交通事故による腰椎捻挫~症状から治療まで整形外科で大切にしたいこと

交通事故の直後は、アドレナリンの影響などで痛みを感じにくいことがあります。しかし時間が経過すると、腰部の痛みや違和感が徐々に強まる場合もあり、仕事や日常生活に支障をきたす恐れがあります。

腰椎捻挫は適切な対処を怠ると長引くことがあるため、まずは基本的な症状や治療方法、保険との関わりなどを把握しておくことが重要です。

ここでは、交通事故による腰椎捻挫の原因から治療・リハビリ・生活の工夫まで、整形外科を受診する前に知っておきたい情報をまとめます。

この記事の執筆者

臼井 大記(日本整形外科学会認定専門医)

臼井 大記(うすい だいき)

日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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目次

腰椎捻挫とは

交通事故をきっかけに、思いがけず腰に大きな衝撃が加わるケースがあります。急激な衝撃は腰椎周辺の筋肉や靭帯に負担を与え、痛みを引き起こします。

まずは腰椎捻挫がどのような状態を示し、なぜ交通事故との関わりが深いのかを理解してみましょう。

腰椎捻挫の定義

一般的に腰椎捻挫は、腰の周辺組織(靭帯・筋肉・腱など)に過度な伸展や捻転が起こることで発生します。

レントゲンで骨折などの重大な外傷がなくても、軟部組織に炎症が生じると痛みや筋緊張が続きます。事故で負担がかかった局所は炎症が起こりやすく、適切な治療が必要です。

交通事故で起こりやすい理由

車を運転中に追突を受けると、腰に急激な伸展・屈曲が生じる場合があります。

シートベルトやエアバッグが上半身を守っても、下半身や腰への負荷が逃げきれないケースもあります。そのため、衝撃の方向や速度によっては腰椎捻挫を引き起こしやすいといえます。

症状の特徴

腰椎捻挫の主な症状として、動作開始時に感じる腰の痛みや、一定時間同じ姿勢を保った後の痛みの増悪が挙げられます。

痛みの度合いは個人差があり、急に強くなる人もいれば、鈍痛が続く人もいます。痛みにともなって、背中から下肢にかけての筋緊張や倦怠感が生じる場合もあります。

腰椎捻挫を引き起こしやすい要因

要因内容
衝撃の方向後方衝突・側面衝突など衝撃の向きによって負荷が腰に集中しやすい
衝撃の強さ高速走行時の追突や大きな衝撃ほど軟部組織に大きなダメージが及ぶ
体格・筋力筋力が弱い、あるいは筋肉量が少ない場合、衝撃吸収が不十分になる可能性
座席ポジション腰に対するサポートが不十分だと衝撃が直接腰椎に加わりやすい

上の表に示した要因が重なったとき、腰椎捻挫のリスクが高まる傾向にあります。

交通事故後に気を付けたい症状の経過

交通事故直後はパニック状態や興奮状態となり、痛みを感じにくいことがあります。時間が経過するにつれて痛みや違和感が出現・増強することが少なくありません。

痛みの感じ方

腰椎捻挫では、事故直後に鋭い痛みを感じるケースもあれば、翌日以降に痛みが増してくるケースもあります。

なかには鈍痛が続き、日常動作をするたびに腰が重く感じることもあります。痛みが断続的に現れる場合でも、筋肉や靭帯が損傷している可能性があるため注意が必要です。

遅れて現れる症状

交通事故の衝撃は全身におよび、頸椎捻挫(いわゆるむちうち)など他の部位の不調と同時に出現することもあります。

腰椎捻挫の症状が翌日以降に顕著になる場合、事故直後から身体にダメージが蓄積していたことが考えられます。遅れて出てきた痛みや張り感を放置すると、日常生活に大きな支障が出ることがあります。

交通事故後の身体の変化

事故後の身体には、以下のような変化が起きやすいです。

  • 腰の可動域の低下
  • 腰からお尻・太ももにかけての違和感
  • 長時間同じ姿勢がつらくなる
  • 体を捻る動作や重いものを持ち上げる動作の痛み

これらの症状が軽度でも続くと、日常生活が制限されてしまいます。

交通事故直後と数日後の症状変化

時期症状の傾向
事故直後アドレナリン作用で痛みを感じにくい場合がある
数時間後腰に違和感が出てくる。強い痛みを感じるケースも
翌日~数日痛みや張り感が増すことがある。鈍痛が続いて動作が制限される場合も
数週間後適切な治療を受けずに放置すると慢性化し、日常動作に支障をきたすリスクが高まる

適切な受診タイミング

事故後、腰の痛みに対して早めに整形外科で診察を受けることが重要です。痛みが軽度でも、後から悪化する可能性があるため自己判断は危険です。

病院・整形外科での検査

整形外科では、まず問診と視診・触診を行い、レントゲンやMRIなどの画像検査で骨や軟部組織の状態を確認します。

骨折や椎間板の損傷がある場合とない場合で治療方針が異なるため、早期に検査を行うことが大切です。

初期対応の重要性

事故から時間が経過すると、痛みが増したり、炎症が強くなったりすることがあります。初期段階で患部を冷やす、適度に安静を保つなどの対処を行うと、症状の進行を緩やかにできます。

自己流の判断だけで湿布を貼るだけ、という対応では十分ではない場合もあります。

受診前に把握しておく情報

医師に自分の症状を伝える際には、以下の情報を整理しておくとスムーズです。

  • 事故が起きた日時と状況
  • どのような衝撃を受けたか(正面衝突・後方からの衝突など)
  • 痛みを感じ始めた時期と具体的な症状
  • 日常で困る動作の種類(座る・立つ・歩くなど)
  • 既往歴(過去の腰痛経験や他の整形外科的疾患)

受診時に伝える主なポイント

  • 事故状況(相手車両との位置関係や衝突速度など)
  • 痛みの程度や持続時間
  • 生活動作(立ち上がる、座り込む等)で起きる痛みの有無
  • 持病や常用薬の有無

診断と検査の流れ

腰椎捻挫では、骨折や神経症状の有無を確認するため、いくつかの検査を行います。

問診と触診

医師は事故時の状況や痛みの場所・程度を詳しくヒアリングします。

その後、腰や臀部付近を手で触れて腫れや痛みの反応を確認し、可動域をチェックします。触診で軟部組織の異常を推測し、どの部分に炎症や緊張があるのかを判断します。

画像検査

レントゲン検査では骨の状態を把握し、骨折の有無や骨変形がないかを調べます。椎間板や神経根の状態を詳しく確認するにはMRIが有効です。

CT検査で骨の形状を詳細に確認する場合もあります。これらの結果を照らし合わせて、腰椎捻挫か別の傷害があるかを見極めます。

代表的な画像検査の目的

検査名主な目的
レントゲン骨折や骨の変形の有無を確認
MRI椎間板や神経根、軟部組織の損傷を詳細に把握
CT骨の微細な損傷や形状異常を立体的に観察

他の病因との鑑別

腰椎周辺の痛みには、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など他の疾患が隠れている可能性があります。

交通事故を機に症状が顕在化したケースもあるため、単なる捻挫と断定せず、多方面から診断を行うことが大切です。

治療の基本

腰椎捻挫の治療方針は、通常、保存療法を中心に進めます。重度の場合や他の傷害が併発している場合は、さらに投薬や注射、装具の使用を検討することもあります。

保存療法

腰椎捻挫の多くは、まず患部の安静とアイシングを行う保存的治療を中心に進めます。腰への負担を減らす姿勢を心がけ、急性期には炎症を抑えるために冷やすことが多いです。

慢性期や痛みが和らいだ段階では、血行を促進するために温める方法へ移行する場合があります。

保存療法に取り入れられる対処方法

  • 安静を保つ時間を確保(過度な活動や長時間の姿勢固定を避ける)
  • アイスパックまたは温罨法(時期や症状に応じて使い分け)
  • 体を支えるクッションやサポーターの使用
  • 病院での物理療法(電気治療や牽引など)

投薬

痛みが強い場合は、消炎鎮痛薬(NSAIDs)や筋弛緩薬などを使用することがあります。医師の指示のもとで、症状や副作用を確認しながら服用します。

長期的な服用は副作用リスクを増やす場合があるため、適度なタイミングでリハビリに移行することが多いです。

リハビリのはじめ方

急性期の強い痛みが落ち着いたら、医師の指導のもと徐々にリハビリを行います。ストレッチや腰周りの筋肉を支える筋力トレーニングを取り入れると再発リスクが減りやすいです。

ただし急激な負荷をかけると症状が悪化する恐れがあるため、段階的なアプローチが大切です。

痛み止め使用時の注意

痛み止めを服用していると一時的に痛みが和らぎますが、無理に動いてしまうと患部に負荷をかけることがあります。

痛み止めを飲んでいても腰に違和感を感じるようなら、医師に相談しながら活動量を調整するほうがよいでしょう。

痛み止め・薬剤の副作用や注意点

薬剤目的代表的な副作用
NSAIDs炎症や痛みを抑える胃痛、胃腸障害、血圧上昇など
筋弛緩薬筋肉の緊張を緩和する眠気、だるさ、倦怠感など
神経障害性疼痛薬神経の痛みを和らげる口渇、めまい、倦怠感など

リハビリテーションと生活上のポイント

腰椎捻挫がやや落ち着いてきた段階でのリハビリや、日常生活でのケアは回復を支える大きな柱となります。無理のない範囲で進め、痛みが増した場合には調整が必要です。

リハビリ期間の目安

リハビリの期間は個人差があり、痛みの度合いや組織の回復具合によって異なります。一般的には数週間から数か月程度の通院や運動療法を行い、徐々に日常生活に復帰していきます。

交通事故由来の腰椎捻挫は、他の原因より長引くケースもあるため、焦らず取り組むことが望ましいです。

自宅でできる運動

医師や理学療法士から指導を受けたうえで、自宅でも軽いストレッチや筋力トレーニングを行うと効果的です。たとえば、腹筋や背筋を強化する運動、骨盤まわりを安定させる体幹トレーニングなどが勧められる場合があります。

ただし、痛みが強いときは無理をせず、休息をとることを優先します。

自宅で取り組みやすい腰ケア運動

  • 仰向けで両膝を曲げて左右に倒すツイスト運動
  • 椅子に座った状態での軽い腹筋引き締め
  • 四つ這いでの骨盤まわりストレッチ
  • 立位でのかかと上げ下げ

日常生活で意識したい動作

日常動作で腰に負担をかけないためには、正しい姿勢を意識し、腰を急激にひねったり曲げたりしないように気をつける必要があります。

重い物を持ち上げるときは、膝をしっかり曲げて腰を落とし、体幹を支える姿勢をとります。

日常動作における腰への負担度合い

動作・場面腰への負担度対策・注意点
長時間のデスクワーク中~高1時間に1回は立ち上がり、軽くストレッチをする
重い荷物の持ち上げ膝を使い、できるだけ荷物を身体に近づける
車の乗り降りシートを後ろに下げてゆとりを持ち、ゆっくりと動作する
床に落ちた物の拾い上げ前かがみになるよりも膝を曲げる動作を取り入れる

交通事故特有の注意点と保険対応

交通事故による腰椎捻挫では、治療費や慰謝料に関する保険上の手続きが伴います。身体面の回復だけでなく、保険会社とのやり取りにも注意が必要です。

症状固定と後遺障害認定の考え方

症状固定とは、治療を続けても大きな改善が見込めない状態を指します。事故後、一定期間の治療を経ても痛みや機能障害が残る場合に、後遺障害として認定される可能性があります。

後遺障害の認定は、保険会社や自賠責保険の審査によって決まります。

自賠責保険や任意保険との関係

自賠責保険では、被害者の治療費や一部の慰謝料を補償しますが、限度額があります。任意保険に加入している場合は、それを上乗せして補償を受けられるケースもあります。

保険会社に提出する診断書や治療経過の書類は、医療機関で適切に準備してもらう必要があります。

保険対応時に知っておきたい書類

書類名内容
診断書医師が作成する正式な症状や診断内容の証明書
診療報酬明細書医療機関での治療費を詳細に記載した明細書
レセプト保険請求用の診療報酬明細書
後遺障害診断書後遺障害の有無と程度を医師が判断して記入する書類

通院履歴と診断書

後遺障害認定を受ける際は、通院日数や症状の変化が重要な判断材料になります。

痛みが続いているにもかかわらず通院を怠ると「症状が軽かったのではないか」と疑われることがあるため、症状に応じて医師の指示を受けながら通院を継続することが大切です。

保険会社とのやり取りで意識したいこと

  • 通院の実績をしっかり記録する
  • 痛みや症状の変化を日ごとにメモしておく
  • 診断書はその都度発行してもらい、コピーを保管する
  • わからないことは保険会社や医師に遠慮なく質問する

当院での受診の流れとサポート

腰椎捻挫を疑う場合、信頼できる整形外科で適切な治療を受けることが近道です。当院でも腰椎捻挫の診察やリハビリに力を入れており、患者さんをサポートする体制を整えています。

初めての受診では、事故の概要や身体の状態を詳しく伺いますので、保険証や診断書(すでに他院を受診している場合)をお持ちください。

医師・スタッフのサポート体制

当院では、経験豊富な医師による診察をもとに、理学療法士や看護師などのスタッフがチームで患者さんをサポートします。

痛みやリハビリについて不安な点があれば気軽にご相談いただけます。リハビリのメニューも患者さんの症状や生活スタイルを考慮しながら提案します。

当院で行う主なサポート内容

サポート内容詳細
診察症状・事故状況の確認、画像検査の手配
物理療法電気治療、温熱療法などによる疼痛軽減
リハビリ指導ストレッチや筋力トレーニング、生活指導
保険対応の相談窓口書類作成の方法や保険会社とのやり取りのアドバイス

定期的な通院の大切さ

腰椎捻挫の痛みは、一時的に軽くなることがあります。しかし、そこで通院をやめてしまうと根本的な回復に至らず、後々再び痛みが生じたり、慢性化する恐れがあります。

通院は治療と経過観察を兼ねており、症状の変化に応じて治療法を調整する役割を果たします。

通院を続けるメリット

  • 医師の判断で治療法を臨機応変に切り替えられる
  • リハビリの進捗をチェックし、目標を修正しやすい
  • 痛みが悪化した場合に迅速に対応できる
  • 保険会社への診断書作成や報告が正確に行いやすい

痛みによるストレスは心身に大きな負担を与えます。ご自身の身体を守るためにも、整形外科で適切な管理を受けることが欠かせません。日常生活へスムーズに復帰するため、無理のない範囲で継続的に通院しましょう。

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