QT短縮症候群(SQTS)

QT短縮症候群(Short QT Syndrome:SQTS)とは、心電図上のQT間隔(心臓の電気的活動を示す指標)が異常に短くなる遺伝性の不整脈疾患です。

まれな疾患ですが、若年者の突然死の原因となるため、早期発見と継続的な経過観察が不可欠です。

目次

QT短縮症候群(SQTS)の症状

QT短縮症候群(SQTS)の主な症状は、動悸や失神、心停止などの重篤な心臓関連の問題です。

症状特徴影響
動悸心臓の拍動が速くなる感覚不安や恐怖を引き起こす
失神一時的な意識消失日常生活に支障をきたす
心停止心臓の拍動が突然停止生命を脅かす緊急事態

SQTSの症状の特徴

QT短縮症候群(SQTS)では、心電図上のQT間隔が異常に短縮します。症状は突然発症することが多く、多くの場合、最初の症状として動悸を感じます。

失神は特に注意すべき症状であり、心臓が一時的に十分な血液を脳に送れなくなることで、一時的に意識を失ってしまいます。

さらに深刻な症状は心停止で、即座の医療介入が行われない場合、致命的な結果につながる可能性があります。

その他の関連症状

  • めまい(立ちくらみ、回転性のめまいなど)
  • 息切れ
  • 胸痛
  • 疲労感

症状の発現パターン

SQTSの症状は予測不可能なタイミングで現れることが特徴ですが、特定の状況下で症状が発現しやすい傾向があります。

状況症状発現リスク
運動中高い
精神的ストレス下中程度
睡眠中低い

睡眠中に症状が現れることは比較的稀ですが、完全に排除できるわけではありません。

QT短縮症候群(SQTS)の原因

QT短縮症候群(SQTS)では、心臓の電気的活動を制御するイオンチャネルの遺伝子変異により、心臓の電気的活動が正常に機能せず、不整脈が起こります。

遺伝子変異とイオンチャネルの関係

QT短縮症候群(SQTS)は、主に心筋細胞のイオンチャネル(細胞膜に存在し、イオンの出入りを制御するタンパク質)に関与する遺伝子の変異によって起こります。関連遺伝子として、現在6つの病型が分かっています。

病型関連遺伝子主な特徴
SQTS1KCNH2最も一般的、突然死リスク高
SQTS2KCNQ1心房細動リスク高
SQTS3KCNJ2比較的稀
SQTS4CACNA1Cブルガダ症候群の特徴を併存
SQTS5CACNB2b症例数少
SQTS6CACNA2D1症例数少

SQTS1からSQTS3までの病型は、心筋細胞のカリウムチャネルの機能が過剰に亢進することに関連しています。SQTS1はKCNH2遺伝子の変異によって起こるもので、SQTSの中では最も多く、突然死のリスクが高いことが特徴です。

一方、SQTS4からSQTS6の病型は、心筋細胞のカルシウムチャネルの機能が低下することに関連しています。

SQTS4はCACNA1C遺伝子の変異によって起こるもので、ブルガダ症候群の特徴を併せ持つケースが報告されています。

イオンチャネルの機能異常

正常な心臓では、イオンチャネルを通じてイオンの流入と流出が厳密に制御されていますが、QT短縮症候群(SQTS)ではこのバランスが崩れてしまいます。

カリウムチャネルの機能亢進やカルシウムチャネルの機能低下によって心筋細胞の再分極が早まり、心臓の電気的安定性が損なわれることで不整脈のリスクが高まります。

環境因子の影響

電解質異常、特にカリウムやカルシウムのバランスの乱れは、イオンチャネルの機能に影響を与え、症状を悪化させることがあります。

また、ストレスや激しい運動などの身体的・精神的負荷も、不整脈のトリガー(引き金)となる場合があります。

環境因子影響
電解質異常イオンチャネル機能への影響、症状の悪化
ストレス不整脈のトリガーとなる可能性
激しい運動心臓への負荷増大、不整脈のリスク上昇
薬物イオンチャネル機能への干渉、QT間隔への影響

遺伝的要因と家族歴

QT短縮症候群(SQTS)は常染色体優性遺伝(片方の親から変異遺伝子を受け継ぐだけで発症する可能性がある遺伝形式)の形式をとることが多く、家族内で発症する傾向がある病気です。

そのため、一人の家族がこの症候群と診断された場合、他の家族も遺伝子検査を受けることが推奨されます。

しかし、同じ遺伝子変異を持っていても、症状の現れ方や重症度には個人差があります。これは、遺伝子の浸透率が完全ではないことや、他の遺伝的要因や環境因子の影響によるものと考えられます。

QT短縮症候群(SQTS)の検査・チェック方法

QT短縮症候群(SQTS)の診断では、心電図検査で心拍数で補正したQT間隔(QTc)が短縮しているか、遺伝子検査で原因遺伝子の変異があるかなどを確認します。

心電図検査

心電図所見特徴
QT間隔短縮
T波尖鋭化
ST部分短縮
J点上昇

心電図検査では、QTc(補正QT間隔)が330ms未満の場合、SQTSの可能性が高くなります。ただし、QTc値だけでなく、T波の形状や ST部分の特徴、J点の位置なども総合的に評価する必要があります。

遺伝子検査

SQTSと関連している遺伝子の異常を、遺伝子検査によって特定することで診断の精度が向上します。

特定の遺伝子変異によって予後や治療方針が異なるため、個別化医療の観点からも重要な情報となります。

遺伝子関連するイオンチャネル機能
KCNH2カリウムチャネル遅延整流カリウム電流
KCNQ1カリウムチャネル緩徐活性化遅延整流カリウム電流
KCNJ2カリウムチャネル内向き整流カリウム電流
CACNA1CカルシウムチャネルL型カルシウム電流

家族歴の評価

以下の症状や家族歴がある場合、SQTSを疑う理由となります。

  • 原因不明の失神や前失神
  • 心室細動の既往
  • 家族内の若年性突然死
  • 動悸や胸部不快感の訴え
  • 心房細動の早期発症

その他の検査

SQTSの診断精度を高めるため、以下の追加検査を行う場合もあります。

検査名目的特徴
ホルター心電図24時間の心電図モニタリング日常生活中の不整脈を検出
運動負荷試験運動時の心電図変化の観察QT間隔の動的変化を評価
心臓超音波検査心臓の構造的異常の除外心機能や心筋の状態を確認
電気生理学的検査不整脈の誘発性を評価侵襲的だが詳細な情報が得られる

診断基準と評価

以下のような診断基準を満たすことで、SQTSの可能性が高いと判断されます。

項目基準
QTc間隔330ms未満
J点-T peak間隔120ms以下
遺伝子変異既知のSQTS関連遺伝子の変異
家族歴SQTSまたは45歳未満の突然死
臨床症状失神、心室細動、心房細動

QT短縮症候群(SQTS)の治療方法と治療薬について

QT短縮症候群(SQTS)の治療は、抗不整脈薬の投与と植込み型除細動器(ICD)の使用を中心に行います。

薬物療法

QT短縮症候群(SQTS)の薬物療法では、主にキニジンという抗不整脈薬を使用します。キニジンは心臓の電気的活動を正常化し、不整脈のリスクを低下させる効果があります。

薬剤名主な効果注意点
キニジンQT間隔の延長副作用の監視が必要
ソタロール心拍数の調整徐脈に注意
プロパフェノン不整脈の抑制肝機能への影響に注意

植込み型除細動器(ICD)

薬物療法で十分な効果が得られない場合や、致死的不整脈のリスクが高い場合には、植込み型除細動器(ICD)の使用を検討します。

ICDは、危険な不整脈を検知すると電気ショックを与えて心臓のリズムを正常に戻す装置です。

手術によって胸部の皮下に埋め込みますが、定期的なチェックと電池交換が必要となります。24時間体制で心臓のリズムを監視し、必要時に即座に対応できる点が大きな利点です。

ICD治療の利点ICD治療の注意点定期的なチェックの内容
致死的不整脈の予防定期的なチェックが必要デバイスの動作確認
24時間監視誤作動の可能性バッテリー残量チェック
データ記録による経過観察心理的影響への対応プログラミングの最適化

併用療法

多くの場合、薬物療法とICD治療を組み合わせて行います。この併用療法により、薬物だけでは防ぎきれない致死的不整脈に対しても、ICDが最後の砦として機能します。

また、ICDの頻繁な作動を薬物でコントロールすることで、QOL(生活の質)を向上させることができます。

例えば、キニジンによってQT間隔を適度に延長させつつ、ICDを万が一の事態に備えて使用するという方法があります。

QT短縮症候群(SQTS)の治療期間

QT短縮症候群(SQTS)の治療期間は、患者さんの状態や症状の重症度によって異なりますが、多くの場合、生涯にわたる継続的な管理と治療が必要となります。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       

治療期間の目安

QT短縮症候群(SQTS)の治療期間は、症状の程度や合併症の有無、遺伝子変異の種類などが影響するため、画一的な期間設定は困難です。

軽度の症例では、定期的な経過観察と生活指導のみで長期的な管理を行うこともありますが、重症例や心停止の既往がある場合は積極的な治療介入が長期間必要です。

薬物療法の継続期間

薬剤の種類一般的な継続期間
キニジン長期(年単位)
ソタロール長期(年単位)

ほとんどの場合、症状のコントロールや不整脈の予防のために、長期間にわたって薬物療法を継続する必要があります。キニジンやソタロールなどの抗不整脈薬は、効果が確認されれば、年単位での継続が一般的です。

デバイス治療の期間

デバイスの種類交換の必要性
ICD5-10年ごと
ペースメーカー7-15年ごと

ICDは通常5〜10年、ペースメーカーは7〜15年程度で電池交換が必要となりますが、基本的にはデバイスそのものは生涯にわたって使用します。定期的なチェックと調整、そして必要に応じてデバイスの交換を行う必要があります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

QT短縮症候群(SQTS)の治療に用いられる薬には、めまい、吐き気、不整脈などの副作用があります。また、植込み型除細動器(ICD)による治療は、感染や不適切作動のリスクがあります。

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QT短縮症候群(SQTS)の治療に用いられる抗不整脈薬(キニジン)には、以下のような副作用が報告されています。

副作用症状
消化器系吐き気、嘔吐、下痢
神経系めまい、頭痛、耳鳴り
皮膚発疹、かゆみ、光線過敏症
血液血小板減少、白血球減少

また、ソタロールやアミオダロンなどの他の抗不整脈薬も使用されますが、ソタロールは気管支喘息を悪化させる可能性があり、アミオダロンは甲状腺機能に影響を与える可能性があります。

植込み型除細動器(ICD)のリスク

リスク内容
感染手術部位や機器周囲の感染、全身性感染症
出血手術中や術後の出血、血腫形成
不適切作動不要な電気ショックの発生、心理的ストレス
機器の不具合バッテリー消耗、電極線の損傷、システムエラー

ICDの植込み手術は侵襲的な処置であり、感染や出血のリスクがあります。特に高齢者や免疫機能が低下している患者さんでは、リスクが上昇します。

また、ICDが不整脈を誤って検出し、不要な電気ショックを与えてしまう「不適切作動」が生じる可能性もあります。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

QT短縮症候群(SQTS)の治療費は保険適用により負担が軽減されますが、長期的な管理が必要なため、継続的に費用がかかります。

診断・検査にかかる費用の目安

検査項目自己負担額(3割負担の場合)
心電図検査約1,000円
ホルター心電図約3,000円
遺伝子検査約30,000円

薬剤費・植込み型除細動器(ICD)の関連費用の目安

治療法概算費用(3割負担の場合)
抗不整脈薬(月額)約5,000円
ICD植込み手術約300,000円
ICD本体約900,000円

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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