リンデロンDPは強力なステロイド外用薬の一つで、炎症を引き起こす物質の生成を抑えて皮膚の赤みやかゆみ、腫れを軽減する効果があります。
どのような場合にリンデロンDPが用いられるのか、効果や副作用も含めて詳しく解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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リンデロンDPの有効成分と効果、作用機序
有効成分
リンデロンDPの有効成分は「ベタメタゾンジプロピオン酸エステル」と呼ばれる物質です。
高い抗炎症作用を持つ合成ステロイドの一つであり、日本ではベタメタゾンジプロピオン酸エステルが0.064%配合された軟膏・クリーム・ゾルの3つの剤型があります。
ステロイド外用薬は強さによって5段階にランクが分かれており、リンデロンDPは上から2番目の強さである「とても強い(very strong)」クラスです。
作用機序
ベタメタゾンジプロピオン酸エステルはグルココルチコイドであり、これは細胞の中にあるグルココルチコイド受容体と結合します。
いくつかの段階を経て、炎症を引き起こす物質であるサイトカインやプロスタグランジンの合成を抑制することで、炎症反応を抑える効果を発揮1)2)。
その他に、リンデロンDPには血管内皮細胞やリンパ球等の細胞膜の安定性に関与する作用や、さまざまな炎症惹起物質を誘導する重要な酵素の機能を抑える作用が知られています。
免疫抑制作用に関しては、リンパ球に対して直接的に機能を抑える働きなども3)。
似たような名前で「リンデロンV(ベタメタゾン吉草酸エステル)」がありますが、強さはDPが2番目の「very storong」に対してVは「strong」クラスです。
文献でもリンデロンVより血管収縮作用は強いことが報告されています4)。
効果
リンデロンDPは上記のような作用機序により、炎症反応によって引き起こされた赤みや腫れ、痒みなどの症状を緩和することが可能です。
国内の臨床試験ではさまざまな適応疾患に対して、有効率が86.4%であったこと報告されています5)。
参考文献
執筆の根拠にした論文等
1) Rhen T, et al. Antiinflammatory action of glucocorticoids–new mechanisms for old drugs. N Engl J Med. 2005;353(16):1711-23.
2) Coutinho AE, et al. The anti-inflammatory and immunosuppressive effects of glucocorticoids, recent developments and mechanistic insights. Mol Cell Endocrinol. 2011;335(1):2-13.
3) 片山一朗. アレルギー. 2006;55:1279-1283.
4) Pallagrosi, AU. Betamethasone dipropionate (diprosone): a new topical steroid. A multinational, multicenter evaluation. J Int Med Res. 1975;3:275-278.
5) 医薬品医療用機器情報提供HP リンデロン-DP軟膏/リンデロン-DPクリーム 17.臨床成績
リンデロンDPの使用方法と注意点
リンデロンDPの剤型には軟膏・クリーム・ゾルの3種類があり、通常1日1~数回、適量を患部に塗布します。
・軟膏:白色~微黄色の半透明のなめらかな半固体。
・クリーム:白色のなめらかな半固体。
・ゾル:無色澄明の粘稠(ねんちゅう)な液。
剤型は使用する部位や好みなどによって選びますが、剤型により(特にクリーム)刺激に感じることがあるので注意が必要です。
また、治療の効果を最大限に発揮するためには、使用頻度や期間、量について医師の指示に従うことが非常に重要です。
注意点
リンデロンDPの使用にあたっては、いくつかの注意点があります。
- 遮光して保存。
- 顔や粘膜、皮膚の傷には使用しない。
- 皮膚感染症部位には使用しない。
- 鼓膜に穿孔のある湿疹性外耳道炎の方は使用を控える。
- 潰瘍やひどい凍傷・熱傷のある方は使用を控える。
- 皮膚の症状が悪化した場合や変化がない場合は、医師の指示に従う。
- 他の医療品やスキンケア製品と併用する場合は、医師や薬剤師に相談。
適応対象となる患者さん
適応疾患
リンデロンDPは湿疹・皮膚炎群、乾癬、薬疹、虫刺され、痒疹群などの患者さんに適応となり、これ以外にも適応となる皮膚疾患は数多くあります6)。
注意点
リンデロンDPを使用する患者さんに注意していただきたい点がいくつかあります。
- 妊娠中、授乳中の方は使用前に必ず医師や薬剤師に相談。
- 長期間の連続使用は避ける。
参考文献
6) 添付文書 医療用医薬品: リンデロン 4.効能または効果
お子さま、ご高齢の方への使用
リンデロンDPはお子さま、及びご高齢の方が使用する際には以下の注意点があります。
お子さまへの使用
小児の皮膚は成人よりも薄いため、薬剤の吸収が高まる可能性があり7)、また、皮膚のバリア機能が未熟であるため外用薬の刺激に敏感な傾向があります。
副作用が出やすいということを理解し、指示された適切な量を使用してください。
ご高齢の方への使用
ご高齢の方は加齢による変化により皮膚が薄く、乾燥しやすい状態です。これはバリア機能が低下しているということで、薬の浸透が強くなり、また乾燥が進行することもあります8)。
使用中に皮膚の状態の変化や症状の悪化が見られた場合、速やかに医師の診察を受けてください。連続した長期間の使用や、必要以上の量を塗布することは推奨されていません。
参考文献
7) Eichenfield LF, et al. Guidance of care for the management of atopic dermatitis. Part 2: Management and Treatment of Atopic Dermatitis with Topical Therapies. J Am Acad Dermatol. 2014;71(1):116-132.
8) Farage MA, et al. Clinical implications of aging skin: cutaneous disorders in the elderly. Am J Clin Dermatol. 2009;10(2):73-86.
リンデロンDPの治療期間
リンデロンDPはさまざまな疾患で有効性が認められていますが、治療期間は患者さんの年齢、症状の程度、体質などで変わります。
リンデロンDPの適応疾患である場合、使用開始後2週間以内に改善を認めるケースが多いです9)。
反対に、2週間塗布して効果を感じないのであれば、リンデロンDPの使用を中止した方がいい場合もあります。
リンデロンDPの副作用
リンデロンDPはさまざまな皮膚疾患に適応のある薬ですが、副作用もあります。
副作用
リンデロンDPは特に、長期の使用によってそのリスクが高まる傾向にあります。重大な副作用は、目の周りの皮膚に使用した場合に眼圧が上がる緑内障や白内障です。
以下の表では、その他の一般的な副作用を示します10)〜12)。
副作用 | 頻度 | 説明 |
---|---|---|
ざ瘡様発疹 | 0.1-5% | 毛穴に一致したニキビ様の皮疹が特徴的 |
刺激感 | 0.1-5% | 一過性の刺激を感じることが |
皮膚の萎縮 | 0.1-5% | 皮膚が薄くなり、萎縮を認める |
皮膚の感染症 | 不明 | 細菌性やウイルス性の感染症を認める |
表に挙げられた副作用は一部であり、他にもなさまざまな症状が出ることがあります。使用時に異常を感じた場合はすぐに医師の診察を受けてください。
使用時の注意点
- 医師の指示通りの量と頻度を守る。
- 長期間の連続使用は推奨されない。
- 他のステロイド薬との併用時には必ず医師に相談。
- 妊娠中や授乳の方は使用前に必ず医師に相談。
参考文献
執筆の根拠にした論文等
9) 村田久仁男, 他. リンデロン-DPゾルの各種湿疹・皮膚炎に対する臨床効果. 皮膚. 1990; 32(2):265-269.
10)Beck KM, Set al. Ocular co-morbidities of atopic dermatitis. Part II: Ocular disease secondary to treatments. Am J Clin Dermatol. 2019; 20: 807-815.
11) 添付文書 医療用医薬品: リンデロン 11. 副作用
12) Niculet E, et al. Glucocorticoid-Induced Skin Atrophy: The Old and the New. Clin Cosmet Investig Dermatol. 2020;13:1041-1050.
リンデロンDPに効果がなかった場合の代替治療薬
リンデロンDPは患者さんによって効果を示さないこともあり、そのような時は他にどんな選択肢があるのかを解説いたします。
リンデロンDPの適応ではない疾患の可能性
リンデロンDPは皮膚感染症など一部の疾患では使用によって症状が悪化することがあるので、使用後に症状の悪化を認める場合はもう一度診察し、診断します。
強力なステロイド外用薬への切り替え
リンデロンDPはステロイド5段階の強さの中で上から2番目である「very strong」ですが、炎症所見が顕著である場合などは、より強い「strongest」に切り替えることによって改善を認めることもあります。
ただし、これらの薬も副作用のリスクが伴うため、医師の指示のもとで適切に使用してください。
代替薬を試す
アトピー性皮膚炎や乾癬などの疾患では紫外線療法や内服薬、注射薬(生物学的製剤)などが有効なこともあります。外用薬だけで効果がみられなかった際に、これら他の方を検討されることが多いです。
副作用で使えない場合の代替薬
副作用でリンデロンDPが使用できないこともあり、その場合は他の強さのステロイド外用薬や非ステロイド外用薬へ変更することを考えます13)。
非ステロイド外用薬として代表的なものは、タクロリムス軟膏やデルゴシチニブ軟膏などです14)15)。
これらはアトピー性皮膚炎において保険適応ですが、ステロイドと異なる作用機序で作用するため、別の副作用が出現する可能性があります。
必ず専門医の診察を受け、指示された通りに使用してください。
参考文献
13) 吉川邦彦ら. ステロイド外用剤―特性と使い方.1995;p60:医学ジャーナル社.
14) Martins JC, et al. Topical tacrolimus for atopic dermatitis, Cochrane Database Syst Rev. 2015; 2015(7) :CD009864.
15) Nakagawa H, et al. Delgocitinib ointment, a topical Janus kinase inhibitor, in adult patients with moderate to severe atopic dermatitis: A phase 3, randomized, double-blind, vehicle-controlled study and an open-label, long-term extension study. J Am Acad Dermatol.2020;82(4):823-831.
他の治療薬との併用禁忌
リンデロンDPは他の薬剤と併用禁忌になることは現時点ではありませんが、他のステロイド薬を同時に同じ場所に塗るなど、指示された以外の使用方法は副作用の発現を高めることから推奨されていません。
使用する際は必ず専門医の指示に従ってください。
保険適用について
皮膚炎群や乾癬など、リンデロンDPが保険適用となる疾患は数多くあります。具体的な適応疾患については添付文書をご覧ください。
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00001892
薬価は、どの剤型でも12.3円/gとなっています。以下の表は薬価に基づく薬の価格をまとめたものです。
タイプ | 薬価に基づく薬の価格 |
---|---|
軟膏 | 5g/本:61.5円(3割負担で約18.4円) 10g/本:123円(3割負担36.9円) |
クリーム | 5g/本:61.5円(3割負担で約18.4円) 30g/本:369円(3割負担110.7円) |
ゾル | 10g/本:123円(3割負担36.9円) |
保険の適応を受けるためには専門医による診察や診断が必要で、この他、初診料あるいは再診療、処置代などがかかります。
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