心室期外収縮(VPC)

心室期外収縮(Ventricular Premature Contraction:VPC)とは、心室が通常のリズムとは異なるタイミングで収縮してしまう不整脈です。

心室期外収縮が起こると、胸部の不快感や動悸などの症状が一時的に生じます。

多くの場合、心室期外収縮は健康な人にも起こり得る良性の不整脈ですが、頻繁に発生する場合や基礎心疾患がある場合は、医療機関での検査や治療が必要です。

目次

心室期外収縮(VPC)の病型

心室期外収縮(VPC)は、発生部位や頻度、連発性、形態などによって複数の種類に分類されます。

  • 発生部位による分類:右室起源VPC、左室起源VPC
  • 頻度による分類:散発性VPC、頻発性VPC、多発性VPC
  • 連発性による分類:単発性VPC、2連発VPC、3連発以上(非持続性心室頻拍)
  • 形態による分類:単形性VPC、多形性VPC、二段脈、三段脈

発生部位による分類

心室期外収縮(VPC)は、発生部位によって大きく右室起源VPCと左室起源VPCの2つのタイプに分けられます。

右室起源VPC

右室起源VPCは、心電図上で左脚ブロック波形を呈し、V1誘導でQS波形またはrS波形が観察されます。

右室から発生した異常興奮が左室に向かって伝播することを反映しています。

左室起源VPC

左室起源VPCは右脚ブロック波形を示し、V1誘導でR波またはqR波形が特徴的です。

左室から発生した異常興奮が右室に向かって伝播することを表しています。

起源心電図所見V1誘導の特徴興奮伝播の方向
右室左脚ブロック波形QS波形またはrS波形右室から左室へ
左室右脚ブロック波形R波またはqR波形左室から右室へ

VPCの頻度による分類

心室期外収縮(VPC)は、出現頻度によって散発性VPC、頻発性VPC、多発性VPCなどに分類することが一般的です。

散発性VPC

1日あたりの総心拍数の1%未満の頻度で出現するものを指します。この程度の頻度であれば、多くの場合、特に問題にならない場合が多いです。

頻発性VPC

頻発性VPCは、1日あたりの総心拍数の1%以上10%未満の頻度で出現する場合を指します。この頻度になると、患者さんが自覚症状を感じる可能性が高くなります。

多発性VPC

多発性VPCは、1日あたりの総心拍数の10%以上の頻度で出現する場合を意味します。この程度の頻度になると、心機能への影響や、他の不整脈への移行リスクが高くなります。

分類出現頻度臨床的意義
散発性VPC総心拍数の1%未満多くの場合問題なし
頻発性VPC総心拍数の1%以上10%未満自覚症状の可能性あり
多発性VPC総心拍数の10%以上心機能への影響や他の不整脈リスクあり

VPCの連発性による分類

心室期外収縮(VPC)が連続して出現する回数によって、単発性、2連発、3連発以上に分類されます。

単発性VPC

1回のVPCが単独で出現する形態を指します。ほとんどが良性であり、特に健康な心臓では問題になりにくいです。

2連発VPC

2連発VPCは、2回連続してVPCが出現するものです。単発性VPCよりも注意が必要ですが、それ自体が直ちに危険というわけではありません。

3連発以上のVPC

3連発以上のVPCは非持続性心室頻拍として扱われ、より注意が必要です。この状態が持続すると、持続性心室頻拍に移行する可能性があります。

連発性が高くなるほど、持続性心室頻拍や心室細動などの重篤な不整脈に移行する可能性が上がります。そのため、連発性VPCが頻繁に観察される場合、医療機関での評価や医療管理が必要となります。

連発性特徴臨床的意義
単発性1回のVPCが単独で出現比較的良性
2連発2回連続してVPCが出現注意が必要
3連発以上非持続性心室頻拍として扱われるより注意が必要、重篤な不整脈のリスクあり

VPCの形態による分類

心室期外収縮(VPC)の形態は、波形パターンや出現様式によって、単形性、多形性、二段脈、三段脈などに分類されます。

単形性VPC

常に同じ波形を示すVPCを指し、単一の起源から発生していると考えられます。比較的安定した状態を示している場合が多いです。

多形性VPC

多形性VPCは、複数の異なる波形を示すVPCを意味し、複数の起源から発生している可能性があります。より複雑な不整脈機序を示すものであるため、注意が必要です。

二段脈

二段脈は、正常拍動とVPCが交互に出現するパターンを指します。特定の条件下で生じやすく、心臓の電気生理学的特性を反映していることがあります。

三段脈

三段脈は、2回の正常拍動の後にVPCが出現するパターンです。これも二段脈と同様に、心臓の電気生理学的特性を反映した特徴的なパターンとなります。

心室期外収縮(VPC)の症状

心室期外収縮(VPC)の症状は、脈が飛んだり、動悸や息切れ、胸痛などが挙げられますが、その多くは無症状であり、健康診断などで偶然発見されます。

動悸や胸部の不快感

VPCが発生すると、動悸や胸部の不快感を自覚することがあります。

症状説明
動悸心拍数の一時的な増加や不規則性が原因となって生じる症状
胸部の不快感心臓の収縮が通常とは異なる状態で起こるために生じる症状

息切れ・疲労感

VPCによって心臓のポンプ機能が一時的に低下してしまうことがあり、息切れや疲労感が起こります。特に、VPCが頻繁に発生するようになると、息切れや疲労感がより顕著になってきます。

失神・めまい

VPCが多発するようになると、脳への血流が一時的に減少してしまうため、失神やめまいを引き起こしてしまうことがあります。

VPCが重症化した際の危険な兆候であると考えられており、速やかに医療機関を受診する必要があります。

症状原因対処方法
失神心拍出量の低下によって起こる脳血流の減少速やかな医療機関への受診が必要
めまい

無症状の場合もある

VPCは、必ずしも自覚症状を伴うとは限りません。無症状の場合でも、心電図検査などを行った際に偶発的に発見されることがあります。

ただし、無症状のVPCであったとしても、心機能へ与える影響を評価するために、定期的な経過観察を行っていくことが大切です。

心室期外収縮(VPC)の原因

心室期外収縮(VPC)の原因には、心臓の構造的な異常や機能的な障害、高血圧や糖尿病などの全身疾患、喫煙や飲酒などの生活習慣、特定の薬剤などが挙げられます。

心筋梗塞や心筋症などの心疾患が代表的な要因となるほか、加齢やストレスも影響する場合があります。

心臓への過度な負荷がVPCを引き起こす

高血圧や心不全、弁膜症などの心疾患がある場合、心臓は通常よりも大きな負荷を受けます。

この過度の負荷に心臓が適応しきれなくなると、正常な電気的興奮とは異なる異所性の興奮が生じ、それがVPCを引き起こす原因となります。

心臓への負荷の例心臓への影響
高血圧心臓に過剰な負荷をかけ、心臓の壁を肥厚させる
心不全心臓のポンプ機能が低下し、心臓への負荷が増大する
弁膜症心臓弁の異常により、心臓の負荷が著しく増大する
肥大型心筋症心臓の壁が異常に厚くなり、心臓の負荷が増す

心筋自体の異常もVPCの原因になり得る

心筋梗塞や心筋症などにより心筋が損傷を受けると、その損傷部位から異所性の興奮が発生し、VPCを引き起こすことがあります。

また、心筋の炎症である心筋炎もVPCの原因となることが知られています。

心筋の異常VPCへの影響
心筋梗塞梗塞部位から異所性の興奮が発生し、VPCを引き起こす
心筋症心筋の構造や機能に異常をきたし、VPCの原因となる
心筋炎心筋の炎症により、異所性の興奮が生じ、VPCを引き起こす

自律神経の働きによる影響

交感神経が優位になると、心臓の興奮性が高まり、VPCが生じやすくなります。一方、副交感神経が優位な状態では、VPCは抑制される傾向にあります。

ストレスや睡眠不足、過度の飲酒やカフェイン摂取などは、交感神経を刺激するため、VPCを起こす原因となる可能性があります。

自律神経VPCへの影響
交感神経興奮性を高め、VPCを誘発する働きがある
副交感神経VPCを抑制する働きがある

心室期外収縮(VPC)の検査・チェック方法

心室期外収縮(VPC)の診断では、心電図検査やホルター心電図、運動負荷心電図、心エコー検査などを実施していきます。

心電図検査

心電図検査では、12誘導心電図を用いて不整脈の有無や特徴を確認します。

心電図上でQRS波(心室の収縮を示す波形)が幅広く、P波(心房の収縮を示す波形)を伴わない早期の心室収縮が認められた場合、VPCの可能性が高いと判断されます。

しかしながら、短時間の心電図検査では、必ずしもVPCを捉えられないことがあるため、より長時間の観察が必要となる場合もあります。

心電図所見VPCの特徴
QRS波幅広い
P波欠如
心拍数不規則
ST-T変化二次性変化

ホルター心電図

ホルター心電図は、24時間から48時間にわたって心電図を連続記録する検査方法で、日常生活中のVPCの頻度や発生パターンを評価することができます。

この検査では、VPCの総数、単発性か多発性か、連発の有無、最大連発数などを確認します。また、VPCと日常活動や症状との関連性も評価できます。

運動負荷心電図検査

運動負荷心電図検査は、トレッドミルやエルゴメーターを用いて運動中の心電図変化を観察する検査です。運動誘発性のVPCを評価したり、運動によるVPCの増加や減少を確認したりすることができます。

運動負荷心電図検査では、VPCの出現頻度の変化、運動強度とVPCの関係、運動後回復期のVPCの変化、他の不整脈の有無などに注目して評価を行います。

運動負荷時のVPC変化臨床的意義
運動中に減少良性の可能性が高い
運動中に増加器質的心疾患の可能性
運動後に出現虚血性心疾患の可能性

心エコー検査による心機能評価

心エコー検査では、心室壁運動異常、心室肥大や拡大の有無、弁膜症の有無、左室駆出率(LVEF)の評価などを行います。

特に、頻発するVPCでは左室機能低下(心筋症)を引き起こす可能性があるため、定期的な心エコー検査による経過観察が重要となります。

心エコー所見VPCとの関連
心室壁運動異常局所的な心筋障害の可能性
心室肥大・拡大慢性的なVPCの影響
弁膜症VPCの原因となる可能性
LVEF低下頻発性VPCによる心機能低下

心室期外収縮(VPC)の治療方法と治療薬について

軽度の心室期外収縮(VPC)では、経過観察や生活習慣の改善を優先することが多いです。この場合、定期的な検査を行いながら、症状の変化を見守っていきます。

一方、症状が強い場合や頻度が高い場合は、薬物療法やカテーテルアブレーション治療を検討します。

薬物療法

VPCの薬物療法では、主に抗不整脈薬を使用します。抗不整脈薬は、心臓の電気的活動を調整し、不整脈の発生を抑制する効果があります。

主な抗不整脈薬の種類

薬剤分類主な作用代表的な薬剤名
Ⅰa群Na+チャネル遮断(中程度)ジソピラミド
Ⅰb群Na+チャネル遮断(軽度)メキシレチン
Ⅱ群β遮断作用プロプラノロール
Ⅲ群K+チャネル遮断アミオダロン

カテーテルアブレーション治療

薬物療法で十分な効果が得られない場合や、患者さんの希望がある場合は、カテーテルアブレーション治療を検討します。

カテーテルアブレーション治療は、心臓内に細いカテーテルを挿入し、VPCの原因となっている部位を特定して、高周波エネルギーで焼灼する方法です。

カテーテルアブレーション治療の利点と注意点

  • 根治が期待できる
  • 薬物療法が不要になる可能性がある
  • 入院期間が比較的短い
  • 合併症のリスクがある(低確率)
  • 再発の可能性がある

心室期外収縮(VPC)の治療期間

心室期外収縮(VPC)の治療期間は、軽症の場合は薬物治療で症状が改善し、治療を中止できる場合もあります。重症の場合や原因が特定できない場合は、長期的な治療が必要です。

軽度VPCの治療期間

軽度のVPCの場合、短期間の治療で症状が改善します。

典型的な短期治療の期間

・数週間から1〜3ヶ月程度
・症状や心電図所見の改善を確認
・薬物療法の効果判定

症状が改善し、心電図所見が安定した場合は、治療を終了することもあります。

中等度から重度のVPCの場合

中等度から重度のVPC、または基礎疾患を有する患者さんの場合、より長期的な治療期間が必要です。

治療期間主な対象
3〜6ヶ月中等度のVPC
6ヶ月〜1年重度のVPC
1年以上難治性VPC、基礎疾患合併

薬の副作用や治療のデメリットについて

心室期外収縮(VPC)の治療では、薬物療法では、めまい、ふらつき、倦怠感などの副作用が起こることがあり、カテーテルアブレーションでは、出血や感染症などの合併症のリスクがあります。

薬物療法の副作用

抗不整脈薬は心臓の電気的活動を調整することで不整脈を抑制しますが、同時に他の臓器にも影響を与えます。

例えば、ベータ遮断薬は気管支喘息の患者さんに使用すると、呼吸困難を引き起こすことがあります。また、アミオダロンという薬剤は、長期使用により甲状腺機能異常や肺線維症などの副作用が起こる可能性があります。

薬剤名主な副作用
ベータ遮断薬疲労感、めまい、低血圧
アミオダロン甲状腺機能異常、肺線維症
ソタロールQT延長、心室性不整脈
フレカイニド心不全悪化、心室性不整脈

カテーテルアブレーションのリスク

  • 出血や血腫形成
  • 感染症
  • 心タンポナーデ(心臓周囲に液体が貯まる状態)
  • 血栓塞栓症
  • 心臓弁や冠動脈の損傷

ペースメーカー植込み術のリスク

リスク説明
感染手術部位や機器周囲の感染
リード線の問題リード線の移動や断線
機器の故障バッテリー切れや電子回路の不具合
心筋穿孔リード線による心筋の穿孔

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

心室期外収縮(VPC)は多くの場合は良性であり、治療を必要としません。しかし、症状が強い場合や基礎心疾患がある場合は、治療が必要です。

治療は原則として健康保険が適用されますが、症状が軽度で治療の必要性が低いと判断された場合は、自由診療となる可能性があります。

治療内容保険適用
投薬治療
アブレーション治療

治療費の内訳

  • 検査料(心電図、ホルター心電図、心エコー検査など)
  • 投薬治療費(抗不整脈薬など)
  • アブレーション治療費(カテーテルアブレーション)

投薬治療費の目安

薬剤名1ヶ月あたりの費用目安
ベラパミル約2,500円~4,500円
プロパフェノン約6,500円~8,500円
フレカイニド約4,500円~6,500円

健康保険が適用された場合、患者負担は1割から3割となります。例えば、ベラパミルを1ヶ月分処方された場合、負担は250円~1,350円程度となります。

アブレーション治療費の目安

  • カテーテルアブレーション料:約60万円~90万円
  • 入院料:1日あたり約1.5万円~2.5万円(平均入院日数:3日~5日)
  • その他の費用(検査料、薬剤費など):約15万円~25万円

アブレーション治療も健康保険が適用されるため、負担は1割から3割となります。また、高額療養費制度の利用により自己負担額を抑えることができます。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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