透析はいつから必要?開始基準となる腎機能の数値(eGFR等)と症状

透析はいつから必要?開始基準となる腎機能の数値(eGFR等)と症状

医師から腎機能が低下していると指摘された方や、ご家族が透析を勧められている方にとって、いつから透析が必要になるのかは大きな関心事です。

透析の開始基準は、eGFR(推算糸球体濾過量)という腎機能の数値だけで決まるわけではなく、尿毒症と呼ばれる症状や、全身の状態、ご自身の生活スタイルなどを総合的に考慮して、医師と相談しながら決定します。

この記事では、透析が必要になる腎機能の目安(eGFR)や注意すべき症状、透析開始時期の判断について、詳しく解説します。

目次

腎臓の働きと慢性腎臓病(CKD)

透析治療がなぜ必要なのかを理解するために、まずは腎臓の重要な役割と、機能が失われていく慢性腎臓病(CKD)について基本的な知識を持つことが大切です。

腎臓が担う生命維持の役割

腎臓は、背中側の腰骨の少し上あたりに左右一つずつある、そら豆のような形をした臓器で、握りこぶし程度の大きさで、尿を作るところとして知られていますが、それ以外にも重要な調整機能を担っています。

血液をろ過して老廃物を排出する機能が最もよく知られています。心臓から送り出された血液の約4分の1が腎臓に流れ込み、糸球体(しきゅうたい)と呼ばれるフィルターでろ過されます。

この過程で体に必要なものは再吸収し、不要な老廃物や余分な水分、塩分を尿として体外に排泄しますが、働きが低下すると、体に毒素が溜まってしまいます。

腎臓の主な機能

機能概要
老廃物の排泄血液をろ過し、体内の老廃物や余分な水分を尿として排出します。
体液・電解質の調整体内の水分量やナトリウム、カリウムなどのミネラルバランスを一定に保ちます。
ホルモンの産生血圧を調整するホルモンや、赤血球を作るホルモン(エリスロポエチン)などを分泌します。

慢性腎臓病(CKD)とは何か

慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)は、一つの病名ではなく、腎臓の障害(尿たんぱくの検出など)や、腎機能の低下が慢性的に(3ヶ月以上)続く状態の総称です。

腎臓は予備能力が高い臓器のため、機能がかなり低下するまで自覚症状が現れにくいという特徴があり、沈黙の臓器とも呼ばれる腎臓の病気は、静かに進行していきます。

健康診断などで尿たんぱくや血尿を指摘されたり、血圧が高めであったり、むくみを感じたりすることが、CKDの初期のサインである場合もありますが、多くの場合、ご自身では気づかないうちに進行していることが少なくありません。

CKDが進行するとどうなるか

CKDが進行し、腎機能が著しく低下すると、本来腎臓が担っていた役割を果たせなくなり、老廃物が体内に蓄積し、水分や電解質のバランスが崩れ、ホルモンの産生も十分に行えなくなり、この状態が腎不全です。

腎不全がさらに進行し、腎臓の機能が正常時の10%以下程度にまで低下すると、体全体の恒常性を維持できなくなります(末期腎不全)。

末期腎不全になると、自分の腎臓だけでは生命を維持することが困難になるため、腎臓の働きを代替する治療(腎代替療法)が必要になります。

透析が必要になる腎機能のサイン(eGFRの基準)

腎機能がどの程度低下しているかを知るための客観的な指標が、透析を開始する時期を判断する上で重要です。ここでは、腎機能を示す数値、eGFR(推算糸球体濾過量)と、CKDの進行度を示すステージについて解説します。

腎機能を示す「eGFR」とは

eGFR(estimated Glomerular Filtration Rate:推算糸球体濾過量)は、腎臓がどれくらい老廃物をろ過する能力(糸球体濾過量)を持っているかを示す推定値です。

健康な人のeGFRは100mL/分/1.73㎡前後ですが、年齢とともに自然に低下していきます。eGFRは、血液検査で測定する血清クレアチニン値と、年齢、性別を用いて計算式で算出します。

クレアチニンは筋肉運動の老廃物で、本来なら腎臓でろ過されて尿中に排泄されますが、腎機能が低下すると、ろ過しきれずに血液中に溜まってくるため、血清クレアチニン値が高くなります。

eGFRは、クレアチニン値を基に腎機能の低下具合を評価する、現在の腎臓病診療において標準的な指標です。

eGFRの算出に必要な情報

  • 血清クレアチニン値(血液検査)
  • 年齢
  • 性別

CKDのステージ分類

慢性腎臓病(CKD)は、腎機能の低下の程度を示すeGFRの値によって、G1からG5までの5つのステージに分類されます。

G1(正常または高値)やG2(軽度低下)であっても、尿たんぱくなどの腎障害が認められればCKDと診断され、G3(中等度低下)以降は、eGFRの値が低下するにつれて、腎不全の症状が出やすくなり、G3はさらにG3aとG3bに細分化されます。

CKD重症度分類(eGFRと尿たんぱく)

ステージeGFR (mL/分/1.73㎡)腎機能の状態
G190以上正常または高値(ただし腎障害あり)
G260~89軽度低下(ただし腎障害あり)
G3a45~59軽度~中等度低下
G3b30~44中等度~高度低下
G415~29高度低下
G515未満末期腎不全 (ESKD)

表の数値に加えて、尿たんぱくの量(A1:正常、A2:微量、A3:顕性)も考慮して重症度を評価し、eGFRの低下が進むほど、また尿たんぱくが多いほど、末期腎不全への進行リスクや心血管疾患のリスクが高まることがわかっています。

透析開始の基準となるeGFRの数値

透析導入の是非を検討し始める時期として、一つの目安となるのがG5、つまりeGFRが15mL/分/1.73㎡未満になった段階で、この状態を末期腎不全と呼びます。

日本の透析導入ガイドラインでは、eGFRが15mL/分/1.73㎡未満になると、透析を含む腎代替療法の準備を開始することを推奨していて、多くの場合、腎機能の低下に伴うさまざまな症状が出現し始めます。

ただし、eGFRが15未満になったからといって、すぐに全員が透析を開始するわけではなく、あくまでも準備を開始する目安です。

eGFR値と腎機能の目安

eGFR (mL/分/1.73㎡)腎機能の目安(%)段階
60以上60%以上腎機能の低下は軽度
30~5930~59%中等度低下
15~2915~29%高度低下(G4)
15未満15%未満末期腎不全(G5)

数値だけでは決まらない透析のタイミング

eGFRは非常に重要な指標ですが、透析開始の判断は数値のみで行うものではありません。eGFRが10mL/分/1.73㎡程度であっても、自覚症状がほとんどなく、栄養状態も良好であれば、透析開始を少し延期して経過を見ることもあります。

反対に、eGFRが15以上あっても、コントロール困難な高カリウム血症や、心不全、重度のむくみなど、生命に危険が及ぶ症状(尿毒症症状)が強く出ている場合は、早期に透析を開始することがあります。

糖尿病が原因の腎不全(糖尿病腎症)の場合は、eGFRが比較的保たれていても(例えば10~15程度)、尿毒症の症状が強く出やすいため、早めに透析を導入する傾向があります。

透析開始の目安となる自覚症状

腎機能が低下し、eGFRがG4やG5の段階になると、体内に老廃物や余分な水分が蓄積し、さまざまな身体の不調が現れ、これを尿毒症と呼びます。

尿毒症とは何か

尿毒症とは、腎機能の低下によって、本来尿として排泄されるべき老廃物(尿毒素)が血液中に溜まり、全身の諸臓器に障害を引き起こす状態です。

腎機能が正常の10%以下(eGFRでいえば10~15mL/分/1.73㎡以下)になってくると、症状が出現しやすくなります。

尿毒症の症状は非常に多彩で、全身のあらゆる部分に現れ、初期には、だるさや食欲不振など、他の病気と区別がつきにくい症状が多いため、見逃されやすいです。

尿毒症の主な初期症状

  • 全身の倦怠感(だるさ)
  • 食欲不振、吐き気
  • 皮膚のかゆみ
  • むくみ(浮腫)

注意すべき具体的な症状

腎機能の低下がさらに進むと、よりはっきりとした症状が現れ、体液のバランスが崩れたり、神経や血液に異常が生じたりすることによって起こります。

体液の蓄積による症状

腎臓の水分排泄能力が低下すると、体内に余分な水分が溜まり、むくみ(浮腫)として現れ、最初は足首やすね(特に夕方)に現れやすく、進行すると顔やまぶた、手、さらには全身に広がります。

体重が急に増加した場合も、水分の蓄積(溢水)が疑われます。

さらに重篤な状態として、肺に水が溜まる肺水腫があり、肺水腫になると、息苦しさ、呼吸困難、咳、横になると眠れない(起座呼吸)などの症状が現れ、速やかな対処が必要です。

消化器系の症状

尿毒素が消化管の粘膜を刺激することで、食欲の低下がさらに進み、吐き気や嘔吐、口の中が苦く感じる(金属味)、口臭がアンモニア臭くなる(尿臭)などの症状が出ることがあり、十分な栄養が摂れなくなり、栄養状態が悪化してしまいます。

神経・筋肉系の症状

尿毒素は神経系にも影響を及ぼし、集中力の低下、頭痛、眠気、イライラ感などが現れることがあります。

さらに進行すると、手足のしびれ(末梢神経障害)や、筋肉がピクピクとけいれんする(ミオクローヌス)、こむら返りを起こしやすくなる、といった症状も出ます。

最悪の場合、意識障害やけいれん発作(尿毒症性脳症)に至ることもあり、緊急の透析が必要です。

血液系の症状

腎臓は赤血球を作るホルモン(エリスロポエチン)を分泌していて、腎機能が低下するとホルモンの分泌が減少し、貧血(腎性貧血)になります。

貧血になると、動悸、息切れ、めまい、立ちくらみ、倦怠感などが生じ、尿毒素の影響で出血しやすくなる(出血傾向)こともあります。

皮膚の症状

尿毒素が皮膚の神経を刺激したり、汗腺に影響を与えたりすることで、全身に強いかゆみ(掻痒症)が生じることがあり、また、皮膚が乾燥し、色素沈着によって黒ずんで見えることもあります。

透析導入を検討すべき症状のまとめ

分類主な症状危険度
体液貯留むくみ、体重増加、息切れ、呼吸困難(肺水腫)高(特に呼吸困難)
消化器食欲不振、吐き気、嘔吐、金属味中(栄養障害につながる)
神経・精神倦怠感、集中力低下、しびれ、けいれん、意識障害高(意識障害)
電解質異常高カリウム血症(不整脈、心停止のリスク)極めて高

症状とeGFRの関連性

尿毒症の症状は、一般的にeGFRが15mL/分/1.73㎡未満(G5)になると現れやすくなりますが、個人差が非常に大きいです。

糖尿病性腎症の方では、eGFRが20程度でも強いむくみや食欲不振が出ることがありますし、多発性嚢胞腎の方では、eGFRが10を切っても比較的症状が軽い場合もあります。

腎機能低下(末期腎不全)の主な原因

末期腎不全に至り、透析が必要となる背景には、腎臓に慢性的なダメージを与え続けるさまざまな原因疾患がありますが、日本で透析を導入する患者さんの原因疾患には、時代とともにはっきりとした傾向が見られます。

日本における透析導入の二大原因

現在、日本で新たに透析を導入する患者さんの原因疾患として最も多いのは糖尿病腎症で、次いで腎硬化症が続きます。

かつては慢性糸球体腎炎が最多でしたが、治療法の進歩などにより減少し、代わりに生活習慣病に関連する疾患が増加しています。

新規透析導入患者の原疾患(近年の傾向)

順位原疾患名概要
1位糖尿病腎症糖尿病の合併症として、高血糖により腎臓の糸球体が障害されます。
2位腎硬化症高血圧や動脈硬化により、腎臓の血管が硬化して腎機能が低下します。
3位慢性糸球体腎炎糸球体に慢性的な炎症が起こり、徐々に腎機能が失われます。

糖尿病腎症

糖尿病腎症は、糖尿病の三大合併症(網膜症、神経障害、腎症)の一つです。長期間高血糖の状態が続くと、腎臓のフィルターである糸球体の毛細血管がダメージを受け、機能が低下していきます。

初期には尿中に微量のアルブミン(たんぱく質の一種)が漏れ出ますが、自覚症状はなく、進行すると尿たんぱくが増加し、eGFRが低下、やがて腎不全に至ります。

糖尿病腎症の特徴は、eGFRが比較的保たれている段階でも、むくみや倦怠感などの症状が出やすいことで、他の腎疾患に比べて早めに透析導入が必要となるケースが多く見られます。

糖尿病腎症の進行

  • 第1期(腎症前期)
  • 第2期(早期腎症期)
  • 第3期(顕性腎症期)
  • 第4期(腎不全期)
  • 第5期(透析療法期)

腎硬化症(高血圧性)

腎硬化症は、主に長期間続く高血圧によって起きます。

高血圧により腎臓の細い動脈に圧力がかかり続け、動脈硬化が進行しすることで、血管が硬く狭くなり、腎臓への血流が悪化し、血流不足になった糸球体は徐々に硬化し(糸球体硬化)、ろ過機能が失われていくのです。

腎硬化症は、加齢とともに誰にでも起こり得る変化(良性腎硬化症)でもありますが、高血圧がコントロール不良であると、進行が加速します(高血圧性腎障害)。

慢性糸球体腎炎

慢性糸球体腎炎は、腎臓の糸球体に慢性的な炎症が起こる病気の総称で、多くの場合、免疫システムの異常が関与していると考えられていて、IgA腎症が代表例です。

炎症によって糸球体が徐々に壊れていき、ろ過機能が低下します。健康診断などで発見される尿たんぱくや血尿が長期間続きます。

以前は透析導入の最大の原因でしたが、早期発見や治療(ステロイド治療など)の進歩により、割合は減少していますが、現在でも主要な原因疾患の一つであることに変わりはありません。

その他の原因疾患

遺伝性の疾患である多発性嚢胞腎は、腎臓に多数の嚢胞(水が溜まった袋)ができ、徐々に大きくなることで正常な腎組織を圧迫し、腎機能を低下させます。

また、関節リウマチなどの膠原病、薬剤の副作用、急速進行性糸球体腎炎など、原因は多岐にわたります。原因疾患によって、腎機能が低下するスピードや現れる症状が異なるため、原疾患の治療も並行して行うことが重要です。

透析開始時期の判断プロセス

透析の開始時期は、eGFRの数値、尿毒症の症状、合併症の状況、ご本人の意思や生活環境などを基に、医師が総合的に判断します。

eGFR 15未満が準備の目安

eGFRが15mL/分/1.73㎡未満(CKDステージG5)になると、末期腎不全と診断され、腎代替療法の準備を開始する時期とされています。

eGFRが15を切り、透析が近い将来必要になると予測される段階で、ご自身のライフスタイルに合った透析方法(血液透析か腹膜透析か、あるいは腎移植か)を選択し、余裕を持って準備を始めることが、スムーズな治療導入につながります。

尿毒症症状の評価

実際の開始時期の決定において、eGFRの数値以上に重視されるのが尿毒症症状の有無と程度です。ガイドラインでは、eGFRが10mL/分/1.73㎡未満で、かつ以下のいずれかの症状がある場合に、透析導入を検討することを推奨しています。

透析導入の判断材料(症状)

  • 体液貯留(むくみ、肺水腫、呼吸困難)が利尿薬などで管理できない
  • 高カリウム血症やアシドーシス(体が酸性に傾く)が薬物療法で改善しない
  • 消化器症状(吐き気、嘔吐、食欲不振)により栄養状態が悪化している
  • 神経症状(倦怠感、不眠、しびれ、意識障害)が出現している
  • 心不全や心膜炎(心臓を包む膜の炎症)を併発している

スコアリングシステムによる客観的評価

透析導入の判断は、医師の主観だけでなく、客観的な指標も用いて行われ、日本では、尿毒症の症状や検査値を点数化(スコアリング)して、透析導入の必要性を評価する方法が一般的です。

症状(むくみ、消化器症状、神経症状など)、検査値(血清クレアチニン、カリウム、リン、酸塩基平衡など)、日常生活の活動度などを項目ごとに評価し、合計点数が一定の基準(例えば60点以上)に達した場合に、透析導入が妥当と判断されます。

スコアは、eGFRが10mL/分/1.73㎡未満の患者さんを対象とすることが多いですが、糖尿病腎症などではeGFRが15未満の段階から評価を開始することもあります。

透析導入を遅らせるためにできること

腎機能が低下し始めたCKDの段階(保存期腎不全)では、できるだけ腎機能の低下速度を緩やかにし、透析導入の時期を遅らせることが治療の大きな目標です。

保存期腎不全の治療目標

CKDステージがG3bやG4(eGFR 45未満)になると、腎臓専門医による管理が中心です。この段階を保存期腎不全と呼び、腎機能の悪化を防ぎ、尿毒症の発症を抑えるための治療を集中的に行います。

保存期治療の主な柱

  • 食事療法(たんぱく質、塩分、カリウム、リンの管理)
  • 血圧管理(降圧薬の使用)
  • 血糖管理(糖尿病の場合)
  • 貧血治療(エリスロポエチン製剤など)
  • 脂質異常症の管理

食事療法の重要性

腎機能が低下すると、食事から摂取した栄養素の排泄や調整がうまくいかなくなるので、たんぱく質、塩分、カリウム、リンの摂取量を管理することが、腎臓への負担を減らし、合併症を防ぐ上で非常に重要です。

たんぱく質制限

たんぱく質は体を作る上で重要な栄養素ですが、摂取すると体内で分解され、最終的に尿素などの老廃物(尿毒素)になり、腎機能が低下すると、老廃物を排泄しきれなくなり、尿毒症の原因となります。

eGFRの低下に応じてたんぱく質の摂取量を制限することが推奨されますが、制限しすぎると栄養失調に陥り、かえって体力を消耗してしまうため、医師や管理栄養士の指導のもと、適切な量を守ることが大切です。

塩分制限

塩分(ナトリウム)の過剰摂取は、高血圧の最大の原因の一つです。

高血圧は腎臓の血管に負担をかけ、腎機能の低下を加速させ、また、塩分は体内に水分を引き込む性質があるため、塩分を摂りすぎると、むくみや心不全の原因にもなります。CKD患者さんでは、1日6g未満の塩分制限が目標です。

カリウム制限

カリウムは筋肉や神経の働きに重要なミネラルですが、腎機能が低下すると尿中に排泄しにくくなり、血液中のカリウム濃度が高く(高カリウム血症)なりがちです。

カリウム値が極端に高くなると、致死的な不整脈や心停止を起こす危険があります。eGFRが低下してきたら、野菜(特に生野菜)、果物、芋類などカリウムを多く含む食品の摂取に注意が必要です。

リン制限

リンも骨や歯を作る重要なミネラルですが、腎機能が低下すると排泄されにくくなります。血液中のリン濃度が高い状態が続くと、骨がもろくなったり、血管の壁にカルシウムとともに沈着して動脈硬化を進行させたりします(心血管石灰化)。

加工食品や乳製品、一部の魚介類に多く含まれるため、摂取の管理が必要です。

保存期腎不全の食事療法ポイント

栄養素管理の目的主な注意点
たんぱく質尿毒素の産生を抑える医師の指示量を守る。良質なたんぱく質を選ぶ。
塩分血圧管理、むくみ防止1日6g未満目標。加工品や汁物を控える。
カリウム高カリウム血症の予防eGFR低下時に制限。生野菜、果物、芋類に注意。
エネルギー栄養失調の防止たんぱく質制限時も、エネルギーは十分に確保する。

血圧と血糖の厳格な管理

食事療法と並んで重要なのが、腎機能低下の二大原因である高血圧と糖尿病の管理で、原疾患のコントロールが、腎臓を守る基本です。

高血圧の管理は、CKDの進行抑制において最も効果的な治療の一つで、目標とする血圧値は、年齢や合併症の有無によっても異なりますが、一般的には診察室血圧で130/80mmHg未満を目指します。

降圧薬としては、腎保護作用も期待できるACE阻害薬やARBといった種類の薬がよく用いられます。

糖尿病のある方は、血糖コントロール(HbA1cの目標値管理)が糖尿病腎症の進行を遅らせます。ただし、腎機能が低下すると、血糖降下薬の調整が必要になったり、低血糖を起こしやすくなったりするため、専門医による細やかな管理が必要です。

その他の生活習慣の見直し

日々の生活習慣も腎機能に影響を与え、禁煙は必須です。喫煙は腎臓の血流を悪化させ、腎機能低下の独立した危険因子で、また、肥満(特に内臓脂肪)も腎臓に負担をかけるため、適度な運動による体重管理も推奨されます。

ただし、eGFRが低下している状態での過度な運動は、かえって腎臓に負担をかけることもあるため、運動の内容や強度は医師に相談することが重要です。

透析治療の種類と特徴

eGFRの低下や尿毒症の症状により、透析治療の開始が決定した場合、患者さんには主に血液透析と腹膜透析という二つの選択肢が提示されます。

血液透析(HD)

血液透析(Hemodialysis: HD)は、血液を一度体の外に取り出し、ダイアライザー(人工腎臓)と呼ばれるフィルターを通して老廃物や余分な水分を除去し、きれいになった血液を再び体内に戻す治療法です。

治療は、一般的に週に3回、病院やクリニックなどの医療機関に通院して行います。1回あたりの治療時間は、4時間から5時間程度が標準です。

血液透析を開始する前には、腕の血管(動脈と静脈)をつなぎ合わせて太い血管を作る内シャントの手術が必要で、シャントに針を刺して血液の出し入れを行います。

腹膜透析(PD)

腹膜透析(Peritoneal Dialysis: PD)は、ご自身のお腹の中にある腹膜を利用して血液を浄化する方法です。腹膜は、内臓の表面を覆う薄い膜で、毛細血管が豊富にあり、フィルターとしての機能を持っています。

腹膜透析を開始する前には、お腹にPDカテーテルと呼ばれる細いチューブを埋め込む手術が必要です。治療はカテーテルを通して、お腹の中(腹腔)に透析液を入れ、一定時間(4~8時間程度)溜めておきます。

腹膜を介して血液中の老廃物や余分な水分が透析液に移動し、その後、老廃物を含んだ透析液を排出し、新しい透析液と交換します。

透析液の交換(バッグ交換)は、ご自身やご家族が自宅や職場で行い、通常、1日に3~4回です(在宅での自動腹膜透析装置(APD)を使用し、夜間睡眠中に行う方法もあります)。

通院は月に1~2回程度で済むため、血液透析に比べて時間的な制約が少なく、社会復帰しやすいという利点がありますが、自己管理が非常に重要で、カテーテル出口部の感染症(腹膜炎)に注意が必要です。

どちらの治療を選択するか

血液透析と腹膜透析には、それぞれ利点と欠点があります。

どちらが優れているということではなく、患者さんの医学的な状態(心臓の状態、腹部の手術歴など)や、ライフスタイル(仕事、通院の可否、自己管理能力、家族の支援体制)などを総合的に考慮して、ご自身に最も合った方法を選択します。

血液透析と腹膜透析の比較

項目血液透析 (HD)腹膜透析 (PD)
治療の場所医療機関(病院、クリニック)自宅、職場など
治療の時間・頻度週3回、1回4~5時間毎日(1日3~4回の交換、または夜間)
食事・水分制限比較的厳しい(特に水分、カリウム、リン)比較的緩やか(ただし塩分、エネルギー管理は必要)
自己管理医療スタッフが主体患者さん自身(または家族)が主体
残存腎機能低下しやすい比較的保たれやすい(導入初期)

透析の開始基準となる腎機能の数値と症状に関するよくある質問

最後に、透析の開始時期に関して、患者さんやご家族から多く寄せられる質問についてお答えします。

eGFRがいくつになったら、必ず透析を開始しないといけませんか?

eGFRが15mL/分/1.73㎡未満(G5)になると透析の準備を推奨し、10未満になると透析導入を検討しますが、これはあくまで目安です。

透析の開始は、eGFRの数値に加えて、尿毒症の症状(むくみ、呼吸困難、吐き気、食欲不振など)の強さ、高カリウム血症などの電解質異常の管理状況、栄養状態、ご本人の生活の質を総合的に評価して決定します。

症状が軽く、管理が良好であれば、eGFRが5程度まで透析導入を見合わせる場合もあります。

透析を一度始めたら、やめることはできますか?

透析治療は、失われた腎臓の機能を代替する治療法です。慢性腎臓病によって失われた腎機能は、残念ながら現在の医療では回復させることが困難です。

末期腎不全で透析を導入した場合、腎移植を受けない限り、生涯にわたって治療を続ける必要があります。

ただし、急性腎障害(急激に腎機能が悪化した場合)で一時的に透析を行った場合は、腎機能が回復すれば透析から離脱できることもあります。

透析を開始するのを、できるだけ遅らせたいです。

「できるだけ透析をしたくない」というお気持ちは、多くの方が抱くものです。医師もそのお気持ちを尊重します。

eGFRが透析導入の目安とされる数値になっても、尿毒症の症状が管理可能で、栄養状態が良好であれば、厳格な食事療法や薬物療法(保存的腎臓療法)を続けながら経過を見ることはあります。

ただし、体調が悪化してから(肺水腫や意識障害など)緊急で透析を開始すると、体への負担が大きく、その後の経過も思わしくないことが多いです。

透析をしないという選択肢はありますか?

A透析や腎移植といった腎代替療法をあえて選択しない「保存的腎臓療法(CKM)」という考え方もあります。

これは、特にご高齢の方や、重い合併症を複数お持ちの方で、透析治療による生活の制約や体への負担が、治療によって得られる利益を上回るとご本人やご家族が判断した場合の選択肢です。

この場合、透析は行わず、食事療法や薬物療法(貧血、高カリウム血症、むくみなどの症状緩和治療)を可能な限り行い、残された時間をできるだけ安楽に過ごすことを目標とします。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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