長期にわたる治療が必要となる透析は、身体面の痛みや不快感だけでなく、精神面でも大きな重圧を感じる方がいます。人工透析辛いという声を耳にすると、将来的に透析治療を検討中の方や、すでに治療中の方が不安を抱えるかもしれません。
本記事では、身体的な負担や精神的なストレスをなるべく和らげるための考え方や対処法を詳しく説明します。
人工透析に関する基礎知識
透析は腎臓の機能を代替するための治療方法であり、血液中の老廃物や余分な水分を取り除く役割を担います。慢性腎不全などで腎機能が低下した場合、余分な水分や老廃物が体に蓄積し、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。
早めに理解を深めることが重要です。
人工透析とは何か
腎臓がうまく働かない状態になると、血液中に老廃物や水分が蓄積してしまいます。血液透析や腹膜透析でこれらを排出し、体内環境を整えます。透析は週に数回行う場合が多く、定期的な通院や管理が欠かせません。
血液透析と腹膜透析の違い
透析には大きく分けて血液透析と腹膜透析があります。血液透析は血液を体外に取り出して透析機器を通す方法で、腹膜透析は腹腔内に透析液を入れて老廃物や水分を交換する方法です。
医師と相談しながら、体調や生活スタイルに合った治療を検討します。
透析が必要になる主な病気
糖尿病や高血圧による慢性腎臓病、糸球体腎炎などさまざまな疾患が腎機能低下の要因です。早期発見・早期治療によって透析移行を遅らせることも可能です。
自覚症状が出にくい腎臓病だからこそ、定期的な健康診断や血液検査でのチェックが大切です。
生活習慣と透析の関係
食生活や運動習慣、飲酒・喫煙習慣などが腎臓に影響することがあります。腎機能が低下した状態で高塩分・高タンパクの食事を続けると、透析への移行時期が早まる場合もあります。
日常的に食事内容や体重変化を意識することが重要です。
人工透析の導入数に関する概要
地域 | 透析導入患者の推移 | 主な要因 |
---|---|---|
都市部 | 増加傾向 | 糖尿病や高血圧の増加 |
地方 | 緩やかな増加 | 高齢化による慢性腎不全の増加 |
全体 | 中長期的に上昇 | 生活習慣病や高齢化 |
身体的に辛いと感じる理由
人工透析を辛いと感じる方の多くは、身体的な負担からくる苦痛を挙げます。透析そのものが原因の痛みや、副作用として現れる症状が生活の質に影響することもあります。
血管への負担と痛み
血液透析では腕や足の血管に針を刺し、体外へ血液を循環させます。何度も同じ血管に針を刺すため、穿刺部位の痛みや血管の損傷が起こりやすくなります。日常生活でも動かしにくさを感じるかもしれません。
体液バランスの変動
透析によって体内の水分や電解質を一定に保つ必要があります。しかし、治療前後の水分管理が難しい場合、むくみや脱水症状を起こすこともあります。急激な体重変動があると、身体が追いつかずに倦怠感が増すことがあります。
血圧の変動にともなう症状
透析中や透析後は血圧が大きく上下しやすく、低血圧や高血圧により頭痛やめまい、吐き気を伴う場合があります。とくに急激な血圧低下は、治療中に大きな苦痛につながることもあるため注意が必要です。
かゆみや倦怠感などの不快感
慢性的な透析が続くと、皮膚の乾燥やかゆみ、倦怠感が顕著になります。これらの症状は生活の質を下げ、患者が人工透析辛いと感じる大きな要因になります。
血液透析中に感じやすい症状の種類
症状 | 具体的な状態 | 注意点 |
---|---|---|
低血圧 | めまいや吐き気 | 水分量と血圧管理が重要 |
筋けいれん | 足などの筋肉がつる | ミネラルバランスに配慮 |
かゆみ | 皮膚の乾燥や刺激感 | 保湿や薬の使用を検討 |
頭痛 | 血圧変動による痛み | 治療中の姿勢や血圧管理 |
身体的負担を減らすうえで見直す要素
- 血圧と脈拍の定期的チェック
- 透析後の体重変化とむくみ具合の観察
- 透析前後の水分摂取バランス
- 皮膚トラブル対策としての保湿や衣類選び
精神的に辛いと感じる理由
身体的な痛みだけでなく、透析生活は精神的な重圧を伴うことが多いです。治療が長期化するにつれ、心のモチベーションを保つことが難しくなる場合があります。
長期治療による不安と疲労
定期的に治療を受けなければならないという縛りが、自由な生活を送りにくくしていると感じる方もいます。透析室での待ち時間や移動、制限の多い食生活などが重なり、心身ともに疲弊しやすくなります。
社会生活への影響
週に数回、あるいは毎日のように治療が必要になるため、仕事や学業、家事などのスケジュール調整に苦労する方が少なくありません。周囲からの理解不足や職場環境の制約がストレスとなり、人工透析辛い思いが増すこともあります。
自尊感情の低下
自分自身で食事や水分量を管理しなければならない日々が続くと、完璧にこなせない自分を責めてしまうことがあります。失敗を重ねるうちに自己否定感が高まり、治療そのものへの意欲が下がってしまうケースがあります。
周囲とのコミュニケーション
治療に理解がない人から不用意な言葉をかけられたり、行動を制限される状況があると孤立感が深まります。家族や友人に対しても遠慮が増え、相談しにくい空気が生まれることも一因です。
精神的負担が重くなりやすいタイミングの例
タイミング | 感じやすい感情 | 主な対処法の例 |
---|---|---|
透析導入初期 | 不安や恐怖 | 医師や看護師への相談 |
治療が長期化 | 倦怠感や孤独感 | 支援グループやカウンセリングの利用 |
身体状態の悪化 | 焦りや落胆 | 必要に応じた治療計画の見直し |
社会生活の変化 | ストレスや緊張 | 周囲への情報共有や勤務形態の工夫 |
心の不調を軽減するヒント
- 定期的に医療スタッフと面談する
- 自己判断で無理をせず休む時間を作る
- 同じような境遇の人との交流を図る
- 日々の小さな楽しみを意識的に取り入れる
身体的負担の軽減策
人工透析辛い局面を乗り越えるには、身体面での負担をできる限り抑える工夫が欠かせません。透析時や日常生活でできる具体的な方法を検討することが大切です。
適切なスケジュール調整
透析の頻度や時間帯は、医療スタッフとの相談で調整できる場合があります。生活リズムを考慮しながら、なるべく体への負担が少ないスケジュールを組むと疲労を軽減できます。
食事管理と水分コントロール
食事の塩分やカリウム、リンなどの制限は、透析患者にとって切り離せない課題です。水分量にも制限がかかるため、適切な範囲内で楽しみを見つけることが大切です。
医療スタッフや管理栄養士の助言を取り入れつつ、工夫を重ねると負担が軽くなる場合があります。
食事における主要栄養素の目安
栄養素 | 控える理由 | 主な食品例 |
---|---|---|
塩分 | 血圧上昇やむくみ | 漬物、加工食品、味噌汁 |
カリウム | 不整脈リスク | バナナ、ジャガイモ、トマト |
リン | 骨や血管の障害 | 乳製品、魚介類、豆類 |
タンパク質 | 腎臓への負担 | 肉類、魚、卵 |
運動やリハビリテーション
透析患者でも、体力維持や血流改善のために適度な運動は大切です。ウォーキングや軽いストレッチなど、医師と相談しながら無理のない範囲で続けると血液循環が良くなり、疲労感の低減につながります。
痛みやかゆみの対処法
針を刺す痛みや皮膚のかゆみは、医療スタッフに相談して局所麻酔や保湿剤の使用などの対策を考えると負担が減ります。また、衣服の素材や透析室内の温度調整など、日常の些細な工夫も効果的です。
身体面のケアを続けるうえで役立つ視点
- 自宅での血圧・体重測定を習慣化する
- ストレッチや軽めの体操を毎日行う
- かゆみなどがある部位は早めに受診する
- 洋服や寝具は通気性の良い素材を選ぶ
精神的負担の軽減策
透析は生活全般に影響を与えやすいため、身体的な対応だけでなく精神面のケアも大切です。心のストレスを適切に和らげる方法を考えてみましょう。
心理サポートの活用
心理カウンセラーやメンタルヘルス専門の医療スタッフに相談すると、気持ちを整理できる可能性があります。特に長期的に人工透析辛いという感情が続く場合、専門家の意見を取り入れることが回復への糸口となるかもしれません。
心理支援の場で得られるメリット
支援 | 期待できる効果 |
---|---|
カウンセリング | 悩みの言語化によるストレス軽減 |
グループミーティング | 同じ悩みを抱える仲間との交流 |
オンライン相談 | 通院負担の少ない形でのメンタルサポート |
家族や友人との支え合い
周囲に自分の状況を正直に伝えることは意外と難しいですが、理解者がいるだけでも心の負担は軽くなります。家族や友人との会話を大切にし、手助けが必要なときには躊躇せず声を上げることが安心感につながります。
趣味や楽しみの継続
透析治療に集中するあまり、自分の趣味や好きなことをあきらめる方がいます。しかし、意識的に楽しみを持つことはストレス緩和に役立ちます。音楽や読書、軽度の運動など、できる範囲で続けられるものを探してみてください。
情報収集と医療スタッフとの連携
自分が受けている治療内容や、症状の原因を正しく理解すると安心感が高まります。医師や看護師へ疑問を率直に投げかけ、納得するまで説明を受けましょう。
わからないまま不安を抱えるより、情報を共有して解決策を探すことが大切です。
透析と仕事や生活の両立
透析生活が長期にわたる場合、仕事や家族との時間など、どう両立していくかが大きなテーマになります。経済的な不安や時間的制約を抑えるためにも、周囲の協力と制度の活用が重要です。
通院頻度と職場調整
週3回の血液透析や毎日数回の腹膜透析など、治療スケジュールは多岐にわたります。職場に理解のある制度があるかどうか、あらかじめ確認しておくと安心です。
テレワークや時短勤務など、働き方を柔軟に変更できる場合もあります。
仕事と透析を両立しやすくする働き方の例
働き方 | 特徴 | メリット |
---|---|---|
フレックス勤務 | 出勤時間を選べる | 透析日の調整がしやすい |
テレワーク | 在宅勤務を可能にする | 移動負担を減らせる |
時短勤務 | 勤務時間を短縮 | 透析疲れへの配慮ができる |
体調管理と日常生活の工夫
透析後は疲労が強く出ることがあるため、無理に仕事を詰め込まず、休息を取りながら進めることが大切です。家事でも同様に、タイミングを見計らってこまめに行うほうが負担が少なくて済みます。
社会保障制度の活用
透析患者には高額療養費制度などの公的支援があります。医療費の自己負担額を抑えられる場合があるため、病院のソーシャルワーカーや行政機関に相談して具体的な手続きを進めると経済的な安心感が得られます。
周囲への理解促進
職場や学校、近所の方へ自身の病状を適切に伝えることで、緊急時の協力を得やすくなります。とくに血圧低下や体調不良が突然起こった場合に備えて、日頃から透析について周囲の人に話しておくことは自分を守る手段にもなります。
- 職場の上司や同僚に透析通院の日程を伝える
- 家族や友人に現在の体調をこまめに報告する
- 地域コミュニティの福祉制度を確認する
- 万一の体調不良に備えて連絡先を共有しておく
受診のタイミングと医療機関の選び方
透析生活は一度始まると長期的に続きます。早期の段階から治療方針や医療機関を検討することは、心身の負担を減らすためにも大切なステップ…という言葉は避けて書きたいので「大切な段階」としましょう。
症状の変化に気づく方法
むくみや尿量の変化、倦怠感などが見られた場合は、一時的な体調不良と考えず、医療機関への相談を検討してください。血液検査や尿検査で腎機能の数値を確認すると、腎臓への負担を把握しやすくなります。
専門医の見極め
腎臓内科や透析に特化した医療スタッフがいる病院を選ぶと、治療方法や生活指導に関する情報が得やすいです。医師との相性や治療方針に納得できるかどうかも重要な判断基準になります。
受診前に準備すると良い情報
医師に正確な情報を伝えるために、血圧や体重、食事内容、体調の変化を記録しておくことをおすすめします。
どのような症状がいつから続いているのか、悪化と改善のきっかけは何かを整理すると、より的確な治療方針を話し合いやすくなります。
医師へスムーズに伝えるためにまとめておきたい項目
項目 | 具体的な例 |
---|---|
日々の体重変化 | 毎朝と透析後の測定結果 |
食事の内容 | 主菜・副菜・間食の種類 |
運動量 | ウォーキングの時間や歩数 |
体調の変化 | 疲労感・むくみ・かゆみなど |
相談しやすい環境を整える
自分に合った医療機関を選ぶ基準として、スタッフの雰囲気や質問のしやすさも考慮すると良いでしょう。問診や治療中に気になることを気軽に尋ねられるかどうかで、ストレスの度合いが変わります。
長期的に通う場となるだけに、少しでも心地よく治療に向き合える場所を探すことが大切です。
よくある質問
透析には時間・費用・体調など多方面の悩みがつきまといます。この章では、よく聞かれる疑問点をまとめてみました。人工透析辛いという声に関連する内容も含め、できるかぎりわかりやすく答えます。
- 費用に関する疑問
-
「医療費が高いのではないか」と心配する方がいますが、高額療養費制度を利用すると一定以上の負担を軽減できます。収入や家族構成によって負担額は異なるので、具体的には病院のソーシャルワーカーや市区町村の窓口に相談すると安心です。
透析費用を工面する際に検討しやすい制度
制度名 内容 申請窓口 高額療養費 医療費の自己負担上限を設定 健康保険組合や市区町村 医療費助成 患者の経済状況に応じた助成 自治体によって異なる 障害年金 働くのが困難な場合に給付 年金事務所 - 透析中の過ごし方
-
血液透析は1回あたり4時間ほどかかるケースもあり、その間ベッドでじっとしているのは退屈だと感じる方が多いです。医療機関によってはテレビや読書が許可されることもあります。
自分がリラックスできる方法を見つけると、長時間の治療が少し楽になります。
- 合併症について
-
感染症や心血管系の合併症など、透析患者はさまざまなリスクが高まります。定期的に血液検査や画像検査を受けて異常がないかチェックしてください。
食生活や運動で負荷をうまく調整することで、合併症のリスクを低減できる可能性があります。
- 不安を軽減するためのヒント
-
少しでも将来への不安を和らげるには、医師や看護師と密にコミュニケーションを取ることが大切です。小さな違和感や疑問をそのままにせず、早めに確認しましょう。
早期発見・早期対処によって大きなトラブルを防ぎ、人工透析辛い状態を回避しやすくなります。
以上
透析センター(人工透析) | 大垣中央病院(医療法人社団豊正会 )
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