血液透析(以下、透析)治療は、腎臓の機能が低下した方にとって、体内の老廃物や余分な水分を取り除くために重要な治療法です。
血液は本来、空気に触れたり異物に接触したりすると固まる性質を持っていて、透析治療を安全かつ効率的に行うためには、血液凝固を防ぐ抗凝固薬の使用が必要となります。
この記事では、透析で使う抗凝固薬の役割、主な種類(ヘパリンなど)と使い分け、ヘパリン管理の重要性、出血予防などの副作用対策について、詳しく解説していきます。
なぜ透析治療に抗凝固薬が必要なのでしょうか
透析治療を安全に行うため、血液の流れをスムーズに保つ薬が重要な役割を果たします。血液が体外で固まるのを防ぐ、基本的な理由を見ていきましょう。
透析治療と血液凝固の基本的な関係
血液には、出血した際に血を止めるための凝固という仕組みが備わっていますが、透析治療のように血液が体外の回路(血液回路)やダイアライザという人工物に触れる環境では、凝固の仕組みが過剰に働いてしまうことがあります。
体が「異物と接触した」と認識し、血液を固まらせようとするのです。
体外循環で血液が固まりやすい理由
透析治療では、毎分約200mlもの血液が体内から取り出され、血液回路を通ってダイアライザを通過し、再び体内に戻ります。
一連の流れ(体外循環)において、血液はプラスチック製のチューブやダイアライザの膜など、本来体内にはない物質に長時間触れ続けます。
接触が刺激となり、血液中の血小板が集まったり、凝固因子が活性化したりして、血栓(血の塊)ができやすい状態になるのです。
透析回路内での凝固トラブル
もし抗凝固薬を使用せずに透析を行うと、血液回路やダイアライザの内部で血液が固まり始める可能性があり、凝固が進行すると、いくつかの問題を起こします。
血流が悪くなり、透析の効率が著しく低下し、老廃物や水分の除去が不十分になり、さらに凝固が進行すると、回路内が完全に詰まってしまい、透析治療そのものを中断せざるを得なくなることもあります。
透析回路内凝固のサイン
- ダイアライザの色の変化(黒っぽくなる)
- 血液回路内の気泡の増加
- 静脈圧の上昇
- 返血(透析終了時に回路内の血液を体に戻すこと)が困難になる
抗凝固薬が果たす中心的な役割
透析用抗凝固薬は、体外循環中の血液凝固を防ぐために使用します。
薬剤は、血液が固まる働きを適度に抑え、血液が血液回路やダイアライザ内をスムーズに流れ続けるのを助け、4時間から5時間におよぶ透析治療を安全に、かつ効率的に完了させることが可能になります。
抗凝固薬は、透析治療の安定した遂行を支える重要な薬剤です。
抗凝固薬を使わない場合のリスク
抗凝固薬を使用しないと透析回路内で血液が凝固し、治療効率の低下や治療の中断につながり、さらに、凝固によってダイアライザや血液回路が使用できなくなると、交換する必要が生じ、医療資源の浪費にもつながります。
最も重要なのは、回路内でできた血栓が万が一にも体内に戻ってしまうと、重大な合併症を起こす危険性があることで、リスクを回避するため、透析 抗凝固の管理は非常に大切です。
ただし、出血のリスクが極めて高い患者さんなど、特別な場合には抗凝固薬を使わない方法(無抗凝固透析)を選択することもあります。
透析で主に使用する抗凝固薬の種類
透析治療では、患者さんの状態に合わせていくつかの透析 抗凝固薬が選択されます。ここでは、透析 抗凝固薬 使い分けの基本となる、主な種類を紹介します。
最も一般的な薬剤 ヘパリン
ヘパリン(未分画ヘパリン)は、透析治療において最も広く、古くから使用されている抗凝固薬で、効果の発現が速く、作用時間が比較的短いため、透析治療の時間に合わせて調整しやすいです。
ヘパリン(未分画ヘパリン)の特徴
ヘパリンは、血液凝固に関わる複数の因子(主にアンチトロンビン)の働きを強めることで、血液を固まりにくくします。効果の強さには個人差があるため、ヘパリン管理として、治療中のモニタリング(監視)と投与量の細かな調整が必要です。
また、万が一出血傾向が強くなった場合にも、プロタミンという中和剤(拮抗薬)で効果を打ち消すことができます。
ヘパリンの投与方法
一般的に、透析開始時にまず一定量を静脈注射(ワンショット投与)し、その後は透析中に持続注入ポンプを使って血液回路へ少量ずつ注入し続ける方法(持続投与)がとられ、透析中の血液の固まりやすさを安定した状態に保ちます。
低分子ヘパリン(LMWH)
低分子ヘパリン(低分子量ヘパリンとも呼ばれます)は、従来のヘパリン(未分画ヘパリン)を改良して作られた薬剤です。未分画ヘパリンに比べて分子量が小さく、均一化されています。
未分画ヘパリンとの違い
最大の違いは、作用の仕方にあります。
未分画ヘパリンが凝固因子の多くに作用するのに対し、低分子ヘパリンは特定の凝固因子(主に第Xa因子)に対してより選択的に作用し、抗凝固効果が予測しやすく、個人差が出にくいです。
また、作用時間が未分画ヘパリンよりも長い傾向にあります。
低分子ヘパリンの利点
効果が予測しやすいため、未分画ヘパリンで必要な治療中の頻繁なモニタリングを簡略化できる場合があります。
多くの場合、透析開始時に1回投与するだけで、透析終了まで効果が持続するため、ヘパリン管理の負担が軽減される可能性があります。
その他の抗凝固薬
ヘパリンや低分子ヘパリン以外にも、特定の状況下で使用される透析 抗凝固薬があります。
ナファモスタットメシル酸塩(フサン)
ナファモスタットメシル酸塩(フサン)の最大の特徴は、作用時間が極めて短いことです。
血液中に入るとすぐに分解されるため、ダイアライザを通過して体内に戻る頃には、抗凝固作用はほとんど失われているため、出血のリスクが非常に高い患者さん(例えば、手術直後や消化管出血がある場合)の透析に選択されます。
ただし、アレルギー反応(アナフィラキシーショック)を起こすことがあるため、使用には十分な注意が必要です。
アルガトロバン
アルガトロバンは、ヘパリンとは異なる仕組みで血液凝固を防ぐ薬剤です。ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)という、ヘパリンの重い副作用を発症した患者さんや、その既往がある患者さんの透析に使用します。
抗凝固薬の基本的な比較
| 薬剤名 | 主な特徴 | 作用時間 |
|---|---|---|
| ヘパリン(未分画) | 広く使用される。効果の個人差あり。中和剤あり。 | 短い(要持続投与) |
| 低分子ヘパリン | 効果が予測しやすい。作用時間がやや長い。 | やや長い(1回投与可) |
| ナファモスタット | 作用時間が極めて短い。出血リスク高い時に使用。 | 極めて短い |
ヘパリンの役割とヘパリン管理の重要性
透析治療において中心的な薬剤であるヘパリンの効果を最大限に引き出し、安全性を確保するために、ヘパリン管理が必要です。
ヘパリンが血液凝固を防ぐ仕組み
ヘパリンは、血液中にあるアンチトロンビンという物質の働きを強力に増強させます。アンチトロンビンは、血液を固まらせる中心的な役割を持つトロンビンや第Xa因子といった凝固因子の働きを抑える、いわば天然のブレーキ役です。
ヘパリンはこのブレーキの効き目を数百倍から数千倍に高めることで、血液凝固の連鎖反応を強力に停止させ、血液を固まりにくくします。
透析中のヘパリン投与(ヘパリン管理)
ヘパリンは効果の出方に個人差が大きい薬剤で、同じ量を投与しても、ある人には効きすぎ(出血傾向)たり、別の人には効きが不十分(回路内凝固)だったりします。
透析治療を安全に行うためには、患者さん一人ひとりに合わせた投与量の調整、ヘパリン管理が重要です。
持続投与と間欠投与
最も一般的な方法は、透析開始時に初期量を投与し、その後は持続注入ポンプで少量ずつヘパリンを血液回路に注入し続ける持続投与で、透析中の抗凝固レベルを一定に保ちやすいです。
施設によっては、透析中に1〜2時間おきに追加でヘパリンを注射する間欠投与を行う場合もあります。
投与量の調整
ヘパリンの投与量は、患者さんの体重、年齢、過去の透析での凝固の状況、現在の出血リスク(手術後、けが、月経中など)を総合的に考慮して決定します。
透析のたびに、ダイアライザや血液回路の残血(凝固の残り)の状態をスタッフが確認し、必要に応じて次回の投与量を微調整していきます。
ヘパリン投与の一般的な流れ
- 透析開始:初期投与(ワンショット)
- 透析中:持続投与(ポンプで少量ずつ)
- 透析中:モニタリング(ACT測定など)
- 透析終了前:持続投与を停止(通常30分〜1時間前)
- 透析終了:回路内の凝固状態を確認
ヘパリン管理におけるモニタリング
ヘパリンの効き具合を客観的に評価するため、透析中には血液検査によるモニタリングを行います。
活性化凝固時間(ACT)とは
ヘパリン管理で最も一般的に用いられる指標がACT(Activated Coagulation Time:活性化凝固時間)で、採血した血液が固まるまでの時間を測定する検査です。透析開始前(ヘパリン投与前)の値と、透析中の値を比較します。
通常、透析中は開始前の値の1.5倍から2倍程度(例えば、開始前が120秒なら、透析中は180秒から240秒)になるようにヘパリンの投与量を調整します。
測定により、ヘパリンが効きすぎていないか、あるいは足りていないかをリアルタイムで評価することが可能です。
モニタリングの頻度と目的
ACTの測定は、通常、透析開始から1時間後、2時間後など、透析中に1〜3回程度行います(患者さんの状態や施設の方針によります)。
モニタリングの目的は、透析回路の凝固を防ぎつつ、出血予防も両立させる、患者さんにとっての最適なヘパリン濃度を維持することにあります。
ヘパリン管理のモニタリング項目
| 検査項目 | 目的 | 測定頻度(例) |
|---|---|---|
| ACT(活性化凝固時間) | ヘパリンの効き具合をリアルタイムで評価 | 透析中に1〜3回 |
| 回路・ダイアライザの観察 | 視覚的な凝固の有無(残血)を確認 | 透析中および透析終了時 |
| 穿刺部の止血時間 | 出血傾向の度合いを評価 | 透析終了時 |
透析抗凝固薬の使い分け
一人ひとりの患者さんの体の状態や出血のリスクは異なります。安全な透析のために、医師はどのように透析抗凝固薬の使い分けを行っているのでしょうか。
患者さんの状態に応じた選択
透析 抗凝固薬の使い分けにおいて最も優先されるのは、患者さん個々の状態です。画一的な基準があるわけではなく、多くの情報を基に総合的に判断します。
出血リスクの評価
抗凝固薬の選択で最も重要なのが、出血リスクの評価です。最近手術を受けた、消化管から出血したことがある、脳出血の既往がある、血小板数が少ない、月経中である、といった場合は出血ハイリスクと判断します。
このような患者さんには、作用時間の極めて短いナファモスタットメシル酸塩を選択したり、ヘパリンの投与量を通常より大幅に減らしたり、場合によっては無抗凝固透析を行ったりします。
アレルギー歴や既往歴の確認
過去に特定の薬剤(例えばヘパリンやナファモスタット)でアレルギー反応を起こしたことがある場合は、その薬剤は使用できません。
また、重い肝機能障害がある場合は、薬剤の代謝が遅れる可能性があるため、薬剤の選択や投与量に慎重な配慮が必要です。
HIT(ヘパリン起因性血小板減少症)の既往がある場合は、ヘパリンおよび低分子ヘパリンは原則使用できず、アルガトロバンなどが選択されます。
ヘパリンと低分子ヘパリンの使い分け
出血のリスクが標準的な多くの患者さんでは、ヘパリン(未分画ヘパリン)か低分子ヘパリンが使用され、使い分けは、施設の方針や医師の考え方によって異なります。
ヘパリンが選ばれる場合
ヘパリンは、作用時間が短く、透析中のモニタリング(ACT測定)によってリアルタイムで効き具合を調整しやすいという大きな利点があります。
また、万が一効きすぎた場合にも中和剤があるため、出血リスクが中等度ある方や、状態が不安定な方にも比較的安全に使用でき、コスト面で優れていることも、広く使用される理由の一つです。
低分子ヘパリンが選ばれる場合
低分子ヘパリンは、効果の個人差が少なく予測しやすいため、ACT測定などのモニタリングを簡略化できる可能性があります。透析開始時に1回投与するだけでよいため、持続注入ポンプの管理が不要です。
状態が安定しており、出血リスクが低い患者さんにおいて、管理の簡便さを重視する場合に良い適応となります。
特殊な状況下での使い分け
標準的な方法が適さない、特殊な状況下での使い分けも重要です。
出血傾向が強い場合の選択肢
活動性の出血がある場合や、大手術の直後などで出血のリスクが極めて高いと判断される場合は、抗凝固薬の選択が非常に重要になります。この場合、透析 抗凝固薬 使い分けの鍵となるのが、作用時間の短さです。
ナファモスタットメシル酸塩の役割
ナファモスタットメシル酸塩は、体外循環中(ダイアライザ内)でのみ抗凝固作用を発揮し、体内に入るとすぐに分解されるため、全身的な出血リスクを高めにくく、出血ハイリスクの患者さんの透析治療において、第一選択となる薬剤です。
ただし、アレルギー反応のリスクがあるため、投与中は厳重な監視が必要になります。
抗凝固薬選択の考慮要素
| 考慮点 | ヘパリン(未分画) | ナファモスタット |
|---|---|---|
| 出血リスクが「高い」時 | 減量または中止 | 第一選択 |
| 出血リスクが「低い」時 | 第一選択 | (通常使用しない) |
| モニタリング | ACT測定が重要 | (ACTはあまり延長しない) |
抗凝固薬の主な副作用と注意点
血液を固まりにくくするということは、同時に出血しやすくなる可能性も意味します。治療を安全に続けるために知っておきたい主な副作用と注意点を解説します。
最も注意すべき 出血傾向
透析 抗凝固薬を使用する上で、最も頻度が高く、注意が必要な副作用は出血傾向です。薬剤の作用により、血液が固まりにくくなるため、わずかなきっかけでも出血しやすくなったり、一度出血すると止まりにくくなったりします。
出血予防のためにできること
透析治療中は、医療スタッフが患者さんの状態やモニタリング結果(ACTなど)を注意深く観察し、ヘパリン管理を行うことで、出血のリスクを最小限に抑えるよう努めます。
患者さん自身も、日常生活でけがをしないように注意すること(髭剃りはカミソリより電気シェーバーを使うなど)が、出血予防につながります。
出血のサインを見逃さない
体に出血の兆候がないかを日頃からチェックすることも重要です。もし以下のようなサインに気づいた場合は、抗凝固薬の投与量を調整する(減量する)必要があるので、医師や看護師に伝えてください。
注意すべき出血のサイン
- 歯茎からの出血が続く
- 鼻血が頻繁に出る、または止まりにくい
- 皮膚に身に覚えのない青あざ(皮下出血)が多発する
- 尿に血が混じる(血尿)、便が黒くなる(タール便)
- 透析終了後の穿刺部の止血に通常より時間がかかる
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)
これは、ヘパリン(未分画ヘパリン、低分子ヘパリン)の使用によって起こる、まれですが重篤な副作用で、ヘパリンに対するアレルギー反応の一種で、体内で特殊な抗体が作られることが原因です。
HITとはどのような状態か
HITが発症すると、血液を固める役割を持つ血小板の数が急激に減少します。
通常、血小板が減ると出血傾向になると思われがちですが、HITの怖いところは、血小板が減少するにもかかわらず、血栓(血の塊)ができやすくなる(血栓塞栓症)という矛盾した状態を引き起こす点です。
脳梗塞や心筋梗塞、透析回路の頻繁な閉塞などを起こす危険な状態です。
HITが疑われる場合の対応
ヘパリン使用中に血小板数の急激な低下(50%以上の減少)が見られた場合、HITを疑います。診断が確定、あるいは強く疑われた時点で、直ちにヘパリンおよび低分子ヘパリンの使用を中止し、作用機序の異なるアルガトロバンなどに変更します。
一度HITを発症すると、基本的には二度とヘパリン製剤は使用できません。
HITが疑われる場合の対応
| 対応 | 内容 | 理由 |
|---|---|---|
| 薬剤の中止 | ヘパリン、低分子ヘパリンを直ちに中止する | 原因薬剤の投与を止めるため |
| 薬剤の変更 | アルガトロバンなどに変更する | 安全な透析 抗 凝固を継続するため |
| モニタリング | 血小板数を毎日測定し、回復を確認する | 状態の変化を把握するため |
その他の副作用
頻度は高くありませんが、他にも注意すべき副作用があります。
アレルギー反応
特にナファモスタットメシル酸塩では、発疹、かゆみ、血圧低下、呼吸困難などを伴うアナフィラキシーショックが報告されているので、投与開始直後は特に注意深い観察が必要です。ヘパリンでもアレルギー反応が起こることはあります。
骨粗鬆症(長期使用の場合)
ヘパリンを長期間(数ヶ月以上)にわたって高用量で使用し続けると、骨密度が低下し、骨粗鬆症のリスクが高まる可能性が指摘されています。
透析患者さんはもともと骨がもろくなりやすい傾向があるため、定期的な骨密度のチェックなどが重要です。
透析中の出血予防と日常生活での対策
抗凝固薬を使用しながら安全に透析を続けるためには、治療中だけでなく日常生活における出血予防の意識も大切です。具体的な対策を見ていきましょう。
透析中の出血予防策
透析中の出血予防は、医療スタッフによるヘパリン管理が基本ですが、透析終了時の止血も非常に重要です。
穿刺部位の適切な管理
透析治療では、シャント(腕などの血管)に2本の針を刺します。抗凝固薬を使用しているため、穿刺部は血が止まりにくい状態になっているので、透析終了時に針を抜いた後の止血操作は、出血予防の観点から極めて重要です。
透析終了後の止血
針を抜いた後は、看護師や臨床工学技士が適切な圧迫(強すぎず、弱すぎず)で止血操作を行います。
患者さん自身が止血する場合も、スタッフの指導に従い、正しい位置を正しい強さで、決められた時間(通常10分〜15分程度)圧迫することが大切です。
止血が不十分だと、後から出血(再出血)したり、皮下に出血して大きなこぶ(血腫)を作ったりすることがあります。
止血時間の目安
| 状況 | 止血時間の目安 | 注意点 |
|---|---|---|
| 透析穿刺部の圧迫止血 | 10分〜15分程度 | 適切な圧迫が必要。圧迫解除後に再確認する。 |
| 日常生活での小さな切り傷 | 5分〜10分程度 | 通常より長くかかることを認識し、慌てず圧迫する。 |
| 止血困難な場合 | (目安時間なし) | 圧迫を続けながら、すぐに医療機関(透析施設)へ連絡する。 |
日常生活で気をつけること
透析日以外でも、抗凝固薬の影響がわずかに残っている可能性や、透析患者さん特有の出血傾向(尿毒症による血小板機能の低下など)があるため、日常生活での注意が必要です。
けがの予防
出血予防の基本は、けがをしないことです。ささいなことでも出血の原因になり得ます。
日常生活でのけが予防
- 髭剃りはカミソリを避け、電気シェーバーを使用する
- 歯磨きは、歯茎を傷つけないよう柔らかめの歯ブラシで優しく行う
- 爪を切るときは深爪をしない
- 足元を整理し、転倒を予防する
- 皮膚を強くこすらない
他の薬剤との相互作用
他の病気(例えば心房細動や深部静脈血栓症など)の治療のために、透析治療とは別に抗凝固薬や抗血小板薬(血液をサラサラにする薬)を内服している方もいて、薬剤と透析 抗凝固薬が併用されると、出血のリスクはさらに高まります。
この場合、透析中のヘパリンの投与量を通常より減量したり、場合によっては無抗凝固透析を選択したりするなど、より厳重な出血予防対策とヘパリン管理が必要です。
また、市販の痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)の中にも、胃腸からの出血リスクを高めるものがあるため、自己判断での服用は避け、必ず主治医に相談してください。
他の薬剤との主な相互作用(出血リスク)
| 薬剤の種類 | 主な薬剤名(例) | 透析抗凝固薬との併用 |
|---|---|---|
| 抗血小板薬 | アスピリン、クロピドグレル | 出血リスクが増大するため、ヘパリン減量などを検討 |
| 抗凝固薬(内服) | ワルファリン | 出血リスクが著しく増大。厳重な管理が必要。 |
| NSAIDs(痛み止め) | ロキソプロフェン、イブプロフェン | 消化管出血のリスクが増大。 |
抗凝固薬を使わない透析(無抗凝固透析)
出血のリスクが非常に高い場合など、特別な状況下では抗凝固薬を使用せずに透析を行う方法(無抗凝固透析)が選択されることもあります。
無抗凝固透析とは
無抗凝固透析とは、ヘパリンやナファモスタットメシル酸塩などの透析 抗凝固薬を一切使用せずに行う透析治療のことです。
出血のリスクをゼロにする目的で行いますが、透析回路内で血液が凝固するリスクと隣り合わせの治療法でもあります。
どのような場合に適応されるか
この方法が選択されるのは、抗凝固薬を使用することによる出血のリスクが、透析回路が凝固するリスクを上回ると医師が判断した場合に限られます。
手術直後や活動性出血がある場合
大きな手術(開腹手術や脳外科手術など)の直後で、まだ傷口からの出血が懸念される場合や、現在進行形で消化管出血や喀血などを起こしている(活動性出血)場合には、無抗凝固透析が適応となります。
抗凝固薬への重篤なアレルギー
まれですが、ヘパリンだけでなくナファモスタットなど、使用可能なほとんどの抗凝固薬に対して重篤なアレルギー反応(アナフィラキシーショックなど)を起こしてしまう患者さんにも、選択されます。
無抗凝固透析の主な対象
- 活動性の消化管出血や喀血がある
- 脳出血の発症直後(急性期)
- 大きな手術の直後(周術期)
- 重度の出血傾向(血小板著減など)
- 各種抗凝固薬への重篤なアレルギー既往
無抗凝固透析の方法と課題
抗凝固薬を使わないため、血液が固まらないように別の工夫が必要です。
主な方法として、透析中の血流速度を通常(毎分200ml程度)よりも速く(毎分250〜300ml程度)設定し、血流を速くすることで、血液が回路内でよどむ時間を減らし、凝固しにくくする狙いがあります。
また、定期的に少量の生理食塩水で血液回路内をフラッシュ(洗浄)しながら行うこともありますが、対策を講じても、やはり回路内凝固のリスクは高いままになります。
透析中に回路が凝固してしまい、治療を途中で中断せざるを得ないことや、ダイアライザの交換が頻繁に必要になることもあり、無抗凝固透析は、出血予防を最優先にするための、特別な治療法です。
無抗凝固透析の主な方法
| 方法 | 目的 | 課題 |
|---|---|---|
| 高血流透析 | 血液のよどみを減らし、凝固を防ぐ | シャントの状態によっては困難 |
| 生理食塩水フラッシュ | 定期的に回路内を洗い流す | 除水量(水分除去)の管理が複雑になる |
| 短時間透析 | 凝固する前に透析を終える | 十分な透析量を確保しにくい |
『透析で使う抗凝固薬の種類と使い分け』に関するよくある質問
これまで解説してきた内容について、患者さんからよく寄せられる質問と回答をまとめました。
- 透析のたびに薬の種類が変わることはありますか?
-
患者さんの状態が安定していれば、最も適した抗凝固薬を継続して使用します。
ただし、手術前後や体調が大きく変化した場合、出血リスクが高まったと判断された際には、一時的に薬剤を変更(例えばヘパリンからナファモスタットメシル酸塩へ)したり、投与量を厳密に調整したりすることがあります。
- 抗凝固薬を使うと、日常生活で出血が止まらなくなりますか?
-
過度に心配する必要はありません。透析で使用する抗凝固薬は、作用時間が比較的短いものが選ばれ、透析終了時には薬の効果が薄れていきます。
しかし、通常よりは血が固まりにくい状態にあるため、けがをしないよう注意し、歯磨きなどで強くこすりすぎないといった配慮は大切です。もし出血がなかなか止まらない場合は、すぐに主治医やスタッフに相談してください。
- ヘパリン管理とは具体的に何をするのですか?
-
透析中にヘパリンが適切な効果を発揮しているかを確認し、投与量を調整することです。主な方法として、透析中に何度か採血し、ACT(活性化凝固時間)という血液の固まりやすさを示す数値を測定します。
数値を見ながら、ヘパリンの投与量を増やしたり減らしたりして、透析回路が固まらず、かつ出血のリスクを最小限に抑える、ちょうど良い状態を維持します。
- 出血予防のために、食事で気をつけることはありますか?
-
特別に何かを食べてはいけない、ということはありません。血液を固まりにくくする内服薬であるワルファリンとは異なり、透析で使用するヘパリンなどは、納豆や青汁(ビタミンK)の影響を直接受けることはありません。
ただし、出血予防の観点からは、アルコールの過剰摂取は出血傾向を助長する可能性があるため控え、バランスの取れた食事を心がけることが基本です。
以上
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