弁膜症性心房細動

弁膜症性心房細動(Valvular Atrial Fibrillation)とは、心臓の弁に異常があること(弁膜症)が原因で起こる心房細動です。

通常の心房細動と比較して血栓形成のリスクが著しく高く、脳梗塞などの重大な合併症につながる恐れがあります。

目次

弁膜症性心房細動の症状

弁膜症性心房細動では、動悸や息切れ、疲労感などが症状として現れます。

主な症状

  • 動悸
  • 息切れ
  • 疲労感
  • 胸部の不快感や痛み
  • めまい
  • 失神
  • 浮腫(むくみ)

動悸

弁膜症性心房細動の最も顕著な症状は動悸で、突然現れ、数分から数時間、時には数日間続きます。

動悸に伴い、めまいや失神を引き起こす場合もあります。

息切れ・疲労感

弁膜症性心房細動により心臓の機能が低下すると、息切れや疲労感が生じます。

日常的な活動であっても以前より早く息が切れるようになり、階段の上り下りや軽い運動でさえ、息苦しさを感じることがあります。

症状特徴影響
息切れ日常的な活動で生じる活動制限
疲労感通常より早く疲れを感じる生活の質低下

胸部の不快感

圧迫感や締め付けられるような感覚など、胸部の不快感や痛みが起こる方もいます。

心臓に十分な血液が供給されていないことを示すものであるため、持続的な胸の痛みがある場合は、速やかに医師の診察を受けることが大切です。

めまい・失神

脳への血流が一時的に減少するため、めまいや失神が起こることがあります。

ふらつきや立ちくらみとして現れることもありますが、失神のような短時間の意識消失が起こる場合もあり、転倒のリスクがあります。

症状原因リスク
めまい脳への血流減少転倒、事故
失神一時的な意識消失重大な怪我

浮腫(むくみ)

弁膜症性心房細動では、体内の水分バランスが崩れ、足首や脚、時には腹部などに浮腫が生じることがあります。

浮腫は心臓の機能低下を示す指標の一つであり、この症状が進行すると、呼吸困難や活動制限につながる可能性があるため注意が必要です。

弁膜症性心房細動の原因

弁膜症性心房細動では、心臓弁膜症により心房に負荷がかかり、心房が拡大・リモデリングを起こすことで不整脈の基質が形成され、心房細動を発症します。

原因となる主な弁膜疾患

弁膜症性心房細動の発症に関与する代表的な弁膜疾患には、以下のようなものがあります。

弁膜疾患の種類病態の特徴心房への影響
僧帽弁狭窄症左心房への血液の逆流左心房の圧負荷増大
大動脈弁狭窄症左心室の圧負荷増大間接的な左心房への負荷
僧帽弁閉鎖不全症左心房の容量負荷増大左心房の拡大と線維化
三尖弁閉鎖不全症右心房の容量負荷増大右心房の拡大と機能不全

弁膜症は心臓の弁に障害が生じる病気であり、この状態が長期間持続すると心房に過度な負担がかかり、心房の拡大や線維化を引き起こします。

弁膜症が引き起こす心房の構造的変化

構造変化電気的影響心房細動への寄与
心房拡大伝導距離の延長リエントリー回路の形成
壁肥厚伝導速度の低下不応期の延長
線維化伝導経路の遮断電気的不均一性の増大
電気的リモデリングイオンチャネルの変化不整脈の自動発火増加

このような変化により心房の電気的伝導系統に異常が生じ、不整脈の発生基盤が形成されていきます。

弁膜症性心房細動の発症に関与するリスク因子

リスク因子心房細動への影響
加齢心房の線維化促進
高血圧心房壁のストレス増大
糖尿病心筋代謝異常と炎症促進
肥満心臓への機械的・代謝的負荷
睡眠時無呼吸症候群自律神経系の不均衡

弁膜症と上記のようなリスク因子が合わさると、心房細動の発症確率は大幅に上昇します。

弁膜症性心房細動の検査・チェック方法

弁膜症性心房細動の診断では、心電図検査や心エコー検査、血液検査などを実施します。

問診・身体診察

問診では、自覚症状、過去の病歴、ご家族の病歴、日々の生活習慣などについて確認します。

身体診察では心音や呼吸音の聴取や脈拍、足のむくみの有無をチェックするなど、全身の状態を細かく観察します。

心電図検査

心電図検査では、12誘導心電図という方法を用いて心臓の電気的活動を記録していきます。

心房細動に特徴的な不規則な波形や、通常の心拍では見られるP波(心房の収縮を示す波)が消失しているなどの所見を確認します。

長時間にわたる心電図の記録が必要な場合は、ホルター心電図検査という24時間以上の連続記録を行う方法を実施する場合もあります。

心電図所見特徴的な変化
P波消失または不明瞭
QRS波間隔が不規則
基線細かい波(細動波)が見られる

心エコー検査

心エコー検査は、弁膜症の程度を評価し、心臓の機能を確認するために欠かせない検査です。

超音波を使用して心臓の構造や働きを視覚化し、弁の異常の有無や程度、心房や心室の大きさ、心臓の壁の動きなどを評価します。

通常は胸の上から超音波を当てる経胸壁心エコー検査を行いますが、より詳細な観察が必要な場合には、食道から超音波を当てる経食道心エコー検査を選択する場合があります。

心エコー検査での確認ポイント

  • 心臓の弁の形や働き
  • 心房と心室のサイズ
  • 左心室の収縮力(駆出率)
  • 心臓の壁の動きの異常
  • 血栓(血の塊)の有無

血液検査

一般的な血液検査に加えて、心臓の機能を示すマーカーや血液の凝固に関する検査を実施します。

BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)やNT-proBNPという物質は、心不全の程度を評価する上で非常に有用な指標となります。

また、D-ダイマーという物質は、血栓ができるリスクを評価するために使用します。

検査項目臨床的意義
BNP心不全の重症度評価
D-ダイマー血栓形成リスクの評価
PT-INR抗凝固薬の効果モニタリング

画像検査

胸部X線検査では、心臓の大きさが増大していないかどうかや、肺に水がたまっていないかを確認します。また、CT検査・MRI検査を行うことで、心臓や血管の構造を評価することができます。

弁膜症性心房細動の治療方法と治療薬について

弁膜症性心房細動の治療方法には、血栓予防のための抗凝固薬、心房細動の症状を改善するための薬物療法や、カテーテルアブレーションや弁置換術などの外科手術があります。

抗凝固療法

抗凝固療法では、抗凝固薬として主にワルファリンを使用します。ワルファリンはビタミンK拮抗薬として作用し、血液凝固を抑制する効果がある薬剤です。

抗凝固薬作用機序
ワルファリンビタミンK拮抗
ヘパリンアンチトロンビンIII活性化

ワルファリン療法を行う際は、定期的な血液検査を実施し、PT-INR(プロトロンビン時間-国際標準比)を適切な範囲内に維持することが大切です。

心拍数コントロールの方法と使用薬剤

心拍数コントロールの目的で使用する薬剤には、以下のようなものがあります。心拍数を適切な範囲に維持し、心臓への過度な負担を軽減していきます。

  • ベータ遮断薬(メトプロロール、ビソプロロールなど):交感神経の働きを抑え、心拍数を下げる
  • カルシウム拮抗薬(ジルチアゼム、ベラパミルなど):心筋の収縮力を抑制し、心拍数を減少させる
  • ジギタリス製剤(ジゴキシンなど):心拍数を減少させ、心機能を改善する

外科的治療

弁膜症性心房細動の根本的な原因である弁膜症に対しては、外科的治療を検討します。弁膜症の種類や重症度に応じて、弁形成術や弁置換術といった手術法があります。

手術法適応利点
弁形成術弁の修復が可能な場合自己弁温存、抗凝固療法の必要性が低い
弁置換術弁の修復が困難な場合確実な弁機能の改善が期待できる

また、手術時に心房細動に対するメイズ手術(心房の電気的な異常伝導路を遮断する手術)を併施することで、さらなる効果が期待できます。

弁膜症性心房細動の治療期間

弁膜症性心房細動は、一般的に長期にわたる継続的な管理が必要です。

薬物療法の継続期間

抗凝固薬や抗不整脈薬などの投与は、多くの場合、長期間にわたって継続する必要があります。血栓形成の予防や不整脈のコントロールに不可欠な薬剤であり、突然の中止は危険を伴います。

薬物療法一般的な継続期間主な目的
抗凝固薬生涯血栓予防
抗不整脈薬症状改善まで継続不整脈抑制
レート調整薬心拍数コントロールまで心拍数の安定化

リハビリテーションの期間

心臓リハビリテーションの期間は通常3〜6ヶ月程度ですが、患者さんの状態や進捗に応じて延長することもあります。

心臓リハビリテーションの一般的な流れ

  • 入院中の早期リハビリテーション(1〜2週間)
  • 外来での監視下リハビリテーション(2〜3ヶ月)
  • 自宅でのセルフケアプログラム(継続的)

薬の副作用や治療のデメリットについて

弁膜症性心房細動の治療には、抗凝固薬の使用や手術介入に伴う出血や感染のリスクがあります。

抗凝固療法に伴うリスク

抗凝固療法には出血のリスクがあります。特に、ワルファリンなどのビタミンK拮抗薬を使用する際は、定期的な血液検査が必要です。

抗凝固薬主なリスク
ワルファリン出血、薬物相互作用
DOAC(直接作用型経口抗凝固薬)消化管出血、腎機能低下

心拍数制御薬の副作用と対策

β遮断薬は、気管支喘息患者さんの症状を悪化させる恐れがあるため、呼吸器疾患の既往がある方には使用を避けるか、慎重に投与する必要があります。

また、疲労感や性機能障害など、生活の質に影響を与える副作用も報告されています。

カルシウム拮抗薬は末梢血管を拡張させるため、浮腫や低血圧を引き起こします。特に高齢者では、立ちくらみや転倒のリスクに注意が必要です。

カテーテルアブレーションの合併症とその予防

カテーテルアブレーションの主な合併症には、心タンポナーデ(心臓を取り囲む心膜に血液がたまる状態)、脳梗塞、肺静脈狭窄などがあります。

また、まれではありますが、食道損傷や横隔神経麻痺などの重篤な合併症も報告されています。

合併症発生頻度
心タンポナーデ1-2%
脳梗塞0.5-1%
肺静脈狭窄<1%

長期的な合併症リスク

長期間にわたり抗凝固療法を継続した場合、骨粗鬆症を発症するリスクが上昇するため、定期的な骨密度検査や、必要に応じてビタミンDやカルシウムの補充を検討します。

また、心房細動が持続すると心機能の低下や心不全のリスクが増加するため、定期的な心機能評価と心不全治療の導入が必要です。

長期合併症関連因子予防策
骨粗鬆症抗凝固療法骨密度検査、ビタミンD・カルシウム補充
心不全持続する心房細動定期的な心機能評価、適切な薬物療法

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

弁膜症性心房細動の治療費は保険が適用されるため、自己負担は治療費の1~3割程度となります。保険適用の範囲や自己負担率は、患者さんの年齢や所得によって変わります。

薬物療法の費用

薬剤の種類月額費用(概算)
抗凝固薬5,000円~10,000円
抗不整脈薬8,000円~15,000円

カテーテルアブレーションの費用

カテーテルアブレーション手術の費用は、入院期間や使用する機器によって変動しますが、通常50万円から80万円程度かかります。

保険適用により、自己負担は3割程度となります。

定期的な検査と管理の費用

  • 心電図検査 約5,000円
  • 心エコー検査 約10,000円~20,000円
  • 血液検査 約5,000円~8,000円

以上

参考文献

FAUCHIER, Laurent, et al. How to define valvular atrial fibrillation?. Archives of cardiovascular diseases, 2015, 108.10: 530-539.

DE CATERINA, Raffaele; CAMM, A. John. What is ‘valvular’atrial fibrillation? A reappraisal. European heart journal, 2014, 35.47: 3328-3335.

DIKER, Erdem, et al. Prevalence and predictors of atrial fibrillation in rheumatic valvular heart disease. The American journal of cardiology, 1996, 77.1: 96-98.

LEONE, Ornella, et al. Amyloid deposition as a cause of atrial remodelling in persistent valvular atrial fibrillation. European heart journal, 2004, 25.14: 1237-1241.

SHEN, Kangjun, et al. DNA methylation dysregulations in valvular atrial fibrillation. Clinical Cardiology, 2017, 40.9: 686-691.

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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