軟性線維腫(なんせいせんいしゅ、首イボ acrochordon)とは、首や脇の下などによく見られる柔らかいできものです。主に中年以降に認め、柔らかく、色は肌色から茶色がかった色をしているのが特徴です。
放置していても問題はありませんが、見た目の問題や不快感を引き起こすことがあるときは、治療介入を検討します。
この記事では、軟性線維腫(首イボ)について詳しく解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
軟性線維腫(首イボ)の症状
軟性線維腫は比較的ありふれたできもので、有病率は人口の46%だという報告もあります。
「アクロコルドン」や「スキンタッグ」という別名も。
軟性線維腫(首イボ)の特徴
好発部位:軟性線維腫は一般的に「首イボ」とも呼ばれるように、首によく認めるできものです。首以外に、脇や鼠径部にできることもあります。衣服が擦れる場所に好発するため、しばしば不快感の原因になることが。
サイズ:通常2〜3mm程度の大きさが多いですが、中には1cmを超えるものもあり、巨大で皮膚から垂れ下がるくらいのものは懸垂性線維腫(けんすいせいせんいしゅ)と呼ばれます。
色調:皮膚と同じ色(常色)〜淡褐色調で、時間の経過とともに変化することもあります。
形状・触感:半球状〜有茎の柔らかい腫瘍で表面は皺が入ったような模様を認めることが多いです。
自覚症状:通常無症状ですが、衣服などに引っかかって痒みや痛みを伴う場合があります。
軟性線維腫(首イボ)の原因
軟性線維腫が発生する具体的な原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関係していると考えられています。
軟性線維腫の発生要因
原因 | 詳細説明 |
---|---|
遺伝的要素 | 軟性線維腫は家族内での発生傾向があり、遺伝的な要因がある |
年齢 | 加齢とともに軟性線維腫の発生率が高まるため、年齢も関係 |
肥満 | 肥満が軟性線維腫のリスクファクターとして指摘 |
糖尿病 | 糖尿病やインスリン抵抗性、高インスリン血症があると軟性線維腫が発生しやすい |
ホルモン変化 | 特に妊娠など、ホルモンの変動が大きい時期に軟性線維腫が発生しやすい |
インスリン様成長因子(IGF)との関連性
インスリン様成長因子(IGF-1, IGF-2)は細胞の増殖と分化に関与しており、高インスリン血症やIGF-1のレベルが上昇すると上皮細胞や線維芽細胞の増殖をもたらすことがわかっています。
糖尿病などがあると軟性線維腫の発生リスクが高まることに。
軟性線維腫(首イボ)の診断方法
軟性線維腫は、特徴的な見た目から視診と触診のみで診断可能であることがほとんどです。他の皮膚腫瘍との鑑別が必要な場合は、皮膚生検を行うことがあり、多くのケースでは、摘除の際に病理検査が行われます。
軟性線維腫との鑑別疾患
・疣贅(ゆうぜい):パピローマウイルスによる結節や腫瘤です。軟性線維腫よりも硬く、表面を削ると出血傾向があります。
・神経線維腫:半球状に盛り上がる柔らかい皮膚腫瘍で、神経線維腫症の場合は全身に多発することがあります。
・脂漏性角化症:いわゆる「老人性イボ」で、ダーモスコピーという特殊な拡大鏡で「milia-like cyst」などいくつかの特徴的な所見を認めることで鑑別が可能です。
病理検査
病理では表面が乳頭状で、真皮では膠原線維の増生が見られ、大きいものでは脂肪組織も認めます。
軟性線維腫(首イボ)の治療方法
軟性線維腫は良性の皮膚腫瘍なので必ずしも治療する必要はありませんが、多くの人にとって見た目の問題や不快感の原因となります。治療法は腫瘍の大きさや部位などによって選択されることに。
治療法
軟性線維腫の除去方法
- 液体窒素:液体窒素を用いて軟性線維腫を凍結させ、除去します。
- ハサミによる切除:有茎性で比較的小さいものはハサミで根元を切って切除します。
- レーザー治療:CO2レーザーなどで腫瘍を蒸散させて除去します。
- ラジオ波焼却:高周波によって腫瘍を焼却する方法です。
- 外科的手術:特に大きな軟性線維腫の場合は手術で除去することがあります。
軟性線維腫の治療法は多岐にわたるので、事前に専門医と十分に相談し、最適な治療法を選択されることをおすすめします。
軟性線維腫(首イボ)の治療期間(ダウンタイムなど)
軟性線維腫の治療は物理的なの除去が基本となります。治療を受けた後、皮膚の回復や治癒に要する時間が「ダウンタイム」です。
ダウンタイムは、選択された治療方法や個人の体質、治療を受けた部位などにより期間が異なります。
各治療方法のダウンタイム
治療方法 | ダウンタイムの期間 | 特徴 |
---|---|---|
外科的手術 | 2~6ヶ月 | 切除部が赤くなったり、腫れたりする場合がある(肥厚性瘢痕やケロイド) |
レーザー治療 | 2~6ヶ月 | 軽度の赤み、腫れや、比較的大きい場合は一時的に凹みができることが |
ラジオ波焼却 | 2~6ヶ月 | 軽度の赤み、腫れや、比較的大きい場合は一時的に凹みができることが |
液体窒素 | 場合によっては数ヶ月 | 炎症後色素沈着ができると改善に時間を要する |
ハサミでの切除 | ほぼなし | 当日軽度の出血を認めることがある程度 |
ダウンタイム中のケアと注意点
治療後のダウンタイム中は、適切なケアが必要です。以下の点に注意しましょう。
- 治療部位を清潔に保ち、毎日優しく洗う。
- 傷を擦らない。
- かさぶたは、無理に剥がさない。
- 直射日光は避け、日焼け止めを使用するなど、UVケアをしっかりと行う。
- トレチノインなどの刺激になりやすい製品の使用は、医師の指示に従って使用。
- もし異常な症状や感染の兆候がある場合は、すぐに医師に相談。
治療の副作用やデメリット
軟性線維腫の治療には、副作用やデメリットもあります。
各治療方法の副作用
主な治療の副作用
治療方法 | 主な副作用 |
---|---|
外科的手術 | 傷跡の瘢痕、ケロイド、感染、出血など |
レーザー治療 | 赤み、腫れ、色素沈着、凹みなど |
ラジオ波焼却 | 赤み、腫れ、色素沈着、凹みなど |
液体窒素 | 赤み、腫れ、色素沈着 |
ハサミによる切除 | 軽度の出血 |
治療のデメリット
それぞれの治療法にはデメリットもあります。
- 外科的手術:外科的手術は一度で取り切り取れる点がメリットですが、線状の傷跡になる点、体質部位により肥厚性瘢痕やケロイドとして長期に残る可能性が。抜糸のために再度診察が必要。
- レーザー治療、ラジオ波焼却:比較的傷跡が少なく済む点がメリットですが、大型で根元が太い場合は術後の凹みが目立つことがあるため、外科的治療が望ましい場合も。いずれの治療法も保険が適用されない。
- 液体窒素:簡便な施術ですが、大きさにより1度で取れない場合もあり、確実性に欠ける。やり方によっては炎症後色素沈着を引き起こしやすく、頚部や顔面などの露出に行う際は慎重に適応を判断する必要が。
- ハサミによる切除:確実に1度で取り切ることが可能ですが、半円状で根元が太い場合はハサミで切除することが難しく、他の治療法が選択。
保険適用について
軟性線維腫の治療には、保険適用になるものとならないものがあります。
保険適用となる治療
外科的切除や液体窒素、ハサミによる切除は一般的に保険適用です。
摘除術は露出部か、露出部以外かによって点数が異なります。
・皮膚、皮下腫瘍摘除術(露出部)
長径2センチメートル未満 1,660点(3割負担で4,980円)
長径2センチメートル以上4センチメートル未満 3,670点(3割負担で11,010円)
長径4センチメートル以上 4,360点(3割負担で13,080円)
・皮膚、皮下腫瘍摘除術(露出部以外)
長径3センチメートル未満 2,110点(3割負担で6,330円)
長径3センチメートル以上6センチメートル未満 4,070点(3割負担で12,210円)
長径6センチメートル以上 11,370点(3割負担で34,110円)
液体窒素による治療は、数によって保険点数が異なります。
・液体窒素(いぼ等冷凍凝固法)
3箇所以下 210点(3割負担で630円)
4箇所以上 270点(3割負担で810円)
切除と一緒に組織を病理検査に提出する場合には追加で検査代がかかります。
・皮膚生検 500点(3割負担で1,500円)
この他に初診料などがかかります。
保険適用外の治療
一方、ラジオ波焼却術やレーザー治療には保険が適用されません。クリニックによって価格は異なるため、詳しくはお問い合わせください。
保険が適用されるかどうかは、診療を行う医療機関や医師の判断にも左右されます。
治療を受ける前に十分な説明を受け、治療の内容や費用、保険の適用について確認することが大切です。
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