心房細動(AF)

心房細動(Atrial Fibrillation:AF)とは、心房内で異常な電気信号が発生し、心房が1分間に350回以上という速いペースで不規則に震えるため、効率的な血液の送り出しができなくなる不整脈です。

動悸や息切れ、胸部不快感などの症状が現れることがあるほか、心房内で血液がよどんでしまうことで血栓が形成され、脳梗塞などの合併症を引き起す恐れもあります。

心房細動は特に高齢者に多く見られ、加齢とともに発症リスクが上昇していきます。また、高血圧や心臓病、甲状腺機能亢進症などの基礎疾患も心房細動の原因となります。

目次

心房細動(AF)の病型

心房細動(AF)は、発作性心房細動、持続性心房細動、永続性心房細動の3つの病型に分類されます。それぞれ、心房細動の持続時間、自然に正常な心拍リズム(洞調律)に戻るかどうか、そして治療方針などの点で異なります。

病型持続時間洞調律への復帰合併症リスク
永続性心房細動1年以上困難高い
持続性心房細動7日以上可能(治療により)中程度
発作性心房細動通常48時間以内自然停止あり低い

発作性心房細動

発作性心房細動は、心房細動の発作が一時的に起こり、自然に洞調律に戻る病型です。通常、発作は48時間以内に自然に治まりますが、中には7日以上続く場合もあります。

発作性心房細動の特徴

特徴詳細
持続時間通常48時間以内
自然停止あり
再発頻繁にあり

発作性心房細動の治療は、自然停止を待つか薬物療法が一般的ですが、発作が頻発する場合や症状が強い場合は、カテーテルアブレーションを検討します。

持続性心房細動

持続性心房細動は、心房細動が7日以上続き、自然に洞調律に戻らないものを指します。薬物療法や電気的除細動によって、洞調律に戻すことが必要となります。

持続性心房細動の特徴

  • 心房細動が7日以上持続する
  • 自然停止しない
  • 薬物療法や電気的除細動が必要

持続性心房細動では、心機能低下や血栓形成のリスクが高くなります。そのため、治療を行わずに放置すると、心不全や脳梗塞などの合併症を引き起こす可能性があります。

永続性心房細動

永続性心房細動は、心房細動が長期間(通常1年以上)持続し、洞調律に戻すことが困難なタイプです。薬物療法や電気的除細動を試みても、正常な心拍リズムを維持することが難しいのが特徴です。

永続性心房細動の特徴

  • 心房細動が1年以上持続する
  • 洞調律への復帰が困難である
  • 血栓形成のリスクが高い
  • 心機能低下を伴う場合が多い

永続性心房細動の治療では、洞調律の維持は現実的ではないため、症状の改善と合併症の防止に焦点を当てた管理を行います。

心房細動(AF)の症状

心房細動(AF)は、動悸や息切れ、胸部不快感などの症状が特徴ですが、無症状のこともあります。

動悸(どうき)

心房細動(AF)では、心臓の拍動が不規則になることで、動悸が起こります。

動悸の他にも、胸部の不快感や圧迫感を感じる人もいます。

症状特徴
動悸心臓の拍動が不規則で速くなる
胸部不快感胸が締め付けられるような感覚

息切れ

心臓の拍出量が低下すると身体に十分な酸素が行き渡らなくなり、息切れを感じることがあります。

症状特徴
安静時の息切れ安静にしていても息切れを感じる
運動時の息切れ運動をすると息切れが強くなる

めまいや失神

心房細動(AF)による心拍出量低下により、脳への血流が減少し、めまいや失神が起こることがあります。

※特に高齢者で起こりやすいです。

症状特徴
めまいふらつきや立ちくらみを感じる
失神一時的に意識を失う

倦怠感(けんたいかん)

全身に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなることで、倦怠感が起こります。

症状特徴
倦怠感全身がだるく、疲れやすい
易疲労感少しの活動でも疲れを感じる

心房細動(AF)の原因

心房細動(AF)は、心臓の左心房にある肺静脈付近から電気信号が無秩序に生じ、心房が細かく震えることで起こる不整脈です。

高血圧、心臓病、加齢、生活習慣など、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

AFの主な原因発症要因
加齢による影響心房筋の変性
心房の構造的な異常心房の過度な拡大、圧負荷
高血圧による影響心房壁の肥厚・線維化
心房内の圧力上昇
自律神経の異常心房の電気的リモデリングが促進
心房筋の不応期短縮

加齢に伴って起こる心房筋の変性について

加齢に伴い、心房筋は徐々に変性していくため、心房筋の電気的な特性が変化しAFが発生しやすくなると言われています。

実際、高齢者ほどAFの有病率は高いという事実があります。

心房の構造的な異常

先天的あるいは後天的な心房の構造的な異常も、AFの原因となります。

先天性心疾患の例

心房中隔欠損症、肺静脈還流異常症など

後天性心疾患の例

僧帽弁狭窄症、僧帽弁逆流症など

このような疾患が存在する場合には、心房が過度に拡大したり、圧負荷がかかったりすることによって、AFが誘発されやすくなります。

高血圧が心房に与える負担について

高血圧は心臓全体に負担をかける病態ですが、特に心房への影響が大きいことが知られています。

  • 高血圧によって心房壁が肥厚する
  • 心房壁の線維化が進行する
  • 心房内の圧力が上昇する

こうした変化が起こることによって、心房は電気的に不安定な状態となり、AFが発生しやすくなります。

血圧値(収縮期血圧/拡張期血圧)の区分AFを発症するリスク(正常血圧と比較した場合)
正常血圧:120mmHg未満/80mmHg未満AFを発症するリスクの基準となる
正常高値血圧:130-139mmHg/80-89mmHg正常血圧と比べて1.5倍のリスクがある
Ⅰ度高血圧:140-159mmHg/90-99mmHg正常血圧と比べて2.0倍のリスクがある
Ⅱ度高血圧:160mmHg以上/100mmHg以上正常血圧と比べて3.0倍のリスクがある

心房細動(AF)の検査・チェック方法

心房細動(AF)の診断では、心電図検査や心エコー検査などを実施します。

心電図検査

心電図検査において、心電図上でP波の消失と不規則な心房細動波(f波)を認めることで心房細動の診断が可能となります。

心電図所見心房細動の特徴
P波消失している
f波不規則な細かい波形を呈する
QRS波基本的には正常である
心拍数不規則で増加傾向を示す

また、必要に応じて24時間以上の長時間心電図検査(ホルター心電図)を行う場合もあります。

心エコー検査

心エコー検査では、心臓の構造や機能を評価します。心房細動では、左房の拡大や心機能の低下が認められます。

また、心房細動の原因となりうる、僧帽弁狭窄症や心筋症などの器質的心疾患の有無も調べていきます。

検査項目評価内容
左房径左房の拡大の有無を評価
左室駆出率(EF)心機能の低下の有無を評価
弁膜症僧帽弁狭窄症などの有無と重症度を評価
心筋の性状心筋の肥大や線維化の有無を評価

その他の検査

心房細動の診断や重症度評価、合併症の評価のために、以下のような検査を実施する場合もあります。

検査名目的
血液検査甲状腺機能異常や電解質異常の有無を評価する
胸部X線検査心拡大や肺うっ血の有無を評価する
運動負荷心電図運動時の心房細動の誘発や虚血性心疾患の有無を評価する
心臓CT・MRI心房や肺静脈の構造を詳細に評価する

心房細動(AF)の治療方法と治療薬について

心房細動(AF)の治療の治療方法には、薬物治療(抗凝固薬、抗不整脈薬など)、カテーテルアブレーション、ペースメーカーや植え込み型除細動器の植込みなどがあります。

患者さんの状態治療方針
症状が軽度で合併症がない抗不整脈薬による薬物療法を中心に治療
症状が重度で薬物療法が無効アブレーション治療を検討
高齢で合併症がある抗凝固薬による脳卒中予防を重視し、症状に応じて心拍数調節薬を使用

心房細動(AF)の薬物療法で使用する薬剤

薬剤の種類作用と目的
抗不整脈薬
フレカイニド、ピルジカイニド、アミオダロンなど
心房細動(AF)のリズムを正常化し、再発を防ぐ
抗凝固薬
ワルファリンや直接経口抗凝固薬(DOAC)
血液の凝固を抑え、血栓形成と脳卒中のリスクを減らす
心拍数調節薬
β遮断薬、カルシウム拮抗薬など
心拍数を適切な範囲内に調節し、動悸などの症状を和らげる

カテーテルアブレーション治療

薬物療法で十分な効果が得られない場合や、患者さんが薬物療法を望まない場合には、アブレーション治療を検討します。

アブレーション治療は、心房細動(AF)の原因となる、異常な電気信号を発生する心筋組織を焼灼または凍結し、破壊する治療法です。

アブレーション治療の種類特徴
カテーテルアブレーション足の付け根から細い管(カテーテル)を挿入し、心臓まで到達させて行う治療法
外科的アブレーション開胸手術により直接心臓に触れて行う治療法

アブレーション治療は心房細動(AF)の根本的な原因を取り除くことができるため、長期的な効果が期待できます。

心房細動(AF)の治療期間

心房細動(AF)の治療期間は、薬物治療では症状コントロールのため長期にわたる場合が多くなります。

カテーテルアブレーションは一度の治療で効果が期待できる場合もありますが、再発の可能性も考慮し、定期的な経過観察が必要です。

治療期間の目安

発作性心房細動の場合は、一過性の症状で自然に治まる場合が多いため、比較的短期間の治療で済む可能性もあります。 一方で、持続性や慢性の心房細動では、治療に長期間かかる場合が多くなります。

心房細動のタイプ治療期間の目安
発作性数日〜数週間
持続性数週間〜数ヶ月
慢性数ヶ月〜生涯

特に高齢の方や基礎疾患をお持ちの方は、治療に時間がかかり、長期的な管理が必要です。

定期的な経過観察が必要

治療開始後も心電図検査や血液検査などを定期的に行い、治療効果や副作用の有無を確認することが大切です。

経過観察の頻度は、患者さんの状態や治療法によって異なりますが、主に以下のような間隔で行います。

経過観察時期頻度
治療開始後1〜3ヶ月2〜4週間ごと
治療開始後3〜6ヶ月1〜2ヶ月ごと
治療開始後6ヶ月以降2〜3ヶ月ごと

心房細動は慢性疾患であり、完治が難しいことが多く、治療により症状が改善しても再発のリスクは残るため、定期的な経過観察と生活習慣の改善を継続することが望ましいです。

薬の副作用や治療のデメリットについて

心房細動(AF)の治療薬には、出血リスク、めまい、倦怠感などの副作用があります。また、抗不整脈薬による新たな不整脈誘発の可能性も考えられます。

抗不整脈薬の副作用

抗不整脈薬の主な副作用としては、徐脈、低血圧、吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状、めまい、ふらつき、視力障害、肝機能障害、皮疹やかゆみなどのアレルギー症状などが挙げられます。

アブレーション治療のリスク

リスクの種類起こりうる合併症
穿刺部の出血、血腫穿刺部位の痛み、腫れ、皮下出血
心タンポナーデ息切れ、胸痛、ショック症状
肺静脈狭窄息切れ、咳、胸痛
脳梗塞片麻痺、意識障害、言語障害

抗凝固療法に伴う出血リスク

抗凝固薬の服用には出血のリスクが伴います。 特に、高齢者、腎機能障害がある方、消化性潰瘍の既往がある方、他の出血リスクを高める薬を服用中の方などは、出血のリスクが高くなる傾向にあります。

出血は、消化管、脳、鼻、尿路など、様々な部位で起こる可能性があります。

薬剤の種類代表的な副作用必要なモニタリング
ワルファリン出血、皮疹、肝機能障害PT-INR(血液凝固検査)
ダビガトラン出血、消化器症状腎機能検査
リバーロキサバン出血、貧血肝機能検査、腎機能検査
アピキサバン出血、貧血肝機能検査、腎機能検査
エドキサバン出血、貧血肝機能検査、腎機能検査

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

心房細動の診断や治療に関する医療行為のほとんどは、健康保険の適用対象となります。

治療法別の費用の目安

治療法概算費用(自己負担額)
抗凝固薬(ワルファリン)1,000円〜2,000円/月
抗凝固薬(DOAC)5,000円〜10,000円/月
抗不整脈薬(ベプリジル)2,000円〜4,000円/月
抗不整脈薬(フレカイニド)4,000円〜6,000円/月
項目概算費用(自己負担額)
アブレーション手術(シンプル)約30万円
アブレーション手術(複雑)約50万円
入院費(7日間)約8万円

その他の関連費用の目安

  • 心電図検査 1,200円/回
  • ホルター心電図検査 4,000円/回
  • 心エコー検査 3,000円/回
  • 血液検査 2,000円/回

高額療養費制度

医療費が高額になった場合、高額療養費制度を利用すると自己負担額を抑えることができます。

この制度は、1ヶ月の医療費が一定の上限を超えた場合、超過分が支給される仕組みです。※所得に応じて上限額は変動します。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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