心室頻拍(VT)

心室頻拍(Ventricular Tachycardia)とは、正常な電気伝導系とは異なる経路で電気信号が発生し、心室が非常に速いペースで収縮してしまう不整脈です。

虚血性心疾患(心筋梗塞など)、心筋症、心臓の電気伝導系の異常などが原因で発症することが多く、症状としては動悸、胸痛、めまい、失神などが現れます。

重症化すると心室細動に移行し、突然死のリスクが高まるため、注意が必要です。

目次

心室頻拍(VT)の病型

心室頻拍(VT)は、心電図波形、持続時間、器質的心疾患の有無などによって分類されています。

心電図波形による分類

心室頻拍は、心電図上のQRS波形の形状によって、単形性VTと多形性VTの2つに分類されます。

単形性VTではQRS波形が一定の形状を示すのに対し、多形性VTでは、QRS波形が拍動ごとに変化する特徴があります。

分類特徴
単形性VTQRS波形が一定の形状を示す
多形性VTQRS波形が拍動ごとに変化する

それぞれ発生機序が異なり、単形性VTは心筋の限局した部位から発生しますが、多形性VTは複数の部位から発生したり、興奮伝播経路が拍動ごとに変化したりすることによって生じます。

持続時間による分類

持続時間による分類では、非持続性VT、持続性VTの2つのタイプに分類されます。

非持続性VTは30秒未満で自然に停止するものを指し、持続性VTでは30秒以上続くか、血行動態が不安定になります。

持続性VTは心室細動(VF)へ移行したり、突然死の原因となったりする可能性があるため、治療が必要です。

分類持続時間治療の必要性
非持続性VT30秒未満で自然に停止治療を必要としない
持続性VT30秒以上続くか、血行動態が不安定になる速やかな治療が必要

器質的心疾患の有無による分類

器質的心疾患の有無によって、特発性VTと二次性VTの2つがあります。

特発性VTは、明らかな器質的心疾患がない状態で発生するタイプで、二次性VTは、器質的心疾患を基礎として発生するものを言います。

二次性VTの原因となる器質的心疾患

  • 陳旧性心筋梗塞(過去の心筋梗塞による心筋の瘢痕)
  • 心筋症
  • 心筋炎
  • 先天性心疾患

器質的心疾患がある場合、心筋の線維化や瘢痕形成によって興奮伝播経路が変化し、リエントリー(興奮旋回)が生じやすくなり、心室頻拍が発生しやすい状態となります。

特殊なタイプの心室頻拍

以上の分類とは別に、特殊なタイプの心室頻拍として、以下のようなものがあります。

タイプ特徴
Torsades de pointes(トルサード・ド・ポアン)QT延長(心電図上のQT時間の延長)に伴って発生する多形性VT
右脚ブロック型特発性VT左脚後枝(左脚の後方を走行する伝導路)を下行する特発性VT
Brugada症候群に伴うVTBrugada症候群(特徴的な心電図変化を示す遺伝性疾患)に伴って発生するVT

一般的な心室頻拍とは異なる特有の機序で発生するため、治療方針も一般的な心室頻拍とは異なる場合があります。

心室頻拍(VT)の症状

心室頻拍(VT)では、突然の動悸や胸部の不快感、めまい、失神などの症状が起こります。

心室頻拍(VT)の代表的な症状

  • 突然の動悸や心拍数の増加
  • 胸部の不快感、圧迫感
  • めまい、立ちくらみ
  • 失神、意識消失

症状の程度は個人差が大きく、軽度の場合は自覚症状がほとんどないこともありますが、重度の場合は失神や心停止に至ります。

心室頻拍(VT)発作時の対処法

  1. 安静を保ち、体を動かさないようにする。
  2. 医療機関への連絡や救急要請を速やかに行う。
  3. 医師の指示に従い、速やかに処置を受ける。

心室頻拍(VT)発作時には、心臓への負担を最小限に抑えることが大切です。安静を保ち、不必要な体の動きを避けることで心臓への負担を軽減します。

心室頻拍(VT)の原因

心室頻拍(VT)は、心室の電気的活動が乱れ、正常な心臓のリズムが崩れることで起こります。主な原因には、以下のようなものがあります。

  1. 心筋梗塞や心筋症などの心臓の構造的異常
  2. 電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症など)
  3. 薬物の副作用(ジギタリス中毒、抗不整脈薬の過量投与など)
  4. 遺伝性疾患(QT延長症候群、ブルガダ症候群など)

心筋梗塞や心筋症

心筋梗塞や心筋症などの疾患では、心筋の一部が損傷を受けたり、線維化したりすることで、電気的な伝導障害や不均一性が生じます。

その結果として、正常な心臓のリズムが乱れ、心室頻拍(VT)が発生しやすくなると考えられています。

疾患名発生メカニズム
心筋梗塞心筋の一部が壊死し、電気的な伝導障害が生じる
心筋症心筋の線維化や肥大により、電気的な不均一性が生じる

電解質異常

電解質異常、特に低カリウム血症や低マグネシウム血症は、心室頻拍(VT)の原因となることがあります。

電解質異常心室頻拍(VT)への影響
低カリウム血症心筋細胞の興奮性が増加し、異常な電気的活動が生じる
低マグネシウム血症心筋細胞の興奮性が増加し、不整脈を引き起こす

遺伝性疾患

QT延長症候群やブルガダ症候群などの遺伝性疾患では、心臓のイオンチャネルに異常があり、心筋細胞の電気的活動が正常に機能しません。

そのため、心室の再分極の遅延や心室内の電気的な不均一性が生じ、心室頻拍(VT)が発生しやすくなります。

心室頻拍(VT)の検査・チェック方法

心室頻拍(VT)の診断では、心電図検査やホルター心電図、運動負荷心電図、心エコー検査、心臓MRI検査、電気生理学的検査などを実施していきます。

心電図検査

心電図検査では、安静時の12誘導心電図を記録し、VTに特徴的な所見を確認します。

心電図所見のポイント

所見ポイント
広い QRS 波QRS 幅が 0.12 秒以上に延長している
左脚ブロック型または右脚ブロック型QRS 波の形態が左脚ブロック型または右脚ブロック型を示している
2次性 ST-T 変化QRS 波に続く ST 部分と T 波に変化が生じている
房室解離P 波と QRS 波の関連性が失われている

ホルター心電図・運動負荷心電図

ホルター心電図は、24時間以上の長時間にわたって心電図を連続的に記録する検査です。日常生活中に発生するVTを捉えることができ、発作の頻度や持続時間、自覚症状との関連性などを評価できます。

検査目的
ホルター心電図日常生活中に発生するVTを捉えるため
運動負荷心電図運動によって誘発されるVTを診断するため

心エコー検査・心臓MRI検査

心エコー検査は、VTの原因となる心筋の異常や、心機能の低下などを調べるために実施します。

また、心臓MRI検査は、心筋の線維化や瘢痕、炎症、腫瘍などを評価できる検査です。

検査特徴
心エコー検査超音波を用いて心臓の構造と機能を評価
心臓MRI検査磁気共鳴画像を用いて心臓の詳細な構造を描出

電気生理学的検査

電気生理学的検査(EPS)では、心臓の電気的活動を評価します。カテーテルを用いて心臓内の電位を記録することで、VTの機序や発生部位を同定することができます。

EPSの手順

  1. 複数のカテーテルを心臓内に挿入し、電位を記録する
  2. プログラム刺激を行うことでVTを誘発する
  3. VTの機序(リエントリー性、自動能亢進など)を判定する
  4. VTの発生部位を同定する
  5. アブレーション(カテーテル焼灼術)の適応を判断する

心室頻拍(VT)の治療方法と治療薬について

心室頻拍(VT)の治療では、原因となる心疾患の治療と、VT自体に対する治療を行います。

薬物療法

薬物療法では、抗不整脈薬を用いることで心室の異常な電気的興奮を抑制し、VTの再発を防ぎます。

薬剤名作用機序
アミオダロン複数のイオンチャネル(心臓の電気的活動に関与するタンパク質)を抑制します
ソタロールβブロッカー(交感神経の作用を抑制する薬)とKチャネル遮断作用を持ちます
リドカインNaチャネル(ナトリウムイオンの流入に関与するタンパク質)を遮断します

カテーテルアブレーション

薬物療法で十分な効果が得られない場合や、VTが頻回に再発するような状況では、カテーテルアブレーションを検討します。

カテーテルアブレーションは、心臓内に細いカテーテルを挿入し、VTの原因となる異常な心筋組織を高周波で焼灼する治療法です。

カテーテルアブレーションの適応
薬物療法で効果不十分な場合
VTが頻回に再発する場合
患者さんの希望が強い場合

カテーテルアブレーションの成功率は比較的高く、多くの患者さんでVTの再発を抑えることが期待できます。

植込み型除細動器(ICD)

心室頻拍が生命に危険を及ぼす可能性が高いと判断された場合には、植込み型除細動器(ICD)の使用を検討する場合もあります。

ICDは、心室内に異常な電気的興奮が生じた際に、自動的に電気ショックを与えて正常な心拍リズムに戻す役割を担う医療機器です。

ICD適応の主な基準
心停止や失神の既往がある方
薬物療法やアブレーションで効果不十分な方
心機能が著しく低下している方

基礎疾患の治療

心室頻拍の多くは、何らかの心疾患を背景に発生するものです。そのため、VTの治療と並行して、基礎疾患を管理することが重要となります。

VTの原因となる心疾患

  • 冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞など)
  • 心筋症(拡張型心筋症、肥大型心筋症など)
  • 弁膜症(僧帽弁逆流症、大動脈弁狭窄症など)

心室頻拍(VT)の治療期間

心室頻拍(VT)の治療期間は、発作の頻度や重症度、原因となる心疾患の有無など、患者さん一人ひとりの状態によって大きく異なります。

通常、発作を完全に抑えるために、薬物療法やカテーテルアブレーションなどの治療を長期的に続ける必要があります。

急性期の治療期間

治療法概要期間
電気的除細動電気ショックにより頻拍を停止させる即効性があります
抗不整脈薬の投与リドカインやプロカインアミドなどの薬を投与する数時間から数日程度

心室頻拍の急性期治療では、まず頻拍を停止させ、血行動態(血液の流れ)を安定化させることが目標となります。急性期の治療が奏功すれば、比較的短期間で頻拍をコントロールすることができます。

慢性期の治療期間

慢性期の治療は、症例に応じて数ヶ月から継続することが一般的です。

治療法概要期間
カテーテルアブレーション頻拍の原因となる異常な心筋組織を焼き切る治療数時間の処置で完了します
ICD(植込み型除細動器)の植込み頻拍が生じた際に自動的に除細動を行うデバイスを植え込む数日の入院で実施できます
抗不整脈薬の長期投与アミオダロンやソタロールなどの薬を継続的に服用する数ヶ月から長期間継続します

治療後の経過観察

心室頻拍は再発のリスクが高い疾患であるため、治療後も定期的な経過観察を継続し、必要に応じて治療方針の見直しを行うことが大切です。

経過観察でのポイント

  • 頻拍の再発がないかどうか
  • 基礎心疾患の管理状況
  • 治療に伴う合併症の評価
  • 患者さんのQOL(生活の質)の評価

薬の副作用や治療のデメリットについて

心室頻拍(VT)の治療に用いられる薬は、不整脈を悪化させたり、新たな不整脈を引き起こしたりするなど、副作用が起こる可能性があります。

また、カテーテルアブレーションなどの治療法は、出血や感染症などの合併症のリスクがあります。

薬物療法の副作用

抗不整脈薬の主な副作用には、めまい、吐き気、食欲不振、倦怠感などがあります。また、抗不整脈薬の中には、心機能を抑制したり、新たな不整脈を引き起こしたりするものもあります。

薬剤名主な副作用
アミオダロン甲状腺機能低下症、間質性肺炎(肺の炎症)、肝機能障害
ソタロール徐脈(脈拍数の低下)、QT延長症候群(心電図上の異常)
フレカイニド心不全の悪化、新たな不整脈の誘発

アブレーションの合併症

カテーテルアブレーション中や術後に起こり得る合併症には、以下のようなものがあります。

合併症発生頻度
血管や心臓の穿孔0.5~1.0%
心タンポナーデ0.2~0.5%
塞栓症0.1~0.3%
感染症0.1~0.5%

植込み型除細動器(ICD)のリスク

  1. 不適切なショック療法(必要のない電気ショックの放電)
  2. リード(電極)の断線や移動
  3. デバイス感染
  4. 心理的ストレス

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

心室頻拍(VT)の診断および治療に関連する医療行為のほとんどは、健康保険の適用対象となります。

項目保険適用
検査費用
投薬料
処置料
手術料

治療法別の費用概要

  • 薬物療法:月額1万円~5万円程度(抗不整脈薬の種類や投与量によって異なる)
  • カテーテルアブレーション:70万円~150万円程度(手技の複雑さや使用するデバイスによって異なる)
  • 植込み型除細動器(ICD)の植え込み:250万円~400万円程度(デバイスの機能や追加機能の有無によって異なる)

高額療養費制度の利用

心室頻拍(VT)の治療費が高額になる場合、高額療養費制度を利用すると自己負担額を抑えられます。この制度では、月々の自己負担額に上限が設定されており、上限を超えた分が支給されます。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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