房室結節リエントリー頻脈(AVNRT)

房室結節リエントリー頻脈(Atrioventricular Nodal Reentrant Tachycardia:AVNRT)とは、心臓内部の電気的な信号伝達システムに異常が生じる不整脈の一種です。

心臓上部に位置する房室結節内で、本来一方向に流れるべき電気信号が循環してしまうことが特徴です。

異常な電気信号の循環により心拍数が突然急上昇し、激しい動悸や息切れ、めまい、胸部不快感などの症状が起こります。

目次

房室結節リエントリー頻脈(AVNRT)の病型

房室結節リエントリー頻脈(AVNRT)は、主に典型的(slow-fast型)と非典型的(fast-slow型)の2つに分類されます。

病型伝導経路発生頻度
典型的(slow-fast型)遅伝導路→速伝導路約90%
非典型的(fast-slow型)速伝導路→遅伝導路約10%

房室結節には伝導速度の異なる複数の経路が存在し、これらの経路間でリエントリー回路(電気信号が一方向に循環する経路)が形成されることでAVNRTが起こります。

典型的AVNRTの特徴

典型的AVNRT(slow-fast型)では、電気信号が房室結節内の遅伝導路を順行性に、速伝導路を逆行性に伝わることで頻脈が起こります。

心電図上ではP波がQRS波に隠れるため、はっきりとしたP波を観察することが難しくなります。

非典型的AVNRTの特徴

非典型的AVNRT(fast-slow型)は電気信号の伝導方向が典型的AVNRTとは逆になり、速伝導路を順行性に、遅伝導路を逆行性に伝わります。

心電図上では、QRS波の後にはっきりとしたP波が観察されます。典型的AVNRTと比較すると、発生頻度が低い病型です。

房室結節リエントリー頻脈(AVNRT)の症状

房室結節リエントリー頻脈(AVNRT)の主な症状は、突然の動悸や胸部の不快感、めまい、息切れなどが挙げられます。

AVNRTの典型的な症状

AVNRTでは突然の動悸が主な症状となり、心臓が非常に速く拍動し「胸がドキドキする」とよく表されます。

また、動悸により体に十分な血液を送り出すことができなくなるため、以下のような症状が現れます。

  • 胸部の圧迫感や不快感
  • めまいや立ちくらみ
  • 息切れ、呼吸困難
  • 冷や汗
  • 疲労感、脱力感

症状の持続時間と頻度

AVNRTの発作は数分から数時間続くのが一般的ですが、持続時間は個人差が大きく、発作の頻度も患者さんによって様々です。

持続時間頻度
数分頻繁
30分以内一般的
1時間以上まれ
数時間非常にまれ

AVNRTの症状と他の不整脈との違い

AVNRTの症状は他の不整脈疾患と類似している場合がありますが、心房細動と比較すると、AVNRTの方が規則的な動悸を感じることが多いです。

また、症状が突然始まり突然終わることがAVNRTの特徴です。症状が長時間続く場合や、通常とは異なる症状が現れた際には医療機関を受診するようにしてください。

不整脈の種類動悸の特徴発作の開始と終了
AVNRT規則的突然
心房細動不規則徐々に
心室頻拍非常に速い突然
洞性頻脈徐々に速くなる徐々に

房室結節リエントリー頻脈(AVNRT)の原因

房室結節リエントリー頻脈(AVNRT)は、心臓内の電気伝導系における異常な回路形成が主な原因となります。

AVNRTが発生するしくみ

通常、心臓の電気信号は洞結節から心房を経て房室結節に到達し、心室へと伝わります。しかし、AVNRTでは房室結節内に二つの経路が存在し、これが電気信号を循環させる原因となります。

異常な回路が心臓の正常なリズムを乱してしまい、結果として頻脈を引き起こします。

遺伝的要因・環境要因

AVNRTの家族歴のある患者さんでは、不整脈が発生するリスクが高まる傾向があります。

また、自律神経系のバランスを崩してしまうような環境要因も、AVNRTの発症や悪化に関与します。

AVNRTを誘発する可能性がある要因

  • ストレス
  • 過度の疲労
  • カフェインの過剰摂取
  • アルコールの多量摂取
  • 睡眠不足

年齢との関係

AVNRTは様々な年齢層で発症しますが、特定の年齢群で発症リスクが高くなることが分かっています。

年齢層特徴
若年層初発のピーク
中年層再発のリスク増加
高齢層併存疾患による複雑化

AVNRTと他の心疾患との関連

AVNRTは単独で発症することが多いですが、心臓の構造異常や他の不整脈疾患により発症リスクが上昇することもあります。

特に、心房中隔欠損症や他の先天性心疾患を持つ場合では、AVNRTの発生率が高くなる傾向があります。

関連疾患AVNRTとの関係
心房中隔欠損症発症リスク増加
他の先天性心疾患合併率が高い
心筋症電気的不安定性を助長
弁膜症心臓の構造変化によりリスク上昇

房室結節リエントリー頻脈(AVNRT)の検査・チェック方法

房室結節リエントリー頻脈(AVNRT)の診断では、心電図検査(安静時、運動負荷、24時間記録など)や、心臓超音波検査、必要に応じてホルター心電図検査や運動負荷心電図検査などを実施します。

心電図検査

12誘導心電図検査により発作中の心電図を記録できれば、診断の確実性が高まります。

典型的なAVNRTの心電図所見

  • 150〜250回/分の心拍数
  • QRS波に埋もれて不明瞭なP波
  • 0.12秒未満の狭いQRS波形 など

しかし、発作は間欠的に起こるため、通常の心電図検査では捉えられないことがあります。

そのような場合、ホルター心電図検査(24時間以上連続して心電図を記録する検査)や携帯型心電計を用いて、長時間の心電図モニタリングを行います。

運動負荷試験

運動負荷試験では、トレッドミルや自転車エルゴメーターを使用して患者さんに運動をしていただき、その間の心電図変化を観察します。

運動によってAVNRTが誘発されることがあり、その場合、診断の手がかりとなります。

また、運動負荷試験は心臓の運動耐容能、運動中の血圧変動、不整脈の出現頻度や持続時間なども調べることができます。

電気生理学的検査(EPS)

AVNRTの確定診断には、電気生理学的検査(EPS)が必要です。この検査では、カテーテルを用いて心臓内の電気的活動を直接記録し、プログラム刺激を行うことでAVNRTを誘発します。

EPS所見診断的意義
房室結節の二重伝導路AVNRTの基質を示唆する重要な所見
AVNRT誘発の成功AVNRTの診断を強く支持する証拠
心房興奮順序の確認他の上室性頻拍との鑑別に役立つ情報

EPSでは、AVNRTの診断を確定するだけでなく、他の上室性頻拍との鑑別も可能となります。

房室結節リエントリー頻脈(AVNRT)の治療方法と治療薬について

房室結節リエントリー頻脈(AVNRT)の治療では、主に薬物療法とカテーテルアブレーション治療を実施します。

薬物療法

薬物療法は、症状が軽度から中等度の患者さんや、カテーテルアブレーションを希望されない方に対しての選択肢となります。

発作時には迷走神経刺激法や抗不整脈薬の静脈内投与を実施し、長期的な予防投薬としてβ遮断薬やカルシウム拮抗薬などを使用します。

薬剤分類主な作用代表的な薬剤名
β遮断薬心拍数低下アテノロール
カルシウム拮抗薬房室結節伝導抑制ベラパミル
Naチャネル遮断薬不整脈抑制プロパフェノン

カテーテルアブレーション治療

カテーテルアブレーション治療はAVNRTに対する根治的な治療法で、心臓カテーテルを用いて異常な電気伝導路を焼灼し、頻脈の原因となる回路を遮断します。

手術は局所麻酔下で行い、通常1〜2時間程度で終了します。成功率は95%以上と高く、再発率も低いことが知られています。

項目詳細備考
手術時間1〜2時間個人差あり
成功率95%以上施設により異なる
入院期間2〜3日合併症がなければ短縮可能
回復期間1〜2週間軽作業は数日後から可能

房室結節リエントリー頻脈(AVNRT)の治療期間

房室結節リエントリー頻脈(AVNRT)の治療期間は治療法によって大きく異なり、薬物療法の場合は症状が改善するまで継続する必要があります。

カテーテルアブレーションの場合は通常数日間で治療が終了しますが、個々の患者さんの症状や治療の経過によって異なります。

初期治療と経過観察

薬物療法の場合、効果が現れるまでに数日から数週間かかります。一方、カテーテルアブレーションは即時的な効果が期待できますが、その後の経過観察期間が必要です。

治療法初期効果の出現経過観察期間
薬物療法数日〜数週間3〜6か月
カテーテルアブレーション即時6〜12か月

長期的な管理・再発予防

AVNRTの治療は一度で完了するものではなく、長期的な管理が重要となります。再発のリスクを最小限に抑えるため、定期的な診察や検査を継続することが大切です。

治療後1〜2年間は、3〜6か月ごとの定期検診を受けることを推奨します。

薬の副作用や治療のデメリットについて

房室結節リエントリー頻脈(AVNRT)の治療における薬の副作用としては、β遮断薬やカルシウム拮抗薬など使用される薬剤によって異なるものの、倦怠感、めまい、頭痛などの一般的な副作用が起こる可能性があります。

また、カテーテルアブレーションなどの外科的治療では、出血、感染、血栓形成などの合併症のリスクがあります。

薬物療法における副作用

抗不整脈薬の主な副作用には、めまい、頭痛、吐き気、便秘などがあります。より深刻な副作用として肝機能障害や甲状腺機能異常が起こることがあるため、定期的な血液検査による経過観察を行います。

薬剤名主な副作用注意点
ベラパミルめまい、便秘高齢者は特に注意
プロパフェノン味覚異常、頭痛食事との相互作用に注意
フレカイニド視覚障害、吐き気腎機能低下者は慎重投与
ジゴキシン食欲不振、不整脈血中濃度モニタリングが必要

カテーテルアブレーションのリスク

  • 出血、血腫形成
  • 感染症
  • 血管や心臓の損傷
  • 不整脈の悪化
  • 心タンポナーデ(心臓周囲に液体がたまり、心臓の動きを妨げる状態)
合併症発生率対処法
出血・血腫1-2%圧迫止血、経過観察
感染症0.5-1%抗生剤投与
心タンポナーデ0.1-0.2%緊急ドレナージ
一過性脳虚血0.1% 未満抗凝固療法

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

房室結節リエントリー頻脈(AVNRT)の治療は健康保険の適用対象となります。自己負担額は通常医療費全体の30%ですが、高額療養費制度を利用することでさらに負担を抑えられます。

年齢区分自己負担上限額(月額)
70歳未満約80,000円~250,000円
70歳以上約12,000円~80,000円

カテーテルアブレーション治療の費用内訳

  • 手術料 約20万円~30万円
  • 入院費 1日あたり約2万円~3万円(通常3~5日間の入院)
  • 検査費 約5万円~10万円
  • 薬剤費 約2万円~5万円

その他の治療法と費用比較

薬物療法など他の治療法と比較すると、カテーテルアブレーションは初期費用は高いものの、長期的には負担が少なくなります。薬物療法の場合、月々の薬代が継続的にかかります。

治療法初期費用年間維持費
カテーテルアブレーション30万円~50万円ほぼなし
薬物療養1万円~2万円10万円~20万円

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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