進行性心臓伝導障害(Progressive cardiac conduction disorder:PCCD)とは、心臓の刺激伝導系が徐々に機能低下していく疾患です。
心房から心室への電気信号の伝導が遅延または途絶することで、徐脈、房室ブロック、脚ブロックなどの不整脈を引き起こし、めまい、失神、心不全などの症状を呈します。
加齢とともに症状が進行することが多く、悪化すると不整脈や徐脈につながる恐れがあります。
進行性心臓伝導障害(PCCD)の症状
進行性心臓伝導障害(PCCD)の主な症状には、動悸、息切れ、めまい、失神などがあります。
動悸・息切れ
PCCDでは、心臓の電気信号の伝導が悪化することにより、動悸や息切れが現れます。特に、運動時や精神的なストレスを感じた時には症状が出やすくなります。
症状 | 特徴 |
---|---|
動悸 | 心拍数の低下や不規則な心拍によって引き起こされる |
息切れ | 心拍出量の低下によって引き起こされる |
めまい・失神
PCCDが進行すると、心拍数がさらに低下し、脳への血流減少によってめまいや失神を引き起こすことがあります。
症状 | 特徴 |
---|---|
めまい | 脳への血流減少によって起こる |
失神 | 一時的な意識消失を伴う |
進行性心臓伝導障害(PCCD)の原因
進行性心臓伝導障害(PCCD)は、まだ完全に解明されていませんが、遺伝的な要因が大きいと考えられています。心筋の構造異常や、心臓の電気信号を伝える神経の異常などが原因として挙げられます。
加齢による影響
年齢を重ねるにつれ、心臓の電気伝導システムを構成する細胞や組織は徐々に変性していきます。この変性過程により、心臓の電気信号の伝導速度が低下し、PCCDの発症リスクが高まることが分かっています。
70歳以上の患者さんでPCCDの発症率が顕著に上昇する傾向が見られ、特に80歳を超えると急激に増加すると言われています。
遺伝的要因
特定の遺伝子に異常がある場合、心臓の電気伝導システムの発達や機能に影響を与え、PCCDを引き起こす可能性があります。
PCCDに関連する主な遺伝子
遺伝子名 | 主な機能 |
SCN5A | ナトリウムチャネルの形成 |
LMNA | 細胞核の構造維持 |
PRKAG2 | エネルギー代謝の調節 |
NKX2-5 | 心臓の発生と分化 |
※このような遺伝子変異は、家族性PCCDの原因となります。
心臓疾患との関連
虚血性心疾患、心筋症、弁膜症などの基礎疾患が存在する場合、心臓の電気伝導システムに二次的な障害が生じ、PCCDを起こすことがあります。
PCCDの原因となり得る主な心臓疾患
- 冠動脈疾患
- 拡張型心筋症
- 肥大型心筋症
- 大動脈弁狭窄症
- 心サルコイドーシス
その他の要因
上記以外にも、PCCDの発症に関与する要因は多数存在することが分かっています。
分類 | 具体例 |
感染症 | ライム病、ジフテリア |
自己免疫疾患 | 全身性エリテマトーデス、強皮症 |
代謝異常 | アミロイドーシス、ヘモクロマトーシス |
薬剤 | 抗不整脈薬、ベータ遮断薬 |
また、PCCDの発症には複数の要因が絡み合っていることが多いというのが現在の医学的見解です。
例えば、遺伝的素因を持つ高齢者が心筋梗塞を発症した場合、PCCDのリスクは著しく高まります。
進行性心臓伝導障害(PCCD)の検査・チェック方法
進行性心臓伝導障害(PCCD)の診断では、心電図検査や心エコー検査、ホルター心電図検査、運動負荷心電図検査などを実施していきます。
心電図検査
心電図検査では、以下のような所見を確認していきます。特に、経時的に心電図変化が進行している場合は、PCCDの可能性が高いと考えられます。
所見 | 説明 |
PR間隔の延長 | 心房から心室への伝導時間が延長していることを示します |
QRS幅の延長 | 心室内の伝導障害が存在することを示唆します |
脚ブロック | 右脚ブロックや左脚ブロックなどの伝導障害を意味します |
ホルター心電図検査・運動負荷心電図検査
ホルター心電図検査は、連続的に心電図を記録することができる検査方法です。運動負荷心電図検査では、運動中の心電図変化を評価していきます。
心エコー検査
心エコー検査は、PCCDの重症度評価や、他の心疾患を除外するために実施します。
主な所見
所見 |
左室収縮能の低下 |
左室拡張能の低下 |
心室中隔の菲薄化 |
進行性心臓伝導障害(PCCD)の治療方法と治療薬について
進行性心臓伝導障害(PCCD)の治療は、主にペースメーカー植込み術を中心とし、薬物療法との併用によって生活の質を向上させていきます。また、生活習慣の改善も重要となります。
ペースメーカー植込み術
ペースメーカー植込み術は、心臓の電気的信号を正常に保つための処置です。心臓のリズムを常時監視し、必要に応じて電気的刺激を送ることで、心臓の正常な拍動を維持します。
早期の段階でペースメーカーを植え込むことにより、症状の進行を効果的に抑制し、生活の質を大幅に改善できる見込みがあります。
薬物療法
ペースメーカー植込み術と並行して、薬物療法も実施していきます。
薬剤分類 | 主な効果 | 代表的な薬剤名 |
抗不整脈薬 | 心臓のリズムを整える | アミオダロン、ソタロール |
β遮断薬 | 心拍数を抑制する | メトプロロール、アテノロール |
強心薬 | 心臓の収縮力を高める | ジゴキシン、ピモベンダン |
カルシウム拮抗薬 | 血管を拡張し、心臓の負担を軽減する | ベラパミル、ジルチアゼム |
生活習慣の改善
薬物療法やペースメーカー植込み術による医学的介入に加えて、患者自身による生活習慣の改善も治療の重要な一環となります。
特に推奨される生活習慣の改善点
- 禁煙
- アルコール摂取の制限
- 塩分摂取の制限(高血圧予防のため)
- 規則正しい睡眠、毎日十分な休息をとる
- ストレスを管理する(ストレスは心臓に負担をかけます)
進行性心臓伝導障害(PCCD)の治療期間
進行性心臓伝導障害(PCCD)の治療期間は、軽症の場合は比較的短期間で改善が期待できますが、重症例では長期にわたる治療が必要です。
治療期間の目安
一般的に、軽症のPCCDであれば数週間から数ヶ月程度の治療で症状の改善が見込まれます。しかしながら、重症のPCCDの場合、治療には数ヶ月から数年を要することもあるのが実情です。
重症度 | 治療期間の目安 |
軽症 | 数週間〜数ヶ月 |
中等症 | 数ヶ月〜1年 |
重症 | 1年以上 |
治療内容 | 期間の目安 |
投薬治療 | 数週間〜 |
ペースメーカー治療 | 数ヶ月〜 |
アブレーション治療 | 数ヶ月〜 |
経過観察の期間
治療後も、心機能や不整脈の有無を定期的にチェックし、必要に応じて治療方針を調整していきます。
経過観察の頻度の一例
- 治療開始後1〜3ヶ月:2週間に1回
- 治療開始後3〜6ヶ月:1ヶ月に1回
- 治療開始後6ヶ月以降:2〜3ヶ月に1回
経過観察項目 | 頻度 |
心電図検査 | 1〜3ヶ月毎 |
ホルター心電図 | 3〜6ヶ月毎 |
血液検査 | 3〜6ヶ月毎 |
薬の副作用や治療のデメリットについて
進行性心臓伝導障害(PCCD)の治療では、使用する薬剤によっては動悸、めまい、倦怠感などの副作用が生じる可能性があります。
また、長期的な薬物治療による臓器への影響や、薬剤間の相互作用にも注意が必要です。
薬物療法の副作用
抗不整脈薬には、めまいや吐き気などの副作用が報告されています。
副作用 | 症状 |
消化器系 | 吐き気、食欲不振 |
中枢神経系 | めまい、頭痛 |
皮膚 | 発疹、かゆみ |
心血管系 | 低血圧、徐脈 |
ペースメーカー植込みのリスク
ペースメーカーの植込み手術に関連するリスクとしては、感染や出血、周辺組織の損傷などが挙げられます。
また、ペースメーカー植込み後のリスクとしては、以下のようなものがあります。
- 機器の故障や電池切れによる突然の機能停止
- リード線の移動や断線による不適切な刺激
- 皮膚の炎症や壊死による局所的な問題
- 電磁波干渉による誤作動、一時的な機能不全
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
進行性心臓伝導障害(PCCD)の治療費は、保険が適用されるため、自己負担額は治療費の1~3割となります(保険証の種類により異なります)。
ただし、先進医療に該当する治療や、保険適用外の治療を受ける場合は全額自己負担となります。
検査費用の目安
検査名 | 費用目安 |
心電図検査 | 1,500円~3,000円 |
ホルター心電図検査 | 10,000円~20,000円 |
心臓超音波検査 | 8,000円~15,000円 |
心臓電気生理学的検査 | 50,000円~100,000円 |
ペースメーカー植え込み手術の費用
ペースメーカー植え込み手術の費用は約100万円から200万円程度が目安となりますが、健康保険が適用されるため、自己負担額はこれよりも少なくなります。
投薬治療の費用
薬剤名 | 費用目安(月額) |
ジギタリス製剤 | 1,000円~3,000円 |
アミオダロン | 5,000円~15,000円 |
ベプリジル | 4,000円~10,000円 |
以上
参考文献
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