムが体内に蓄積して高マグネシウム血症を引き起こすリスクがあります。

また、一部の刺激性下剤は電解質バランスを崩す原因になることがあります。便秘がつらいときは主治医に相談し、ご自身の病状や服用中の薬に合った下剤を処方してもらうのが安全です。

透析患者の便秘はどのくらいの頻度で医師に報告すべきですか?

3日以上排便がない状態が繰り返される場合や、腹部の強い張り・痛みを感じたときは、次の透析日を待たずに医師へ報告しましょう。週に3回未満の排便が2週間以上続くようであれば、慢性的な便秘として治療の対象になります。

普段から排便の頻度と便の硬さを簡単に記録しておくと、受診時に状況を正確に伝えやすくなります。特にPDを行っている方は、便秘が腹膜炎のリスクを高めるため、早めの相談が重要です。

透析を受けていると食物繊維はどのくらい摂取してよいですか?

透析患者さんにとって食物繊維の適切な摂取量は、個人のカリウム・リン制限や透析の種類によって異なります。一般的には1日10〜15g程度を目標にすることが多いですが、カリウムの摂取上限を超えないよう、管理栄養士と相談しながら調整することが大切です。

こんにゃくや寒天、茹でこぼした野菜などカリウム含有量の少ない食物繊維源を選ぶと、制限の範囲内で食物繊維を増やしやすくなります。サプリメントで補う方法もありますが、必ず主治医の了解を得てから使用してください。

透析患者の便秘が心臓や血管に悪影響を与えるというのは本当ですか?

便秘と心血管リスクの関連は複数の大規模研究で報告されています。便秘があると腸内で産生された尿毒素が血中に多く移行し、血管の内壁を傷つけたり動脈硬化を進行させたりすることがわかっています。

約335万人を対象とした研究では、便秘のある方は冠動脈疾患や脳卒中の発症率が有意に高く、総死亡リスクも12%上昇していました。透析患者さんはもともと心血管疾患のリスクが高いので、便秘の管理は全身の健康を守るうえでも重要な取り組みです。

透析中に便意を我慢し続けると便秘は悪化しますか?

透析中に便意を我慢する習慣は便秘を悪化させる原因になり得ます。便意は直腸に便がたまったときに脳へ送られる信号ですが、繰り返し我慢するとこの信号の感度が鈍くなり、便がたまっても便意を感じにくくなることがあります。

対策として、透析開始前にトイレを済ませる時間を確保することや、朝食後に排便の習慣をつけることが効果的です。透析のスケジュールに合わせて生活リズムを整えると、透析中に便意を我慢する回数を減らせるでしょう。

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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