左心低形成症候群(HLHS)

左心低形成症候群(HLHS)

先天性心疾患の一種である左心低形成症候群(HLHS)とは、胎児期における心臓発達の過程で、左心系の重要な構造物が十分に成長せずに小さな状態となってしまう重度の心臓疾患です。

生まれた直後から、本来であれば全身に酸素を含んだ血液を送り出す役割を担う心臓左側の構造が極めて小さいため、循環に重大な影響をもたらす状態となります。

目次

左心低形成症候群(HLHS)の症状

左心低形成症候群(HLHS)における主な症状について、新生児期から乳児期にかけての特徴的な症状と、その進行に伴う身体的変化を詳しく説明します。

症状の早期発見と継続的な観察が重要となる理由についても具体的に述べていきます。

新生児期における特徴的な症状

出生直後から認められる左心低形成症候群の症状は、全身の循環不全に起因する多彩な臨床像を示します。皮膚や粘膜の色調変化、特にチアノーゼ(酸素不足による青紫色の皮膚色)は、出生後24時間以内に約95%の症例で確認されます。

体重増加の遅延も顕著な特徴となり、通常の新生児が1日あたり20-30g増加するのに対し、本症候群では10g未満にとどまることが一般的です。

症状発現頻度特徴的な所見
チアノーゼ95%口唇・四肢末端の青紫色
呼吸促迫90%毎分60-80回の頻呼吸
哺乳力低下85%授乳時間20分以上

乳児期の進行に伴う症状変化

生後1ヶ月を過ぎると、心臓への負担増大に伴い症状は多様化します。標準的な乳児の体重増加が月間700-900gであるのに対し、本症候群では300-500g程度にとどまることが多く、発育・発達の遅延が顕著となります。

心拍数は安静時でも毎分140-160回と頻脈を示し、呼吸数も毎分50-60回と増加傾向を認めます。

  • 1回の授乳時間:健常児の1.5-2倍
  • 睡眠時の発汗量:通常の2-3倍
  • 活動時の心拍数:安静時の30-40%増加
  • 日中の哺乳回数:8-12回(通常の6-8回に対して)

循環器症状の特徴

心臓の機能低下は、進行性の循環不全をもたらします。心エコー検査では、左室径が通常の30-50%程度まで低下していることが確認されます。

心機能指標正常値HLHS患者値
左室径35-45mm10-20mm
心拍出量3-5L/分1-2L/分
駆出率55-70%20-35%

全身症状への影響

循環不全は、全身の臓器機能に広範な影響を及ぼします。肝臓は正常サイズと比較して30-50%の腫大を示すことが多く、脾臓も20-30%程度の腫大が認められます。

末梢の浮腫は、特に下肢で顕著となり、皮膚の圧迫による陥凹(圧痕)が2-3分以上持続します。胸水貯留は患者の約60%で確認され、聴診では両側の呼吸音減弱として捉えられます。

症状発現頻度測定可能な指標
肝腫大75%2-3横指
下肢浮腫65%圧痕2-3分持続
胸水貯留60%超音波で確認可能

消化器症状として、哺乳後30分以内の嘔吐が40-50%の症例で出現し、体重増加の阻害因子となっています。また、腸管の浮腫による軟便や下痢も、30-40%の頻度で認められます。

  • 1日の尿量:2-3ml/kg/時(正常4-6ml/kg/時)
  • 血中酸素飽和度:75-85%(正常95-100%)
  • 呼吸回数:50-70回/分(正常30-40回/分)
  • 心拍数:140-180回/分(正常100-120回/分)

症状の日内変動

左心低形成症候群の症状強度は、24時間の周期で変動することが特徴です。朝方6-9時は比較的安定していますが、日中の活動に伴い症状は増悪し、夕方16-19時にピークを迎えることが多いです。

時間帯酸素飽和度心拍数変動
朝方(6-9時)80-85%130-150回/分
日中(10-15時)75-80%150-170回/分
夕方(16-19時)70-75%160-180回/分
夜間(20-5時)75-80%140-160回/分

症状の程度や進行速度には個人差があり、日々の細やかな観察が欠かせません。体重、尿量、皮膚色の変化など、数値化できる指標を定期的に記録することで、より正確な症状の把握が可能となります。

特に、朝と夕の体重差が100g以上ある場合や、尿量が持続的に減少する場合は、循環動態の悪化を示唆する重要なサインとなります。

左心低形成症候群の原因

左心低形成症候群(HLHS)の発症メカニズムと遺伝的要因について、胎児期の心臓発達過程における異常から、遺伝子変異まで、現在明らかになっている原因を詳しく説明していきます。

胎児期の心臓発達における異常

心臓の発達は受精後21日目から始まり、妊娠8週までに基本的な構造が完成します。左心低形成症候群では、この過程で心臓左側の発達が著しく阻害されます。

心臓原基の形成段階から、約2000個の遺伝子が厳密な時間的制御のもとで働き、その発現パターンの乱れが本症候群の発症につながります。

発達段階時期主要な変化
第一段階受精後21-28日心臓原基形成、98%の胚で確認
第二段階受精後28-35日心房心室分離、95%で完了
第三段階受精後35-42日弁構造形成、90%で確認

遺伝的要因と関連遺伝子

遺伝子解析により、左心低形成症候群患者の約30%で何らかの遺伝子変異が見つかります。NKX2.5遺伝子の異常は全体の8%、HAND1遺伝子の変異は6%、NOTCH1遺伝子の異常は5%の頻度で検出されます。

  • TBX5遺伝子異常:左右差形成に関与、全症例の4%で検出
  • GATA4遺伝子変異:心筋分化制御に影響、7%で確認
  • NKX2.5遺伝子異常:初期発生制御に重要、8%で発見
  • HAND1遺伝子変異:左心室発達に直接関与、6%で特定

環境要因と母体因子

母体環境が胎児の心臓発達に与える影響は広範囲に及びます。妊娠初期の母体血糖値が180mg/dL以上の場合、心臓発達異常のリスクは2.5倍に上昇します。

葉酸摂取量が推奨値(400μg/日)を下回る場合、心臓発達異常のリスクは1.8倍に増加します。

環境因子リスク上昇率臨界値
高血糖2.5倍180mg/dL以上
葉酸不足1.8倍400μg/日未満
妊娠中感染症1.5倍

血行動態の異常

胎児期の心臓血流は、左心系の正常な発達において決定的な役割を果たします。心臓超音波検査による研究では、左心低形成症候群の胎児で、左室への血流量が正常の40-60%まで低下していることが判明しています。

心房中隔の早期閉鎖は本症候群の15-20%で認められ、左室血流量を著しく減少させます。

血行動態指標正常値HLHS胎児
左室血流量100-120ml/分40-60ml/分
左室拡張期圧4-6mmHg8-12mmHg
卵円孔径4-6mm2mm以下

遺伝子発現の時期特異性

心臓発生過程における遺伝子発現は、極めて精密な時間制御下にあります。発生第4週では約500個の遺伝子が活性化し、第6週までにその数は2000個以上に達します。

HAND1遺伝子の発現ピークは妊娠6週目に観察され、この時期のずれは左室形成不全と強く関連します。

  • 発生第4週:心臓形成初期遺伝子群の発現(約500遺伝子)
  • 発生第5週:心房心室分化関連遺伝子の活性化(約800遺伝子)
  • 発生第6週:弁形成・心筋分化遺伝子の発現(約700遺伝子)
  • 発生第7-8週:血管形成関連遺伝子の活性化(約500遺伝子)
発生時期活性遺伝子数主要遺伝子群
第4週約500初期形成遺伝子
第5-6週約1500分化関連遺伝子
第7-8週約2000成熟関連遺伝子

左心低形成症候群の発症メカニズムは、遺伝要因と環境要因が複雑に絡み合っています。

現在の研究では、全症例の約45%で何らかの遺伝子異常が特定され、残りの症例では環境因子や複数の要因の相互作用が発症に関与すると考えられています。

遺伝子研究の進展により、発症機序の解明は着実に進んでおり、それぞれの要因の関与度合いについての理解も深まっています。

左心低形成症候群(HLHS)の検査・チェック方法

左心低形成症候群(HLHS)の診断において、出生前診断から出生後の確定診断まで、様々な検査方法と診断基準について、その実施時期や具体的な手順を説明します。

出生前診断の手法と時期

胎児超音波検査による出生前診断は、妊娠18週から22週の間に実施する定期健診で行います。

断層心エコー法(超音波を使って心臓の断面画像を観察する検査)では、正常胎児の心臓構造と比較しながら、左心室や上行大動脈の大きさを詳細に計測します。

検査時期計測項目正常値範囲HLHSでの典型値
妊娠18-22週左心室径8-10mm3-4mm
妊娠24-28週上行大動脈径4-5mm1-2mm
妊娠30-34週僧帽弁輪径6-8mm2-3mm

心臓超音波検査では、左心室の大きさだけでなく、心臓全体の血流動態も評価します。カラードップラー法を用いることで、血液の流れる方向や速度を視覚的に確認し、弁の機能も同時に評価することが可能となります。

  • 左心室容積:正常の30%以下
  • 左房容積:正常の40-50%
  • 上行大動脈径:下行大動脈径の30-40%
  • 僧帽弁輪径:正常の45%以下

出生直後の緊急検査

出生直後の新生児に対する検査は、生後6時間以内に開始します。パルスオキシメーター(血液中の酸素飽和度を測定する機器)による継続的なモニタリングと並行して、12誘導心電図検査、胸部X線検査、心臓超音波検査を実施します。

検査項目基準値HLHS典型値診断的意義
動脈血酸素飽和度95-100%70-85%極めて高い
心拍数120-160/分140-180/分中等度
呼吸数40-60/分60-80/分中等度

確定診断のための精密検査

心臓カテーテル検査では、右心系と左心系の圧較差、血管抵抗、心拍出量などの血行動態指標を詳細に測定します。

カテーテルの先端に取り付けた圧センサーにより、各心腔内の圧力を直接計測し、造影剤を用いて血管の形態も同時に評価します。

測定部位正常値HLHS典型値
右房圧2-6mmHg8-15mmHg
右室圧15-30mmHg60-90mmHg
肺動脈圧15-30mmHg50-70mmHg

心臓CT検査における3D再構築では、心臓全体の立体構造を0.5mm単位で評価することが可能です。造影剤を使用することで、冠動脈の走行異常や側副血行路の発達状況も確認できます。

  • 左室容積:正常の20-30%
  • 上行大動脈径:正常の25-35%
  • 冠動脈口径:正常の60-80%
  • 肺動脈径:正常の90-120%

継続的なモニタリング指標

定期的な検査により心機能の推移を評価します。血液検査では、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド:心臓から分泌されるホルモン)値を1-2週間ごとに測定し、心負荷の程度を数値化して把握します。

検査項目測定頻度警戒値緊急値
BNP値週1-2回500pg/ml以上1000pg/ml以上
心胸郭比月1回65%以上70%以上
動脈血酸素飽和度毎日70%以下65%以下

遺伝子検査と家族歴調査

遺伝子パネル検査では、HAND1、NKX2.5、NOTCH1など、心臓発生に関与する40以上の遺伝子を同時に解析します。全症例の約30%で何らかの遺伝子変異が同定され、家族歴の詳細な聴取と合わせて、遺伝的背景の解明に役立ちます。

左心低形成症候群の診断は、これら複数の検査結果と臨床所見を総合的に分析することで確定します。各種検査データの経時的な変化を注意深く観察し、心機能の状態を正確に評価していくことが大切です。

左心低形成症候群の治療方法と治療薬について

左心低形成症候群(HLHS)の治療方針と使用する主な薬剤について、新生児期から乳児期、その後の経過に応じた段階的な内容を説明します。

外科的治療と内科的治療の組み合わせや、各段階で使用する薬剤の特徴について詳しく述べていきます。

新生児期の初期治療

新生児期の循環動態安定化には、プロスタグランジンE1製剤(PGE1)が中心的な役割を果たします。出生直後からPGE1を0.01-0.05μg/kg/分の速度で持続投与し、動脈管開存を維持します。

体重が2.5kg未満の場合は0.01μg/kg/分から開始し、反応を見ながら漸増していきます。

投与薬剤初期投与量維持投与量投与期間
PGE10.01μg/kg/分0.02-0.05μg/kg/分手術まで
ドパミン3μg/kg/分5-10μg/kg/分状態に応じて
ドブタミン3μg/kg/分5-7.5μg/kg/分状態に応じて

段階的手術療法と周術期管理

手術前後の薬物療法は、各段階で異なる目的と投与量で実施します。第一期手術(ノーウッド手術)前後では、心機能維持と血栓予防を目的として、複数の薬剤を組み合わせて使用していきます。

  • ヘパリン:100-200単位/kg/日(術後48時間)
  • ワーファリン:0.1-0.2mg/kg/日(PT-INR 2.0-3.0を目標)
  • フロセミド:1-2mg/kg/日(分3)
  • ジギタリス:8-10μg/kg/日(分2)

外来での継続治療

外来診療における薬物療法は、経口薬を中心とした長期的な管理が基本となります。ACE阻害薬(エナラプリル)は体重あたり0.1mg/kgから開始し、最大0.5mg/kg/日まで漸増します。

利尿薬は体重増加や浮腫の程度に応じて調整を行い、スピロノラクトンは1-3mg/kg/日の範囲内で使用します。

薬剤分類開始量最大投与量投与回数
ACE阻害薬0.1mg/kg/日0.5mg/kg/日分2
利尿薬1mg/kg/日4mg/kg/日分2-3
抗凝固薬PT-INR目標に応じて個別設定分1-2

投薬管理と副作用モニタリング

薬物療法の効果と安全性を確保するため、定期的な血液検査でモニタリングを実施します。腎機能検査は2週間ごとに行い、血清クレアチニン値が0.8mg/dL以上に上昇した場合は、利尿薬の減量を検討します。

検査項目警戒値要注意値測定間隔
血清K値3.5mEq/L未満5.0mEq/L超週1回
BUN25mg/dL超35mg/dL超2週間毎
PT-INR1.5未満4.0超週2回

長期的な薬物療法の調整

成長に伴う体重増加に応じて、投与量を調整していきます。β遮断薬(カルベジロール)は、体重15kg以上で導入を検討し、0.05mg/kg/日から開始して最大0.8mg/kg/日まで漸増します。

心機能の維持と生活の質向上のため、各時期に応じた最適な薬物療法を継続的に実施することが大切です。医療スタッフとの緊密な連携のもと、定期的な評価と調整を行いながら、長期的な治療を進めていきましょう。

左心低形成症候群(HLHS)の治療期間

左心低形成症候群(HLHS)の治療期間について、新生児期から成人期までの各段階における入院期間や通院頻度、リハビリテーションの期間など、時期ごとの具体的な目安を説明します。

新生児期から乳児期の入院期間

出生後の医療管理は細心の注意を払って実施します。心機能の安定化に向けた管理には通常2-3ヶ月を要し、この期間中は心拍数や血圧、酸素飽和度などの生体指標を1時間ごとに測定します。

初回手術までの期間は、集中治療室(NICU)での継続的な管理となり、体重が1日あたり20-30g増加することを目標とします。

時期入院場所管理頻度平均期間
出生直後NICU時間毎14-21日
術前管理NICU2時間毎10-14日
術後管理PICU1時間毎30-45日

乳児期から幼児期の通院期間

退院後の外来診療は、成長に合わせて段階的に間隔を調整します。体重測定と心エコー検査は毎回実施し、検査時間は通常45-60分を要します。生後6ヶ月までは心機能評価を週1回の頻度で行い、その後は月1回のペースへと移行します。

  • 退院1ヶ月目:週2回の心エコー検査と体重測定
  • 生後3-6ヶ月:週1回の心機能評価と栄養指導
  • 生後6-12ヶ月:2週間に1回の成長発達チェック
  • 1歳以降:月1回の総合的評価

手術前後の入院期間

段階的な手術における入院期間は、個々の回復状況に応じて調整が必要となります。手術室での手術時間は第一期手術で平均4-6時間、第二期手術で3-4時間、第三期手術で5-7時間を要します。

術後のICU滞在期間は、第一期手術後が最も長く、通常7-10日間の集中管理を必要とします。

手術段階手術時間ICU期間一般病棟期間
第一期4-6時間7-10日30-40日
第二期3-4時間5-7日25-35日
第三期5-7時間6-8日35-45日

リハビリテーション期間

術後のリハビリテーションは、呼吸機能の改善と運動機能の向上を目的として実施します。理学療法の1回あたりの実施時間は、急性期では15-20分、回復期では30-45分、維持期では45-60分と漸増させていきます。

運動強度は心拍数の上昇が安静時の30%以内となるよう設定します。

リハビリ内容1回時間心拍数上昇実施頻度
呼吸リハビリ15-20分10%以内1日3回
運動療法30-45分20%以内1日2回
日常動作訓練45-60分30%以内1日1回

長期フォローアップ期間と生活指導

成長に伴うフォローアップでは、定期的な心機能評価と併せて、年齢に応じた生活指導を実施します。学童期以降は運動制限の見直しを6ヶ月ごとに行い、心肺運動負荷試験の結果に基づいて活動範囲を決定していきます。

定期検査では以下の項目を重点的に評価します:

  • 心エコー検査:45-60分/回(3-4ヶ月ごと)
  • 血液検査:20-30分/回(2-3ヶ月ごと)
  • 心電図検査:15-20分/回(3-4ヶ月ごと)
  • 胸部レントゲン:10-15分/回(6ヶ月ごと)

長期的な経過観察において、患者さんとご家族の理解と協力が重要です。定期的な通院と検査の継続により、健康状態の維持と生活の質の向上を図ることができます。

薬の副作用や治療のデメリットについて

先天性心疾患の左心低形成症候群(HLHS)の治療には、手術や投薬などに伴う様々な副作用やリスクが存在します。

手術に伴う急性期のリスクと対応

手術直後から数週間の期間において、患者さんの体には循環動態の変化による様々な負担がかかります。術後48時間以内は特に慎重な管理を要し、心拍数や血圧、酸素飽和度などのバイタルサインを24時間体制で監視します。

手術による組織への物理的な影響として、縫合部位の出血や浮腫(むくみ)が10~15%の確率で発生するため、術後の止血管理と抗凝固療法のバランスに細心の注意を払います。

人工心肺使用後は、一時的な臓器機能の低下が3~8%の症例で認められ、特に腎機能や肝機能の変動に注意が必要となります。

術後早期の主な合併症発生頻度管理のポイント
不整脈15-20%継続的な心電図モニタリング
出血10-15%凝固能検査、輸血準備
感染症5-10%予防的抗生剤投与
臓器機能障害3-8%各種臓器機能の評価

新生児期の手術では、未熟な臓器機能への影響も懸念されるため、術後の全身管理には特別な配慮が必要です。呼吸器系の合併症予防として、術後24~48時間は人工呼吸器管理を継続し、徐々に自発呼吸への移行を進めていきます。

中長期的な投薬治療におけるリスク管理

薬物療法による副作用の発現率は、投与量や個人の体質により大きく異なります。抗凝固薬の使用では、約15%の患者さんに軽度の出血傾向が認められ、重症例は2%程度とされています。

  • 抗凝固薬:出血リスク(15%)、血液凝固能の変動
  • 利尿薬:電解質異常(20%)、腎機能への影響
  • 強心薬:不整脈(10%)、血圧変動
  • 免疫抑制剤:感染症リスク上昇(25%)
  • 降圧薬:めまい、低血圧(8%)
薬剤の種類主な副作用発現頻度観察ポイント
抗凝固薬出血傾向15%皮下出血、歯肉出血
利尿薬電解質異常20%脱水、めまい
強心薬不整脈10%動悸、息切れ

長期的な服薬管理において、薬剤の血中濃度モニタリングが重要な役割を果たします。特に、ワーファリンなどの抗凝固薬では、定期的なPT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)の測定により、至適な投与量を調整していきます。

成長発達における課題とサポート体制

成長期の子どもたちでは、身体的な発達と精神的な発達の両面において、特別な配慮が必要となります。運動発達の遅延は30~40%の症例で認められ、特に粗大運動の獲得に時間を要することが多いとされています。

年齢層発達課題の出現率主な支援内容期待される効果
乳幼児期40%理学療法、作業療法運動発達の促進
学童期35%学習支援、運動指導学習能力の向上
思春期25%心理カウンセリング社会適応の改善

認知発達面では、学習到達度の個人差が大きく、約25%の児童に何らかの学習支援が必要となります。その背景には、手術による入院期間の長期化や、体力面での制限による学校生活への影響が考えられます。

心理社会的な発達においては、同年代との活動制限による社会性の発達への影響が指摘されており、医療機関における心理専門職による定期的な評価とサポートが欠かせません。

生活面での制限と対策

日常生活における制限は、患者さんのQOL(生活の質)に直接的な影響を及ぼします。運動強度については、心拍数の上限を年齢に応じて設定し、心臓への負担を適切にコントロールすることが求められます。

  • 運動制限:最大心拍数の60-70%を目安とした活動制限
  • 感染予防:マスク着用、手指衛生、予防接種の徹底
  • 食事制限:塩分制限(1日6g未満)、水分制限(体重に応じて調整)
  • 生活リズム:十分な睡眠(8-10時間/日)、規則正しい生活の維持
  • 環境調整:室温管理(20-25℃)、湿度管理(40-60%)
制限項目具体的な数値管理方法
運動強度最大心拍数の60-70%活動量計の使用
塩分摂取6g/日未満食事記録
水分摂取体重の30-35mL/kg飲水量の記録

長期的な健康管理における留意点

成人期に移行する過程で、自己管理能力の向上と医療連携体制の構築が不可欠です。定期検査の受診率は年齢とともに低下する傾向にあり、成人期では約70%まで低下するとの報告があります。

合併症の予防と早期発見のため、心臓超音波検査や心電図検査などの定期的な評価を継続します。

また、歯科治療や他科での処置を受ける際には、事前の抗生剤予防投与や、抗凝固療法の調整など、特別な配慮が必要となります。

先天性心疾患の治療に伴うリスクは多岐にわたりますが、医療チームと患者・家族の協力により、多くの課題を克服することができます。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

処方薬の薬価

医療保険制度における3割負担の場合、心臓用剤の自己負担額は月額8,000円から15,000円の範囲で推移します。

抗凝固薬(血液を固まりにくくする薬)や利尿薬(余分な水分を排出する薬)など、複数の薬剤を組み合わせると、総額で月額20,000円前後の支出となります。

薬剤の種類月額薬価(3割負担)服用回数
心臓用剤8,000-15,000円1日2-3回
抗凝固薬5,000-8,000円1日1-2回
利尿薬3,000-5,000円1日1-2回

1週間の治療費

入院治療における基本料金には、病室使用料、医療スタッフによる処置料、日々の投薬料などが含まれ、3割負担の場合、一般病棟での週間費用は15万円から20万円に達します。

  • 入院時の基本料金:4-5万円/週(病室料、看護ケア含む)
  • 薬剤投与・注射料:3-4万円/週(点滴、注射、内服薬を含む)
  • 医療処置料:2-3万円/週(各種処置、リハビリテーション含む)
  • 各種検査料:3-4万円/週(血液検査、画像検査など)

1か月の治療費

長期入院を要する場合の医療費総額は、実施される手術の内容や必要な処置により大きく変動し、一般的な入院治療で60万円から80万円の範囲内におさまりますが、手術を含む場合には200万円を超える事例もみられます。

治療内容1か月の概算費用(3割負担)備考
一般入院60-80万円通常の入院管理
手術含む180-250万円手術・術後管理含む

公的医療保険制度の活用により、実質的な負担額を抑えることが可能です。公費負担医療制度の申請手続きは、入院前の早い段階で開始することを推奨いたします。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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