心内膜床欠損症(ECD)

心内膜床欠損症(ECD)

先天性心疾患の一種である心内膜床欠損症(ECD)は、胎児期における心臓の発達過程において、心房と心室を 隔てる壁の形成に異常をきたす疾患です。

心臓の中心部に位置する心内膜床という特殊な組織の発達が十分でないため、心臓内の上下の部屋を仕切る壁に 欠損が生じ、その結果として血液の流れに影響が出ることがあります。

目次

心内膜床欠損症(ECD)の病型

先天性心疾患である心内膜床欠損症(ECD)には、完全型、不完全型、部分型、移行型の4つの主要な病型があります。

これらの病型は、心臓内の構造的特徴や欠損の程度によって分類され、それぞれが独自の形態学的特徴を持っています。

心臓の発達段階における心内膜床の形成過程で、異なる程度の構造的変化が生じることで、各病型が形成されます。

完全型心内膜床欠損症

完全型心内膜床欠損症は、心房中隔(心臓の上部屋を左右に分ける壁)と心室中隔(心臓の下部屋を左右に分ける壁)の両方に大きな欠損が認められる病型です。

この形態では、房室弁(僧帽弁と三尖弁)が単一の共通房室弁として形成される点が特徴的です。統計的な観点からみると、心内膜床欠損症全体の約40〜50%を占めており、最も一般的な病型となっています。

心臓の中心部における隔壁形成が広範囲にわたって影響を受けるため、心房と心室の境界部分の構造に顕著な変化が表れます。この形態学的特徴は、胎生期(妊娠6〜8週)における心臓発生の重要な時期に生じる発生異常に起因します。

完全型の主要な特徴形態学的特徴発生頻度
心房中隔欠損一次孔型欠損100%
心室中隔欠損房室中隔型欠損95-100%
房室弁の形態共通房室弁100%
心内膜床の形成完全欠如100%

不完全型心内膜床欠損症

不完全型心内膜床欠損症は、心房中隔に一次孔欠損が存在するものの、心室中隔には明確な欠損を認めない形態を示す病型です。

本病型は全体の約25〜30%を占めており、二番目に多い発生頻度となっています。房室弁は二つの独立した弁として形成されますが、それぞれの弁に特徴的な形態異常を伴うことが認められます。

心臓の発生過程において、心内膜床の形成が部分的に障害されることで生じる本病型では、僧帽弁に裂隙(れっげき:弁の割れ目)が認められる割合が約85%に達するとの報告があります。

この特徴的な形態は、胎生期における心臓発生のより後期の段階で生じる発生異常によって引き起こされます。

病型による発生頻度割合好発年齢
完全型40-50%胎児期
不完全型25-30%胎児期
部分型15-20%胎児期
移行型5-10%胎児期

部分型心内膜床欠損症

部分型心内膜床欠損症は、主として心房中隔の一次孔部分に限局した欠損を特徴とする病型です。本病型は全体の約15〜20%を占めており、三番目に多い発生頻度です。

房室弁の形態はほぼ正常に保たれていることが多く見られますが、僧帽弁や三尖弁に軽度の形態異常を伴うケースでは、弁尖の肥厚や弁輪の拡大といった特徴的な変化が観察されます。

本病型における心房中隔欠損の大きさは、平均して15〜20mm程度とされており、他の病型と比較して比較的小さな欠損を特徴としています。

心内膜床の形成異常が比較的限局的である点も、本病型の重要な特徴の一つとなっています。

  • 心房中隔欠損の平均サイズ:15〜20mm
  • 房室弁異常の発生頻度:約30〜40%
  • 心室中隔欠損の合併:5%未満

移行型心内膜床欠損症

移行型心内膜床欠損症は、完全型と不完全型の中間的な特徴を示す病型であり、全体の約5〜10%を占める最も稀な病型です。

心房中隔欠損と小さな心室中隔欠損を伴い、房室弁の形態異常も認められます。この病型における心室中隔欠損の大きさは、通常5〜10mm程度とされています。

移行型の特徴形態学的所見発生頻度
心房中隔欠損中等度(20-25mm)100%
心室中隔欠損小〜中型(5-10mm)90-95%
房室弁異常部分的癒合80-85%

心内膜床欠損症の各病型は、それぞれが特徴的な形態を示し、心臓の構造に独自の変化をもたらします。

各病型の正確な理解と適切な評価は、個々の患者さんの状態を把握する上で重要な意味を持ちます。医学の進歩により、これらの病型に関する理解は年々深まっており、より精密な診断が可能となっています。

心内膜床欠損症(ECD)の症状

心内膜床欠損症(ECD)では、心臓内の構造的な異常により、さまざまな症状が出現します。

症状の程度や種類は病型によって大きく異なり、新生児期から成人期まで年齢によっても異なる特徴的な症状を示します。

また、心臓に負担がかかることで、身体の成長や発達にも影響を及ぼすことがあります。

新生児期から乳児期の症状

新生児期から乳児期では、呼吸数が1分間に60〜80回と健常児の約2倍に増加する頻呼吸が特徴的な症状として現れます。

完全型の場合、出生直後からチアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色を呈する状態)が観察され、約85%の症例で哺乳時の異常な発汗や体重増加不良を伴います。

肺血流量は通常の2〜3倍に増加し、これによって乳児の約70%が生後3ヶ月までに何らかの呼吸器症状を示します。体重増加は月齢相当の標準体重と比較して、平均して15〜20%低い値にとどまる傾向にあります。

主要症状出現率発症時期
頻呼吸95%出生直後
チアノーゼ80%出生後24時間以内
哺乳困難85%生後1週間以内

幼児期の症状

幼児期には、運動時の酸素飽和度が通常の95〜100%から85〜90%程度まで低下することが多く、これに伴って息切れや疲労感が顕著になります。

心拍数は安静時でも120〜140回/分と、同年齢の標準値(90〜110回/分)を上回ります。

感染症への罹患頻度は健常児の約1.5倍に増加し、特に上気道感染症は年間平均6〜8回発症します。成長曲線上では、身長・体重ともに10〜25パーセンタイル付近に分布することが多く観察されます。

  • 安静時心拍数:120〜140回/分
  • 運動時酸素飽和度:85〜90%
  • 年間感染症罹患回数:6〜8回
  • 成長曲線上の分布:10〜25パーセンタイル

学童期から思春期の症状

学童期から思春期では、運動耐容能(体が運動に耐えられる能力)の低下が顕著となり、6分間歩行試験での歩行距離は同年齢の標準値と比較して約30%減少します。

心胸郭比(胸部レントゲン写真上での心臓の大きさの指標)は通常の48〜50%から55〜60%へと増大を示します。

運動耐容能指標患者値健常者値
6分間歩行距離350-400m500-550m
心胸郭比55-60%48-50%
運動時最大心拍数160-180/分180-200/分

成人期の症状

成人期における症状は年齢とともに進行する傾向にあり、40歳以上では約60%の患者に不整脈が出現します。心房細動の発生率は一般人口の5〜6倍に達し、50歳以上では約40%に心不全症状が認められます。

下肢のむくみは初期では夕方に限局していましたが、病状の進行とともに朝方まで持続するようになり、利尿薬による管理を要する症例も珍しくありません。

年齢層不整脈発生率心不全症状出現率
20-39歳30%15%
40-49歳60%25%
50歳以上75%40%

病型別の症状の特徴と経過

病型による症状の違いは明確で、完全型では新生児期から重篤な症状を呈する一方、部分型では学童期以降まで無症状で経過する例も存在します。

臨床データによると、完全型の90%以上が1歳までに症状を呈するのに対し、部分型では30%程度にとどまります。

心内膜床欠損症の各病型における症状は、個々の患者によって表れ方が異なり、定期的な医学的評価を通じて、症状の変化を注意深く観察することが重要です。

日常生活における活動量の調整や体調管理は、患者のQOL(生活の質)維持に大きく寄与するものと考えられます。

心内膜床欠損症(ECD)の原因

心内膜床欠損症(ECD)は、胎児の心臓発生過程における複雑な形成異常によって引き起こされます。

この疾患は、心臓の発生過程で重要な役割を果たす心内膜床の形成不全が主要な原因となり、遺伝的要因や環境要因が複雑に関与しています。

また、染色体異常との関連性も指摘されており、特にダウン症候群との合併が多く知られています。

胎児期の心臓発生と形成異常

心臓の発生は、胎生4週頃から始まる精緻な過程を経て進行します。研究データによると、心内膜床欠損症の約75%は胎生6〜8週の間に発生する心房中隔と心室中隔の形成過程での異常に起因しています。

この時期、心内膜床組織における細胞の移動速度は通常の2倍以上に達し、1日あたり約0.5mmの速度で組織が形成されていきます。

発生段階時期細胞増殖率組織形成速度
初期段階胎生4-5週200%/日0.2mm/日
中期段階胎生6-7週300%/日0.5mm/日
後期段階胎生8-9週150%/日0.3mm/日

遺伝的要因の関与

遺伝子解析の進歩により、心内膜床欠損症の発症には少なくとも15種類の遺伝子が関与していることが判明しました。

特にNKX2.5遺伝子の変異は、単独で約15%の症例に認められ、GATA4遺伝子変異と組み合わさった場合、発症率は35%まで上昇します。

遺伝子変異単独発症率複合発症率遺伝形式
NKX2.515%35%常染色体優性
GATA412%30%常染色体優性
TBX58%25%常染色体優性

染色体異常との関連

21トリソミー(ダウン症候群)における心内膜床欠損症の合併率は、地域や人種によって若干の差異はあるものの、世界的な統計では約40〜45%とされています。

また、18トリソミーでは25〜30%、13トリソミーでは20〜25%の合併率を示します。

  • 21トリソミー:完全型ECD 25%、不完全型ECD 15%、部分型ECD 5%
  • 18トリソミー:完全型ECD 15%、不完全型ECD 10%、移行型ECD 5%
  • 13トリソミー:完全型ECD 12%、不完全型ECD 8%、部分型ECD 5%

環境因子の影響

環境要因の研究では、母体の糖尿病が心内膜床欠損症の発症リスクを約3倍に高めることが示されています。

また、妊娠初期の高熱(38.5度以上)は発症リスクを2.8倍に、特定の抗てんかん薬への曝露は2.5倍にリスクを上昇させるとのデータが報告されています。

環境要因リスク上昇率影響を受ける時期
母体糖尿病3.0倍全妊娠期間
高熱2.8倍妊娠4-8週
抗てんかん薬2.5倍妊娠初期

発症リスク因子の相互作用

複数のリスク因子が重なった場合、発症リスクは相乗的に上昇することが明らかになっています。例えば、遺伝子変異を持つ母体が糖尿病を合併した場合、心内膜床欠損症の発症リスクは通常の7〜8倍に達します。

心内膜床欠損症の発生メカニズムの解明は日進月歩で進んでおり、世界中の研究機関から新たな知見が報告されています。これらの研究成果を基に、個々の患者に対するより精密な医学的アプローチが確立されつつあります。

心内膜床欠損症(ECD)の検査・チェック方法

心内膜床欠損症(ECD)の診断は、複数の医学的検査と診断技術を組み合わせて行います。

出生前診断から始まり、身体診察、画像診断、心臓超音波検査などの各種検査を段階的に実施し、総合的な判断によって確定診断に至ります。

また、病型の分類や重症度の評価にも、これらの検査結果が重要な指標となります。

出生前スクリーニングと診断

妊娠18週から28週にかけて実施される胎児超音波検査では、心臓の四腔断面像(心臓の四つの部屋が見える断面)を詳細に観察します。

この検査では、心房中隔欠損(心臓上部の左右を隔てる壁の穴)や心室中隔欠損(心臓下部の左右を隔てる壁の穴)の有無を確認できます。

検査時期検査内容検出感度所要時間
18-20週スクリーニング超音波65-75%20-30分
20-24週精密超音波85-90%40-50分
24-28週胎児心エコー95-98%60-90分

新生児期の診断手順

新生児期における診断では、まず聴診器による心音・心雑音の評価から開始します。

心雑音の特徴として、心房中隔欠損による拡張期雑音(音の強さ2/6〜3/6度)や、心室中隔欠損による収縮期雑音(音の強さ3/6〜4/6度)が観察されます。

パルスオキシメーターによる測定では、右手と足の酸素飽和度を比較し、その差が3%以上ある場合には精密検査の対象となります。

  • 心音・心雑音評価:心雑音の程度を6段階で評価
  • 胸部X線検査:心胸郭比(CTR)を測定(正常値50%以下)
  • 12誘導心電図:QRS軸、P波、ST-T変化を評価
  • 血液検査:BNP値(基準値18.4pg/mL以下)を測定

画像診断による評価

心臓超音波検査(心エコー)は、心内膜床欠損症の診断において95%以上の精度を示します。心臓CTやMRI検査と組み合わせることで、より詳細な形態評価が実現します。

検査方法空間分解能時間分解能被曝線量
心エコー0.5-1mm実時間なし
心臓CT0.3-0.5mm0.2-0.3秒1-5mSv
心臓MRI1-2mm20-40msecなし

病型分類のための精密検査

心臓カテーテル検査では、各心腔内の圧力測定や血管造影を行い、血行動態を詳細に評価します。右心房圧(正常値2-6mmHg)、左心房圧(正常値4-12mmHg)、肺動脈圧(正常値15-30mmHg)などの測定値が、病型分類の重要な指標となります。

測定項目正常値病的値意義
右心房圧2-6mmHg>8mmHg右心負荷
左心房圧4-12mmHg>15mmHg左心負荷
肺動脈圧15-30mmHg>35mmHg肺高血圧

遺伝学的検査と染色体分析

染色体検査では、21トリソミー(ダウン症候群)との関連が特に深く、心内膜床欠損症患者の約40%にダウン症候群を合併します。遺伝子解析では、GATA4、NKX2.5、TBX5などの心臓発生に関与する遺伝子の変異を確認します。

心内膜床欠損症の確実な診断には、これら一連の検査結果を総合的に判断することが必要です。個々の検査結果を慎重に分析し、病型分類と重症度評価を行うことで、より正確な診断が実現します。

心内膜床欠損症(ECD)の治療方法と治療薬について

心内膜床欠損症(ECD)の治療は、病型と重症度に応じて、薬物療法、カテーテル治療、外科的治療など、様々なアプローチを組み合わせて行います。

特に、各病型における心臓への負担度や合併症の有無によって、治療方針が大きく異なります。医学的介入のタイミングは患者の状態によって個別に判断し、長期的な経過観察を含めた包括的な医療を提供します。

薬物療法の基本方針

薬物療法では、利尿薬や血管拡張薬を中心とした投薬により心機能の維持を図ります。フロセミド(利尿薬)は体重1kgあたり1-2mgを1日2-3回に分けて投与し、体液バランスの調整を行います。

ACE阻害薬は、エナラプリルを体重1kgあたり0.1mgから開始し、最大0.5mgまで漸増していきます。

薬剤分類初期投与量最大投与量投与回数
利尿薬1mg/kg/日6mg/kg/日2-3回/日
ACE阻害薬0.1mg/kg/日0.5mg/kg/日1-2回/日
β遮断薬0.5mg/kg/日4mg/kg/日2回/日

カテーテル治療の適応と実際

カテーテル治療の成功率は、欠損孔のサイズと位置によって大きく異なります。欠損孔が8mm以下の症例では95%以上の成功率を示す一方、15mm以上の症例では手術的治療が推奨されます。

デバイス留置後の抗凝固療法は、アスピリン3-5mg/kg/日を6ヶ月間継続します。

  • 欠損孔8mm以下:カテーテル治療が第一選択
  • 欠損孔8-15mm:個別評価で方針決定
  • 欠損孔15mm以上:外科的治療を推奨

外科的治療のタイミングと方法

手術時期は、完全型では生後3-6ヶ月が至適期とされ、この時期の手術成功率は98%に達します。体外循環時間は平均120-180分、手術時間は平均4-6時間を要します。

病型手術時期手術時間成功率
完全型3-6ヶ月4-6時間98%
不完全型1-2歳3-4時間99%
移行型6-12ヶ月4-5時間97%

周術期管理と術後ケア

術後の人工呼吸管理は平均24-48時間継続し、その後の酸素投与は5-7日間実施します。

強心薬の投与量は、ドパミンを3-5μg/kg/分で開始し、循環動態に応じて調整します。術後の在院日数は、合併症がない場合で平均14-21日となります。

管理項目実施期間使用薬剤投与量
呼吸管理24-48時間酸素2-4L/分
循環管理3-5日ドパミン3-5μg/kg/分
疼痛管理5-7日フェンタニル1-2μg/kg/時

長期フォローアップと生活指導

術後のフォローアップスケジュールは、1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、以降は年1回の定期検査を基本とします。運動制限は、術後3ヶ月までは中等度以上の運動を制限し、6ヶ月以降に段階的に緩和していきます。

90%以上の患者が、術後1年以内に通常の日常生活に復帰できています。

心内膜床欠損症の治療成績は、この30年間で著しく改善し、現在の手術死亡率は1%未満となっています。早期発見と適切な治療介入により、多くの患者が健康な生活を送ることができるようになりました。

心内膜床欠損症(ECD)の治療期間

心内膜床欠損症(ECD)の治療は、病型や患者の状態によって異なる期間を要します。

入院から退院後のリハビリテーション、そして日常生活への完全復帰までには、段階的な回復期間が必要となり、それぞれの段階で適切な時間をかけることが患者の予後を左右します。定期的な経過観察を含めた長期的な医療管理も大切です。

術前準備と入院期間

手術前の準備期間では、呼吸機能検査や心臓超音波検査など、約15-20種類の検査を実施します。

完全型の患者では、胸部X線で心胸郭比(心臓の大きさを示す指標)が55-60%に拡大していることが多く、この数値を50%以下に改善させるための術前管理に平均5-7日を要します。

一方、不完全型や部分型では、心胸郭比が51-54%程度にとどまるため、術前準備期間を3-4日に短縮できます。血液検査では、BNP値(心不全の指標)を100pg/mL未満に、ヘモグロビン値を12g/dL以上に調整することを目標とします。

病型別術前管理検査項目数目標達成期間入院期間
完全型18-20項目5-7日14-21日
不完全型15-17項目3-4日10-14日
部分型12-15項目3-4日7-10日

手術直後の集中治療期間

ICUでの管理期間中、人工呼吸器からの離脱を目指して段階的な呼吸機能の改善を図ります。完全型では、術後の心拍数を120-130回/分、血圧を収縮期90-100mmHg、拡張期50-60mmHgの範囲内に維持することが目標となります。

酸素飽和度は95%以上を維持し、尿量は0.5-1.0mL/kg/時以上を確保します。体温管理では36.5-37.2度の範囲を保ち、創部からの出血量を50mL/時以下に抑えることを目指します。

循環動態指標目標値許容範囲評価頻度
心拍数120/分110-130/分1時間毎
収縮期血圧95mmHg90-100mmHg15分毎
尿量1mL/kg/時0.5-1.5mL/kg/時1時間毎

一般病棟での回復期間

一般病棟での経過観察では、心エコー検査を2-3日おきに実施し、心機能の回復を評価します。経口摂取は術後24-48時間から開始し、3-4日で通常食に移行します。創部の抜糸は術後7-10日目に行い、その2-3日後から軽度の運動を開始します。

  • 術後の回復指標:
  • 心拍数:安静時90-100回/分
  • 体温:36.5-37.0度の安定
  • 食事摂取量:通常量の80%以上
  • 歩行距離:1日300-500m以上
  • 血液検査値の正常化

リハビリテーションと社会復帰

リハビリテーションでは、6分間歩行試験で300m以上、心拍数上昇を30%未満に抑えることを目標とします。段階的な運動負荷を行い、SpO2(血中酸素飽和度)が95%以上を維持できる状態を確認します。

復帰段階目標数値達成期間判定基準
軽運動歩行300m2-3週間SpO2≥95%
通学・通園4時間継続4-6週間疲労なし
運動解除一般同等6-12ヶ月心機能正常

長期的なフォローアップ期間

長期フォローアップでは、5年間の経過観察で97%以上の患者が通常の日常生活を送れるようになります。10年後の心機能は、左室駆出率60%以上、BNP値50pg/mL未満を維持することを目標とします。

薬の副作用や治療のデメリットについて

心内膜床欠損症の治療では、手術や薬物療法に伴う様々な副作用やリスクが存在します。これらのリスクは病型や患者の状態によって異なり、慎重な観察と対応が必要となります。

また、術後の経過においても、長期的な合併症に注意を払う必要があります。医療チームによる継続的なモニタリングと管理が大切です。

手術に関連する主要なリスク

開心術における体外循環の使用時間が3時間を超える場合、臓器への影響リスクは約2倍に増加します。完全型の手術では、体外循環時間が平均4.2時間となり、このリスクに特に注意が必要となります。

手術中の出血量が体重1kgあたり15mL以上となる症例では、輸血が必要となる確率が80%を超えます。また、手術時間が6時間を超える場合、術後感染のリスクは15%まで上昇するとの報告があります。

手術関連因子リスク上昇率臨界値対策効果
体外循環時間2倍/3時間以上4時間60-70%
出血量3倍/15mL/kg以上20mL/kg50-60%
手術時間2.5倍/6時間以上8時間40-50%

薬物療法による副作用

利尿薬の長期使用では、約30%の患者で電解質異常が発生します。特にカリウム値が3.5mEq/L未満となる低カリウム血症は、不整脈のリスクを3倍に増加させます。

血圧降下薬の使用では、約20%で眩暈や起立性低血圧が出現します。

薬剤種類副作用発生率重症度分布回復期間
利尿薬30-35%軽症70%1-2週間
ACE阻害薬15-20%軽症85%3-5日
β遮断薬25-30%軽症80%1週間

術後早期の合併症

術後24時間以内の呼吸器合併症は約25%に発生し、その半数が無気肺を伴います。体温が38.5度以上の発熱は約40%に出現し、平均して3-4日間持続します。

創部感染は7-10%で発生し、抗生物質の追加投与を要します。

合併症種類発生頻度平均持続期間重症化率
呼吸器系25%48-72時間5%
循環器系15%24-48時間3%
感染症7-10%5-7日2%

長期的な合併症とリスク

術後5年以内に約15%の患者で不整脈が出現し、その中でも心房細動が最も多く約8%を占めます。10年後の弁機能評価では、約20%で軽度の逆流を認めます。

経過年数不整脈発生率弁機能異常再手術率
1-5年15%5%1%
5-10年20%15%3%
10年以上25%20%5%

生活面での制限とリスク管理

術後3ヶ月間は中等度以上の運動を制限し、心拍数を120回/分以下に抑える必要があります。感染性心内膜炎の予防として、歯科処置の2時間前に抗生物質の予防投与を行います。

これらのリスクに対する早期発見と適切な対応により、90%以上の患者が良好な経過をたどることができます。長期的な経過観察と定期的な評価を通じて、より安全な治療継続を目指します。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

処方薬の薬価

循環器系の治療薬は、その種類や使用量によって薬価が設定されています。

利尿薬は1日あたり80円から150円程度、心機能改善を目的としたACE阻害薬は1日100円から200円程度となり、月単位では数千円規模の費用となります。

薬剤分類1日あたり薬価月額概算主な使用期間
利尿薬80-150円2,400-4,500円3-6ヶ月
ACE阻害薬100-200円3,000-6,000円6-12ヶ月

1週間の治療費

入院時の基本治療費には、病室使用料、医学管理料、投薬料、注射料などが含まれ、一般病棟での1日あたりの基本料金は3,800円から5,500円の範囲となります。

これに加えて、日々の医療管理や検査に関わる費用が発生します。

  • 入院基本料:3,800-5,500円/日(病室のグレードにより変動)
  • 投薬管理料:420円/日(服薬指導・管理を含む)
  • 注射管理料:950円/日(点滴等の処置を含む)
  • 検査料:15,000-25,000円/週(心電図・超音波検査等)

1か月の治療費

入院期間が1ヶ月に及ぶ場合、保険診療の自己負担割合(3割または2割)に応じて、以下のような費用が想定されます。

なお、これらの金額は一般的な目安であり、実際の治療内容や医療機関によって変動する点に留意が必要です。

費用項目3割負担額2割負担額備考
入院費114,000円76,000円一般病棟30日計算
投薬費12,000円8,000円主要薬剤含む
検査費45,000円30,000円定期検査込み

医療費の実質負担額は、保険点数制度に基づいて算出され、加入している医療保険の自己負担割合によって最終的な支払額が確定します。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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