先天性心疾患の一種である三尖弁閉鎖症(TA)とは、胎児期の心臓発達過程において、右心房と右心室を接続する三尖弁が正常に形成されなかった状態を指します。
この心臓の構造的特徴により、静脈からの血液は通常とは異なる経路で流れることとなり、心臓内で酸素に富んだ血液と酸素の少ない血液が混ざり合うことになります。
その結果として、体全体への酸素供給が制限され、特徴的な症状としてチアノーゼ(唇や手足の先が青紫色になる状態)が観察されることがあります。
三尖弁閉鎖症(TA)の病型
三尖弁閉鎖症(TA)の病型は、肺血流量の多寡により3つに分類されます。
この分類は血行動態の特徴を理解する上で重要な指標となり、I型(肺血流減少型)、II型(肺血流正常型)、III型(肺血流増加型)に区分されます。
病型分類の基本的な考え方
肺血流量は心臓の構造異常と密接に関連しており、特に肺動脈の発達状態が病型を決定づける主要因となります。
心室中隔欠損(心臓の左右の心室の間にある壁に開いた穴)の大きさや位置、肺動脈狭窄(肺動脈が狭くなっている状態)の程度によって、各型における血行動態は異なる特徴を示します。
統計的には、I型が全体の約70%を占め、II型が約25%、III型が約5%の割合で発症します。ただし、これらの数値は地域や報告により若干の変動があります。
病型 | 発症頻度 | 主な特徴 | 肺血流の特徴 |
---|---|---|---|
I型 | 約70% | 肺動脈狭窄を伴う | 顕著な減少 |
II型 | 約25% | 中等度の心室中隔欠損 | ほぼ正常 |
III型 | 約5% | 大きな心室中隔欠損 | 著明な増加 |
I型(肺血流減少型)の特徴
I型では、肺動脈弁狭窄または閉鎖を伴うことが特徴的です。この状態では、心室中隔欠損(VSD)を介して左室から肺動脈への血液供給が制限され、肺血流量は通常の30〜50%程度まで減少します。
肺動脈弁の狭窄度は症例により異なりますが、多くの場合、弁口面積は正常値の25%以下となっています。この構造的特徴により、体循環と肺循環のバランスは独特の様相を呈します。
- 肺動脈弁狭窄または閉鎖(弁口面積:正常の25%以下)
- 心室中隔欠損を介した制限された肺血流(通常の30〜50%)
- 左室からの血液供給制限(圧較差:平均50〜80mmHg)
II型(肺血流正常型)の血行動態
II型における血行動態は、適度な大きさの心室中隔欠損(通常6〜12mm程度)が重要な役割を果たします。
肺動脈弁に顕著な狭窄がない一方で、心室中隔欠損を通じた血流が自然に制限されることで、肺血流量は概ね正常値の80〜120%の範囲内に維持されます。
構造的特徴 | 数値データ | 血行動態への影響 |
---|---|---|
心室中隔欠損サイズ | 6〜12mm | 適度な血流制御 |
肺動脈圧 | 15〜25mmHg | 正常範囲内維持 |
肺体血流比 | 0.8〜1.2 | バランスの保持 |
III型(肺血流増加型)の循環特性
III型では、比較的大きな心室中隔欠損(通常12mm以上)が存在し、肺動脈弁狭窄を伴いません。この構造により、左室から肺動脈への血液流入が増加し、肺血流量は正常値の150〜200%に達します。
肺体血流比(Qp/Qs)は通常2.0以上となり、この増加した肺血流は特徴的な血行動態を形成します。左室の拡張期圧は平均12〜18mmHgと上昇し、これにより特徴的な循環動態が生じます。
- 大きな心室中隔欠損(12mm以上)の存在
- 肺体血流比(Qp/Qs)2.0以上
- 左室拡張期圧12〜18mmHg
三尖弁閉鎖症の各病型は、それぞれ特徴的な循環動態を示しますが、これらは連続的なスペクトラムとして理解することが大切です。
三尖弁閉鎖症(TA)の症状
三尖弁閉鎖症(TA)の症状は、肺血流量の違いにより大きく異なります。I型(肺血流減少型)、II型(肺血流正常型)、III型(肺血流増加型)の各病型で特徴的な症状が現れ、日常生活への影響も病型により異なる様相を示します。
病型による症状の違いと特徴
三尖弁閉鎖症の症状は、心臓内の血液循環の特性によって明確な違いを示します。心臓から送り出される血液量が減少すると、酸素飽和度は通常の95-100%から、I型では70-85%、II型では80-90%、III型では85-95%程度まで低下します。
このような酸素飽和度の変化は、体の各部位に異なる影響を与え、それぞれの病型に特有の症状として表れます。
病型 | 酸素飽和度 | 心拍数(安静時) | 呼吸数(/分) |
---|---|---|---|
I型 | 70-85% | 140-160 | 50-70 |
II型 | 80-90% | 120-140 | 40-60 |
III型 | 85-95% | 130-150 | 45-65 |
I型(肺血流減少型)に特徴的な症状
I型では、肺血流量が正常値の30-50%まで減少することにより、生後早期から顕著な症状が出現します。新生児期には啼泣時の口唇チアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色になる状態)が特徴的で、酸素飽和度は啼泣時にさらに5-10%低下します。
乳児期の体重増加は月齢相応の標準値と比較して60-80%程度にとどまり、身長の伸びも同様に影響を受けます。
- 安静時心拍数140-160回/分(正常値100-120回/分)
- 呼吸数50-70回/分(正常値30-40回/分)
- 経皮的酸素飽和度70-85%(正常値95-100%)
II型(肺血流正常型)における症状の特徴
II型では、肺血流量が正常の80-120%程度に保たれているため、症状は比較的穏やかに推移します。しかし、心臓への負担は確実に進行し、年齢とともに症状は変化していきます。
発達段階 | 運動耐容能 | 成長への影響 | 日常生活制限 |
---|---|---|---|
乳児期 | 軽度低下 | 軽微 | 最小限 |
幼児期 | 中等度低下 | 身長-1SD程度 | 部分的 |
学童期 | 明確な低下 | 身長-1.5SD程度 | 要調整 |
III型(肺血流増加型)で見られる特徴的な症状
III型では、肺血流量が正常の150-200%に達することで、特徴的な心不全症状が出現します。安静時心拍数は120-160回/分と増加し、呼吸数も40-60回/分となります。
これらの症状は日内変動を示し、特に午後から夕方にかけて増強する傾向があります。
- 1回換気量:3-4ml/kg(正常値4-6ml/kg)
- 1日尿量:2-3ml/kg/時(正常値1-2ml/kg/時)
- 心胸郭比:60-65%(正常値50-55%)
病型に関わらず、早期からの症状の把握と継続的な観察が必要です。
三尖弁閉鎖症(TA)の原因
三尖弁閉鎖症(TA)の発症には、胎児期の心臓発達過程における複数の要因が関与します。遺伝的要因、環境要因、そして胎児期の心臓発達における特定の時期の異常が、この疾患の主要な原因として知られています。
これらの要因が単独で、または組み合わさって作用することで、心臓の構造異常が引き起こされると考えられています。
遺伝的要因とその影響
遺伝子の変異や染色体異常は、三尖弁閉鎖症の発症に深く関わっています。心臓発生に関与する遺伝子群の中でも、特にNKX2.5やGATA4といった転写因子の変異は、全体の約15-20%の症例で確認されています。
染色体異常との関連では、22q11.2欠失症候群との合併が3-5%の頻度で認められ、21トリソミー(ダウン症候群)との関連も報告されています。
遺伝要因の種類 | 発症への寄与率 | 主な影響 |
---|---|---|
単一遺伝子変異 | 15-20% | 心臓発生異常 |
染色体異常 | 5-10% | 複合的影響 |
多因子遺伝 | 70-80% | 環境要因との相互作用 |
環境要因と胎児期の影響
妊娠初期(特に第4-8週)における環境要因の影響は特に顕著で、この時期の母体環境が心臓の発生に重大な影響を与えます。
胎児期の低酸素状態は、心臓発生に関与する遺伝子の発現を20-30%低下させ、これにより心臓の構造形成に影響を及ぼすことが分かっています。
環境因子 | 影響を受ける時期 | 発生への影響度 |
---|---|---|
低酸素状態 | 妊娠4-8週 | 中度〜重度 |
栄養状態 | 全期間 | 軽度〜中度 |
薬剤暴露 | 器官形成期 | 重度 |
発生学的メカニズム
心臓発生の過程では、胎生第21-28日目に心管が形成され、その後の分化過程で三尖弁が形成されます。この過程での異常により、三尖弁閉鎖症が発生します。
発生過程における重要なポイントは以下の通りです。
- 心内膜床形成(胎生第28-35日)
- 心房心室中隔形成(胎生第35-42日)
- 房室弁形成(胎生第42-56日)
各段階での異常は、それぞれ特徴的な構造異常をもたらします。
発生段階 | 時期 | 主要な形成過程 | 発生頻度 |
---|---|---|---|
初期 | 3-4週 | 心管形成 | 30-40% |
中期 | 5-6週 | 心腔分割 | 40-50% |
後期 | 7-8週 | 弁形成 | 20-30% |
三尖弁閉鎖症の発症メカニズムは複雑で、遺伝的要因と環境要因が絡み合って影響を及ぼすことが明らかになっています。
三尖弁閉鎖症(TA)の検査・チェック方法
三尖弁閉鎖症(TA)の診断には、段階的なアプローチが必要です。身体診察から始まり、聴診、心電図検査、胸部X線検査、心臓超音波検査(エコー)、心臓カテーテル検査など、複数の検査を組み合わせて総合的に判断します。
また、出生前診断として胎児期のスクリーニング検査も重要な役割を果たしています。
身体診察と基本的な検査
新生児期の身体診察では、経皮的酸素飽和度(SpO2)を測定し、正常値95-100%に対して80-90%程度の低値を示すことが多いです。聴診では、収縮期雑音(心臓の収縮時に聞こえる異常な音)を胸骨左縁第2-3肋間で確認します。
診察項目 | 評価基準 | 典型的な数値 |
---|---|---|
SpO2 | 80-90% | 正常値の80-85% |
心拍数 | 140-160回/分 | 正常値の120-130% |
呼吸数 | 50-70回/分 | 正常値の150-175% |
心電図検査では、QRS軸が-30度から-120度の範囲を示し、右房負荷を示すP波高が2.5mm以上となることが特徴です。また、左室肥大所見としてV5、V6誘導でのR波高が年齢相応の基準値の120-150%を超えることが多いです。
画像診断による精密検査
心臓超音波検査では、三尖弁輪径(心臓の弁の大きさ)が正常値の50%以下、または完全な閉鎖を認めます。右室容積は正常の30-60%に減少し、左室容積は正常の120-150%に増大します。
エコー指標 | I型 | II型 | III型 |
---|---|---|---|
三尖弁輪径 | <3mm | 3-5mm | >5mm |
肺動脈弁輪径 | 4-6mm | 6-8mm | 8-10mm |
右室容積 | 30-40% | 40-50% | 50-60% |
心臓カテーテル検査による機能評価
心臓カテーテル検査では、各心腔内の圧測定と酸素飽和度の評価を行います。右房圧は平均8-15mmHg(正常値2-6mmHg)、左房圧は平均6-12mmHg(正常値4-8mmHg)を示します。
- 混合静脈血酸素飽和度:45-55%(正常値60-80%)
- 肺動脈楔入圧:10-18mmHg(正常値6-12mmHg)
- 心拍出量:2.5-3.5L/min/m²(正常値3.5-5.0L/min/m²)
出生前診断と胎児スクリーニング
胎児心エコー検査は妊娠18-22週での実施が一般的で、四腔断面での評価により約80%の確率で診断が可能です。
妊娠週数 | 検査項目 | 診断率 |
---|---|---|
18-20週 | 四腔断面 | 75-80% |
20-22週 | 流出路 | 85-90% |
22-24週 | 詳細構造 | 90-95% |
確定診断には、これらの検査結果を統合的に判断することが大切です。
三尖弁閉鎖症(TA)の治療方法と治療薬について
先天性心疾患の一種である三尖弁閉鎖症(TA)の治療と処方薬について、病型別の治療戦略と段階的手術療法を中心に説明します。薬物療法、手術療法、長期的な管理方針など、治療の全体像を具体的に示していきます。
三尖弁閉鎖症の病型別治療戦略
三尖弁閉鎖症の治療方針において、肺血流量に基づく病型分類が治療成績を左右する重要な因子となります。I型(肺血流減少型)では、生後1週間以内に体肺動脈短絡手術(シャント手術)を実施し、肺血流量を体重1kgあたり200-250ml/分に調整することで、適切な酸素化を維持します。
II型(肺血流正常型)の患者さんでは、心房中隔裂開術によって心房間の血流バランスを整えます。この手術では、心房間の圧較差を5-10mmHg程度に調整することで、安定した血行動態を実現しています。
III型(肺血流増加型)の治療では、過剰な肺血流による心不全を防ぐため、肺動脈絞扼術を行い、肺動脈圧を収縮期で30-40mmHg程度にコントロールします。
病型 | 手術時期 | 目標とする血行動態指標 |
---|---|---|
I型 | 生後1週間以内 | 肺血流量 200-250ml/kg/分 |
II型 | 生後1-2ヶ月 | 心房間圧較差 5-10mmHg |
III型 | 生後2-4週間 | 肺動脈収縮期圧 30-40mmHg |
段階的手術療法の実際
三尖弁閉鎖症における段階的手術療法は、患者さんの体重や心機能に応じて慎重に進められます。新生児期の初期治療後、体重が5-6kg程度に成長した時点で、グレン手術(上大静脈肺動脈吻合術)を実施します。
手術の成功率は医療機関によって異なりますが、一般的に初期治療の手術成功率は85-90%、グレン手術では90-95%となっています。フォンタン手術の実施時期は、通常2-4歳で体重が12-15kg以上に達した時点を目安としています。
- 新生児期初期治療:生存率85-90%(体重2.5kg以上が望ましい)
- グレン手術:手術成功率90-95%(体重5-6kg以上)
- フォンタン手術:手術成功率85-90%(体重12-15kg以上)
- 長期生存率:10年生存率80%程度
薬物療法による治療支援
手術前後の薬物療法では、患者さんの体重や腎機能に応じて投与量を細かく調整します。利尿薬は体重1kgあたりフロセミド1-2mg、スピロノラクトン2-3mgを基準として投与し、尿量が1日1.5-2.0ml/kg/時となるように調整します。
使用薬剤 | 標準投与量 | 投与間隔 |
---|---|---|
フロセミド | 1-2mg/kg | 8-12時間毎 |
スピロノラクトン | 2-3mg/kg | 12-24時間毎 |
ワーファリン | PT-INR 2.0-3.0 | 24時間毎 |
長期フォローアップと投薬管理
フォンタン循環(手術により作られた新しい血行動態)を長期的に維持するため、定期的な検査と投薬管理が必須となります。心エコー検査では心室駆出率50%以上、心房収縮能30%以上を維持することを目標とします。
検査項目 | 管理目標値 | 評価頻度 |
---|---|---|
BNP値 | 100pg/ml未満 | 3ヶ月毎 |
SpO2 | 92%以上 | 毎日 |
体重増加 | 標準体重の±15%以内 | 週1回 |
合併症への対応と予後改善策
術後合併症の発生頻度は、不整脈が20-30%、血栓塞栓症が5-15%、心不全が10-20%程度と報告されています。これらの合併症に対しては、早期発見と迅速な対応が予後を大きく改善させます。
- 不整脈:抗不整脈薬の使用で70-80%がコントロール可能
- 血栓塞栓症:定期的な凝固能検査でPT-INR 2.0-3.0を維持
- 心不全:利尿薬調整で尿量1.5-2.0ml/kg/時を確保
- 感染性心内膜炎:予防的抗生物質投与で発生率1%未満に抑制
フォンタン手術後の10年生存率は80%程度まで改善しており、適切な治療とフォローアップにより、多くの患者さんが良好な予後を得ています。
三尖弁閉鎖症(TA)の治療期間
先天性心疾患の一種である三尖弁閉鎖症(TA)の治療期間について、病型別の特徴と長期的な経過観察の必要性を中心に示していきます。
新生児期から成人期まで、各段階で必要となる医療的介入の時期と期間について具体的に説明します。
病型別の初期治療期間
三尖弁閉鎖症の治療期間において、病型による違いが患者さんの入院期間と回復過程に大きな影響を及ぼします。
I型(肺血流減少型)の患者さんでは、出生後から酸素飽和度が90%未満となるため、生後24時間以内に集中治療室での管理を開始し、その後7日以内に短絡手術を実施します。
II型(肺血流正常型)における入院期間は、心房中隔裂開術の実施時期によって変動しますが、一般的に生後1-2ヶ月での手術が推奨されており、術後の心機能が安定するまでに約14-21日を要します。
III型(肺血流増加型)の治療では、肺うっ血の程度に応じて入院期間が延長することがあり、肺血流のコントロールが達成されるまでに平均して21-28日の入院管理が必要となります。
病型 | 手術までの期間 | ICU滞在期間 | 一般病棟期間 |
---|---|---|---|
I型 | 7日以内 | 5-7日 | 14-21日 |
II型 | 30-60日 | 3-5日 | 10-14日 |
III型 | 14-28日 | 4-6日 | 14-21日 |
段階的手術の実施時期と間隔
初期治療から最終的なフォンタン手術までの道のりには、患者さんの体重増加と心機能の安定が重要な指標となります。
新生児期の初期治療後、体重が6kg以上に達した時点でグレン手術の実施を検討し、その後フォンタン手術まで約18-24ヶ月の間隔を設けることで、心臓への負担を最小限に抑えながら段階的な循環改善を目指します。
- 初期治療:出生後24-48時間以内に開始(体重2.5kg以上が目安)
- グレン手術:生後4-6ヶ月(体重6kg以上が目安)
- フォンタン手術:2-4歳(体重12-15kg以上が目安)
- 各手術後のリハビリ期間:術後3-6週間
外来フォローアップの期間設定
生涯にわたる経過観察において、年齢や成長段階に応じた診察間隔の調整が必須となります。乳幼児期では、体重増加が1日あたり20-30g未満の場合は週1回の診察を行い、発達指標に基づいて受診間隔を徐々に延長していきます。
発達段階 | 体重増加目標 | 診察間隔 | 検査項目数 |
---|---|---|---|
新生児期 | 20-30g/日 | 週1回 | 5-7項目 |
乳児期 | 15-20g/日 | 2週間毎 | 4-6項目 |
幼児期 | 10-15g/日 | 月1回 | 3-5項目 |
成長に応じた治療期間の調整
身体発達の各段階において、心機能評価と併せて総合的な成長評価を実施します。乳幼児期では身長・体重の増加が標準的な成長曲線の-2SD以内に収まることを目標とし、3ヶ月ごとの詳細な評価を行います。
年齢区分 | 評価頻度 | 評価項目数 | 評価期間 |
---|---|---|---|
0-1歳 | 月1回 | 8-10項目 | 2-3日間 |
1-3歳 | 2ヶ月毎 | 6-8項目 | 1-2日間 |
3-6歳 | 3ヶ月毎 | 5-7項目 | 1日間 |
長期的なケアの時期と期間
継続的な医療支援において、年齢層ごとの特性を考慮した診療計画を立案します。小児期から成人期への移行期には特に注意深い観察が必要で、心機能の指標となるBNP値が100pg/ml以下を維持できているかどうかを確認します。
- 幼児期(3-6歳):月1回の定期検査(所要時間2-3時間)
- 学童期(7-12歳):2ヶ月毎の定期検査(所要時間1.5-2時間)
- 思春期(13-18歳):3ヶ月毎の定期検査(所要時間1-1.5時間)
- 成人期(19歳以上):4-6ヶ月毎の定期検査(所要時間1時間程度)
三尖弁閉鎖症の治療には長期的な医療支援と定期的な経過観察が欠かせませんが、適切な時期に必要な医療を受けることで、多くの患者さんが日常生活を送ることができます。
薬の副作用や治療のデメリットについて
先天性心疾患の一種である三尖弁閉鎖症(TA)の治療における副作用やリスクについて、病型別の特徴と発生頻度、対処方法を中心に示していきます。
病型別の手術に関連するリスク
各病型における手術のリスク管理では、術後の血行動態変化に応じた綿密な観察と迅速な対応が必須となります。
I型(肺血流減少型)の患者さんでは、短絡手術後24時間以内に血栓形成のリスクが15-20%に上昇し、特に体重が3kg未満の新生児では、その割合が25%まで増加します。
II型(肺血流正常型)の心房中隔裂開術後には、術後48時間以内に10-15%の確率で不整脈が発生し、心拍数が180/分を超える頻脈性不整脈では、緊急の薬物介入が必要となりますが、多くは一過性の変化にとどまります。
III型(肺血流増加型)における術後管理では、肺血管抵抗が通常の2-3倍まで上昇することがあり、心不全の発生率は20-25%に達します。この数値は患者さんの年齢が上がるにつれて漸増し、10歳以上では30%を超える傾向にあります。
合併症 | 早期(術後7日以内) | 中期(1ヶ月以内) | 遠隔期(1年以上) |
---|---|---|---|
血栓症 | 15-20% | 5-10% | 1-3% |
不整脈 | 10-15% | 8-12% | 5-8% |
心不全 | 20-25% | 15-20% | 10-15% |
投薬治療における副作用
薬物療法に伴う副作用の発現率は薬剤の種類と投与量に大きく依存し、特に抗凝固薬では、PT-INR値が4.0を超えると重篤な出血合併症のリスクが急激に上昇します。
利尿薬の長期使用では、血清カリウム値が3.0mEq/L未満となる電解質異常が30-40%の患者さんに発生し、特に夏季の発汗増加時には脱水のリスクが50%まで上昇することが報告されています。
心機能改善薬による副作用は、投与開始後2週間以内に最も高頻度で出現し、消化器症状が15-20%、頭痛が10-15%の割合でみられ、これらの症状は投与量の調整により80%以上の症例で改善を認めます。
薬剤分類 | 主な副作用 | 発生頻度 | 重症度 |
---|---|---|---|
抗凝固薬 | 出血傾向 | 25-30% | 中等度 |
利尿薬 | 電解質異常 | 30-40% | 軽度 |
強心薬 | 消化器症状 | 15-20% | 軽度 |
長期的な合併症とリスク
フォンタン循環(手術により作られた特殊な血行動態)への移行後は、様々な臓器に影響が及び、特に肝臓への負担が顕著となります。肝機能障害の発症率は術後5年で30%、10年で40%に達し、血清アルブミン値が3.0g/dL未満まで低下する症例も認められます。
蛋白漏出性胃腸症(腸管から蛋白質が漏れ出る状態)の発症は術後2-5年に集中し、発症率は5-10%ですが、一度発症すると治療に難渋し、5年生存率は60%程度まで低下します。
心房性不整脈は術後10年以降に急増し、20-30%の患者さんに発生します。年齢とともに発症率は上昇し、20歳以上では40%を超える報告もあります。
術後期間 | 肝機能障害 | 蛋白漏出性胃腸症 | 不整脈 |
---|---|---|---|
5年 | 30% | 5% | 10% |
10年 | 40% | 8% | 20% |
15年 | 45% | 10% | 30% |
生活面での制限とリスク
運動時の酸素飽和度は通常より10-15%低下し、心拍数は健常者の1.5倍まで上昇することから、過度な運動は制限が必要です。運動時の心拍数が基準値の85%を超えると、不整脈の発生リスクが3倍に増加します。
- 軽度の運動:心拍数上昇10-20%まで許容(散歩、軽い家事など)
- 中等度の運動:医師の判断が必要(ゆっくりした水泳、自転車など)
- 高度な運動:原則として禁止(競技スポーツ、マラソンなど)
- 高所での活動:標高2000m以上で酸素飽和度が5-10%低下
フォローアップにおけるリスク管理
成長に伴うリスクの変化を定期的にモニタリングし、早期発見・早期介入の体制を整えることが重要です。心機能の指標となるBNP値は年間10-15%の上昇を示し、200pg/mL以上となった場合は入院管理が必要となります。
不整脈の発生頻度は加齢とともに増加し、10歳代で10%、20歳代で20%、30歳代で30%と、年齢に応じて直線的な上昇を示します。これらの合併症に対する予防と早期対応により、多くの患者さんが安定した状態を維持できています。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
処方薬の薬価
心臓病治療に使用する薬剤費用は、患者さんの体重や症状の程度によって個人差が生じます。標準的な処方における抗凝固薬と心不全治療薬を合わせた月額費用は、15,000円から20,000円の範囲内に収まります。
定期的な血液検査には5,000円程度の費用が必要となり、心臓専門外来での診察料を含めた自己負担総額は、3割負担の場合、月額8,000円から12,000円程度となります。
薬剤区分 | 薬価(1日あたり) | 月額薬価 |
---|---|---|
抗凝固薬 | 250-350円 | 7,500-10,500円 |
利尿薬 | 200-300円 | 6,000-9,000円 |
1週間の治療費
入院時の基本治療費用は、病室のグレードや治療内容によって大きく変動します。標準的な個室を使用した場合、1日あたり45,000円から65,000円の費用が発生し、これには基本的な看護ケアと食事代が含まれています。
- 入院基本料:45,000-65,000円/日
- 薬物療法費:3,500-5,500円/日
- 各種検査費:18,000-28,000円/週
- 処置関連費:25,000-35,000円/週
1か月の治療費
外来診療を中心とした月間の医療費は、定期的な診察、各種検査、投薬費用を合わせると90,000円から130,000円に達します。
心臓超音波検査やホルター心電図などの精密検査を実施する月は、さらに35,000円程度の追加費用を見込む必要があり、年間の医療費は予想以上に高額となるため、医療費補助制度の活用を検討することをお勧めいたします。
診療項目 | 費用(月額) | 保険適用 |
---|---|---|
外来診察 | 18,000-23,000円 | 対象 |
定期検査 | 28,000-38,000円 | 対象 |
以上
参考文献
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