透析バスキュラーアクセスのトラブル|シャント閉塞・感染等の原因と対策

透析バスキュラーアクセスのトラブル|シャント閉塞・感染等の原因と対策

透析治療を受けている方にとって、バスキュラーアクセスは血液を体外に取り出し、浄化してから体に戻すための大切な出入り口ですが、長期間使い続ける中で、様々なトラブルに見舞われることがあります。

血管が狭くなったり詰まったりするシャント不全や、細菌が入り込んでしまう感染症などが代表的です。トラブルは透析が十分に行えなくなるだけでなく、場合によっては命に関わる事態にもなりかねません。

本記事では、バスキュラーアクセスの主なトラブルとその原因、そして自分でできる対策や医療機関での治療法について詳しく解説していきます。

目次

バスキュラーアクセスの重要性とトラブル

透析治療では、短時間で大量の血液をきれいに浄化する必要があるため、普段の静脈を流れる血液の量では足りず、たくさんの血液を安定して取り出せる特別な血管の経路が必要になり、これを作成したものがバスキュラーアクセスです。

トラブルが起きると透析の効率が下がり、体内に老廃物や水分が溜まりやすくなって、様々な体調不良の原因となります。

バスキュラーアクセスが果たす役割とは

体には、心臓から全身に血液を送る動脈と、全身から心臓へ血液を戻す静脈があります。

動脈は勢いが強すぎて針を刺すのには向かず、静脈は勢いが弱すぎて十分な血液量を確保できないので、手術で動脈と静脈をつなぎ合わせ、静脈に動脈の勢いのある血液を直接流し込むようにします。

こうして太く発達させた静脈を内シャントと呼び、最も一般的なバスキュラーアクセスとして利用します。十分な血流量を確保し、太い針を刺すことができる丈夫な血管を作ることが、安全で効果的な透析治療を行うための前提条件です。

トラブルが発生すると何が問題なのか

バスキュラーアクセスにトラブルが起きると、まず透析中に十分な血液を取り出せなくなります(血流低下)。

血流が低下すると、予定していた量の血液を浄化できなくなり透析不足の状態に陥り、透析不足が続けば、尿毒素が体に蓄積して食欲不振やだるさが出たり、余分な水分が抜けきらずに心臓に負担がかかり心不全のリスクが高まったりします。

また、シャントが完全に詰まってしまう閉塞が起きると、緊急でカテーテルを挿入したり、再手術が必要になったりするなど、患者さんの体にとって大きな負担です。

さらに、感染を起こした場合は、細菌が血液に乗って全身に回り、敗血症という重篤な状態を引き起こす危険性もあります。

バスキュラーアクセスのトラブル

バスキュラーアクセスのトラブルには様々な種類がありますが、大きく分けると血管の形や流れに問題が生じる形態的な異常と、細菌などが原因となる感染症の二つに分類できます。

どちらも早期発見が重要であり、放置すると重症化してバスキュラーアクセス自体が使えなくなってしまうこともあります。

主なトラブルの種類と概要

トラブルの種類概要主な症状
狭窄(きょうさく)血管の内側が狭くなり、血液の流れが悪くなる状態シャント音が変化する(高音になる)、血流低下、静脈圧上昇
閉塞(へいそく)血管が完全に詰まり、血液が流れなくなった状態シャント音が聞こえない、スリル(振動)が触れない、血管が硬くなる
感染針を刺す場所などから細菌が入り、炎症を起こす状態発赤、腫れ、痛み、熱感、排膿、発熱
動脈瘤・静脈瘤血管の壁が薄くなり、こぶのように膨らんだ状態血管が部分的に大きく膨らむ、拍動が強い、皮膚が薄くなる
スチール症候群シャントに血液が取られすぎ、指先への血流が不足する状態指先の冷感、しびれ、痛み、チアノーゼ(紫色になる)

バスキュラーアクセスの種類と特徴

一口にバスキュラーアクセスにはいくつかの種類があり、患者さんの血管の状態や心臓の機能、年齢などを考慮して最適な方法が選択されます。それぞれの種類によって、起きやすいトラブルの傾向や管理のポイントも少しずつ異なります。

自己血管内シャント(AVF)

最も標準的で、第一選択となるのが自己血管内シャント(AVF)です。

自分の手首や腕の動脈と静脈を直接つなぎ合わせる手術で作り、自分の血管を使うため、異物を体に入れる方法と比べて感染のリスクが低く、一度きれいに発達すれば長期間安定して使えることが多いという大きなメリットがあります。

ただし、血管が細い方や動脈硬化が進んでいる方では、手術が難しかったり、血管が十分に発達しなかったりすることもあります。また、針を刺すことができるようになるまで、手術後数週間から一ヶ月程度待つことが必要です。

人工血管内シャント(AVG)

ご自身の血管が細すぎたり、深すぎたりしてAVFを作るのが難しい場合に選択されるのが、人工血管内シャント(AVG)で、ポリウレタンやテフロンなどでできた人工のチューブを皮下に埋め込み、動脈と静脈の間をつなぐ方法です。

AVFに比べて手術後比較的早期に使い始めることができ、穿刺もしやすいという利点がありますが、体にとっては異物であるため、AVFよりも細菌感染のリスクが高くなります。

また、人工血管の中で血液が固まりやすいため、狭窄や閉塞といったトラブルもAVFより起こりやすいです。

長期留置カテーテル

心臓の機能が悪くてシャント手術に耐えられない場合や、シャントトラブルで次のシャントができるまでのつなぎとして使われるのが長期留置カテーテルです。

首や鎖骨の下などの太い静脈から、心臓の近くまでカテーテル(管)を直接挿入して留置します。

手術が不要ですぐに透析を始められるのが利点ですが、皮膚から体外に管が出ている状態となるため、入浴に制限がかかるなど日常生活での不便さがあります。

また、カテーテルの出口部からの感染や、カテーテル内での血栓による閉塞のリスクが他の方法よりも高いため、慎重な管理が必要です。

各バスキュラーアクセスの特徴比較

種類メリットデメリット・注意点
自己血管内シャント(AVF)感染リスクが低い、開存期間(使える期間)が長い血管が発達するまで時間がかかる、血管の状態によっては作成困難
人工血管内シャント(AVG)早期に使用可能、穿刺が比較的容易感染リスクが高い、狭窄や閉塞が起きやすい
長期留置カテーテルすぐに使用可能、心負荷が少ない感染リスクが最も高い、血栓で詰まりやすい、入浴制限など

シャント不全の狭窄と閉塞の原因

バスキュラーアクセスのトラブルの中で最も多いのが、血管が狭くなる狭窄と、詰まってしまう閉塞で、シャント不全の主な原因となり、透析効率を低下させる大きな要因となります。

血管が狭くなるメカニズム

シャントを作成すると、静脈には今まで流れていなかった強い勢いの動脈血が流れ込み、血管の壁はこの強い圧力や速い血流による刺激を常に受け続けることになります。

この刺激に対する防御反応として、血管の内側の壁(内膜)が厚くなってくることがあり(内膜肥厚)、内膜が厚くなると、その分血液が流れるスペースが狭くなり、狭窄が起こります。

また、毎回同じ場所に針を刺し続けること(同一部位穿刺)で血管の壁が傷つき、修復過程で壁が厚くなって狭窄の原因となることもあります。

血栓が形成される要因

血液は本来、血管の中をスムーズに流れていますが、流れが滞ったり、血管の壁が傷ついたりすると、固まりやすくなる性質を持っていて、狭窄が進んで血流が遅くなると、その部分で血液がよどみ、血の塊(血栓)ができやすくなります。

また、脱水症状になると血液がドロドロになり、血栓形成のリスクが高まります。

さらに、透析後に針を抜いた後の止血時間が長すぎたり、圧迫が強すぎたりすると、シャント内の血流が長時間遮断されて血栓ができる原因となり、血栓が血管を完全に塞いでしまうと、閉塞に至り大変危険です。

狭窄・閉塞を起こす主なリスク因子

  • 血管への過度な圧力や血流による刺激
  • 同一部位への繰り返しの穿刺による血管損傷
  • 脱水による血液の濃縮
  • 低血圧による血流速度の低下
  • 過度な圧迫止血

狭窄と閉塞の違いと進行過程

狭窄は血管が細くなっている状態ですが、血液はまだ流れていています。

この段階では、シャントの音が通常より高く鋭い音に変化したり、透析中に静脈圧が高くなったりするサインが現れ、閉塞は血管が完全に詰まって血液が流れていない状態です。

シャントに触れても本来感じるはずの振動(スリル)がなくなり、耳を当てても音が聞こえなくなり、血管が硬い筋のように触れることもあります。

狭窄を放置すると、血流がさらに悪化して血栓ができやすくなり、最終的に閉塞へと進行してしまうことが多いです。

狭窄と閉塞の症状比較

項目狭窄(きょうさく)閉塞(へいそく)
血流の状態流れているが不十分完全に止まっている
シャント音高く鋭い音、短くなる聞こえない
スリル(振動)弱くなる触れない
血管の硬さ通常または一部硬い全体に硬い筋状になることがある

シャント感染症のリスクと原因

バスキュラーアクセスは体外と血管をつなぐ経路であるため、細菌が侵入するリスクと常に隣り合わせで、人工血管やカテーテルを使用している場合は注意が必要です。

細菌が侵入する主な経路

最も一般的な侵入経路は、透析の度に針を刺す穿刺部位です。皮膚には常在菌と呼ばれる細菌がたくさんあり、穿刺前の消毒が不十分だったり、穿刺部位を不潔な手で触ったりすると、針穴から細菌が血管内に入り込む可能性があります。

また、シャント肢(シャントがある側の腕)に怪我や湿疹、かゆみによる掻き傷などがあると、細菌の入り口になることもあり、人工血管の場合、自身の組織となじんでいない部分があると、細菌が付着して繁殖しやすいです。

カテーテルの場合は、皮膚から出ている出口部が不潔になると、そこから細菌が体内に侵入します。

感染を引き起こすリスク因子

患者さん側の要因として、免疫力が低下していると感染症にかかりやすくなり、透析患者さんはもともと免疫機能が低下しやすい傾向にありますが、糖尿病を合併している方や、高齢の方、栄養状態が悪い方はさらにリスクが高いです。

また、ご自身でシャント周囲を清潔に保つ管理が十分にできない場合も感染リスクが上がります。医療側の要因としては、穿刺時の無菌操作が不徹底な場合などが考えられますが、日本の透析施設では厳格な管理が行われています。

感染リスクを高める主な要因リスト

  • 穿刺部位やその周辺の不衛生な状態
  • シャント肢の皮膚の傷、湿疹、かゆみ
  • 糖尿病の合併による易感染性
  • 高齢や低栄養による免疫力の低下
  • 人工血管やカテーテルの使用

感染のサインと重症化の危険性

感染の初期サインは、穿刺部位やシャント周辺の皮膚の赤み(発赤)、腫れ(腫脹)、熱感、そして痛みです。進行すると、針穴から膿が出たり、シャント血管に沿って赤い筋が見えたりすることもあります。

さらに細菌が血管内に入り込んで全身に回ると、悪寒を伴う高熱が出たり、関節痛が現れたりし、敗血症と呼ばれる状態で、血圧低下や多臓器不全を引き起こし、命に関わる非常に危険な状態です。

人工血管感染の場合、感染した人工血管を除去しなければならないことも多く、新たなバスキュラーアクセスの確保が難しくなるという大きな問題も生じます。

感染の段階と主な症状・対応

感染の段階主な症状対応の目安
局所感染(初期)穿刺部の赤み、軽い痛み、熱感局所の消毒、抗生物質の塗り薬や飲み薬。早めに受診。
局所感染(進行)強い腫れ、強い痛み、排膿、周囲への広がり抗生物質の点滴治療、切開排膿が必要な場合も。直ちに受診。
全身感染(敗血症)悪寒、高熱、全身倦怠感、血圧低下入院による集中的な治療が必要。緊急受診、救急搬送。

見逃してはいけない危険なサイン

バスキュラーアクセスのトラブルは、ある日突然起こることもありますが、多くはその前に何らかの予兆やサインが現れます。サインをいち早くキャッチすることで、トラブルが深刻化する前に対処することが可能になります。

日常生活で注意すべき自覚症状

普段の生活の中で、「いつもと違う」と感じることがあれば、トラブルのサインかもしれません。

シャント側の腕が全体的に腫れぼったく感じたり、腕を上げると腫れが引くが下ろすとすぐに腫れてきたりする場合は、静脈の流れが悪くなっていることがあります。

また、透析中に警報が頻繁に鳴って血流量が確保できなかったり、止血にいつもより時間がかかったりするのも、血管が狭くなっているサインの可能性があります。

指先の冷えやしびれ、色が悪いといった症状は、スチール症候群の疑いがあり、痛みや熱感は感染の初期症状かもしれません。

主な自覚症状とチェックポイント

気になる症状考えられる原因チェックポイント
腕の腫れ、むくみ中枢側の静脈狭窄・閉塞、感染腕を上げ下げして変化を見る、熱感や赤みがないか確認
透析中の血流低下アラームシャント狭窄、脱水、血圧低下シャント音を確認、体重の増え幅を確認
止血困難、時間がかかる血管の内圧上昇(狭窄)、抗凝固薬の影響止血方法の再確認、医療スタッフへ相談
指先の冷感、しびれ、変色スチール症候群左右の手の温度差や色を比較する

シャントの見た目と触り心地の変化

目で見て、手で触れて確認することも重要で、シャント血管が以前よりコブのように大きく膨らんできた場合は、動脈瘤や静脈瘤ができていることがあります。

皮膚が薄くなって光沢が出てきたり、かさぶたがなかなか治らなかったりする場所は要注意です。また、血管が硬い筋のように触れる場合は、閉塞や石灰化が進んでいるかもしれません。

穿刺部位の周りが赤くなっていたり、じくじくしていたりしないかも確認しましょう。

シャント音とスリルの異常

最も重要なチェックポイントは、シャント音(聴診)とスリル(触診による振動)です。正常なシャントは、「ゴーゴー」「ザーザー」という低く連続した力強い音が聞こえ、血管に軽く触れると「ざわざわ」「ビリビリ」とした振動を感じます。

狭窄してくると、音が「ヒューヒュー」「キーン」といった高く鋭い音に変化したり、音が聞こえる時間が短くなったりし、スリルは弱く感じるようになります。完全に閉塞すると、音もスリルも全くなくなります。

毎日決まった時間に確認し、変化があれば記録してください。

スチール症候群による末梢循環不全

スチール症候群は、シャントに大量の血液が流れることで、その先の指先へ行くはずの血液が奪われてしまう(スチール=盗む)現象で、動脈硬化が進んでいる高齢者や糖尿病患者さんに多いです。

症状が軽度であれば手の冷感やしびれ程度ですが、重症化すると指先が紫色に変色し(チアノーゼ)、激しい痛みを伴い、最悪の場合は指先の組織が壊死してしまうこともあり、透析中に症状が悪化する傾向があります。

スチール症候群の主な症状

  • シャント側の手の指先が冷たい
  • 指先がしびれる、感覚が鈍い
  • 透析中や寒い時に指先が白や紫色に変色する
  • 指先に安静時でも強い痛みがある
  • 指先に小さな傷ができても治りにくい

毎日の自己管理とケア方法

バスキュラーアクセスを長持ちさせるためには、医療者による管理だけでなく、患者さん自身による日々のケアが不可欠です。ちょっとした心がけや習慣が、大きなトラブルを防ぐことにつながります。

シャント肢(シャントがある腕)の保護

シャントがある腕は、普通の腕よりもデリケートです。

強い力や圧迫が加わると、血管が傷ついたり、血流が一時的に止まって血栓ができる原因になったりするので、日常生活では、シャント腕で重い荷物を持ったり、腕枕をしたりすることは避けましょう。

腕時計やアクセサリー、袖口のきつい服なども、血管を締め付ける可能性があるので注意が必要です。血圧測定は、原則としてシャントのない方の腕で行います。

また、怪我をしないように注意し、もし怪我をした場合は速やかに適切な処置を行い、感染を防ぐことが重要になります。

日常生活での主な禁止・注意事項

項目理由具体的な対策
重い荷物を持つ血管に過度な負担がかかる買い物袋などは反対の手で持つか、カートを利用する
腕枕、長時間の圧迫血流が遮断され血栓の原因になる寝る時の姿勢に注意する、うつ伏せ寝を避ける
腕時計、きつい服血管を締め付け血流を妨げるシャント側に腕時計をしない、ゆとりのある袖の服を選ぶ
シャント側での血圧測定強い圧迫が加わる反対側の腕で測定する習慣をつける
腕をぶつける、怪我血管損傷や感染の入り口になる長袖で保護する、作業時は注意する

清潔保持とスキンケアの重要性

感染予防の基本は清潔を保つことで、透析前には必ずシャント肢を石鹸と流水できれいに洗いましょう。特に穿刺予定部位の周りは念入りに洗い、ご自宅でも入浴時などに優しく洗い、清潔を保つ習慣をつけます。

また、皮膚が乾燥しているとバリア機能が低下して細菌が入りやすくなるため、保湿クリームなどでスキンケアを行い、皮膚を健やかな状態に保つことも大切です。

かゆみがあって掻きむしってしまうと傷ができるので、かゆみが強い場合は医師に相談してかゆみ止めを処方してもらうなどの対策をとりましょう。

適切な止血方法の再確認

透析終了後の止血操作も、シャント管理の重要なポイントです。止血時間が短すぎたり圧迫が弱すぎたりすると再出血の原因になりますが、強すぎる圧迫や長時間の圧迫は、血管内の血流を止めてしまい、血栓形成による閉塞のリスクを高めます。

指で押さえる場合は、血が止まるギリギリの強さで、スリル(振動)が指に伝わってくる程度の強さが適切です。

止血ベルトを使用する場合も、きつく締めすぎないように注意し、医師や看護師から指示された適切な時間を守って外してください。

毎日のチェック習慣をつけよう

トラブルの早期発見には、毎日のセルフチェックが欠かせません。朝起きた時や寝る前など、時間を決めてシャントの状態を確認する習慣をつけましょう。

自己管理チェックポイント(聴診と触診)

  • 見て確認(視診): 赤み、腫れ、傷、血管のコブ、皮膚の異常などがないか。
  • 触って確認(触診): 穿刺部位の熱感や痛みがないか。血管の上に指を軽く当てて「ザワザワ」というスリル(振動)があるか。血管が硬くなっていないか。
  • 聴いて確認(聴診): シャント血管に耳を直接当てるか、聴診器を使って音を聞く。「ゴーゴー」という連続した音が聞こえるか。音が以前より高くなったり短くなったりしていないか。

チェックで少しでも「おかしいな」と感じたら、次回の透析を待たずに、すぐに通院している施設に連絡して相談してください。早期対応がシャントの寿命を延ばします。

トラブル時に医療機関で行う検査と治療法

日頃の管理を行っていても、トラブルが起きてしまうことはあり、その際は、医療機関で専門的な検査を行い、原因と状態を正確に把握した上で、治療を行う必要があります。ここでは、主な検査方法と代表的な治療法について解説します。

バスキュラーアクセスの状態を調べる検査

シャントの異常が疑われる場合、まずは患者さんのベッドサイドで聴診や触診を行いますが、より詳しく状態を評価するために画像検査などが行われます。

主な検査方法と目的

検査方法内容と目的
超音波検査(エコー)体表から超音波を当て、血管の太さ、血流の速さ、血流量、狭窄や血栓の有無などを痛みなくリアルタイムで観察します。スクリーニングや定期検査に広く用いられます。
血管造影検査(アンギオ)血管内にカテーテルを入れ、造影剤を流してレントゲン撮影します。血管の走行や狭窄部位の形状を最も鮮明に映し出すことができ、確定診断や治療方針の決定に用いられます。
CT血管造影(CTA)造影剤を点滴しながらCTを撮影し、血管を立体的に画像化します。血管造影検査より低侵襲で、周囲の組織との位置関係なども把握できます。

血管を内側から広げるカテーテル治療(VAIVT/PTA)

狭窄や閉塞に対する第一選択の治療法として広く行われているのが、カテーテルを用いた血管内治療で、VAIVT(経皮的シャント拡張術)やPTA(経皮的血管形成術)と呼ばれます。

局所麻酔を行い、腕の血管から細い管(カテーテル)を挿入し、カテーテルの先端についた風船(バルーン)を狭くなっている場所まで進め、そこで風船を膨らませることで、血管を内側から押し広げます。

完全に詰まっている場合は、血栓を吸引したり溶かしたりする治療を併用することもあります。手術と比べて体への負担が少なく、治療時間も短いため、日帰りや短期間の入院で行うことが可能です。

PTA治療の大まかな流れ

  • 局所麻酔を行い、血管にカテーテルを挿入するための短い管(シース)を留置します。
  • ガイドワイヤーと呼ばれる細い針金を狭窄部位を通して進めます。
  • ガイドワイヤーに沿ってバルーンカテーテルを狭窄部位まで進めます。
  • 造影剤を使って位置を確認しながら、バルーンを数回膨らませて血管を広げます。
  • 造影検査で十分に広がったことを確認し、カテーテルを抜いて止血します。

外科手術による修復や再建

PTA治療が困難な場合や、PTAを繰り返してもすぐに狭窄してしまうような場合には、外科手術が必要です。狭くなっている部分の血管を切除してつなぎ直したり、別の静脈や人工血管を使ってバイパス(迂回路)を作ったりします。

動脈瘤が大きくなって破裂の危険がある場合なども手術の対象で、感染がひどい人工血管の場合は、感染した人工血管を全て取り除く手術が必要です。

PTAと外科手術の特徴比較

治療法メリットデメリット
カテーテル治療(PTA)低侵襲で体への負担が少ない、繰り返し行える、治療後すぐに使える再狭窄が起こりやすい、血管が硬すぎると広がらないことがある
外科手術根本的な修復が可能、PTA困難例にも対応できる体への負担が大きい、傷が残る、使えるようになるまで時間がかかることがある

感染症に対する治療アプローチ

感染症が疑われる場合は、まず血液検査や膿の培養検査を行い、原因となっている細菌を特定し、治療は、その細菌に効果のある抗生物質を点滴や内服で使用するのが基本です。初期の軽い感染であれば薬だけで治ることもあります。

よくある質問(FAQ)

シャントが詰まってしまったら、もう透析はできないのですか?

シャントが詰まっても、すぐに透析ができなくなるわけではありません。緊急の場合は、首などの太い静脈に一時的なカテーテルを挿入して透析を行うことができます。

その間に、詰まったシャントに対してカテーテル治療(PTA)で血栓を除去して再開通を試みたり、それが難しい場合は新たにシャントを作り直す手術を行ったりします。

シャントの音がいつもと違う気がしますが、次の透析日まで待っても大丈夫ですか?

自己判断せず、すぐに通院先の施設に電話で連絡し、指示を仰いでください。シャント音が普段より高い音(ヒューヒューなど)に変わったり、音が短くなったりするのは、血管が狭くなっているサインの可能性があります。

完全に音が聞こえなくなったら閉塞している可能性が高いです。閉塞してから時間が経つと、カテーテル治療で治すのが難しくなることがあります。

シャント側の腕で重いものを持ってはいけないのはなぜですか?

シャント側の腕で重い荷物を持つと、腕の筋肉に力が入って血管が圧迫されたり、荷物の重みで直接血管が圧迫されたりして、一時的に血流が悪くなることがあります。

また、過度な負荷がかかることで、血管が傷ついて狭窄や動脈瘤の原因になる可能性もあります。

シャントを長持ちさせるために、日常生活ではなるべくシャント側の腕に負担をかけないよう、反対側の腕を使ったり、カートなどを利用したりする工夫が大切です。

PTA(カテーテル治療)は痛いですか?何度も受けて大丈夫でしょうか?

PTA治療は局所麻酔を行ってからカテーテルを挿入するので、挿入時の痛みは軽減されます。ただし、狭くなっている血管をバルーンで広げる瞬間に、腕の奥の方に重苦しい痛みや鈍痛を感じることがあります。

痛みの感じ方には個人差がありますが、我慢できないほどの痛みではありません。PTAは体への負担が少ない治療法なので、狭窄が再発した場合には繰り返し受けることが可能です。

定期的なエコー検査などで狭窄を早期に見つけ、完全に詰まる前にPTAを行うことで、良い状態を維持しやすくなります。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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