お酒の過剰摂取による人工透析のリスクについて

お酒の過剰摂取による人工透析のリスクについて

お酒は適量であれば、気分転換や人間関係を円滑にする側面もあります。しかし、過剰な飲酒は体に様々な悪影響を及ぼし、特に腎臓への負担は無視できません。

腎臓の機能が著しく低下すると、最終的には人工透析が必要になる可能性があります。

この記事では、お酒の飲み過ぎがなぜ人工透析の原因となり得るのか、その関係性や腎臓への影響、そして腎臓を守るための注意点について詳しく解説します。ご自身の飲酒習慣を見直し、健康な生活を送るための一助としてください。

目次

お酒と腎臓の基本的な関係

腎臓は私たちの体にとって重要な臓器です。お酒、特にアルコールが腎臓にどのような影響を与えるのかを理解することは、健康維持のために大切です。

腎臓の役割とは

腎臓は、血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として体外に排出する役割を担っています。

また、血圧の調整、赤血球を作るホルモンの分泌、体液のミネラルバランスの維持など、生命維持に欠かせない多くの働きをしています。

腎臓の主な機能

機能内容重要性
老廃物の排出血液中の不要物を尿として排出体内環境の浄化
水分・電解質調整体液量やミネラルバランスを維持むくみ防止、血圧安定
ホルモン分泌血圧調整、造血、骨代謝に関与全身の健康維持

アルコールが腎臓に与える直接的な影響

アルコールは肝臓で分解されますが、その過程やアルコール自体が腎臓にも影響を与えます。

利尿作用によって脱水状態を引き起こしやすく、腎臓への血流量が変化することもあります。また、炎症反応を引き起こす可能性も指摘されています。

適量なら問題ない?アルコールの適正量

厚生労働省が示す「節度ある適度な飲酒」は、1日平均純アルコールで約20g程度です。しかし、これはあくまで目安であり、個人の体質や健康状態によって適量は異なります。

腎臓に不安がある場合は、より少ない量に留めるか、飲酒を控えることが賢明です。

純アルコール20gの目安

お酒の種類度数(目安)量(目安)
ビール(中瓶)5%1本 (500ml)
日本酒15%1合 (180ml)
ワイン12%グラス2杯弱 (200ml)

長期的な飲酒がもたらす腎機能低下

長期間にわたって過剰な飲酒を続けると、腎臓への負担が蓄積し、徐々に腎機能が低下していく可能性があります。

特に、アルコール性肝疾患が進行すると、それに伴って腎臓の機能も悪化することがあります(肝腎症候群)。

アルコール性腎障害とは何か

アルコールの過剰摂取が直接的、あるいは間接的に腎臓にダメージを与え、機能障害を引き起こす状態を指します。

明確な定義は確立していませんが、飲酒が腎臓病の発症や進行に関与するケースは少なくありません。

アルコールが引き起こす腎臓の病気

過剰な飲酒は、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病のリスクを高めます。これらの病気は、慢性腎臓病(CKD)の主要な原因となります。

つまり、アルコールは間接的に腎臓病を引き起こす大きな要因となり得るのです。

また、まれにIgA腎症などの特定の腎臓病を悪化させる可能性も指摘されています。

初期症状と進行

アルコールによる腎障害の初期には、自覚症状がほとんど現れません。進行すると、むくみ、尿の異常(泡立ち、血尿)、倦怠感などが見られるようになります。

しかし、これらの症状が出たときにはすでに腎機能がかなり低下している可能性があります。

注意すべき初期のサイン

  • 足や顔のむくみ
  • 尿の泡立ちが消えにくい
  • 夜間の頻尿
  • 体がだるい、疲れやすい

他の生活習慣病との関連

アルコールの飲み過ぎは、高血圧、糖尿病、高尿酸血症(痛風の原因)などのリスクを高めます。これらの生活習慣病は、それぞれが腎臓に負担をかけ、腎機能低下を促進します。

複数の病気を合併している場合、腎臓へのダメージはさらに大きくなります。

アルコールと関連する生活習慣病

生活習慣病アルコールとの関連腎臓への影響
高血圧飲酒量に比例してリスク上昇腎臓の血管を傷つけ、機能を低下させる
糖尿病過剰な飲酒は血糖コントロールを乱す高血糖が腎臓のフィルター機能を破壊する
脂質異常症中性脂肪の上昇などに関与動脈硬化を促進し、腎血流を悪化させる

診断方法について

腎機能の評価には、主に血液検査(クレアチニン値、eGFR)と尿検査(尿蛋白、尿潜血)を行います。

これらの検査結果と飲酒歴や他の病気の有無などを総合的に判断して、アルコールが腎機能に与える影響を評価します。

過剰な飲酒が人工透析の原因となる理由

お酒の飲み過ぎが、なぜ最終的に人工透析につながるのでしょうか。それは、アルコールが腎臓の機能を徐々に、しかし確実に蝕んでいくからです。

腎機能の著しい低下と老廃物の蓄積

腎臓の主な役割は、血液中の老廃物をろ過し、尿として排出することです。過剰な飲酒などにより腎機能が著しく低下すると、このろ過能力が追いつかなくなります。

体内に老廃物や毒素が溜まり、尿毒症と呼ばれる危険な状態になります。

この段階になると、人工透析によって血液を浄化する必要が生じます。

高血圧や糖尿病への影響

前述の通り、過剰な飲酒は高血圧や糖尿病のリスクを高めます。

高血圧は腎臓の細い血管に常に高い圧力をかけ、血管を傷つけます。糖尿病は高血糖状態が続くことで、腎臓のフィルター(糸球体)を破壊します。

これらは透析導入の二大原因であり、飲酒がこれらの病気を悪化させることで、結果的に人工透析の原因となるケースが多く見られます。

透析導入の主な原因疾患(2021年末)

順位原因疾患割合
1位糖尿病性腎症約40%
2位慢性糸球体腎炎約25%
3位腎硬化症(高血圧性)約15%

※日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況」より。割合は大まかな数値。

脱水症状と腎臓への負担

アルコールには強い利尿作用があります。飲酒によって体内の水分が失われると、血液が濃縮され、腎臓への血流量が低下することがあります。

これにより、腎臓に負担がかかり、急性腎障害を引き起こすリスクが高まります。特に大量飲酒後の脱水は危険です。

慢性腎臓病(CKD)への進行リスク

高血圧、糖尿病、脱水、直接的な腎毒性など、アルコールに関連する様々な要因が複合的に作用し、慢性腎臓病(CKD)の発症・進行を促します。

CKDが進行し末期腎不全に至ると、生命維持のために人工透析や腎移植が必要になります。飲酒習慣は、このCKD進行のリスク因子の一つと考えられています。

人工透析が必要になる前のサイン

腎機能は、ある程度低下するまで自覚症状が現れにくいのが特徴です。「沈黙の臓器」とも呼ばれます。

しかし、注意深く観察すれば、人工透析が必要になる前にいくつかのサインに気づくことができます。

注意すべき体の変化

以下のような変化が見られたら、腎機能が低下している可能性があります。早めに医療機関を受診することが重要です。

腎機能低下の可能性がある症状

  • むくみ(特に足、まぶた)
  • 尿の変化(量が多い・少ない、色が濃い、泡立つ、血が混じる)
  • 貧血(めまい、立ちくらみ、動悸)
  • 倦怠感、疲れやすさ
  • 食欲不振、吐き気
  • 血圧の上昇

定期的な検査の重要性

自覚症状がない段階でも、腎機能は低下していることがあります。

特に、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病がある方、家族に腎臓病の方がいる方、そして日常的に飲酒量が多い方は、定期的に腎臓の検査を受けることが大切です。

尿検査や血液検査でわかること

健康診断などで行われる尿検査や血液検査は、腎機能の状態を知るための重要な手がかりとなります。

主な腎機能検査項目

検査種類項目何がわかるか
尿検査尿蛋白腎臓のフィルター機能の障害
尿潜血腎臓や尿路からの出血
血液検査血清クレアチニン(Cr)腎臓の老廃物排泄能力(高いと機能低下)
eGFR(推算糸球体ろ過量)腎臓がどれだけ効率よく血液をろ過できているか(低いと機能低下)

早期発見・早期治療のメリット

腎機能の低下を早期に発見できれば、原因に対する治療や生活習慣の改善(減塩、禁煙、節酒など)によって、進行を遅らせることが可能です。

人工透析への移行を回避したり、開始時期を遅らせたりするためにも、早期発見・早期治療は非常に重要です。

アルコールによる腎臓への負担を減らすには

腎臓の健康を守るためには、アルコールとの付き合い方を見直すことが大切です。腎臓への負担を少しでも減らすための具体的な方法を紹介します。

飲酒習慣の見直し

まずは、自分がどれくらいの頻度で、どのくらいのお酒を飲んでいるかを把握しましょう。

「つい飲み過ぎてしまう」「毎日飲まないと落ち着かない」という方は、飲酒習慣の見直しが必要です。飲む量や頻度を減らすことから始めましょう。

休肝日の設定と効果

週に2日以上の休肝日を設けることは、肝臓だけでなく腎臓を休ませるためにも有効です。

アルコールの分解や利尿作用による負担から解放される日を作ることで、腎臓へのダメージ蓄積を軽減する効果が期待できます。

休肝日のメリット

ポイント期待できる効果
肝臓・腎臓の休息臓器への負担軽減、機能回復促進
依存リスク低減アルコールへの精神的・身体的依存を防ぐ
飲酒量の抑制総アルコール摂取量を減らすきっかけになる

バランスの取れた食事

塩分やタンパク質の摂り過ぎは腎臓に負担をかけます。飲酒時には、味の濃いおつまみを選びがちですが、野菜や魚、大豆製品などを中心としたバランスの良い食事を心がけましょう。

特に塩分は控えめにすることが重要です。

水分補給の大切さ

アルコールの利尿作用による脱水を防ぐために、飲酒中や飲酒後には意識して水分(水やお茶など)を摂ることが大切です。

血液の濃度を適切に保ち、腎臓への負担を和らげる助けになります。

ただし、腎機能が既に低下している場合は、水分制限が必要なこともあるため、医師の指示に従ってください。

人工透析とアルコールの関係性

すでに人工透析を受けている方にとって、アルコールとの付き合い方はさらに慎重な判断が必要です。飲酒が治療に及ぼす影響について解説します。

透析導入後の飲酒について

人工透析を受けているからといって、絶対に飲酒が禁止されるわけではありません。

しかし、飲酒は可能であっても、量や頻度には厳しい制限が必要です。自己判断せず必ず主治医に相談し、許可された範囲を守ることが大前提となります。

飲酒が透析治療に与える影響

透析患者さんの飲酒は、水分・カリウム・リンなどの摂取制限を乱す原因となります。また、血圧の変動を招いたり、透析中の合併症リスクを高めたりする可能性があります。

肝臓への負担も考慮する必要があり、全体的な体調管理を難しくします。

透析患者の飲酒における注意点

項目影響・リスク
水分管理飲酒による水分摂取過多、体重増加
食事制限カリウム・リンなどの摂取制限の乱れ
血圧変動血圧の不安定化、透析困難
肝臓への負担肝機能障害のリスク

医師との相談の必要性

透析患者さんが飲酒を希望する場合、個々の病状や検査データ、服用中の薬などを考慮して、飲酒の可否や許容量を判断する必要があります。

飲酒量だけでなく、お酒の種類(カリウムやリンの含有量)についても指導を受けることが大切です。必ず主治医に相談してください。

透析患者向けの注意点

もし飲酒が許可された場合でも、以下の点に注意が必要です。

飲酒時の留意事項

  • 許可された量を厳守する
  • カリウムやリンの少ないお酒を選ぶ
  • 飲酒による水分量を管理する
  • 空腹時の飲酒は避ける
  • 体調が悪い時は飲まない

禁酒・節酒への取り組み方

腎臓を守るため、あるいは健康全般のために、禁酒や節酒を決意することは素晴らしい一歩です。しかし、一人で実行するのは難しい場合もあります。効果的な取り組み方を紹介します。

自身の飲酒量を知る

まずは、自分が「いつ」「何を」「どれくらい」飲んでいるかを記録してみましょう。

飲酒日記をつけることで、客観的に自分の飲酒パターンを把握でき、問題点を認識しやすくなります。「思ったより飲んでいた」と気づくことも多いです。

目標設定と計画

「完全に禁酒する」「週に〇日まで減らす」「1回の飲酒量を〇杯までにする」など、具体的で達成可能な目標を設定します。そして、その目標を達成するための計画を立てましょう。

例えば、「飲み会では乾杯だけにする」「家にはお酒を置かない」など、具体的な行動計画が有効です。

周囲への協力依頼

家族や友人、同僚など、身近な人に禁酒・節酒の意思を伝え、協力を求めましょう。

「飲み会に誘わないでほしい」「一緒にいるときは飲まないでほしい」など、具体的なお願いをすることで、誘惑を減らすことができます。

理解とサポートは大きな力になります。

専門機関への相談

自分の意志だけでは飲酒量をコントロールするのが難しい場合や、アルコール依存症が疑われる場合は、ためらわずに専門機関に相談しましょう。

精神保健福祉センター、専門の医療機関(精神科、心療内科)、自助グループなどがあります。専門家のサポートを受けることで、より効果的に禁酒・節酒に取り組むことができます。

相談できる場所の例

機関の種類主な役割
かかりつけ医初期相談、専門医への紹介
精神保健福祉センター公的な相談窓口、情報提供
アルコール専門医療機関診断、治療、カウンセリング
自助グループ(断酒会など)経験の共有、相互支援

よくある質問

お酒と腎臓、人工透析に関して、患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。

ビールやワインでもリスクは同じですか?

お酒の種類に関わらず、摂取する純アルコールの量が問題となります。ビール、ワイン、日本酒、焼酎など、どんな種類のお酒でも、飲み過ぎれば腎臓へのリスクは高まります。

ただし、含まれるカリウムやリンの量は種類によって異なるため、腎機能が低下している方は注意が必要です。

少し飲むだけでも腎臓に悪いですか?

健康な方であれば、適量(純アルコール換算で1日20g程度)の飲酒が直ちに腎臓に悪影響を与える可能性は低いと考えられています。

しかし、既に腎機能が低下している方や、高血圧、糖尿病などのリスクがある方は、少量でも負担になる可能性があります。ご自身の健康状態に合わせて判断し、不安な場合は医師に相談しましょう。

腎臓が悪くてもお酒を飲める場合はありますか?

腎機能の低下度合いや合併症の有無、全身状態によって異なります。軽度の腎機能低下であれば、医師の指導のもとで厳格な節酒が可能な場合もあります。

しかし、進行した腎臓病や透析導入後は、原則として禁酒が望ましいか、極めて厳しい制限が必要です。自己判断は絶対にせず、必ず主治医に相談してください。

禁酒すれば腎機能は回復しますか?

アルコールが原因で一時的に腎機能が悪化した場合(急性腎障害など)は、禁酒によって機能が回復する可能性があります。

しかし、長年の過剰飲酒などによって慢性的に腎臓がダメージを受け、線維化などが進行してしまった場合(慢性腎臓病)失われた腎機能を完全に元通りにすることは困難です。

ただし、禁酒や節酒によって、それ以上の悪化を防いだり、進行を遅らせたりすることは可能です。

透析センター(人工透析) | 大垣中央病院(医療法人社団豊正会 )

参考文献

PERNEGER, Thomas V., et al. Risk of end-stage renal disease associated with alcohol consumption. American journal of epidemiology, 1999, 150.12: 1275-1281.

HSU, Yueh-Han, et al. Alcohol consumption is inversely associated with stage 3 chronic kidney disease in middle-aged Taiwanese men. BMC nephrology, 2013, 14: 1-9.

FAN, Zhenliang, et al. Alcohol consumption can be a “double-edged sword” for chronic kidney disease patients. Medical science monitor: international medical journal of experimental and clinical research, 2019, 25: 7059.

KONING, Sarah H., et al. Alcohol consumption is inversely associated with the risk of developing chronic kidney disease. Kidney international, 2015, 87.5: 1009-1016.

HSU, Chi-yuan, et al. Risk factors for end-stage renal disease: 25-year follow-up. Archives of internal medicine, 2009, 169.4: 342-350.

JOO, Young Su, et al. Alcohol consumption and progression of chronic kidney disease: results from the Korean cohort study for outcome in patients with chronic kidney disease. In: Mayo Clinic Proceedings. Elsevier, 2020. p. 293-305.

YUAN, H. C., et al. Alcohol intake and the risk of chronic kidney disease: results from a systematic review and dose–response meta-analysis. European Journal of Clinical Nutrition, 2021, 75.11: 1555-1567.

CHEUNGPASITPORN, Wisit, et al. High alcohol consumption and the risk of renal damage: a systematic review and meta-analysis. QJM: An International Journal of Medicine, 2015, 108.7: 539-548.

PAN, Chi-syuan, et al. Alcohol use disorder tied to development of chronic kidney disease: A nationwide database analysis. PloS one, 2018, 13.9: e0203410.

ISEKI, Kunitoshi. Factors influencing the development of end-stage renal disease. Clinical and experimental nephrology, 2005, 9: 5-14.

免責事項

当院の医療情報について

当記事は、医療に関する知見を提供することを目的としており、当院への診療の勧誘を意図したものではございません。治療についての最終的な決定は、患者様ご自身の責任で慎重になさるようお願いいたします。

掲載情報の信頼性

当記事の内容は、信頼性の高い医学文献やガイドラインを参考にしていますが、医療情報には変動や不確実性が伴うことをご理解ください。また、情報の正確性には万全を期しておりますが、掲載情報の誤りや第三者による改ざん、通信トラブルなどが生じた場合には、当院は一切責任を負いません。

情報の時限性

掲載されている情報は、記載された日付の時点でのものであり、常に最新の状態を保証するものではありません。情報が更新された場合でも、当院がそれを即座に反映させる保証はございません。

ご利用にあたっての注意

医療情報は日々進化しており、専門的な判断が求められることが多いため、当記事はあくまで一つの参考としてご活用いただき、具体的な治療方針については、お近くの医療機関に相談することをお勧めします。

大垣中央病院・こばとも皮膚科

  • URLをコピーしました!
目次