WPW症候群

WPW症候群(Wolff-Parkinson-White Syndrome)とは、心臓内部の電気信号の伝わり方に異常がある先天性の不整脈疾患です。

この症候群の特徴は、心房と心室の間に、本来存在しない余分な電気の通り道(副伝導路)が形成されていることです。

健康な心臓では、電気信号が洞結節から房室結節を経て心室へと順序よく伝わりますが、WPW症候群では副伝導路を通じて心室が予定より早く興奮することがあり、心臓のリズムが乱れます。

頻脈(ひんみゃく:心拍数が異常に速くなる)発作や動悸(どうき:心臓がドキドキする感覚)などが代表的な症状です。

目次

WPW症候群の病型

WPW症候群(Wolff-Parkinson-White症候群)は、副伝導路(ケント束)の存在する部位により、A型、B型、C型の3種類に分類されます。

A型WPW症候群の特徴

A型WPW症候群は、副伝導路が心臓の左側に位置する場合に診断されます。

この病型の特徴として、心電図上でV1誘導(胸部の右上に置く電極)においてデルタ波が陰性を示し、左側胸部誘導でデルタ波が陽性になることが挙げられます。

A型では左室側壁や左側後中隔にKent束が存在する場合が多く、この位置関係が心電図所見に反映されます。

B型WPW症候群の特徴

B型WPW症候群は、副伝導路が心臓の右側に位置するタイプです。

B型ではV1誘導でデルタ波が陽性を示し、左側胸部誘導でデルタ波が陰性になります。右室自由壁や右側後中隔にKent束が存在することが多く、A型とは異なる心電図所見を呈します。

病型Kent束の位置主な心電図所見特徴的な副伝導路の位置
A型左側V1誘導でデルタ波陰性、左側胸部誘導でデルタ波陽性左室側壁、左側後中隔
B型右側V1誘導でデルタ波陽性、左側胸部誘導でデルタ波陰性右室自由壁、右側後中隔

C型WPW症候群の特徴

C型WPW症候群は、副伝導路が心臓の中隔に位置するものを指します。

A型やB型と比較すると稀なタイプであり、中隔領域にKent束が存在することから、心電図上でのデルタ波の形態が他の型とは異なる特徴的な所見を示します。

潜在性WPW症候群

通常のWPW症候群とは異なり、潜在性WPW症候群という特殊な病型もあります。この病型では、安静時の心電図ではデルタ波が見られず、通常のWPW症候群の特徴的な所見を示しません。

しかし、発作時や電気生理学的検査時に副伝導路の存在が明らかになるという特徴があります。

WPW症候群の種類安静時心電図発作時・検査時診断の難易度
顕性WPW症候群デルタ波あり副伝導路の存在確認比較的容易
潜在性WPW症候群デルタ波なし副伝導路の存在確認より困難

WPW症候群の症状

WPW症候群の主な症状は、突然の動悸や頻脈、胸部不快感、めまい、失神などで、心臓の異常な電気伝導によって起こります。

動悸・頻脈

WPW症候群患者の最も一般的な症状は、動悸と頻脈です。突然心臓が激しく鼓動するのを感じ、数分から数時間続きます。

頻脈の程度は個人差がありますが、通常、心拍数は1分間に150〜250回に達します。

症状特徴
動悸突然の発症、激しい心拍動感
頻脈心拍数150〜250回/分

胸部不快感

動悸や頻脈に伴い、胸部不快感が起こることも少なくありません。胸が締め付けられるような感覚や圧迫感として感じる場合が多く、軽度の胸痛を伴うこともあります。

めまい・失神

頻脈が続くと、脳への血流が一時的に減少し、めまいや立ちくらみを引き起こすことがあります。

重度の場合は失神に至ることもあり、通常は一過性で数秒から数分で回復しますが、運転中や高所作業中に失神が起こると重大な事故につながる恐れがあるため、医療機関で評価を受けることが重要です。

症状発生メカニズム
めまい脳血流の一時的減少
失神重度の脳血流減少

その他の症状

  • 息切れ(特に運動時や階段昇降時)
  • 慢性的な疲労感
  • 発汗(特に発作時に顕著)
  • 持続的な不安感や焦燥感

症状の発現パターン

WPW症候群の症状は、突然始まり、同様に突然終わることが特徴です。この「突然の開始と終了」はWPW症候群の診断において重要な手がかりとなり、他の心疾患との鑑別に役立ちます。

症状の特徴詳細影響
発症突然予測困難
終了突然安堵感
持続時間数分〜数時間日常生活への支障

症状の頻度と重症度

数年に1回程度しか症状がみられない方がいる一方で、週に数回の頻度で症状が出現する方もいます。

重症度も同様に、軽度の動悸程度で済む場合もあれば、失神を伴う重度の発作につながる場合もあり、個人差によってさまざまです。

症状の特性軽症例重症例
頻度年に1〜2回週に数回
持続時間数分数時間
随伴症状軽度の動悸のみ失神、重度の胸痛

WPW症候群の原因

WPW症候群は、心臓の電気伝導系統に生まれつき余分な経路が存在することが主な原因となっています。

心臓の正常な電気伝導システム

心臓の電気伝導システムは、洞結節から始まり、心房を経て房室結節に至ります。房室結節では電気信号の伝導速度が一時的に遅くなり、心房と心室の収縮のタイミングを調整します。

その後、電気信号はヒス束を通って左右の脚に分かれ、プルキンエ線維を介して心室全体に広がります。

この過程により、心臓は規則正しく収縮と拡張を繰り返すことができます。

WPW症候群における異常な電気伝導路

WPW症候群では、心房と心室の間に通常存在しない副伝導路が形成されています。

この副伝導路は、房室結節を迂回して電気信号を直接心室に伝えるため、心室の一部が早期に興奮し不整脈を引き起こす原因となります。

正常な電気伝導路WPW症候群の電気伝導路
洞結節→心房→房室結節→ヒス束→心室洞結節→心房→房室結節→ヒス束→心室
    ↘副伝導路↘

副伝導路が形成されるしくみ

副伝導路の形成は、胎児期の心臓発生過程で起こります。通常、心房と心室は電気的に隔離されるべきですが、WPW症候群ではこの隔離が不完全となります。

その結果、心房筋と心室筋が直接連結した状態で残存し、副伝導路を形成するのです。

発生原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝子の変異や環境要因が関与していると考えられています。

副伝導路の特性

WPW症候群における副伝導路は、通常の房室結節とは異なる電気生理学的特性を持っています。

多くの場合、副伝導路は房室結節よりも速く電気信号を伝導します。この特性により、心房から心室への異常な早期興奮が生じ、特徴的な心電図所見(デルタ波)が現れます。

副伝導路の特性影響
伝導速度心室の早期興奮の程度に影響
不応期頻脈性不整脈の発生しやすさに関与
位置心電図所見や不整脈の種類に影響

WPW症候群の検査・チェック方法

WPW症候群の診断では、主に心電図検査やホルター心電図検査、運動負荷心電図検査、電気生理学的検査(EPS)などを実施します。

心電図検査による診断

12誘導心電図検査では、特徴的な所見であるデルタ波の存在を確認します。

デルタ波はQRS波(心室の収縮を示す波形)の立ち上がりが緩やかになる現象で、副伝導路を介して心室が早期興奮することによって生じます。

また、PQ時間(心房から心室への電気伝導時間)の短縮(0.12秒未満)やQRS波の幅の増大(0.12秒以上)も、WPW症候群を示唆する重要な所見となります。

心電図所見特徴臨床的意義
デルタ波QRS波の立ち上がりが緩やか副伝導路の存在を示唆
PQ時間0.12秒未満に短縮心房-心室間の早期伝導を示唆
QRS幅0.12秒以上に増大心室の異常興奮を示唆

ホルター心電図検査

24時間心電図(ホルター心電図)検査は、日常生活中の心電図変化を連続的に記録する検査です。間欠的に出現するWPW症候群の所見や、頻脈発作の有無を確認することができます。

特に、症状が不定期に出現する患者さんや、安静時の12誘導心電図では所見が明確でない場合に有用性が高いと言えます。

ホルター心電図検査のポイント

  • デルタ波の出現頻度と持続時間:副伝導路の活動性を評価
  • 頻脈発作の有無とその持続時間:不整脈のリスクを評価
  • 心拍数の変動パターン:自律神経系の影響を評価
  • 他の不整脈の合併の有無:総合的な心臓の電気的活動を評価

運動負荷心電図検査

運動負荷心電図検査では、トレッドミルやエルゴメーターを用いて、運動負荷をかけながら心電図を連続的に記録します。

運動によって交感神経が優位になると、副伝導路の伝導性が亢進し、WPW症候群の所見がより顕著になることがあります。

その一方で、運動負荷によってデルタ波が消失する場合もあり、これは副伝導路の不応期(電気刺激に反応しない期間)が長いことを示しています。

運動負荷時の変化臨床的意義予後との関連
デルタ波の増強副伝導路の伝導性亢進不整脈リスクが高い可能性
デルタ波の消失副伝導路の不応期延長比較的良好な予後を示唆
頻脈発作の誘発不整脈のリスク評価治療介入の必要性を示唆

電気生理学的検査(EPS)

電気生理学的検査(Electrophysiological Study, EPS)では、カテーテル(細い管)を用いて心臓内の電気的活動を直接記録し、副伝導路の位置や特性を評価します。

EPSの評価ポイント

EPS評価項目臨床的意義治療への影響
副伝導路の位置アブレーション治療の計画治療成功率の向上
伝導特性不整脈のリスク評価薬物療法の選択
不応期突然死リスクの評価予防的治療の必要性判断
頻脈誘発性治療の必要性判断侵襲的治療の適応決定

WPW症候群の治療方法と治療薬について

WPW症候群(Wolff-Parkinson-White症候群)の治療には、薬物療法、カテーテルアブレーション、そして外科的治療があります。

薬物療法による管理

WPW症候群の薬物療法は、症状が軽度から中等度の患者さんに対して行います。抗不整脈薬を使用することで、心臓内の異常な電気伝導路を遮断し、不整脈の発作を予防します。

主な薬剤には、ベラパミル、プロパフェノン、フレカイニドなどがあり、それぞれ異なる作用機序で心臓の電気的活動を調整します。

薬剤名主な作用特徴
ベラパミルカルシウムチャネル遮断心拍数を減少させる
プロパフェノンナトリウムチャネル遮断不整脈の発生を抑制する
フレカイニドナトリウムチャネル遮断心筋の興奮を抑える

カテーテルアブレーション治療

カテーテルアブレーションは、WPW症候群の根治療法として広く用いられている治療方法です。この治療法では、心臓内に細い管(カテーテル)を挿入し、特殊な装置を用いて異常な電気伝導路を特定して焼灼します。

治療法特徴利点
高周波アブレーション熱エネルギーを使用精密な焼灼が可能
クライオアブレーション冷凍エネルギーを使用組織へのダメージが少ない

カテーテルアブレーションは成功率が高く、多くの場合で症状の即時改善が見られますが、身体に負担の大きい処置であるため、合併症のリスクについても理解が必要です。

急性期の治療

WPW症候群による頻脈発作が起きた際の急性期治療には、迷走神経刺激法、抗不整脈薬の静脈内投与、電気的除細動などの方法があります。

治療法特徴適応
迷走神経刺激法顔面への冷水の適用や息こらえなどがあり、心拍数を減少させる効果があります軽度の発作時
抗不整脈薬静脈内投与速やかに薬剤を体内に送り込むことで、不整脈を抑制します中等度の発作時
電気的除細動電気ショックを用いて心臓のリズムを正常に戻す方法です重度の発作時

WPW症候群の治療期間

WPW症候群の治療期間は、症状の有無や重症度、治療法によって異なります。カテーテルアブレーション術の場合、一般的な入院期間は3〜5日間程度です。

入院期間と治療の流れ

カテーテルアブレーションの手術自体は通常2〜4時間程度で終了しますが、3〜5日間の入院が必要となります。

治療の段階所要時間主な内容
入院期間3〜5日術前検査、手術、術後観察
手術時間2〜4時間カテーテルアブレーション
術後安静時間24時間程度心臓モニタリング、安静管理

退院後の経過観察期間

退院後も、数週間から数ヶ月程度の経過観察が必要です。経過観察期間中は定期的な外来受診や心電図検査を行い、不整脈の再発がないかを確認します。

多くの場合、カテーテルアブレーション後は薬物療法が不要となりますが、一部の患者さんでは一定期間薬物療法を継続することもあります。

経過観察の内容頻度目的
外来受診2〜4週間ごと全身状態の確認
心電図検査1〜2ヶ月ごと不整脈の再発チェック
薬物療法(必要な場合)毎日症状のコントロール

完治までの期間

完治の判断基準観察期間評価方法
症状消失数週間〜数ヶ月患者さんの自覚症状確認
心電図正常化1〜3ヶ月定期的な心電図検査
日常生活復帰数週間〜数ヶ月日常活動レベルの評価
運動耐容能3〜6ヶ月ストレス負荷テスト

薬の副作用や治療のデメリットについて

WPW症候群の薬物治療では、めまい、吐き気、倦怠感などの副作用が起こる可能性があります。また、カテーテルアブレーション術では、出血や感染症などの合併症が起こるリスクがあります。

薬物療法に伴うリスク

薬物療法では長期的な服用が必要となるため、副作用のリスクが上昇します。

薬剤名主な副作用
ベラパミル便秘、めまい、低血圧
プロパフェノン吐き気、頭痛、味覚異常
フレカイニド視覚障害、めまい、不整脈悪化

副作用が強く出る場合は、別の治療法への変更を検討する必要があります。

カテーテルアブレーションのリスク

  • 出血
  • 感染
  • 血管や心臓の損傷
  • 心タンポナーデ(心臓を取り囲む心膜に液体がたまる状態)
  • 脳梗塞

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

WPW症候群の治療には高額な費用がかかりますが、保険適用により自己負担額を抑えられます。カテーテルアブレーション治療が主な選択肢となり、入院期間や治療内容によって費用が変動します。

カテーテルアブレーションの費用の目安

カテーテルアブレーション治療は高度な医療技術を要するため、総額で180万円から270万円程度と高額になります。ただし健康保険が適用されるため、実際の負担額は大幅に軽減されます。

高額療養費制度の活用

高額療養費制度を利用すると、さらに自己負担額を抑えられます。この制度では、月ごとの医療費が一定額を超えた場合、超過分が後日払い戻されます。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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