透析と心不全の関係|腎不全が心臓に与える影響と合併症対策

透析と心不全の関係|腎不全が心臓に与える影響と合併症対策

腎臓の機能が著しく低下する腎不全は、生命を維持するために透析療法を必要とすることがあります。しかし、腎不全は心臓にも大きな影響を及ぼし、心不全という深刻な状態を引き起こす可能性があります。

この記事では、透析と心不全の関連、腎不全が心臓に与える影響、そして合併症への対策について、詳しく解説します。ご自身の状態を理解し、より良い療養生活を送るための一助となれば幸いです。

目次

腎不全と心不全の密接なつながり

腎臓と心臓は、互いに影響を及ぼし合う重要な臓器です。どちらか一方の機能が低下すると、もう一方にも負担がかかり、機能が悪化するという悪循環に陥ることがあります。

特に腎不全の患者さんにとって、心不全は生命予後にも関わる重大な合併症の一つです。「腎不全 心不全 関係」というキーワードで情報を探している方も多いように、この二つの病態の関連性を理解することは非常に重要です。

腎臓の機能低下が心臓に及ぼす影響

腎臓は、体内の水分バランスの調節、老廃物の排泄、血圧のコントロール、赤血球を作るホルモンの産生など、多彩な役割を担っています。腎機能が低下すると、これらの働きが十分に果たせなくなります。

具体的には、体内に余分な水分やナトリウムが溜まりやすくなり、血液量が増加します。これにより、心臓はより多くの血液を送り出さなければならず、負担が増大します。

また、尿毒症物質の蓄積は血管を傷つけ、動脈硬化を進行させる原因となります。動脈硬化は心臓の血管(冠動脈)にも起こり、狭心症や心筋梗塞のリスクを高めます。

さらに、腎不全では高血圧や貧血も起こりやすく、これらも心臓に負担をかける要因となります。

長期間にわたり心臓に過度な負担がかかり続けると、心臓の筋肉が厚くなったり(心肥大)、逆に薄く伸びてしまったり(心拡大)して、ポンプ機能が低下し、心不全を発症するのです。

腎機能低下の主な原因

原因疾患概要心臓への影響
糖尿病性腎症糖尿病の合併症として発症高血糖による血管障害、動脈硬化促進
慢性糸球体腎炎糸球体の炎症が慢性的に続く高血圧、タンパク尿による血管内皮障害
腎硬化症高血圧による腎臓の動脈硬化高血圧自体が心負荷増大

腎不全が心臓に与える主な影響の整理

  • 体液貯留による心負荷増大
  • 尿毒症物質による血管障害・動脈硬化
  • 高血圧
  • 貧血
  • 電解質異常(カリウムなど)

心腎連関とは何か

心腎連関とは、心臓と腎臓が密接に関連し合い、一方の臓器の機能障害がもう一方の臓器の機能障害を引き起こす、あるいは悪化させる病態を指します。

この概念は、腎不全患者さんにおける心血管疾患の高い合併率や、心不全患者さんにおける腎機能障害の併発が多いことから注目されるようになりました。

心臓と腎臓は、血行動態、神経体液性因子、炎症性サイトカインなどを介して相互に影響を及ぼし合っています。

例えば、心機能が低下すると腎臓への血流が減少し、腎機能が悪化します。逆に、腎機能が悪化すると体液貯留や尿毒症物質の蓄積が起こり、心臓に負担をかけ、心機能を低下させます。

このように、心腎連関は悪循環を形成しやすく、両臓器の機能低下を進行させる可能性があります。

心腎連関の分類

タイプ説明具体例
タイプ1急性心疾患による急性腎障害急性心筋梗塞後の急性腎不全
タイプ2慢性心疾患による慢性腎臓病慢性心不全による腎機能低下
タイプ3急性腎障害による急性心機能障害急性腎盂腎炎による不整脈
タイプ4慢性腎臓病による慢性心血管疾患慢性腎不全による心肥大、心不全

透析患者さんの多くは、タイプ4の心腎連関に該当し、慢性的な腎機能障害が心血管系に影響を与えている状態と考えられます。

なぜ腎不全患者は心不全を合併しやすいのか

腎不全患者さんが心不全を合併しやすい背景には、複数の要因が複雑に絡み合っています。前述の体液貯留、高血圧、貧血、動脈硬化の進行、尿毒症物質の蓄積に加え、透析療法自体が心臓に影響を与える側面もあります。

例えば、透析中の急激な体液除去や電解質濃度の変化は、心臓にとって負担となることがあります。

また、腎不全患者さんは、心臓の構造的変化(心肥大や線維化)や機能的変化(拡張機能障害や収縮機能障害)が進行しやすい状態にあります。

これらの変化は、自覚症状がないうちから徐々に進行し、ある時点で心不全として顕在化することがあります。特に、糖尿病や高齢の腎不全患者さんでは、心不全のリスクがさらに高まることが知られています。

早期発見と連携の重要性

腎不全患者さんにおける心不全は、早期に発見し、適切な対策を講じることが予後を改善する上で非常に大切です。そのためには、腎臓専門医と循環器専門医が密接に連携し、定期的な心機能評価を行うことが求められます。

自覚症状がなくても、心エコー検査や血液検査(BNPやNT-proBNPなど)によって心臓の状態を把握し、異常の兆候を早期に捉えることが重要です。

患者さん自身も、体調の変化に注意を払い、気になる症状があれば速やかに医療スタッフに相談することが、心不全の早期発見・早期治療につながります。

透析療法と心臓への負担

透析療法は腎不全患者さんの生命を維持するために不可欠な治療ですが、一方で心臓にある程度の負担をかける可能性があります。

特に「透析 心不全」というキーワードで検索される方が懸念するように、透析治療そのものが心機能に影響を与える側面を理解しておくことは大切です。しかし、適切な管理と治療法の選択により、その負担を軽減することも可能です。

透析導入時の心臓の状態

透析療法を開始する時点で、すでに多くの患者さんは腎機能低下に伴う様々な影響により、心臓に何らかの負担がかかっている状態にあります。

長期間にわたる高血圧、体液過剰、貧血、動脈硬化などが進行し、心肥大や心機能の低下が認められることも少なくありません。

透析導入は、これらの問題を部分的に改善する効果も期待できますが、導入初期は体内の環境が大きく変化するため、心臓にとっては不安定な時期でもあります。

したがって、透析導入前から心機能評価を十分に行い、個々の状態に合わせた慎重な導入計画を立てることが重要です。この時期の心臓の状態が、その後の「透析 心不全 余命」にも関わってくる可能性があります。

透析方法による心臓への影響の違い

透析療法には、主に血液透析(HD)と腹膜透析(PD)の二つの方法があります。それぞれに特徴があり、心臓への影響も異なります。

血液透析は、週に2~3回、1回あたり3~5時間かけて血液を体外循環させ、老廃物や余分な水分を除去する方法です。短時間で大きな体液変動があるため、血圧が不安定になりやすく、心臓への負担が一時的に大きくなることがあります。

一方、腹膜透析は、自身の腹膜を利用して24時間持続的に透析を行うため、体液変動が緩やかで、血圧も安定しやすい傾向にあります。このため、心機能が著しく低下している患者さんや、血圧が不安定な患者さんにとっては、腹膜透析が選択されることもあります。

しかし、どちらの方法が絶対的に優れているというわけではなく、患者さんの医学的状態、ライフスタイル、自己管理能力などを総合的に評価し、最適な治療法を選択することが大切です。

血液透析と腹膜透析の主な比較

項目血液透析(HD)腹膜透析(PD)
透析場所主に医療機関主に自宅
透析時間週2-3回、1回3-5時間毎日、持続的または間欠的
体液変動比較的大きい比較的緩やか

ドライウェイト管理の難しさと心臓

ドライウェイト(目標体重、適正体重)とは、透析後に体内の余分な水分が除去され、最も安定した状態の体重を指します。

ドライウェイトを適切に設定し維持することは、透析患者さんの心臓への負担を軽減し、心不全を予防・管理する上で非常に重要です。

ドライウェイトが高すぎると体液過剰となり心臓に負担がかかり、低すぎると脱水や血圧低下を引き起こし、これもまた心臓に悪影響を及ぼします。

しかし、ドライウェイトは常に一定ではなく、食事内容、発汗量、残存腎機能などによって変動するため、その設定と維持は容易ではありません。

定期的な胸部X線検査、心エコー検査、体組成分析、血圧の変動、自覚症状(むくみ、息切れなど)を総合的に評価し、きめ細かく調整していく必要があります。

ドライウェイト管理の参考指標

  • 透析間の体重増加量
  • 血圧(透析前後、家庭血圧)
  • 浮腫の有無
  • 心胸郭比(胸部X線)
  • 下大静脈径(心エコー)

透析中の血圧変動と心負荷

血液透析中は、短時間で大量の水分を除去(除水)するため、血圧が大きく変動することがあります。

特に、透析中に血圧が急激に低下すると、心臓や脳などの重要な臓器への血流が不足し、心筋虚血(心臓の筋肉への酸素供給不足)を誘発したり、不整脈を引き起こしたりする可能性があります。

このような血圧低下は、心臓に大きな負担をかけ、長期的には心機能の低下を招く一因となります。

透析中の血圧低下を防ぐためには、適切なドライウェイトの設定、除水速度の調整、透析液の温度やナトリウム濃度の調整など、様々な工夫を行います。

また、患者さん自身も、透析間の体重増加をコントロールすること(塩分・水分制限)が重要です。血圧変動が大きい場合は、その原因を精査し、対策を講じることで、心臓への負担を軽減することができます。

心不全の症状と腎不全患者特有の注意点

心不全は、心臓のポンプ機能が低下し、全身に必要な量の血液を十分に送り出せなくなった状態です。腎不全患者さんは心不全を合併しやすいため、その症状を早期に捉え、適切に対応することが重要です。

一般的な心不全の症状に加え、腎不全患者さん特有の注意点も理解しておきましょう。

一般的な心不全のサイン

心不全の症状は、心臓のどの部分の機能が低下しているか(左心不全か右心不全か)、またどの程度進行しているかによって様々です。初期には自覚症状が乏しいこともありますが、進行すると以下のような症状が現れます。

心不全で見られる主な症状

症状説明関連する心機能低下
息切れ、呼吸困難体を動かした時や、進行すると安静時にも出現。夜間に横になると苦しくなることも(起坐呼吸)。主に左心不全(肺うっ血)
むくみ(浮腫)足のすねや甲、顔面などに出現。体重増加を伴うことも。主に右心不全(体循環うっ滞)
疲労感、だるさ全身への血液供給不足による。左心不全、右心不全
動悸心拍数の増加や不整脈による。左心不全、右心不全

これらの症状は、他の病気でも見られることがあるため、自己判断せずに専門医の診察を受けることが大切です。

透析患者に見られやすい心不全の症状

透析患者さんの場合、心不全の症状が非典型的に現れたり、腎不全自体の症状と区別がつきにくかったりすることがあります。

例えば、透析間の体重増加による息切れやむくみは、心不全の悪化なのか、単なる水分過多なのか判断が難しい場合があります。また、尿毒症による倦怠感が、心不全による疲労感と重なることもあります。

特に注意したいのは、透析治療によって症状が一時的にマスクされる(隠される)場合があることです。透析で余分な水分が除去されると、息切れやむくみが軽減するため、心不全の進行を見逃してしまう可能性があります。

そのため、透析日以外の体調変化や、以前よりも透析後の体調回復が遅い、といった些細な変化にも注意を払う必要があります。気になる「透析 心不全」の兆候があれば、遠慮なく医療スタッフに伝えましょう。

症状を自覚した際の適切な対応

心不全を疑う症状(息切れ、むくみ、急な体重増加、動悸、強いだるさなど)を自覚した場合、まずはかかりつけの医師や透析施設のスタッフに速やかに相談することが最も重要です。

自己判断で様子を見たり、市販薬で対処しようとしたりすることは避けてください。特に、呼吸困難が強い場合や、安静にしていても症状が改善しない場合は、緊急の対応が必要なこともあります。

医療機関では、症状の原因を特定するために、問診、身体診察、血液検査、胸部X線検査、心電図検査、心エコー検査などを行います。これらの検査結果を総合的に判断し、心不全の診断や重症度の評価、治療方針の決定を行います。

早期に適切な治療を開始することで、症状の改善や進行の抑制が期待できます。

定期的な検査と観察のポイント

透析患者さんは、心不全を合併するリスクが高いため、自覚症状がなくても定期的な心機能のチェックが重要です。

一般的には、定期的な血液検査(BNPやNT-proBNPといった心不全マーカーの測定)、心電図検査、胸部X線検査(心胸郭比の評価)、心エコー検査(心臓の形態や機能の評価)などが行われます。

これらの検査を定期的に行うことで、心不全の兆候を早期に発見し、重症化する前に対処することが可能になります。

また、患者さん自身も日々の体調管理として、体重測定、血圧測定、むくみのチェック、息切れの程度の記録などを習慣づけることが推奨されます。

これらの情報も、医師が心臓の状態を評価する上で役立ちます。

腎不全患者における心不全の診断アプローチ

腎不全患者さんにおける心不全の診断は、時に難しい場合があります。腎不全自体の症状と心不全の症状が似ていることや、透析による体液変動の影響など、考慮すべき点が多くあります。

正確な診断のためには、問診、身体所見、各種検査を総合的に評価するアプローチが必要です。

問診と身体所見の重要性

診断の第一歩は、詳細な問診です。いつから、どのような症状(息切れ、むくみ、動悸、疲労感など)が出現したか、症状の程度や変化、日常生活への影響などを詳しく聴取します。

また、既往歴(高血圧、糖尿病、虚血性心疾患など)、家族歴、生活習慣(食事、運動、喫煙など)、服用中の薬剤なども重要な情報です。「腎不全 心不全 関係」を考慮し、腎機能低下の経過や透析状況についても確認します。

身体所見では、視診、聴診、触診、打診などを行います。具体的には、顔色、呼吸状態、頸静脈の怒張(首の静脈の腫れ)、肺の聴診(ラ音の有無)、心音の異常、肝臓の腫大、下腿浮腫(足のむくみ)などを確認します。

これらの所見は、心不全の存在や重症度を推定する上で役立ちます。

心エコー検査(超音波検査)の役割

心エコー検査は、心不全の診断において中心的な役割を果たす非侵襲的な検査です。

超音波を用いて、心臓の形態(心筋の厚さ、心腔の大きさ)、壁運動(心筋の収縮・拡張の様子)、弁の異常(弁膜症の有無)、心臓のポンプ機能(左室駆出率:LVEFなど)をリアルタイムに評価することができます。

また、心臓内の血流速度や圧力を測定することで、心臓にかかる負荷の程度も把握できます。

透析患者さんでは、体液量の変動が大きいため、ドライウェイト達成時の心エコー所見が特に重要となります。定期的な心エコー検査により、心機能の変化を早期に捉え、治療方針の決定や効果判定に役立てます。

この検査は、心不全の診断だけでなく、予後予測にも有用な情報を提供します。

血液検査で見るべき項目

血液検査は、心不全の診断補助や原因検索、重症度評価、全身状態の把握に役立ちます。心不全に関連する主な検査項目には以下のようなものがあります。

心不全診断や評価に関連する主な血液検査項目

検査項目意義腎不全患者での注意点
BNP (脳性ナトリウム利尿ペプチド)心臓に負荷がかかると心室から分泌。心不全の重症度と相関。腎機能低下で排泄が遅れ、高値傾向を示すことがあるため解釈に注意。
NT-proBNPBNPの前駆体。BNPと同様に心負荷を反映。腎機能低下でより高値になる傾向。年齢や腎機能に応じた基準値を考慮。
トロポニン心筋細胞が障害されると血中に流出。急性心筋梗塞などの指標。腎機能低下で軽度上昇することがある。
CK (クレアチンキナーゼ), CK-MB筋肉の逸脱酵素。心筋梗塞で上昇。骨格筋由来のCK上昇との鑑別が必要。
電解質 (Na, K, Cl)心機能や不整脈に影響。利尿薬使用時などに変動。腎不全自体で異常をきたしやすく、透析管理が重要。
腎機能検査 (BUN, Cr, eGFR)腎機能の評価。心腎連関の評価に重要。心不全治療薬の選択や用量調節に影響。
貧血検査 (Hb, Ht)貧血は心不全を悪化させる因子。腎性貧血の管理が重要。

これらの項目を総合的に評価し、他の検査所見と合わせて診断を行います。

胸部X線検査と心電図検査

胸部X線検査は、心臓の大きさや形(心拡大の有無)、肺うっ血(肺に水が溜まった状態)の有無、胸水の存在などを評価する基本的な検査です。心胸郭比(CTR:心臓の横幅と胸郭の横幅の比)は、心拡大の簡便な指標として用いられます。

透析患者さんでは、ドライウェイトとの関連で心胸郭比の変化を追跡することがあります。

心電図検査は、心臓の電気的な活動を記録する検査で、不整脈、心筋虚血(狭心症や心筋梗塞)、心肥大などの所見を捉えることができます。心不全の原因となる疾患のスクリーニングや、心不全の増悪因子となる不整脈の発見に有用です。

これらの検査は、比較的簡便に行えるため、心不全が疑われる場合の初期評価や経過観察に広く用いられます。

透析患者の心不全に対する治療戦略

透析患者さんが心不全を合併した場合、その治療は腎機能が正常な心不全患者さんとは異なる配慮が必要です。腎機能障害、透析療法の影響、併存疾患などを考慮し、個々の患者さんに合わせた包括的な治療戦略を立てることが求められます。

「透析 心不全」の状態を改善し、生活の質を維持するためには、薬物療法、水分・塩分管理、適切な透析条件の設定、そして生活習慣の改善が柱となります。

薬物療法の基本方針

心不全の薬物療法は、心臓の負担を軽減し、症状を和らげ、生命予後を改善することを目的とします。透析患者さんの場合、薬剤の代謝や排泄が通常とは異なるため、薬剤の種類や投与量に注意が必要です。

主な治療薬には以下のようなものがあります。

心不全治療に用いられる主な薬剤の種類と作用

薬剤の種類主な作用透析患者への注意点
ACE阻害薬/ARB血管を拡張し血圧を下げ、心臓の負担を軽減。心保護作用。高カリウム血症に注意。腎機能に応じた用量調節。
β遮断薬心拍数を抑え、心臓の過剰な働きを抑制。長期的に心機能を改善。徐脈、血圧低下に注意。少量から開始し慎重に増量。
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 (MRA)心臓や血管の線維化を抑制。利尿作用。高カリウム血症のリスクが高いため、特に慎重な投与が必要。
SGLT2阻害薬血糖降下作用に加え、心保護・腎保護作用が期待される。透析患者への適応やエビデンスは確立途上。
利尿薬体内の余分な水分を排泄し、うっ血症状を改善。透析患者では効果が限定的。残存腎機能や体液管理に応じて使用。

これらの薬剤は、患者さんの状態や併存疾患、副作用などを考慮しながら、専門医が適切に選択・調整します。自己判断での中断や変更は危険ですので、必ず指示に従ってください。

水分・塩分管理の徹底

透析患者さんの心不全管理において、水分・塩分管理は薬物療法と並んで極めて重要です。体液量のコントロールが不十分だと、心臓への負担が増大し、心不全が悪化しやすくなります。

塩分を過剰に摂取すると喉が渇き、水分を多く摂ってしまいがちです。その結果、透析間の体重増加が大きくなり、ドライウェイトの達成が困難になります。

1日の塩分摂取量の目標は、一般的に6g未満とされますが、個々の状態によって調整が必要です。水分摂取量も、尿量や透析間の体重増加を考慮して、医師や管理栄養士の指導のもとで適切に管理します。

食事療法は継続が大切ですので、無理なく続けられる工夫を見つけることが重要です。

至適な透析条件の設定

透析療法自体が心臓に影響を与えるため、心不全を合併している患者さんでは、より心臓に優しい透析条件を設定することが求められます。具体的には、急激な除水を避け、緩やかな体液除去を心がけます。

透析時間や血流量、透析液の温度やナトリウム濃度などを個別に調整し、透析中の血圧低下や不整脈の発生を最小限に抑えるように努めます。

また、ドライウェイトの定期的な見直しと適正化も重要です。心機能や体液バランスの変化に応じて、ドライウェイトをきめ細かく調整することで、心臓への慢性的な負荷を軽減し、心不全の進行を遅らせることが期待できます。

オンラインHDF(血液透析濾過)など、より生体適合性の高い透析方法が選択されることもあります。

非薬物療法と生活習慣の改善

薬物療法や透析条件の最適化に加え、生活習慣の改善も心不全管理には欠かせません。禁煙は絶対条件です。喫煙は血管を収縮させ、動脈硬化を進行させ、心臓に大きな負担をかけます。また、過度なアルコール摂取も控えるべきです。

適度な運動は、心肺機能の維持や筋力低下の予防、QOL(生活の質)の向上に役立ちますが、心不全の程度や全身状態に応じて、医師の指導のもとで安全に行う必要があります。

過度な安静はかえって体力を低下させるため、無理のない範囲での活動を心がけましょう。

心不全患者さんのための生活習慣改善のポイント

  • 禁煙の徹底
  • 節酒(医師と相談)
  • 適切な体重管理
  • 十分な睡眠と休息
  • ストレス管理
  • 感染予防(インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン接種など)

これらの生活習慣の改善は、心不全の悪化を防ぐだけでなく、全身状態の改善にもつながります。

心不全合併時の予後と生活上の注意

透析患者さんが心不全を合併すると、残念ながら生命予後(病気の経過についての医学的な見通し)に影響が出ることが知られています。

「透析 心不全 余命」という言葉で情報を探される方もいらっしゃるように、予後については多くの方が関心を持つ点です。しかし、適切な治療と自己管理によって、症状をコントロールし、より良い生活を送ることは可能です。

ここでは、心不全合併時の予後に関する一般的な情報と、日常生活で気をつけるべき点について解説します。

心不全合併が生命予後に与える影響

一般的に、透析患者さんが心不全を合併すると、心不全がない場合に比べて生命予後は厳しい傾向にあると報告されています。

心不全の重症度、原因となる心疾患の種類、年齢、併存疾患(糖尿病など)、栄養状態などが予後に影響を与える因子として挙げられます。

特に、心臓のポンプ機能が著しく低下している場合や、心不全の症状がコントロールしにくい場合は、注意深い管理が必要です。

しかし、これはあくまで統計的な傾向であり、個々の患者さんの予後を正確に予測することは困難です。医療技術の進歩により、心不全の治療法も向上しており、早期発見・早期治療によって予後の改善も期待できます。

大切なのは、悲観的になりすぎず、主治医とよく相談しながら、前向きに治療に取り組むことです。

食事療法で気をつけること

心不全を合併した透析患者さんの食事療法は、塩分制限、水分制限、カリウム制限、リン制限、そして適切なエネルギーとタンパク質の確保が基本となります。これらの制限は、心臓への負担軽減と透析管理の安定化に直結します。

心不全合併時の食事療法のポイント

栄養素管理のポイント具体的な注意点
塩分1日6g未満を目安に制限加工食品、インスタント食品、外食を控える。だしや香辛料を活用。
水分医師の指示に従う(尿量+500~700ml/日程度が目安)飲水量だけでなく、食事中の水分も考慮。正確な体重測定。
カリウム高カリウム血症を予防生野菜や果物の摂取量に注意。水さらしや茹でこぼしで減らす。
リン高リン血症を予防(骨や血管への影響)乳製品、加工食品、肉・魚の内臓を控える。リン吸着薬の服用。
エネルギー・タンパク質低栄養を避け、適量を確保良質なタンパク質を選び、エネルギー不足にならないよう注意。

管理栄養士による個別指導を受け、具体的な調理法や食品の選び方についてアドバイスをもらうことが推奨されます。食事療法は治療の基本であり、根気強く続けることが大切です。

運動療法の可能性と限界

かつては心不全患者さんには安静が第一とされていましたが、近年では安定期の心不全患者さんに対する運動療法の有効性が認識されています。

適度な運動は、運動耐容能(体を動かせる能力)の改善、QOLの向上、入院リスクの低下などに寄与する可能性があります。

透析患者さんにおいても、心不全の状態が安定していれば、医師の管理のもとで軽い運動(ウォーキング、自転車エルゴメーターなど)を行うことが推奨される場合があります。

ただし、運動の種類や強度は、個々の心機能、体力、併存疾患などを考慮して慎重に決定する必要があります。自己判断で無理な運動を行うと、かえって心不全を悪化させる危険性があります。

必ず専門医や理学療法士の指導を受け、メディカルチェックのもとで安全に実施することが重要です。運動中に胸痛、息切れ、動悸などの症状が出現した場合は、直ちに運動を中止し、医師に相談してください。

精神的サポートと情報提供

心不全という診断は、患者さんやご家族にとって大きな不安やストレスとなることがあります。特に透析治療を受けながら心不全と向き合うことは、精神的な負担も大きくなりがちです。

不安や抑うつは、治療への意欲を低下させ、心不全の管理を難しくすることもあります。そのため、精神的なサポートは非常に重要です。

医師や看護師、臨床心理士、医療ソーシャルワーカーなどが、患者さんの悩みや不安に耳を傾け、適切な情報提供やカウンセリングを行います。

また、同じような病気を抱える患者さん同士の交流(患者会など)も、精神的な支えとなることがあります。信頼できる医療スタッフに遠慮なく相談し、必要なサポートを受けるようにしましょう。

精神的サポートの主な種類

  • 医療スタッフによるカウンセリング
  • 臨床心理士や精神科医による専門的ケア
  • 患者会や家族会への参加
  • 信頼できる家族や友人からの支援

合併症としての心不全を防ぐために

腎不全患者さんにとって、心不全は最も注意すべき合併症の一つです。心不全の発症を完全に防ぐことは難しいかもしれませんが、適切な対策を講じることで、そのリスクを低減したり、進行を遅らせたりすることは可能です。

腎機能の保持、血圧管理、貧血管理、そして生活習慣病の管理が鍵となります。

腎機能保持への取り組み

心不全のリスクは、腎機能が悪化するほど高まります。したがって、可能な限り腎機能を保持し、腎不全の進行を遅らせることが、心不全予防の第一歩となります。

特に、保存期腎不全(透析導入前の段階)においては、原因疾患(糖尿病、高血圧など)の治療をしっかりと行い、食事療法(タンパク質制限、塩分制限など)を遵守することが重要です。

医師の指示に従い、定期的な検査を受け、腎機能の悪化を防ぐ努力を継続しましょう。早期からの腎臓専門医による管理が推奨されます。

血圧管理の目標と実践

高血圧は、心臓に持続的な負担をかけ、心肥大や心不全を引き起こす最大の危険因子の一つです。腎不全患者さんでは、体液量の増加やレニン・アンジオテンシン系の亢進などにより、高血圧を合併しやすいため、厳格な血圧管理が求められます。

「腎不全 心不全 関係」を考える上で、血圧コントロールは非常に重要です。

腎不全患者における血圧管理の一般的な目標値

対象目標血圧備考
保存期CKD(タンパク尿陽性)130/80 mmHg 未満降圧薬の種類選択も重要
保存期CKD(タンパク尿陰性)140/90 mmHg 未満個々の状態で判断
血液透析患者透析前 140/90 mmHg 未満、透析後 130/80 mmHg 未満家庭血圧も参考に

これらの目標値はあくまで目安であり、年齢や併存疾患によって個別に設定されます。降圧薬の適切な使用に加え、塩分制限、体重管理、適度な運動などの生活習慣の改善も血圧管理には不可欠です。

家庭血圧を毎日測定し、記録することも、より良い血圧コントロールに役立ちます。

貧血管理と心臓保護

腎不全が進行すると、腎臓でのエリスロポエチン(赤血球を作るホルモン)の産生が低下し、腎性貧血が起こりやすくなります。

貧血は、組織への酸素供給を低下させ、心臓はそれを補うためにより多くの血液を送り出そうとして負担が増加します。この状態が長く続くと、心肥大や心機能低下を招き、心不全の発症・悪化リスクを高めます。

そのため、腎性貧血に対しては、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)や鉄剤を用いた適切な治療を行い、目標ヘモグロビン値を維持することが重要です。貧血を改善することで、心臓への負担を軽減し、心不全の予防やQOLの改善が期待できます。

定期的な血液検査で貧血の状態をチェックし、医師の指示に従って治療を受けましょう。

脂質異常症・糖尿病の管理

脂質異常症(高コレステロール血症や高中性脂肪血症など)や糖尿病は、動脈硬化を進行させる主要な危険因子です。動脈硬化が心臓の血管(冠動脈)に起これば狭心症や心筋梗塞を、脳の血管に起これば脳卒中を引き起こします。

これらの疾患は心不全の直接的な原因となったり、心不全を悪化させたりします。

腎不全患者さんでは、脂質代謝異常や耐糖能異常(糖尿病予備群)を合併することも多いため、これらの管理も心不全予防には重要です。食事療法、運動療法に加え、必要に応じて薬物療法(スタチン系薬剤、血糖降下薬など)を行います。

定期的な血液検査で脂質値や血糖値をチェックし、良好なコントロールを目指しましょう。これらの生活習慣病の管理は、腎機能の保護にもつながります。

よくある質問

透析治療や心不全に関して、患者さんやご家族から寄せられることの多い質問とその回答をまとめました。

ここに記載されている内容は一般的なものであり、個々の状況によって異なる場合がありますので、詳細は必ず主治医にご確認ください。

透析を始めたら心不全は必ず起こるのですか

透析を始めることが、必ずしも心不全を発症させるわけではありません。しかし、透析導入に至る腎不全の状態では、すでに心臓に負担がかかっていることが多く、心不全のリスクが高い状態にあることは事実です。

透析導入後も、適切なドライウェイト管理、血圧コントロール、貧血治療、食事療法などを継続し、心臓への負担をできる限り軽減することが重要です。

定期的な心機能検査を受け、早期発見・早期対応を心がけることで、心不全の発症や進行を抑えることが期待できます。

心不全になると透析治療は続けられますか

心不全を合併しても、多くの場合、透析治療を継続することは可能ですし、むしろ生命維持のために必要です。

ただし、心不全の状態によっては、透析条件(除水量、除水速度、透析時間、透析方法など)を調整し、より心臓に負担の少ない方法で行う必要があります。

例えば、体液変動の少ない腹膜透析を選択したり、血液透析であれば長時間の緩徐な透析を行ったりすることがあります。心不全の治療と透析治療を並行して行い、両方の状態を総合的に管理していくことが大切です。

主治医や透析スタッフとよく連携を取りながら治療を進めます。

心不全の薬と透析の薬は一緒に飲んでも大丈夫ですか

心不全の治療薬と、透析患者さんが通常服用する薬剤(リン吸着薬、カリウム降下薬、ビタミンD製剤、降圧薬など)は、多くの場合一緒に服用することが可能です。

しかし、薬剤によっては相互作用(薬同士が影響し合って効果が強まったり弱まったりすること)を起こす可能性や、腎機能が低下しているために副作用が出やすくなることもあります。

そのため、服用しているすべての薬剤(市販薬やサプリメントも含む)を医師や薬剤師に正確に伝え、飲み合わせや投与量について確認してもらうことが非常に重要です。

自己判断で薬を中止したり、量を変更したりすることは絶対に避けてください。

心不全の悪化を防ぐために自分でできることは何ですか

心不全の悪化を防ぐためには、医療機関での治療に加え、患者さん自身の自己管理が非常に重要です。具体的には、以下の点が挙げられます。

  • 医師の指示通りの服薬を継続する。
  • 塩分・水分制限を遵守する(透析間の体重増加をコントロールする)。
  • 毎日の体重測定、血圧測定を行い、記録する。
  • 禁煙を徹底し、節酒を心がける。
  • バランスの取れた食事を心がけ、過食を避ける。
  • 無理のない範囲で適度な運動を継続する(医師の指示に従う)。
  • 十分な睡眠と休息をとる。
  • ストレスを溜めないように工夫する。
  • 感染症を予防する(手洗い、うがい、ワクチン接種など)。
  • 体調の変化(息切れ、むくみ、体重増加など)に注意し、異常があれば速やかに医療スタッフに相談する。

これらの自己管理を根気強く続けることが、心不全の安定化とQOLの維持につながります。「透析 心不全 余命」を少しでも良いものにするためには、日々の努力が大切です。

以上

透析センター(人工透析) | 大垣中央病院(医療法人社団豊正会 )

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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