先天性心疾患の一種であるファロー四徴症(TOF)とは、胎児期の心臓発生過程において4つの特徴的な異常が同時に生じる複雑な心臓の病気です。
この疾患では、心室中隔欠損、肺動脈狭窄、大動脈騎乗、右心室肥大という4つの構造的異常が組み合わさって発生し、患者さまの症状や重症度には個人差が見られます。
ファロー四徴症(TOF)の病型
先天性心疾患の一種であるファロー四徴症は、症状の程度や合併する異常により、いくつかの特徴的な病型に分類されます。
この分類は医学的な特徴に基づいており、各病型の特性を理解することで、より詳細な医学的対応が可能となります。
極型ファロー四徴症(重症型)
極型ファロー四徴症は、ファロー四徴症の中でも特に重度な形態を示す病型であり、全体の約15-20%を占めています。肺動脈弁が完全に閉鎖している状態や、肺動脈自体の直径が通常の3分の1以下まで低形成を示すことが特徴的です。
主要血管の発達状態について、肺動脈弁輪径(肺動脈の入り口部分の直径)は正常値の40%以下となり、右室流出路の狭窄度は90%以上に達します。
動脈管(胎児期に肺動脈と大動脈をつなぐ血管)や側副血行路(本来の血管とは別に発達する迂回路)が発達し、これらが肺循環の血液供給を補完する役割を担います。
解剖学的特徴 | 数値基準 | 臨床的意義 |
---|---|---|
肺動脈弁輪径 | 正常の40%以下 | 重症度の指標 |
右室流出路狭窄 | 90%以上 | 血流制限の程度 |
側副血行路の発達 | 2本以上 | 代償機能の指標 |
ピンクファロー(無チアノーゼ型)
ピンクファローは、ファロー四徴症全体の約10-15%を占める比較的稀な病型です。肺動脈狭窄が50%未満と軽度であり、肺血流量が体血流量の0.7倍以上に保たれているため、血中酸素飽和度は95%以上を維持します。
右室流出路における圧較差(血圧の差)は通常30-50mmHg程度にとどまり、これにより重度のチアノーゼを呈することなく経過することが特徴です。
- 肺動脈狭窄:50%未満の狭窄度
- 肺血流量:体血流量の0.7-0.9倍
- 血中酸素飽和度:95-98%
- 右室圧:左室圧の60-80%
チアノーゼ型ファロー四徴症(典型的病型)
チアノーゼ型は、全症例の約60-70%を占める最も一般的な病型です。肺動脈狭窄は通常50-80%の範囲で認められ、右室圧は体血圧と同程度まで上昇します。
病態指標 | 一般的な数値範囲 | 臨床的意味 |
---|---|---|
肺動脈狭窄度 | 50-80% | 血流制限の程度 |
右室圧/左室圧比 | 0.8-1.2 | 心負荷の指標 |
血中酸素飽和度 | 75-90% | チアノーゼの程度 |
22q11.2欠失症候群との合併
22q11.2欠失症候群を合併するファロー四徴症は、全体の約15-20%に認められ、約3000塩基対にわたる染色体欠失を特徴とします。
免疫機能においては、T細胞数が正常値の50%以下まで低下することが多く、血清カルシウム値は8.0mg/dL未満を示すことがあります。
合併症状 | 発現頻度 | 特徴的所見 |
---|---|---|
T細胞減少 | 75-80% | CD4陽性T細胞の低下 |
カルシウム異常 | 60-70% | 血清Ca値 8.0mg/dL未満 |
発達遅延 | 40-50% | 運動・言語発達の遅れ |
病型による特徴的な所見
各病型の特徴を理解することは、個々の患者さまの状態を正確に把握し、長期的な経過観察を行う上で重要な意味を持ちます。医学的な知見の蓄積により、より詳細な病型分類と個別化された対応が進展しています。
ファロー四徴症(TOF)の症状
ファロー四徴症の症状は、心臓の構造異常による血液循環の変化に起因して現れます。症状の種類や程度は個人差が大きく、年齢や病型によっても異なります。
チアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色を呈する状態)が代表的な症状ですが、その他にも様々な症状が観察されます。
身体的な特徴と外観的症状
チアノーゼの程度は、血中酸素飽和度と密接な関連を示し、通常85%以下になると肉眼で確認できます。特に運動時や啼泣時には、酸素飽和度が10-15%程度低下し、青紫色が顕著になります。
指趾のバチ状指(指先が太鼓のばちのように膨らむ状態)は、慢性的な低酸素状態を反映する身体所見として、約60-70%の症例で認められます。
症状 | 出現頻度 | 特徴的所見 |
---|---|---|
チアノーゼ | 85-90% | 安静時SpO2 75-85% |
バチ状指 | 60-70% | 指趾末端の変形 |
成長障害 | 40-50% | 標準体重の-2SD以下 |
運動時の症状と特徴的な姿勢
無酸素発作は、2歳までに約60-70%の患児で経験し、発作時の血中酸素飽和度は通常値から30-40%低下します。発作の持続時間は通常2-5分程度ですが、重症例では15分以上継続することもあります。
スクワッティング姿勢による症状緩和は、4歳以降の患児の約80%で観察され、この姿勢により末梢血管抵抗が20-30%上昇します。
無酸素発作の特徴 | 数値 | 臨床的意義 |
---|---|---|
発作時SpO2低下 | 30-40% | 重症度の指標 |
発作持続時間 | 2-15分 | 緊急度の判断 |
心拍数上昇 | 50-80% | 循環動態の変化 |
成長発達への影響
体重増加の遅れは生後6ヶ月頃から顕在化し、1歳時点で標準体重の-2SD以下となる症例が約40-50%を占めます。身長の伸びも影響を受け、学童期までに-1.5SD以下となる割合は約30%に達します。
年齢 | 体重増加の特徴 | 身長の特徴 |
---|---|---|
6ヶ月 | -1SD以下:60% | -1SD以下:40% |
1歳 | -2SD以下:50% | -1.5SD以下:35% |
2歳 | -2SD以下:45% | -2SD以下:30% |
日常生活における症状
食事摂取量は年齢相応の70-80%程度にとどまり、1回の食事時間は健常児の1.5-2倍を要します。
運動耐容能は同年齢の50-70%程度であり、休息を必要とする頻度は2-3倍に増加します。
- 食事:標準摂取量の70-80%
- 運動時間:健常児の50-70%
- 休息頻度:健常児の2-3倍
- 睡眠時間:10-20%増加
年齢による症状の変化
症状の経年変化は個人差が大きく、乳児期から学童期にかけて様々なパターンを示します。チアノーゼの程度は年齢とともに変化し、代償機能の発達により、一部の症状は改善傾向を示すこともあります。
ファロー四徴症の症状は、年齢や活動強度によって大きく変動し、個々の患者さまで独自の経過をたどります。症状の的確な把握と理解は、生活の質を維持する上で重要な要素となります。
ファロー四徴症(TOF)の原因
ファロー四徴症は、胎児期の心臓発生過程における複雑な形成異常によって引き起こされます。
発生学的には、胎生期における心臓流出路の形成過程で、心臓流出路中隔の位置異常や回転異常が生じることが主な原因となります。遺伝的要因と環境要因の両方が関与する複合的な病態です。
遺伝的要因
遺伝子変異による発症は全体の約20-30%を占め、その中でもNKX2.5遺伝子の変異は約8%、GATA4遺伝子の変異は約5%、JAG1遺伝子の変異は約3%の頻度で確認されています。
これらの遺伝子は心臓の形成過程において、細胞の分化や組織の形成を制御する転写因子(遺伝子の発現を調節するタンパク質)として機能します。
遺伝子 | 変異頻度 | 主要な機能 |
---|---|---|
NKX2.5 | 8% | 心筋細胞の分化制御 |
GATA4 | 5% | 心臓形成の転写調節 |
JAG1 | 3% | 細胞間シグナル伝達 |
胎児期の発生異常
心臓の発生過程における異常は、胎生6-8週の間に最も高頻度で発生し、この時期の心臓神経堤細胞(特殊な発生細胞)の遊走異常は約40%の症例で認められます。
心臓流出路中隔の形成不全は、全症例の約75%で観察される主要な発生異常です。
発生異常 | 発生時期 | 発生頻度 |
---|---|---|
神経堤細胞遊走異常 | 胎生6-7週 | 約40% |
中隔形成不全 | 胎生7-8週 | 約75% |
流出路回転異常 | 胎生8週 | 約60% |
環境要因の影響
妊娠初期の環境要因は、発症リスクに大きく関与します。母体の糖尿病は発症リスクを2-3倍に上昇させ、葉酸不足は約1.8倍のリスク上昇と関連しています。
また、妊娠初期のウイルス感染は、発症リスクを約1.5-2倍に増加させます。
- 母体糖尿病:発症リスク2-3倍上昇
- 葉酸欠乏:発症リスク1.8倍上昇
- ウイルス感染:発症リスク1.5-2倍上昇
- 薬物曝露:発症リスク1.3-1.7倍上昇
遺伝症候群との関連
22q11.2欠失症候群は、約15-20%のファロー四徴症患者で認められ、約300万塩基対の欠失を特徴とします。TBX1遺伝子を含む30-40個の遺伝子が欠失し、これらの遺伝子は心臓発生に重要な役割を果たします。
欠失遺伝子 | 影響を受ける発生過程 | 異常の頻度 |
---|---|---|
TBX1 | 心臓流出路形成 | 90-95% |
UFD1L | 心臓中隔形成 | 70-80% |
COMT | 神経堤細胞発達 | 60-70% |
多因子遺伝の関与
遺伝的要因と環境要因の相互作用による多因子遺伝は、全症例の約70-80%で認められます。単一の遺伝子変異だけでは説明できない複雑な発症メカニズムを持ち、複数の遺伝的背景と環境因子の組み合わせが発症に関与します。
ファロー四徴症の原因を理解することは、将来の医学的介入や予防医学の発展において重要な基盤となります。
ファロー四徴症(TOF)の検査・チェック方法
ファロー四徴症の診断は、胎児期から出生後まで、様々な検査と診察所見を組み合わせて総合的に行います。身体所見から疑い、聴診や画像診断で確認し、遺伝子検査も含めた多角的なアプローチで確定診断に至ります。
早期発見が重要で、出生前診断から出生後の詳細な検査まで、段階的な診断プロセスを実施します。
出生前診断
胎児超音波検査は、妊娠18-22週の間に実施し、約85-90%の精度で心臓の異常を検出できます。
高解像度の超音波機器を用いた胎児心エコー検査では、心室中隔欠損の大きさを0.1mm単位で計測し、肺動脈狭窄の程度を血流速度(通常2.0-4.0m/秒)で評価します。
検査時期 | 検出率 | 測定精度 |
---|---|---|
18-20週 | 85% | ±0.5mm |
20-22週 | 90% | ±0.3mm |
22-24週 | 95% | ±0.2mm |
身体診察と基本検査
聴診では、第2-3肋間胸骨左縁で最強となる駆出性収縮期雑音(3-4/6度)を認め、血中酸素飽和度は通常75-90%の範囲を示します。体重は年齢相応の値から-2SD以上の差を認めることが標準的です。
聴診所見 | 特徴 | 診断的意義 |
---|---|---|
収縮期雑音 | 3-4/6度 | 狭窄評価 |
第二肺動脈音 | 減弱/消失 | 重症度判定 |
連続性雑音 | 2-3/6度 | 側副血行評価 |
画像診断
心臓超音波検査では、心室中隔欠損の大きさ(通常6-12mm)、右室流出路狭窄の程度(正常径の40-60%)、大動脈騎乗(50%以上)などを定量的に評価します。
心臓CTでは0.5mm以下の空間分解能で血管走行を描出し、MRIでは右室駆出率(通常40-60%)を算出します。
- 超音波検査:空間分解能0.2-0.3mm、時間分解能30-50fps
- CT検査:空間分解能0.3-0.5mm、時間分解能75-150ms
- MRI検査:空間分解能1.0-1.5mm、時間分解能20-40ms
- 3D再構成:精度誤差1mm以内
心臓カテーテル検査
心腔内圧測定では、右室圧(80-120mmHg)、肺動脈圧(15-25mmHg)、右室-肺動脈間圧較差(60-100mmHg)を評価します。造影検査により、側副血行路の本数や径(通常1.5-3.0mm)を明確に把握できます。
測定部位 | 正常範囲 | 病的数値 |
---|---|---|
右室収縮期圧 | 20-30mmHg | 80-120mmHg |
肺動脈収縮期圧 | 15-25mmHg | 20-40mmHg |
大動脈圧 | 90-120mmHg | 80-100mmHg |
遺伝子検査と染色体検査
染色体マイクロアレイ検査では、22q11.2領域の約3.0Mbの欠失を検出できます。この領域には30-40個の遺伝子が含まれ、全体の約15-20%で陽性となります。
ファロー四徴症の診断においては、これらの検査結果を統合的に評価し、各検査の特性を活かした総合的な判断が欠かせません。
ファロー四徴症(TOF)の治療方法と治療薬について
ファロー四徴症の治療は、病型や重症度に応じて、内科的治療から外科的治療まで、段階的なアプローチを行います。
薬物療法は主に待機的手術までの橋渡し的な役割を担い、また、手術後の経過観察期間中にも継続的な投薬を必要とする場合があります。治療の選択は個々の患者の状態を総合的に判断して決定します。
内科的治療と薬物療法
無酸素発作に対するプロプラノロール(β遮断薬)は、体重1kgあたり0.5-1.0mgを1日3-4回に分けて投与します。血中濃度の目標値は50-100ng/mlで、心拍数を安静時の15-20%減少させることを目標とします。
急性期の酸素投与は、FiO2(吸入気酸素濃度)を40-60%に設定し、SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)が85%以上を維持するように調整します。
薬剤名 | 投与量 | 投与間隔 | 目標血中濃度 |
---|---|---|---|
プロプラノロール | 0.5-1.0mg/kg/日 | 8時間毎 | 50-100ng/ml |
フロセミド | 1-2mg/kg/日 | 12時間毎 | 1-2μg/ml |
ジゴキシン | 8-10μg/kg/日 | 24時間毎 | 0.8-2.0ng/ml |
待機的手術前の管理
術前管理では、プロプラノロールを2-3週間かけて目標用量まで漸増します。酸素飽和度が80%未満に低下する場合は、在宅酸素療法を導入し、1-2L/分の投与を行います。
- 体重増加:月齢相当の75-85%を目標
- ヘモグロビン値:15-18g/dlを維持
- 血中酸素飽和度:80-85%以上を確保
- 心拍数:120-140/分を目標
外科的治療のタイミング
手術時期の決定は、体重が6kg以上、年齢が6-12ヶ月を基準とします。姑息手術を要する場合は、生後3-4ヶ月、体重4kg以上で実施を検討します。
手術方法 | 実施時期 | 手術時間 | 入院期間 |
---|---|---|---|
姑息手術 | 3-4ヶ月 | 2-3時間 | 7-10日 |
一期的根治手術 | 6-12ヶ月 | 4-6時間 | 14-21日 |
段階的手術 | 状態に応じて | 3-4時間/回 | 10-14日/回 |
術後管理と投薬
術後早期は、ヘパリンを10-20単位/kg/時で持続投与し、その後ワーファリンに切り替えてPT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)を2.0-3.0に維持します。
時期 | 抗凝固療法 | 利尿薬 | その他 |
---|---|---|---|
術直後 | ヘパリン持続 | フロセミド静注 | ドパミン持続 |
1週間後 | ワーファリン内服 | フロセミド内服 | 必要に応じて |
1ヶ月後 | 状態に応じて | 漸減・中止 | 個別に判断 |
長期フォローアップ
成人期までの長期フォローアップでは、5-10年毎に心臓カテーテル検査を実施し、右室圧や肺動脈圧を評価します。
不整脈の出現率は術後10年で約15%、20年で約25%となることから、定期的な心電図検査と適切な投薬管理を継続していく方針となります。
ファロー四徴症(TOF)の治療期間
先天性心疾患の一種であるファロー四徴症の治療期間は、病型や重症度によって個人差があります。内科的治療から手術、その後の経過観察まで、長期的な医学的支援が必要となります。
ここでは、各段階で必要となる期間と、それぞれの時期に行われる医療的介入の時間的な流れについて説明します。
手術前の準備期間
診断確定から手術実施までの準備期間は、患者さまの状態により3か月から1年程度を要します。この期間中、β遮断薬による内科的管理を行い、血中酸素飽和度を85%以上に維持することを目指します。
体重は月齢相当の80%以上まで増加させることが目標となります。
経口摂取量は標準体重児の70-80%を目標とし、必要カロリーが不足する場合は経管栄養を併用して1日必要カロリーの120-130%まで増量します。
評価項目 | 目標値 | 確認頻度 |
---|---|---|
体重増加 | 月齢比80%以上 | 週2回 |
SpO2値 | 85%以上 | 毎日 |
心拍数 | 120-140/分 | 毎日 |
入院期間と手術時期
手術を要する入院期間は、術前の状態評価から退院までを含めて、通常14-28日間です。手術時間は4-6時間を要し、術後の人工呼吸器管理は48-72時間を基本とします。
術式 | 手術時間 | ICU滞在 | 病棟滞在 |
---|---|---|---|
一期的根治手術 | 4-6時間 | 3-5日 | 10-14日 |
姑息手術 | 2-3時間 | 2-3日 | 7-10日 |
段階的手術 | 各3-4時間 | 各2-4日 | 各7-10日 |
術後回復期間
術後のICU滞在期間は平均3-5日間で、この間の人工呼吸器管理は48-72時間が標準です。一般病棟での療養期間は7-14日間を要し、この間に基本的な日常生活動作の回復を目指します。
心機能の回復には約4-6週間を要し、この期間は心拍数を100-120/分、血圧を収縮期90-110mmHgに維持することを目標とします。
- 人工呼吸器管理:48-72時間
- 胸腔ドレーン留置:3-5日間
- 心嚢ドレーン留置:2-4日間
- 中心静脈カテーテル:5-7日間
リハビリテーション期間
リハビリテーションは、術後1-2週間で開始し、約3-6か月かけて段階的に運動強度を上げていきます。心拍数上昇を指標とし、安静時の30%増までを目安に運動強度を調整します。
運動強度 | 心拍数上昇率 | 実施期間 |
---|---|---|
軽度 | 10-20% | 1-2か月 |
中等度 | 20-30% | 2-4か月 |
高度 | 30%まで | 4-6か月 |
長期的なフォローアップ期間
生涯にわたる経過観察が必要で、小児期は2-3か月毎、学童期は3-4か月毎、成人期は6-12か月毎の外来診察を継続します。心臓カテーテル検査は5-10年毎に実施し、遠隔期の評価を行います。
薬の副作用や治療のデメリットについて
ファロー四徴症の治療では、内科的治療から外科的治療まで、様々な医学的介入が行われますが、それぞれの段階で特有の副作用やリスクが存在します。
薬物療法による副作用、手術に伴う合併症、長期的な経過観察における問題点など、様々な側面からの理解が重要となります。
薬物療法における副作用
β遮断薬(プロプラノロール)を使用する場合、心拍数が通常の15-25%低下することがあり、血圧も収縮期で10-15mmHg程度の低下を示します。
投与開始から2-3週間は特に注意深い観察が必要となり、血中濃度が50-100ng/mL以上になると副作用の発現率が上昇します。
長期投与では、安静時心拍数が60-70/分を下回る徐脈や、収縮期血圧が90mmHg以下となる低血圧に注意が必要です。
副作用 | 初期症状 | 重症度判定基準 |
---|---|---|
徐脈 | 心拍数15-25%低下 | 50/分以下 |
低血圧 | 収縮期10-15mmHg低下 | 85mmHg以下 |
気管支収縮 | 呼吸数10-20%増加 | SpO2 5%以上低下 |
手術に関連する早期合併症
手術直後24-48時間は、出血量が1-2mL/kg/時を超える場合や、不整脈が持続する場合には厳重な監視が必要です。術後感染症は術後5-7日目に多く、創部の発赤や38度以上の発熱に注意します。
合併症 | 発生時期 | 発生頻度 |
---|---|---|
術後出血 | 24-48時間以内 | 8-12% |
早期不整脈 | 術後1-3日 | 25-30% |
創部感染 | 術後5-7日 | 4-6% |
術後遠隔期の問題点
術後10年以上経過すると、肺動脈弁逆流を約30-40%の患者さまに認め、右室拡大(右室拡張末期容積が150mL/m²以上)は20-25%で発生します。
不整脈の累積発生率は術後20年で約35-40%に達し、特に心室性不整脈(持続性心室頻拍や心室細動)は5-8%で認められます。
- QRS幅:術後10年で150ms以上が25-30%
- 右室収縮期圧:術後15年で体血圧の60%以上が20-25%
- 運動耐容能:最大酸素摂取量が正常の70-80%
- NT-proBNP値:500pg/mL以上が15-20%
社会生活上のリスク
運動時の心拍数上昇は安静時の30-40%までに制限され、最大酸素摂取量は健常者の70-80%程度にとどまります。就労においては、重労働や高所作業など、特定の職種において制限が必要となります。
活動内容 | 制限基準 | 許容範囲 |
---|---|---|
運動強度 | 心拍数上昇30-40%まで | 中等度以下 |
労働時間 | 1日6-8時間 | 休憩考慮 |
環境条件 | 高度1500m以下 | 温度20-25℃ |
長期予後に影響する因子
再手術率は術後20年で25-30%となり、主に肺動脈弁置換術や不整脈に対する治療が必要となります。
生命予後に関しては、適切な管理下で30年生存率が85-90%と報告されており、多くの患者さまが良好な経過をたどることが明らかとなっています。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
ファロー四徴症の治療には、医療保険制度による給付が適用されます。
小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象疾患であり、医療費の負担軽減が図られています。薬剤費から入院費用まで、様々な医療費用について説明します。
処方薬の薬価
プロプラノロール(インデラル®)は1錠10mgで10.1円、フロセミド(ラシックス®)は1錠20mgで9.8円です。酸素療法に使用する在宅酸素療法装置のレンタル料は月額8,000-12,000円となっています。
薬剤名 | 規格 | 薬価 |
---|---|---|
プロプラノロール | 10mg/錠 | 10.1円 |
フロセミド | 20mg/錠 | 9.8円 |
1週間の治療費
外来診療では、初診料2,880円、再診料730円に加え、心臓超音波検査8,200円などの検査料が発生します。
- 外来診察料:730-2,880円
- 心電図検査:1,400円
- 心臓超音波検査:8,200円
- 血液検査:4,000-6,000円
1か月の治療費
通院頻度や検査内容により医療費は変動しますが、小児慢性特定疾病医療費助成制度を利用した場合、世帯の所得に応じて自己負担上限額が設定されます。外来通院の場合、月額の医療費総額は15,000-30,000円程度です。
区分 | 自己負担上限額 |
---|---|
一般所得世帯 | 5,000円/月 |
上位所得世帯 | 10,000円/月 |
以上
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