大動脈弁閉鎖不全症(AR)

大動脈弁閉鎖不全症(Aortic regurgitation:AR)とは、心臓から全身へと血液を送り出す大動脈の入り口に位置する大動脈弁が、本来の機能を失い、正常に閉じることができなくなる疾患です。

通常、大動脈弁は血液の逆流を防ぐ重要な役割を担っていますが、この病気によって弁が完全に閉じなくなると、一度送り出された血液が心臓へと逆流する現象が起こります。

このような状態が継続すると、心臓への負担が増大し、次第に心臓の筋肉が肥大化していきますが、特筆すべきは、発症初期においては自覚症状がほとんど現れないという点です。

目次

大動脈弁閉鎖不全症(AR)の病型

大動脈弁閉鎖不全症(AR)は、大きく慢性型と急性型の2つに分かれます。慢性ARでは心臓が段階的に適応していく一方で、急性ARでは劇的な血行動態の変化が生じるという違いが存在します。

慢性大動脈弁閉鎖不全症の特徴

慢性大動脈弁閉鎖不全症では、数年から数十年という長期間にわたって病態が進行していきます。左室(心臓の左側にある心室)は、徐々に増大する容量負荷に対して適応的な変化を遂げ、その過程で左室腔の拡大と壁の肥厚が進行します。

特筆すべき点として、左室拡張末期容量は正常値の約300mlから最大で600ml程度まで増加することがあります。

慢性ARにおける左室の変化数値データ
正常左室拡張末期容量約300ml
最大拡張末期容量約600ml
左室壁厚の増加率20-40%
代償期間5-15年

心臓の代償機能は非常に精緻なメカニズムを持っており、フランク・スターリング機構(心筋が伸展されると収縮力が増加する仕組み)を活用して心拍出量を維持します。この過程で左室は徐々に肥大し、wall stressの増加に対応していきます。

急性大動脈弁閉鎖不全症の特徴

急性大動脈弁閉鎖不全症における血行動態の変化は、数時間から数日という極めて短い期間で発生します。

左室拡張末期圧は通常の8-12mmHgから、24時間以内に30-40mmHgまで上昇することがあり、この急激な圧上昇により肺うっ血が引き起こされます。

急性ARの血行動態変化発症前発症後
左室拡張末期圧8-12mmHg30-40mmHg
心拍数60-80回/分100-120回/分
心拍出量5-6L/分3-4L/分

病型による心臓の適応メカニズム

心臓の適応メカニズムは病型によって顕著な違いを示します。慢性型では、左室重量が正常の150-200%まで増加することもあり、この代償性肥大により心機能は長期間維持されます。

  • 慢性型:左室重量増加(正常の150-200%)
  • 急性型:代償機能が未発達(24-48時間以内の変化)
  • 混合型:両者の特徴が混在(期間依存的な変化)

病型分類の臨床的意義

病型の違いは、心臓の構造変化と機能的適応に著しい影響を及ぼします。慢性ARでは、左室駆出率が50-60%の範囲で維持されることが多く、この数値は代償機能の指標となります。

臨床指標慢性AR急性AR
左室駆出率50-60%30-40%
心筋酸素消費量1.5-2倍2-3倍
冠血流予備能維持低下

病型判別の重要性

病型の正確な判別は、心臓の状態を評価する上で必須となります。左室拡張末期容量や壁応力などの指標を総合的に判断することで、より精密な病態把握が実現します。

  • 形態学的評価(心エコー図による壁厚測定)
  • 機能的評価(心臓MRIによる駆出率計算)
  • 血行動態評価(心臓カテーテル検査によるデータ収集)

大動脈弁閉鎖不全症の病型は、心臓への影響と経過に決定的な違いをもたらし、その理解は臨床現場において極めて重要な意味を持ちます。

大動脈弁閉鎖不全症(AR)の症状

大動脈弁閉鎖不全症(AR)は、慢性型と急性型という二つの病態を示す心臓弁膜症です。慢性ARでは、心臓への負荷が徐々に蓄積されることで症状が進行していく一方、急性ARでは突発的に生命を脅かす重篤な症状が出現することもあります。

慢性ARにおける一般的な症状

慢性ARの進行は通常緩やかで、心臓が代償機能(心臓が障害に適応しようとする働き)を働かせることで、長期間にわたって症状が目立たないことが特徴的です。

初期段階では75%以上の患者が無症状であり、定期健康診断で心雑音を指摘されることで発見されることが多いとされています。

症状の段階出現頻度特徴的な症状
初期75%以上が無症状軽度の動悸のみ
中期50%程度に症状あり運動時の息切れ、疲労感
後期90%以上に症状あり持続的な呼吸困難、浮腫

運動時の息切れは、最も一般的な初期症状として認識されており、特に階段昇降時や急な坂道での歩行時に顕著となります。

この症状は、心臓の拍出量が運動による需要に追いつかないことに起因しており、運動強度が増すにつれて症状も増強します。

急性ARに特有の症状

急性ARでは、突然の症状出現と急速な進行が特徴的です。症状の発現から数時間以内に重篤な状態に陥る可能性があるため、早期発見と迅速な対応が生命予後を左右します。

  • 激烈な胸痛(胸骨後部の締め付けられるような痛み)
  • 急激な呼吸困難(起座呼吸を含む)
  • 冷や汗を伴う意識障害
  • 脈拍の異常(脈圧の増大、不整脈)
重症度血圧変動心拍数
軽度収縮期血圧140-159mmHg90-100回/分
中等度収縮期血圧160-179mmHg100-120回/分
重度収縮期血圧180mmHg以上120回/分以上

日常生活における症状の変化

日常生活における症状の変化は、活動内容や時間帯によって大きく異なります。特に夜間から早朝にかけての症状悪化が特徴的で、これは臥位による静脈還流量の増加が原因とされています。

時間帯主な症状発生メカニズム
早朝起床時の動悸自律神経の変化
日中活動時の息切れ心負荷の増大
夜間発作性夜間呼吸困難静脈還流量増加

進行度による症状の違い

ARの進行度は、心臓の代償機能の限界によって段階的に変化します。初期では無症状であっても、進行に伴い様々な症状が出現し、最終的には重度の心不全症状を呈することがあります。

  • 軽度:6分間歩行で300m以上歩行可能
  • 中等度:6分間歩行で150-300m程度歩行可能
  • 重度:6分間歩行で150m未満しか歩行できない

要注意の危険信号

危険信号の早期発見は予後改善に直結します。特に以下の症状が出現した場合は、速やかな医療機関の受診が推奨されます。

  • 安静時でも持続する呼吸困難
  • 3分以上続く胸痛
  • 意識レベルの低下や失神
  • 脈拍の著しい乱れや動悸

大動脈弁閉鎖不全症の症状は、個々の患者さんの状態や生活環境によって多様な現れ方をします。日々の体調変化を注意深く観察し、体調の変化を感じた際は、躊躇することなく医療機関を受診することが重要です。

大動脈弁閉鎖不全症(AR)の原因

大動脈弁閉鎖不全症(AR)は、心臓から大動脈へと血液を送り出す際に重要な役割を果たす大動脈弁の機能不全によって引き起こされる心臓弁膜症です。

大動脈弁閉鎖不全症の基本的な発症メカニズム

大動脈弁閉鎖不全症における血行動態の変化は、心臓の収縮期と拡張期の両方に影響を及ぼします。正常な大動脈弁は三つの弁尖(弁の小さな扉のような部分)が完全に閉じることで、心臓から送り出された血液の逆流を防いでいます。

心周期の段階正常弁の状態AR発症時の状態
収縮期弁尖が開放弁尖の開放不全
拡張期弁尖が完全閉鎖弁尖の閉鎖不全
血流方向一方向性維持逆流の発生

大動脈弁の機能障害は、加齢や疾患によって引き起こされる弁尖の変性、弁輪(弁尖が付着する部分)の拡大、あるいは大動脈自体の構造異常など、複数の要因が複雑に絡み合って発生します。

慢性大動脈弁閉鎖不全症の主要な原因

慢性的なARの発症メカニズムは、主として加齢による弁組織の退行性変化と、先天的な弁構造の異常に大別されます。加齢による変化では、弁尖の石灰化(カルシウムの沈着による硬化)が進行し、弁の可動性が徐々に失われていきます。

  • 加齢性変化:65歳以上で発症リスクが約2倍に上昇
  • 先天性二尖弁:人口の1-2%に存在し、そのうち約30%がARを発症
  • 結合組織疾患:マルファン症候群患者の約60-80%が弁膜症を合併
原因分類発症年齢進行速度
加齢性変化65歳以上緩徐
先天性異常40歳前後中等度
炎症性疾患全年齢比較的急速

急性大動脈弁閉鎖不全症の発症要因

急性ARは、突発的な事象により短期間で重篤な症状を引き起こす病態です。感染性心内膜炎による弁破壊では、細菌性の疣贅(疣状の付着物)が弁尖に形成され、弁機能を著しく障害します。

急性AR原因発症頻度予後影響因子
感染性心内膜炎年間10万人あたり3-10例起因菌の種類
大動脈解離年間10万人あたり2-3例解離の範囲
外傷性損傷胸部外傷の約1%損傷の程度

遺伝的要因と関連疾患

遺伝子変異に起因するARでは、結合組織の脆弱性が特徴的です。マルファン症候群では、フィブリリン1遺伝子の変異により、弾性線維の形成異常が生じます。

  • マルファン症候群:FBN1遺伝子変異(発症率1/5,000)
  • エーラス・ダンロス症候群:コラーゲン遺伝子異常(発症率1/5,000-1/50,000)
  • ターナー症候群:X染色体異常(女児出生1/2,000-2,500)

生活習慣と環境要因

生活習慣病、特に高血圧症は大動脈弁への機械的ストレスを増大させ、弁機能の低下を加速させます。喫煙や運動不足などの生活習慣も、血管の健康状態に影響を与え、間接的にARのリスクを高めます。

大動脈弁閉鎖不全症の発症機序は複雑で、多くの要因が相互に関連しながら病態を形成していきます。早期発見と生活習慣の改善が予後の改善につながります。

大動脈弁閉鎖不全症(AR)の検査・チェック方法

大動脈弁閉鎖不全症の診断方法には、身体診察から画像診断技術まで、多岐にわたる評価方法が存在します。聴診器による特徴的な心音の評価に始まり、高度な画像診断装置による詳細な弁機能の分析まで、段階的に診断を進めていきます。

慢性ARと急性ARでは臨床所見に明確な違いがあるため、それぞれの特徴を理解することが診断の要となります。

身体診察による臨床診断

視診では、頸動脈の異常な拍動(ダンシング・カロチド)や胸壁の目立った拍動を確認します。触診においては、脈圧の増大(水槌脈)や心尖拍動の位置・性状の変化を丁寧に評価していきます。

聴診では、第3肋間胸骨右縁から左鎖骨中線に沿って、特徴的な拡張期雑音(デクレッシェンド型)を聴取します。この雑音は、慢性ARでは高調性で長く続く傾向にありますが、急性ARでは短く、しばしば130回/分を超える頻脈を伴います。

診察手技主要所見補助的所見
視診頸動脈怒張胸郭変形
触診水槌脈心尖拍動の左下方偏位
聴診拡張期雑音S3ギャロップ音

非侵襲的検査による評価

心エコー検査は大動脈弁閉鎖不全症の診断において、最も信頼性の高い非侵襲的検査法です。経胸壁心エコー検査(TTE)では、弁尖の形態異常や可動性、弁輪の拡大度を詳細に観察できます。カラードプラ法を用いることで、逆流ジェットの方向や到達距離を可視化し、逆流の重症度を定量的に評価します。

経食道心エコー検査(TEE)は、より高解像度で弁構造を観察でき、特に大動脈基部の詳細な評価が必要な場合に実施します。心臓MRI検査では、左室容積や駆出率の正確な測定に加え、組織性状評価も可能です。

  • 経胸壁心エコー:逆流率の定量評価(軽度:20%未満、中等度:20-50%、重度:50%以上)
  • 経食道心エコー:弁尖の詳細形態評価(逸脱、穿孔、変性など)
  • 心臓MRI:左室容積測定(拡張末期容積、収縮末期容積)

確定診断のための精密検査

確定診断の過程では、複数の検査モダリティを組み合わせた総合的な評価が不可欠です。心臓カテーテル検査では、左室造影により逆流の程度を定量化し、同時に冠動脈造影も実施して、随伴する冠動脈疾患の有無を確認します。

検査項目評価指標重症度判定基準
左室造影逆流グレードI-IV
心拍出量心係数2.5-4.0 L/min/m²
左室圧拡張末期圧8-16 mmHg

重症度評価と経過観察

重症度評価においては、複数のパラメータを組み合わせた包括的な判断基準を採用します。左室駆出率(正常値55%以上)、左室拡張末期径(正常値55mm未満)、逆流分画(重症度の指標)などの数値データを総合的に分析し、病態の進行度を判定します。

定期的な経過観察では、6ヶ月から1年ごとの心エコー検査を実施し、左室機能の変化や逆流量の推移を追跡します。特に左室拡張末期径が年間2-3mm以上増加する場合は、病態の急速な進行を示唆する重要なサインとなります。

重症度指標軽度中等度重度
逆流量 (ml/拍)<3030-59≥60
逆流分画 (%)<3030-49≥50
有効逆流弁口面積 (cm²)<0.100.10-0.29≥0.30

慢性ARの進行度評価には、以下の指標が特に重要となります。

  • 左室拡張末期径の経時的変化
  • 左室収縮末期径の推移
  • 左室駆出率の変動
  • 症状出現の有無と程度

鑑別診断のポイント

大動脈弁閉鎖不全症の鑑別診断では、類似した血行動態を示す他の心疾患との区別が極めて重要です。心エコー検査による弁形態の詳細な観察、ドプラ法による血流パターンの解析、そして各種画像診断を組み合わせることで、より正確な診断が可能となります。

特に僧帽弁疾患との鑑別においては、心音の聴取部位や伝播方向、心エコーでの逆流ジェットの方向性が重要な鑑別点となります。心筋症との鑑別では、左室壁運動の詳細な評価が必須です。

鑑別疾患特徴的所見鑑別のポイント
僧帽弁逆流収縮期雑音心尖部最強点
肥大型心筋症左室肥大非対称性中隔肥厚
拘束型心筋症拡張障害両心房拡大

大動脈弁閉鎖不全症(AR)の治療方法と治療薬について

大動脈弁閉鎖不全症(AR)の治療では、内科的アプローチと外科的アプローチを組み合わせた包括的な医療介入を検討していきます。治療方針の決定には、病態の進行度、心機能の状態、そして患者さんの全身状態を総合的に評価することが重要です。

特に、慢性ARと急性ARでは治療戦略が大きく異なるため、それぞれの病態に応じた適切な治療選択が求められます。

慢性ARの治療戦略

慢性ARの治療においては、心臓への容量負荷を軽減し、左室機能を維持することを第一の目標としています。血管拡張薬を中心とした薬物療法では、後負荷を軽減することで心臓への負担を減らし、心機能の保持を図ります。

治療段階主要な治療薬投与量の目安
初期治療ACE阻害薬2.5-10mg/日
中期治療ARB20-80mg/日
進行期利尿薬併用個別に調整

血管拡張薬の投与では、ACE阻害薬(エナラプリルなど)やARB(カンデサルタンなど)を使用し、血圧を130/80mmHg未満にコントロールすることを目指します。これらの薬剤は、心臓への負担を軽減するだけでなく、心筋のリモデリング(構造変化)も抑制します。

カルシウム拮抗薬(アムロジピンなど)は、血管拡張作用に加えて心拍数の調整効果も期待でき、症状の進行抑制に寄与します。重症度に応じて、利尿薬(フロセミドなど)を併用することで、うっ血性心不全の予防と治療を行います。

急性ARの治療アプローチ

急性ARでは、血行動態の急激な悪化に対して即座の対応が必要となります。静注用血管拡張薬であるニトロプルシドを0.3-5μg/kg/分で持続投与し、後負荷を軽減させることで心拍出量の改善を図ります。

治療薬投与方法期待される効果
ニトロプルシド持続静注後負荷軽減
ドブタミン持続静注心収縮力改善
フロセミド間欠静注うっ血改善
  • 強心薬(ドブタミン):2-15μg/kg/分での持続投与
  • 利尿薬(フロセミド):20-40mgを6-8時間ごとに投与
  • 酸素投与:経鼻カニューレで2-4L/分を維持

手術療法の選択と実施

手術療法の選択には、弁の形態学的特徴、患者さんの年齢、併存疾患の有無などを総合的に判断します。弁形成術は、弁尖の変性が軽度で、弁輪拡大が主体の症例に適応となり、自己弁温存による抗凝固療法回避のメリットがあります。

手術方法手術時間入院期間
弁形成術3-4時間2-3週間
弁置換術4-5時間3-4週間
TAVI1-2時間1週間程度

術後管理と投薬

術後管理では、抗凝固療法のコントロールが治療成功の鍵となります。機械弁置換後は、PT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)を2.0-3.0の範囲で維持することが推奨されます。

生体弁置換後は、術後3-6ヶ月間のワーファリン投与が標準的です。その後は、アスピリンの単独投与に移行することが一般的です。

長期的なフォローアップ

定期的な経過観察では、心エコー検査による弁機能評価、血液検査によるワーファリンコントロール、心電図検査による不整脈の確認を実施します。特に、機械弁置換後の患者さんでは、3-6ヶ月ごとの定期検査が推奨されます。

大動脈弁閉鎖不全症の治療は、内科的治療から外科的治療まで、包括的なアプローチを必要とする疾患です。個々の患者さんの状態に応じた治療選択と、継続的な経過観察が治療成功の要となります。

大動脈弁閉鎖不全症(AR)の治療期間

大動脈弁閉鎖不全症(AR)の治療期間は、病状の進行度や個々の患者さんの状態によって異なり、慢性ARと急性ARでは治療アプローチと必要期間に大きな違いが見られます。

入院から社会復帰までの過程において、患者さんの年齢や心機能の状態、さらには生活環境なども考慮しながら、きめ細かな治療期間の設定を行います。

慢性ARにおける治療期間の特徴

慢性ARでは、心臓への負担が徐々に蓄積されていくため、治療期間の設定には慎重な判断が重要となります。

経過観察期間中は、心エコー検査(超音波を使用して心臓の状態を観察する検査)や心電図検査などを定期的に実施し、心機能の変化を詳細に追跡していきます。

特に左室駆出率(心臓が1回の収縮で送り出す血液量の割合)が50%を下回る場合には、より頻繁な観察が必要となり、通常3ヶ月ごとの診察間隔を6週間ごとに短縮することもあります。

治療段階必要期間主な実施内容
術前評価期間2〜4週間心機能評価、全身状態確認
入院期間2〜3週間手術実施、術後管理
リハビリ期間3〜6ヶ月段階的な運動負荷訓練

急性ARにおける治療期間の目安

急性ARの場合、突発的な症状の出現から治療開始までの時間が予後を左右する重要な因子となります。発症から6時間以内に適切な治療を開始することで、心機能の回復率が著しく向上するというデータが報告されています。

入院後は、血行動態(心臓から送り出される血液の流れの状態)を24時間体制で監視し、状態に応じて治療方針を細かく調整していきます。

  • 緊急入院から手術までの期間:24時間以内が理想的
  • 集中治療室での管理期間:重症度に応じて3〜10日間
  • 一般病棟での回復期間:合併症がない場合2〜4週間

社会復帰までに必要な期間

手術後の回復過程は、患者さんの年齢や術前の心機能状態によって個人差が大きく、特に65歳以上の高齢者では回復期間が通常の1.5倍程度必要となることがあります。社会復帰に向けては、心臓リハビリテーション(運動療法や生活指導を含む包括的なプログラム)を段階的に進めていきます。

活動内容再開可能時期注意事項
軽い運動術後4〜6週間心拍数120以下を維持
デスクワーク術後6〜8週間疲労度に応じて調整
重労働術後3〜6ヶ月段階的な負荷増加

長期的なフォローアップ期間

手術後の経過観察では、定期的な心機能評価に加えて、人工弁を使用した場合の抗凝固療法(血液を固まりにくくする治療)の管理も重要です。フォローアップスケジュールは、術後の経過や合併症の有無によって個別に調整されます。

検査項目実施頻度評価内容
心エコー検査6ヶ月ごと弁機能、心室サイズ
血液検査月1回凝固能、炎症反応
胸部レントゲン年2回心陰影の変化

治療期間全体を通じて、患者さん一人一人の状態に合わせた細やかな対応を心がけ、最適な回復環境を整えることが大切です。

薬の副作用や治療のデメリットについて

大動脈弁閉鎖不全症(AR)の治療において、各治療法には固有の副作用とリスクが伴います。慢性ARと急性ARでは、治療に伴うリスクの性質や程度が大きく異なるため、患者さん一人ひとりの状態に即した細やかな対応が求められます。

近年の医療技術の発展により、多くの副作用は制御可能となりましたが、事前の十分な理解と準備が重要となります。

薬物療法における副作用とリスク

薬物療法では、血管拡張薬や利尿薬などの使用に伴い、多岐にわたる副作用が出現します。特に血管拡張薬のカルシウム拮抗薬では、約15%の患者さんに顔面紅潮や足のむくみが発生するとされ、高齢者においては起立性低血圧(立ち上がった時の血圧低下)のリスクが約1.5倍に上昇します。

利尿薬による治療では、血清カリウム値が3.5mEq/L以下となる低カリウム血症が約20%の症例で発生し、特に75歳以上の高齢者では腎機能低下に伴う電解質異常の発生率が約1.8倍に増加します。

薬剤の種類発生頻度重篤度対処法
ACE阻害薬15-20%中等度用量調整、投与時間の変更
利尿薬20-25%軽度~中等度電解質補充、脱水予防
β遮断薬10-15%軽度漸増投与、生活指導

手術療法に関連する合併症

手術療法における合併症は、術中・術後早期・遠隔期に分類されます。人工弁置換術では、術後30日以内の早期死亡率が約2-3%、重篤な合併症の発生率が約8-10%と報告されています。特に80歳以上の超高齢者では、これらのリスクが約1.5-2倍に上昇します。

合併症の種類発生率予防対策
術後出血5-7%厳密な止血確認、凝固能管理
心房細動15-20%抗不整脈薬予防投与
創部感染2-3%術前抗生剤投与、創部管理

抗凝固療法のリスク管理

人工弁置換術後の抗凝固療法では、ワーファリンの至適治療域(PT-INR:2.0-3.0)の維持が課題となります。65歳以上の患者さんでは、大出血の年間発生率が約3-4%に達し、特に80歳以上では約6-7%まで上昇します。

年齢層出血リスク血栓リスク
65歳未満2%/年1.5%/年
65-79歳3-4%/年2%/年
80歳以上6-7%/年3%/年

慢性ARと急性ARにおけるリスクの違い

慢性ARでは、左室拡大が進行性に生じ、ejection fraction(心臓の収縮機能)が年間約3-5%ずつ低下します。一方、急性ARでは、突然の血行動態破綻により、緊急手術を要する確率が約60-70%に達します。

手術時期の決定は、症状の有無や左室機能に基づいて判断されますが、手術待機中の急性増悪リスクは年間約2-3%存在します。

術後のフォローアップにおける注意点

術後管理では、人工弁機能不全の早期発見が重要です。機械弁では年間約0.5-1%の確率で血栓弁が発生し、生体弁では10年後に約20-30%の確率で再手術が必要となります。

定期的な心エコー検査と血液検査により、これらの合併症の早期発見と予防に努めることで、長期的な予後の改善が期待できます。

大動脈弁閉鎖不全症の治療における副作用やリスクは、適切な予防措置と定期的なモニタリングにより、多くの場合において良好なコントロールが可能です。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

大動脈弁閉鎖不全症(AR)の治療には国民健康保険が適用されており、医療費総額の7割が保険でカバーされる制度を利用できます。入院から外来まで幅広い診療において、患者さまの症状や進行度に応じた診療費が生じますが、基本的な自己負担は3割となっています。

処方薬の薬価

循環器系疾患の治療では、複数の薬剤を組み合わせて服用することが一般的であり、利尿薬(体内の余分な水分を排出する薬)やACE阻害薬(血圧を下げる薬)、ARB製剤(血管を広げる薬)などを使用します。これらの薬剤費用は、保険適用後の自己負担額として1日あたり300円から1,000円程度となっています。

薬剤種類1日あたりの薬価(3割負担)
利尿薬100-300円
ACE阻害薬150-400円
ARB製剤200-500円

1週間の治療費

通院による外来診療を基準とした場合の医療費は以下の通りです。

  • 診察料および医学管理料:2,800円
  • 処方箋料および調剤技術料:680円
  • 薬剤費(種類により変動):2,100円~7,000円
  • 心電図検査料:1,500円
  • 血液検査料:3,000円

1か月の治療費

定期的な通院と投薬を含む1か月の診療費用は、症状の進行度や治療内容によって大きく異なります。

治療内容概算費用(3割負担)
外来診療15,000-25,000円
投薬治療9,000-21,000円
各種検査12,000-20,000円

長期にわたる治療において、医療費の計画的な管理は重要な課題となります。症状の重症度や選択する治療方針によって費用は変動しますが、継続的な治療を円滑に進めるためには、経済面での準備が必要不可欠です。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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