保湿剤のヒルドイドは、肌の乾燥や痒みを軽減するために広く利用されており、主成分であるヘパリン類似物質は、肌の水分量を高め、柔らかくなめらかな肌に導きます。
特に冬の乾燥する季節や、エアコンによる肌の乾燥が気になる時などに効果的です。
この記事では、ヒルドイドの保湿効果や使用方法について、詳しく解説していきます。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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ヒルドイドの有効成分と作用機序、効果
有効成分
ヒルドイドの主な有効成分は「ヘパリン類似物質」です。剤型はクリーム、ソフト軟膏、ローション、フォームなどがあり、いずれもヘパリン類似物質が0.3%配合されています。
ヘパリンは本来私たちの肝臓で作られるもので、血を固まりにくくするための物質ですが、この物質と構造が似ているためヘパリン類似物質と呼ばれることに。
作用機序、効果
ヘパリン類似物質は「親水性」と「保水性」があり、「ヒューメクタント」と言って水分子を引きつけて皮膚の奥まで浸透することで、高い保湿効果を発揮します。
詳しい作用機序は分かっていませんが、動物実験を含めた試験で、確認されている効果は以下のとおりです。
- 血流量増加作用:皮膚の微細な血管を拡張させて血流を改善。肌の新陳代謝が促進され、健康な皮膚が保たれます。
- 角質水分保持増強作用:皮膚の表面に水分を保持し、乾燥を防ぐことで肌を柔らかく保ちます。
- 線維芽細胞増殖抑制作用:炎症が起きた後に過剰に増殖する線維芽細胞のみを抑制し、傷が治る際にできる盛り上がり(ケロイド)を予防することにも。
- 抗炎症作用:炎症を引き起こす物質の活動を抑制し、皮膚の赤みや腫れを軽減します。
ヒルドイドの使用方法と注意点
次に、ヒルドイドの具体的な使用方法について解説します。
使用方法
いずれの剤型も、1日何回使用しても問題なく、適量を患部に塗布します。
ソフト軟膏やクリームはガーゼなどにのばして貼るのに適しており、ローションやフォームは伸びがよく、短時間で塗り広げやすいという特徴が。
季節や塗る時間帯、部位などによって使い分けることができます。
注意点
- 開封後は品質の保持のため、指定された期間内に使用。
- 高温や直射日光を避け、子供の手の届かない場所に保管。
- 目の周りや粘膜、傷口などには使用を避ける。
- フォームの製剤は高温になると破裂する恐れがあるので、直射日光を避け、炎や火気の近くでの使用や置きっぱなしにしない。
- フォームの製剤は使い切ってから捨てる。
適応対象となる患者さん
ヒルドイドが適応される主な症状
- 皮膚の乾燥症状: 慢性的な乾燥肌、肌のかゆみや赤みを伴う乾燥
- 血行障害に基づく疼痛と炎症性疾患(注射後の硬結並びに疼痛)
- 血栓性静脈炎:静脈に炎症が起こり、腫れ・熱感・痛みが生じる疾患(痔核を含む)
- 肥厚性瘢痕やケロイドの治療と予防
- 凍瘡(しもやけ)
- 外傷(打撲、捻挫、挫傷)後の腫れ・血腫・腱鞘炎・筋肉痛・関節炎
- 乳児期の筋性斜頸
皮膚科領域では、アトピー性皮膚炎や皮脂欠乏性皮膚炎など乾燥症状を伴う皮膚疾患にステロイド外用薬などと一緒に処方されることが多いです。
また、肥厚性瘢痕や凍瘡(しもやけ)などにも使われることがあります。
適応対象とならない患者さん
ヒルドイドが適応とならないケースもあります。ヒルドイドには血液を固まりにくくする特性があり、出血を助長する恐れがあるため、以下の方には使用することができません。
該当する方は必ず事前に主治医に申し出てください。
- 出血性血液疾患(血友病、血小板減少症、紫斑病など)の患者さん
- 僅少な出血でも重大な結果をきたすことが予想される患者さん
特定の背景を有する方への使用
ヒルドイドは、保湿効果や皮膚の修復サポート機能により、小さなお子さまからご高齢の方まで、さまざまな年齢層の患者さんに使用される薬です。
妊娠または妊娠している可能性がある方に対しては、治療の必要性があると思われる場合にのみ使用することができます。詳しくは専門医にご相談ください。
ヒルドイドの治療期間
ヒルドイドは保湿剤であり、使用する期間について特に制限はありません。
治療期間
- 短期治療:一時的な皮膚の乾燥や軽度の皮膚炎に対しては、短期間(通常は1~2週間程度)の使用が多いです。
- 長期治療:アトピー性皮膚炎などの慢性的な皮膚疾患や、継続的な保湿が必要な場合、長期間(数週間から数ヶ月、1年以上)の使用が必要になることがあります。
注意点
- 乾燥やかゆみなどの症状の改善がみられない場合は、ステロイド外用薬などが必要である可能性が高いので、定期的に皮膚の状態をチェックし、改善や悪化に応じて医師に相談。
- 長期治療の場合は、定期的な医師の診察を受けることが大切。
ヒルドイドの副作用
ヒルドイドで重篤な副作用の報告はありませんが、0.1~5%未満の方に、皮膚炎・痒み・発赤といった過敏症状が出ることがあります。
赤ら顔の原因となる酒さや、酒さ様皮膚炎では症状の一つに毛細血管拡張を認めることがあり、ヒルドイドの血流を促す作用から、症状の悪化を認めるケースが。
そのようなときは使用を控えてください。
また、頻度は不明ですが皮膚刺激感が出ることもあります。ヒルドイドの使用によってこれらの症状が出た際は専門医にご相談ください。
ヒルドイドで効果がなかった場合
ヒルドイドは多くの皮膚症状に効果的な保湿剤ですが、全ての方に同様の効果があるとは限りません。ここでは主なヒルドイドの適応疾患別に、効果が乏しい場合の対応を解説します。
皮膚の乾燥症状に対して効果が見られない場合
慢性的な乾燥肌や、肌のかゆみや赤みを伴う乾燥に対してヒルドイドを塗布しても症状の改善が乏しい場合、皮膚炎に発展している可能性が高いです。
そのような場合は、ヒルドイドに加えてステロイド外用薬などの炎症を改善する薬が必要となります。
肥厚性瘢痕やケロイドに対して効果が見られない場合
ヒルドイドは肥厚性瘢痕やケロイドに対しても処方されることがありますが、第一選択としては推奨されておらず、まずはステロイドの貼付剤などを試すことが多いです。
場合によってはステロイドの注射などを検討することもあります。もしヒルドイドで効果を感じない場合は、治療方法について一度主治医と相談してください。
凍瘡に対して効果が見られない場合
凍瘡(しもやけ)は血流障害が主な原因で、血流を改善するヒルドイドが凍瘡に使用されることがありますが、他にもビタミンE製剤なども適応です。
ヒルドイドで改善が乏しい場合は、他の代替薬への変更を検討します。
剤型による効果の違い
ヒルドイドにはクリーム、ソフト軟膏、ローション、フォームといくつかの剤型があります。
剤型による保湿効果に大きな差はないと言われていますが、ローションなどの伸びがいい剤型は、その分塗る量が減って十分な効果を得られないことも。
シチュエーションなどにより剤型は使い分けることができますが、保湿効果が足りないと感じるようであれば、クリームやソフト軟膏の方が望ましいことがあります。
他の治療薬との併用禁忌
ヒルドイドと併用禁忌となる他の治療薬は特にありません。
保険適用について
ヒルドイドが保険適用となる疾患は以下のとおりです。
- 皮膚の乾燥症状: 慢性的な乾燥肌、肌のかゆみや赤みを伴う乾燥
- 血行障害に基づく疼痛と炎症性疾患(注射後の硬結並びに疼痛)
- 血栓性静脈炎:静脈に炎症が起こり、腫れ・熱感・痛みが生じる疾患(痔核を含む)
- 肥厚性瘢痕やケロイドの治療と予防
- 凍瘡(しもやけ)
- 外傷(打撲、捻挫、挫傷)後の腫れ・血腫・腱鞘炎・筋肉痛・関節炎
- 乳児期の筋性斜頸
薬価は、フォーム以外の剤形で19.2円/g、フォームは19.4円/gとなっています。
薬価に基づくそれぞれの価格
タイプ | 薬価に基づく薬の価格 |
---|---|
ソフト軟膏0.3% | 25g(480円)、50g(960円)、100g(1920円)、500g(9600円) |
クリーム0.3% | 25g(480円)、50g(960円)、100g(1920円)、500g(9600円) |
ローション0.3% | 25g(480円)、50g(960円) |
フォーム0.3% | 原液92g(1784.8円) |
適応される保険の割合に応じて、お支払いいただく薬剤費が変わります。
保険の適応を受けるためには専門医による診察や診断が必要です。この他、初診料あるいは再診料、処置料などがかかります。
詳しくはお問い合わせください。
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