ジフラールは、皮膚の炎症や症状をやわらげるために使用されるステロイド外用薬の一つです。
アトピー性皮膚炎などの湿疹や乾癬など、さまざまな皮膚疾患においてその薬効が認められています。
この記事ではジフラールについて詳しく解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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ジフラール(ジフロラゾン酢酸エステル)の有効成分と効果、作用機序
皮膚の炎症疾患をはじめ、ステロイド外用薬はこれまで多くの皮膚疾患の治療に長く使用されてきました。ジフラールもステロイド外用薬の一つです。
有効成分:ジフロラゾン酢酸エステル
ジフラールの有効成分は「ジフロラゾン酢酸エステル」といい、合成ステロイドの一種で、炎症を鎮める作用があります1)。
日本では2019年11月に発売中止となり、後発品はジフロラゾン酢酸エステルを0.05%配合した「ジフロラゾン酢酸エステル軟膏0.05%「YD」」「ジフロラゾン酢酸エステルクリーム0.05%「YD」」の2種類です(便宜上以後ジフラールで統一)。
ステロイド外用薬にはいくつか種類があり、強さによって分類されています。ジフラールは側鎖にハロゲンが含まれるので、その効果が強化されており、「最も強い(strongest)」クラスです。
作用機序:炎症の抑制
ジフロラゾン酢酸エステルの作用機序は、他のステロイド外用薬と同様に、アラキドン酸カスケードを抑制して炎症や痛みの原因となるプロスタグランジンや、炎症や免疫反応を起こすロイコトリエンの産生を抑制。
他にも血管を収縮させて赤みを減らしたり、免疫細胞に働きかけて抗体産生を抑制することで総合的に強い抗炎症効果を発揮します2)。
効果
ジフラールの主な効果には以下のようなものがあります。
- 皮膚の赤みや腫れの軽減。
- かゆみや刺激感の軽減。
- 皮膚の炎症反応の鎮静化。
このような効果によって、アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎などの湿疹病変や乾癬など、さまざまな皮膚疾患の改善効果をもたらします。
参考文献
1) Aayushi BM, et al. Topical corticosteroids in dermatology. Indian J Dermatol Venereol Leprol. 2016;82(4):371-378.
2) Kragballe K. Topical corticosteroids: mechanisms of action. Acta Derm Venereol Suppl (Stockh). 1989;151:7-10; discussion 47-52.
ジフラール(ジフロラゾン酢酸エステル)の使用方法と注意点
ジフラール(ジフロラゾン酢酸エステル)は、皮膚の炎症を鎮めるために使用される強いステロイド外用薬です。正しい使用方法と注意点を理解し、適切に使用することで、最大の効果を得ることができます。
使用方法
ジフラールは、処方された指示に従い、適切な量を使用することが大切です3)。
- 手を洗い乾燥させて、清潔な手指で軟膏を取り出します。
- 患部に薬を塗布します。薄く、均一に優しく広げるように心がけてください。
- 薬を塗った後はしばらくの間は患部を触らないようにします。
治療の効果を最大限に発揮するためには、使用頻度や期間、量について医師の指示に従うことが非常に大切です。以下に注意点を示します。
・過剰な使用を避ける: ジフラールの過剰な使用は、副作用の発現を高める危険性があります。基本的な量は、1FTU(フィンガーチップユニット)を基準としてください。
少ない量では十分な効果が発揮できませんが、多く塗りすぎても効果が高まるわけではありません。
・他の薬剤との併用: 他の薬剤との併用は、ジフラールの効果や副作用のリスクを変化させる可能性があるため、医師や薬剤師に相談してください。
・回数や使用期間: 通常は1日2回程度の塗布で十分です。また、比較的即効性のある薬剤であるため、1週間使用して効果が見られない場合は、中止や他の薬剤への変更を検討します。
・小児や妊婦の使用について: 特にお子さまや妊娠している方の場合、体への影響が成人とは異なる可能性があるため、使用前に必ず医師に相談してください。
・使用する部位について: 体のどの部位に使用するかも注意を払う必要があります。体の場所によって薬剤の吸収率が違うからです。
特に顔面や陰部は吸収率が高い場所なので4)、副作用発現には十分注意しなければなりません。場合によっては、強さのランクを下げたり、非ステロイド外用薬を検討したほうが良いこともあります。
参考文献
3) R Uppal, et al. Topical corticosteroids usage in dermatology. Int J Clin Pharmacol Ther Toxicol. 1991;29(2):48-50.
4) R J Feldmann, et al. Percutaneous penetration of steroids in man. J Invest Dermatol. 1969;52(1):89-94.
適応対象となる患者さん
皮膚科疾患を治療するにあたって、適切な薬剤を選択することは言うまでもなく非常に重要です。ジフラールはその薬効から幅広い疾患に対して適応が。
湿疹・皮膚炎群だけではなく、乾癬や円形脱毛症など30種類以上の疾患に対して効能・効果が認められています。
ここでは、ジフラールが適応となる代表的な疾患や状態についてご紹介いしましょう。
湿疹・皮膚炎群
アトピー性皮膚炎をはじめとする炎症性皮膚疾患はジフラールの良い適応です。赤みや腫れ、かゆみなどの症状に対してステロイド外用薬は炎症を抑える効果が高く、効果発現が早いため、よく使用されています。
以前は弱い効果のステロイドから治療反応をみながら、強さのレベルを上げていくステップアップ療法が主でした。
しかし現在では、最初に強いステロイドを使用して、徐々に強さを下げていくステップダウン療法が推奨されています。
乾癬
乾癬は症状によって分類がなされ、いくつか種類がありますが一番多いのが尋常性乾癬です。この病気は皮膚が赤くなったり、肥厚したり、銀白色の鱗屑が剥がれ落ちるなどの症状を特徴とします5)。
乾癬もアトピー性皮膚炎と同様に慢性疾患で難治性ですが、抗炎症効果が期待できるジフラールの良い適応疾患の一つです。
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)
掌蹠膿疱症は、手のひらや足の裏に小さな膿疱が多数生じる病気で、良い時期と悪い時期を繰り返し6)、他にも爪の変形や関節痛などの症状が現れることもあります。
掌蹠膿疱症の皮膚症状に対しても、ジフラールは有効です。
適応対象外となる患者さん
次に、ジフラールの使用が推奨されない患者さんの一部を以下に示します。
- 妊婦や授乳中の方(ただし、医師の指示に従い使用する場合も)。
- 既知のアレルギー反応をジフラールの成分に対して持つ患者さん。
- 皮膚感染症がある患者さん。
- 深い創傷や潰瘍がある患者さん。
ご自身の症状に対して、ジフラールが使用可能かどうか主治医にご確認ください。
参考文献
5) Wolf-Henning B, et al. Psoriasis. Lancet. 2015; 386(9997):983-94.
6) Masamoto M, et al. Palmoplantar pustulosis: Current understanding of disease definition and pathomechanism. J Dermatol Sci. 2020;98(1):13-19.
お子さま、ご高齢の方への使用
ステロイド外用剤の使用は、患者さんの年齢や体質によって効果や反応が異なります。特に、お子さまやご高齢の方に対する使用には注意が必要です。
ここでは、ジフラールをお子さまやご高齢の方に使用する際の注意点や効果について説明いたします。
お子さまへの使用
子どもの皮膚は、成人に比べて薄く、薬剤の経皮吸収率が高いことが知られており7)、使用方法によっては悪影響を及ぼす可能性があります。
医薬品インタビューフォームの安全性に関する項目では、子どもに対しての長期使用や密封法での使用は避けるように注意喚起されていますので、使用には十分注意してください8)。
また、おむつ内での使用は密封法と同様の扱いになるため、こちらも避けてください。
ご高齢の方への使用
ご高齢の方は、年齢とともに皮膚が薄くなり、保湿機能が低下していく傾向があり、そのため皮膚のバリアー機能が低下し9)、薬剤の吸収率が上昇して副作用が強く発現する可能性が。
さらに、ご高齢の方は併存症があることが多く、他の薬を服用していることがあります。そのような場合には、ジフラールと他の薬剤との相互作用が発生するリスクも考慮しないといけません。
ご高齢の方がジフラールを使用する際は、定期的な医師の診察を受けることが強く推奨されています。
参考文献
7) Stewa CF, et al. Effect of maturation on drug disposition in pediatric patients. Clin Pharm. 1987;6(7):548-64.
8) 医薬品インタビューフォーム, ジフラール軟膏0.05%, Ⅷ.安全性(使用上の注意等)に関する項目
9) Eung HC. Aging of the skin barrier. Clin Dermatol. 2019;37(4):336-345.
ジフラール(ジフロラゾン酢酸エステル)の治療期間
効果がみられないのに漫然と塗布を継続すると、副作用のリスクが上がることになります。ステロイド外用薬の使用に際して、適切な治療期間の確認は非常に重要です。
また、ステロイド外用薬の効果が良くみられた場合も、適切にステロイドの強さをステップダウンさせることが、治療を成功に導く鍵となります。
ここではジフラールの治療期間について解説していきましょう。
一般的な治療期間
ジフラール(ジフロラゾン酢酸エステル)の治療期間は、部位や疾患の種類、重症度などにより異なります。
症状や薬剤への反応を観察しながら、主治医と相談しつつ、継続したり他の薬剤を検討したり、場合によっては中止を検討することも。
短期間の使用
炎症やかゆみが強い皮膚症状に対して、ジフラールは「strongest」に分類されるステロイド外用薬のため、良い適応になり、強い抗炎症効果によって短期間で症状改善が期待できます。
反対に、5〜6日間使用してみて、効果を全く感じられなかったり悪化を認める場合は皮膚感染症などの可能性があるため一度使用を中止したほうがいいことも。
長期間の使用
一方で、効果がみられたとしても漫然と使用を継続することは副作用の懸念もあり推奨されません。
同じstrongestのステロイド外用薬であるデルモベートは、連続使用期間は2週間にとどめるように、とFDAから注意喚起されています10)。
そのため、継続的な皮膚の観察と、医師の診察によるフォローアップが必要です。
参考文献
10) Panonnummal R, et al. Comparative anti-psoriatic efficacy studies of clobetasol loaded chitin nanogel and marketed cream. Eur J Pharm Sci. 2017; 96:193-206.
ジフラール(ジフロラゾン酢酸エステル)の副作用やデメリット
ジフラール(ジフロラゾン酢酸エステル)は、皮膚疾患に対する抗炎症作用において非常に効果的ですが、長期的な使用や過剰な使用によって、副作用やデメリットが現れることがあります。
この点を十分に理解し、適切な使用を心がけてください。
感染症が増加するリスク
重大な副作用として、まず感染症の増加が挙げられ、特に皮膚の細菌・真菌感染症が報告されています11)。
頻度は1%未満と高くはありませんが、毛嚢炎やカンジダ、白癬などが生じた場合は適切な治療薬を使用し、状態によってはジフラールの使用を控えるようにしてください。
副腎機能低下のリスク
成人21名を対象にした試験で、ジフラールを10g/日で密封法により3日間使用した場合に、血漿コルチゾールが低下したというデータが先発品発売元のアステラス製薬より公表されています12)。
10gはチューブ一本分で、大量に長期にステロイド外用薬を使用した場合は、ホルモンバランスを乱してしまうことも。
全身投与に比べて局所投与は副作用が出にくいですが、注意は必要です。
皮膚が薄くなるリスク
ステロイド外用薬は、その細胞増殖抑制作用(線維芽細胞のコラーゲン合成抑制)により皮膚の萎縮や菲薄化(薄くなること)が起こります13)。
真皮組織が断裂して皮膚線状に至るとステロイド外用薬の使用を中止しても痕が消えないことも。
成人16名を対象とした試験では、ジフラールを密封塗布することで、経時的に皮膚が薄くなり、使用を中止した後は皮膚の厚みが戻ったという報告もあります14)。
皮膚障害のリスク
ステロイドざ瘡や酒さ様皮膚炎が報告されていています。
ステロイドざ瘡は、皮脂の分泌が多い部分に生じることが多く、男性ホルモン作用や免疫低下が関係していると言われ、酒さ様皮膚炎は、顔面への長期使用によって中年の女性によく認める傾向が。
ステロイド外用剤の効果的で安全な使用のためには、医師の指示に従い、疑問や不安が生じた際には医師や薬剤師にご相談ください。
参考文献
11) 厚生省医薬安全局安全対策研究会監修:医薬品副作用要覧 第2集:p.420, 1998. (DF-00261)
12) アステラス製薬株式会社: 社内報告書(D199800716-01.00)
13) 相馬 良直. ステロイド外用剤の使い方. 第58回東京都皮膚科学術集会
14) 水野 惇子 他. 薬理と治療, 11(11):5053, 1983. (DF-025)
ジフラール(ジフロラゾン酢酸エステル)で効果がなかった場合の対応
ジフラールはステロイド外用薬の中でも最も強い「strongest」に分類される薬で、強力な抗炎症効果を持っていますが、残念ながら期待したような効果が得られないことや副作用によって使えない場合もあります。
ここでは、ジフラールで効果がなかった際の対応について詳しく説明しましょう
代替薬を試す
アレルギー反応によってジフラールが使えなかった時は他のステロイド外用薬に変更したり、アトピー性皮膚炎の場合はステロイド外用薬以外の免疫抑制外用薬などに変更を検討します。
タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)
タクロリムス軟膏は、免疫応答を調節することで皮膚の炎症を抑える作用があり、アトピー性皮膚炎や他の炎症性皮膚疾患の治療に有効で、ステロイド外用薬とは異なる作用機序を持っています15)。
そのため、ジフラールが効果的でなかった場合、タクロリムス軟膏(商品名:プロトピック軟膏)を試すことは有効です。ただし、日本ではアトピー性皮膚炎のみ保険適用となります。
デルゴシチニブ軟膏(コレクチム軟膏)
主成分はデルゴシチニブといい、ヤヌスキナーゼ阻害薬(JAK阻害薬)に分類される薬です。炎症のシグナル伝達を抑えることでサイトカインなどの炎症性物質の産生を抑えて効果を発揮します16)。
ステロイド外用薬と違い皮膚の菲薄化や、毛細血管の拡張などの副作用の心配がなく、維持療法などの長期投与に向いている薬です。
ジファミラスト軟膏(モイゼルト軟膏)
2022年に発売された新しい薬です。有効成分はジファミラストで、PDE4を強く阻害することで炎症を制御し、症状の改善を見込めます17)。
コレクチム軟膏と同様に、ステロイドに特有の副作用を心配することなく、長期に使用しても問題ありません。
外用薬以外の治療法
アトピー性皮膚炎や乾癬などの皮膚疾患では内服や注射など他の治療方法を選択することも可能です。以下のいずれの方法も、個人の症状や体質によって効果が異なる可能性があります。
使用される際には、医師との十分な相談のうえで選択してください。
- 光線療法: 皮膚に特定の波長の光を当てることで、炎症を鎮静させる方法。
- 内服薬: 抗ヒスタミン薬やJAK阻害薬などの内服。
- 生物学的製剤: 重症例に試される、炎症シグナルを抑制する注射薬、デュピクセントなど。
参考文献
15) Jade CM, et al. Topical tacrolimus for atopic dermatitis. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015(7):CD009864.
16) William D, et al. JAK inhibitors in dermatology: The promise of a new drug class. J Am Acad Dermatol.2017;76(4):736-744.
17) Hidetaka H, et al. Pharmacological Profile of Difamilast, a Novel Selective Phosphodiesterase 4 Inhibitor, for Topical Treatment of Atopic Dermatitis. J Pharmacol Exp Ther. 2023 Jul;386(1):45-55.
他の治療薬との併用禁忌
ジフラールは併用禁忌薬や併用注意薬は設定されておらず、他の薬剤と併用することが可能です。
ただし、効果が不確実になることと、副作用のリスクが高まる可能性があるので、他のステロイド外用薬との併用は推奨されていません。
ジフラールを使用する時に他の薬を使用している場合は、お薬手帳を持参して主治医と一緒に飲み合わせを確認してください。
また、アトピー性皮膚炎や乾癬などの慢性炎症性疾患は、ジフラールを含むステロイド外用薬と、光線療法や生物学的製剤などを一緒に使うことでより高い効果を得られることがあり、症状の改善が期待できます。
保険適用について
ジフラールは、アトピー性皮膚炎を含むさまざまな皮膚疾患に対する使用で健康保険が適用されます。
ただし、先発品のジフラールは2019年11月に製造中止となっており、現在入手可能なのは、後発品のジフロラゾン酢酸エステル軟膏0.05%「YD」、もしくは ジフロラゾン酢酸エステルクリーム0.05%「YD」です。
薬価は、どちらも1gが11.7円に設定されています18)。以下は自己負担別の価格を示した表です。
保険負担 | ジフロラゾン酢酸エステル軟膏/クリーム0.05% 1本(10g) |
---|---|
1割負担 | 117円 |
2割負担 | 234円 |
3割負担 | 351円 |
上記はお薬代のみになり、これに加えて、窓口では初診料や再診料などがかかります。
自治体や年齢によっては医療費助成が受けられることもありますので、詳しくはお問い合わせください。
参考文献
18) 添付文書情報 医療用医薬品:ジフロラゾン酢酸エステル 3.組成・性状