一般的に「シミ」と呼ばれる老人性色素斑(senile lentigo)は、加齢により皮膚の表面に現れる、茶色い斑点のことを指します。
老人性色素斑は長年にわたって紫外線にさらされることによって生じる変化と考えられており、50代以降の紫外線に曝露されやすい顔や手の甲などに認めやすいです。
シミは美容上の問題として捉えられることが多く、実際に美容相談で最も多いのが「シミ」と言われています。
この記事では、老人性色素斑について詳しく解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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老人性色素斑の症状
症状の特徴
シミ(老人性色素斑、日光黒子、senile lentigo)は主に顔や手の甲、首、腕など、日常的に紫外線に晒される部分に好発。老人性色素斑の特徴は、以下のような点が挙げられます。
- 色調: 濃い褐色調を呈することが一般的ですが、皮膚の色によっては黄色っぽく見えたり、黒色に近い色を呈することもあります1)。
- 形: 平らな円形や楕円形であることが多く、周囲の皮膚と境界は明瞭です。
- 大きさ: 直径3mmから20mm程度の範囲に収まる場合が多いですが、中にはそれ以上の大きさになることもあります。
老人性色素斑の一般的な特徴
特徴 | 説明 |
---|---|
色調 | 濃褐色が多いが黄色や黒色の場合も |
形 | 円形〜楕円形が多く、境界が明瞭 |
大きさ | 大小さまざま |
症状の進行と変化
老人性色素斑は50代以降で認めることが多く、60代以降の高齢者の90%に現れます2)。
最初は小さな褐色斑が時間経過とともに拡大を認め、色が濃くなり外見上目立ち始め、同時に数も増えるのが一般的です。老人性色素斑が盛り上がって脂漏性角化症を併発することもあります。
参考文献
1) Hodgson C. Senile lentigo. Arch Dermatol. 1963:87:197-207.
2) Situm M, et al. Senile lentigo–cosmetic or medical issue of the elderly population. Coll Antropol. 2010:34 Suppl 2:85-88.
老人性色素斑の原因・病態
老人性色素斑はその名の通り主に高齢の方に認める褐色斑で、長年の紫外線ダメージの蓄積が原因と考えられています。
紫外線との関連
紫外線には波長によってUVA、UVB、UVCがあり、そのうちUVAとUVBが地表へ届き、皮膚に影響を与えます。
- 紫外線A波 (UVA): 表皮よりも深い真皮層まで到達し、皮膚の老化を加速。
- 紫外線B波 (UVB): 表皮を主に損傷させ、日焼けや皮膚がんの原因に。
老人性色素斑の場合、特にUVBが形成に大きく影響を及ぼし3)、病理組織所見ではケラチノサイトの表皮突起(基底層)の延長と、突起先端にメラニンの沈着を認めます。
紫外線曝露の結果、ケラチノサイトからの活性化因子によってメラニンが増えるだけでなく、加齢に伴うターンオーバーの低下によってメラニンの排出能力がさがることも、メラニンの沈着の原因です。
紫外線を浴びる量は職業やスポーツ活動などにより大きく異なり、また、PUVA療法など紫外線療法を行なっている人は老人性色素斑のリスクとなります4)。
参考文献
3) Situm M, et al. Senile lentigo–cosmetic or medical issue of the elderly population. Coll Antropol. 2010:34 Suppl 2:85-88.
4) Thodes AR, et al. The PUVA-induced pigmented macule: a lentiginous proliferation of large, sometimes cytologically atypical, melanocytes. J Am Acad Dermatol. 1983; 9(1):47-58.
老人性色素斑の検査・チェック方法
「シミ」にはさまざまなタイプがあります。他の疾患との鑑別や診断方法などについて詳しく説明いたしましょう。
他の疾患との鑑別
以下は、一般的に「シミ」と称される皮膚疾患をまとめた表ものです。
疾患名 | 説明 |
---|---|
肝斑 | 30〜40代のアジア女性に好発する左右対称性の褐色斑 |
雀卵斑 | いわゆる「そばかす」のことで、細かい褐色斑を広範囲に認め、遺伝的要因が大きい |
後天性真皮メラノーシス(ADM) | 「アザ」の一種で目周りを中心に褐色〜暗紫色調の斑点があり、真皮にメラニンの沈着を認める |
炎症後色素沈着 | ニキビやアトピー性皮膚炎など慢性炎症の結果、メラニンが増加することで認める褐色斑 |
いずれもメラニンの増加の結果、頬などに褐色斑を認める色素異常症ですが(後天性真皮メラノーシスは母斑症)、要因やメラニン沈着の深さなど病態は異なります。
自身でのチェック方法
老人性色素斑かも?と思ったら、以下のチェック項目を確認してみましょう。
- 頬や手の甲など、紫外線を浴びる部位に褐色斑を認める。
- 周りの皮膚と境界が明らか。
- 年齢とともに数や色が濃くなってきた。
- 表面は平坦か、一部盛り上がりを認める。
皮膚科での検査方法
老人性色素斑は年齢や部位、特徴的な所見から比較的容易に診断できますが、注意すべき鑑別疾患がいくつかあり、それらを見逃さないように注意深く観察を行います。
しばしば鑑別を要するのが日光角化症です。日光角化症は前癌病変の一つで、放置しておくと有棘細胞癌などの悪性腫瘍に発展する可能性も。
日光角化症の場合、ダーモスコピーで「strawberry pattern」という特徴的な所見を認め、疑わしいときは皮膚生検という皮膚の一部をくり抜く病理検査を行います。
それ以外にもBowen病、基底細胞癌、悪性黒色腫などの悪性皮膚腫瘍との鑑別は非常に重要です。
また、扁平苔癬様角化症(lichen planus-like keratosis:LPLK)といって老人性色素斑に炎症反応を生じ、患部の一部あるいは全てが自然消退するケースもあります。
ダーモスコピーでは初期にpinkish area(炎症性毛細血管拡張による偽ネットワーク)、annular granular structures(真皮内メラノファージの所見)などの所見が。
ダーモスコピーをうまく用いれば、特に皮膚生検を行う必要はないと言われています5)。
参考文献
5) 佐藤俊次, 他. 自然消退した顔面の扁平苔癬様角化症の2例のダーモスコピー構造の検討. 日臨皮会誌. 2020; 37(5):655-661.
老人性色素斑の治療方法と治療薬
ここでは老人性色素斑、通称「シミ」の治療方法について詳しく説明いたします。
治療方法
治療方法は大きく分けて、レーザー治療、外用治療、ケミカルピーリングが挙げられます。
レーザー治療
第一選択はレーザー治療で、Qスイッチレーザーやピコレーザーを使用します。いずれのレーザーも、メラニンに吸収の高い波長を用い、選択的にメラニン色素にアプローチしメラニンを破壊。
レーザーではありませんが、IPL(光治療)もメラニンに反応させて薄くする治療で、広範囲にシミを認める場合に選択されることがあります。
外用治療
外用剤を用いた治療方法です。美白剤のハイドロキノンとターンオーバーを促すトレチノインを併用する方法は、単剤で使用するよりもより高い効果が期待できます6)。
・ハイドロキノン: チロシナーゼ活性阻害によって皮膚のメラニン産生を抑制します。
・トレチノイン: 皮膚の新陳代謝を活性化し、メラニンの排泄を促します。
ケミカルピーリング
特定の化学物質(ピーリング成分)を皮膚に塗布し、表層を剥離させる方法です。このプロセスにより、皮膚の新陳代謝が促され、メラニンの排泄を早めます。
ピーリング成分
- サリチル酸
- グリコール酸
- 乳酸
- トリクロロ酢酸
ホームケアの重要性
シミ治療の場合、第一選択はレーザー治療ですが、ホームケアも非常に重要です。レーザーを照射した後、およそ数日でかさぶた(痂皮)が形成され、1週間程度で自然脱落します。
その後に紫外線を浴びてしまうと、炎症後色素沈着のリスクが高くなったり、長引く可能性があるので、照射後のホームケアは欠かせません。
ハイドロキノンなどの美白剤や抗炎症作用のあるトラネキサム酸の内服や外用が推奨されます7)。
参考文献
6) Grimes PE. Management of hyperpigmentation in darker racial ethnic groups. Semin Cutan Med Surg. 2009;28(2):77-85.
7) Lindgren AL, et al. The Use of Tranexamic Acid to Prevent and Treat Post-Inflammatory Hyperpigmentation. J Drugs Dermatol. 2021; 20(3):344-345.
老人性色素斑の治療期間
老人性色素斑、いわゆる「シミ」の治療期間は選択する治療法によって大きく変わります。
レーザー治療の期間
レーザー治療ではメラニンを破壊することができるため、通常1回の施術である程度症状の改善が可能です。
ただし、高いフルエンスで照射した場合は炎症後色素沈着のリスクが高まるため、症状に応じては低フルエンスのマルチパス照射を1〜2週間程度の間隔で数回繰り返すやり方が選択されることもあります。
高フルエンスで照射し、再度照射が必要な場合は最低でも6〜10週間は間隔を空けることが推奨されており、十分なインターバルを確保せずに再照射を行うと色素脱失(白斑)のリスクがあるため注意が必要です。
メラニンを破壊する作用のないIPLでは改善には回数を要し、シミ治療の場合は、最初1ヶ月の間隔で照射して、ある程度改善を認めたら間隔を空けます。
外用治療の期間
外用治療における治療期間は、使用する薬剤の種類や濃度によっても異なり、特にトレチノインは濃度が高い方が効果の発現も早いですが、副作用(赤みや刺激など)の頻度もあがります。
一般的には、数週間から数ヶ月の期間が必要です。
ケミカルピーリングの期間
ケミカルピーリングの治療期間は強度と頻度により異なりますが、中程度のピーリングであれば、通常数週間ごとに行うことが一般的です。
個人差による影響
シミの治療期間は個人差が大きく、治療反応は患者さんのスキンタイプ(肌の色)や生活環境、スキンケアなどによって大きく異なります。
そのため必ずしもレーザー治療が推奨されるわけではなく、患者さん自身の状態を考慮しながら適切な治療プランを立てることが大切です。
薬の副作用や治療のデメリット
老人性色素斑(シミ)の治療法にはいくつかの選択肢がありますが、それぞれに副作用やデメリットがあります。
レーザー治療の副作用
以下は、レーザー治療の主な副作用やデメリットです。
- 施術中に痛みや不快感が伴う。
- 照射後は一時的な赤みや腫れが生じる。
- 照射後のスキンケアをおろそかにすると再発のリスクが高まる。
- 紫外線に対する感受性が増す。
- 治療費が高額になる可能性。
外用治療薬の副作用
一般的な外用治療薬とそれぞれの副作用を示します。
薬剤名 | 主な副作用 |
---|---|
ハイドロキノン | 皮膚刺激, アレルギー反応, 皮膚の脱色 |
トレチノイン | 皮膚の赤み, かゆみ, 乾燥 |
ケミカルピーリングのデメリット
ケミカルピーリングにも、デメリットがあります8)。
- 施術後に一時的な赤みや乾燥。
- 皮膚の色素沈着を認める場合が。
- 紫外線に対する感受性が増す。
- 通院の必要(回数を要する)。
- 高濃度ではキズになる可能性。
参考文献
8) Nikalji N, et al. Complications of Medium Depth and Deep Chemical Peels. J Cutan Aesthet Surg. 2012; 5(4):254-260.
保険適用について
老人性色素斑の治療に関してはいずれの治療法も保険が適用されません。そのため自費治療となり、クリニックによっても価格は異なります。
当院でご案内可能な治療は以下のとおりです。
治療法 |
---|
ハイドロキノン外用 |
トレチノイン外用 |
ケミカルピーリング |
スポットレーザー(レーザー治療) |
IPL |
治療を受ける前に確認すべき事項
最後に、治療を受ける前に確認すべき点を挙げておきます。皮膚科専門医と相談し、以下の点を確認してください。
- 治療方法とコスト
- 治療の効果と期間
- 副作用やリスク
これらの点を慎重に考慮し、ご自身に最適な治療方法を選んでください。