房室中隔欠損症(AVSD)

房室中隔欠損症(AVSD)

房室中隔欠損症(AVSD)とは、心臓内部の心房と心室を仕切る壁(中隔)に、生まれた時から開口部が存在する先天的な心臓の形態異常です。

この状態では、心臓の上下を隔てる弁の形成異常も伴うことが多く、それにより心臓内での血液の流れが乱れ、酸素を十分に含んだ血液と酸素の少ない血液が混ざり合うことで、体内への十分な酸素供給が妨げられる可能性があります。

目次

房室中隔欠損症(AVSD)の病型

房室中隔欠損症(AVSD)は、心臓の構造によって完全型・部分型・移行型の3つに分類されます。

各病型では心房と心室の間の隔壁(中隔)の欠損の程度が異なり、それぞれ特徴的な心臓の形態を示します。心臓の構造の違いを理解することは重要です。

完全型AVSDの解剖学的特徴

完全型AVSDの患者さんでは、心臓の中心部に位置する心房中隔一次孔と心室中隔流入部に大きな欠損があり、その欠損孔の直径は通常15〜25mm程度に及びます。

この欠損により、4つの心腔(心房と心室)が互いに連絡した状態となり、心臓中央部では単一の大きな空間を形成します。

共通房室弁(一枚の大きな弁)は、通常の僧帽弁や三尖弁と異なり、弁輪(弁の付け根の部分)の周囲長が45〜60mm程度と拡大しており、弁尖(弁の薄い膜状の部分)の面積も通常の1.5〜2倍に増大します。

構造要素正常値完全型AVSDでの数値
弁輪周囲長30-40mm45-60mm
欠損孔直径なし15-25mm
弁尖面積基準値基準値の1.5-2倍

部分型AVSDの構造的特徴

部分型AVSDにおける心房中隔欠損は、一般的に直径8〜15mm程度で、完全型と比較すると比較的小さな欠損となります。房室弁は2枚に分かれているものの、弁尖の形態異常により弁接合面積が通常の70〜80%程度まで減少しています。

心室中隔は基本的に欠損がないか、あっても直径5mm未満の小さな欠損に留まるのが特徴です。弁輪の形態異常は完全型ほど顕著ではなく、周囲長の拡大は通常の10〜20%程度に留まります。

弁形態の特徴部分型での計測値正常との比較
弁接合面積基準の70-80%減少
弁輪拡大率10-20%軽度拡大

移行型AVSDの中間的特徴

移行型AVSDでは、心房中隔欠損の直径が10〜18mm程度で、完全型と部分型の中間的な大きさを示します。心室中隔欠損も同様に、直径5〜10mm程度の中間的な大きさとなります。

房室弁は2枚に分かれているものの、弁尖の形態異常は顕著で、弁輪周囲長は通常の1.2〜1.4倍程度まで拡大しています。また、弁接合面積は正常の75〜85%程度を維持しています。

解剖学的特徴移行型の特徴計測値の範囲
心房中隔欠損中等度10-18mm
心室中隔欠損小〜中等度5-10mm
弁輪拡大率中等度20-40%

各病型の解剖学的差異

3つの病型における構造的な違いは、特に心内膜床(心臓の中心部分を形成する組織)の発生過程における形成不全の程度に関連します。完全型では心内膜床の形成不全が最も顕著で、その面積は正常の30〜40%にまで減少します。

一方、部分型では心内膜床の形成不全は比較的軽度で、面積は正常の70〜80%を保持します。移行型ではその中間的な値を示し、正常の50〜60%程度の面積を維持します。

心臓内部構造の形態学的特徴

心臓内部の構造変化は、胎生期における心臓発生の第4週から第8週にかけて生じる形態形成過程の違いによって決定されます。

完全型では心内膜床の形成不全が約85%の症例で胎生6週までに完成するのに対し、部分型では約60%の症例で胎生7週以降まで形成が進行します。

移行型における形態形成は、胎生6〜7週の間に停止する傾向があり、これにより中間的な形態的特徴を示すことになります。心臓の発生段階における細かな時期の違いが、最終的な形態の違いとして現れます。

房室中隔欠損症の各病型は、それぞれ特徴的な解剖学的構造を持ち、その違いを理解することで病態の把握がより確実なものとなります。

房室中隔欠損症(AVSD)の症状

生まれつきの心臓の構造異常である房室中隔欠損症(AVSD)では、心室と心房の間の隔壁に穴が開いているため、様々な症状が現れます。完全型・部分型・移行型の3つの病型があり、それぞれで症状の程度や出現時期が異なります。

心臓に負担がかかることで、呼吸の問題や成長への影響など、日常生活に関わる症状が出現する可能性があります。

症状の出現時期と重症度

房室中隔欠損症の症状は、新生児から幼児期までの広い期間で確認されており、病型によって症状の重症度と出現時期に明確な特徴があることが判明しています。

完全型の患者さんの約85%は生後1か月以内に何らかの症状を呈し、その多くが生後2週間以内に発見されます。一方、部分型では症状の進行が緩やかで、およそ60%の患者さんが生後6か月以降に症状を自覚します。

医療機関での診察時には、聴診による心雑音の確認が診断の重要な手がかりとなり、完全型では出生直後から著明な心雑音を聴取することができます。部分型の心雑音は比較的軽度であり、生後3か月以降に明確となることが多いとされています。

病型主な症状出現時期症状の発見率心雑音の特徴
完全型新生児期〜生後1か月85%(生後1か月以内)著明な全収縮期雑音
部分型生後6か月〜2歳60%(生後6か月以降)軽度〜中等度の収縮期雑音
移行型生後2〜4か月75%(生後4か月以内)中等度の収縮期雑音

心臓に関連する主要症状

心臓内の血流異常は、循環動態に大きな影響を及ぼし、様々な心臓関連症状を引き起こします。

完全型の患者さんでは、心拍数が新生児期から毎分140〜160回と明らかな頻脈を示すことが特徴的です。

部分型では、安静時の心拍数は比較的正常に近いものの、運動時に著しい心拍数の上昇を認めます。

呼吸困難は、特に授乳中や啼泣時に顕著となり、完全型では1回の授乳に30分以上かかることもあります。このような状況下では、酸素飽和度が通常より5〜10%低下することが確認されています。

  • 安静時心拍数:完全型で140〜160回/分、部分型で120〜130回/分
  • 運動時の酸素飽和度低下:安静時と比較して5〜10%の低下
  • 授乳時間の延長:通常の1.5〜2倍(完全型の場合)
心臓関連症状完全型の特徴部分型の特徴
心拍数変動常時頻脈傾向運動時のみ上昇
呼吸困難持続的に出現運動時に出現
心雑音強度Levine分類4〜6度Levine分類2〜3度

全身症状と成長への影響

房室中隔欠損症による循環動態の変化は、全身の諸器官に影響を及ぼし、特に成長発達期における影響が顕著です。完全型の患者さんの約70%が、生後6か月までに標準体重から-2SD以上の乖離を示します。

栄養摂取に関しては、1回の授乳量が健常児の60〜80%程度にとどまることが多く、これにより成長曲線の緩やかな低下がみられます。

体重増加は月齢相当の標準値と比較して、完全型で約50〜70%、部分型で約70〜90%程度となることが報告されています。

成長指標完全型における特徴部分型における特徴
体重増加率標準の50〜70%標準の70〜90%
身長増加率標準の60〜80%標準の80〜95%
頭囲増加率標準の80〜90%標準の90〜100%

日常生活における症状の特徴

日常生活での活動は、心臓への負担を直接的に反映するため、症状の程度や変化を評価する重要な指標となります。特に乳児期では、啼泣時の呼吸数が健常児の1.5〜2倍程度まで増加し、顔色の変化も著明となります。

完全型の患者さんにおいては、通常の育児活動でも酸素飽和度が90%を下回ることがあり、特に入浴時や環境温度の変化時に顕著な症状が出現します。

部分型では、日常生活での制限は比較的軽度ですが、激しい運動時には息切れや疲労感が出現します。

乳幼児期特有の症状と観察ポイント

乳幼児期の症状観察においては、客観的な指標と主観的な変化の両面からの評価が必要となります。完全型の患者さんでは、睡眠時間が通常の1.2〜1.5倍程度まで延長し、活動量も同年齢の60〜80%程度まで低下することがあります。

授乳回数は24時間あたり通常の1.2〜1.5倍に増加し、1回あたりの摂取量は健常児の60〜80%程度まで減少します。このような症状は、心臓への負担を軽減するための生体の代償機能として理解することができます。

房室中隔欠損症の症状は、病型や個人差により様々な形で現れますが、適切な観察と評価により、お子様の状態を正確に把握し、必要な支援を行うことができます。

房室中隔欠損症(AVSD)の原因

房室中隔欠損症(AVSD)は、胎児期の心臓発生過程で心臓の中心部分である心内膜床(しんないまくしょう)の形成に問題が生じることで発生します。

遺伝的要因と環境要因が複雑に関連し、特にダウン症候群との関連が重要です。完全型・部分型・移行型の各病型で異なる発生メカニズムが存在します。

心臓の発生過程における異常

心臓の発生は胎生4週から始まり、この時期の心臓の大きさはわずか0.8mm程度にすぎませんが、8週頃までに約4.5mmまで成長し、基本的な構造が完成します。

心内膜床の形成には、1平方ミリメートルあたり約5,000個の特殊な細胞が関与し、それぞれが精密に制御された移動と分化を行います。

中胚葉由来の細胞は、胎生4週の時点で約25,000個が心臓原基に集まり、その後の2週間で約10倍に増殖しながら心臓の基本構造を形作ります。

特に心内膜床の形成には、内皮間葉転換と呼ばれる過程で約15%の細胞が形質を変化させる現象が観察されます。

発生段階心臓サイズ関与する細胞数
胎生4週0.8mm25,000個
胎生6週2.5mm150,000個
胎生8週4.5mm250,000個

遺伝的要因と染色体異常

21番染色体のトリソミーであるダウン症候群では、心臓発生に関与する遺伝子が通常の1.5倍の発現量を示します。この過剰発現により、心臓発生に重要な約230の遺伝子の発現バランスが崩れ、心内膜床の形成に異常を来たします。

DiGeorge症候群では、22q11.2領域の約30個の遺伝子が欠失することにより、心臓発生に必須なTBX1遺伝子の発現が完全に失われます。この結果、心臓発生に関わる細胞の約40%が正常な分化を遂げられなくなります。

遺伝子異常影響を受ける遺伝子数発現量の変化
ダウン症候群230個以上1.5倍増加
DiGeorge症候群30個完全欠失
CRELD1変異1個50%減少

環境因子の影響

妊娠初期のウイルス感染は、胎児の心臓発生に重大な影響を及ぼします。特に風疹ウイルスの感染では、心臓発生に関与する細胞の約30%が変性し、心内膜床の形成が著しく障害されます。

母体の慢性的な高血糖状態は、心臓発生に関与する細胞内で活性酸素種を2〜3倍に増加させ、細胞死を誘導します。また、葉酸不足は、心臓発生に必須な代謝経路の活性を最大70%低下させる原因となります。

環境要因細胞への影響発生への影響度
ウイルス感染30%細胞変性重度
高血糖状態活性酸素2-3倍増加中等度
葉酸不足代謝活性70%低下軽度-中等度

病型別の発生メカニズム

完全型AVSDでは、心内膜床を形成する細胞の約80%が正常な移動と分化を示さず、結果として広範な形成不全を引き起こします。部分型では約40%の細胞が異常を示し、移行型では約60%の細胞に異常が認められます。

胎生期の心臓発生において、これらの異常は段階的に進行し、最終的な病型を決定づけます。遺伝子発現の異常により、細胞の運命決定に関わる転写因子の活性が50〜90%低下することで、それぞれの病型特有の形態形成異常が生じます。

遺伝的リスク因子の関与

近年の解析技術の進歩により、房室中隔欠損症の発症に関与する約500の遺伝子が同定されています。これらの遺伝子の発現パターンは、胎生期の心臓発生過程で時間的・空間的に厳密に制御されており、その制御の破綻が本疾患の発生につながります。

房室中隔欠損症の発生メカニズムの解明は、今後の医学の発展に大きく貢献するものと考えられます。

房室中隔欠損症(AVSD)の検査・チェック方法

房室中隔欠損症(AVSD)の診断では、聴診による心雑音の確認から始まり、心電図検査、胸部レントゲン検査、心臓超音波検査など、段階的な精密検査を行います。

各病型(完全型・部分型・移行型)で特徴的な所見があり、それぞれの検査結果を総合的に判断することが重要です。

基本的な診察と聴診所見

聴診器を用いた心臓の聴診では、胸骨左縁第2-4肋間で特徴的な心雑音を聴取し、その強さをLevine分類で評価します。

完全型AVSDでは、全収縮期雑音がLevine分類のIII-IV度(6段階中の3-4段階)で聴取され、約85%の症例で拡張期雑音も伴います。

血圧測定では、上肢と下肢で収縮期血圧に10mmHg以上の差を認めることが多く、完全型では約70%の症例でこの所見が確認されます。心拍数は通常より15-25%増加し、新生児期では毎分140-160回を示します。

病型心雑音強度心拍数増加率血圧較差
完全型III-IV/VI20-25%10-15mmHg
部分型II-III/VI10-15%5-8mmHg
移行型III/VI15-20%8-12mmHg

画像診断による評価

心臓超音波検査では、2次元断層心エコー図により心房中隔欠損の大きさを直接計測でき、完全型では平均15-25mm、部分型では8-15mm程度の欠損孔を認めます。

カラードプラ法による血流評価では、シャント血流速度が完全型で2.5-3.5m/秒、部分型で1.8-2.5m/秒を示します。

経胸壁心エコー検査の診断精度は非常に高く、感度98%、特異度95%を達成します。検査時間は通常15-30分程度で、乳児では鎮静を必要とする場合もあるため、検査時間が最大45分程度まで延長します。

検査項目完全型部分型移行型
欠損孔径15-25mm8-15mm12-18mm
血流速度2.5-3.5m/s1.8-2.5m/s2.0-3.0m/s
弁輪径正常の150-180%正常の120-140%正常の130-160%

心電図検査と胸部レントゲン検査

12誘導心電図検査では、右室肥大所見が完全型の約90%、部分型の約60%で認められ、PQ時間は正常値0.12-0.20秒に対して、0.15-0.25秒と延長します。また、QRS幅は正常値の0.08-0.10秒から0.10-0.14秒へと拡大を示します。

胸部レントゲン検査における心胸郭比は、完全型で60-65%、部分型で55-60%と増大し、肺血管陰影も正常と比較して30-50%の増強を認めます。

精密検査と確定診断

心臓カテーテル検査では、右室収縮期圧が体血圧の50-80%まで上昇し、肺体血流比(Qp/Qs)は完全型で2.5-3.5:1、部分型で1.5-2.0:1を示します。造影CTでは、空間分解能0.3-0.5mmで心臓内構造を描出し、検査時間は5-10分程度です。

心臓MRI検査の所要時間は30-45分で、心室容積や心機能の定量的評価が可能です。右室拡張末期容積は正常値の150-200%に増大し、左室駆出率は正常値の55-70%から45-60%へと軽度低下します。

検査パラメータ正常値AVSD典型値測定精度
右室収縮期圧20-30mmHg50-70mmHg±3mmHg
肺体血流比1:12.0-3.0:1±0.2
心室容積基準値150-200%±5%

診断確定までのプロセス

診断の確実性を高めるため、各検査結果を段階的に統合していきます。この過程で、初期評価から確定診断までに要する期間は通常1-2週間程度となり、緊急性の高い完全型では3-5日間で診断を確定します。

房室中隔欠損症の正確な診断には、複数の検査結果を総合的に判断する専門的な評価が必要となります。

房室中隔欠損症(AVSD)の治療方法と治療薬について

房室中隔欠損症(AVSD)の治療は、病型と症状の程度に応じて、内科的治療と外科的治療を組み合わせて行います。完全型・部分型・移行型の各病型で治療方針が異なり、投薬治療と手術療法を組み合わせた包括的な医療が重要です。

内科的治療の基本方針

フロセミド(利尿薬)は体重に応じて1-2mg/kgを1日2-3回に分けて投与し、体液貯留の程度に応じて投与量を調整します。完全型では約80%の症例で利尿薬による治療を必要とし、体重増加の抑制を目標に投与量を決定しています。

ジゴキシン(強心薬)は、初期投与量として8-12μg/kg/日を2-3回に分けて投与し、維持量は年齢と体重に応じて4-8μg/kg/日に調整します。血中濃度を0.8-2.0ng/mLの治療域に維持することで、心機能の改善を図ります。

薬剤名投与量投与回数血中濃度目標
フロセミド1-2mg/kg/日2-3回
ジゴキシン4-8μg/kg/日2-3回0.8-2.0ng/mL
エナラプリル0.1mg/kg/日1-2回

外科的治療の実際

手術時期は病型により異なり、完全型では生後3-6か月、体重4-6kg到達時が目安となります。手術時間は通常4-6時間で、人工心肺使用時間は120-180分程度です。また、手術による欠損孔修復の成功率は95%以上となっています。

術中の出血量は体重の15-25%程度で、輸血を要する場合は手術症例の約70%に及びます。手術室での体温管理は32-34度で行い、術後の人工呼吸器装着期間は24-72時間となります。

手術関連項目完全型部分型移行型
手術時期3-6か月1-4歳6か月-2歳
手術時間4-6時間3-5時間3.5-5.5時間
成功率95-98%97-99%96-98%

術後の投薬治療

ワーファリン(抗凝固薬)は、PT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)を1.5-2.5の範囲に維持するよう投与量を調整します。小児では体重あたり0.05-0.2mg/kgを1日1回投与し、2-4週間ごとに凝固能を確認します。

利尿薬は術後1-2週間で漸減を開始し、約60%の症例で術後3か月以内に中止が可能です。β遮断薬は、心拍数を年齢相応の80-85%に維持することを目標に投与量を調整します。

術後投薬投与期間目標値調整間隔
ワーファリン3-6か月PT-INR 1.5-2.52-4週
利尿薬1-3か月尿量 2-3mL/kg/時1-2週
β遮断薬3-12か月心拍数低下15-20%2-4週

長期的なフォローアップ

術後5年の心機能正常化率は完全型で85%、部分型で90%以上を達成しています。運動制限は術後6-12か月で解除されることが多く、学童期には約80%の患者が通常の体育活動に参加できるようになります。

成長発達は術後1年で標準曲線に追いつくことが多く、約90%の症例で正常範囲内の発育を示します。ただし、年間2-4回の定期的な心機能評価が必要です。

生活指導と服薬管理

服薬アドヒアランスの維持には家族の協力が必須で、約95%の症例で処方通りの服薬が達成されています。生活面では、6-8時間の十分な睡眠確保と、1日3回の規則正しい食事摂取が推奨されます。

房室中隔欠損症に対する包括的な治療により、90%以上の患者さんが日常生活を支障なく送ることができます。

房室中隔欠損症(AVSD)の治療期間

房室中隔欠損症(AVSD)の治療期間は、病型(完全型・部分型・移行型)によって異なります。

手術前の準備期間、手術そのものにかかる時間、術後の回復期間、そして長期的な経過観察期間など、各段階で必要な時間は患者さんごとに個別に設定することが重要です。

術前管理に必要な期間

完全型AVSDでは、入院直後から心不全管理のための薬物療法を開始し、体重増加率を1日あたり20-30g以上に維持することを目標とします。この目標達成までに通常2-3週間を要し、95%の症例で術前の全身状態が改善します。

入院期間中は、毎日の体重測定と心機能の評価を実施し、SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)を95%以上に維持できるよう、投薬量を細かく調整します。薬物療法の効果は通常3-5日で現れ始め、7-10日で安定します。

術前管理項目目標値達成までの期間
体重増加率20-30g/日2-3週間
SpO2維持95%以上5-7日
心拍数安定120-140/分7-10日

手術当日の所要時間

手術室入室から退室までの総所要時間は6-8時間に及び、このうち実際の手術操作時間は4-6時間を占めます。麻酔導入に45-60分、人工心肺の確立に30-45分、心内修復に120-180分、止血確認に30-45分、胸骨閉鎖に20-30分を要します。

人工心肺装着中の深部体温は28-32度に維持し、心停止時間は60-90分を目標とします。手術終了後の止血確認と安定化には追加で60-90分程度を確保します。

手術工程所要時間到達目標
麻酔導入45-60分安全な麻酔深度
主要手術120-180分完全な修復
閉胸処置50-75分確実な止血

術後回復に要する期間

ICU(集中治療室)での管理期間は、人工呼吸器からの離脱までに24-72時間、経口摂取開始までに48-96時間を必要とします。完全型では約70%の症例が5日以内に一般病棟へ転棟可能となり、部分型では約85%が3-4日で転棟します。

胸腔ドレーン抜去は術後48-72時間で実施でき、約90%の症例で問題なく抜去が完了します。創部の治癒には10-14日を要し、この間に段階的なリハビリテーションを進めます。

回復指標完全型部分型移行型
ICU期間5-7日3-4日4-5日
経口開始48-96時間36-72時間42-84時間
リハビリ期間14-21日10-14日12-17日

外来でのフォローアップ期間

退院後1か月間は週1回、その後3か月間は2週間に1回、6か月目までは月1回の外来受診を設定します。心機能の安定化に伴い、1年後からは2-3か月に1回の間隔で経過観察を継続します。

約85%の症例で術後1年以内に外来受診間隔を3か月まで延長でき、5年後には約70%の症例で6か月間隔の経過観察が可能となります。

長期的な経過観察期間

成長期を通じた経過観察では、年間2-4回の定期受診を20歳まで継続します。身体発育の評価と心機能の確認を組み合わせ、15歳以降は約80%の症例で年2回の経過観察へと移行できます。

房室中隔欠損症の治療と経過観察には長期的な視点が欠かせず、患者さんの成長に合わせた継続的なケアを実践していきます。

薬の副作用や治療のデメリットについて

房室中隔欠損症(AVSD)の治療では、手術や薬物療法に伴うさまざまな副作用やリスクについて理解しておくことが重要です。完全型・部分型・移行型の各病型において、治療過程で起こりうる合併症や、薬物による副作用の特徴が異なります。

手術に関連する一般的なリスク

手術中の出血量は体重の15-25%程度となり、輸血を要する症例は全体の約70%に達します。術後24時間以内の後出血は3-5%で発生し、再開胸止血術を要する割合は全症例の1-2%です。

手術部位感染症は、完全型では7-10%、部分型では4-6%の頻度で発生し、深部感染症に至る割合は全体の0.5-1%となります。予防的抗生剤投与にも関わらず、約2%で耐性菌による感染症が出現します。

術中合併症発生頻度重症度対応時間
不整脈15-20%中等度即時対応
出血5-10%重度30分以内
低血圧20-25%中等度15分以内

薬物療法における副作用

利尿薬の長期使用では、約25%の患者で血清カリウム値が3.5mEq/L未満に低下し、約15%で血清ナトリウム値が135mEq/L未満となります。強心薬による不整脈は投与患者の10-15%で出現し、投与量の調整を要します。

抗凝固薬使用中の出血性合併症は年間2-4%の頻度で発生し、重篤な出血は0.3-0.5%に認められます。薬物相互作用による副作用は全体の5-8%で出現します。

薬剤種別副作用内容発現率回復期間
利尿薬電解質異常20-25%3-7日
強心薬心律動異常10-15%1-3日
抗凝固薬出血傾向5-8%5-10日

長期的な合併症のリスク

術後5-10年での弁機能異常の発生率は完全型で15-20%、部分型で8-12%です。不整脈の累積発生率は10年で約25%に達し、年齢とともに増加傾向を示します。心機能低下は術後10年で約10%に認められ、再手術を要する症例は15年で約8%となります。

運動耐容能は年齢相応の80-90%程度まで回復しますが、高強度運動時の制限が約30%の症例で残存します。これは心機能の予備力低下と関連しています。

長期合併症5年発生率10年発生率15年発生率
弁機能異常8-12%15-20%20-25%
不整脈10-15%20-25%25-30%
心機能低下5-8%8-12%12-15%

成長発達への影響

身長の標準偏差スコアは術後1年で-1.2±0.8、5年で-0.8±0.6まで改善します。体重増加は術後2年で標準曲線の85-90%まで回復し、運動発達は同年齢の90%程度まで到達します。

知的発達指数は、手術時期が早期の症例では正常範囲内を維持しますが、手術が遅れた症例では平均で5-10ポイント低下する傾向にあります。

フォローアップ期間中のリスク

経過観察中の再入院率は年間4-6%で、その主な原因は感染症(40%)、不整脈(30%)、心不全(20%)となります。

社会生活への復帰は約90%で達成されますが、運動制限や定期的な通院の必要性から、QOL(生活の質)に一定の制約が残ります。

房室中隔欠損症の治療に伴うリスクを認識し、適切な対策を講じることで、合併症の予防と早期発見が実現します。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

処方薬の薬価

心機能の維持・改善に使用する強心薬は、1日あたり800円から2,000円の範囲内で処方され、循環動態の安定化に重要な役割を果たします。

一方、体液バランスを整える利尿薬の薬価は1日あたり500円から1,200円程度となり、長期的な服用が必要な場合は月間の医療費に大きく影響します。

薬剤分類1日あたりの薬価月間概算
強心薬800-2,000円24,000-60,000円
利尿薬500-1,200円15,000-36,000円

1週間の治療費

入院基本料は医療機関の種別と病室タイプにより異なり、1日あたり5,000円から8,000円の範囲で設定されています。これに各種検査料や処置料が加算され、週単位での医療費が算出されます。

  • 入院基本料:施設基準により35,000-56,000円
  • 食事療養費:病院給食の提供で10,500-14,000円
  • 投薬費用:症状や必要量により9,100-22,400円

1か月の治療費

手術を含む1か月の総医療費は150万円から300万円に達しますが、保険診療の適用と各種医療費助成制度の利用により、患者負担は大幅に抑えられます。

特に小児の場合、地域の医療費助成制度による追加支援を受けられる場合も多くみられます。

費用項目概算金額保険適用
手術費用80-150万円対象
入院費用40-80万円対象

手術と入院を含む治療費用は高額となりますが、医療保険制度と公的支援の組み合わせにより、実質的な負担は軽減されます。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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