拡張型心筋症(DCM)

拡張型心筋症(DCM)

心筋疾患の一つである拡張型心筋症(DCM)は、心臓の筋肉が伸びて薄くなり、心臓全体が拡大する病気です。その結果、心臓のポンプ機能が低下し、全身への血液供給が不十分になります。

息切れ、疲労感、むくみなどが主な症状ですが、初期には無症状のことも多く、検診で心臓肥大を指摘されて発覚することもあります。

目次

拡張型心筋症(DCM)の症状

拡張型心筋症(DCM)は、心臓の筋肉が伸びて薄くなり、心臓のポンプ機能が低下する疾患です。このコーナーでは、拡張型心筋症の主な症状について詳しく紹介します。症状の現れ方や進行には個人差がありますが、早期発見と適切な対応が大切です。

初期症状

拡張型心筋症の初期症状は、他の心臓疾患と区別がつきにくいことがあります。初期には、軽い息切れや動悸、疲れやすさなどが現れることがあります。

しかし、これらの症状は日常的な疲れやストレスとも間違えやすく、見過ごされることも少なくありません。心臓に負担がかかる運動時や階段の昇り降りなどで症状が顕著になる場合があります。

症状特徴
息切れ軽い運動や安静時にも感じることがある
動悸心臓がドキドキしたり、脈が飛んだりする
疲労感日常生活で疲れやすく、休息しても回復しにくい
足のむくみ夕方以降に足首やふくらはぎがむくみ、靴下の跡が残りやすい
夜間の咳込み横になると咳が出やすく、呼吸が苦しくなるため、夜中に目が覚める

これらの症状が続く場合は、医療機関を受診することが重要です。

呼吸器系の症状

拡張型心筋症が進行すると、呼吸器系の症状がより顕著になります。心臓のポンプ機能が低下することで、肺に血液がたまりやすくなり、呼吸困難を引き起こします。息切れは、軽い運動時だけでなく、安静時にも起こるようになります。

また、横になると息苦しくなるため、就寝時に上半身を起こして寝る必要が出てくることもあります。

  • 息切れ
  • 呼吸困難
  • 夜間の咳込み
  • 起座呼吸(座らないと呼吸ができない)

循環器系の症状

拡張型心筋症の最も特徴的な症状は、心臓のポンプ機能の低下によるものです。心臓が全身に十分な血液を送ることができなくなるため、さまざまな循環器系の症状が現れます。動悸や胸の痛み、不整脈などが現れることがあります。

また、血圧の低下や脈拍の異常もみられることがあります。

症状特徴
動悸不規則な脈拍や頻脈がみられることがある
胸の痛み胸部に圧迫感や締め付けられるような痛みが生じることがある
不整脈脈が乱れたり、一時的に止まったりすることがある
低血圧めまいや立ちくらみが起こりやすくなる
脈拍異常脈が速くなったり、遅くなったりする

これらの症状は、心臓の状態が悪化しているサインである可能性が高いので、速やかに医師の診察を受ける必要があります。

全身症状

拡張型心筋症は、心臓だけでなく全身にも影響を及ぼします。心臓からの血液供給が不足することで、各臓器や組織に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなり、さまざまな全身症状が現れます。

  • 疲労感、倦怠感
  • 食欲不振
  • むくみ(特に下肢)
  • 体重増加
  • 肝腫大
  • 消化不良

特に、足のむくみは、心臓のポンプ機能低下により体内の水分バランスが崩れることで起こります。夕方以降に足首やふくらはぎがむくみ、靴下の跡が残りやすくなるのが特徴です。

症状特徴
疲労感日常生活で常に疲れているように感じる
食欲不振胃腸の働きが低下し、食欲がなくなる
むくみ特に足にむくみが生じやすく、重症化すると全身に及ぶこともある
体重増加短期間で急激に体重が増加することがある

これらの症状は、心不全の進行を示唆するサインである可能性もあるため、注意が必要です。

その他の症状

拡張型心筋症では、上記以外にもさまざまな症状が現れることがあります。例えば、失神やめまい、意識障害なども、心臓のポンプ機能が著しく低下した場合に起こることがあります。

また、血栓ができやすくなるため、脳梗塞や肺塞栓症などの合併症を引き起こす可能性もあります。

  • 失神、めまい
  • 意識障害
  • 血栓塞栓症(脳梗塞、肺塞栓症など)

これらの症状が出た場合は、緊急の対応が必要となることがあります。

拡張型心筋症の症状は多岐にわたりますが、早期に発見し、適切な対応をとることが重要です。気になる症状がある場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。

拡張型心筋症(DCM)の原因

拡張型心筋症(DCM)の原因は多岐にわたり、特定できない場合も少なくありませんが、いくつかの要因が知られています。

遺伝的な要因、ウイルス感染、自己免疫疾患、そして生活習慣などが複合的に関与すると考えられています。

遺伝的要因

拡張型心筋症の発症には、遺伝的要因が深く関わっているケースがあります。家族歴がある場合、発症リスクが高まることが知られています。

これまでに、拡張型心筋症の発症に関与する遺伝子が多数発見されており、これらの遺伝子の変異が心筋細胞の機能に異常を引き起こし、病気を発症させると考えられています。

遺伝子変異の種類によって、発症年齢や重症度も異なります。遺伝子検査を行うことで、遺伝的要因の有無を調べることが可能です。

遺伝子関与するタンパク質
TTNタイチン(心筋細胞の収縮に関わる)
LMNAラミンA/C(核膜の構造維持に関わる)
MYH7βミオシン重鎖(心筋細胞の収縮に関わる)
TNNT2心筋トロポニンT(心筋細胞の収縮調節に関わる)
DESデスミン(心筋細胞の構造維持に関わる)

遺伝的要因が関与する拡張型心筋症は、家族性拡張型心筋症と呼ばれ、若年で発症する傾向があります。

感染性要因

ウイルス感染が拡張型心筋症の原因となることがあります。特に、エンテロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルスB19などが心筋炎を引き起こし、その結果、心筋細胞が損傷を受けて拡張型心筋症を発症することがあります。

ウイルス感染後、数ヶ月から数年経過してから発症するケースもあるため、過去の感染歴を詳しく調べることも重要です。心筋生検を行うことで、心筋組織内にウイルスの遺伝子が存在するかどうかを調べることができます。

  • エンテロウイルス
  • アデノウイルス
  • パルボウイルスB19
  • インフルエンザウイルス
  • HIV

これらのウイルスが心筋に感染し炎症を引き起こすことで、心筋細胞が損傷し、拡張型心筋症を発症するリスクが高まります。

自己免疫疾患

自己免疫疾患も拡張型心筋症の原因の一つとして考えられています。自己免疫疾患とは、本来、体を守るべき免疫システムが、誤って自分自身の細胞や組織を攻撃してしまう病気です。

自己免疫疾患によって心筋細胞が攻撃され、炎症が起こり、心筋が損傷を受けることで、拡張型心筋症を発症することがあります。

例えば、全身性エリテマトーデスやサルコイドーシスなどの自己免疫疾患が、拡張型心筋症と関連していると報告されています。

自己免疫疾患特徴
全身性エリテマトーデス全身の複数の臓器に炎症を引き起こす疾患
サルコイドーシス全身の臓器に肉芽腫という炎症性の塊を形成する疾患
多発性筋炎・皮膚筋炎筋肉や皮膚に炎症を引き起こす疾患

これらの自己免疫疾患が心筋に影響を与え、拡張型心筋症を引き起こすことがあります。

その他の要因

上記以外にも、様々な要因が拡張型心筋症の発症に関与する可能性があります。アルコールの大量摂取、特定の薬剤の副作用、妊娠後期や産褥期の心筋症、栄養障害、内分泌疾患などが挙げられます。

特に、アルコールの大量摂取は、心筋細胞に直接的な毒性を示し、拡張型心筋症を引き起こすことが知られています。また、抗がん剤などの一部の薬剤も心毒性を持つことがあり、注意が必要です。

その他の要因特徴
アルコールの大量摂取エタノールが心筋細胞に直接的な毒性を示し、心筋障害を引き起こす
薬剤性抗がん剤(アントラサイクリン系薬剤など)や一部の抗不整脈薬などが心毒性を示すことがある
妊娠関連妊娠後期や産褥期に発症する心筋症で、原因は不明だが、血行動態の変化や免疫異常が関与すると考えられている
内分泌疾患甲状腺機能亢進症や糖尿病などが心筋に影響を与え、心筋症を引き起こすことがある
栄養障害ビタミンB1欠乏(脚気)などが心筋障害を引き起こすことがある

これらの要因は単独で発症に関与するだけでなく、他の要因と複合的に作用することで、拡張型心筋症の発症リスクを高めることがあります。

原因不明の拡張型心筋症

拡張型心筋症の中には、上記のような原因が特定できない特発性のものも多く存在します。特発性拡張型心筋症は、原因が不明であるため、治療法も限られてきます。

しかし、近年、遺伝子解析技術の進歩により、これまで原因不明とされていた拡張型心筋症の一部に、遺伝的な要因が関与していることが明らかになりつつあります。

拡張型心筋症の原因は多岐にわたりますが、早期に原因を特定し、適切な対応をとることが重要です。原因が特定できない場合でも、症状の緩和や心機能の維持を目的とした治療が行われます。

拡張型心筋症(DCM)の検査・チェック方法

拡張型心筋症(DCM)の診断は、患者さんの症状や既往歴の聴取、身体診察、そして各種検査を組み合わせて行われます。

これらの情報を総合的に判断し、拡張型心筋症の有無や重症度を評価します。早期に正確な診断を行うことが、その後の適切な対応につながります。

問診と身体診察

診察の第一歩は、丁寧な問診と身体診察です。問診では、患者さんの症状(息切れ、動悸、疲労感など)、既往歴、家族歴、生活習慣などについて詳しくお尋ねします。

特に、心疾患の家族歴や過去の感染症の有無は重要な情報です。身体診察では、聴診により心音や呼吸音の異常を聴き分け、浮腫や頸静脈怒張などの徴候がないかを確認します。

診察項目内容
問診症状、既往歴、家族歴、服薬歴、生活習慣(飲酒、喫煙など)
身体診察血圧測定、心音・呼吸音聴診、浮腫の有無、頸静脈怒張の有無、肝腫大の有無

問診と身体診察で得られた情報は、その後の検査の選択や診断の際に役立ちます。

心電図検査

心電図検査は、心臓の電気的な活動を記録する検査で、拡張型心筋症の診断において重要な役割を果たします。心電図検査では、心拍数、リズム、心筋の虚血や障害の有無などを評価します。

拡張型心筋症では、心房細動や心室性期外収縮などの不整脈や、心室内伝導障害などが認められることがあります。また、左室肥大やST-T変化といった特徴的な所見が見られることもあります。

  • 心拍数、リズムの評価
  • 不整脈の検出
  • 心筋虚血、障害の検出
  • 心室内伝導障害の検出
  • 左室肥大の評価

心電図検査は簡便で非侵襲的な検査であり、スクリーニング検査としても広く用いられます。

心エコー検査

心エコー検査は、超音波を用いて心臓の形態や機能を評価する検査で、拡張型心筋症の診断において不可欠な検査です。心エコー検査では、心臓の大きさ(心腔拡大)、壁の厚さ(心筋菲薄化)、動き(収縮能低下)、弁膜症の有無などを詳細に評価することができます。

左室の拡大や収縮能の低下は、拡張型心筋症の診断において重要な指標となります。また、心エコー検査は、心臓内の血栓の有無や心臓の圧力を評価するためにも用いられます。

検査項目内容
左室拡張末期径左心室が拡張したときの最大径。拡張型心筋症ではこの値が増大します。
左室駆出率心臓が収縮する際に、左心室から送り出される血液の割合。拡張型心筋症ではこの値が低下します。
心筋壁厚心臓の筋肉の厚さ。拡張型心筋症では心筋が薄くなります。
弁膜症の有無心臓の弁の異常(逆流や狭窄)の有無を評価します。

心エコー検査は、リアルタイムで心臓の動きを観察できるため、心臓の機能を動的に評価することができます。

血液検査

血液検査も、拡張型心筋症の診断や重症度評価に役立ちます。血液検査では、心不全の指標となるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)やNT-proBNP(N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド)の値を測定します。

これらの値は、心臓に負担がかかると上昇するため、心不全の重症度を評価するのに役立ちます。また、肝機能や腎機能、電解質などを評価することで、全身状態を把握し、合併症の有無を調べることができます。

  • BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)
  • NT-proBNP(N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド)
  • 肝機能検査(AST、ALTなど)
  • 腎機能検査(クレアチニン、尿素窒素など)
  • 電解質(ナトリウム、カリウムなど)

血液検査は、他の疾患との鑑別や、治療効果の判定にも用いられます。

その他の検査

上記以外にも、必要に応じて様々な検査が行われます。胸部X線検査では、心臓の大きさや肺うっ血の有無を評価します。心臓MRI検査では、心筋の性状や線維化の程度を詳細に評価することができます。

また、心臓カテーテル検査や心筋生検は、確定診断や重症度評価のために行われることがあります。心臓カテーテル検査では、心臓内の圧力を測定したり、冠動脈造影を行って冠動脈疾患の有無を調べたりします。

心筋生検では、心筋組織を採取して顕微鏡で観察し、炎症や線維化の程度を評価します。これらの検査は、他の検査結果と総合的に判断し、必要に応じて行われます。

拡張型心筋症の診断は、これらの検査結果を総合的に判断して行われます。早期に診断し、適切な対応をとることが重要です。

拡張型心筋症(DCM)の治療方法と治療薬について

拡張型心筋症(DCM)の治療目的は、心不全症状の改善、生命予後の延長、そして生活の質の向上です。患者さんの状態に合わせた最適な治療法を選択するために、医師との綿密な相談が大切です。

薬物療法

拡張型心筋症の薬物療法は、心不全の進行を抑え、症状を改善するために重要です。複数の薬剤を組み合わせることもあります。医師は、患者さんの状態に合わせて薬の種類や量を調整します。

利尿薬

利尿薬は体内の余分な水分を排出する薬で、拡張型心筋症に伴う息切れやむくみを軽減します。ただし、利尿薬は脱水や電解質異常を引き起こす可能性があるため、定期的な血液検査によるモニタリングが必要です。

薬剤名作用機序副作用
フロセミドヘンレ係蹄上行脚に作用し、ナトリウムの再吸収を阻害する脱水、低カリウム血症、低ナトリウム血症、低マグネシウム血症
トリアムテレン遠位尿細管に作用し、ナトリウムの再吸収を阻害する高カリウム血症
スピロノラクトンアルドステロンの作用を阻害する高カリウム血症

ACE阻害薬 / ARB

ACE阻害薬とARBは、心臓の負担を軽減し、心不全の進行を抑制する薬です。血管を拡張する作用があり、血圧を下げる効果も期待できます。これらの薬剤は、腎機能に影響を与える可能性があるため、腎機能検査値の確認が必要です。

  • ACE阻害薬:エナラプリル、カプトプリルなど
  • ARB:ロサルタン、カンデサルタンなど

β遮断薬

β遮断薬は、心臓の拍動数を抑え、心筋の収縮力を弱めることで、心臓の負担を軽減する薬です。心不全の症状を改善し、生命予後を延長する効果が期待できます。

ただし、β遮断薬は徐脈や気管支収縮などの副作用を引き起こす可能性もあるため、慎重に投与する必要があります。

  • カルベジロール
  • メトプロロール
  • ビソプロロール
薬剤名作用機序副作用
カルベジロールβ1、β2、α1受容体遮断徐脈、めまい、倦怠感、気管支収縮、冷感
メトプロロールβ1受容体遮断徐脈、めまい、倦怠感

β遮断薬は心不全治療において重要な役割を果たしますが、喘息など呼吸器疾患のある患者さんには慎重に投与する必要があります。

非薬物療法

拡張型心筋症の治療は、薬物療法だけでなく、生活習慣の改善などの非薬物療法も重要です。

食塩制限

食塩の過剰摂取は、体内の水分貯留を促進し、心臓への負担を増大させます。1日の食塩摂取量を6g以下に制限することが推奨されます。

水分制限

過剰な水分摂取も、心臓への負担を増大させるため、水分制限が必要です。医師の指示に従い、適切な水分量を摂取しましょう。

禁酒、禁煙

アルコールとタバコは、心臓に悪影響を与えるため、禁酒と禁煙が必要です。

適度な運動

適度な運動は、心臓の機能を維持・改善するために重要です。ただし、激しい運動は心臓に負担をかけるため、医師と相談の上、適切な運動量を決めましょう。

拡張型心筋症の治療は長期にわたることが多く、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療が必要です。医師とよく相談し、指示に従って治療を続けることが大切です。

拡張型心筋症(DCM)の治療期間

薬物療法の期間

拡張型心筋症の薬物療法は、心不全症状の改善や進行抑制を目的として行われ、多くの場合、生涯にわたって継続する必要があります。薬の種類や用量は、患者さんの病状や治療への反応性に応じて調整されます。

定期的な血液検査や心電図、心エコー検査を行いながら、治療効果と副作用のバランスを評価し、最適な薬物療法を継続します。

薬剤の種類治療期間
利尿薬むくみがある間、継続的に服用します。
ACE阻害薬/ARB心不全の進行抑制のため、基本的に生涯にわたって服用を継続します。
β遮断薬心不全の進行抑制のため、基本的に生涯にわたって服用を継続します。

薬物療法は長期にわたるため、患者さん自身の服薬アドヒアランス(服薬遵守)が重要です。

生活習慣改善の期間

食生活の改善、適度な運動、禁酒・禁煙などの生活習慣の改善も、拡張型心筋症の治療において重要です。これらの生活習慣の改善は、薬物療法と並行して行われ、長期間にわたって継続する必要があります。

継続的な生活習慣の改善は、心不全症状の改善だけでなく、生活の質の向上にも繋がります。

  • 食塩制限:生涯継続
  • 水分制限:医師の指示に従う
  • 禁酒、禁煙:生涯継続
  • 適度な運動:生涯継続

生活習慣の改善は、地道な努力が必要ですが、心不全の進行を抑制し、健康な生活を送るために不可欠です。

定期的な検査の期間

拡張型心筋症の患者さんは、定期的に検査を受ける必要があります。検査の頻度は、病状の重症度や治療への反応性によって異なりますが、一般的には3ヶ月から6ヶ月ごとに行われます。

心電図や心エコー検査、血液検査などを行い、心機能や全身状態の変化をモニタリングすることで、治療効果の判定や病状の進行度合いを把握し、必要に応じて治療方針を修正します。

検査の種類頻度
心電図検査3ヶ月〜6ヶ月ごと、または症状悪化時
心エコー検査3ヶ月〜6ヶ月ごと、または症状悪化時
血液検査1ヶ月〜3ヶ月ごと、または症状悪化時

定期的な検査は、病状の変化を早期に発見し、適切な対応をとるために重要です。

病状の経過と治療期間

拡張型心筋症の経過は、患者さんによって大きく異なります。軽症の場合は、薬物療法と生活習慣の改善によって症状が安定し、長期間にわたって日常生活を送ることが可能です。

一方、重症の場合は、心不全が悪化し、入院が必要となることもあります。また、心移植が必要となるケースもあります。

病状の重症度治療期間
軽症薬物療法と生活習慣の改善を継続し、定期的な検査を受けながら、長期間にわたって日常生活を送ることが可能です。
中等症病状の変化に応じて薬物療法や生活習慣指導の内容を調整し、入院が必要となることもあります。
重症集中的な薬物療法や補助人工心臓、心移植などが必要となることもあります。

拡張型心筋症は、生涯にわたる治療が必要な疾患です。患者さん一人ひとりの病状に合わせた最適な治療を選択し、継続していくことが重要です。

薬の副作用や治療のデメリットについて

拡張型心筋症(DCM)の治療は、心機能の改善や症状の緩和を目指しますが、治療に伴う副作用やリスクも存在します。

薬物療法の副作用

拡張型心筋症の治療に用いる薬剤には、それぞれ副作用があります。副作用の発現には個人差があり、全ての方に副作用が現れるわけではありません。しかし、副作用の可能性を理解し、適切な対処をすることが大切です。

利尿薬

利尿薬は、体内の水分を排出することでむくみや息切れを改善しますが、脱水症状や電解質異常を引き起こすことがあります。脱水症状としては、めまいや立ちくらみ、口渇などが挙げられます。

電解質異常としては、低カリウム血症や低ナトリウム血症などが起こりえます。これらの副作用が現れた場合は、医師に相談し、薬の用量調整や電解質補充などの適切な処置を受ける必要があります。

副作用説明
脱水症状体内の水分が不足した状態。めまい、立ちくらみ、口渇、倦怠感などを引き起こします。
低カリウム血症血液中のカリウム濃度が低下した状態。筋肉の脱力感や不整脈のリスクを高めます。
低ナトリウム血症血液中のナトリウム濃度が低下した状態。吐き気、頭痛、意識障害などを引き起こすことがあります。

ACE阻害薬/ARB

ACE阻害薬とARBは、血管拡張作用により心臓の負担を軽減しますが、空咳や腎機能低下などの副作用が現れることがあります。特に、腎機能が低下している患者さんは、これらの薬剤を使用する際に注意が必要です。

腎機能検査などを定期的に行い、腎機能の状態をモニタリングすることが重要です。

  • 空咳:ACE阻害薬で比較的多くみられる副作用です。
  • 腎機能低下:腎臓の機能が低下し、老廃物が体内に蓄積する状態です。
  • 低血圧:血圧が異常に低くなる状態です。めまい、立ちくらみなどを引き起こします。
薬剤副作用説明
ACE阻害薬空咳薬剤による刺激で咳が生じます。
ACE阻害薬腎機能低下腎臓への血流が変化し、腎機能が低下することがあります。
ARB腎機能低下腎臓への血流が変化し、腎機能が低下することがあります。

β遮断薬

β遮断薬は、心臓の拍動数を抑え、心臓の負担を軽減しますが、徐脈やめまい、倦怠感などの副作用を引き起こすことがあります。

また、喘息などの呼吸器疾患を悪化させる可能性もあるため、呼吸器疾患のある患者さんには慎重に投与する必要があります。

  • 徐脈:脈拍が遅くなる状態。
  • めまい:平衡感覚が失われる状態。
  • 倦怠感:強い疲労感。
  • 呼吸困難:息苦しさを感じる状態。喘息患者さんなどで悪化する可能性があります。

その他のリスク

薬物療法以外にも、拡張型心筋症の治療には、以下のようなリスクが伴う場合があります。

心不全の悪化

拡張型心筋症は進行性の疾患であり、治療を受けていても心不全が悪化することがあります。心不全が悪化すると、息切れやむくみなどの症状が悪化し、入院が必要となる場合もあります。

不整脈

拡張型心筋症の患者さんは、不整脈を起こしやすくなります。不整脈の中には、生命に関わる危険な不整脈もあるため、適切な治療が必要です。例えば、心房細動は脳梗塞のリスクを高めるため、抗凝固薬などによる治療が必要になります。

血栓塞栓症

拡張型心筋症の患者さんは、心臓内に血栓(血液の塊)ができやすくなります。血栓が剥がれて血管を詰まらせると、脳梗塞や肺塞栓症などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

拡張型心筋症の治療は、これらの副作用やリスクを考慮しながら、患者さんにとって最善の方法を選択する必要があります。治療に関する疑問や不安があれば、医師に相談することが大切です。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

処方薬の薬価

薬価は、厚生労働大臣が定める薬剤の価格です。薬価基準収載医薬品を使用した場合、健康保険が適用され、自己負担額は薬価の3割(70歳以上の方などは1割または2割)となります。

薬剤名薬価(1錠あたり)
カルベジロール20円
エナラプリル10円
フロセミド5円

1週間の治療費

1週間の治療費は、診察料、検査費用、薬剤費などを含めて、約5,000円~10,000円が目安です。初診時や精密検査を行う場合は、費用がさらに高くなることがあります。

  • 診察料:約2,000円
  • 薬剤費:約1,000円~3,000円
  • 検査費用:約2,000円~5,000円

1か月の治療費

1か月の治療費は、週1回の通院で、約20,000円~40,000円が目安です。ただし、入院が必要な場合や、手術が必要な場合は、費用が大幅に増加することがあります。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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