心房期外収縮(APC)

心房期外収縮(Atrial Premature Contraction:APC)とは、心臓上部の心房から予定外の電気信号が発生し、通常の心拍リズムが乱れる状態を指します。

多くの人が日常生活で経験する一般的な不整脈の症状であり、必ずしも深刻な健康上の問題を示すわけではありません。

中には胸部の違和感や動悸として症状を自覚する方もいますが、多くの場合は無症状で経過し、日常生活に支障をきたすことはほとんどありません。

目次

心房期外収縮(APC)の病型

心房期外収縮(APC)は、発生部位や頻度、連発性などの要因によって分類されます。

発生部位による分類

心房期外収縮の発生部位は、主に右心房起源と左心房起源があります。

右心房起源のAPCは洞結節に近い場所から発生することが多く、比較的早期に出現する傾向です。一方、左心房起源のAPCは、肺静脈開口部付近から発生し、やや遅れて出現する特徴があります。

頻度による分類

分類24時間あたりの発生回数
稀発性100回未満
散発性100〜1,000回
頻発性1,000回以上

頻発性APCは、心房細動のリスク因子となるため、注意深い経過観察が必要です。

連発性による分類

APCが連続して発生する場合、その連発数によって異なる分類がなされます。単発性は1回のみのAPC、2連発は2回連続するAPC、3連発以上は非持続性心房頻拍と呼ばれることもあります。

連発性APCは単発性に比べて自覚症状が強く現れやすく、日常生活に影響が出る場合もあります。

  • 単発性:1回のみのAPC
  • 2連発:2回連続するAPC
  • 3連発以上:非持続性心房頻拍と呼ばれることもある

形態による分類

APCの波形形態は、発生部位や伝導経路によって様々な特徴を示します。

形態特徴
正常P波型洞調律のP波と類似
異常P波型洞調律のP波と異なる形状
隠伏性P波が先行のT波に埋没

心房期外収縮(APC)の症状

心房期外収縮(APC)の主な症状には、動悸や胸部の不快感、息切れなどがありますが、ほとんどの患者さんは無症状であり、気づかれにくい不整脈です。

症状特徴患者さんの表現例
動悸心臓が飛び跳ねる感覚「胸がドキッとする」
胸部不快感圧迫感や締め付け感「胸が重い」
息切れ呼吸が浅くなる感覚「息が上がりやすい」

動悸

心房期外収縮が起こった場合、最も自覚しやすい症状が動悸です。動悸とは、心臓が通常のリズムから外れて余分に拍動する感覚のことで、心臓が「飛び跳ねる」「ドキッとする」「脈が抜ける」というような表現がよく使われます。

日常生活の中で突然現れるため、不安に感じる方も多いのですが、多くの場合で症状は一過性であり、数秒から数分で自然に消失します。

胸部の不快感

動悸に加えて、胸部の圧迫感や締め付けられるような感覚が起こる場合もあります。

胸の中心部や左側に症状が現れやすく、首や肩に放散することもあります。

息切れ

階段の上り下りや軽い運動をしている際に、通常よりも早く息が上がる、所謂「息切れ」が起こることもあります。

心房期外収縮によって心臓のポンプ機能が一時的に低下するために起こる症状で、体内の酸素供給が一時的に減少し、息切れとして現れます。

日常活動息切れの感じ方
階段の上り下り通常より早く息が上がる
軽い運動息苦しさを感じやすい
長時間の歩行疲れやすく感じる

息切れの程度は、心房期外収縮の頻度や個人の体力によって異なります。普段から運動習慣がある方は、症状を感じにくい傾向にあります。

無症状の場合が多い

心房期外収縮は多くの場合で全く症状がないため、医療機関での定期検査や、他の目的で行われた心電図検査で偶然発見されることも少なくありません。

このため、実際の患者数は統計よりも多い可能性があります。

発見のきっかけ特徴
定期健康診断心電図異常として発見
他疾患の検査偶然の発見が多い
自覚症状による受診比較的少数

心房期外収縮(APC)の原因

心房期外収縮(APC)は、心臓の電気的活動の乱れや心房筋の異常な興奮によって起こります。

日常生活とAPCの関係

過度のストレスや睡眠不足、過労などは自律神経系のバランスを崩し、心臓のリズムを乱す要因となります。

また、カフェインの過剰摂取やアルコールの多量飲酒も心臓の電気的活動に影響を与え、APCを誘発します。

APCの原因となる生活習慣

生活習慣APCへの影響
過度の飲酒心臓への刺激増加
喫煙血管の収縮と酸素不足
運動不足心臓機能の低下
不規則な食生活電解質バランスの乱れ

APCを引き起こす可能性のある主な身体的要因

身体的要因APCとの関連性
高血圧心房への負荷増大
心臓弁膜症心房の拡大
甲状腺機能亢進症心臓の興奮性上昇
電解質異常心筋細胞の不安定化

特に高血圧は、長期間にわたって心臓に負担をかけ続けることで心房の拡大や線維化が起こりやすくなるため、APCの発生頻度が増加する可能性があります。

また、年齢を重ねるにつれて、心房期外収縮の発生リスクは上昇します。

薬剤による影響

心房期外収縮の原因となる特に注意が必要な薬剤には、以下のようなものがあります。

  • 一部の抗不整脈薬
  • 気管支拡張薬(喘息などの治療に使用される薬)
  • 甲状腺ホルモン製剤(甲状腺機能低下症の治療に使用される薬)
  • 特定の抗うつ薬

薬剤による副作用としてのAPCは投薬の中止や変更により改善する場合が多いですが、自己判断での薬の中止は危険です。必ず医師の指示に従って対応するようにしてください。

心房期外収縮(APC)の検査・チェック方法

心房期外収縮(APC)の診断では、心電図検査(安静時、運動負荷、24時間記録など)や心臓超音波検査、必要に応じてホルター心電図検査、運動負荷心電図検査などを実施します。

心電図検査

心電図検査では心臓の電気的活動を記録し、不整脈の種類や特徴を分析します。通常の12誘導心電図に加え、長時間の心電図モニタリングが必要な場合もあります。

心電図所見特徴
P波の形状通常のP波と異なる形状
P波の出現タイミング予期せぬタイミングで出現
QRS波通常のQRS波と同じ形状
代償性休止不完全な代償性休止が見られることがある

ホルター心電図検査

通常の心電図検査で心房期外収縮が捉えられない場合、ホルター心電図検査を実施します。この検査では、24時間以上小型の心電計を装着し、日常生活中の心臓の活動を連続的に記録します。

日常生活中の不整脈の発生頻度や傾向を把握することができ、無症候性の心房期外収縮も検出可能な検査となります。

運動負荷心電図検査

運動負荷心電図検査は、トレッドミルやエルゴメーターを使用し、運動をしてもらいながら心電図を記録する検査方法です。

運動時の心房期外収縮の発生頻度や、運動が心房期外収縮に与える影響を評価することができます。

検査段階観察ポイント
安静時基準となる心電図波形の記録
運動中心拍数の変化、不整脈の出現
回復期心拍数の正常化、不整脈の消失

心エコー検査

心エコー検査では、超音波を用いて心房や心室の大きさ、壁の厚さ、弁の状態、心臓の収縮力など、心臓の構造や機能を評価します。

関連する他の心疾患、例えば弁膜症や心筋症などの鑑別診断にも有用です。

心エコー検査の評価項目観察内容
心房・心室のサイズ拡大や肥大の有無
心臓壁の厚さ肥厚や菲薄化の程度
心臓弁の状態弁膜症の有無と程度
心臓の収縮力駆出率や壁運動異常

血液検査

血液検査は全身状態を評価し、不整脈の原因や関連する疾患を探る上で重要な検査となります。

主な検査項目

血液検査項目確認内容
電解質カリウム、マグネシウムなどのバランス
甲状腺機能TSH、FT3、FT4の値
貧血検査ヘモグロビン、ヘマトクリット値
炎症マーカーCRP、白血球数

心房期外収縮(APC)の治療方法と治療薬について

心房期外収縮(APC)では、無症状の場合は特に治療は必要ありません。

動悸や息切れなどの症状が強い場合や頻発する場合は、β遮断薬、カルシウム拮抗薬などの抗不整脈薬による薬物療法や、カテーテルアブレーションなどの外科的治療を検討します。

生活習慣の改善

心房期外収縮と指摘された場合は、無症状であっても、日常生活の見直しを行いましょう。

  • カフェインの摂取を控える
  • 十分な睡眠時間を確保する
  • ストレス解消法を見つける
  • 適度な運動を習慣化する
  • 禁煙に取り組む

薬物療法

心房期外収縮の症状が顕著な場合や、生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない場合には、薬物療法を検討します。

主な処方薬

薬剤分類主な薬剤名作用の仕組み
β遮断薬メトプロロール、アテノロール心拍数を低下させ、不整脈を抑える
カルシウム拮抗薬ベラパミル、ジルチアゼム心筋の興奮を抑え、不整脈を減らす
抗不整脈薬プロパフェノン、フレカイニド心筋の電気的活動を直接調整する

外科的治療

薬物療法で十分な効果が得られない場合や、症状が重度の場合には、カテーテルアブレーション(心臓の異常な電気信号を発生させる部位を焼灼する治療)の実施を検討します。

手術では心臓内に細いカテーテルを挿入し、異常な電気信号の発生源を特定してその部位を焼灼します。

心房期外収縮(APC)の治療期間

心房期外収縮(APC)は、軽い症状で他に病気がない方の場合、数か月程度の経過観察で良くなることもあります。一方、症状が重い方や他の心臓病を併せ持っている方では、より長い期間の治療が必要です。

段階を踏んだ治療

心房期外収縮(APC)の治療は、最初の段階では生活習慣の改善や軽い薬による治療から始め、症状の変化を見ながら少しずつ治療内容を調整していきます。期間としては数か月から半年程度継続します。

症状が良くならない場合は、強い薬による治療やカテーテルアブレーションなどの体に負担のかかる治療を検討しますが、治療を行った後は少なくとも6か月から1年程度の経過観察期間が必要です。

長期的な経過観察が重要

症状が良くなった後も、定期的に病院を受診し検査を受けることで、症状の再発や他の不整脈への進展を早い段階で見つけることができます。

経過観察期間中の注意点

  • 症状の再発や変化の有無
  • 薬の効果と副作用の確認
  • 心電図検査による不整脈の評価
  • 生活習慣の維持と改善状況の確認

治療終了の判断基準

判断基準説明
症状の消失自覚症状がなくなり、日常生活に支障がない状態が続く
心電図所見の改善心電図上で心房期外収縮の回数が著しく減少または消失
薬の減量・中止薬を減らしたり止めたりしても症状が再発しない
生活習慣の改善定着健康的な生活習慣が患者さんの日常に定着している

上記の基準を満たし、かつ6か月から1年程度の安定期間が確認できた場合には治療終了を検討します。ただし、完全に治療を終了するのではなく、定期的な経過観察を続けることが望ましいです。

薬の副作用や治療のデメリットについて

心房期外収縮(APC)の治療には、薬物療法や侵襲的処置に伴う副作用やリスクがあります。

薬物療法に伴う副作用

抗不整脈薬は心臓のリズムを整えるために使用しますが、同時に他の臓器にも影響を及ぼす場合があります。

薬剤名主な副作用
ベータ遮断薬疲労感、性機能障害
カルシウム拮抗薬便秘、浮腫
アミオダロン甲状腺機能異常、肺線維症

カテーテルアブレーションに伴うリスク

カテーテルアブレーションの主なリスクとしては、出血、感染、血栓形成、心タンポナーデ(心臓周囲に液体が貯まる状態)、稀ではありますが、心臓や周囲の臓器の損傷などが挙げられます。

また、手術後に一時的に不整脈が悪化することもあります。

リスクの種類発生頻度対処法
出血比較的多い圧迫止血、輸血
感染まれ抗生物質投与
血栓形成やや多い抗凝固療法
心タンポナーデまれ心嚢穿刺、手術

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

心房期外収縮(APC)の治療費は、多くの場合保険適用となります。通常自己負担は医療費の3割となりますが、年齢や所得によって1割や2割の場合もあります。

また、高額療養費制度を利用することで月々の医療費の上限が設定され、経済的な負担を軽減できます。

一般的な治療費の目安

治療法概算費用(3割負担の場合)
薬物療法1,500円〜6,000円/月
心臓カテーテルアブレーション20万円〜35万円

その他の関連費用の目安

  • 心電図検査:3,000円〜6,000円
  • ホルター心電図:6,000円〜12,000円
  • 心エコー検査:6,000円〜18,000円
  • 血液検査:4,000円〜9,000円

治療費は医療機関や地域によって異なるため、実際の費用については担当医や医療機関で直接ご確認ください。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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