透析治療を受けている方にとって、カリウムは毎日の生活を左右する重要な栄養素です。体内のカリウムが増えすぎると不調が生じやすくなり、低すぎれば筋肉の働きや心拍に影響が出やすくなります。
カリウム値は食生活だけでなく、透析回数や血液検査の結果とも深く関わっています。適度な範囲を維持するためには透析患者カリウム摂取量を意識した食事や日々のルーティンを整えることが大切です。
このように、カリウム管理の正しい知識を得ることは、身体の負担を減らしながら安定した健康状態を目指すうえで大きな意味があります。
本記事では透析患者カリウムの基本を踏まえ、役立つ食事の工夫や注意点などを詳しくお伝えします。
透析とカリウムの基礎知識
透析では血中の老廃物や余分な水分を除去しますが、カリウムコントロールが十分でないと血液中のカリウム濃度が乱れやすくなります。カリウムは心臓や筋肉の働きに深く関係し、透析とバランスを取りながら管理することが大切です。
理解を深めるために、透析がどのようにカリウムに影響するのか概観しましょう。
透析治療と身体の仕組み
透析は腎臓の働きが低下した方が、人工的に体内の老廃物や水分を取り除くための医療行為です。通常の腎臓は体内の電解質バランスを調整し、不要な物質を尿として排出します。しかし腎臓機能が低下すると、カリウム調節も難しくなります。
そこで透析を行いながら余剰分を排出し、身体の状態を一定に保とうとします。
カリウムが体内で果たす役割
カリウムは筋肉の収縮や神経の伝達など、多くの生理的機能を支える大切な電解質です。血中カリウム濃度が高くなると不整脈や筋力低下などの症状が出やすくなり、重度になると心臓に深刻な影響が及ぶことがあります。
一方で低くなりすぎても同様に体調不良を起こします。
カリウムと腎不全の関係
腎臓が正常に働いているときは、過剰になったカリウムを尿に排出することが可能です。腎不全になるとその調整力が低下し、余剰分のカリウムが身体に蓄積しやすくなります。
透析を行っている方は血中のカリウム値が上下しやすいため、食事の管理と血液検査の数値を合わせてチェックする必要があります。
高カリウム血症と低カリウム血症
カリウムが多すぎる状態を高カリウム血症と呼び、心筋の興奮リズムを乱す危険があります。逆に低カリウム血症では筋肉痛や倦怠感、時に心拍の異常も引き起こします。
透析患者カリウム管理を怠ると、どちらの状態にも陥りやすくなります。
カリウム調整の基本ポイント
項目 | ポイント |
---|---|
血液検査の確認 | 定期的な血液検査でカリウム値を把握する |
食生活の見直し | カリウムが多い食材の摂取量を調整する |
透析スケジュール | 担当医と相談しながら透析の回数や時間を検討し、カリウムバランスに配慮した治療計画を立てる |
薬剤の調整 | カリウム上昇リスクのある薬を服用する際は主治医に相談する |
食事の工夫と透析患者カリウム摂取量の目安
透析患者カリウム摂取量をうまくコントロールするためには、日々の食生活が重要です。特にカリウムの多い食材をそのまま摂りすぎると血中カリウム値が急激に上昇するリスクがあります。
献立の工夫や調理法の調整によって栄養バランスを取りながら過度な増減を防ぎましょう。
カリウムを多く含む食材と対策
野菜や果物、芋類、大豆製品などにはカリウムが豊富です。摂らないわけにはいかないため、過剰摂取を避けるための工夫が必要です。特に透析の合間に思いがけずカリウムを取りすぎることがあり、その予防が大切となります。
- 野菜を下茹でするなどの湯通しを活用してカリウムを減らす
- 果物は種類や量を工夫する
- 乳製品や豆類も過剰になりやすいので適度な量に留める
下処理や調理の仕方で差が出る
カリウムは水に溶けやすい性質があります。ゆでこぼしや水洗いなどである程度カリウムを除去できます。
味付けの段階でソースやだしを使いすぎると塩分や他の栄養素の過多につながる可能性もあるので、総合的なバランスを意識してください。
過度な制限と栄養不足のリスク
カリウムを制限するあまり、他の栄養素が不足する事態は避けたいところです。たんぱく質、ビタミン、ミネラル、エネルギーなど、必要な栄養はしっかりと確保しつつ、透析患者カリウム摂取量をコントロールする発想が必要です。
食べる量やタイミングを変えることも有効な方法のひとつです。
カリウムを多く含む主な食材の目安
食材分類 | 代表的な例 | カリウム量が高めの例 |
---|---|---|
野菜 | ほうれん草、ブロッコリー、にんじん | ほうれん草100gあたり約550mg、ブロッコリー100gあたり約370mg |
果物 | バナナ、メロン、キウイ | バナナ1本あたり約350mg |
芋類 | じゃがいも、さつまいも | じゃがいも1個あたり約450mg |
豆類 | 大豆、小豆、納豆 | 納豆1パックあたり約300mg |
カリウム値を把握する血液検査の見方
透析患者カリウム管理で欠かせないのが定期的な血液検査です。採血の結果を正しく理解し、自分のカリウム値の変動を把握しておくと、日常の食事や水分摂取、透析スケジュールの調整に役立ちます。
医師や栄養士と相談しながら記録を蓄積することで、より精度の高い管理が期待できます。
血液検査で確認できる項目
カリウム以外にも、リン、ナトリウム、クレアチニン、尿素窒素などの数値が重要です。これらはすべて身体の代謝や栄養状態に関わるため、総合的に判断することでカリウム対策の方向性が見えてきます。
カリウム値が上がりやすいタイミング
食事の直後や透析の直前などはカリウム値が上昇しやすいタイミングです。そのため、検査結果を見て異常に高い数値が出た場合、生活パターンを振り返ってみると改善策が明確になります。
血液検査と透析スケジュール
透析日の前日にカリウムの多い食事を摂ると、透析の当日には急激に血中カリウムが上昇しやすくなります。担当医や看護師は血液検査の結果を踏まえて透析条件を調整しますが、患者自身も食生活の記録を取っておくと連携がスムーズに進みます。
結果を踏まえた個別対策
検査結果をただ見て終わらせるのではなく、具体的な数値を元に次回の目標や改善のポイントを明確化すると、長期的な管理がしやすくなります。
患者それぞれで目標数値は異なるので、医療スタッフと一緒に適切なラインを設定すると安心です。
カリウム値と健康状態の関係
カリウム値 | 体調の目安 |
---|---|
3.5未満 | 低カリウム血症になりやすく倦怠感が出やすい場合がある |
3.5~5.0 | 比較的安定している範囲 |
5.0~5.5 | やや高めで注意が必要 |
5.5以上 | 高カリウム血症のリスクが高く深刻な症状を招く可能性 |
日常生活での注意点
透析患者カリウム管理は食事だけでなく、水分量や運動習慣、服薬など多岐にわたります。小さな習慣の積み重ねが大きなトラブルを防ぐことにつながります。
水分とカリウムのバランス
腎臓の機能が落ちていると、水分を過剰に摂取すると血液が薄まる一方で腎臓から排出できる量は限られ、体内に滞留しやすくなります。カリウムも血中に蓄積しやすくなるため、水分補給量と食事の内容を総合的に管理しましょう。
運動時の留意点
運動によって代謝を促進すると、筋肉内のカリウムが血液中に移行する可能性があります。適度な運動は血行を良くして健康的ですが、運動直後や運動量が増えた際にカリウム値が急に上がるケースもあります。
医師の助言を得ながら無理のない範囲で行うことが大切です。
運動実施前後の点検項目
- 体調(疲労度合いや息切れの有無)
- 血圧、心拍数の変化
- 水分摂取量
- 透析前後のカリウム値
服薬とサプリメント
カリウム保持性利尿薬やサプリメントの中には、カリウム値を高める作用を持つものがあります。自己判断で服用を続けると、カリウム過多を引き起こすことがあります。
透析患者カリウムのバランスを乱さないよう、必ず主治医と相談してください。
緊急時の対処
カリウムが急激に上昇している可能性がある場合、まずは心拍数や胸の違和感などをチェックし、異常があれば早めに受診しましょう。
自宅で対処が難しいと感じたら、透析を受けている医療機関に連絡するなど迅速に行動することをおすすめします。
透析患者カリウム摂取量を意識した具体的な食事プラン
透析患者カリウム摂取量を日々の食生活に落とし込むために、1日の献立をどのように立てるか考えてみます。自分の好みやライフスタイル、透析のタイミングに合わせて、無理なく続けられる方法を見つけることがポイントです。
朝食での工夫
朝食は1日のスタートとしてエネルギーを補給する大切な時間帯ですが、忙しさから単調になりがちです。野菜ジュースや果物をまとめて摂取するとカリウム量が想定以上に多くなる可能性があります。
朝食の献立例
メニュー | カリウム量の目安 | 工夫点 |
---|---|---|
食パン1枚 + バター少量 | 約80mg | 食べやすく手軽 |
プレーンオムレツ | 約100mg | 卵白を多めに使いすぎると塩分も考慮が必要 |
ゆで野菜サラダ(下茹でしたもの) | 約150mg | ドレッシングの種類や量で塩分・糖分量に注意 |
牛乳100ml | 約150mg | ヨーグルトに置き換える場合も量に気をつけたい |
昼食の選び方
昼食は外食やコンビニ弁当になることも多いかもしれません。選択肢が豊富な分、カリウムの多い食品が含まれている場合も少なくありません。野菜の下処理が十分でない惣菜や揚げ物の付け合せなどには注意が要ります。
夕食のバランス
夕食は一日の締めくくりとして量をしっかり摂る方が多いかもしれません。カリウムの高い食材をまとめて食べないよう、主菜と副菜のバランスを整えると安心です。
また、夕食後に透析が控えている場合は、急激なカリウム上昇を防ぐための工夫が役立ちます。
夕食で気をつけたい食品群
- 刺身や海藻などミネラルが多い食材
- 豆腐・納豆など大豆製品
- 果物を使ったデザートやジュース
間食や飲み物にも要注意
間食にバナナやチョコレートを頻繁に摂ると、カリウムが蓄積しやすくなります。砂糖や油分もカロリー過多に結びつくため、透析患者カリウム管理だけでなく体重増加リスクにも気を配る必要があります。
飲み物別のカリウム量の比較
飲料 | カリウム量(100mlあたり) | 注意点 |
---|---|---|
紅茶(ストレート) | 約10mg | 比較的少なめ |
コーヒー | 約60mg | 飲みすぎるとカフェインの摂取量にも注意 |
野菜ジュース | 約200mg~ | 種類によってはカリウムが高め |
トマトジュース | 約200mg~ | カリウム含有量が特に多い |
透析患者カリウム管理と医療スタッフの連携
透析患者カリウムの適切なコントロールには医師や看護師、管理栄養士との協力が欠かせません。一人で抱え込まず専門知識を持つスタッフとコミュニケーションを取りながら進めることで、安全性と安心感が大きく高まります。
医師との相談で得られる指針
カリウム値が上がりやすいのか下がりやすいのかは、患者ごとに異なるケースがあります。医師は血液データや身体所見を総合して治療方針を示すため、気になる症状や日常の食事内容はこまめに相談して方針をアップデートするとよいでしょう。
看護師のサポート
透析中の状態チェックや日々の体重管理など、看護師は患者の生活面のサポート役となります。急な体調変化や血圧変動があったときに相談しやすいのも看護師の心強いところです。
透析前後にカリウムが高くなりそうな食材を摂った場合は、看護師に伝えておくと対応がスムーズになることがあります。
管理栄養士による食事指導
毎日の食事量や調理法、味付け方法などをプロの視点でアドバイスしてくれます。家庭での調理の仕方だけでなく、外食での選択肢、コンビニなどで手軽に購入できる食品の選び方も指導を受けると安心です。
透析患者カリウム摂取量を守りつつ、美味しさと食べる楽しみを両立するためのアイデアを一緒に考えてくれます。
チーム医療の取り組みイメージ
担当 | 主な役割 |
---|---|
医師 | 血液検査や身体所見の確認、治療方針の決定 |
看護師 | 透析中の体調管理、日常生活のサポート |
管理栄養士 | 献立指導、調理法の工夫、外食・市販食品の選び方アドバイス |
薬剤師 | カリウム値に影響する薬の確認や服薬タイミングの提案 |
血圧・リン・水分管理などとの総合的なバランス
透析患者カリウムだけでなく、血圧やリンの値、水分量なども同時に気を配る必要があります。どれか一つだけに集中しすぎると、他の要素が疎かになり全身のバランスが崩れることがあります。
総合的に管理してこそ、より安定した健康状態をめざせます。
血圧とカリウム
血圧が高い方は塩分制限が必要ですが、塩分を極端に減らすと食事が味気なくなり、その分野菜や果物を多く摂りがちな方もいます。そうするとカリウム量が増えてしまう可能性があります。
血圧管理とカリウム制限の両面から考える工夫が必要です。
リンの制限との兼ね合い
腎不全ではリンの上昇も大きな問題です。リンを含む食品を控えようとすると、結果的にカリウムが多い食品を多用してしまう場合があるので、両方の栄養素に注意が求められます。
チーズや乳製品にはリンとカリウムが両方含まれることが多く、管理栄養士の助言が役立ちます。
カリウムとリンを同時にチェックするときの例
食品 | カリウム量(100gあたり) | リン量(100gあたり) | 注意点 |
---|---|---|---|
プロセスチーズ | 約60mg | 約500mg | リンが比較的高いので摂取量に配慮 |
ヨーグルト | 約150mg | 約120mg | カリウムとリンの両方が含まれる |
干しひじき | 約1000mg | 約460mg | 煮物にするとカリウム、リン共にやや減るが比較的多量なので過剰を避けたい |
大豆 | 約1900mg | 約500mg | 加工の仕方で含有量が変わりやすい |
水分管理との関連性
水分を摂りすぎると体重が増え、透析で除水する負担が大きくなります。同時にカリウムが希釈される場合もあれば、排泄できずに貯留してしまう場合もあります。
のどの渇きを紛らわすための甘い清涼飲料水などを大量に摂ると糖質やカリウムが増えてしまい、思わぬトラブルにつながることがあります。
総合的な生活スタイルの見直し
食事や水分管理、運動、透析の通院スケジュール、仕事や趣味などの日常生活全体を見直し、自己管理できる範囲を徐々に増やすことが大切です。
あまりに厳格に縛るとストレスが大きくなるので、医療チームとの連携で無理のない計画を立てましょう。
よくある質問
- 透析の前日にカリウムが多い食事をしてしまったときはどうすればよいですか?
-
透析前日の食事でカリウムを多く摂ってしまったと感じたら、まずは水分管理と合わせて注意を払い、当日の体調や血圧、心拍に気をつけてください。
透析当日に看護師や医師に伝え、血液検査結果や透析条件で調整してもらうとよいでしょう。
- カリウム摂取量を少しでも減らす工夫はどのようなものがありますか?
-
下茹でや水にさらす方法で野菜や芋類のカリウムを減らすことができます。
汁物に関しては具材から溶け出したカリウムが汁に移行するため、一度ゆでこぼしてから改めて煮る、食材を分けて調理するなどの工夫があります。
- カリウムが多い食品を完全に避けるべきでしょうか?
-
ビタミンや食物繊維、他の栄養素も多く含む食品を完全に避けるのは推奨されません。下処理や調理法を工夫して取り入れ、過剰摂取を防ぎながらバランスを保つのが基本的な考え方です。
- 運動とカリウム上昇との関係が心配です。どのように調整すればいいですか?
-
適度な運動は血流を改善し、健康維持に役立ちますが、過度な運動や急な筋トレは一時的に血液中のカリウムを上昇させる場合があります。まずは医師に相談し、自身の体力に見合った運動強度から始めてください。
事前事後の水分補給や体調チェックが大切です。
以上
透析センター(人工透析) | 大垣中央病院(医療法人社団豊正会 )
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