人工腎臓は腎臓の機能を補う医療機器であり、慢性腎不全などに伴う透析治療において重要です。日本では糖尿病や高血圧などが進行して腎不全を引き起こす事例が少なくありません。
医師は人工腎臓を用いた治療によって体内の老廃物や余分な水分を排出し、患者さんの体調管理をサポートします。
本記事では人工腎臓とは何か、人工腎臓の種類や役割、治療過程で意識する点などを解説し、より理解を深められるように工夫しました。
人工腎臓とは何か
人工腎臓とは血液をろ過し、水分や老廃物を体外に排出するために活用する装置の総称です。腎臓機能が低下すると、老廃物の排泄や電解質のバランス維持が困難になります。
その状態が続くと体内に余分な水分や毒素が蓄積し、命にかかわる合併症を誘発しかねません。医師は人工腎臓を使う透析治療を行い、こうしたリスクを軽減させます。
人工腎臓の基本原理
医師は人工腎臓を利用するとき、患者さんの血液を体外へ導き、中にある老廃物や余分な水分を分離させます。ろ過した血液を再び体内に戻すことで、腎臓が十分に機能しない場合でも体内環境を整えます。
主に拡散や濾過と呼ばれる物理的な原理を使い、血液中の成分を調整する仕組みが特徴です。
身体への負担を減らす工夫
患者さんの安全を守るために、医療スタッフは血圧や脈拍などをこまめに確認しながら透析を進めます。医師は透析の頻度や時間を調整し、患者さんの体調を総合的に管理します。
血管アクセスの種類や透析用の装置の微調整によって、治療中の負担を最小限に抑えられるように努めます。
透析と日常生活
人工腎臓を活用する場合、生活のしかたに制限がかかるイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、医師や看護師と相談を重ねることで仕事や家事、趣味などと両立する道を選ぶ人がいます。
定期的な透析スケジュールを組む上で、治療と生活とのバランスを保つ意識が大切です。
血液浄化の重要性
体にたまる毒素や老廃物を排出する機能は生命維持に欠かせません。腎臓が持つフィルター機能を補うために開発された人工腎臓は、多くの患者さんのQOL(生活の質)を向上させる手段として医療現場で広く用いられています。
人工腎臓の主な働きと目的一覧
働き | 目的 |
---|---|
血液のろ過 | 老廃物や余分な水分の除去を可能にする |
電解質バランス | ナトリウム、カリウムなどの濃度を調整する |
pH調整 | 血液の酸性・アルカリ性を一定に保つ |
水分量管理 | 心不全リスクやむくみを抑え、循環を助ける |
透析治療が必要となる仕組み
腎臓の機能が大幅に低下すると、血液をうまくろ過できなくなります。その結果として生じる尿量の減少や体内毒素の蓄積などを放置すると、全身状態が悪化しやすくなります。
こうしたリスクを回避するために、医師は人工腎臓を用いた透析治療を提案します。
腎臓機能低下の原因
人によって原因はさまざまですが、糖尿病性腎症や高血圧性腎硬化症、慢性糸球体腎炎などが代表的な疾患です。早期発見と早期治療を怠ると、慢性腎不全へ進行して透析治療が必要になるケースが増えます。
腎臓に負担がかかる飲食やライフスタイルも、機能低下を加速させる要因のひとつです。
血液中に蓄積する老廃物
腎不全が進行すると、尿素やクレアチニンなどの老廃物が血液中にたまりやすくなります。尿の量が減り、体内の老廃物濃度が高いまま維持されるために倦怠感や食欲不振、吐き気などを引き起こす可能性があります。
医師は透析スケジュールを組み、こうした症状を軽減する道を選択します。
食事と生活習慣の影響
食塩やタンパク質の過剰摂取、喫煙や飲酒習慣などが腎機能低下を助長する一因になります。腎臓の状態に応じて、医師や管理栄養士は食事療法を指導します。
たとえば、塩分を控えめにし、タンパク質やカリウムの摂取量を調整することが推奨される場合があります。
自覚症状の乏しさと検査の重要性
腎不全は自覚症状が出にくいことが特徴です。定期検診や血液検査、尿検査などを通じて異常が早期に判明する場合もあります。積極的に健康診断を受け、異変があれば医師に相談する姿勢が大切です。
腎機能低下の主な原因とリスク要素
原因 | リスク増大の要因 |
---|---|
糖尿病性腎症 | 血糖コントロール不良 |
高血圧性腎硬化症 | 血圧管理が不十分 |
慢性糸球体腎炎 | 免疫反応や遺伝的素因 |
その他の慢性腎臓病(CKD) | 食生活や薬剤性腎障害、喫煙などの習慣 |
人工腎臓の種類と特徴
人工腎臓種類にはいくつかの方式や装置が存在します。それぞれの方式には特徴があり、患者さんの腎機能や生活スタイル、合併症の有無などによって医師が適切な治療法を選びます。
大きく分けると血液透析と腹膜透析が代表的な方法です。
血液透析の概要
血液透析は、シャントやカテーテルなどを使って血管にアクセスし、専用の人工腎臓装置を用いて血液をろ過する方法です。週に複数回、医療機関の透析室で行うケースが一般的ですが、自宅に装置を導入して在宅透析を行う人も存在します。
血液透析は短時間で効果を得やすい点がメリットです。
腹膜透析の概要
腹膜透析はお腹の中にある腹膜をフィルター代わりに使います。腹腔内に透析液を入れて一定時間経過後、老廃物を含んだ透析液を体外へ排出する手順を繰り返します。
透析液の交換を自宅や職場などで実施することができるため、通院の頻度を減らしやすい利点があります。一方で、腹膜炎などのリスクにも注意が必要です。
装置の進歩と多様化
人工腎臓の装置は透析効率や安全性を向上させる方向で設計されています。医師は患者さんの血圧や体重変化などを参照しながら、治療パラメータを調整します。
技術の進歩によって装置がコンパクトになり、在宅での導入や災害時の非常用としての利用を検討する方も増えてきました。
生活スタイルとの調和
血液透析か腹膜透析かを選ぶ際には、仕事や家庭の事情、通院のしやすさなどを考慮します。医師や看護師、ソーシャルワーカーが連携し、患者さんが希望する生活スタイルをできるかぎり尊重します。
血液透析と腹膜透析の主な特徴
項目 | 血液透析 | 腹膜透析 |
---|---|---|
フィルター | 人工腎臓(ダイアライザ) | 本人の腹膜 |
実施場所 | 病院・透析クリニック・在宅など | 主に自宅や職場 |
頻度 | 週3回程度(1回4時間前後が目安) | 1日数回の透析液交換や夜間自動装置 |
特徴 | 短時間で効果を得やすい | 通院回数が比較的少なめ |
透析治療の流れと準備
医師は患者さんに合わせて透析プランを立て、最初に治療目標や注意点を説明します。腎臓機能がどれほど低下しているか、合併症があるかどうか、日常生活で何を優先したいかなどを総合的に評価します。
前検査と治療スケジュールの調整
血液検査や超音波検査、レントゲンなどを実施して血管の状態や臓器の状態を確認します。血管アクセスを作る手術を行う場合は、シャントの作成やカテーテル挿入が必要です。
術後はしばらく安静が必要なため、医師とスケジュールを慎重に調整していきます。
実際の透析手順
血液透析の場合、透析室のベッドで横になった状態で治療を行います。看護師はまず血圧や体重をチェックし、透析中に異常が起きないようにモニタリングします。
患者さんは雑誌や本を読んだり、テレビを見たりしながら数時間過ごしますが、途中で体調不良を感じた場合はすぐに看護師へ伝えるようにします。
治療後の対応
治療後は再度血圧や体重を測定して、除去した水分量や状態の変化を把握します。次回の透析までの間に飲水量や食事内容を調整することで、体重増加を抑えて循環機能を保ちやすくします。
医師は検査データを照らし合わせて治療方針を微調整し、次の透析時に再度評価を行います。
定期的な検査の必要性
毎回の透析で一定の老廃物を取り除けたとしても、腎機能の残存状態や他の臓器への影響を確認しなければいけません。
医師は定期的に血液検査や心エコー検査などを行い、合併症の早期発見に努めます。治療の継続は患者さんの生活の質を保つうえで大切な要素となります。
血液透析の主な手順
手順 | 内容 |
---|---|
準備 | 血圧・体重測定、血管アクセスの確認 |
透析開始 | 透析装置へ血液を循環させながらろ過を行う |
治療中モニタリング | 看護師が血圧・脈拍などを監視し異常を早期に発見 |
透析終了 | 血液を体内に戻し、必要に応じて止血を実施 |
終了後の評価 | 血圧・体重測定の再確認、次回までの飲水・食事管理を指導 |
- 医師はシャント部の状態を検査し、感染や血管トラブルのリスクを最小限に抑えます。
- 看護師は循環や血圧の変化に注意を払い、救急処置が必要な場面に備えます。
- 患者さんは体調変化を感じたらすぐスタッフに知らせ、急激な血圧低下や体調不良を招かないよう気をつけます。
透析治療における合併症と対策
透析治療を受ける過程では、合併症やトラブルが起こる可能性を否定できません。血液透析も腹膜透析も、特有の注意点や管理のコツがあります。
治療に伴う負担を減らすためには、患者さん自身が透析のメカニズムをある程度理解しておくことが大切です。
透析導入初期の注意点
治療を始めたばかりの段階で血圧の変動や不安定感を感じる方がいます。医師は血液ろ過の速度や除水量を調整し、極端な循環不全を起こさないよう配慮します。
また、体外循環によるアレルギー反応が現れる場合もあり、症状に気づいたら早めに医師に相談することが求められます。
血管アクセスに関連するリスク
血管アクセスとして作成したシャント部には血栓や感染リスクが伴います。きれいに洗浄し、過度の圧迫を避けるなどの日常ケアが必要です。シャント部付近の違和感や発赤、腫れなどを感じた際は、なるべく早く医療スタッフに報告します。
腹膜透析に特有の合併症
腹膜透析の場合、カテーテル周囲の感染や腹膜炎のリスクを考慮する必要があります。自宅で透析液を交換するときに清潔操作を徹底し、交換手順を正しく守ることが重要です。
腹膜炎が疑われる症状として、腹痛、発熱、透析液の混濁などが挙げられます。
栄養管理と電解質異常
透析治療中はカリウムやリン、ナトリウムなどの電解質異常を起こしやすいです。管理栄養士の指導を参考にした食事制限や内服薬によるフォローが欠かせません。
筋力の低下を防ぐために、適切な運動習慣を取り入れることも提案される場合があります。
透析治療に伴いやすい合併症と対策
合併症 | 原因 | 主な対策 |
---|---|---|
低血圧 | 急激な除水や脱水 | 除水ペースの調整、十分な水分補給 |
感染症(シャント・カテーテル) | 傷口の不潔や清潔操作の不徹底 | 手洗いの徹底、医師による定期的な状態確認 |
血栓形成 | 血液凝固亢進、アクセス部の狭窄など | 抗凝固薬の投与、定期検査 |
腹膜炎(腹膜透析の場合) | カテーテル周囲の感染、不適切な管理 | 交換手順の遵守、疑わしい時の早期受診 |
カリウム・リンの過剰 | 不適切な食事や電解質管理の不十分 | 食事療法、薬物治療、定期検査によるモニタリング |
日常生活で気をつけるポイント
透析は医療行為ですが、日常生活と無縁ではありません。むしろ安定した生活習慣が、透析効果をより高めるカギになります。食事や運動、睡眠リズムなどで気をつける点を意識すると、身体的負担を軽減できる可能性があります。
食事管理
腎機能が低下している場合、たとえばリンやカリウム、塩分の制限が必要なことがあります。管理栄養士や医師は患者さんの血液検査結果を踏まえながら、具体的な食品や調理法についてアドバイスを行います。
野菜をゆでこぼしてカリウム量を減らすなどの調理方法の工夫も有効です。
水分コントロール
過剰な水分摂取は心不全や血圧低下を誘発しやすく、過度な水分制限は脱水につながるリスクがあります。医師は透析で除去できる水分量と患者さんの身体状態を考慮しながら、1日あたりの飲水量を提案します。
運動とリハビリ
運動習慣を取り入れると、血行促進や筋力維持に役立ちます。過度な負荷は避けながら、医療スタッフの指示に従って軽いウォーキングや自転車こぎなどを行うと良いでしょう。
適度な運動は疲労感の軽減にもつながり、心肺機能をサポートします。
仕事や社会活動
透析の頻度や時間帯を調整しながら仕事を続ける人は多くいます。職場に理解を求めることも必要ですし、必要に応じて就業時間を見直す選択をするケースもあります。
社会保険や福祉制度を活用しながら、透析と仕事を両立する道を医療ソーシャルワーカーと相談する人もいます。
生活習慣の工夫
項目 | 注意点 |
---|---|
食事 | リン・カリウム・塩分などをコントロール |
水分管理 | 過剰摂取や脱水を避けるバランスが大切 |
運動 | 医師と相談しながら軽い負荷の運動を継続 |
仕事と両立 | 通院日や治療時間を考慮して勤務形態を検討 |
- 塩分や水分を制限する際は、特に夏場の体調変化に気を配ります。
- 血圧の変動が大きい場合、医師と相談して薬や運動メニューを調整すると良いでしょう。
- 通院や在宅透析の導入など、自分の生活リズムに合った方法を検討して継続することが大切です。
透析費用と保険制度
透析治療は長期にわたる負担が想定されるため、経済的なサポートが欠かせません。日本には公的医療保険や各種助成制度が存在し、利用者の自己負担を軽減する仕組みがあります。
医療保険の利用
国民健康保険や社会保険などの公的医療保険に加入している場合、透析費用の多くは保険が適用されます。一定の自己負担はありますが、高額療養費制度を利用すると自己負担額の上限が設けられ、過度な経済負担を回避しやすくなります。
自己負担限度額と高額療養費
高額な医療を受けた場合でも、所得に応じた自己負担限度額を超えた分は支給される仕組みがあります。たとえば月額数万円程度を上限とし、それ以上の医療費は公的制度によって補填されることが多いです。
条件や手続き内容は個々の状況によって異なります。
透析に関連する福祉制度
腎臓機能の障害を抱える方は障害者手帳の取得が可能になる場合があります。障害年金や障害者控除などを利用すると、経済的負担をさらに軽減できるかもしれません。
ソーシャルワーカーや行政機関に相談して必要な書類を揃えるなどの手続きを行う人が多いです。
費用面での注意点
保険診療の枠組みの中で治療を受ける場合、入院や通院の頻度、使用する透析機材や処置内容によって費用が変動します。
透析に伴う交通費や在宅透析の準備費用など、治療そのもの以外にかかるコストもある点を考慮した上で、家計を見通しておくと安心です。
透析と保険・経済支援の関係
項目 | 内容 |
---|---|
公的医療保険 | 国民健康保険、社会保険などが該当 |
高額療養費制度 | 一定額以上の医療費負担を軽減する制度 |
障害者手帳・障害年金の取得 | 一定の認定基準を満たす場合に利用可能 |
その他の助成制度 | 各自治体の独自支援、難病指定など |
- 高額療養費を利用する際は手続きを怠らず、必要書類の提出を忘れないようにします。
- 就労している方は会社の福利厚生制度や休職制度などもあわせて検討します。
- 制度の変更や更新情報を確認し、常に最新の情報を把握することが大切です。
よくある質問
- 透析は一生続くのでしょうか?
-
慢性腎不全の段階で腎機能が著しく低下した場合、多くの方は長期的に透析が必要になります。ただし、腎移植の可能性を検討する人や、残存腎機能がある程度働く段階で一時的な透析を行う人もいます。
担当医と相談しながら将来的な治療方針を考えると安心です。
- 透析中の痛みや違和感はありますか?
-
血液透析の穿刺時に痛みを感じることがあります。透析自体は血圧の変動や軽いだるさを伴う場合があるものの、強い痛みを訴えるケースは多くありません。
腹膜透析ではカテーテルの挿入口まわりのトラブルが起きる可能性がありますが、医療スタッフから適切な管理方法を学ぶと予防しやすくなります。
- 腹膜透析と血液透析はどちらが優れているのでしょうか?
-
血液透析と腹膜透析はそれぞれ利点と注意点が異なります。通院頻度の違いや合併症リスク、生活スタイルへの適合度などを考慮しながら、患者さんと医療スタッフが話し合って選択します。
どちらが一方的に良いとは言い切れず、個々の状況に合わせて決定することが重要です。
- 自宅での透析は可能ですか?
-
機器の導入や住宅環境の整備が整えば、在宅血液透析や腹膜透析を実施する方も増えています。ただし、緊急時の対応や機器の準備、家族のサポートなどが必要です。
負担と利点を検討したうえで医師と相談し、実施可能かを検討する人がいます。
以上
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