右脚ブロック(Right Bundle Branch Block:RBBB)とは、心臓の電気信号が右心室に伝わる際に、遅延が生じる状態を指します。
ほとんどの場合は症状がなく、定期健康診断や他の目的で行われた心電図検査で偶発的に発見されることが多いですが、一部の方では息切れや疲労感などの症状が現れます。
右脚ブロック(RBBB)の病型
右脚ブロック(RBBB)には、「完全右脚ブロック」と「不完全右脚ブロック」の2種類があります。
病型 | 臨床的意義 |
---|---|
完全右脚ブロック | 基礎にある心疾患の存在を示唆する可能性が高い |
不完全右脚ブロック | 必ずしも心疾患の存在を示唆するものではない |
右脚ブロックを認めた場合、まずはその病型(完全型か不完全型か)や合併する心疾患の有無を評価します。
完全右脚ブロックを認めた場合は、心臓超音波検査(心エコー)や運動負荷心電図検査などを用いて、基礎にある心疾患の有無を調べていきます。
完全右脚ブロック
完全右脚ブロックは、右脚の伝導が完全に途絶えた状態を指します。右心室の興奮が大幅に遅れるため、心電図上でQRS幅の延長(0.12秒以上)が認められます。
不完全右脚ブロック
不完全右脚ブロックでは、右脚の伝導が部分的に障害されます。右心室の興奮の遅れは軽度であり、QRS幅の延長は0.12秒未満にとどまります。
健康な人にも認められる所見であり、必ずしも心疾患の存在を示唆するものではありません。
特徴
- QRS幅は0.12秒未満
- 右心室の興奮の遅れは軽度である
- 心疾患の存在を必ずしも示唆するものではない
右脚ブロック(RBBB)の症状
右脚ブロック(RBBB)は、多くの場合無症状で経過します。定期健康診断や他の目的で行われた心電図検査で偶然発見されることが多くなりますが、重症度に応じて息切れや胸部不快感などの症状が現れます。
軽度から中等度の右脚ブロック(RBBB)における症状
特に運動時や身体に負荷がかかる状況で症状が顕著になりますが、日常生活に大きな影響を与えるほどの症状はみられないことが一般的です。
症状 | 特徴 |
---|---|
息切れ | 軽度で、主に運動時に感じる |
胸部不快感 | 圧迫感や違和感として感じる |
疲労感 | 通常より早く疲れを感じる |
運動耐容能低下 | 以前よりも運動が辛く感じる |
重度の右脚ブロック(RBBB)における症状
重度の右脚ブロック(RBBB)では、より顕著な症状が現れます。
- 顕著な息切れ(特に労作時)
- 持続的な胸痛、胸部圧迫感
- めまい、失神
- 浮腫(むくみ)
- 頻脈(心拍数の増加)
- 疲労感の著しい増加
このような症状が現れた際は、速やかに医療機関を受診することが大切です。
右脚ブロック(RBBB)と関連する可能性のある心疾患
関連する心疾患 | 主な特徴 |
---|---|
心筋梗塞 | 急性の胸痛、冷汗 |
心不全 | 息切れ、浮腫、疲労感 |
肺性心 | 呼吸困難、右心不全症状 |
心筋症 | 心機能低下、不整脈 |
右脚ブロック(RBBB)の原因
右脚ブロック(RBBB)の原因は、心臓の構造的な異常や心臓への血流不足、高血圧、弁膜症など、様々な心臓疾患が考えられます。
健康診断などで偶然発見される無症候性の右脚ブロックの中には、原因が不明なものも少なくありません。
右脚ブロックの主な原因
心筋梗塞や心筋症などの心臓疾患は、右脚ブロックを引き起こす代表的な原因となります。また、高血圧や弁膜症といった循環器系の問題も、右脚ブロックの発症リスクを増大させます。
原因 | 影響 |
---|---|
心筋梗塞 | 心筋の壊死 |
心筋症 | 心筋の機能低下 |
高血圧 | 心臓への負担増加 |
弁膜症 | 血流の異常 |
加齢
高齢者では、心臓の電気伝導系の変性や線維化が進行しやすく、右脚ブロックが発生するリスクが上昇します。
その他、加齢に伴う心臓の構造的変化や機能低下も発症を促進する要因となります。
加齢に伴う変化 | 右脚ブロックへの影響 |
---|---|
電気伝導系の変性 | 伝導障害の増加 |
心筋の線維化 | 電気信号の伝達遅延 |
心臓の構造変化 | 伝導経路の変形 |
心機能の低下 | 電気的不安定性の増大 |
先天性心疾患
心室中隔欠損症や心房中隔欠損症などの先天性心疾患では、右脚ブロックが高頻度で観察されます。
先天性心疾患 | 右脚ブロックの発生率 |
---|---|
心室中隔欠損症 | 約30% |
心房中隔欠損症 | 約20% |
その他の原因
- 肺疾患(肺高血圧症、肺塞栓症など)
- 電解質異常
- 薬物の副作用
- 心臓手術後の合併症
右脚ブロック(RBBB)の検査・チェック方法
右脚ブロック(RBBB)の診断は、主に心電図検査で行います。
心電図検査
心電図検査では、右脚ブロックが生じると、右側の心室の興奮が遅れ、心電図上のV1誘導においてR波の幅が広くなる所見(幅の広いR波)が認められるようになります。
心電図所見 | 特徴 |
---|---|
V1誘導 | R波の幅が広い |
V6誘導 | S波が深い |
右脚ブロックの心電図所見の特徴
- QRS幅が0.12秒以上に延長する
- V1誘導でRSR’パターン(幅の広いR波)が見られる
- V6誘導でS波が深くなる
- 左側胸部誘導(V5、V6)でR波の高さが増す
その他の検査
検査名 | 目的 |
---|---|
ホルター心電図 | 日常生活中に生じる不整脈の検出 |
運動負荷心電図 | 運動時における右脚ブロックの変化の評価 |
心エコー図検査 | 心臓の構造や機能の評価 |
心臓MRI検査 | 心臓の詳細な構造の評価 |
ホルター心電図は、24時間以上の長時間にわたって心電図を記録することができる検査です。日常生活中に生じる不整脈の有無やその頻度を評価することができます。
運動負荷心電図では、運動時における右脚ブロックの変化を観察していきます。
確定診断
心電図所見で典型的な心電図所見が認められる場合には、右脚ブロックの確定診断となります。ただし、心電図所見だけでは、右脚ブロックの原因や重症度を評価することは難しいと言えます。
そのため、心エコー図検査や心臓MRI検査などの画像検査を併せて行い、心機能や心臓の構造的な異常の有無を評価することが重要となります。
その他行う可能性のある検査
検査名 | 目的 |
---|---|
血液検査 | 電解質異常や貧血の評価 |
胸部X線検査 | 心拡大の有無の評価 |
心臓カテーテル検査 | 冠動脈疾患の評価 |
電気生理学的検査 | 不整脈の機序の評価 |
右脚ブロック(RBBB)の治療方法と治療薬について
右脚ブロック(RBBB)の治療は原因疾患の管理が中心となり、症状や合併症の有無に応じて薬物療法や非薬物療法を実施します。
無症状のRBBBでは特別な治療を必要としませんが、定期的な経過観察は欠かせません。
薬物療法
RBBBそのものに対する特異的な薬物療法はありませんが、原因疾患や合併症に対して様々な薬剤を使用します。
薬剤の種類 | 主な効果 | 代表的な薬剤名 |
---|---|---|
抗不整脈薬 | 不整脈の抑制 | アミオダロン、ソタロール |
利尿薬 | 心不全の改善 | フロセミド、トラセミド |
ACE阻害薬 | 血圧低下、心機能改善 | エナラプリル、リシノプリル |
β遮断薬 | 心拍数の調整 | カルベジロール、メトプロロール |
非薬物療法
薬物療法だけでは十分な効果が得られない場合や、特定の合併症がある場合に実施を検討します。
- ペースメーカー植え込み(高度房室ブロックを合併する場合)
- 心臓再同期療法(CRT)(心不全を合併する場合)
- カテーテルアブレーション(特定の不整脈を合併する場合)
- 生活習慣の改善(原因疾患の進行を予防する目的)
無症状の場合
無症状のRBBBでは治療は必要ありませんが、定期的な検査と経過観察は継続する必要があります。以下のような生活習慣の改善が推奨されます。
生活指導項目 | 具体的な内容 | 期待される効果 |
---|---|---|
運動療法 | ウォーキング、水泳など | 心肺機能の改善、体重管理 |
食事療法 | 減塩、バランスの良い食事 | 血圧管理、心不全予防 |
ストレス管理 | リラクゼーション、趣味活動 | 自律神経バランスの改善 |
禁煙 | 完全な禁煙 | 心血管リスクの低減 |
右脚ブロック(RBBB)の治療期間
右脚ブロック(RBBB)の治療期間は原因となる疾患によって異なり、特発性の場合や基礎疾患が軽度であれば治療は必要なく、予後も良好です。
冠動脈疾患や心筋症など、より重篤な疾患が原因の場合は、それぞれの疾患に対する治療が必要です。
治療期間の目安
重症度 | 治療期間の目安 |
---|---|
軽症 | 数週間〜1ヶ月程度 |
中等症 | 1〜3ヶ月程度 |
重症 | 3ヶ月以上かかる可能性あり |
薬の副作用や治療のデメリットについて
右脚ブロック(RBBB)の治療における薬の副作用としては、血圧低下、めまい、むくみなどがあります。
薬物療法の副作用
抗不整脈薬の使用により、消化器症状や中枢神経系への影響が生じることがあります。
薬剤の種類 | 主な副作用 |
---|---|
Na チャネル遮断薬 | めまい、頭痛 |
β遮断薬 | 疲労感、徐脈 |
Ca チャネル遮断薬 | 浮腫、便秘 |
ペースメーカー植込み術のリスク
ペースメーカーの植込み手術には、感染や出血などの一般的な手術リスクに加え、ペースメーカー特有の合併症のリスクがあります。
また、ペースメーカー植込み後は電磁波の影響を受けやすくなるため、日常生活での注意が必要です。また、定期的な機器のチェックと電池交換のための手術が必要となります。
長期的な合併症
抗不整脈薬の長期使用により、肝機能障害や腎機能障害が起こることがあります。また、ペースメーカーを長期間使用している場合には、リード線の断線や感染のリスクが増加します。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
右脚ブロック(RBBB)の治療費は、医療保険の適用対象となり、診察料、検査料、投薬料、処置料などが保険でカバーされます。ただし、先進医療や自由診療に分類される治療は、保険適用外となる場合があります。
項目 | 保険適用 |
---|---|
診察料 | ○ |
検査料 | ○ |
投薬料 | ○ |
処置料 | ○ |
検査費用の目安
- 心電図検査 1,640円~3,280円程度
- ホルター心電図検査 5,470円~10,940円程度
- 心エコー検査 5,470円~10,940円程度
投薬費用の目安
薬剤 | 費用 |
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抗不整脈薬 | 1,090円~5,450円程度(1ヶ月分) |
降圧薬 | 1,090円~3,270円程度(1ヶ月分) |
抗血小板薬 | 1,090円~2,180円程度(1ヶ月分) |
以上
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